82 『白殺し』に『病殺し』
実際に45-70弾を拳銃とかで撃つとよっぽど慣れてなかったりイキって片腕で撃とうものなら手からすっとぶぞ!気を付けようね!
ドワーフが来てからというものの、またクラングルは変わった。
最初は俺たちの職場がそうだった。
建物の古さを新品同様まで修繕しつつ、ところどころで配線工事が進んだ。
長年雨風を相手にしてた屋根も新品に換えられ、太陽光発電システムもついでで取り付けられた。
無人兵器由来の【ブラックプレート】の黒さがこの世界の青空から高効率の電力を生み出すわけだ。
ドワーフがあの手この手で機能性を良くしていけばギルマスも当然頭を抱えた。
でも「何を勝手に」とミノタウロスらしい大声を出せなかったのが現実だ。
地下の調査と並行して、相応の費用が掛かる工事を無償でこなしてくれる。
地元民に求められれば喜んで一仕事しに行く――などと街へ貢献してたからだ。
それどころか「人手が足らん」と冒険者を雇いだすぐらいだった。
世紀末世界帰りで豊かになったドワーフ族の財政に市と国からの支援もあれば、いい金払いが俺たちに回ってきた。
少し付き合えばそこそこのメルタをもらえるとなれば、いい具合に金が巡るシステムに誰も文句は言えない。
冒険者を連れてひと働きしてくれるちっちゃなおじいちゃんどもに、クラングル市民はにっこりである。
「なんかセアリさんの知らないうちに一気に文明レベルが上がってますね……何事なんですか、この唐突な技術革新は……」
そんな著しい変化をさっそく目の当たりにするワーウルフが一匹。
ミセリコルディアのケツがでか……(自称)清楚担当は、廊下越しに見える作業場をじっと伺っていて。
『地下トンネルが壁の向こうまで南下しとるわけじゃろ? じゃったらいったん地上をまっすぐ調べてここへの繋がりを探るのがいいかと思うぞ、わしゃ』
『でもぱっと見愚直なまでまっすぐってわけじゃなさそうじゃったしー? それにここフランメリアじゃからな? 口で言うのは簡単じゃが実際はけっこうなコストかかると思うぞい』
『空飛べる奴を雇って空中から調べさせるってのはどうだ? 地べたで地道にやるよか安上がりだろ?』
『かといって変に危険な場所を見つけて、若造や嬢ちゃんたち危険に晒すのもちとあれじゃからなあ……わし地下から攻めたい、ドワーフじゃし』
『つか地下の構造がどうなっとんのかすっごい気になるからわしもトンネル攻略推しな』
『市から地下スーパーの所有権もらう交渉はどうなっとんじゃそういや、あそこわしらの住まいにするプラン温まっとるんじゃぞ、あっつあつじゃぞ』
『クラングルにドワーフ要塞Mark2作ったるわ絶対、見とれよ先代の無念晴らしたるわ』
『まあ落ち着けよお前ら、その話は俺たちが市民の信頼を勝ち取ってからだろ? 今は地道に地盤を固めるところからだ、いいな?』
『そうじゃ、EVカートとか言う電動のトロッコみたいなのあったじゃろ、探索の際にあれ改造して活用するのはどうじゃ? どうせ奥にテュマーおるぞありゃ』
『トンネルにはイチのやつぶっこむとしてどう調べるか段取り決めんとなあ……』
『なんかおってもあいつぶっこめば大体くたばるじゃろうし、そのあたりの心配はいらんじゃろ別に』
イヌ科動物の瞳が向かう先で、作業台を囲んだドワーフどもがあれこれ話してた。
ファンタジーな背丈に不釣り合いなをタブレットを駆使して、今も現代技術を惜しみなく活用してるらしい。
「あれがミコの言ってた、ウェイストランドから帰ってきたお爺ちゃんなのかな? ドワーフっていうと、もうちょっとファンタジーな格好して蛮族みたいなイメージあったんだけど……」
「うん、すっかりあっちに染まっちゃってるね……お爺ちゃんたち」
