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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
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75 九尾の子たちと芋の怪異(5)

 ――あれから栽培室へ通じる通路に向かって、ポテトフィリドを狩り続けた。


 色彩豊かな栽培室を「コの字」に包むようにつながる通路を進む。

 そばを伝うガラスの向こうで、大部屋に植物が床にも天井にも実ってた。

 問題は、そこから流れたポテトリフィドたちがここに押し合っている点だ。


【RTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTL――!】


 じゃがいもの花を着飾った植物由来の化け物がまた芋を撃ってきた。 

 でももう慣れた、手のひらに乗るほどの大きさをアーマー頼りにせき止める。

 まさか俺の上官も擲弾兵が「歩くじゃがいも」とやり合ってるなんて思ってないはず――そんな考えでクナイを抜き。


「しっ……!」


 炭水化物に【ピアシングスロウ】をお返しだ、芋を蓄えた球状部分に刺さった。

 そこへ背後から『アイシクル・ジャベリン!』と氷の槍が頭上を追い越す。

 ツキミの魔法に先頭が貫かれて、緑色のひしめきに穴が開いた――そこへホルスターに手が伸び。


「カバーする! いけいけいけ!」


 芋が飛び交う十メートルにも満たない間合いから、45口径の重量感を抜いた。

 PERKのおかげか突き当りを塞ぐ緑色の面々に【感覚】が働く。

 突出した三匹――左、中央、右で威嚇的にツタをゆらめかせる姿を脳に焼き付け。


*Bam! Bam! Bam!*


 あとのことは全身がスムーズに処理した、地面を踏みつけながら流し撃った。

 事前にロック・オンした三つ分の頭におすそ分けだ、死にやしないが怯んだ。

 更にトリガを引いて残弾をばら撒くと、急な弾幕に空飛ぶ芋の勢いがゆるむ。


「行くよみんな、おねえちゃんに続いて!」


 弾倉交換のタイミングで、角と尻尾の金髪ロリが大剣もろとも突撃だ。

 そこにわん娘の槍と広がる茶色い翼が続いたかと思えば、先陣を切るキャロルがツタを身軽に避けては飛び込み。


「お芋飛ばすの……やめなさああああああああいっ!」


 背の小ささからくる馬鹿力がぐぉっ、と刀身をぶん回す。

 それでいて確かな太刀筋で素早い半円を描き――不幸にも間合いにいたやつらがざぐざぐ斬り落とされた。

 【RTTTTTTTT……!】とクリック音が幾つも途切れたその矢先。


「……キャロルさま、強いね」


 ダウナーな声も蹴散らした先へ押しかけた。

 植物らしい腕もひょいと跳ねて避ければ、次の獲物へ打ち込むキャロルに代わって一体切断。

 続く動きでまたどいつかを乱暴に切り裂いて、また戦線に隙が生じた。


「だってキャロルねーちゃん、九尾院で一番スキル高いからねっ……うりゃ~~っ!」


 その更に後方を羽ばたくピナの元気さが駆け抜ける。

 茶色いハーピーにぎゅんっと割り込まれて、向こうも迷惑そうなよろめきだ。

 お次は羽でバランスを取りつつの回し蹴りだ、一体巻き込んだ。

 そのままダンスでも披露するように反撃も避けて、調子を取られた化け物がツタごと蹴り斬られる。


「これだけ倒せば大体はやっつけたんじゃないんですかねね……! あにさま、いきますよ!」

「今報酬額に釣り合うか考え中だ! 何匹目だこれで!?」


 そうやってちっちゃいやつらが蹴散らす絵面に、コノハと目ざとく駆けつけた。

 通路の隅を駆ける狸の尻尾を追って、マチェーテ片手にがら空きの右翼へねじ込む。


『RTTTTTTTTTTTTTTTTT――!』

『RTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTLL!!』


 警戒心混じりのクリック音が気づいたようだ、ツタを叩き落としてきた。

 コノハがすれ違いざまにざっくり切断するのにあわせて半歩横へ、避けた。


 ――ぎぢっ!


