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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
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37 大砲鳥(カノーネンフォーゲル)は夜を更かす


 ダブルベッドでひどい目にあったけど、すぐに仕事を再開した。

 東側フェンスを大型土嚢に置き換えて、金属製の頑丈なゲートを挟んだ。

 完成した見張り塔の射線もしっかり通おせば防御力がだいぶ増したはずだ。


 そのころには食堂に人がぞろぞろと流れて、楽しみだった夕食の時間である。 


『皆さまとてもお仕事を頑張られたようですね。クラングルからいい食材をいっぱい回していただいたので、 本日の夕食は腕によりをかけて作らせていただきますね』


 ……なんておばちゃんが穏やかな笑顔で伝えに来て、期待が高まってた。

 いざ食堂が開いてみんなでぞろぞろ押しかけてみると。


「イチ、ムツミさんはすごいぞ! スシを食べてみたいと言ったらほんとに作ってくれたんだ! これがそうなんだな!?」

「ええ…………」


 大はしゃぎのダークエルフはともかく俺たちは唖然である。

 横広なカウンターに信じられない品揃えが立ち並んでた。

 お高い温泉旅館さながらのビュッフェスタイルが、和のお惣菜から洋食のボリュームまで幅広く抑えてた。

 しまいには板の上に握りたての寿司が待ち受けてる――気合入れ過ぎだ!


「クラウディアさんやタカアキ君が食べたいと言っておられましたので、久々に握らせていただきました。お口に合うとよろしいのですが」


 なんならカウンター向こうでおばちゃんがてきぱき寿司を握ってる。

 とりあえずここで「寿司握れ」とかいったやつに後で物申すのは確定したが、おかげでマグロが赤く輝いてた。


「……おばちゃん、なんかごめん。マジで寿司握らせやがったのか大食いエルフとクソ単眼フェチめ」

「いえ、いいのですよ。たまたまお二人が様子を見にきて、何か食べたいものはないかと私が聞いたのですから」

「だからってほんとに作るん……?」

「ええ、作りますとも。驚く二人のお顔が見れて何よりです、どうぞ召し上がって下さい」


 なのにおばちゃんは強き者の笑顔だ。良く分かった、この人にはかなわない。

 何貫かいただいて一緒に席につけば、待ってたのはやっぱり驚く顔で。


「…………イチ。なんで俺、こんなところでスシ食ってるんだ?」


 寿司要求犯がサングラス顔で寿司を味わってた。お前のせいだ馬鹿が!

 しかも唸るほどうまいらしい、にやつく顔が焦ってる。


「お前の負けだタカアキ、おばちゃん余裕の笑みだったぞ」

「その場のテンションでいったらさ、マジで握っててすげえ焦ったよ。しかもこれうまいぞ、何者だよあの人」

「リム様、料理ギルドにとんでもない人抱えてるな……」


 俺も赤みのあるやつをぱくっと含んだ。ワオ、舌の上に魚の香りと味が吸い付いてくる。

 シャリだってちょうどよく解れて、均等に味が混ざるぐらいだ。そこらの人間が適当に握ったやつじゃない。

 困惑を迎えていたみんなもすぐ寿司で賑わいだした。おばちゃん――いや、ムツミさんはどこか得意げだ。


「今日もお肉……」


 その点ニクは安定した盛り方で帰ってきた、その名に恥じぬ肉まみれである。

 白身乗せの寿司も一緒だ、一口で食べてワサビの刺激にジト顔がひどくなった。


「……ん゛……鼻が痛……おおぉぅ……!?」

「後でリム様に食堂の様子送っとくか」

「そうだな、満面の笑みを浮かべる俺も一緒にどう?」

「じゃあ心霊写真って名付けて送ってやるよ。ところで大丈夫かニク、顔が瀕死だぞ」

「――おい、お前たち。なんだこの……生魚の乗った料理は? クラウディアのやつが勝手に乗せやがったんだが、その平気な顔を見込んでこいつが何なのか説明をしてほしいものだ」