「みんな銃持ってるしタブレット使いこなしてるしどーなってんの……? 団長びっくりだよ、みんな近代化しちゃってるもの」
フランも赤い尻尾をゆらゆらさせつつ、作業室の濃厚なやり取りをじっと眺めてる。
下手したら転移した連中よりもずっと先進的な爺ちゃんたちは、ここを拠点にあれこれ並行して忙しそうだ。
「本物のドワーフというのを見るのは初めてなんだが、もっとこう……堅物な職人をイメージしていたぞ。だいぶ私の思っていたものといい意味で違うというか……」
「トラブルは起こさないような人たちだぞ、ドワーフの爺ちゃんは考え方がスマートだし人がいい奴ばっかだから」
「貴様が言うならそうなんだろうが……いや、というかこうも冒険者ギルドを勝手に作り変えてしまっていいのか? ギルマスが苦い顔をしていたんだが」
ドワーフの珍しさにつられたエルも興味深そうだ。
きっと『無口融通効かない自尊心デカい』あたりが待ってると思ったんだろう。
実際は俺の良く知るいつものノリのいいお爺ちゃんたちである。
「そいつの言う通りわしらは無駄に堅物でもないし、暗いとこで鉱石掘りに明け暮れとるわけじゃねーぞ、トカゲの姉ちゃん」
「残念じゃったな、そりゃアナログなイメージじゃよ。別にお日様浴びても石にならんから安心せい」
「ちなみにわしらは市と国の要請で来とるぞ。そうするにあたってここをいじくってもいいことになっとるし、ついでに街の者どもの力になるよう頼まれとっからな」
「だってさ。爺ちゃんならギルドぶっ壊したりしないから気にするな」
「ならいいんだが、だからって鍛冶場を増設するのはやりすぎじゃないか……? あと誰がトカゲの姉ちゃんだ」
「ちゃんと近隣住民のこと考えて冷却システムとか防音への配慮も組み立てとるから心配いらんぞ。まあ里で考えたのをここで実地試験させてもらっとるだけじゃが、いい試験場じゃなクラングルは」
「お前さんも工房できたらちょっと来てみろ、得物見てやるからな」
「そういやキッチンできたけどまだ内装足りんな、地下スーパーにあった家電でも置いとかんか?」
「……あのドワーフたち、今試験場だとか言わなかったか?」
「俺たち毎日試されてるようなもんだし別にいいだろ」
ドワーフ観察に感づいたご本人たちが通りすがりにそう申し上げるぐらいだ。
向こうには誰が頼んだのか、一部屋丸々改造されて生まれたキッチンがある。
配管工事すらも済ませて好き放題やってるが、ギルド支部もドワーフ一族の寿命分保証がつくはず。
『――で、どうじゃタケナカの。ちっとは使いやすくなったじゃろ?』
働く姿を傍らに集会所へ向かえば、待っていたのもドワーフだ。
周囲の視線を浴びながらだが、坊主頭な先輩が一振りの剣を手渡される場面で。
『ああ、振りが違う。手ごたえも前より力がこもりやすい気がするが』
『そうか、分かってくれたか。お前さんの腕にあわせて柄の長さをちょいと削って、刀身の先端もいじってやったぞ』
『ほんとは工房ありゃ、ちゃんとした加工ができるんじゃがな。でもいいもんじゃろ? 腕を広げやすくなっとらんか?』
『無駄な重さがなくなってるっていやいいのか? 同じ得物とは思えんな……』
『白き民のやつらは持っとる武器を細かくいじらんからの、こうやってちっと調節すれば化けるもんじゃよ』
『よっしゃ、ちょっと試しに行くぞ。ついてこいタケナカの』
タケナカ先輩の手の中で白き民の落とし物がだいぶ姿を変えていた。
必要以上にあったような刀身が削ぎ落とされ、鋭く太い切っ先がある。
握りも樹脂のものにパラコードを巻いたウェイストランドらしい滑り止めだ。
最初はあらぬ姿で帰ってきた得物を訝しんでたようだが。
