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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
515/580

21 白き民ども、奇人なるぞ


 どこで何作ろうがだいたいうまい、それがリム様の飯のいいところだと思う。

 しかも手放しで「うまい」言って済むものじゃなく、適度をわきまえてる。

 普段は塩味ほどほどの料理で飽きずに食わせてくれる。

 疲れてる時はここぞとばかりに濃い味の料理や甘いものを用意するほどだ。


 今思うとストレンジャーズの調子をずっとそばで見てたんだろう。

 その気になればどこまでも美味しいものは作れるだろうに、毎日舌が飽きないように味から量まで細かく配慮してくれた。

 おかげで食事に対する理解度は半年前とは段違いだ。

 こうしてパン屋に踏み込めたのもリム様の賜物なのかもしれない。


「……こいつはうまいな。芋がダブってるのが気になるが今の俺たちにちょうどいい味だ」


 そんな料理を感じ取ってくれてたのはあのタケナカ先輩か。

 トレイに盛られた数々がよっぽど気に入ったらしい。ひたすら食ってる。

 広場に設けたばかりのテラス席で、こうして昼飯を一緒にしているところだ。


「あの人が飯作ったら辿る運命はじゃがいもの入れ過ぎか重複するかの二択だけど、実際食ってみるとそんなに気にならないだろ?」


 ならって目で味わえば、食堂からよそってきた数々が実にうまそうだ。

 ワインにつけ込んだ豚肉をチリ風に仕立てて削いだもの、香味野菜たっぷりのピラフ、深皿で熱々の芋と玉ねぎのクリームスープ、ハッシュドブラウン。

 世紀末世界を思い出す組み合わせだ。肉の柔らかさから米の具合まで舌に合う。


「まるでいっぱい食ってきたみてえな言い方だな。正直言うと、リム様の作ったこの料理はフランメリアに来て一番口に合う気がするぞ」

「ここで食う飯が一番なんて意外だなタケナカ先輩、なんかあった? 雰囲気補正でうまく感じる?」

「おっさんの身体にちょうどいいってことだ。大体な、年齢考えてくれねえか? こちとらお前の倍ほどは生きてんだぞ、四十とうに超えた身には味も量もこれくらいがいいんだよ」

