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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
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10 アサイラム・タウン

『でけえロボットあるとかマジかよ! これ乗れるのか……!? おいキリガヤ、中身どうよ!?』

『シナダ先輩! これはすごいぞ! ちゃんとコックピットもある! 人が乗れるタイプのロボットだ!』

『なんだって!? ははっ、まさか生きてるうちにこんなロボットお目にかかるなんて嬉しいぜ!』

『ウェイストランドにはこんなものまであるのか! 元の世界よりずっと進んでるな!』


 忘れられたウォーカーの上で大はしゃぎする二人がいた。

 さっきから牛鬼の残骸に釘付けなシナダ先輩と、周囲の偵察がてら機体の中を探検するキリガヤだ。

 職務も忘れる二人にタケナカ先輩の背が「はしゃぎやがって」とそろそろ呆れるのが遠目に見える。


「これって、どこかにあった住宅街……なのかな? ほんの少ししか転移してないみたいだけど……」

「どっかからつまみ食いしたみたいな転移の仕方だな。その上で残されたメッセージがテュマーへの罵倒ってことは、ここに来る前からさぞ廃れてたのかもな」

「もう人が住めるっていう状態じゃないもんね。家は全部崩れてるし、そのあたりにある車も全部はぎ取られちゃってるし……」

「路上の車がはぎとられてるってことは、世界が崩壊して騒がしくなった後にも住んでくれるやつがいたんだろうな。さっきのテュマーへの誹謗中傷がそうだ」

「じゃあ、その人たちは……?」

「立地条件が身体に合わなくてご退場したんじゃないか?」


 そんな世紀末世界から切り抜かれた小さな住宅街を相棒と歩いて眺める。

 骨までしゃぶられた車の残骸や、焦げと錆びにやられた住まいが、剣と魔法の世界で終末感を漂わせてる。

 おっとりした顔が複雑な眼差しだが、ここはまだ数件ほど無事な家があるらしい。


「まだ、テュマーがいたりしないよね? それが心配だよ……」


 ミコはまだ緊張が抜けない様子で杖をぎゅっとしてた。

 こうして隣にぴったりな俺だってそうだ、突撃銃から手が離れない。


「ぞろぞろ押し掛けて、しかも牛鬼ではしゃいでるやつらがいるのにお出迎えがないってことは……マジでもぬけの殻なのかもな」


 地上を発見して少し経つが、俺たちは【アサイラム】と名乗るここを探ってる。

 待機してた連中も続いてすっかり転移物観光だ。

 外側の調査はクラウディアとサイトウに任せたが、今はまだ悪い知らせはない。


「……そうだといいんだけど。ところでニクちゃんとセアリさん、大丈夫かな? 建物の中を見てくるって言ってたけど、崩れそうで危ないよ……?」

「生き埋めになったらドワーフの爺さんもいるし、ショートコーリングの出番だ。その辺信頼して行ってくれたんじゃないか?」

「あんまり無茶してほしくないんだけどなあ……」

「ありゃ無茶っていうか好奇心だぞ。楽しそうに探検いきやがって」

「あはは……確かにそうかも? 二人とも尻尾ぱたぱたしてたもんね」

「犬の感覚は俺たちより鋭いからな。こういう時に頼るのが一番だ」

「うん、そうだね……って待っていちクン、セアリさん犬じゃないからね!?」 

「犬も狼もあんまり変わらないと思う」

「セアリさん、犬とか言われたら怒っちゃうタイプだから気を付けてね……?」


 徒歩で一分足らずの奥深さを踏んでいると、風通し抜群な一戸建てに触れた。

 ちょうど玄関から犬耳の二人がぽてぽて出てきた。尻尾をゆるく振ってる。


「ん……きれいに漁られてたね」

「ものの見事に持ってかれてますね……でもセアリさん、廃墟探索ってわくわくしちゃいます」


 強風でも吹けば崩れそうな構えからニクとセアリがお帰りだった。

 その足でこっちに手土産だ――ずいぶん分厚い本が見付かったらしい。


「どんなご家庭だった? テュマーご一家のご遺体とかなかったか?」

「おかえりなさい。中にテュマーとかいなかった? 大丈夫?」

「敵はいなかった。でもこんなの見つけた」

「目ぼしいものはことごとく持っていかれてますね、腹立たしい程ゴミだけ残されまくりです。せいぜいニクちゃんが見つけたその小難しそうな本ぐらいですね」


 崩壊寸前のクソ物件には誰もいらっしゃらないようだ。

 わん娘の手には【苦しい時こそ自給自足!】とある。

 表紙には知らない一家が生きづらい世の中に抗うようにスローライフ中だ。

 ただし数百ページ以上のうんざりする質量で。こいつはスキル本みたいだ。


「この妙に気になる絵柄と題名は間違いなくスキル本だな、グッドボーイ」

「んへへ……♡ 耳のあたりがいい……♡」

「妙にきれいだし、スキル本みたいだね。っていうか、なにこのイラスト……みんな遠い目で畑耕しててなんか怖いよ……」

「まったくだ。すげえ仕方なさそうに田舎暮らししやがって」


 現代文明に嫌気がさしたような一家の構図はともかく、こいつを読めば何かスキルが上がるはずだ。

 そう思って手にかけるも、ニクのジト顔やミコの柔らか系の表情、そしてセアリが「なんですかそれ」と言いたげなのが気になった。


「……待てよ。みんな、ちょっとこの本見てくれないか? 読み流す程度でいいから」


 ふと思った。Slev(スキルレベル)に経験値を与えるスキル本を他人が読めばどうなる?

