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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
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81 ウェイストランド帰りさまさま!


「やっぱり人手が多いと楽じゃなあ。冒険者さまさまってやつ?」

「とりあえずこれで機材は大体運び込めたのう。いや、それにしたって空き部屋多すぎんか……ここの機能性持て余しすぎじゃね?」

「バサルトのやつが酒絡みの面倒ごとにブチギレてからずっとこのままだったんだろうな……当時の怒りをひしひしと感じる放置具合だったぜ」


 ドワーフとこき使われた冒険者によってギルドの機能性が一段上がった気がする。

 かつて酒場やら宿屋やらが栄えていた時代を上書きするような、近代的な設備が数々押し込まれてた。

 新品の工作機械や弾薬の制作に必要な一式、工具満載の作業台にサイエンス味溢れる化学実験器具。

 おまけに『壁の外に駐車場作ろうぜ』とかいう思い付きまで聞こえるほどだ。


「……な、なんか一気に近代的になっちゃったね……?」

「ワーオ、ファンタジーのすぐお隣でウェイストランドやってやがる」


 ミコと壁に貼られた配線予定図を眺めれば、屋根に【ブラックプレート】が置かれてそろそろここに電気が通るのも時間の問題か。


「つーことでお主ら、わしらは『ウェイストランド』を旅して戻ってきたドワーフのジジイどもじゃ。例の地下交通システムとやらを調べてやるついで、しばらくここに居座らせてもらうぞ」