「どおりでこっちと比べて盛り方が少ないわけか」

「それはお前が食いすぎなだけだ。まあ、この世界に来てからゲーム的な要素が作用してるのか食える量も受け入れられる味も増えたがな」

「そういえば俺たちプレイヤーもけっこう食うやついるけど、やっぱりあれもMGOの影響なのか?」

「かもな。そのおかげかみんなよく食って良く働いて良く寝る上等な暮らしで健やかにやってやがる、生活環境の良さも踏まえるといい影響と思うべきだろうな」

「こっちだって良く食うのも良く戦うのも良く寝るのも訓練でやらされたぞ。その甲斐あってか怪我してもおなかいっぱ食えば傷塞がるようになった」

「今のは冗談だよな。いい加減ヒロインみたいな人外の連中とひとくくりにするべきかとこの間シナダたちに相談してたぞ」

「俺、ヒロインだったんか……?」

「やめろ気持ち悪い、飯食ってる時に汚い話すんな」


 トレイの肉料理を味わいながら、強面の食事風景から周りを気をやった。

 時刻は一時を過ぎた頃だ。周辺の探索から戻った冒険者数十名が飯を食ってる。

 食堂の外になんとなくで作った席は意外にも好評らしい。陽に晒されながらの食事をお望みなやつがけっこういる。


「……こうしてみるとクラングルぐらいは平和だよな。自分勝手にここまでやっておいてこんなこと言うのもどうかと思うけど、ほんとに未開の地なのかって気分」

「そうだな、お前が大活躍してるおかげで他の連中も驚き疲れてる」

「タケナカ先輩はどうなんだ?」

「日頃驚かされまくってるせいで肝が据わった。思うに新米の面倒をもう全部お前に任せたら全員恐れ知らずになるんじゃねえか?」

「それポジティブな言い方であってる?」

「自分で考えろ。いいか、あの時お前が助けたキュクロプスの子供がどうして誰かさんのメイドになってんのかまだ理解がおいつかねえぞ」

「俺の趣味じゃないぞ」

「分かってる。お前だったら変なエプロン押し付けてパン屋の店員にするだろ」

「変なエプロン言うなよ、カッコいいだろ? 俺だってあいつがメイドになっててびっくりだけど、お賃金と福利厚生をくれてやってるのはリーゼル様だ」

「どうなってんだほんと。まあ、本人がそれでうまくやってるなら誰も文句は言えんがな……」


 ここアサイラムが賑やかなのは飯がうまいのもあるだろう。

 スライス肉を噛めばさくっと柔らか、カリカリの脂に辛めのソースが合う。

 コショウが効いた野菜ピラフだの、クリームと玉ねぎたっぷりのポテトスープだのをよく味わってると。


「もー、お手伝いしてばっかりじゃだめですよメカちゃん! ほらほら、ちゃんとみんなでおいしいご飯を食べましょうねー?」


 トレイを抱えて食堂を抜ける一団がいた――青空に青髪輝くリスティアナだ。


「あっあのっ、リスティアナさん!? あ、あたし、魔女さまのお手伝いしなくちゃ……!?」

『んもう、ここはお屋敷じゃないのですから構いませんのよ! イっちゃん出番ですの! メカちゃんどもと一緒にご飯食べてあげてくださいましー!』

「――と申しているから問題はない。そこのおっかない人、昼食の席をご同伴しても?」

「やあ、メカの旦那様。お隣でご飯食べていいかな?」

「メカさんが頑なに厨房のお手伝いから外れようとしないので連れて来ました。勤勉なのは良きことでしょう、けれど今の私たちは冒険者だということをお忘れなく」

「前向きになったのはいいことだガ、こうも真面目過ぎると逆に悪いものだゾ。それよりご飯ダ、なんと食後のお菓子もあル! なんでもありだナこの依頼!」

「おにーさん、お手元にレフレクはいかがですかー?」


 そこにメイド姿も足して、ベレー帽エルフ率いるロリどもがぞろぞろしてた。

 そいつらは野郎二人で話し合っていたあたりに座り心地を見出したようだ。

 ここの男女比率はやっぱりおかしい、今なお人外の可愛さがロリからお姉さんまで二十を超えてる。


「どうもおっかない奴二人です、ご自由にどうぞ」

「おい、勝手に加えるな。こんなやつのご同類だけは絶対ごめんだぞ」

「いやなの~?」

「あのお医者様が言ってたがお前は時々本気ではっ倒したくなるな……」

「クリューサはともかくタケナカ先輩にやられるのはごめんだ。ところであいつら来るらしいけど、いつ来るんだ?」

「お薬を調合してから来るそうだ」

「どっちの? 自分にキメるタイプ?」

「患者に投げ込むタイプだ。冒険者向けに調節したのを作ってるらしいぞ」

「あいつもあいつで物騒になってんな……」


 もうこの際、男性の肩身の狭さはフランメリアの文化と思おう。

 手招きすると隣にメイドがきょどきょど、手元に妖精がちょこんと座った。


