16 擲弾兵兼パン屋さん兼旦那様兼、一つの土地の持ち主
「……だんなさまだって?」
ロアベアのスカートの後ろをもう一度確かめた。
九尾院にいそうなチビメイドが口を小さく丸く開けておどおどしてる。
薄青いショートヘアで目元が隠れたそいつは、黒白のメイド服に防具を重ねた冒険者スタイルだ。
「ろ、ロアベアせんぱい……! や、やっぱり、い、いきなり男の人にだんなさまなんて、あたし恥ずかしいです……!」
「頑張ったっすねえメカちゃん、良くいえて偉いっすよ。でもご挨拶の時はちゃんとカーテシーしないとだめっすよ、そういう決まりっす」
「あっ……ご、ごめんなさい!? あ、あたしはメイドの『メカ』です! ふっ不束者ですがよろしくお願いします!」
その格好が大急ぎでスカートを持ち上げるのはまあいい、問題はそいつの背負った武器だ。
身の丈をゆうに超える斧が斜めに収まって、ただのメイドじゃないことを芸術的に表現中だ。
垣間見える斧刃のデカさを交えたメイドらしいお辞儀がおどおど半分、ものものしさもう半分で成り立ってる。
「ご覧の通りです! なんとなんと、リーゼル様に雇われてメイドさんになっちゃいました! イチ君と関りがある職場だからうまく馴染めてるみたいですよー?」
横でリスティアナが世にも珍しい一つ目斧メイドを明るく祝ってた。
俺のおかげでうまく立て直せたなら何よりだけど、こっちからすれば言いたいことだらけな上。
「……旦那様……? 理解不能、説明を求む」
ベレー帽をかぶった綺麗極まりない白髪エルフ、おそらくリーダー格あたりが俺を怪しんでる。
まるで一つ目ロリにメイド服着せた変態不審者でもお目にかかってる感じだ。
「ちょっと待ってよ。その人が……旦那様? メカってリーゼル様に仕えてたんだよね? え? どういう関係なの……?」
俺たちの関係を訝しく見比べる猫っぽいヒロインもいた。
肉球と尻尾付きの子供は布鎧の身なりと薄い緑髪をもってして、メカをビクビクさせる誰かが気にくわない顔だ。
「……メカさん、貴女は魔女様のお屋敷に雇われてると聞きましたが、その、このような方を旦那様と呼ぶところまでは想像が及びませんでした。どういうことかちゃんと説明してください」
もう一人なんて鬼だ。黒髪ロングから二本角を生やして、和をてらった衣装の鬼ロリが恐れ半分でこっちを見てた。
「だんなさま」なんて言葉をこっちに重ねて混乱してる、俺だってそうだ。
「なんダ、オマエたちそういうプレイをしてたのカ」
深い青髪の女の子に至っては性癖としてみなしてるふしがある。
ニクに負けないほどダウナーで、人間的な白肌に魚らしい大きな手足を繋げた魚類系ロリは人を何だと思ってるんだろう。
「いつのまにおにーさんのメイドさんになったんですね! レフレクびっくりです!」
肩の上では擲弾兵のプロテクターに座り心地を見出した妖精さんが笑顔だ。
何時から俺はお前のお兄さんになったんだ、交友関係がまた深まってるぞ。
「ロアベアァ!」
「なんすかなんすか」
「質問がいくつかある。まず一つ、このロリどもも「だんなさま」も理解が追いついてないぞ。このちっこいメイドと俺の関係性について速やかに説明しろ」
この状況を一番理解してそうなやつに説明を求めた。
背でびくびくするメカに対してロアベアはによによで。
「少し前にこの子が冒険者ギルドにもいけずに困っておられたところ、たまたま見つけたんでスカウトしたっす!」
「なんだお前の仕業か」
「いえ、その時リーゼル様と書店でお買い物してたんで速採用っすね」
「なんてこった、ご本人が直々に誘ってやがった」
「まあでもいいじゃないっすかー? メカちゃん「ノー」がいえない系の女の子っすよ、変なのと巡り合う前にうちらが保護したっす」
ひとまずどうしてあの時の一つ目ッ娘がメイド化したのかは分かった。