『……こいつはいい。大胆にいじってくれて心配だったが、むしろこれくらいが俺の身の丈にあってるかもしれねえな』
厳つい顔つきは満足げに練習の場へ連れてかれた。
気になる同業者たちもぞろぞろついていけば、道中先輩が「いいだろ」と鞘越しの得物を掲げるぐらいだ。
「ふふっ、お爺ちゃんたちあいかわらず腕を振るってるみたいだね?」
「安心したよ、ウェイストランドより生き生きしてやがるからな。俺たちがスティングにいた頃みたいだ」
「うん、あの時ほどじゃないけど忙しそうにしてるよね、みんな……」
「これくらいでちょうどいいのかもな、爺さんたちは。いやだからって戦車でここまで押しかけるのはやりすぎな気がするけど」
「……ていうかあの戦車、確かいちクンが撃破したやつだよね」
その足で集会場まで押し掛けると、窓からミコが懐かしむような戦車が見えた。
そ外で建物のそばを陣取るあの戦車だ、砲塔やらが変わってるけどスティングで思い出を作ったやつである。
「だよなあ……まさかこんな形で再会するとは思わなかった。ライヒランドの怨霊とかついてないよな?」
「怨霊……!?」
「そういうの持ち帰ってたらお祓い頼むぞ、お前の出番だミコ」
野郎どもでやかましく衝突事故を起こした挙句、乗り込んでぶち殺したあれだ。
爆殺された幽霊がへばりついていないか不安だ。いたら魔法で消してもらう。
「ちょっと待て貴様、戦車を撃破とはどういう意味だ……?」
しかしばっちり聞かれたらしい、エルが俺とあの戦車との関係性を疑ってる。
おかげでミコと「どう説明しよう」と悩んだ。
車長じきじきに直接乗り込んでぶち殺した、なんていえば早いだろうが。
「中の人に譲ってもらった」
ご一緒した自警団の奴やら、放火魔に爆弾魔に社長というひどい顔ぶれを思い出して答えた。
ついでにボスの「なにしてんだお前」という嫌な顔が懐かしい。
「ゆずっ……!? おい、ミコ!? こいつはまさか戦車と戦っただとか言わんだろうな!?」
「……何も言わなくていいかな、エルさん」
「いやそれもう答えになってますからねミコさん!? なにしたか知りませんけど戦車相手に勝ったっていうんですかこのパン屋さん!?」
「これいち君がやった系の言い方だよセアリ……そりゃあのでっかいゴーレム倒すもの、これくらいやっても団長疑えないよ……」
「こうしてまた元気な姿を見れるとは思わなかったよ。まあ前の持ち主までは連れてこれなかったみたいだけどな、どこいったのやら」
「笑顔で恐ろしいことを言うな馬鹿者!?」
ツーショット、お前たちのおかげでミコのお友達がドン引きしてるぞ。
スティングの戦いをしみじみ思いながら集会所へ入ると。
「お爺ちゃんたち生き生きしておられるっすねえ……」
「そりゃあわしらのホームグラウンドたるフランメリアで好きなことして暮らせとるんじゃし?」
「そういやお前さん、リーゼルのとこで働いとるメイドか。なんでこんなとこおるんじゃ? 芋魔女のお守りか?」
「暇そうなメイドってことで冒険者兼業させられてるっす」
「暇そうなメイドってなに? ええのかそれって……」
「あいつは昔から変な人材ばっか集まっとるよな……」
入って間もない席に知ってるメイドとドワーフがいた。
ニヨっとした顔が気づいたようで、冒険者らしくない白黒が手を振ってきた。
「あっ、イチ様にミコ様っす~♡ ミセリコルディアの皆さまもご一緒っすねえ」
「おう来たかイチ、待っとったぞ」
「まーたお前さん女はべらせとんのか……」
言葉通りに暇そうなロアベアはともかくドワーフ二人分は待ちかねてた感じだ。
「どうぞっす」と招かれればテーブルを女性五男性三で囲うことに――ニクはどこいった?