「おお、これがリーリム様のご飯……美味しいですね☆ ふふふ、イチ君たちとご一緒するだけじゃなくて美味しいご飯も食べれるなんて幸せですねー?」

「さすが料理ギルドマスター、レフレクのような肉を食べられぬ種族柄に配慮してくれている。でも私の感覚が正しければ芋が多い」

「っていうか他のエルフの子たち、お肉食べてたよね……きみたちってよくわからないよ、野菜しか食べなかったらそうでもなかったり」

「これは……中々ですね、米料理があってとても嬉しいです。魔女様の作る料理と聞いて一抹の不安を覚えておりましたが、食べる側の方々に対するご配慮を感じます」

「こうしてヒロインたちがわらわら集まって食事をするのハ、MGOの世界にいた頃ヲ思い出すナ……んむ、うまいゾ。芋入れ過ぎだけド」


 とうとう身近な場所もヒロインらしさに染まれば野郎同士の会話が薄れた。

 でもこちとらタケナカ先輩と揃ってさんざん味わってきた光景だ。「いつもどおりだな」とお互い笑う程度には。


「聞いてくださいおにーさん! なんと、りむさまが妖精さんサイズの食器まで用意してくれました! レフレクみたいな種族に配慮してくれて嬉しいです!」


 レフレクがどやっとトレイを持ち上げるのと重なった。

 最低二十センチは保証されるお手頃さがずいぶんミニマムなお食事をしてた。

 片腕を「どうぞ」と椅子として差し出した――尻がふにょっと柔らかく乗った。


「こんなものまで用意してくれてたのか。お味はどう?」

「はいっ、レフレクでも食べられるお料理がいっぱいです! それにそれに、食後のデザートまで用意してくれてるみたいです!」

「ついさっき肉食えない云々が聞こえたけどその通りらしいな」

「おにーさん……レフレクは妖精さんゆえ、お肉が入ってるものが食べられないのです……」

「そりゃ気の毒に。じゃあ何なら食える? まさかパン食えないとか言わない?」

「お肉とお魚が食べられませんけど、パンも果物も乳製品も食べますよー」

「ならよかった、その顔でパン食えないとか言われたらどう気の利いた返事を返すか迷い始めてた。体質か宗教上の理由かしらんけど肉が駄目なんて妖精の食生活も大変そうだな」

「あっでもでも、お友達の妖精さんはお肉いっぱい食べてました! お酒もいっぱいです!」

「おいけっきょく食ってるじゃねーかどうなってんだお前ら」


 妖精系ヒロインのよくわからない生態系を元気に教えてくれた。

 少なくとも今ここにいる妖精は人畜無害でヘルシーなやつらしい。


「ふふふ? イチ君ったらレフレクちゃんにもすっかりなつかれちゃってますね?」


 人間椅子を提供してると向かい側でリスティアナもにっこりだ。

 なんだかまるで引率とばかりにチビ六人を見守ってる。


「そっちはそっちで新米の保護者みたいな感じになってるぞ。どういう感じで知り合ったんだお前ら」

「えっとー……ちょっと前に依頼で森に向かったら、こちらの『オリス』ちゃん率いるパーティーに遭遇しちゃいまして。その時、襲われてるのを助けたんです」

「リスティアナ先輩の説明通り、運悪く彷徨う魔獣に遭遇した。彼女の活躍で命拾いして以来、何かと彼女とつるむことがある」

「なんていいますか、まだちょっと心配なところもあって目が離せなくって……」


 ベレー帽エルフの説明ももぐもぐ混じってこいつらの関係性は分かった。

 要は世話焼き先輩と新米六人ってことか、エルフから妖精までぶら下げてるのは『ストーン』等級だ。


「……横からで悪いが、俺はあの時のキュクロプスの子が冒険者とメイドを兼業してることに驚きだ。しかも目の前のやべーやつを旦那様呼ばわりだぞ?」


 と、そこで「驚き超えて呆れ」みたいなタケナカ先輩が口周りを拭いてた。

 まあ、その目つきはこっちにまっしぐらである。


「そこの旦那様なら分かるだろうけど、あれからメカがちょっとふさぎ込んじゃっててね。わたしたちからも距離を置いてしばらく音信不通だったんだけどさ……」

「と思いきや、ある日突然と私たちの前に戻ってきたのです……メイド姿で」

「メイド姿でナ。魔女リーゼル様に拾われて、いつの間にかあそこのメイドになってたんダ」


 猫系ヒロインの瞳と、ご馳走様な様子の鬼ッ娘と、そろそろ完食間近のお魚系ロリの視線が答えを紡いだ。

 あてはまるのは――俺の隣で話に加わりづらそうな水色髪のメイドさん、その名もメカだが。


「……あっ、あたし……気が付いたら、魔女様のメイドになってたんです……。こ、断れなくて怖かったんですけど、みんな優しくしてくれるし、けっこう、心地よくって……今はお屋敷に、住ませていただいてます……」