 悶えるわん娘をよしよししてると、今度はクリューサが早足でやってくる。

 トレイに乗った寿司へあたりの強い表情だ、生魚とコメの組み合わせに早急な医学的説明を求めてる。


「色々知ってるくせに寿司は知らないのか? 日本人の食い物だよ、間違っても生物兵器じゃないからな」

「うまいからセーフ! まあ食ってみろよ、別に食っても腹壊しはしないぜ?」

「ならどうしてニクが凄まじい顔をしてるのかも教えてほしいところだが」

「ワサビにやられた。マスタードみたいなもんだよ、化学兵器じゃない方のな」

「寿司にびびりすぎだろクリューサ先生。俺たちそういう食文化なんだよ、安心して郷に従ってくれ」

「鼻にくる……!」


 クリューサはかなり迷ったみたいだ。

 しかし迷いのある目がどっかを向けば、そこは混沌極まりない状況である。

 「おいしいです!」と卵乗せの寿司を丸かじりにするレフレク、坊主頭と髭面の静かな食事風景、果てには共食……魚を味わう魚人のメーアだ。


「……今ばかりはお前たちが恐ろしいぞ。まあ、腹を下してもそういう類の薬は手元にあるからな……」


 もう諦めたというか決心したというか、食べることにしたらしい。

 結果は納得か驚きかも曖昧な、少なくとも生食の心配事を忘れたような表情だ。


「どうだ? うまいだろ?」

「人工じゃない本物のマグロのお味はいかが? これが日本の味ってやつさ」

「……悪くはないな」

「イチ、盛り上がっとるとこ悪いけどちょいと話がある。お前さんの拾ったあの"イシャポール"って銃についてなんじゃが……」


 こうやって寿司を味わってると、急にドワーフらしさに尋ねられた。

 イシャポール、書店の屋上で拾った小銃のことか。

 確か帰ってきてすぐ、スパタ爺さんに整備をぶん投げたはず。


「どうした? 前の持ち主の呪いでもかかってたか?」

「んなわけあるかい。いやな、テュマーの持ち物の癖にいい部品を使っておってな? ありゃちょいと手直ししてやれば素晴らしい得物に化けるぞってのがわしのお話じゃよ」

「なるほど、そういう話題を俺に持ってくるってことは……」

「うむ。お前さんが良ければ修理ついでに改造したるぞ、今後魔獣だの相手にするなら5.56㎜じゃ辛かろう?」


 どうにもドワーフの手腕をそいつにぶち込みたいそうだ。

 その証拠に髭面がいいおもちゃを見つけたような好奇心を浮かべてる。

 少し考えさせられると――エーテルブルーインとの戦いを思い出す。

 あの気味悪い熊はこともあろうに小銃弾を弾いて、45-70のフルメタルジャケット弾でようやくだった。


「確かに先日弾いてくれたやつに遭遇してたな、あの時ばかりは白殺しに死ぬほど感謝したよ」

「じゃろ~? ということでお前さん向けにいじくろうと思うんじゃが」

「どういう感じ~?」

「掃除ついでに古いトコを交換して、ファクトリー規格の着剣機能と銃口用アダプターを取り付けとくぞ。これでライフルグレネードもぶっ放せて、お前さんの大好きな銃剣突撃もできる寸法じゃな。どうよ?」