 そこへ潜り込んできた別の一本がくる、先割れた指が俺の足首を掴む。

 引っ張られる力に体幹がふわっと持ってかれるも、慌てずクナイに手をかけ。


「よお、こいつはどうだ?」


 向き合うポテトリフィドの口だけのお顔に、質問がてら手早く放り込んだ。

 ツタを辿った投擲が太い幹――じゃなく、その輪郭が作る影にヒット。


『RTTTTTTTTTT…………!?』


 決まった。【シャドウスティング】が発動した。

 接着剤で塗り固められたような格好にマチェーテの質量をいいように叩き込んだ、ツタから首元からざっくりだ。


「なるほど……ちゃんと忍術が通用する相手でしたか!」


 コノハもホルダーから投げナイフを抜き放ったみたいだ。

 二発目の【シャドウスティング】に別のポテトフィリドがぴたりと止まる。

 とどめは小刀の払いと返しの素早い二連撃だ、返す刀で横からのツタも防いで次を狙いにいった。


「……ツキミ! 頼んだ!」


 ロリどもに滅茶苦茶にされた一団も終わりが近い、取り残された一体が滅茶苦茶にツタを振り回してた。

 無理に付き合う必要はない、下がりつつ後ろから「はいっ!」と返事を受けて。


「アイシクル・ジャベリン……!」


 しっとりとした詠唱が終わった――横へ外れて射線を開けると。


 どしゅっ。


 乱打をすり抜けた氷の槍がえらく鈍い音を奏でた気がする。

 防御むなしく頭を刺されたポテトフィリドが『RTTTTTTTTLッ』と高い音を響かせた。


「援護どうも、じゃあな芋野郎」


 すかさず漬け込んで、二メートルほどの大きさを見上げるように払った。

 マチェーテの金属感に深々斬りつけられれば致死量に達したようだ、首にあたる見てくれがざくっと傾き。


『RTLLLLLLLLLLLLLLL……?』


 氷を生やしたままに頭がずっしり転げ落ちた。

 通路の形にひしめいてたポテトフィリドはこれで最後だ。

 耳を澄ましてもあの音色がカタカタ響くことはない、東側の通路はもう安全だろう。


「……やったねみんな! これで通路は攻略したかな……?」


 同じ具合で数匹ぶった切ってたキャロルもすたすた戻ってくる。

 返り血ならぬ返り油で白い肌がてかってた。漂う香りは新鮮なオリーブオイルだ。


「ん、西の通路と栽培室に少し残ってる程度……ぬるぬるして気持ち悪い」

「油ですっごい滑るよー……スパッツの中がねとねとする……」

「もう数十は倒した気がしますよ、コノハたち……。っていうかなんで油出てくるんですかこのお化けたち、おかげで服の中がつるつるですよ……」


 というか全員がそうだった、ニクもピナもコノハも油まみれである。

 足元もそろそろ滑りが効いてきそうな頃だ。誰だあの化け物作れとか言い出した芋野郎は。


「敵の数とこの有様から5000メルタ以上いただいてもいい気がしてきた。どうしていつも割に合わない仕事ばっかやらされるんだろうな……」


 もれなく俺も油汚れ極まりない状態だ、ジャンプスーツの内側がぬるっと滑らか。

 だけどここはフランメリアのクラングル、大体のご家庭には『浄化の魔法』とやらがかかってる。