 唐突だけど実験だ。ニクに渡せばさもつまらなさそうに読んでくれたが。


「もしかして……わたしたちも読んだらスキルが上がる、とか?」

「まさにその通りだ。ちょっと付き合ってくれないか?」

「いやどういうことですかいち君、スキルが上がるって何事なんです?」

「あっちのゲームのシステム上というか、俺の体質上というか、こういう特別そうな本を読めばスキルレベルが上がるんだよ」

「何それずるいんですけど!? ということはなんですか、その本を読めばもしかしてセアリさんたちも上がるとでも?」

「厳密にいえば経験値が入るシステムで……まあとにかく本を読めば即効性で賢くなれる。じゃあ他の奴はどうなんだっていう俺の疑問だ」

「わたしもちょっと気になっちゃうな……? た、試してみるね……?」

「ん……? 読めばいいの?」


 みんな引き受けてくれた。クソみたいな表紙のそれをぱらぱら眺める。

 「なにこれ」といいたげな顔から読み解けるそうだがすぐ閉じてしまい。


「どうだ?」

「……ねえ、この本おかしいよ。爆薬や武器の作り方とか、破壊工作とか危ないことしか書いてないんだけど……」

「戦いのことばっかり書いてる、なんだろうこの本」

「いやどこがスローライフなんですかこれ、ものすごく物騒なことしか書いてないんですけど表紙詐欺じゃないですか!?」

「いや本の感想じゃなくてだな……じゃねえよどうなってんだそれ。スキル上がったか?」


 見事に本の絵柄を裏切る何かがあったらしい、ともかく三人ともステータスを確かめてくれた。

 結果は「NO」な首の振り方だ。わん娘からミコまで変化はないらしい。


「……何も上がってないけど?」

「わたしも上がってないね……っていうか何が上がるのかな、これ」

「……ほんとにそれでスキルが上がるのか疑問ですよセアリさんは」

「俺もこいつにそろそろ疑問形だ。もしかしてスキル本じゃなかった説浮上中」


 なので俺も読んでみた。中身は――「政府に抗え、権力者を吹っ飛ばせ」だ。

 爆発物の作り方から手製の武器までが効果的な使い方を込めて紹介してあった。

 ワーオ、あっちのスローライフは過激らしい。


「いや……上がったな、【重火器】スキルに経験値入ってる。繰り返し聞くけど上がってないか?」


 唯一の救いは【スキル上昇!】と通知があったことか。


「上がってない。ご主人だけなのかも」

「ほんとにスキル本だったんだね……もしかして、本で上がるのはいちクンだけなのかな?」

「物騒なスキルですね!? っていうかこんな変な本で上がるとか大丈夫なんですかいち君のステータス!?」

「俺もG.U.E.S.Tの作者に聞いてやりたい気分だよ」


 なるほど、三人の反応からしてスキル本の恩恵を得られるのは俺だけか。

 おかげで【重火器】がSlev5から6、擲弾兵の特殊PERKで実質8だ。

 他に得られるものもなし、ならば四人で廃屋を一つ離れていけば。


「……おい、貴様はさっきから何を探しているんだ?」

「いやね、あっちの世界の民家って意外と地下室とかあるもんなんだよ。もしかしたらどっかにあるんじゃないかって疑ってんだけどよ」

「そういえばあの屋敷もあったよね、でっかいのが……」


 ちょうど汚い家宅捜索を終えた三人がいた。

 収穫無しなエルと、家周りをぐるぐる探るタカアキにサボるフランだ。

 こっちに気づくと幼馴染も諦めがついたようだ。ご挨拶に本をパスした。


「そっちも何もなしって感じか?」

「みんな何もなさそうな感じだね……異常はなかった?」

「半分ほど崩れてるせいで調べようがないのもあるが、敵も目ぼしいものもなしだ。そっちは?」

「わん娘二人が見つけてくれた本以外はゼロだ」