「で、二つ。なんでまた会った時のご挨拶が「だんなさま」なんだ。俺の知らない間にこいつとどういう仲になってんだ? そもそもお前のところで働いてるなんて今ようやく初めて知ったぞ」
じゃあなんでその新入りが俺のことを大層立派な呼び方をしてるかって話だ。
首あり先輩メイドは隠れる後輩の頭をよしよしすると。
「一応うちらイチ様に仕えるような体っすよね?」
「ああ、そういうことらしいな。最近はリーゼル様のお屋敷が「喜んで行きたくない場所リスト」にランクインしてるけどな、そろそろ歯医者と並びそうだ」
「ということはイチ様がご主人なんすかね~ってふと言ってみたら、なんか寝る前に盛り上がったんすよね皆さま」
「どうも人のことをパジャマパーティーの話の種にしてくれたみたいだな、ありがとうこのダメイド」
「どういたしましてっす~♡ そうなるとメカちゃんの仕える先もイチ様ってことっすよねえ?」
「そうなっちゃうよなあ……じゃねえよ、おい、話のオチが大体読めたぞ」
「で、この子をうちらで可愛がった結果いい感じのメイドさんに育ったんすよねえ。今ではクロナ先輩の愛弟子っすよ」
「あのクソデカメイドが先輩か、災難だな」
「そこでクロナ先輩ご本人から言伝があるっすよイチ様」
「怒らないから包み隠さず言ってみろ」
「いい笑顔で「クロナからのサプライズです。あなたのメイドさんですよ、可愛がってくださいね旦那様♡」だそうっす」
ぴこん。
割ととんでもないクソ伝言が届いた後、メッセージの着信を感じた。
嫌な予感を飲み込んで左腕を覗けば想像通りのものが届いていて。
【いえーいイチ様みてるー?】
そんな煽るような一文にお屋敷の様子が結び付けられてた。
華やかな庭園をバックに、縮こまりつつもどこか幸せそうなちびメイドを先輩メイドどもが囲ってる。
みんな楽しそうだ、特に背後でダブルピース中の妙にデカい黒髪メイド。
「おい、今ご本人からすごくいいタイミングでメッセージきたぞ」
「敏いっすねクロナ先輩」
「ああまったくだ――あいつ、俺で遊んでないか?」
「大丈夫っすよイチ様ぁ、うちらは煮ても焼いてもいいフリー素材かなんかと思ってるっすから」
「その結果が新入りメイドの面倒見ろってか? マジで覚えてろよあのクソデカメイドめ」
よく理解した、クロナの計らいで二人目の冒険者兼メイドが生まれたらしい。
現にこうして並ぶ白黒姿二つは【ストーン】ほどの飾りを首やら腕やらに巻いてる。
「あ、あのっ、あの……? ご、ごめんなさい……あたし、だんなさまって呼ぶようにいわれて……」
そして人を旦那様呼ばわりした理由も判明した、教育の賜物らしい。
「いい教育されたみたいだな、俺のこと敬えってか?」
「い、いえ、クロエ先輩が、「その時あなたが口に出したい名前を言いなさい」っていうから、ずっと考えてたんですけど……」
「俺に対してずいぶんぶん投げたようなアドバイスしたみたいだな」
「はい……それで、だんなさまって……そしたら「それでいきなさい」って言われて……」
「自分から選んだのか……」
「いや、ですか……?」
「俺の呼び名のレパートリーに貢献してくれてありがとう、今日から旦那様だ」
メカはひょこっとロアベアとパーティーメンバーの陰に隠れてしまった。
そうすると、リーダー格ほどの帽子エルフが守るように立ちふさがり。
「……要約すると貴方がメカの雇用主?」
と、手短に聞いてきた。メカをなでなでしながら。
どう答えればいいのやら。じっと見てくる新米メイドに考えを重ねた結果。
「ああそうかもな、少なくとも面倒を見る義務はあるみたいだ。肝心のお賃金の支払いとお前のお友達をメイドに仕立て上げた挙句に旦那様呼ばわりさせた理由は俺じゃなく屋敷の方だ。残念だったな」
おどおどするやつの扱いは慣れてる、そういうことでメカにおいでおいでした。
するとてくてく恐る恐るにやってきたので撫でてやった――ワオ、とってもさらさら。