「お主らが近頃噂になってるクラングルの冒険者どもか。なんつーか女の子多くね? 昔はもっとこう厳つい奴ばっかだったのになんでこんな比率おかしくなっとんの?」

「こうして押しかけてるやつら全員がそこのイチってやつの知り合いじゃ。よろしく頼むぞ若者ども」


 慌ただしい作業が一つ終われば、ホールで帰還組の面々があらためてご挨拶だ。

 もっともファンタジーらしからぬ所業と装いに「よろしく」と出ない空気である。

 そこに俺のご指名が入れば「こいつか」としょうがないような、納得したような複雑さが集まって。


「お前の顔の広さには驚かされてばっかりだ。マジモンのドワーフが戦車乗っててここに近代的な設備ぶち込んでるんだからな、どんな交友関係持ってんだマジで」


 まるで冒険者を代表するみたいな形で、タケナカ先輩がこっちとあっちに呆れてた。

 特に世界観を守らないあたりが良く共通してるらしい、厳つい顔に納得がある。


「そこの爺ちゃんたちには向こうでいろいろと世話になったんだ。悪い奴じゃないってのは確かだから安心してくれ」

「ほれ、イチもこういっとるし? わしら悪いドワーフじゃないしそうおっかないもん見るような目せんでいいぞ」

「最近また動き始めた白き民相手に、お前さんらが一稼ぎしてるって聞いたもんじゃからな。わしらなら力になれると思ってきたんよ」


 ドワーフ側に寄って関係性をアピールすれば、ちっちゃい爺さんたちは出来立ての作業場を示してきた。

 みんなが向く先には、ウェイストランドの奴らが機材をちょうど確かめてる。


「ドワーフの爺さんども、あんたらが俺たちの力になれるってどういうことだ?」


 タケナカ先輩は、どうやっていい働きしてくれるのかが気になるようだ。

 しかしそこはドワーフ、先頭の小柄さが得意げに笑って。


「お主らの生業はその身と得物が資本じゃろ? しかしまあ、どいつもこいつも白き民の使ってた面白みのないもんばっか使ってるみたいじゃなぁ?」


 あたり一面にいる種族性別問わない姿を一瞥してきた。

 言われて誰もが確かめればそうだ。ほとんどの奴らの装備は『お古』なのだ。


『……そう言われるとそうだよな』

『確かに……まあ、それしか選択肢がないんだけど』

『私たちの装備って、白き民のドロップ品に依存してるよね……』

『そもそも武器とか防具とかを扱う店がないんですよね、ここって……』


 この事情をあらためて目の当たりにした皆さまは悩んでおられるようだ。

 でも仕方ない話だ、俺たちは武器や防具を手に入れる手段も機会も限られてる。

 この国に武器屋なんてない。ならば白き民が持ってる得物にすがるしかない。 


「そりゃ武器を売ってくれるような親切なやつがいねえからだ。ここにいる奴らはみんな、白き民が親切に落としてくれたやつに依存するしかなくてな」


 実際、俺の先輩たるタケナカ先輩だって落とし物の長剣がその通りだ。

 するとドワーフの皆さまはこれみよがしに得意げな様子で。


「そこでこうじゃ、わしらがそいつらの持ってた装備をどうにか加工してやる。手直しするなり、溶かして別のモンに作り直すなり、まさにドワーフ向けの仕事ができそうじゃろ?」

「あいつらの持ってた武器はそこそこの材料使っとるくせに、どこか中途半端な造りしとるからのう。だったらわしらの手にかかれば、それをもとにもっといいの作れそうじゃと思わない? 思っちゃうよね?」

「つまり俺たちに仕事させてみねえかって話だ。どうだ? あいつらの武器を持ってきてくれりゃ、そいつでなんかおもしれえ得物でもこしらえてやろうと思ってるんだが」

「他にもフランメリア中にいる生物からはぎ取った素材やら扱ってやっからな。そういうのをお前さんらのためにわしらが加工してやろうって話よ」


 ここの連中に向けて親切な笑みを豪快に浮かべてきた。

 ちょうど自分たちの腕を振るうにふさわしい場所でも見つけたようだ。


『俺たちの装備を作ってくれるのか……?』

『本当ならすごく助かるぞ!? これであいつらのドロップ品でやりくりしないで済むのか!?』

『欲しい武器作ってもらえるんですか!? やったー!』

『これでやっと装備に困らなくなりそうね……もう落としたものを厳選しなくていいんだ……!』


 もちろん、拾い物で間に合わせてたみんなは段々と明るくざわめいてた。


 それだけ俺たちは冒険者稼業をする一方、装備にひどく困ってたわけである。

 敵の装備だって全てがきれいに手に入るわけでもない。

 既にぼろぼろだったり、一戦交えたせいで破損することだってあった。

 仮に目ぼしいものが手に入ったとして、手直しが効かないぐらい扱い辛かったりすぐ壊れたり――要するに不安定なのだ。


「てことは職場の環境改善に手を貸してくれるわけか。良くもまあ、あいつらのドロップ品で保ってたよな俺たち……」

「ドワーフのおじいちゃんたちが作ってくれるんだ……!? それって、すごく頼もしいかも……」


 俺やミコの知るようなドワーフの腕前があればこれほど頼もしい話はないと思う。

 まともな設備がなくても廃材で剣から無反動砲まで作る連中なんだぞ?


「ただしタダってわけじゃねえからなてめーら。あくまで俺たちがやんのは仕事だ、手数料やらはそれなりに貰うぞ」


 が、小さい爺さんの一人が遅れて「メルタ絡み」なことを付け足してきた。

 いい仕事をタダでやるような美味しい話じゃないそうだ。


「か、金取るんですか……?」


 その条件にホンダのやつが不安八割、不満二割な調子だ。

 けれども爺さんたちはそんな新米の言葉を都合が良さそうに待ち構えていて。


「当り前じゃろ? お前さんらが冒険者としてわしらに仕事の責任を持たせるためじゃ。ドワーフっつーのは自分の腕前をタダでくれてやるほど安っぽくはないぞ」

「もちろん設備の維持やらの費用を賄うため、それからドワーフの里の財政のためもあるぞい。金さえ払えばいい装備でも作ってやるしアフターサービスもしっかりやったるからな」