「よお爺ちゃん、ここの男女比だと嫌でもこうなるんだ。そういえばニクは?」
「ヒロインの子が前より増えてるしね……って、ニクちゃんがいないね……?」
「ロアベアか、貴様も冒険者になったようだな? メイドと兼業して大丈夫なのかと心配なんだが」
「とうとう集会所にメイドさんが来るようになっちゃいましたね……イチ君のせいでここの属性が広まってますよどーするんですか」
「暇だから来るメイドさんってすごい理由だよね……リーゼル様のお屋敷ってどうなってるんだろう、さぞ色濃い気がしてきたよ団長」
「お屋敷の方にはうちより濃いメイドさんいっぱいっすよ~、今度イチ様も連れてこられてご覧になられたらどうっすかねぇ」
「前より情報量濃くなり過ぎじゃろクラングル……まあそれはよいとして、お前さんの相棒ならそろそろ戻ってくんぞ」
「ニクのやつなら作業室であの槍見てもらっとるよ、だいぶこき使ってくれたみたいじゃしな。そのついでに――」
メイドと相棒のふとももに挟まれながら聞くに、愛犬はあの仕事場にいるらしい。
そういえばあのドワーフの情熱が入った槍もブルヘッドからの付き合いか。
「ん、持ってきた」
と、ちょうどわんこパーカーな相棒が尻尾をぱたぱたさせて戻ってきた。
いつも背にした槍の代わりに小さな革張りケースを抱っこしてる。
「噂をすればなんとやらじゃな、さっそく見せてやらんか」
「イチ、お前さんにプレゼントじゃ。こっちの世界での戦いに難儀しとるかもしれん、ってことでおもしれーもん準備しといた」
「プレゼント? この感じからして何か物騒なものでも入ってるのか?」
わんこのお土産がテーブルに置かれれば、爺さんたちはいかにもな顔だ。
それは自動拳銃が入ってもなお余裕がありそうな大きさだった。
周りも気にかけてくる中、そんな得体の知れない贈り物の金具を開けると。
「……なにこれ拳銃か? 確かにおもしれーけど、なんかこうデカすぎね?」
「銃……だね? けっこう大きいけど……」
「お~、でっかい拳銃っすねえ。なんすかこれ」
左右を挟むミコとロアベアと一緒に、そんなフォルムがまず目に付いた。
敷き詰められた型にとても大きく収まる――回転式拳銃みたいな何かだ。
問題はそのサイズだ。試しに手にすると、45口径を倍以上にしたような重さがずっしりとある。
「今頃お前さんがテュマーや白き民相手にしてると思ってな。でもああいう手合いは45口径のストッピングパワーでもまだ足りん、確実にやるなら5.56mmがやっとじゃ」
「あれからわしらもこっちに転移したモンとか調べるうち、そういう手合いと交戦する機会が多々あったんじゃよ。いろいろ試した結果、ぶっ放すなら45口径以上の質量が一番ってことに気づいたわけでな?」
「おめでとう、あんたらの予想通りに生きてたよ。そっちはそっちで白き民相手に銃の性能テストでもしたみたいな言い方だな」
「ちょうどよく付き合ってくれる人間大の相手がいて助かったぞ」
「白き民退治と武器の試験が一度にできるしお得じゃろ?」
「そりゃ気の毒に。で、その結果がこれか」
「そう、これじゃよ。特製のリボルバーってやつじゃな」
ドワーフ族もこっちで『試し撃ち』の機会に恵まれてたことがよく伝わった。
こいつらは何を思ったんだろうか、まず銃身が拳銃にしては長すぎる。
もう二歩間違えれば小銃としてまかり通りそうな通りなほど伸びていた。
しかもその根元で、弾を収めるシリンダが六角形の無骨さで長く作られてる。
「いろいろ試してどうしてこんなデカい銃になるんだ? 誰だ作ったやつ」
結果的にその大きさは異常だ。
冷却用の工夫が乗せられた長い銃身が冷たく伸びている。
本体にみっちり硬く収まる弾倉は、一体どれほどの弾を込めれば気が済むのか。
44口径どころじゃない何かを扱う質量なのだ、これは。
「トリガ・ガードと一緒に銃身を折ってみんか、びびるぞ?」
と、ドワーフらしい楽しそうな口調が促してきた。
確かにトリガ下の「守り」に、指への小さな引っかかりがある。
かちりと絞りつつ銃身を掴んで引けば、小気味よい重みで正しく折れて。
「……おいおい、これから何と戦わせるつもりなんだあんたらは」
拳銃にしちゃ大きな口径を連想させる穴が三つもある。
三発だ。並大抵の拳銃弾ではない何かを三発も撃てるんだぞ?