 先日の経験を踏まえて、308口径の小銃を俺らしく調整してくれるそうだ。

 銃剣やライフルグレネードをそのまま使えるのはでかい、これは是非頼もう。


「まさに俺向けだな、話だけでも気に入った」

「お? 興味湧いたか? やっちゃうか?」

「やっちゃってくれ。頼りにしてるよ」

「お前さんに頼りにされて何よりじゃよ。他にリクエストあるか? やれるもんならやったるぞ」

「真心を込めてくれ。ああ、攻撃力重視って意味でな?」

「わはは、その言葉でちと面白えもん思いついちまったぞ。任せとけ」


 ストレンジャーの無茶ぶり(冗談のつもりだった)も快諾されてしまった、次あの銃を見るのが楽しみだ。


「おじいちゃ~ん、うちもあの銃改造してほしいっす~♡」


 と、話がいい感じに進んでいると――によつく声がにじり寄ってきた。

 食堂の飯を堪能した挙句、デザートに暇つぶし相手を求めるようなロアベアか。


「うちのメイドがそういってるぞ、どうする?」

「そういやお前さんもしれっと拾っとったな。別に構わんぞロアベアよ、どんな具合にすりゃいいか言ってみんか」

「もっと取り回しよくして軽くてよく当たる銃がいいっすねえ。ちなみにうち遠く撃つの苦手なんで、近距離向けにしてほしっす」

「うわこいつ超わがまま。好き放題に注文してるけどいいのかスパタ爺さん」

「ここまで図々しいとむしろ清々しいわ。よし分かった、その無茶ぶり引き受けてやらあ」

「よっしゃ~」


 良かった、俺の無茶ぶりよりもっとひどい注文がこの世にあったみたいだ。

 ダメイドのわがままに快く応じてくれるなんて流石ドワーフだ、背はちっちゃいが器は途方もなくでかい。


「あっお爺ちゃん俺のもお願い! 下手くそでも数百メートル先の頭吹っ飛ばせて白き民の甲冑も余裕でぶち抜くやつにしてくれ!」


 今度は飯を食い終わったタカアキも便乗してきた。何やってんだこいつ。


「タカアキ、今お前の無茶ぶりが一位に輝いてるぞ。いきなり注文のハードル上げるなこのサイコサングラス」

「この流れでなんてもん要求しとんじゃお前さんは! いくらわしでも限度ってもんがあるわ!」

「俺、あんま長物撃ったことなくてさあ……素人でも歴戦の狙撃兵になれるぐらいよく当たる銃にしてくんね?」

「あってたまるかそんなもん」

「うちもそういうの欲しいっす~」

「無茶極まりないこと言う前に当てられるように努力しろ、この馬鹿もん。調整は施しておくから誰かに撃ち方でも教えてもらえ」


 結果はストレンジャーを頼れだとさ、今度射撃場でも作っておいてやろう。

 間もなくロアベアに「デザートはどうっすか?」と伺われた、カウンターには小ぶりなケーキが沢山だ。


「にしてもイチ、こっちの世界に来てからどんな戦いぶりしとるが気になっておったが相変わらずじゃのう」

「ここ最近一緒に行動して元気なのが良く見えるだろ? ところでその聞き方っていい意味こめてる?」

「もちろんよ、わしからの印象は相も変わらずスティングで大暴れしてた頃のままじゃぞ。こちらでも"大砲鳥"の名にふさわしくところどころで火力をぶちかましとるな」


 メイドにケーキを適当に注文すると、ドワーフのしみじみした声にそう呼ばれた。

 大砲鳥。冒険者ギルドにきた帰還組から聞かされたフレーズだ。


「敵はぶち殺すのが俺の仕事だからな。ところでその……なんだ、大砲鳥って」

「まだ知らんかったか。お前さんの背中にそんな名前をくっつけるやつらがおったのさ」

「人にあだ名を増やすような知り合いには何人か心当たりがあるぞ。誰だ? まさかデュオか?」


 知らない間に人を鳥にしてくれたやつは誰だ? 真っ先にあの気さくな友人が思い浮かぶも。


「グレイブランドの擲弾兵どもじゃよ」

「……あいつらが?」


 しかし答えはまさかの人物だ。俺の上官たちだって?

 想像が働いて橋で出会った擲弾兵たちの姿がすぐ蘇るも、スパタ爺さんは面白そうにうなずき。


「わしら後続組がスティングに留まって復興やらやっとった頃の話じゃ。時が経つにつれ、あやつらも次第に東の方から顔を見せに来るようになってのう」

「俺の上官たちもお外に出て交流するようになったらしいな」

「うむ、ライヒランドがやせ衰えた今、スティングはグレイブランドとの二人三脚で歩んでいかねばならんからな。東の線路の修復、周辺地域の秩序、そういうのに対応するべく密接な関係になったもんよ」