「この街に貢献する意味合いも込めてるぜ。どう貢献するかって? 仕事終わりに酒場へいって飲食業界に金を落としてくるって寸法だ」


 「自分たちの客になってみせろ」といわんばかりの返しだ。

 いい装備を喉から手が出るほど欲しがる事情に稼ぎ時を見つけたらしい。

 こうも言われたら需要と供給の問題で異論なんて起こるはずもなく、誰もが好意的に受け取ってる――お上手なことで。


「……俺から言わせてもらうが、金払って手に入るならそれだけで喜ばしい話だな。だったら是非よろしく頼みたいところだ」


 こんな形でもちかけられた商売だが、タケナカ先輩は好意的だ。

 それに続いて周囲も「まあそうだな」的な反応で頷いて、ドワーフたちの顧客がそれだけ増えていき。


「まあ、そうだな……こっちは白き民の使い古しをだましだましで使い続けてたし、ちゃんとした装備が手に入るなら惜しまねえよ」

「むしろお金払って作ってもらえるならすごく助かります。私の身体に合う防具が中々手に入らなかったから……」

「欲しい武器にありつけなくて困ってましたので大歓迎です!」

(ドラゴンも殺せるおっきな剣ください……)


 人間、ヒロインごちゃ混ぜの承諾に変わって爺ちゃんたちも大満足だ。

 ここの総意で納得すれば、ドワーフは通路奥からの工事の音に親指を向けて。


「お前さんらが律儀に応じてくれるような人柄で安心したぞ。わしらの提供するサービスの概要については後程説明すっからな、今こしらえとる工房ができるまで待っとれ」

「商談成立だな。今後は拾ってきたあいつらの装備だのなんだのは俺たちが加工してやるからな、楽しみにしてやがれよひよっこども」

「そこの坊主頭、名はなんという? お前さん話が分かるような奴でちょうど気に入ってきたんじゃが」

「坊主頭じゃねえぞ爺さん、俺はタケナカだ」

「タケナカか。こまごま手伝ってくれた礼じゃ、その腰にぶら下げてる剣見せてみろ。どーせ白き民の落としモンじゃろ? ちょいとおじいちゃんが見てやる」

「あっ、わしらの仕事場とかは自由に見てきても別にええからのお主ら。ただし機械とか触る時は一言声かけてね危ないから」

「皆のもの、そろそろ地下交通システムの下見いくぞ。支度じゃ支度」

「冒険者何名か連れて酒運ばせっかー、いやあ楽しみだな150年モノの酒」


 今後ともよろしく、と残してワークショップへぞろぞろ引っ込みだした。

 ついでに坊主頭の先輩も気に入られてお持ち帰りされたみたいだ。

 そんなこんなで解散の空気だけどせっかくだ、「おいみんな」とそこらを呼んで。


「……あー、爺ちゃんどもの知り合いから言わせてもらうとだな? 最初はちょっと付き合いづらいかもしれないけどみんないい奴だ。今後ともうまくやった方が人生の質が向上するぞ」

「うん、ドワーフのお爺ちゃんはみんないい人ばっかりだから心配しなくていいからね? 困ってたら助けてあげてほしいな?」

「ん、おじいちゃんたちみんないい人だよ。仲良くやろうねみんな」

「ご機嫌取れとまでは言わないっすけど、とっても頼れる方々っすからね皆さま。信頼されて損はないかと思うっす……あひひひっ♡」

「ドワーフの方々はお酒が大好きですわ! お礼とかしたいときは一本丸ごと差し上げればご機嫌ですの! ちょろい!」


 不完全な『ストレンジャーズ』でドワーフの良さを伝えた。

 芋の化身の失礼さが混じったが、俺たちの説得力に「なるほど」といった感じだ。


「まあお前が言うなら悪い人じゃなさそうだけどなあ……マジのドワーフが来たかと思ったらここを現代風にしててびっくりしてるんだが。しかもタケナカ連れてかれちまったぞ」