そこに不安を込めて伺えば、向こうはクイズでも楽しむようにニヤニヤで。
「どんくらいあると思う? 当ててみ?」
「44じゃないのは確かだな。それ以上何があったっけか……」
「ヒントは拳銃弾じゃないってことじゃなぁ」
「そのヒントを受け取るならライフル弾でもぶっ放させるつもりか? 556?」
「45-70じゃよ」
45-70。
まさかその数字を冒険者ギルドで聞くはめになるとは思わなかった。
三連散弾銃でぶっ放してきたあの強力なやつだ、それを拳銃で撃てだとさ。
「45-70!? そんなデカいの撃てってかこれで!?」
「これくらいやっといてようやく一撃じゃからな。二キログラムを優に超えとる重みじゃが、逆にいい感じに反動をぶち殺せるぞ」
「わしらみたいに骨太じゃないと手からすっ飛ぶぐらいじゃが、お前さんの腕なら大丈夫じゃろうと思ってな。その名も――」
「"白殺し"じゃ。カッコいいじゃろ?」
「由来は最初の的が白き民だったんでな、徹甲弾ぶちかましたら兜ごと頭の一部吹っ飛ばしおった」
残念だがドワーフの強い造詣からくる笑顔は本気だ。
この異様な三連リボルバー、もとい『白殺し』は既に白き民をぶち殺した実績まであるときた。
恐る恐るに持ち上げれば、片手でもそれなりに持ててしまう重さだった。
両手でしっかり保持すれば案外悪くない、撃つ時の恐ろしさは未知数だが。
「……あ、あの……45-70って、銃身とかは大丈夫なんでしょうか?」
「そうだな。実を言うと俺の三連散弾銃が45-70弾が原因でダメになったんだ、今はあんまりいい思い入れがない感じなんだけど」
しかしまだ不安は付きまとう。ミコがいう『万能火薬』の性質のことだ。
ファクトリーのやつが言ってたが、万能火薬を装填した45-70弾は言わば強装弾だ。
それに対応できなかった三連散弾銃がちょうど前に壊れたわけだが。
「――そのことなら心配ないさ、短剣の姉ちゃん。そいつは銃身からグリップまで万能火薬の性質に合わせて作ってある」
外から弾帯だらけの姿がわざわざ補足しにきた――得意げなヘキサミンだ。
「そーゆーこと、つまり耐久性に難なしじゃ。ライフリングもわしらがちょいと工夫したやつでな、そのおかげでちと銃身が厚くなっとるが……そのなりでもそこそこの初速を叩きだせるぞ」
「流石に小銃クラスの銃身にゃ劣るが、それでも手軽に45-70をぶち込める程度には収まっとる。マウント用のスペースもあるから照準器も取り付けれるぞ」
「爺さんたちの要求で装甲目標相手の弾も用意してある。あんたそういうの好きだろ? ストレンジャーなら間違いなく扱えるさ」
爺さんたちの親切さは『ストレンジャー』のことを理解した上か。
ドワーフの技術をぶち込みまくったこの中折れ式リボルバーは、言われてみれば今の事情にぴったりかもしれない。
「それで白殺しか。これからも白いの相手にしなきゃいけなさそうな響きだな、そういう意味込めてる?」
もう一度じゃぎっと銃身を折った、こいつは45-70が三発も入る化け物だ。
「聞けばお前さん、今日の今まで白い奴らと縁がないことみたいだからのう。そういうのも込めて名付けてやったわい、イカしとるじゃろ」
「この前は白いカルト集団相手に立ち回ったそうじゃな。お前さんほんとカルト相手に縁がなくて笑っちまったぞい」
「俺も耳に届いた時は驚き半分、スマイルもう半分さ。白狼教会に続いて今度は白き教え子とかいうのをぶっ潰しやがったとは恐れ入るよ」
「よくわかってくれてありがとう、次白いの見つけたらこいつを顔面にお見舞いすればいいんだな?」
「やってみんか、飛ぶぞ――ああもちろんあの世にな」
「ケースに45-70用の肩掛けホルスターが入っとるからな。最後に採寸した時にあわせとるけど。合わんかったらおじいちゃんに言うんじゃよ?」
「これからの活躍を期待してるぜ。弾薬が必要なら作業室に来てくれよ」
銃の消化が終わったドワーフと人間は満足したように戻っていった。
……よく見ると木製グリップに『White-Killer』と気取りが彫ってある。
あいつら俺のことをバケモンだと思ってるんだろうか。いやそうだよな、だったらこんなデカい銃渡すもんか。
「だってさ、今の聞いてどう思うよみんな」
たすき掛けするようなホルスターを着てみつつ、俺は周囲に尋ねてみた。
