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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
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24 フィールドボスに40㎜級の弾頭を☆


『何事かと思えば敵襲。援護する』


 そんな時だった、頭上からずいぶん落ち着いた声がかかった。

 見なくたって分かる、どうせ建物の屋根にいる白髪チビエルフのオリスだ。

 すぐそこの化け物の腹で矢羽根が咲いた――射貫いてくれたか。


「ナイスですオリスちゃん! まだ来ますよ、気を付けてくださいっ!」


 そこにリスティアナの切り込みがつながった。

 勢いを崩された青白毛の化け物に十分な一太刀をぶち込む。

 「せえい!」と可愛らしい声のわりに見事に毛皮ごと胴を斬り割ったのだが。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオ……!?」


 【エルダーブルーイン】とかいうやつの毛並みや背丈がびん、と硬く伸びた。

 そして斜めなぞりの深い傷から青い蒸気が鮮血さながらに吹きだす。

 やがて太い膝をがくっともつれさせ。


 ――ばふっ。


 分厚いタイヤがパンクするような派手な音を奏でた。

 一際濃い青を宙に散らしつつ、あの獣らしい図体がぐにゃりと倒れていく。

 おそらく死んだんだろう――青っ白い奇妙な最期が始まった。

 骨肉でも抜き取られたようにしなしな萎んで、獣姿をかたどる毛皮と角だけが残っていくのだ。


「……おいなんだ今の!? 急にぐにゃってなったぞあの化け物!?」


 だが驚いてるばかりが俺の物語じゃない、突撃銃を捨てて脇腹に手をやる。

 なにせ人形姫の一撃にばったりやられたその後は「たくさん」だ。


『ヴォオオオオオオオオオオオ……!』『モ゛オオオオオオオオ!』『ヲヲヲオオオオオオォォ!』『ウヴォオオオオオオオオオ!』


 やられた化け物の交友関係が分かった、裂けた大口で叫びながら続いてくれるお友達に恵まれてたらしい。

 1ダース以上の獣たちが重たそうな身体を前のめりに駆けつけてくる。

 木々をすり抜けてまでやってくる奴を見るに出所はあの林か。


「イチ君、あれはMGOに出てくる魔獣の『エーテルブルーイン』です! けっこう素早いし力強いので囲まれないようにしてください!」

『おおなんという魔獣の群れ。みんな集合、西から敵襲』


 すると間を作らないリスティアナの動きがまた仕留めた。

 クナイが刺さった化け物の腹を横斬り、続く胸元への矢がトドメだ。


「ああそうかよ! なんてもん登場させやがった俺め!」


 なるほど、あれはゲーム由来の化け物だそうだ。

 そして物理でぶっ殺せる相手なのもよーくわかった。

 『ホワイトキラー』を抜いて第二陣の先頭に銃口を重ねて。


*BAAAAM!*


 近距離用スコープに収まった角の間をヘッドショットだ。

 尖った弾頭と万能火薬入りの45-70弾は効いたか、衝撃に仰け反りぶっ倒れた。

 青を散らして萎んでいくのも見えて、突然やられた仲間に一匹がまた止まる。


「おいおいおいなんだこのキッモイ森のくまさんは!? ミュータントか!?」

「やっぱ訳ありじゃったわけか! そうか白き民が見えん理由はあのクマ公の仕業じゃな!」

「お~、エーテルブルーインっすねえ。本物見るのうち初めてっす~♡」


 銃声に気づいた仲間の声を背に感じた。

 タカアキとスパタ爺さんとロアベアもそばに集まったところで撃鉄を起こし。


「皆さん、早く来てくださいっ! 向こうの林の方からいっぱいきてますよ!」

「見た目も振る舞いも害獣だから撃ったけどいいよな!? 全員応戦しろ!」

「害獣って認識はあっとるぞ! 躊躇わんでいいからな!」


 戸惑う熊の化け物がまた動き出す頃合いで、拡大された首元にトリガを引く。 

 「ひゃっ!?」とリスティアナを驚かす銃声のあと、走り出す身体が勢いを間違えて転んだ――仕留めたか。


「……敵が集まってる、一気にくるよ」


 ニクが槍先を向けてまたぶっ放す。誰かに当たっただろうが群れは崩れない。

 こっちも近づく姿を狙って撃つ、胴を抜かれてごろっと転倒。