口元をにやつかせて照れてた。あのメイドどもと違って全然可愛げがある。
「なあに、怖がるこたーないぜお嬢さんがた。こいつ普段の素行があれだけど無駄に律儀だし別に女の子取って食うようなサイコ野郎とまではいかないぜ」
「そうですよ皆さん! イチ君は巷じゃバーサーカー、とか言われてますけどその実素直で義理堅い人なんですから!」
「ん、ちゃんと面倒見てくれるいい人だよ」
タカアキのへらっとした笑いにリスティアナの明るさとニクのダウナーさも混じれば、向こうも人柄の判断に困った様子だ。
肩乗りの奴はともかくみんなひそひそ話し合ってたようで。
「まあ、別にいいんじゃないカ? ソイツの噂はいろいろ聞いてるガ、ワタシは信用に値する奴だと思ウ。ちゃんと金も支払われてるなラ、文句を言える筋合いもなイ」
お魚系女子はダウナーにフォローしてきた。
そいつをきっかけに周りも「確かに」とうっすら空気を変えてくれたのは流石だと思う、よくいってくれた。
「訂正する。貴方はいい人、証拠にメカがデレてる」
「……ていうか、その子助けてくれた上にこうして立ち直らせてくれた人だしね。ごめんね、ちょっと怖くて疑ってた」
「少々恐ろしい噂を耳にしておりますが、レフレクさんを怪しげな者たちから守ってくれた実績もありますからね……」
「おい、お前らロリども揃いも揃って俺のことなんだと思ってたんだ」
「パンぶん投げお兄さんと認識してる」
「パンぶん投げお兄さん……?」
「ちょっと危ない人だと思ってたよ」
「ちょっと危ない人…………」
「周りの友人たちが「鬼神のごとき人」と申していましたが」
「鬼神のごとき人………………!?」
「メカをたらしこんだヒロインたらしだと思っていたゾ」
「最後はヒロインたらしか? どうなってんだコラ」
「――そしてレフレクの勇者さまです!」
「オーケー、今日で六つも名前が増えたぞ。旦那様に加えてパンぶん投げお兄さんにちょっと危ない人に鬼神のごとき人にヒロインたらしに勇者様だ、誰かまとめてみろ」
本音も聞き出すことができた。人数分の二つ名と一緒にだが。
ついでにメカの頬を挟んでもちもちした。とっても伸びる。
「あっ……♡ だ、だんなさまっ、だめですそんな……♡ あっあっ♡」
「最後の質問だ。ロアベア、なんでお前もいるんだ?」
「リーゼル様に様子見てこいとかいわれたんすよねえ、あとクロナ先輩が心配してたんで~」
「そうか。良かったなお前ら、メイドの職場はアットホームで福利厚生もしっかりしてるらしいぞ。で? ここにいるチビ六人がドワーフの爺さんたちの仕事受けたってことか?」
ロアベアがいらっしゃる理由もついでに分かった、お互い理解できたところでようやく「初めまして」だが。
「そうですそうです! この子たちが私の言っていた後輩さんです! 大丈夫ですからねー、このお兄さん大人しいですよー?」
リスティアナもメカをもちもちしにきた。左右に頬がとっても伸びてる。
するとベレー帽のエルフはようやく納得した様子で近づいてきて。
「我々は依頼を受けてやってきた一団、けれども名はまだない。一日4000メルタの簡単なお仕事に引かれたのは紛れもない事実だと伝えておく」
代表して身の上を説明してくれた。
新米には美味しそうな仕事にありつけてご機嫌そうだ。
「やっぱり報酬につられてやってきた類か」
「そういう貴方はどうなのかと質問したい」
「残念だけど無報酬できた。こういうことだ」
対してこっちは「呼ばれてきました」だ。
依頼じゃないことを説明すれば当然「なぜ?」と首をかしげてる。
手っ取り早い説明をしてやろう。PDAを開けば【拠点と同期中】という表示があって。
「お、さっそくお披露目か?」
タカアキがすぐ理解したらしい。ちょうど指先で選択肢が増えており。
【ハウジング・テーブル起動】
と、画面で文字が点滅していた。