試しに収めて立ち上がれば――割といい感じだ。
脇腹から腰にかけて収まる感じで、しかも45-70弾用の収納スペースもある。
「ウェイストランドらしいやり取りだったと思います……」
「おじいさまたち、ご主人と話せて嬉しそうだったよ」
「こっちの世界でも世紀末テイストっすねえ、こういうやり取り見てなんだか安心っす。あっ後でうちにも撃たせてほしいっす」
「……集会所が瞬く間に物騒になったぞ貴様のせいで!? どういう人付き合いのもとここまで来たんだ!?」
「な、なんだかファンタジー世界なのにアメリカンな人たちでしたね……ウェイストランドおそるべし」
「おじいちゃんたち、イチ君と話してる時すっごいいい顔してたよ。ほんとに向こうでどんな付き合いがあったのさ、キミぃ……」
世紀末流のやり取りにミセリコルディアは引き気味だ。
集会所の視線に「どう?」とクソデカいリボルバーとの相性を尋ねると、そんな場面を隣にしてたシディアン軍曹と目が合う。
「貴官は楽しそうだな。そろそろパン屋ではなく狂戦士か何かと認識を改めた方がいいかと悩んでる頃合いだ」
軍帽とセットの呆れ顔を見せてきた。
そんな黒髪ロングな人間部分はというと、黒塗りで滑車の交えた近代的なクロスボウを抱えてるような気がする。
「そうか、後で爺ちゃんたちにパン屋のこと話さないとな。ところでそれどうしたんだ軍曹?」
「作業室の奴らに見せたら勝手に改造してくれたのでな、少々気に入った」
向こうも「どうだ」とそれを強調してきた。
ご機嫌に持ち上がった口が言うには、自慢の武器がドワーフの手によって近代改修を施されたみたいだ。
お互いドワーフさまさまってわけだ。納得のゆく機嫌のよさに頷けば。
「……この匂い……」
急にぴくっ、とニクが耳を立てだした。
興奮混じりの立ち具合だ。どうしたのかジト顔が少し嬉しそうである。
「なんだ? 誰がまたローストビーフサンドでも持ち込んだか?」
「そんなことするのいちクンぐらいだからね!? ってそうじゃなくて……ニクちゃん、どうしたの?」
「どうしたんすかニク君、嬉しそうなお顔っすよ? なんすかなんすか」
こんな俺たちの心配だけど、黒いわん娘はびゅんっと集会所を後にしてしまった。
妙だな、何も言わずに行ってしまうなんてあいつらしくないぞ。
「……腹減ったって感じじゃなさそうだな、どうしたいきなり」
「い、行っちゃった……! でもニクちゃんが勝手に行っちゃうなんて、なんだかおかしいと思うよ……?」
「なんだかうちも気になるっす! ちょっと行ってくるっすよ!」
「セアリさんの嗅覚的に言いますけど、向こうからお肉の匂いなんてしませんよ? いちクンの鞄から焼いた野菜の匂いならするんですけど」
「それ今朝作った焼き野菜サンド。なんか心配だし俺もみてくる」
「わ、わたしも……っていうかいちクン、またサンドイッチ持ってる……」
ロアベアがふらりとついていったのもあって行方を追うことにした。
ミセリコルディアの面々も連れて集会所を出ると――何やらホールが騒がしい。
『なんかまた変なやつが来てないか……?』
『いやよく見ろ、あいつ首にシートぶら下げてるぞ。あの形はどこのだ?』
『なんか顔色が悪い人がいるけど……人間、だよね……?』
『隣にいるのはわたしたちと同じヒロインなんですかね? 美人……』
ドワーフ襲来の時ほどじゃないが、みんながざわざわと入り口を気にかけてる。
どうしたんだと間に押し掛ければ。
『――クリューサさま! クラウディアさま!』
人混みをかき分けないうち、最初のニクの元気な声を感じた。
そんな調子で出てくるあの名前にに、よくわかる俺たちはつい足が急いでしまった。
『お前がいるということはやはりそうか。まったくなんだ、この目にするだけでも騒がしい魔境みたいな場所は』
『おお、ニク! 久しぶりだな! 冒険者になったんだな! ごはんはちゃんと食べてたか!?』
向こうの二人の白い輪郭に、ずいぶん聞いてなかった声が二つも重なった。
最後の人混みを力づくで突破すれば、そこにいるのは世紀末らしい身なりの男女だ。
「……クラングルは混沌としてると覚悟はしていたが、誰が噂通りにしろといったものか。それにこの女子供の多さは一体何事だ、こんな小さいのが出稼ぎしないといけない世なのか?」