 シンクに水をためてしまえば食器だろうが服だろうが、どんな汚れもみな等しくきれいな水に変換されるのだ。

 デメリットは依頼者にクリーニング代を要求できないぐらいだ、早く帰ってきれいになりたい。


「……これで二十九のポテトフィリドを倒しましたね。わたくしもここまでいらっしゃるとは思いませんでした……」


 栽培室を囲う道に『ポテトリフィド収穫祭』を築き上げたのをみんなで確かめてると、ツキミがてくてく追いかけてくる。

 魔法で支援し続けてたせいかほとばしる油の被害には見舞ってないようだ。


「よく数えてたな。まあそれが事実なら報酬に釣り合わない仕事させられてる感が強くなるわけだけど」

「二十九匹もいたんだね、お芋のお化け……」

「通路がこれほど汚れてしまいましたがよろしかったのでしょうか……? みなさま、お怪我はございまぁっ……!」


 ずしゃっ。

 不幸なことに、床一杯の油に兎耳の穏やかな表情がダイブしてしまった。

 きれいな白一色の身なりが油分を吸ってつるつるだ。思わず見開く赤い瞳がじんわり涙目になってる。


「……おい、大丈夫か。とりあえず料理ギルドのマスターに報酬の値上げについて物申すなら任せてくれ、倍額にしてやるよ」


 火気厳禁の理由がよーく分かった。ツキミのオリーブオイル和えに手を差し向けながらだが。

 兎らしい造りのある手と重なれば、生まれたての兎みたいな感じでよろよろ起きた――フレッシュな香りがする。


「……うぅ……わ、わたくしの服がぬるぬるになってしまいました……!」

「わたしもぬるぬるだー……気持ち悪い……」

「服の中がつるっとしてくすぐったいよー……」

「これで5000とか信じられませんね、交渉の場は是非ともあにさまお願いします。ガツンと言ってやってください」


 見れば九尾院のロリどもは強さがたたってひどい有様だった。

 誰かが軽はずみに火でも起こせばフライができそうだ、ヒロインらしい衣装が差し込む陽を反射してる。


「……オリーブオイルの匂いがする」

「ニクちゃん舐めちゃだめだよ! お腹壊しちゃうかもよ!?」

「ん、大丈夫だよキャロルさま。普通の植物油みたい」


 ニクも耳や尻尾を油で濡らしながらもすんすんしてた。

 ぺろっと舐めれば味も立派なオリーブオイルだったらしい。

 バックパックと銃はまだマシなほうだが、これ以上使わない方がよさそうだ。

 何せ振り向けばなぎ倒した数々が道のりを油漬けにしてるんだからな、以後火気厳重注意だ。


「火を使うなっていう理由が今身に染みてるところだ。お前らもそうだろ?」


 俺は油の染みた不快感について物申しながら、コの字廊下の途中を見た。

 途中で栽培室への扉が開いてた。直進すれば研究室やらのある西側の通路へ通じる道がある。


「ぬるぬるしてるからね! ……帰ったらみんなでお風呂入ろうね?」

「これじゃ飛べなくていやだよぅ……はっ、ボクこのままじゃフライドチキン」

「……ツキミねえさま、大丈夫なんですか? すごく歩きづらそうにしてますけど、いえコノハもご覧の通り足元ぬるぬるで気持ち悪いことこの上ないのですが」