 目が隠れた丸い顔をもじもじさせてメイド化事件の経緯を答えてくれた。

 職場としては安泰だろうけど、あの恐ろしいメイドどもの仲間入りを果たしてたなんて想定外だ。


「そして俺が旦那様だって?」


 が、それよりどうしてこう人前だろうが「旦那様」扱いできるんだか。

 間違いがないか確認するもメカはこくりと照れ照れしていて。


「は、はい……魔女リーゼル様と、クロナおねえ……先輩と、ロアベア先輩から、あ、あなたに仕えるようにってしっかり教わりました」

「くそっ、関わって欲しくないやつオールスターじゃねえかもう――ああもちろんロアベアあたり」

「で、でもあたしっ、だ、だんなさまのお力になれるって聞いて、だからお屋敷で……!」

「皆さまぁ、そろそろデザートが恋しいタイミングじゃないっすかぁ? ところでなんか呼んだっすかイチ様」


 ちっちゃい口でごにょごにょ言うにはそういう屋敷のルールらしい。

 ついでに当事者も来た。話も食も進んだところにお盆を抱えたロアベアだ。


「レインロッドのパイだよ。リムさまが持って行ってあげてっていってた」


 それとデザート運びにぽてぽてやってきたわん娘も。

 握り拳より大きな一切れが『デザートは別腹』と皿の上に主張中だ。

 パイの網目と断面から青色が透き通ってる。甘酸っぱいあんずの香り。


「わっ、綺麗な青色ですね。もしかしてこれ、あのレインロッドですか? とっても美味しそうな匂いがします……」

「おい、なんだこりゃ? 中が青いパイだって? これ食っても大丈夫なんだろうな……?」

「リスティアナ様、タケナカ様、こちらはレインロッドと呼ばれるハーブをフィリングにしたパイっすね。お上品な青色からしてまあ食べても死ななないと思うっす、甘酸っぱくてうまいっすよ」

「マジであの青い奴パイにしたのか……あと別に呼んじゃいないぞ、噂してただけだ」

「じゃあお呼びってことっすね、なんすかなんすか」

「今日の話のネタはメカがお前の後輩も始めたことについてだ」


 今日もクソメイ……フリースタイルでメイドやってるロアベアにメカを示した。

 あいつはパイを配って、にまぁ、といやらし~笑みをこっちに向け。


「イチ様のおかげでやりがいのある仕事になってるからじゃないっすかねえ? アヒヒヒッ♡」


 などと、当人のみぞ知るみたいに答えやがった。

 どういうことなのかメカクレ内気な方のメイドは恥ずかし気だ。


「やりがい次第で冒険者と兼業もするのかお前ら」

「どっちかっていうとメイド兼冒険者っていう役割が面白いっていうリーゼル様の思惑もあるっすよ」

「なるほどよくわかった、お屋敷は副業オーケーなんだな。なんて理由で二役やらせてんだよあの人……」

「他には賑わってる皆さまのご様子を間近に見て捉えてご報告するっていうのも仕事っすね。ここのご様子もちゃんとクロナ先輩経由でお伝えしてるっす」

「そうか、頑張る俺たちの姿が見れて合理的だろうな。ついでに俺は元気そうだって伝えといてくれ」

「じゃあまたクロナ先輩と会えるようにうちがマッチングしとくっす、情熱的に。あっお飲み物ご用意してあるっすけどご自分でどうぞっす」

「おいやめろ、屋敷に行けなくする気かこのダメイド」


 今はっきりしたのはこの『メイド冒険者』が人様の監視に役立ってることだ。

 職務放棄にメッセージ偽装罪と罪深いがパイに罪はない、フォークを入れた。

 レインロッドのジャムが澄んだ海みたいな色をしてる――さっぱり甘酸っぱい!


「まあよくわかった。メカ、お前は職場復帰して副業も見つけて、あのメイド地獄の仲間入りしたんだな」

「はい、ですので……えっメイド地獄……!?」


 気づけばみんなも「メイド地獄!?」と困惑しつつ青いパイを頂いてた。

 屋敷の仲間入りを果たしたなら「チェンジ」はなしだ、言えばぶっ殺される。

 よって大人しくだんなさまを受け入れるしかないのだ――クソメイドども!