黒いコートでも隠せない肌の白さがそこでひどく目立ってた。
混雑する様子を頭が痛そうに見渡す様子は、短い白髪も相まって不健康そうな印象をなおさら強くしていた。
特に人混みにいた俺が気になったようだ。顔色の悪さが「お前か」と言いたげだ。
「どうだ、フランメリアはおいしいものがいっぱいだろう? お前も少し肉付きが良くなったな、幸せそうだぞ」
「うん、みんなと一緒においしいものをいっぱい食べてるよ」
「私もクラングルにいろいろな料理が集まってると聞いて楽しみだったんだ、まるで世界中の飯が食えるような栄えようじゃないか。イチはどうした?」
すぐ隣じゃ褐色肌に真っ白な長髪を垂らしたダークエルフもいた。
一件理知的そうな顔でニクのを抱っこしてるその格好は、俺たちの良く知る食いしん坊な戦友だ。
二人は「ん」と犬らしい指先に導かれて、ちょうどこっちに向かってきた。
「……よお、確かに今生の別れにはならなかったな? クラングルへようこそだ」
世紀末世界のストレンジャーらしく片手を持ち上げた。
あいつの言う通りだ。これで『また会おう』だな。
冒険者ギルドの有様にこまねいていたお医者様――クリューサは、なんだか安心したような落とし方だ。。
「そうだな、やかましい日々が戻って来そうで憂鬱なものだ。久しぶりだな」
「クリューサ! やっぱりイチがいたぞ! また会えて嬉しいぞ!」
「クリューサ様にクラウディア様っす! お元気だったっすか? また会えて嬉しいっす~♡」
「くそっ、なんでお前もいるんだロアベアめ。ということは、今日の今までそこの馬鹿と仲良くやってたか」
「ロアベア、お前もいたか! まさかクビになったのか!?」
「いやあ、相変わらずお屋敷で働いてるっすけど、雇い主にいわれて冒険者も兼業してるっすよ。」
相変わらず振り回してそうな相棒と一緒に、あの時と変わらない様子でこっちにやってきた。
ニクを挟むようにする二人を見ていると、なんだかウェイストランドの旅路が遠い昔のように感じてきた。
「また会ったな、クリューサ」
それほど経っちゃいないのに懐かしい気分だ、いつぞやの言葉に返してやった。
でも今回はそれだけじゃない。何せ隣にはとびきり綺麗な相棒がいるんだ。
だから背中を押してやった。もう短剣じゃないけっこうな姿がそそっと出た。
「こ、こんにちは……? あの、お二人とも、わたしのこと――」
ミコはあれこれ言いたさそうなまま、おどおど二人へ向かった。
一瞬、お医者様もダークエルフも短剣の頃とだいぶ違う音質に戸惑ったみたいだ。
そこからは意外だった。
誰かさんの肩にいた頃とは全然違う姿に、あのクリューサがまさか「にっ」と口を緩ませて。
「そうか、ようやく戻れたんだな。そいつもずいぶんと大きな相棒を肩にぶら下げていたものだ」
物言う相棒が言い切るよりずっと早く、ミコに笑顔を見せてきた。
信じられるかよ。あのぶっきらぼうなクリューサが笑ってるんだぞ?
相棒の足取りについていけば、分かってくれたその一言にせっかくの美人顔に涙があふれて。
「クリューサ先生、わたしです、ミセリコルデです……!」
「雰囲気で分かるさ。これしきで驚くものか、お前が無事に戻っていて何よりだぞ」
そろそろ泣き崩れるかという瞬間だ、お医者様が両手を広げて迎え入れた。
想像できない振る舞いで受け止めると安心したような――そんな穏やかな笑みだ。
「わ、わたし、会えて嬉しいです、お久しぶりですクリューサ先生……会いたかったですっ!」
「そう泣くなミコ。誰かに言ったはずだろう、今生の別れにならんとな」
「おお、短剣の姿と打って変わっていろいろおっきいなミコ! とっても美人じゃないか!」
「人の再会にデリカシーのないことを挟むなこのバカエルフが。お前はどこまで俺を苦しめ続けるのかきっちりカウントしてるからな」
そこにクラウディアが斜めに入ってくる光景も俺たちはよく知ってる。
ストレンジャーズだ。まだノルベルトはいないけれども、間違いなくあの旅路の仲間が揃ってた。
「その声はクリューサちゃん!? それにクラウディアちゃんも! お二人ともお久しぶりですわ、会いたかったですの!」
なんたって今じゃリム様もいるような職場だ。
ミコの肩越しにお医者様が「あいつもか」と苦い笑いだけど、その通りだとリム様を抱き寄せた。