 しかし派手につまづいた仲間も飛び越えてくる勢いだ、焼け石に水である。


「あんな見た目なくせしてはえーなおい!? くそっ散弾効くかこれ!?」


 タカアキも12ゲージを撃ちまくるが怯みもしない、散弾お断りの皮膚らしい。


「308口径ぐらいあってやっとじゃぞ! んなもん効かんから無駄玉撃つな!」


 ずぶっとレーザーライフルの射撃音も加わった。

 食らった一匹が「ヴォ……!?」と怯むが、そこにダメージは見当たらない。

 銃撃をものともしない群れは時々のチビエルフの矢を受けながらも、勢いも落とさず詰め寄ってきた。


「やっぱり都市から遠ざかるとこういうのがいっぱい出てくるんだねえ……みんな、出番だよ」

「まだゲームにいた頃を思い出しますね……前衛メンバーいきますよ!」

「獲物がいっぱいいるゾ! 狩りの時間ダ!」

「え、エーテルブルーイン……本物、初めて見ます……!」


 ちっちゃな新米冒険者どもが状況に追いついてきたのも同じくだった。

 振り向けばメカを先頭に群れへと向かうあいつらがいた。

 どいつもゲームだった頃の経験で良く動いてる。

 頭上ではあのチビエルフが矢を番えて支援に出るつもりだ、橙色の妖精も上空に飛んで敵の()()()を作ってる。


「こっからはフランメリア流だな!?」


 迎撃で残る害獣はそれなりだ、銃身を折って薬莢を飛ばしつつそう確かめた。 


「はいっ! 接近戦は私たちヒロインの出番です、いきますよー!」


 対してあんな化け物が来ようがリスティアナはやる気だ。

 剣を掲げて意思表明ついで、人外美少女を集めて態勢をつくって先走る。


「――だんなさま! あたしがお守りします、ここはお任せください!」

「おいメカ! 任せるってどういう……」


 とても意外なことに、そんな先行くお姫様の隣で重たく構えるやつがいた。

 背中のホルダーから重そうな両手斧を軽々抜いたメイド――メカだった。

 頼りがいのない白黒姿に殺意強めな得物に揺れるデカ尻という変な組み合わせだが、その背中はやる気だ。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!」


 ……ついに一匹飛び込んできた。

 リスティアナにまっすぐと思いきや、横足でずれて小さな獲物を狙ったようだ。

 ちょうど新米メイドが狩りやすいと思ったんだろう、ところが。


「……てええええええええええええええええええええええええええいッ!」


 そんな化け物に負けんとばかりの(かわいい)雄叫びがお出迎えだ。

 あろうことかメカが逆に踏み込み、あの斧を無防備な腹に叩きこんだのだ。


 ――ごぎんっ!


 結果がこの生々しいこと極まりない音だ。

 突っ込む勢いを乗せた斧の質量がそいつの身体を抉ってた。

 クマモドキの腹から脇にかけてぶしゅっと青煙が湧き出るが、構わずメカの小さな足取りが次を叩きこむ。


「ウ゛ォッ……ヲ……!?」


 急な衝撃に足が止まったのが運の尽きだ。肩口に斧がざっくり落ちる。

 威力も存分に伝わったようだ、崩れた青白毛の巨体が後続のやつらへ突き飛ばされ。


「ヴォオオオオオオオオ……!?」「ウォオオオオオオオ!?」


 力づくにねじ伏せられたそれを前にした不運な二匹が巻き込まれる。

 仲間の突然の死が動揺をもたらしたようで、冒険者どもはそこを見逃さない。


「……ああうん、確かに任せた方がよろしいようで」

「敵が止まったよ! オリスとレフレク、援護よろしくね!」

「流石はメカさんですね、一匹仕留めましたか。敵が動揺してる今こそが機です! このままこちらから仕掛けますよ!」

「お前もえらいメイドを手に入れたものだナ! こいつらは骨が頑丈ダ、気を付けるんだゾ!」


 メカの一撃をきっかけにロリどもが一斉に雪崩れてくる。

 不慣れな新米というくせに良く動くのは、ゲームだった頃に得た知識と経験の賜物だろう。 


「お兄さん、反対側よろしくね……っとおっ!」


 まずワーキャットのトゥールが端の一匹に踏み込んだ。

 くるりと身体を翻して両手の剣で斬る。

 敵が足をよろめかせて反撃に動けば回り込んでまた斬る、とにかく斬る。

 最後は振り落とされる爪を受け止めつつ、詰め寄ると同時に脇腹への刺突だ――力なく崩れた。

 