「メカ、とりあえず俺から二つ言うことがある。いいな?」


 なのでメカと向き合った。甘酸っぱさをもぐもぐしつつ。


「はっ、はい……!」


 パイを美味しそうにしてたメカが慌ててごっくんしながら見つめ返す。

 俺は水色の髪に隠れた一つ目と姿勢をあわせて、それからあのクセモノだらけのメイドざんまいを思い出して。


「くっっっっっっそ面倒なやつだけど今後もよろしく、そして誠にごめんなさい」

「ってどうしていきなり謝るんですかだんなさま!?」

「本当にごめん……責任もって面倒見るからどうかあそこでも清く生きてくれ……」

「清く……!? あの、一体どうされたんですか……!?」

「寿命縮んだ」

「寿命!?」


 メカの無事を込めて謝罪した。

 このままだと純真無垢そうなこいつがイロモノメイドに変わってしまうのも時間の問題だろう、本当にごめん。


「……恐ろしい人と聞いていたけれども、意外とダメな人かもしれない。安心した」

「屋敷で何かあったって感じでかなり切実に謝ってるよこの人……メカ、そんなところで働いてて大丈夫なのかな」

「だいぶ想像していた印象とはかけ離れてきておりますね……思いのほか抜けたところが多すぎると言いますか」

「あのお屋敷にこんなやつすら恐れる何かがあるみたいだナ。ちゃんと責任もってメカの面倒見るんだゾ」


 あの屋敷とメイドどもの美点も一つ見つかったぞ、おかげで新米冒険者の警戒心も解けたみたいだ。


「食後に説明したら後味最悪になるぐらいクソ面倒なやつだけど、それでもお前とうまくやれたらなと思う。フレンド登録送るからなんかあったら適当に送ってくれ」

「こ、これからもあたしのこと、よろしくお願いします。だんなさま……!」

「また変なの絡まれたらぶっ飛ばしに行くから心配するなよ、よしよし」

「は、はい……うぇへへへへへ……♡ く、くすぐったいです……♡」


 となりであせあせしてる初々しいメイドを撫でてやった、とっても照れてる。


「ん、ぼくも」

「ぐっどぼーい」

「んへへへへ……♡ これ好きー……♡」


 ずいっとニクも間に入ってきたので撫でた、グッドメイドにグッドボーイ。

 食事の場でメイドとわん娘を撫でるという異様な執り行いをしてるわけだが、タケナカ先輩が一通りの事情にようやく頷き。


「それで、そこの旦那様に聞くがここらの整備は一通り終わった感じか? 帰ってきたらシャワー付きの部屋が完備されてるわ、うまい飯は出てくるわで今のところ至れり尽くせりじゃねえかおい」


 青いパイを甘酸っぱそうにしつつアサイラムについて持ち掛けてきた。

 事情を知らないやつから見れば謎の機械が増えて、立派な寝床とシャワーがつき、温かい飯とデザートが出てくる充実ぶりだ。

 ただし土地いじりに必要な資源も切れて困ってるのだが。


「終わりっていうよりは中断だ。ここを動かすのに使う資源が切れて、後は爺さんどもに頼ってる」

「その資源とやらがよく分からねえがこうまで発展したってことは、それなりのコストを払ったか。ご苦労なこった」

「まだまだ払えるぐらい充実したコンテンツだったぞ。まあひとまずアサイラム開拓はおしまいだ、何もできない以上俺も周辺を探索しようと思ってたんだけど」

「俺が話してえのはそのことだ。この辺りはほんとに未開拓って感じだ。遺跡やら廃村やら、お前が絡んでる転移物もけっこうな数あるときた」


 次の問題は拠点の外側だ。

 タケナカ先輩の面倒そうな顔はさながら外の光景を表現してるようだ。

 面倒具合を尋ねようとすれば。


「んん、おふぉふぉにいっぱいふぃふぁふぇるふぁふぉふぁ、あふんえうか?」


 パイ一切れにむしゃむしゃ挑むレフレクがいた、おでこを撫でて没頭させた。

 すると「ハナコ」と向こうの席にお呼びだ――地味眼鏡な女子がやってくる。


「冒険者の皆さんからの情報をざっとまとめてみました。そしたらタケナカ先輩の言う通り「けっこう」あったんですけど……」


 お近づきになるなり、さほど大きくない紙をそこにばっと広げた。

 みんなで食器をどかして通り道を良くしておかせれば――


「ワーオ……俺には探りがいがあるように見える」

「……改めてみるとけっこう、じゃねえな。山ほどだ」

「あのですね……小さなお屋敷に、廃村に、森の中の遺跡に、川沿いいっぱいの風車小屋、それにどう見てもこの世のものじゃない二階建ての本屋とか墜落した飛行機だとかガソリンスタンドだってあるんですよ!? 滅茶苦茶ですもう! これイチ先輩のせいでややこしくなってますよね!?」