「間が悪かったなクリューサ、今ここは料理ギルドのマスターが入り浸ってるぞ」
「お前たちのおかげでいかにどうかしているか良く理解できたぞ。一体どうなってるか速やかに説明しろ」
「いつもどおりさ」
「いつもどおりか、ふざけやがって」
「そういうお前はどうしてここにいるかって質問したほうがいいか?」
「見て分からんか、俺が錬金術師ギルドから来た人員だ」
「クリューサ! リム様もいるぞ! これで飯には困らんな!」
「そういうことでしたのね! でしたらいつでもリーゼルお姉さまのお屋敷へいらっしゃいまし! ご馳走してあげますから! お芋食べる?」
「まあ、たった今ここに来たのを少し後悔してる。芋をすすめるようなやつが居座ってるとは思わなかったからな」
「いい感じにリム様に侵食されてるところっすよクリューサ様、ようこそっす」
「ロアベアもセットだぞ、良かったな」
「よくあるか馬鹿者」
なるほど、錬金術師ギルドからくる奴ってのお前らだったわけか。
泣き止んだミコを手放せば、あいつは首元の多角形付きの首飾りを見せてきた。
『スチール』相当の輝きからしてそういうことか。俺より出世してたらしい。
「錬金術師ギルドの人がくるって噂があったんですけど、そっか……クリューサ先生たちのことだったんですね……」
短剣じゃない相棒がぐすぐすしながら落ち着けば、クリューサはそうだと頷いてた。
まあ、ロリはいるわまだコスプレ感が抜けきらない日本人はいるわで戸惑ってるが。
「おおっ、誰かと思えばお前か医者の!」
「そーゆーことねわし分かっちゃった! なるほど、妙に凝った研究室注文してきたと思たったらお主の仕業か!」
「ありゃクリューサ先生じゃねえか! スティング以来だなあんた!?」
「ストレンジャーに付き添ってた医者だ! あんな奴も来たのか!」
そこに驚く同郷混じりの『帰還組』がいればなおさら悩ましい顔だ。
「その通りだ。まさかここまで滅茶苦茶な場所だったとは思ってなかったがな」
「私たちの耳にクラングルで大暴れする冒険者の噂を何度も届いたものでな! もしやと思ったがやっぱりイチだったか!」
「大暴れする理由が向こうからやってきただけだ」
「錬金術師ギルドのゴーレムをぶち壊したことから妙なカルトをむごたらしい目にあわせたところまで全部お前だったわけか、逆に安心した気分だ」
「相変わらずだったぞ、よかったなクリューサ!」
周りがそろそろ「どういう関係だ」と見てくるが、優秀な医者とその護衛は構うもんかという様子で。
「――このようなセリフは好きじゃないが、お前たちにまた会えて嬉しいぞ」
皮手袋越しの挨拶を向けてきた。
喜んで握り返した。お前も変わったんだな、クリューサ。
「――ああ、とりあえずパン食う?」
そうだ再会の印だ、ついでに鞄からサンドイッチを取り出す。
紙包みの一品(本日は惣菜屋のグリル野菜と生ハムチーズ)をずらっと見せつけると、なぜかしかめっ面だ。
「……いちクン!? なんでそこでサンドイッチ渡そうとするの!?」
「いや、せっかく会えたんだし今の気持ちを……」
「ミコ、久々に会ってなんだこの無礼なやつは。どうしてこいつはいきなりパンをすすめようとするんだ」
「おお、サンドイッチか! ちょうど長旅でお腹が減ってたぞ! 良かったらくれ!」
「本日はグリル野菜サンドと生ハム&チーズサンドです」
「だからなんでもかんでも無遠慮に食うなと言ってるだろこのバカエルフが! おい! こいつはまた頭の傷が悪化したのか!? そうだな!?」
「い、いちクンこの頃パン屋で働くことに楽しみを見出しちゃってるみたいなんです……」
「それがいきなり再会した相手にサンドイッチを押し付ける理由になってたまるものか! 冒険者ギルドはこんなのがいるような場所だったのか!?」
「イチ様すっかりパンにはまってるんすよねえ、あんな凶器みたいなパンケーキ焼いてたのに料理スキルが向上してるっすよ」
「ん、ご主人パン焼けるようになったよ」
「たった今ここ冒険者ギルドにキッチンを増設していただきましたわ! これでお料理できますの!」
「少し見ない間にお前たちは一体何があったんだ!? くそっ、やっぱりここに来るべきじゃなかったか!?」
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