「……ローブがこすれて、その、肌触りがくすぐったく……!」

「ん……っ♡ 服の中がぬるぬるして、変な感じ……」


 火気厳禁が染みてる面々も相当な被害だ。みんな動きづらそうにしてる。

 大惨事の通路を後に、油を感じる足先でそっと緑豊かなガラス張りを覗けば。


「……で、これが栽培室か。なんていうか、その」


 この農作物研究所のすごいところが良く浮かんでた。

 中に道が張り巡らされて、その横合いで土で育った野菜や果物が色鮮やかだ。

 だけど目を引くのはそこじゃなかった、天井だ。


「上に果物がいっぱい……! あっメロン生えてる!? すごいよここ、果物天国!」


 オリーブオイルくさいキャロルが目を輝かせるような、そんな光景がずらっと頭上を覆ってるのだ。

 道に沿って設けられた木製のガワには果物が赤青黄色と力強くぶら下がってた。

 特にベリー系の色とりどりさが強いが、中でも目を引くのメロンの形だ。

 レールに沿うような生き方で実ったそれが甘い香りを漂わせてる――うまそう。


「その天国からあんな地獄から来たりしオカルトジャガイモが生まれたんだぞ――ちょうどあんな感じのな」


 だが、そんな風景におかしなものがやっぱりいた。

 整えられた土壌を踏みにじり、ぶら下がる果物へよろよろすがる緑の巨体が一つ。

 ポテトフィリドだ。こいつらはまごうことなくここで生まれた。


「もう半分ほど地獄に代わってるんですよね……って待ってください、なにしてるんですかあのじゃがいものお化け」


 見る限り他にいないようだが、コノハがおかしな動きに気づいたらしい。

 そいつはツタをうぞうぞさせてた。まるで頭上の果物を探るような……。


「……ねえ見て、あれって果物食べてるんじゃないかな……? ずるい」


 果物に目が行ってたピナもそうやって気づいた通りだった。

 ビタミンに困らなさそうな環境に陣取ったまま、一面の甘そうなものをぶちっと千切って運んでる。

 頼りない手先が運ぶのは大きく開いた球状の口中だ。

 「食べる」というよか「しまいこむ」ような動きで、メロンやらいちごやらを豪勢に捻じり込んでた――ずるい。


「……メロンをお食べになっておられますね」

「ご主人、植物が植物を食べてるけど……?」

「おいおい……まーた共食いかよ。とうとう動物だけじゃなく植物もそういう性癖開いちまったのか」


 兎耳と犬耳と一緒に目で追えば、芋の怪物はのろのろフルーツ食べ放題だ。

 皮も種も食らっては次の犠牲者(果物的な意味で)をたぐって、植物界のカニバリズムを執り行ってる。

 なんて恐ろしいものを生みやがったんだ――クナイを抜いた。


「共食いにご縁があるような言い方ですねあにさま、なんかあったんですか?」

「なんかあったからこうして油まみれになってる。やるぞ、いけるか?」

「……コノハたち、このままクランハウスに帰らないといけないんですよね。どこかでお風呂とかお借りできませんかね? いやですよぬるぬるのまま徘徊するとかなんか変態さんみたいじゃないですか」