 ハナコのお怒り通りだ、手書きの地図に文字と記号がごちゃ混ぜである。

 アサイラムの四角さを囲うように【屋敷】【廃村】【遺跡】【飛行機】【がらくた】と目についたものが二十は点在してる。

 しかもテュマー、白き民、魔獣、と嫌な調査結果もある。


「何個か土地主つきだぞ。白き民はともかく、テュマーとか今一番見たくなかった単語だ」

「先輩たちがいってたテュマーっていうのもいたそうです。現代的な建物の近くでうろうろしてるのを見つけたとか」

「ステーションがああだったんだから当たり前か……この魔獣っていうのは?」

「MGOベースのモンスターのことです。フランメリアではきわめて敵対的な生物のことをそう呼んでるらしいですよ、魔物と魔獣で区別してるそうです」

「つまり敵だらけってことかよ、なんて物件だ」

「……余計な敵増やしてるの誰のせいだと思います?」

「ごめんなさい」


 今日もハナコは辛口だ。

 周囲は思った以上に危険だ。俺が持ち込んだクソ外来種が厄介してやがる。

 書き込まれた名が示すように、遠近問わずのロケーションに「いてほしくない隣人」がいるのは間違いない。

 でも経験上、実際はもっといるはずだ。

 安全に見える場所が東西南北に描かれてるものの、危険だらけの身の上をわきまえるに「蓋を開けたらなんとやら」だ。


「……こんなにあったんですねー、それも白き民だとかがけっこういるように見えませんか? ひょっとしてここって危ない土地だったんじゃ……?」

「こうしてみると敵がいないように見える場所が幾つか見受けられる。でも細かな偵察をしてない以上、何かしら待っていると考えるべき。ところでテュマーとは?」


 幸いにもリスティアナもベレー帽エルフもその点には感づいたらしい。

 ぱっと見ただけじゃ事実は分からず、どこに行こうが敵が潜んでいそうな可能性がある。


「知らないやつのために言っとく、テュマーってのは人間由来の機械ゾンビだ。初対面のイメージはたぶん白き民と同じぐらいの嫌悪感だぞ」


 俺はテーブルに広がったアサイラム周辺の光景に目星をあてがった。

 川を少し北に沿うだけで廃村やら墜落機がすぐ目についた。

 ここにも何かしらの脅威があると考えるべきか。

 全員で紙上の表現をまじまじ見てると、次第に外で食事中の冒険者たちも寄って集ってこのあたりが気にかけてきて。


「……これって、どうにかしないとまずいよね。放っておくとここが危ないかもしれないし」

「だよねー……ここに書いてる場所の分だけ敵がいるって考えると、アサイラムけっこうピンチなんじゃ……」


 ヤグチとアオの大小コンビが青空の下で食べたデザートの余韻も台無し、とばかりに思いを巡らせてた。


「実際に行ってみたら敵が待ってました……ってことになる可能性だってあるんですよね。なんか全部危険な場所に見えてきた……」


 遅れてたどり着いたホンダの片目隠れな地味顔でさえそう訝しんでた。

 ここで快適に過ごして一日4000メルタの楽な仕事じゃないのは確かだ。


「まあなんだ、だから俺はお散歩がてらやばそうな場所を潰そうと思ってる。けっこうこのアサイラム気に入ってきたからな――資源いっぱいつぎ込んだし」


 けれどもそれがなんだ、少なくとも俺はそんなこと承知でお邪魔しに行く。

 脇腹のデカいホルスターをぱしぱし叩いて重量感を伝えると、全員等しく「本気かこいつ」な様子だ。


「ちなみに俺もだぜ、無報酬だけど廃墟探索は楽しいからな。それにテュマー放置したら次は『ホード』かもしんねえし?」


 そこに食堂からマフィア姿がへらへらっとお戻りになった。

 タカアキはテュマーの生態を良く分かってる。背負った散弾銃でぶっ飛ばす必要があるところまでな。