「だよねえ……急にファンタジー感薄まっちゃってるもん私たちの職場。ドワーフってもうちょっとこう、厳しい職人さんのイメージあったんだけどなー」


 シナダ先輩とキュウコさんは、坊主頭が向かったワークショップを気にしてたが。

 そりゃファンタジー世界の人種が車乗って配線工事始めれば脳がバグるだろう。


「迷い込んだウェイストランドをいい留学先にしたらしいぞ。向こうでいろいろ技術を学んでああなった」

「いや近代のテクノロジー覚えて帰ってきたのかよあの人たち。見事に使いこなしてるぞどうなってんだ一体」

「異世界モノ逆にしたみたいになってるねー……ドワーフがファンタジー世界に現代技術もちこんじゃってるよ」

「どおりで銃とか背負ってるわけだよあのドワーフたち……どうなってるんだフランメリア、すごいことになってね?」

「さっきから配線工事がどうこういってるけど、まさかここに電気がくるのか? すげえなドワーフ……!?」

「パン屋のおにーさん、ほんとに知り合いいっぱいなんだね……あんな人たちまで知り合いだなんてびっくり」

「でもこれでまともな武器とか防具とか手に入ると思うと嬉しいよね。わたしたちずーっと拾い物で我慢してたし……」

「カッコいい剣とか作ってもらえますかね……?」


 みんなまだドワーフ慣れしちゃいないが、工房とやらが完成すればきっといい仕事ぶりをお目kに書かれるはずだ。

 実際、装備を作ってくれるという魅力的な誘いに期待感が満ちてた。

 それに爺さんたちがそばにいる頼もしさは良く知ってる、正直いてくれて嬉しい。


「誰がちょろいってこの芋の魔女め」


 全員の意識が工房予定地へ向かえば、そこから小さな爺さんがこっちを覗いてた。

 俺たちの物言いを耳にしたであろう様子だ、特にとんがり帽子を被った銀髪の「ちょろい」あたり。


「私を褒めてますの!?」

「褒めとらんわバカモンが! 土に帰れ!」

「んもー相変わらずリム様失礼……」

「ちょろいとかっちゃだめだよ、りむサマ……」


 ドワーフ一体分の不機嫌さが飛べば、リム様は「ひゃっはー」いってどっかいった。

 たぶん土に帰った。まあそれはともかく――


「まったくなんなんじゃあの芋め! それよりイチ、例の【アーロン地下交通システム】とやらの具合を見に行くぞ。下見のメンバーも決まったことじゃし、さっそく案内してくれんかの?」


 向こうは例の地下空間へ向かう準備ができたらしい。

 髭面いっぱいの明るい表情からして、転移してきた物件に期待してそうだ。


「分かったよ爺ちゃん、ついてきてくれ。今回はあくまで下見なんだな?」

「そこのトンネルとやらもさっさと調べたい気持ちはあるんじゃがな、先に構造やら調べて安全性を確かめたり、街にどれほどの影響があるか知っとかんといかんじゃろ? こういう時、近道はなしじゃよ

「じっくりか」

「そそ、じっくり」

「待たせたなイチ、下見チームに向こうの人間数名とドワーフ五名だ。そのでっけえ地下室を見せてもらおうじゃねえか?」

「機材やら準備できたぞ! 楽しみじゃなあ、地下交通システムとやら!」

「安全な遠回りだな。オーケー、下見についてきたい奴はいるか?」


 向こうからぞろぞろと人間ドワーフ混ざりの一団がやってきた。

 俺は周りに「行くか?」と手ぶり身振りを送った。

 