「そのことについても依頼主に確認だな。いくぞ」


 コノハが小刀を抜いた、そのまま静かに果樹の道を辿っていく。

 それに合わせて満足したポテトフィリドが一歩前進、影が見えたところで得物をぶん投げ。


『RTTTTTTTTTTT……tttt!?』


 茎が落とす影を縫い留めた。

 引きつったクリック音に油で輝く狸少女が迫れば、背後から首下を搔っ切って切断処分である。


「……見た感じだとここにはもういないみたいですね、栽培室制圧です」


 仕留めた和風姿が早足に戻ってきた――ただし手には果物だ。 

 手癖の悪さで手ごろなイチゴを拝借したらしい。口元がもぐもぐしてる。


「こらっ! コノハちゃん、勝手に食べちゃダメでしょ! シーちゃんに怒られちゃうよ! ずるい!」

「あっイチゴ食べてる! ずるい!」

「……コノハさま、いけませんよ。勝手に研究所のものをいただくのは無礼が過ぎますかと……ずるいです」

「これはなかなかですね、甘くておいしいです。まあポテトリフィドのせいっていうことにしてきましょう」

「こぞって食いたがってるんじゃないよお前ら」


 九尾院の面々も道中で豊かにしてる果物に遠慮のなさが炸裂しそうだ。

 しかし現状を見るにこの油まみれだ。お詫びに果物よこせぐらい横行しても許される空気があって。


「――ブルーベリーおいしい!」


 たったいま犯人が増えた。ピナがベリーの青色を頬張ってる。


「……ポテトフィリドのせいだよね!」

「……消耗した体力を癒すためです、仕方がございません」

「アーツとか使うとすぐお腹減っちゃうもんね、ちょっとだけいただきます!」


 ……キャロルとツキミも手が届く範囲から果物を物色し始めた。

 どいつもこいつもとうとうビタミン摂取に勤しみ始めた、流石にメロンを掻っ攫う猛者はいないらしいが。


「犯人はそちらで倒れてるポテトフィリドのせいということで。ほら、ニクちゃんもどうぞ」

「ん、食べていいの?」

「人のわん娘を共犯にするな、怒られても知らないぞ俺」

「大丈夫ですメロンは見逃してやりますから。あにさまもどうです?」


 狸の魔の手でニクも巻き添えだ、ちょっとした果物狩りが始まってる。

 そのうちコノハが「どうぞ」といちごをパスしてきた――甘酸っぱい。

 これで果物泥棒が六人か。俺たちはほどほどに摘んでから通路の東へ向かった。


「……後は館内東側と外にいるあいつぐらいか? 先に言っとくけど「実はまだいました」なんてオチはごめんだからな」

「あの大きさと動きじゃ研究所内に隠れられる場所なんてありませんよ。けっこうな数が留まってましたし、じゃがいものおかわりはもうないかと」

「あんな芋飛ばすわ油まき散らすわの迷惑極まりないクソ植物は今日だけで十分だ。あの驚きの生態系をクリューサに……ん?」


 果物泥棒と先行しつつ残党を探してる、そんな時だ。

 通路の途中にボードが貼ってあった。そこに縫い留められた手書きメモに。


【メロンの水耕栽培はなんとしてでも成功させよう! 追伸-おい、最近君たちは業務中に無遠慮かつおやつ感覚で果物をもぎとってるが一言物申すぞ。果物狩りをするためにここで働いてるわけじゃないことを忘れるな】

【"うぇいすとらんど"からきた人々の技術と知識には驚かされているが、なぜこれほど進んだものを持っているのに向こうの世界が一度滅びたのか不思議だ。彼らの積み上げてきた歴史を我々が繋いで見せよう】