「私の刀とは相性が悪いですね……手を貸して頂ければ幸いです!」


 その横に別の化け物が取りつくも、黒髪和服な鬼系ヒロインが水を差した。

 刀でがっしり爪を受け止めて、払って防御を崩せば胸元に切っ先をぐさりだ。


「頂戴した。これで戦果は二等分」


 ホオズキに縫い留められたところに、ひゅごっと妙な風切りの音が伝わった。

 屋根を陣取るエルフの狙撃、おそらく【アーツ】か何かだ。

 角の生えた硬そうな頭蓋骨に矢がぐっさり生えてる。


「メーアさんっ! レフレクがお手伝いしますっ! 【フォトンアロー】!」


 ロリどもにかき回される戦線だが敵の不幸は中々終わらなさそうだ。

 上空のレフレクがスペルを詠唱、言葉通りの白輝きする矢が敵の背を貫く。

 魔法の内容はともかく、一匹の身体を跳ねさせるほどの威力はあったらしく。


「喰らえワタシの【ウォーターニードル】! からノ――!」


 不意を突かれたところに、青黒ヘアの半魚人が槍を片手に魔法を放つ。

 マナで歪んだ手先からずばっと激しい水が立って、蒼く澄んだ尖りが口だけの顔面に刺さった。

 その『水の杭』はすぐに溶けるも、十分怯んだ化け物にメーアは突っ込み。


「いただきダ! もう一匹頼むゾ、メカ!」


 力づくの穂先がごきっ、と顔をぶち抜いた。

 そいつの最後の言葉が「ヲッ?」と疑問形になったところで。


「はいっ! いきます、よおおおおおおおおおぉぉぉ……ッ!」


 萎んだ敵を避けてメカクレメイドが突っ込む――!