 ワクワクしてるドワーフの爺さんたちを連れてクラングル北西の通りへ。

 今頃入院先で栄養食でも食ってるだろう信者の家に押し入り、階段を降りれば瞬く間に世紀末世界へ。


 その名も【アーロン地下交通システム】。

 都市の下に転移させられたそれは、狭いトンネルと浅いレールを地下鉄のごき振る舞いで南北に伸ばしてた。

 おまけでついてきたスーパーマーケットが戦前の品々を残し、今もなお動力不明の電源で機能してる有様だ。

 そんな場所にドワーフとウェイストランド人数名を案内すれば――


『すげえなおい!? こんな完成度の高い地下空間なんてわし初めて!』

『地下室っていやドワーフの得意分野とか思ってたけどよ、今日ばっかりは考えを改めざるを得ねえよ……なんだこのデカさ』

『地べたの下にスーパー作るとか何考えてんじゃ戦前の奴らめ。しかもいまだに電気通っとるとか保存状態よすぎじゃろ』


 丸ごとやってきた戦前の技術に爺さんたちは大喜びだ。

 タブレットで内観を撮影したり、目につくものを一つ一つ見て触って調べてる。


『今度はフランメリアでウェイストランドの建築物を見るなんてな……こりゃアリゾナにあったやつか? いや違うな、あんな田舎にこんな立派なのあるわけないか』

『広告を見ろよヘキサミン。カリフォルニアってあるぞ』

『ワオ、150年前の歴史がこんなきれいに残ってやがる。ウェイストランドに帰った気分だな……』


 同行したヘキサミンやらのウェイストランド人も、懐かしがるようなものも込めて興味深々だ。

 転移先で向こうの世界の空気を味わえるんだ、さぞ不思議な気分だと思う。


「あそこにいんのウェイストランドの奴らかよ。つーかなにあのちっちゃい爺さんたち、お前の知り合い?」


 そして地下スーパーを物色中だったタカアキもしれっと混ざってきた、何してるんだお前。


「そうだぞ、向こうの人間とドワーフの爺さんたちだ。あっちで世話になった」

「知り合いいっぱいだなあ、お前。いよいよ調査って感じか」

「いや下見だ。ついでに冒険者ギルド改造して近代化してやがったぞあの人たち、工房できたら白き民の装備品を加工してやるってさ」

「なんか戦車停まってるとか聞いたけど、そんなことになってたんか……賑わってきてんなあ」

「また爺さんたちにあえて嬉しいぞ俺は。ところでお前なんでここにいるんだ」

「おやつタイムだ、ジェリービーンズがあるぞ。俺のだけど食う?」


 あちこち触れ回るやつらを二人で見てると、デカいプラ容器が突き出される。

 【フルーツフレーバー七種】を謳うカラフルなつぶつぶでいっぱいだ。

 幼馴染はじゃらっと掴んでもちもち頬張ってる――真似した、甘酸っぱい。


「……ここってすごいね、地下にあったものが丸ごと転移してるみたいだけど……どこまで続いてるんだろう?」


 リンゴやらレモンやらベリーやらの味をいっぺんに感じるところに、スーパーの品揃えからミコが出てくる。

 ここの様子にあらためて驚いてた。そこへ幼馴染が「ジェリービーンズどうぞ」だ。


「あのトンネル次第だろうなあ。もしかしたら次のステーションまで続いてるかもな、まあ食えよミコちゃん」

「ひょっとして、こういうのがまだ他に転移してたりするのかな……って、タカアキ君? これは?」

「ジェリービーンズだ、俺のだけどどうぞ」


 現状不明な部分だらけだが、とりあえずミコはすすめられるまま「あ、ありがとう」と頂いたらしい。

 小動物みたいに一粒ずつもちもち食べてる、甘酸っぱそうだ。


「……あれ? ニクはどうした? あとロアベア」

「あっ、ニクちゃんは――」


 そういえばいつの間にかニクがいないことに気づいた。

 ついでにロアベアの行方も気になれば、言いかけたミコに重なるように。


「……ご主人、これ食べていい?」

「プレイヤーの皆さんとかがけっこー持ち帰ってるっすねえ、エナドリ独り占めしてよかったっす~」


 二人が店奥から戻ってきた。ただし犬の手にはドッグフードが数缶。

 ラベル上の虚無な目をしたボーダーコリーが、あんまり美味しくなさそうに商品アピールしてる。

 駄目なメイドに至っては【MOCHI-ICE】とか言うパックから餅みたいなアイスをもちもち食ってた。 