「あっ、うちは依頼を受けてないっすけど、そのつもりで来てるんでご心配なくっすよ。一応リーゼル様からイチ様のお手伝いするように言われてるんで~」

「ん、冒険者らしく冒険する」


 しれっと戻ってきたロアベアとニクも得物をしっかり手にして殺る気だ。


「あ、あっ……あたしも、だんなさまのお力になります! せ、先輩たちにそうご指導されてますので!」


 意外だ、メカもあせあせしながらこのノリに混じってる。

 こうも好戦的な俺たちにタケナカ先輩は「あのなあ」な顔で呆れてるが。


「どの道俺たちの依頼にはそういうのが含まれてると思え、となれば周辺の状況が分かった以上……やるしかねえってことだ。お前らの中に白き民と戦った経験があるやつはいるか?」


 さっきのパイほどじゃないが顔色悪く周囲にお尋ねになった。

 『ストーン』『カッパー』の見習い多めな人外と日本人顔に「はい」は少ない。

 全体の半分ほどか、新米ばっかにしてはそこそこかもしれない。


「――なあに、確かに数は多いがバラバラよ。それなら一つずつぶっ潰して、わしらの縄張りを広げてやればいいだけじゃ」


 ずん、と自信ありげな足取りが美少女だかりをかき分けにきた。

 いつから耳にしてたのかスパタ爺さんが堂々たる姿を見せてる。

 角ばるフレームがカッコいいレーザーライフルを担いで、火力をもってして冒険するつもり満々だ。


「俺たちについてくる感じの格好だな、似合ってる」

「わはは、ちょいとわしも冒険心くすぐられちゃったのよ」

「だってさタケナカ先輩、どうする? これからちょっと散歩するつもりだ」

「……確認だ、爺さん。その安全確保のために敵をぶっ潰すってのは俺たち冒険者の役目か?」

「無理にとは言わんが追加報酬の種じゃよ、じゃが危険は潰しとかんと枕を向ける場所に困るぞ。ちなみにこれからわしはイチだの連れて冒険な。ここなら徳を積む相手にも困らんじゃろ」


 徳を積みたいそうだ。今日も元気な爺さんなこった。

 タケナカ先輩は食器を片づけて冒険者顔をざっと見直し。


「聞いたなお前たち、敵の位置が分かったってことは俺たちがどうにかしないといけねえ。ここの平和に貢献して報酬がほしいって酔狂なやつは後でここに集まれ」


 ちびちび味わってたパイを流し込んでトレイを返しにいったようだ。


「……ど、どうしよう? 白き民なんて戦ったことないよ……」

「わ、私はあるぞ……! スキルだって鍛えてきたんだし、やってやる……!」

「実戦経験ある先輩たちがいっぱいいるし、いけるんじゃない……? よ、よーし……報酬アップのために……!」

「あ、あーしもやる! タケナカセンパイにイチセンパイもいるし大丈夫っしょ!」

「……ってヒロインたちがいってるけどどうする? 俺一応、ああいうのと戦ったことあるんだけど」

「いや、やった方よくね? 活動拠点と近いし、なんかあったらすぐ退けるし、むしろチャンスってやつ」


 周囲を少し伺った――うまい飯のおかげもあってか行けそうな雰囲気だ。

 最後に見たリスティアナが「頑張りましょうね!」と言いたげな笑顔だ、総じてみんなやれますって感じか。


「大体は参加ってところだぞ、スパタ爺さん」

「なら話は早い、何をすべきかタケナカと説明したるから行く奴は準備してこい。なあに、お前さんらを死なせはせんから心配いらんさ」

「とんだ新人研修みたいになってんな。オーケー、無報酬チームも支度しろ! タカアキ、スティレットの使い方教えるからちょっとこい! 飯食った奴はちゃんと「ごちそうさま」言っとけよ!」


 俺も食器を下げに急ぎ足になった。

 やってやろうじゃないか、アサイラム周辺の大掃除を。


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