触れればあの時の感覚だ。目の前に俺だけしか見えない湾曲した画面が開く。
建築リストから階段を選ぶよ半透明な輪郭が「まだ存在しない」体で表現されて。
*がらん*
建築を決定すると、鈍く転がるような音を立てて何かが出てきた。
アスファルトに唐突に現れた階段だ。これには知らないやつが驚くのも無理もなく。
「……ほんとに出ちゃったな、アオ」
「こういうゲームあったなー……実際に目にするとこんなシュールなんだね、何もないところからこれほどの階段が……」
大学生カップルが「ほんとにやるか?」と言いたげに触れに行った。
物理法則をだいぶ無視したつくりが陽の下でご立派に立ってる――大柄なヤグチが乗ってもびくともしないほどだ。
リスティアナも「わっなんですか!?」と興味深そうに上った、この短い階段を。
「……理解不能、どうして唐突に階段が?」
「ちょっと待ってなにこれいきなり出てきたんだけど……どうして? 何が起きてるの?」
「め、面妖な……!? やはりこのお方、只者ではないのでは……!?」
「なるほどナ、ワタシたちが受けたこの依頼ハ、やはりどこかしら訳ありだったカ」
「すごいです! 魔法みたいに階段が出ました!?」
「だ、だんなさま……? 今何をしたんですか……?」
「オーケー良く聞けロリ六人。くっそ面倒だから手短に話すとだな、わけあって俺はここをいじれるんだ。んで――」
驚く新米どもの傍ら、三人乗っても大丈夫な【突然の階段!】を案内しつつ説明を始めた時だ。
「おお、なんてもん立てるんだか……それよりじゃ、そこのガキどもが依頼を受けてくれた奴ららしいの?」
スパタ爺さんがアスファルトに根付いた段差に驚きを交えてやってきた。
依頼を受けた連中がよもやこうも幼い見てくれなことに少し不安そうだ。
「この人が依頼主のスパタ爺さんだ。ガキだらけなのは等級なんでもありにしたからだと思うぞ」
「ガキとは失礼な、我々はれっきとした冒険者の一団。名はまだない」
「そりゃ悪かったのちっこいエルフ。わしが今回の依頼主のスパタじゃよ、よく来てくれたな。他の連中はまだ来んのか?」
一方で「ガキども」呼ばわりに白髪チビエルフが不服そうだ。
けれども依頼主と聞けば見方も変わったらしい。
「ちっこいエルフとはまた失礼な、私の名はオリス、チビではない。他の参加者は逐次来ると思う」
「そうかそうか。まあ集合時間「昼前」って超適当に書いたからの、それくらいクソ真面目にならんで今回の仕事を受けとくれ」
「依頼書の節々に怪しいものを感じた。しかし報酬額には勝てなかったよ状態」
「なあに、別に死ぬほどこき使ったり死ぬような目には合わせんさ。仕事ぶり次第で追加の報酬もありゃ、今回のメルタは市からもちゃんと出とるもんじゃよ、何か分からんことがあったらわしかイチにでも聞くとよいぞ」
さっそく依頼主と冒険者らしいやり取りが続いた。
こいつらは仕事の云々よりもはっきりした報酬に目がくらんでるようだ。
それから、なぜだかスパタ爺さんの太い親指がこっちに向いて。
「んでな、ご覧の通りこやつはちょいと訳ありでここをいじれるわけじゃ。今回この土地をあれこれいじるついでに、お前さんら冒険者にはここ【アサイラム】で活動してもらいたいんじゃよ」
大学生二人やらリスティアナにもよく伝わるように説明をし始めた。
ついでに俺たちにもだが。お呼びになった理由は大体察せる。
「俺をお呼びになった理由はまさにこういうことか?」
話が今現在いるメンバーに広がったところで俺は階段を【解体】した。
がらんと分かりやすい音を立てて一瞬で消えた、消費した資源も還元だ。
スパタ爺さんはまたも驚く面々を差し置いて、まあ当然のように頷き。
「色々報告して話し合った結果、市とリーゼルの奴の意向でここらの土地をひとまずは【白き民】が近寄れない程度には拓いてほしいとのことじゃ。ま、要はトンネルを抜けた先をもっと安心できるようにしといてくれとさ」