 何してんだと見るも真っ白な一口を「あーん」された。甘くてもっちもち。


「なふぃひゃっふぇんふぁおふぁふぇふぁ」

「ニクちゃんまたドッグフード持ち帰ろうとしてるよ!? っていうかいちクンに何食べさせてるのロアベアさん!?」

「いやあ、おじいちゃんたち調べてる間暇なんで物色してたっす。ミコ様もあーんっすよ」

「このメイドさん逞しいなオイ。ウェイストランドの作法をよくご存じみたいだね君たち」

「……ドッグフード、食べちゃだめ?」


 やがてミコももちもちしたけど、ドワーフの好奇心がそろそろ満たされた頃だ。

 絶賛もちもち中の俺たちにタブレットを抱えた一人が向かって来ると。


「これわしらの里に欲しいわ、どうしてクラングルの地下なんぞに転移させたんじゃお主。勿体ないのう……」


 遠慮と配慮に欠けたひどい感想を告げられてしまった。

 転移させてしまった張本人にいうことじゃないだろそれ。


「色々話し合って決まったのがクラングルの地下に置くにはもったいないか。それだけ価値があるって受け取り方でいいか?」

「おじいちゃん!? いきなりそんな感想言われても困るんですけど!?」

「冗談じゃよ冗談、まあ欲しいけど。それよりちょっと手伝ってくれんか?」


 本気でここが欲しそうな調子なのはともかく、ドワーフの太い腕が俺たちを招く。

 追いかければ変異テュマーの残骸が残る広場を抜けて、奥でひっそり続く小さな通路に当たった。

 道の狭さにスタッフ以外歓迎されないような警告つきが浮かんでくると。


「ストレンジャー、こっちだ。この部屋に用があるんだがご覧の有様でな、あんたの「開けゴマ」が必要だぞ」


 弾帯に巻かれたヘキサミンの手招きが待ち構えていた。

 大勢が集ったそこにはそれだけの価値がありそうな扉が立ちふさがってる。

 【セキュリティルーム】と書かれてるところが特にそうだ、ご入用らしい。


「出番か。物理的な方か? おまじない的なほうか?」

「俺はこういうのがさっぱりだから後者だろうな。電子錠がかかってやがる」


 そしてこういうように、取っ手周りにがっしり構える電子的なロックつきだ。

 手で触れるとハッキング可能だ、左腕を持ち上げてその通りにしてやった。

 10――25――50――75――100%! 成功だ、がちんと錠が外れる音がした。


「開いたぞ。ちなみにどんなご用で?」

「戦車もロックもぶち抜けるなんてあんたほんと最高だな。なに、ちょっとここからいろいろ情報をいただこうと思ってな」

「簡単に開けちまうなんてようやるわお前さん。どうもこの部屋がここの状態を管理してるらしくての、調べる価値ありじゃろ?」


 二人分の言い分ではここを解き明かすヒントがあるらしい。

 しかし扉を開ければ埃っぽく乾いた空気で、さほど広くもない部屋ときた。

 ドワーフ数名とヘキサミンについていく形で「待ってろ」と見に行けば。


「こじ開けてまでお邪魔した価値はあったかもな。そんな感じがする」


 そこにあったのは真正面で灯ったままの幅広い画面が幾つもだ。

 何つけっぱなしのパソコンのモニターがまだしぶとく、周囲でサーバーがファンの音を立ててる。


「あんまり最後にいい思いはできなかったみたいじゃがな、こりゃ」

「不吉な部屋だな、可愛そうな人間め。これじゃ生前何があったか気になるな」

「し、死体……!? もしかして、ここで自殺したの……?」

「自分を撃ち抜いた感じっすねえ、お気の毒っす」

「ん、死体だ。干からびてる」

「みんな仏さん目の当たりにしてるのにドライだね、いや向こうの方が乾ききってるけどさ」

「タカアキ、こんなの向こうじゃ嫌でも見てきたんだぞ」


 ドワーフたちの低い視線が向かう先で、パソコンに向き合うに誰かだっていた。 

 かりかりに干からびた人間、そこにリボルバーを一つ添えたままだが。

 死因は恐らく恐怖と357マグナム弾だ。身体にそんな名残がある。


「それにしても変な造りじゃな、どうして向こうのバックヤード側じゃなくこっちの通路にここを管理するシステムを置くのやら……まあ別によいか、こいつで店の状況をチェックできるはずなんじゃが」