「ちょっと誰が犬ですか! セアリさんワーウルフですからね!」

「本が一冊か。だがなんだその、生気の抜けた家族が描かれた気味の悪い表紙は」

「あっちの世界の本だねー、どん底スローライフみたいなイラストだけどどんな本なのさ……」

「表紙詐欺だ」

「知らない方がいいと思います……」


 ケツのデカいヒロインの抗議はさておき、タカアキは分厚いページになんだか嬉しそうだ。

 ぺらっとめくれば、俺の意図に気づいてくれたのかステータスを確かめつつ。


「この見覚えのある本って【重火器】スキル上げるやつじゃねーか。本物読めるとか嬉しいぜ」

「やっぱご存じだったか、タカアキ」

「ああ、スローライフ暮らしに見せかけたやべえ本だって説明文にあったからな――すっげえ、肥料で作る爆弾だ。エコだねえ」

「待て、爆弾ってどういうことだ!?」

「ほんとにどんな内容!? うわっなんか団長が思い浮かべてたんと違う!」


 本人の仕草は「だめだわ」だってさ。

 俺とスキル上昇の喜びを分かち合える相手はいないみたいだ。


 さて、他の様子は――?


 賑やかになってくミセリコルディアと幼馴染から少し離れてみた。

 残された家屋を探れば、そこにいい加減ぺしゃんこになりそうな家がある。


「おお、イチ。こっちはお宝があったぞ!」

「腹立つがこういう時ドワーフボディが役に立つもんじゃな」


 中からスパタ爺さんたちが埃まみれで這い出てきた。

 そいつらのいうお宝は、お高そうに勿体ぶった琥珀色の酒瓶だ。

 たっぷり年月を経た液体がとろりと踊ってる。そりゃ二人も嬉しいだろう。


「おかえり。ドワーフ基準からすればお宝かもな」

「150年以上熟成したくっそ高そうなウィスキーがあったぞ、こいつは大当たりじゃ」

「地下で待機しとるやつらにゃ悪いがわしらで半分こじゃぞ。内緒なお主ら?」

「楽しそうだな爺さんたち」

「ウェイストランドを知って良かったことは、あっちの環境じゃ長く熟成された酒がよく見つかることじゃよ。お前さんに乾杯」

「うわっはっは、魔法で熟成されたもんよかこっちのが百倍うめえからな。素敵な出会いに乾杯じゃ」


 というか「しーっ」と一刺ししてから、さっそく蓋をあけてしまった。

 お味はうまかったらしい。驚いた顔で「いいなこれ」と見つめ合ってる。


「……今のところ異常なしってか。サイトウ達が気になるな」

「ん、街の中は安全だね。本当に何もないみたいだけど」

「そうだな、問題は外だ。敵がいるかもしれないし、そもそも転移してきたのがここだけとは限らないわけだ」


 こうして見る分には【アサイラム】に異常はない。

 なにせテュマーもいないほどに廃れてる程度だ。

 道路を辿ればすぐに森とご対面するような、大自然の中に取り残された廃墟である。

 他に転移物は? 何か怪しい奴は? さっきからずっと気がかりなのだが。


「……ふむ、この辺りにもマナが満ちているようだ。この薬草の広がり方からして豊かな土地であることは間違いないだろうな」


 折よく森へ踏み込める手前あたりで、大地をいじるコート姿があった。

 こっちに横顔を向けて草いじり――じゃなくて、真剣に目ぼしい植物をぶちぶち抜き取るクリューサだった。

 なんていうか、あっちの世界を生き抜いてきたお医者様がそこらの草と面と向かうなんて変な姿だ。


「草むしり中失礼、地面に触診してなんかわかったか?」

「お前か。草むしりの結果についてだが、このあたりはマナが満ちてるぞ」

「なんで分かるのかまで聞いた方がいいか」

「お前に分かりやすく言えば、このような環境下でよく育つ薬草がそこら中に生えているということだ。雑草よりも強く育つということは、土壌にマナが多量に含まれてる証拠だ」