「そりゃ大変そうだなあ。で、俺のあだ名とどう関係がある?」


 まず、あれからスティングとグレイブランドがどうなったか教えてくれた。

 ライヒランドが痛い目見てだいぶ情勢が変わったか。

 擲弾兵の皆さまも堂々と日の目を浴びてるみたいだけど、それがどう俺の二つ名に関係するのやら。


「あそこは擲弾兵どもがすっかり入り浸るようになったんじゃが、北からお前さんの活躍が届いてくるたびに楽し気に盛り上がっとったぞ。次第にその後ろ姿にこう名付けるようになっての」

「どう名付けたって?」

大砲鳥(カノーネンフォーゲル)、大砲抱えた鳥じゃとさ」


 人の背中に羽と大砲をくっつけた犯人がやっとわかった、俺の上官たちだ。

 どいつか知らないけど奇妙な名前をプレゼントしてくれたみたいだ。


「大砲鳥? ずっと地べた歩いてたぞ?」

「行く先々で装甲をぶち破る渡り鳥のようだ、などと口々じゃったぞ。スティング・シティの連中と笑いながらそう決めたそうじゃ」

「もっとまじめに決めてくれって文句が喉で突っかかってる」

「残念ながらその時ボスも同席しててな、つまり正式に認められたわけじゃ」

「プレッパーズ公認かよ畜生。人に勝手に名前を付けてくれたのを目の当たりにして、ボスがどんな反応だったか気になるな」

「鼻で笑って納得しとったわ。まあ、けっきょく総意でそうなったわけ」

「その総意ってのは酒の場じゃないよな?」

「敏いな、わしらみんなで酒飲んでいい気分の時じゃった。楽しかったぞ」

「俺が同席してたら真面目に考えろって文句言ってたと思う」


 なんてこった、ボスもこの話に関わってやがった。

 面白がるスパタ爺さんからしてマジなんだろう、殺人パン屋の次は大砲鳥だ。


「大体な、イチ。向こうでどんだけお堅いやつを射止めてきたか覚えとるか?」

「数えるのがめんどくさいぐらいだ、つまりいっぱい」

「そう、いっぱいじゃな。擲弾兵の指揮官殿もお前さんの撃破率には頭を悩ませたほどらしいぞ、曰く「ほんとに人間か」と疑ってたそうじゃ」

「人間じゃなく大砲積んだ鳥だって言いたいわけか、バケモンだな」

「そう、じゃから大砲担いで戦場を渡り歩く鳥。かつて世に恐れられたという最強の擲弾兵どもがいうんじゃ、誇りに思えよ」

「それで大砲鳥(カノーネンフォーゲル)と。最高だな、また会えたらこのことで皮肉を申し立ててやるよ」

「おおそうじゃ、ヘルメットにシンボル刻んだろうか? ちょうどデザイン考えてくれたやつがおっての」

「おい誰だそこまで後押ししてくれた馬鹿は、どんな顔してやがる」

「ヒドラのやつじゃよ、擲弾兵どもも気に入って採用に踏み入ったらしいぞ。ちなみにスティレット鷲掴みにした鳥な」

「あいつかよ……みんな俺のことなんだと思ってるんだ……?」


 よくわかった、俺がいないのをいいことにどいつもこいつもフリー素材みたいに扱ってくれたらしい。

 トドメはスパタ爺さんの「これな」だ。

 タブレットの画面の中で、黒い鳥が対物擲弾発射器を掴んでどこかへ飛び立とうとしてる――行く先はたぶん戦車だ。


「お前、鳥だったんか……? いつから人間やめたんだよ、お兄さんびっくり」


 大砲鳥の意味が判明したところで、そばでご静聴してた幼馴染に聞かれた。

 んなわけあるか。顔いっぱいに嫌なものを浮かべて応じた。


「なんの話してんのー?」


 そして今ならもれなく、鳥とまでは言わないが背に羽の生えた女子もやってくる。

 俺たちらしい盛り上がりに興味が出たんだろう、チアルが抹茶ケーキを皿上にに混ざりにきた。


「チアル、スパタ爺さんが言うには俺って生物学的に鳥らしいぞ。モンスターって意味でな」

「あははっ、じゃあいっしょじゃん? あーしも羽生えてるし!」

「こうなってから鳥の知り合いが増えたもんだな。ところでロアベアどうした、俺のケーキまだ?」