 横構えの両手斧と一緒に踏み込めば、そこに爪を振り落とすやつと重なった。

 でも「ヒロインに人間が勝てるわけない」でまかり通ってる世界だ、ごぎっとそいつの腕が跳ね飛んだ。


「ヴォオオオオオオオオオオオ……!?」


 それが片腕を失って驚けば、追いかけてくるのはメイドの打ち込む斧刃だ。

 デカい尻を揺らしながらの重たい一撃が太い首元を斬り抉ったのだ。


 ……ミコ、お前の言ってた人間とヒロインの差が今すげえ身に染みてるよ。


 メカクレメイド本日二匹目の撃破を前にこの世のパワーバランスが分かった。

 記憶に狂いがなきゃこいつらが身に着けてるのは【ストーン】の飾りだ。

 生半可に訓練した人間よりもそもそもの出力が違う。これが俺たちの間にある差ってやつなんだな。


「ほう! よーやるわあの新人ども! チャールトンの奴が見たら喜ぶような戦いぶりじゃな!」

「そうだな、あの人がいい顔するのがなんとなく浮かんでる。ヒロインこえー」


 眺めてたスパタ爺さんが拍手を送るほどだ――感心してる場合じゃないな。


「ご主人、感心してる場合じゃないよ」

「奇遇にもちょうど思ってた。あいつらの側面を守るぞ! いけいけいけ!」


 槍を持ち直したニクのご指摘通り、俺は背にした民家から敵へ移った。

 大暴れする新米たちに揉まれつつの敵は戦いの中から次々抜けてる。

 どうも交戦中の奴らの横に回り込もうって魂胆か。


「横に気を付けてください! 敵が回り込んでますよ……っ!」


 そこで交戦中のリスティアナが目につく。

 力づくの爪の振り回しをがきん、がきん、と受け流してた。


「ウォオオオオオオオオオオオオ……!」


 その打ち合いへ別のエーテルブルーインが滑り込むように寄ってくるが。


「――動きを止める、やれニク」

「ん……!」


 乱戦だろうが見逃すか、白殺しのスコープで脇腹をなぞって発砲。

 つんざく銃声の先で「ヲ゛ォ!?」とひどく身体が揺らいだ。

 お人形姫の一撃も勢いが乗って相手を斬り落とし。


「……硬いならこうする」


 45-70弾に悶える様子にしたたっとニクが地形を抜けた。

 そして穂先で膝裏を払った――ざっくりやられて、背中から崩れる。


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」


 そうなると大きな口を開けてじたばたするも、残念にも口止めが挟まった。

 うちのわん娘はそこに脆弱さを見出したらしい。喉奥を刺してぼぉんっ!と308口径をお見舞いだ。


「うーわミコが見たら嫌な顔しそう……グッドボーイ」


 ぎゅっと肉体がしぼんだ点から考察するに即死だ。

 敵とはもはや至近距離、斜めに傾けた銃で狙いを作る。

 退いて石を掴んで投石に取り掛かる奴がいた、まあ【フォトンアロー!】と魔法の矢が刺さって台無しになったわけだが。


「イチ様ぁ、これよく考えたら首大きすぎて刎ねられないっす~」


 レフレクに続いて痛い奴を喰らわせると、ロアベアもふらふら混じってきた。

 抜いた仕込み杖でどう首を頂戴するか悩んでるらしい。

 そうふざけてる間にも一匹抜けてこっちに来るも。


「だったら俺じゃなくてあいつらにでも聞いてこいよこのアホ!」

「言われてみればそっすね、じゃあこうするっす!」


 お馬鹿メイドはニヨニヨしたまま5.7㎜の拳銃を抜いたようだ。

 片手構えの得物で敵を歓迎だ、鋭い弾の連射が相手の動きを引きつらせていく。

 威力はとにかく痛がってるようだ。足も鈍って大きな口がぐにっと憎たらしそうに歪むが。


「納得できないけどこれで妥協っすねえ、あひひひひっ♡」


 ロアベアは銃を手放すなり抜刀からの【ゲイルブレイド】で一閃だ。

 既に裂けるほど開いた口が、飛ぶ剣圧でざっくり深みを増して――。


 ごろっ。


 自身の足踏みをきっかけに顎上がずり落ちた。

 残ったのは白い牙と太い舌をでろんと覗かせる下半分だ、血の噴水とばかりに青煙が噴き出す。


「っっはああああああああああああぁぁぁぁ……!」


 萎む死体を避けて進むと、こっちへメカが敵に撃ち込みながらやってくる。

 斧に滅多打ちされた熊モドキが完全に押されてる。

 腕ごと強引に切り刻まれて、尻込みながらこの世を横切ろうとしてるが。


「ヲオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

「これでっ……あっ……!?」


 仲間から突出したのが災いした、抜け駆けた一匹が横槍を入れにきた。

 『あと一撃』を入れる寸前で小さなメイド姿が躊躇った。

 でも大丈夫、お前の面倒を見るのは旦那様の役目だ。


「……クロナは一体お前にどんな教育したんだか気になるよ」


 咄嗟にクナイを抜いてびゅっとその足元を縫った。

 今日は晴天、そして日当たりもいい。じゃあお前は影を作ってるよな?


「オオオオオオオ……ヲッ……?」


 シャドウスティングだ、噛みつこうと踏み出す姿がぴったり止まった。

 マチェーテ片手に走って詰めた。気づいたメカが別の獲物の行く手を塞ぐ。


「おおおおおおおおおお……らあああああああああぁぁぁッ!」


 無防備に固まった姿はすぐそこだ、すがりつくように胸元を突く。

 メカが「ええいっ!」とまた一匹叩きのめすのと同じ頃だ。深い毛並みをかきわけて「ばつっ」と妙な貫きを感じた。

 刃先からどろどろした感触もある――突き立ての刃を胴から振り抜く。


「ヲ゛ヲ゛ヲ゛オオオオオオオオオッ……!?」


 良かった、断末魔を上げて萎んでいく程度のあきらめはあったらしい。


「あ、ありがとうございます、だんなさま……! す、すごいです……!」

「お前の暴れっぷりの方がすごいよ。屋敷のメイドってみんなこうなのか?」


 旦那様とメイドで次の獲物を探した、もう敵の数は残り少ない。

 すると後ろから全力疾走するマフィア姿が俺たちのそばを潜りぬけ。


「そろそろ勝ち馬タイムだ! ちょっとドロップキックお見舞いしてくるうおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ……とうとう狼狽えだしたクマどもめがけて一直線に行ってしまった。