【誰だ市場で買ったいちじく育ててるやつ】

【水耕栽培について飢渇の魔女リーリム様が「おいも作りませんの?」と悲しい目をされてたが、農業都市の総意は「土使わずに済むとか楽じゃん」だ。存分に調べたまえ】

【やっぱじゃがいもは土で作った方がうまいことに気づいた。農業都市の農家へサンプルを送ったところ皆口をそろえて言うんだから間違いない】

【イグレス王国の貴族様が「土もないところでこれほどのメロンを……」と驚いておられて当研究所に多額の出資をなされました。生ハム用意して待ってるそうです】


 と今日この頃の意気込みが書かれてた。

 読み取れる限り、あんな化け物を意図して生み出すような連中じゃないのは確かか。


「歩きづらい……」

「……キャロル姉さま、お召し物が油でべっとり濡れておられますね。大丈夫ですかか?」


 依頼達成のため、ひいては油の跡を引きながら進んでる時だった。

 後ろでキャロルが服のべたつく音と一緒にかなーーり機嫌の悪そうな声を上げてた。

 振り返ると油が染みた服に足元が鈍ってる、これじゃ戦う時もだいぶ不便しそうだ。


「……うう、足がぬるっとして力が……あっそうだ! これ脱いじゃおう!」


 一体どんな恐ろしい発想が浮かんだんだ、急にぬちゃぬちゃいい出した。

 背中に伝わる怪奇な音に振り向かないようにしてると。


「……ってキャロルねえさま!? ちょっまってください! 何ぱんつ脱いでるんですか!?」

「キャロル姉さま、いけません……! いきなり下着を脱ぎだすなんて、はしたないですよ……!」

「すーすーするけど動きやすいよ!」

「いや何得意げにしてるんですか!? あにさまいるんですよ!?」

「その手があったかー! ボクも脱いじゃっていい?」

「ピナ様、おやめください。そのお気持ちは分からぬわけではございませんが、九尾院の心証のため、どうかそのままに……」

「ピナねえさまスパッツじゃないですか!? 絶対脱いじゃ駄目ですよ!?」


 本当に恐ろしいことをしでかしてた。

 すっきりしたような物言いから察するに本当に敢行したんだろう、なんて奴だこのお姉ちゃん。


「これですっきりだよ! ニクちゃんもどうかな?」

「ん……流石に恥ずかしいんだけど……」

「大丈夫だよっ! おねえちゃんも一緒だ!」


 ついでに人の犬を誘うな馬鹿野郎。

 なんでこんなパーティ入ったんだろう俺。そう思う頃にはしゅるっと異音を感じて。


「……これでいいの?」

「わっ、大人びてるぱんつ」

「ほんとに脱いじゃったんですけどこの子!? やめてください二人とも、まさかそのまま戦うつもりなんですか!?」

「九尾院の子たるもの、ぱんつがなくても心穏やかにだよコノハちゃん。いい?」

「いやなにクランに勝手な形で格言を設けてるんですか!? あにさまこの人たち止めてください!」


 たぶん振り返ろうものならすごいことになってると思う、下着をあきらめたメンバーが二人いる。

 極力関わらないように顔をまっすぐにしてると、ぴとっとニクがそばに触れて。


「ん……♡ すーすーする」

「なんの報告だ」

「……ご主人、これちょっと恥ずかしいんだけど」

「なんの報告だ!? 畜生、人のわん娘になんてことしやがるこの姉!」


 もじもじしながら上目遣いを送ってきた。やりやがったなこいつ。

 だが地獄はまだ続く。油でしっとりな金髪ロリもちょこちょこ追いついてきて。


「はいっ、お姉ちゃんのだよー♡」


 明るい笑顔で何かパスされた――油でねっとりした布地だ。

 面積控えめのほんのり温かい縞模様が、オリーブオイル漬けのままくしゃっと丸められた。

 手のひらの上で【分解可能!】と出た正体は、ちょうど目の前の無邪気な笑顔が暴露してるところで。


「――チェンジで」


 べしゃっと地面に送り返した。

 床材にきわどい青白の縞模がちょうど広がってる。

 前々からおかしいやつと思ったけどかなり深刻だったことがようやく判明した。当の本人は無垢な笑顔なのがたちが悪い。


「こらっいち君! おねえちゃんのぱんつ投げ捨てないの!」

「なんでなんの抵抗感もなく下着渡しちゃうんですかあねさま!? っていうかあにさまはあにさまでチェンジって何事ですか!?」

「下着を男の人に上げるのは親愛の印だって書いてあったから、ちょうどいいかなって思ったの!」

「それ黒井ウィル先生の偽りの知識ですよね!? こんな状況でちょうどよさを見出して渡さないでくださいキャロルねえさま!」


 パンツをよこす奇行の原因が判明した、黒井ウィル先生だ。

 あの野郎ラブホに続いてまたしても俺に牙を向きやがったな。


「こんな油でぎとぎとのきったないやつ渡された俺の気持ちを考えてくれ……」

「今朝はいたばかりだから平気だよ! もっとセクシーなのもあるからね!」

「なんの情報だ!?」

「依頼中にぱんつの話に傾かないでくださいお願いですから!」

「ちげえよそいつが勝手に押しつけがましくしてきただけだよ! お前らそういうクランだったのか!?」

「どういうクランですか違いますからね絶対!? ちょっとキャロルねえさまがぶっ飛んでるだけです!」

「おねえちゃんのぱんついらないんか……?」

「にーちゃんにぱんつあげればいいの? ごめんね、ボクはいてないや……」

「……わたくしも下着はつけておらず……ご期待に沿えられず、誠に申し訳ございません……♡」

「どういうクランなんだ九尾院!?」

「コノハもとんでもない事実を立て続けに聞かされたんですけどどうなってるんですかこのクラン!?」


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