 ずいぶんでかい鳥が立ったままデザートをパクパクし始めたが、そういえば食後のデザートはまだだろうか。

 ロアベアの行方が気になって見てみると、そこにあったのはトレイを運ぶ水色髪のちょこちょこした姿で。


「だ、だんなさまー……? あの、デザートをお持ちしました……?」


 違うメイドさんがデザートを運んできた。あの野郎、メカとチェンジしたな。

 四人分の皿には一口サイズのチーズケーキにロールケーキに抹茶ケーキに……クラングルの外で何食わされてるんだろう、俺たち。

 わざわざごめんよメカ。受け取ったのちに頬をもちもちしてやった。


「ああ、いいケーキをありがとう……つーかお前の仕事だろ何押し付けてるんだロアベアァ!」

「あっ……♡ だ、だんなさま……♡ みんなの前でなでなでしちゃ……あふぅ……♡」

「いやなにやってんだお前、いきなりその子の頬揉みだすんじゃねえよ」

「お前さんその一つ目ッ娘気に入っとるのか? 何楽しそうに捏ねとるの」

「パン生地みたいでつい」


 「パン生地……!?」とショックを受けてるメカをこねこねしてると。


「……ん、ぼくも」


 ニクもずいっと顔を近づけてきた。ジトっと頬を差し出してる。

 しょうがないお前もだ。二人分の頬を両手にもちもちした。


「――すごくもちもちだ」

「んへー……♡ 気持ちいい……♡」

「だ、だんなさまー……♡ ほ、ほっぺ捏ねちゃだめ……♡ あっ……♡」

「おいお爺ちゃん、こいつまた職業病発症してるぞ。パン屋のやりすぎだ」

「そのうちパン生地と人の見わけもつかなくなりそうじゃぞ。大丈夫かこれ?」


 二人にこれみよがしに頬捏ねを見せると、そろそろ病人を見るような目だ。

 そこへ何故かしれっと明るい茶髪の伸びも混じった――チアルが「む」と顔を差し出してる。


「あーしもやる~」

「ごめん手いっぱいだ、また今度」

「けちー」


 希望者らしいが今は忙しいんだ、また今度にしてくれ。

 戦乙女がしぶしぶ去っていくのを見届けたところで、両手の柔らかさから手を離して。


「さて、食後のデザートになったところでちょっと提案があるんだ。拠点の防御についてなんだけど」


 お手元にロールケーキにフォークを入れながら話を広げた。

 タカアキとスパタ爺さんはすぐにそれらしい顔で応じてくれた。

 それから、通りかかったタケナカ先輩もしれっと話に立ち止ったようだ。


「さっき東側に土嚢置いてたよな、あれで二面に防御構えてる感じになってていい感じだと思うぜ」

「とはいえ、白き民相手にあの程度じゃいささか不安じゃのう。西側の見張り台から機銃を反対側に移そうと思っとるんじゃがどうよ」

「横からで悪いが、あんなでかい場所見つけた後じゃ東側がなおさら心配だぞ。もっと固めた方がいいと思うがな」

「ああ、だからハウジング・システムで鉄条網を南と東に敷こうと思う。それから――」


 食べると抹茶の苦味が美味しいが、一旦メカに「下げてくれ」と食器をよこした。

 おかげでテーブルに空きができた、PDAからクラフト画面を立ち上げる。

 リストから『クレイモア地雷』を捕まえて、そのままコマンドを起動し。


「指向性地雷を何箇所かに設置する。起爆のタイミングは俺のPDA次第になるけどな」


 そこに金属的な重さがごとごと降ってきた。

 爆薬と発射体を張り付けるための湾曲板、それに合わせた爆薬、投射するにちょうどいい部品――指向性自体の材料だ。

 タカアキが「ひゅう」と口笛で感心してるが、唯一の坊主頭はさぞ驚いてる。


「……おい、お前今なんつった? 指向性地雷だって?」

「手作りだけどな。これなら白き民も吹っ飛ぶと思うぞ、エーテルブルーインみたいな魔獣は知らんけど」


 板の裏表に爆薬と発射物を張り付けて固定して、足も立ててしまえばすぐにでも人殺しの道具である。