 あいつの行方は向こうで「行くか退くか」にこまねく個体まっしぐらで。


「サッカーしようぜお前ボールなこいつを見ろぉぉぉぉぉッ!」


 元気に宙を駆けてからの、揃えた両足でそいつにドロップキックだ。

 有限実行を極めるとあんな風になるらしい、不意の蹴りにエーテルブルーインがずるっと後頭部から転び。


「ウォッ……ヲオオオオオオオオオ!?」

「ハッハァ! ここ頑丈? ちょっとお兄さん確かめてやるぜ!」


 たぶんニクの真似だ、驚き開いた口に散弾銃をぶち込んだ。

 どうなったかって? ぼぉんっ、といい音奏でて吹っ飛んだよ。口の中まで防弾性能は保証されてなかったか。

 戦況を横目で見渡せば、ロリどもの活躍が第二陣を倒したらしく。


「おらおら逃がすな! こいつらの素材は価値ありじゃぞ、今後の安全のためにもしっかりぶち殺せ!」


 雰囲気に乗ったスパタ爺さんも追撃をしかけてるところだ。

 はぐれたやつにレーザーライフルを撃ちまくって追いかけ、転んだところにあのクソデカ拳銃が抜かれ。


「やっぱ銃は便利じゃのう、この手の手合いはでっかい弩でもなきゃぶち抜けなかったってのに……」


*Baaam!*


 後頭部に押し付けた308口径が炸裂した。

 いくら硬い頭蓋骨も至近距離からのフルメタルジャケットは想定外だったらしい。絶命の証拠に皮を残していった。


「……これで壊滅。流石先輩冒険者、いると私たちの士気も上がる」


 最後は屋根から降りてきたチビエルフの仕業だ。

 てくてく追いついてくると、逃げに回った背中を番えた矢で追いかけ。


『ヴォオオオオオオ……!? ヲッ――!?』


 びんっ!と強く張った音を立てて背中を射抜いた。

 派手に転んだ末に【ウォーターニードル!】【フォトンアロー!】と地から天から水と光の追撃が飛び。


「お兄さんって忍術も使えたんだ……わたしも使いたいんだけどなあ、お金かかるし……」


 目ざとく素早く追いかけるトゥールの双剣が首裏を滑り斬ってトドメだ。


「……これで最後か?」


 得物を下ろせばなんとも奇妙な「抜け殻」だらけだ。

 用済みとばかりに転がった角つきの毛皮がめちゃくちゃあるのだ、不気味としかいいようがない。

 もうお代わりは来ないみたいだ。みんなも一息つこうと気が抜けてるが。


【ヲオオオォォヴォオオオオオオオオオオオオオオ……!】


 禁止ワードを言うべきじゃなかった。遠くの林から大層な声が響いた。


「ほらもー、お前がそんなこというからなんか出ちまったぞ」

「こういうのって口にするとほんとに出てくるもんなんだな。でもまあ良かったんじゃないか? 探す手間が省けたぞ」


 いったい今度はなんだ?