「トンネルの次はここの開拓か」
「んでな、お前さんが好き放題にできるとなればもうこの土地は実質お前さんのものみたいなもんじゃろ? つーことはここアサイラムを管理する責任やらも出てくるわけじゃ」
「話が読めてきたぞ、次はそろそろ「ここに街作れ」か?」
「いやんなもん荷が重すぎるじゃろ。ところが向こうはこれを機に壁の外を開発するのもいいという話の流れでな、つまりお前さんに期待がかかり始めとるってことじゃよ。この件はトンネルを手に入れたわしらが主体ってことになっとるがのう」
「まさか行きつく先は「土地くれてやる」あたりになりそう?」
「魔法が効かん身の上考えてみんか、開拓者アバタールおかわりじゃぞ。そういう期待で話が盛り上がっちまっとる」
「ワーオ、嫌な考えが当たった」
もうそろそろで「ここはお前さんの土地」とでも言いたげだ。
フランメリアを開拓した未来の俺に続いて、今の俺がすべきことはこの望まぬ転移物の面倒を見ることらしい。
「どーせ逃れられんと思うし、ならいっそ今のうちに土台でも作っちまおうぜって話じゃよ。なあに、ドワーフがそばにおんのが幸運なことじゃ、わしらがいろいろ教えてやっから共に拓かんか?」
「先にいろいろやっちまえ、ってやつか」
「最悪できたもんは市長かリーゼルに任せちまえばいいんじゃよ、どや?」
スパタ爺さんは親しく――ついでにいいおもちゃが土地一つ分手に入ったように期待してくれてる。
周りを伺うに「どういうこと?」を煮詰めたようなどよめき方だ。
ここを生かすも殺すも俺次第、そんなものを感じる。
「クラングルとドワーフにはいろいろ借りてばっかだ、今日も返すとするさ」
いや、いいさ、やってやる。
知らないことだらけでパンを焼いて戦えるぐらいしか取り柄はないけど、このシステムにあやかって楽はできるはずだ。
「二つ返事かよ」と笑ってるタカアキも末永く付き合ってくれるだろう。
「よう言ったイチ、お爺ちゃんたち張り切っちまうぞ」
「ちなみに本音を言うと?」
「わしらドワーフの手柄を立てて自慢したいし未開の地の資源が欲しい!」
「よし、正直に言ってくれてありがとう。何すればいい?」
「とりあえず他に建ててほしいモンあるからその通りに作ってくれんか? ほれ、分かりやすいように図面も書いてやったぞ」
乗ってやった。すると爺さんは快く紙を何枚か差し出してきた。
わざわざ「折り紙の折り方」みたいに簡略化した手順を描いた一戸建ての設計図だ。
一枚一枚を見ていれば、やがてタカアキも顔を突っ込んで。
「俺も手伝うぜ爺ちゃん、何ができるか大体知ってるからな」
「お前さん詳しいらしいからの。とりあえずできることならここにインフラ築きたいんじゃが、そういうのできちゃう?」
「ちょうどよくそういうシステムがあるんだよなあ。それに電力もあるなら近代化も夢じゃないだろうよ」
「お膳立ては揃っとるわけじゃな! よおし、まずここらの居住性から始めんぞ。フェンス周りの防御は後、ひとまず活動しやすい場を作るところからじゃ」
二人して楽しそうに「やるぞ」と腕を引っ張ってきた。
開拓しがいのある、逆に言えばなんにもない【アサイラム】は楽しい砂場に見えてるはずだ。
「今度は土地の開拓か……俺の人生はどこに行こうとしてるんだろうな、タカアキ」
「明るい未来へ向くかどうかはお前次第だ、まあ楽しもうぜ。そいつがありゃ何だって作れるんだからな」
「わはは、少なくともドワーフ族の未来は明るいぞ。他の奴らはとりあえず好きにしとれ、頭数が揃い次第説明すっから適当にくつろぐとよいぞ」
戸惑うみんなを傍らにハウジング・システムのメニューをなぞった。
土地一つの持ち主に対して「好きなように」と細かい注文が並んでる。
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