「指先一つで物騒なもん作りおって。なるほど、でっかい散弾銃だらけにしちまうわけじゃな」


 感心するドワーフにも見せてやれば、実に面白そうに眺めてくれた。

 更にそこで『電子制御信管』もクラフト、電子部品入りの円筒が転がってくる。

 PDAがあればこれを十個まで自由自在に制御できる、群れが来てもドカーン!だ。


「この信管を俺のPDAに同期させれば十個まで管理できるんだ、とりあえず南と東に五個ずつ設置するのはどうだ?」


 一例ができたので、さっそく完成品をタケナカ先輩に渡してみた。

 気味悪そうに質を確かめてるようだ。

 細かく確かめるような目つきからして、これが本物だと分かったのかもしれない。


「さらっとおっかねえもん作りやがってお前は。こいつはちゃんと機能するんだろうな?」

「確実だ。お好みなら引っ張ったら爆発するようにもできるぞ」

「フランメリアで指向性の散弾か。この見た目通りに働いてくれりゃ、白き民もたまったもんじゃねえだろうな」

「こいつのヤバさが分かってるみたいだな」

「起爆したらこのボルトやナットが飛んでくるんだぞ、痛えじゃすまねえよ」


 よくご存じで、理解してくれたか。

 やがて指向性地雷は同席してる幼馴染からドワーフの手を経て戻ってきて。


「線と繋げて引っかかったらドカン!とか考えたけど現状じゃ誤爆が怖いからな。今夜はこいつを設置して俺も見張りに立とうと思う」


 俺の考えを伝えた。

 こいつをPDAと同期させたうえで、敵が来ないか見張りたいというわけである。

 勝手に敵へ対応してくれるように仕込むのもいいが、今からくどいぐらい十分に触れ回っておかないと味方が危ない。

 最初の撃破対象が冒険者の誰か、なんて不名誉極まりないオチだからな。


「なるほどな、確実にコントロールできるってのなら賛成だ。設置する場所は決めてるのか?」


 タケナカ先輩は少しの難色の後、こいつが頼れると信じたようだ。


「このあたりはだいぶ伐採されてるからな、敵が通りそうなところを狙ってできる限り二面を広くカバーする」

「だったら俺も手伝おう。うまく散弾を拡散させるように置かないと木に邪魔されて威力がなくなっちまうぞ」

「なんだか知ってるような言い方だな、できるのか?」

「まあな、どうだ?」

「じゃあ設置手伝ってくれ。全部で十個だ、今から作る」


 意外だ、この日本人的な顔は指向性地雷の威力を良く存じてる気がする。

 この人は()()()()()()でもあったんだろうか?

 いや、なんにせよ理解があるなら手伝ってくれて嬉しいさ。任せた。


「それなら爆破のタイミングとかも見張らねえと駄目だよな、だったら俺も一緒に夜更かしするぜ」

「今回は見張りに立つ冒険者どものために、急ごしらえじゃがクロスボウをもってきたぞ。簡単に次を撃てるようにしてあるが、一番よいのはそいつの出番がないことじゃろうな」


 どうやら「指向性地雷サプライズ」に幼馴染もドワーフも賛成といった顔ぶれだ。

 まあ、確かにこの準備がいい意味で無駄になるのが一番好ましいわけだが。


「一息ついたら始めるか。俺がどっきり仕掛けてる間に地雷の件について広めといてくれ」


 時刻はもうすぐ七時を過ぎる頃だ、こうして触れ回ったんだからさっさと作って置きに行こうか。

 せっかくのケーキを流し込んで、さっそく仕事に取り掛かることにした。


「……ん、何もないといいね」

「そうだな、なんか東側に変なもんあるって分かった瞬間不穏に感じてる」

「今夜はぼくもいっしょに見張る。いい?」

「オーケー、一緒に夜更かしだ。見張り当番とも話しとかないとな」


 それからわん娘も一緒だ。二人でトレイを両手に「ごちそうさま」を伝えにいった。



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