 あいつは医者的に薬草にあたる何かをこっちに差し出してきた。

 そこらで逞しい雑草……じゃなく、丸っこい葉を実らせた真っ青な茎だ。

 なんていうか、俺には突然変異して縮こまったセロリにしか見えない。


「次の質問は「食べれる?」あたりでいいか?」

「そうだな、お前の期待通り食えるぞ」

「期待しちゃいなかったけど食えるのかよ」

「こいつはまるでルバーブを縮小したようなものだが、感覚を研ぎ澄ませる成分が含まれてるハーブだ。お前は【リフレックス】を覚えてるか?」

「ディアンジェロの件でしっかりと」

「あいつの名を出すな馬鹿者。だがこいつはすごいぞ、成分を抽出するなりして少し手を加えればあのドラッグが作れるからな。この世界じゃ気つけや喉の渇きを潤す便利な植物として親しまれてるそうだ」


 しかしクリューサが饒舌になるぐらい有用な草らしい。

 現にお医者様は抜きたての茎にむしゃりとかぶりついた。

 しゃくしゃくと水気の多い音を立てながらだ。食いやがったよこいつ。


「……だからって実際に食っちゃう?」

「お前の心配は薬物的な効能が出ないかどうかか? 残念だったな、噛む程度じゃ少し気分がすっきりする程度だ」

「ご親切に説明どうも」


 そして良く噛んだ末、ぺっと吐き出されたようだ。

 そういえばプレッパーズで訓練を受けてた時も「水分を含んだ植物を噛んで喉を潤せ」とか習ったな。

 懐かしさからついかじれば、あんずの香りのする冷たい繊維質から甘酸っぱい汁が溢れてきた。

 ついでにニクにもすすめた。しゃくしゃくいい音を立ててる。


「意外とうまいなこれ!」

「んん……あまずっぱくておいしいかも」

「――何食べてるんすかお二人とも」


 わん娘としゃくしゃくしてると一声かけられた。

 振り向けば埃まみれのロアベアだ、崩れかけの家屋を探ってたらしい。


「なんか甘酸っぱいハーブだ。食べる?」

「意外とおいしい。食べる?」

「レインロッドじゃないっすか。MGOにいた頃、金策でよく集めてたっすねえ」


 ところこの青い茎に何か存じてるご様子だ。

 知らない名称を教えてもらえば「食べるっす」としゃくしゃく言い出した。


「レインロッド? こいつの名前か?」

「そっすよイチ様ぁ、なんかこー、ポーションの材料とかになる薬草っすね。よく街で買い取りがあったんで稼がせてもらってたっす」

「クリューサがまさにそんな感じのこといってたぞ」

「あひひっ♡ 流石クリューサ先生っすねえ、お目が高いっす~」

「あいつこの世界に来てからなんか生き生きしてるよな」

「向こうよりも緑豊かな分、おクスリの材料には困らないからじゃないっすか?」

「だからって投げて使うタイプもポーションなんて作るか? ところであれって作中に出てたアイテムとかじゃないよな?」

「手榴弾みたいなポーションなんてなかったっすねえ……オリジナリティあふれるアイテム作っちゃってるっす、さすクリュ!」


 意外とうまいハーブを三人でしゃりしゃり噛んで喉を潤してると、向こうの森の様子に変化があった。

 褐色肌と前髪隠れの二人組が手を振ってる。偵察から帰ってきたか。


「戻ったぞ! ざっと見回ってきたがそれほど大きな森じゃないみたいだ!」


 クラウディアの明るい声もやっと届いた。サイトウを連れてのお帰りだ。


「見回りご苦労さん、なんか嫌なものは見つかったか?」

「濃い森だがさほど深い場所というわけじゃなさそうだったぞ。まあ転移した土地にくりぬかれたせいもあるんだろうが」

「ただいま戻りました。とりあえずぐるっと見回してきましたが、妙なものが見つかったんですよね……」

「なんかあったか。その妙なものっていうのは悪いニュースだと思うか?」


 ダークエルフと前髪隠れボーイの報告を聞くなり画像を送られてきた。

 サイトウからの着信だ――確かに妙なスクリーンショットがある。

 フェンスに囲われた斜め向きの人工物が、濃い森の中で狭苦しそうにしてる。


「人工物があったんだ。間違いなくウェイストランドのものだと思うんだが、どう思う?」

「ソーラーパネルみたいなものが置いてありました。それにしては真っ黒だし、こんな風に植物に覆われて詳しくは分からなかったんですけど」


 なるほど、確かにファンタジー世界には不向きな様子なこった。

 しかし伸びるケーブルやら置かれた機械に、二人の説明を交えるに――


「……そうか、こいつは【ブラックプレート】を使った発電所だな。ドワーフどもの言っていた電力供給源というのはこいつのことかもしれんぞ」