 よくわからないがタカアキと冗談で出迎えてやろうとしたものの。


「……おーおー、見てみんかイチ。すんごいの来ちゃっとるぞ」


 スパタ爺さんがさぞ面白そうな様子で感心してた。

 というか、林の景色からずんっ……!と重たい揺れを感じた。

 このすんごい音の発生源はすぐ掴めた。

 青白の毛皮をまとったずいぶん大きな図体が、木々をばきばき折って環境破壊に勤めているのだ。


「……なんかすんごいの俺にも見えてるな、なんだあれ」

「……ご主人、あの化け物すごく大きい……!」

「イ、イチ君! あれ、あれっ! エルダー・エーテルブルーインですよ……!? 本物初めて見ちゃいました……!?」


 リスティアナのあたふたした説明もあってそいつの大体の全体図が掴めた。

 角やら四肢の黒い爪やら、さっき片づけた熊みたいな化け物と特徴は同じだ。

 まあ問題はそのサイズだ。林の高さと比べるに、あのウォーカーより一回り小さいやつは五メートルはあるだろう。


「……だってさタカアキ、ご存じ?」

「いやあ、知らねえなあ……でもボスキャラって感じがするぞ。その辺どうなんだお嬢さんがた?」

【ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!】


 そんな姿が勇ましく叫んでるわけだが、誰か存じてないか尋ねてみた。

 するとまあヒロインたちはみんな慌てふためいており。


「イチ様、タカ様、あれ要するにフィールドボスっすよ~、ゲームだった頃はうちらもヒロインも参加ボーナスのアイテム目当てに囲んでたっすねえ」

「マジかよ。ボスってことは当たりみたいだぞ」

「ワーオ大当たり。つまりこのエクストリーム森のくまさんの親玉なんだな?」

「MGOの感覚でいうならちょっとうちらにはきついかもっすねえ、アヒヒー♡」


 ロアベアはニヨニヨ懐かしがってた。なるほどボスなんだな。


「あ、あれが本物の『エルダー』なんですねー……! でっでもですよ!? ロアベアさんの言う通りあれってボスなんです! 私たちが相手にしたらヤバイですよ!」


 リスティアナの口から「ヤバイ」が出てくるほどらしい、もっと言えば――


「おお懐かしい、あれこそはエルダー・エーテルブルーイン……! しかしこう実際に目にかかると、MGOで見た時より存在感が……ヤバイ」

「ヤバイどころじゃないよ……どう見てもわたしたちが敵う相手じゃないよね!? だってボスキャラだよ!?」

「な、なんと……エーテルブルーインたちの親玉、ということなのでしょうか……? ど、どうするんですか? あんな強敵、我々だけで太刀打ちできるとは思えません……!」

「本物のフィールドボスに会えるなんてナ! でもいけるんじゃないカ? こっちにはイチ先輩がいるゾ!」

「ぼ、ボスがいます……! おにーさん、気を付けてください! あれすごく強いです!」

「エルダーがどうしてあんなところから……!? だんなさま、こっちに来てます……!?」


 新米冒険者六名も各々口を揃えて「ヤバイ」ってさ。

 そうヤバさが回ったところで、向こうは林の中から手ごろな木を手にかけ。


【――ヲ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!】


 敵意むき出しの声を表明しつつ、緑しげる一本をべきばきへし折った。

 そうなると振り回すに十分なリーチがあるはずだ。それを掲げてどすんどすんと迫ってきた。


「ありゃ長生きしたエーテルブルーインじゃよ。魔力をたっぷり蓄えとるし、そこらのものなら何でも食うからああもデカくなるわけなんじゃが」

「要するに害獣のボスなんだな?」

「あいつらは熊みたいなもんじゃよ、あんななりじゃが家畜も作物も食らって人里に迷惑かけとる。んで、あれはいわゆる群れの親玉ってやつじゃなあ」

「ああそう、それじゃ――」

「どっどうするんですか!? まさかやっつけるんですか!? 逃げた方が……」

「我々では荷が重すぎる危険な存在、交戦は推奨しない」


 対してこっちはこうだ、背中のスティレットを抜いた。

 タカアキも「待ってたぜ」といいノリだ。気づけば全員が発射器を展開して。


「選択肢はこうだ、アサイラムのため、ひいてはフランメリアのため害獣退治するぞ。良く狙って撃てよ、バックブラスト注意!」

「ん、久々に使うねこれ」

「へっへっへっへ、撃つチャンスに恵まれてんなあ。当ててやんよ!」

「あひひひっ♡ 皆さまぁ、ちょっと後ろに下がって欲しいっす~♡」

「わはははっ、下っ端やられた挙句に今のわしらに会うたー、お前さんもツイてないのうクマ公。もうちょい引き寄せろよ、向こうが走り出す寸前が頃合いじゃ」


 ――弾頭と発射筒の間を挟む肩当て部分を引いて伸ばした。

 ストックが伸びきった、フロントサイトとリアサイトがかちゃりと立つ。

 これでトリガもせり出て安全装置も外れた。