 でもそろそろおどきになってもらう頃合いだ、地面にどかして爺さんを登らせた。

 太い指がマウスとキーボードを器用に動かせば、モニタにいろいろが浮かんだ。

 ゲートの開閉、EVカートの制御、電力システムの調節、そして『トンネルシステム』の稼働状況だ。


「なるほど、これなら一度にいろいろ調べられそうだ。開けて正解だったな」

「そういうことじゃよ。ゲートはとりあえずONにしとくとして、さっそくトンネルの情報を見てようじゃないの?」

「あの南北に伸びてるやつか、どんな具合だったか気になってたよ」

「わしもすげえ気になっとった、どれどれ…」


 ドワーフの判断がゲートを開きつつ、南で見たあのトンネルの状態を見れば――


「……みなきゃよかったと思うぐらい長くないか?」


 すぐ画面に浮かんだのはトンネルの構造そのものだ。

 なんとなくでこの世界とあてはめれば、あのステーションから二本の細長さがかなり伸びてることが分かった。

 恐らくクラングルの壁の下を通り抜けるぐらいには、どこまでも。

 更にタチの悪いことに、行きつく先はレールの繋がったEVステーション。

 つまりトンネルと繋がった地下空間が、どこかにもう一つあるってことだ。


「北は途中で途切れてるな。となると南に向かったのが二本もあるぐらいか……なあ、なんかはるか遠くに別の地下空間できてね?」

「いや、これ……実際のスケールは分からんが、たぶんクラングルの外行っちゃっとるな。しかも向こうに【ステーション】とかあるみたいじゃぞ」

「つまり外まで余裕で伸びてて、おまけに繋がりを持つ場所が必ず待ち構えてるってことかよ。タカアキ、どう思う?」

「あー、なるほど? 南側になんか続いてるけど……EVステーションの駅だなこりゃ、向こうにあるわこれ」


 幼馴染目線でも「悪いニュース」だったようだ。

 分かることはそれぐらいだ。南に続くトンネルが外とのつながりを得てしまってる。


「トンネルがただ南にだけ続いてるって分かっただけでも十分な収穫じゃな。そしてその先でまた別の地下空間がある……わくわくしてきたじゃないの」

「面倒ごとじゃなくわくわくするなんてポジティブだな」

「大変なことになってないかな、これって……」

「このトンネル、すごく長いね……もしかして、こんな感じのがまだ転移してきたのかな?」

「っていうか電力あるんすねここ、どうやって発電してるんすか」

「ギルマスになんて説明するよ、けっこうやばくねーか」


 そこまで知ったところで、爺さんはトンネルの状態から何までかちかち調べていく。

 画面にここの人通りを浮かべては確かめると、濃い髭の顔つきは納得したようで。


「この【地下交通システム】は南側にあるジェネレーターで発電し続けてるらしいのう。それからEVカートというのも何らかのエラーで動かんようじゃ、他にも細かな不具合が幾つもからんどるが、ちょっと調べて直してやりゃここはもっと安全になるぞ。まずは探索する前にそこからじゃな」


 画面から受け取った情報を簡単にまとめてくれた。

 トンネルを調べる前にここの状態を調べて整えてからの方がいいそうだ。

 それに街の地下に不安定なものを置くのも住民からすれば気持ち悪い話だ、一度ここを整備しておいた方がいいかもな。


「何をするにもまずここをどうにかしてからか」

「念のため、地上からもなんとなくでそれに当てはまるもんがないか調べるべきじゃろうよ。これでよーわかった、とりあえずわしらがすることはここが街に与える影響やら、他に危険がないか調べることじゃ。楽しみじゃのう」

「俺たちの手伝いは必要か?」

「必要になったらこき使ってやるわい。それから大事なことを一つ聞くぞ」

「なんだ」

「とっといた酒はどこかの? 150年モノのな」

「反対側のバックヤードのある通路側だ。倉庫に厳重に突っ込んである」

「ちゃんとお兄さんがきれいに並べといたぜ、おつまみはセルフな」

「でかしたぞ! まあ今日はここまでじゃお前ら、酒と一緒に知らせに帰るぞ!」


 ……そしてドワーフの大仕事がもう一つ、倉庫にしまった酒を飲むことだ。

 下見が終わった爺さんがご機嫌な様子で「さあいくぞ」と部屋を出て行った。

 これからどうなるんだろう、この場所は。



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