 いつの間にいたのやら、クリューサが人の左腕を覗いて説明してくれた。

 黒い影で分かりづらいがあの発電用のプレートだ。

 キッド・タウンの空港にもこんな感じで並んでたのを良く覚えてる。


「そうだな、こいつは確か発電施設だ。お医者様目線でもこういうんだから間違いないぞ」

「おお、じゃあこれが爺さんたちが言ってたやつなんだな?」

「……もしかしてこれが地下の電力を賄ってたっていうやつですか? それにしてはずいぶん小さいような気がするんですが」

「ブラックプレートっていう……なんかこう、太陽の光をすっごい電力に変換するやつがあるんだよ。詳しくは爺さんたちに聞け」

「おー、確かこれって無人兵器の装甲にも使われる……なんかこう、すっごいやつっすね。なんでこんなのあるんすか」

「こいつらの話の省き方を補うなら、これはとてつもない発電量と耐久性を誇る過ぎた代物だ。一枚あるだけでこの世界のバランスを崩せると思え」

「あれが地下交通システムに電力を送ってたんですね……そんなすごいものだったなんて信じがたいんですが」


 気になるのはそれくらいか、ところがサイトウが「あっ」と一声挟んで。


「そうだ、気になることが一つありました」

「どうした」

「だいぶはずれのほうですが足跡があったんですよ。何人かまとまって動いた痕跡がところどころあって、踏みつぶされた草木がけっこう目立ってました」

「サイトウが見つけたんだぞ! 数人程度の集団があちこちに足跡を残していてな、この廃墟の周りをうろつくような感じだったぞ」

「足跡だって? 敵か?」

「分かりません、一応俺たちで追いかけてみたんですが……」

「ここ【アサイラム】を探るようにうろうろしてるようだったぞ。森の外からやってきたみたいだがな」


 どうも不信感のある痕跡を見かけたらしい。

 「もちろん撮影してきましたよ」という感じで指を走らせて。


「これを見てください。さっき見かけたんですが、けっこう不用心に残してあるんですよね……裸足じゃないのは確かです」

「この形状と埋まり方は足鎧によるものだぞ。フランメリア、それもクラングル周辺でこういう防具を着ける者は限られてると思わないか?」


 クラウディアの説明も混じれば、そこに確かに証拠があった。

 露出した地面にお堅そうな足跡が記念のスタンプのごとく残ってる。

 思うにこいつは、革靴にしちゃ重たすぎるし深々としてる。

 通りすがりの一般人やテュマーあたりじゃないのは確かだ。

 

「足鎧なんてつける方は冒険者ぐらいっすねえ。それか……」


 ロアベアは気づいたような顔だ。

 そうだとも、防具をつけるなんて俺たち冒険者みたいな連中か……。


「……もしかして、白き民?」


 ニクから続く言葉がオチだ。そんな風に武具を着飾るのは白き民である。

 でも困ったことに、あいつらはでかい図体のくせに俺たちと足の大きさがけっこう似通ってる。

 そうなると画像に浮かぶサイズ感から白黒つけるなんて難しいはずだが。


「白き民かもな。同業者だったら誰かしらが「こんな廃墟があった」ぐらいの土産話を持ってきてるんじゃないか?」

「かもしれませんね。俺たちもこの世界に慣れてきたとはいえ、容易くクラングルを離れて遠出するのは大変ですからね……白き民と思った方がいいかも」

「私たちで判断するのはまだ早いぞ、先に情報をみんなで共有してからだ。まあ用心するに越したことはないだろうさ」

「……いろいろな匂いが混ざってて、敵かどうかわかりづらい」

「うわ~気になるっす……これからどうするかお早めに決めた方がいいっすねえ、皆さまに報告しにいくっすよ」


 ここにある廃墟を探索して「はい終了」といかないか。


「なんにせよここには来たばっかだろ? これからとんでもない事実が続々と判明するかもな。まあとにかくドワーフの爺さんたちに報告しにいくぞ」

「そうですね、警戒は怠らないようにしておきます。ところであの……イチはさっきから何食べてるんですか?」

「む、レインロッドを食っているな。こいつは甘酸っぱくておいしいんだぞサイトウ、お前も食ってみろ」


 俺はレインロッドをしゃくしゃくしつつ、後ろの道路を目で辿った。

 酒瓶片手のドワーフに付き合うミコとタケナカ先輩がいた。話し合うにはいいタイミングだ。


 ◇

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