 肩に当てればずん、ずん、と歩を段々と強める【エルダー】が近づいてきて。


「ちょっ……!? な、なにする気なのお兄さん!? それあのロケットランチャーだよね!?」

「や、やるつもりなんですかイチ先輩!? もうみんな構えているんですが正気ですかあなたたち!?」


 全員で使い捨ての発射器を構えれば猫と鬼な後輩が特に正気を疑ってくるが。


「生憎こういうのはもう何度も相手してんだ、心配するな――やれ」


 50m用の照準を迫りくる姿に重ねて、がちっと大きなトリガを引いた。


*zzzzZBashmmmmmmmmMMMM!*


 久々のスティレットの発射炎が弾頭をすっ飛ばす。

 五人分重なった発射音が耳元を抜ければ、丸太を掲げるいかにもな風格にばばばばばふっと薄黒色の火力が立ち込めた。

 多目的榴弾五本分のお味はどうだいクマ公? すぐに濃い煙が解けていき。


【ウォ……ヲ゛……!? オオオオオオオオオオオオ……!】


 さっきまでのご立派な姿がところどころ吹き飛び、胴に開いた風穴から煙を通しつつ――沈んだ。

 叫びよりもずっと盛大な地響きが最後の言葉だった。

 前倒れな死に様もすぐにぺしゃんこだ。クソデカい毛皮だけが残った。


「骨身に染みたみたいだな、いい火加減だったろ? これでこの世界の害獣被害も減ってくんじゃないか?」


 一応、()()()を手にかけて周りに言っておいた。


「……や、やっつけちゃいましたねー……き、近代兵器おそるべしです……!」

「なんと無情な。我々ヒロインが恐れる【殺人パン屋】の噂はまごうことなき事実だった」

「思い出のフィールドボスが蹂躙されてる……お兄さん、これやりすぎじゃないかな」

「笑顔でこんなものを撃つとは、やはりあなたは悪鬼なのでは……?」

「登場して間もなくひどいゾ、ファンタジーもクソもないじゃないカ」

「い、一瞬でしたー……! おにーさん、やっつけちゃったんですね……」


 リスティアナは新米たちと一緒に唖然としていた。ドン引きだが。


「二発分ぐらいでよかったかもな。それでこの……なんだ、死んだら着ぐるみみたいになるバケモンどもは」


 脅威は去ったのは分かった、でもこの死に様はなんだ?

 銃口で足元の「ぺちゃんこ」をひっくり返せば、肉も骨も消えて中身がすっかすかの抜け殻がある。

 このまま家先に飾ってもインテリアとして通用するはずだ。


「これはエーテルブルーインっていう魔獣ですよ。雑食性で何でも食べて、マナに変換して蓄えて生きてるっていう生き物なんです。もっともこの世界だと、農家さんとかがひどい被害を受けてるそうなんですけど……」

「この国じゃ被害が特に深刻なもんは魔獣って呼んどるのよ。わしらは()()()って親しく呼んどるが、こいつは中々に厄介な害獣でのう、そのくせ死ねば自分の身体も魔力にしちまう貪欲なもんじゃよ。ほれこの通り中身すっかすか」

「ワーオ、見事に骨抜きだな」


 リスティアナとスパタ爺さんが言うに死ぬと中身が逃げる生態系らしい。

 くたばったら我が身は意地でもくれてやらない気概なんんだろう、しわしわの口がそう物語ってる。


「……なあ、これ化けて出てこないよな? こいつら特に未練なく昇天したってことでいいのか?」

 

 こんな不気味なの見せられて「倒した」と認められるかどうかは微妙だ。

 受けた傷はそのままだし、未練がましく残った角と毛皮は正直気味が悪い。

 重そうなくせして実際そうでもなく、覚悟があれば丸めて背負えるぐらいだ――今にも動きそうなほど暖かいが。


「なあに化けてでてこんさ。こいつらがこうやって律儀に残してくれたもんはいろいろ便利なんじゃよ」

「俺には皮残して逃げたように見えるぞ。帰ってこないか心配だ」

「持ち主不在ってこたーわしらのもんじゃ。昔はよくこれで酒飲みに使う角杯が作られたもんなんじゃが、今じゃと薬だの武器の材料だのといろいろ使い道あるからな。傷が少ないもんはけっこう売れるぞ?」


 倒した分だけ転がる怪奇的な死に方はドワーフ的に嬉しかったようだ。

 ヒロインたちだってそうだ。戦いが終わって残り物の価値に目を張ってる。


「こんな気味の悪いので一儲けできるって? 冗談だろ?」

「お前さんどんだけびびっとんの。まあ皮の方はさほど珍しくもないんじゃが、角はそこそこ需要あんぞ」

「こいつがか」

「こいつがじゃよ。んで、向こうには長生きしたやつがそのまんま置いとるじゃろ? ああいうのは強靭な肌もっとるから貴重なもんじゃし、角だってでかけりゃ中身も詰まっとる――つまり一儲けじゃよ」


 スパタ爺さんの満面の笑顔曰くあれはたいした狩果だそうだ。

 この今にも歩き出しそうな抜け殻といい、どうも俺たちははからずとも金銭的価値のあるものに囲まれてるらしい。


「……そりゃ嬉しい情報だけどな、これどうやって手つければいいかっていうのが次の疑問だ」


 でも、このデカさと量だぞ?

 重たげな見た目はさることながら、人力でどこかに運べば日が暮れそうな数だ。

 ボス級の皮なんてもうウォーカーの手も借りたいレベルである。


「た、確かに大変そうですよねー……毛皮だけでもかなりありますし……」

「これをすべて運ぶというのは不可能に近い。けれども我々はお金を欲している、どうすべきか」

「全部売ったらけっこーいい稼ぎになりそうだよね……どうやって買い手のいる場所まで運ぶかっていうのが課題だけど」


 リスティアナやチビエルフや猫系ロリもメルタを期待してるが、持ち運ぶなんてばかばかしい程かさばってる。

 中には「なら角は貰ってくゾ」とメーアがナイフで角を取ろうとしてる――がきっと刃がかけて失敗だ。


「ワタシのナイフが欠けタ……!」

「まさに思わぬ収穫ってか? 金になるなら見逃せねえけどよ、流石にこれ全部運ぶのは無理じゃね? おっ、でも思ったより軽いな……」

「売れる理由は中身が抜けると見た目以上にけっこー軽くなるとこじゃよ。それでもこの数といい、エルダーくらいのもんといい、気軽に持ち運べるもんじゃなかろうが……」

「軽いっつってもこれ担いで歩け言われたらちょっと嫌だぜ。どの道今の俺たちには十分重いモンだ、つまり運ぶの無理だこれ」


 タカアキも毛皮にチャレンジだ。

 羽交い絞めに持ち上げるも、独特の重量感に足元がよたよた踊ってる。

 これで分かったのは俺たちには持て余す代物ってことだ、どうしたもんか。


「みんなの様子を見る限りは見捨てる選択肢はなさそうだな。でも俺たちの仕事はなんだ? 北へ調査しにいくことだろ?」

「そりゃそうじゃけどなあ、ドワーフ的にもこんな価値のある素材をほっとくなんて罰当たりじゃよ。つーことでわしから提案があるぞ」

「それなりに有用なものを捨てるのは俺も後ろめたかったところだ。どんな感じだ?」

「後方に控えとるやつらけっこーおるじゃろ? 今からそいつらに連絡して回収してもらおうっていう感じじゃ、どうよ?」

「なるほど、こういう時のためか」

「何も見張りのために待機させとるわけじゃねーのよ、予備の兵力ってやつじゃな。そーゆーことでお前さんら、後ろのもんに任せるっつーのはどうかの?」


 予期せぬ収穫をどうするか、それは後ろにぶん投げることだ。

 そんな発想にみんなは最初はたじたじ、次第に「はい」気味の頷きだ。

 オーケー、爺さんの案でいこう。


「いいみたいだな、そうしてくれ」

「よっしゃ、今から回収チーム寄越すよう伝えとくぞ。それまで各々装備を検めたり身体を休めとくといい、良く戦ったな未来ある新米どもめ」

「クマの化け物相手とタメ張るガキどもがいるなんて冒険者ギルドは安泰だろうな。全員お疲れさん、怪我人はいないか?」

「バサルト坊主が鼻高々にする理由がこれなんじゃなあ……なんならわしが買い手見つけてやるから、分配の話はお主らでしとけよ? いやあ、やっぱデカいのにぶっ放すスティレットはたまらないのう」


 とにかく廃村はクリアだ、おめでとう俺たち。

 この大量の戦利品は後続に任せるとして、次の移動に向けて備えよう。

 ――ああついでに撮影も。巨大な抜け殻に「記念撮影しにいくぞ」と向かった。



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[良い点] 白殺し大活躍! 5.56mmが通じないとか思わずエグゾと50口径でドーザータイムしたくなる相手だ・・・
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