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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
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60 またカルトだよストレンジャー!


 メイドさんたちと親睦が深まりすぎてややしばらく、俺はいつもの集会所の顔ぶれに混じっていた。

 みんながわいわいやってるからだろうか、この日の冒険者ギルド支部は何時にもなくざわついてる。


「――白き民を崇める連中のことか? ちょうど俺も気になってたんだが」

「ああ、タケナカ先輩もか?」

「そりゃそうだろう、その手の依頼が急増してる中でぎゃーぎゃーうるさくしてやがるんだからな」


 そう、テーブルの隔ての向こうで坊主頭が悩ましくしてるようにだ。

 こうしてばったり会うなり、先日耳にした『白き民を崇める人種』について持ち掛けられてた。


 というのも、宿の親父さんから噂を耳にしてから気がかりだったからだ。

 十年ほどの浅い歴史があること、白き民の依頼が増えるにつれてそいつらが活発になったこと。

 そういった事情を含めて見てみれば、やはり何か妙なものを感じるわけで。


「そういう微妙な反応が返ってくるってことはだ、そいつらに関して何かよろしくない情報でも仕入れた感じか?」

「まあな。ちょいと街の住民に聞き込んでみたんだが、確かにお前の言う通りだ。あいつらは十年ほど前からこの街でこそこそとあの白いのを崇めてたらしいが」

「それが最近になってまた活発になってる、ってことらしいな」

「俺たち向けの仕事が増えてくこのタイミングでな。それになんだかやることがどんどん派手になってやがる」

「派手になってるって?」


 きっとタケナカ先輩も同じ心境に違いない、悩ましい表情のまま宙に画像を送信してきた。


「今朝のことだ、広場でこうも大げさに宣伝する奴がいやがったみたいでな」


 PDAを見れば一枚のスクリーンショットが全てを物語ってる。

 クラングルのど真ん中にある広場のどこかで、白い外套を着こんだご老人が大げさな身振り手振りのまま固まってる。

 青く眩しい朝の下、目をギラギラさせたやつがさぞ声をでかそうにしてるのはあんまり健全じゃなさそうだ。


「ワオ、朝早く説教してる暇そうなやつが見える」

「俺もそんなやつに見える。こいつがそうなんだが」

「顔からポーズまで分かりやすくて助かるな。つーかこいつが例のやつらか、初めて見た」

「そいつらが語るには『白き教え子たち』だとさ。朝っぱらから『冒険者どもが白き民を怒らせた』だの言い広めてやがったみてえでな」


 タケナカ先輩がこうして嫌な顔をするだけの価値はありそうだ。

 現にこの一枚にはちょうど通りすがる人間が「なにあれ」と距離を置いてる。

 ここに『冒険者のせいで白き民がお怒りだ』というセリフが当てはまるなんて馬鹿極まりない話だ。


「どういうことだよ。俺たちなんかしちゃいました? って気分だぞ」

「まずそうだな、住民や同僚の証言を寄せ集めて推測するにだが……こいつらはどうも白き民を崇高な種族として崇めてるらしい」

「あれが俺たちより上等だって? 何をどうすりゃそこまで感極まるんだ」

「こうして朝から嫌な話ができるってことはだ、お前は白き民についてある程度は知ってるよな?」

「フランメリアが経ってから現れ始めたってところからばっちりな」

「どうもそこから始まってるそうだぞ。白き民は元々フランメリアにお住まいだったいにしえの神様で、そいつらから土地を奪ったせいで彼らは我々に牙を向いてるだのなんだのデカい声で主張してるらしいが」

「そんな設定初耳だぞ。で、俺たちが頑張ったから神様怒らせたって言いたいのか?」

「そこに今朝のこのお気持ち表明で『白き神が現世に戻った』と『お前たちは神を怒らせたから世界は終わる』と『冒険者はクソだ』の三つが強気に付与されたらお前はどう思う?」

「朝からいやな気分になるな」

「ああ俺もだよ。やっといい流れになってきたってのに不愉快極まりねえ話だ」


 続けて聞かされたのは相変わらず縁のある連中のそれらしい主張だった。

 そいつらが白き民の歴史について触れ回るだけならともかく、朝日の下で世界の終焉を謳えばただの迷惑系カルトである。

 またその手のやつらか。俺だって嫌な顔がどんよりだ。


「仲良くなれないやつだとは思う。ただのクソカルトだ」

「今んところ被害は朝からやかましいぐらいで済んでるがな、あいつら俺たちがあの仕事を終えてからしつこく主張し続けてるんだよ」

「こっちに来てまたカルトってわけか」

「その言い方は何か良くない縁でもあるみたいな感じだなお前」

「親がカルトでひどい目に会っただけだ」

「なんてこった、そりゃ嫌な思いもするだろうな」

「まったくだ」


 そいつらの働きぶりは確かに影響を及ぼしてるだろうさ、こうして俺が不愉快になってるんだからな。

 『大変だったんだな』みたいなタケナカ先輩の顔が呆れたようにやってくるも。


「で、こいつらは他にどんな活動をしてるんだ? まさかこうして声と書き置きでお気持ち表明に力注いでるだけの連中なのか?」


 PDA上の不審者に問いかけるように尋ねてみた。

 今のところこいつらの所業は貼り紙と演説と俺をイラっとさせたことぐらいだ。

 が、返ってくる答えは「それはだな」と言葉に困った様子が最初で。


「今現在、確認できるのはこんな張り紙で触れ回るのと、俺たちへの非難と世界の終わりへの注意喚起ぐらいでな。逆に言えばそれ以外何もしてないってことになるんだが」


 そう返すなり、タケナカ先輩がごそごと身なりを漁って何かを取り出す。

 紙に浮かんだしわくちゃ加減がテーブルに置かれた。

 内容は白き民のイラストと、なんともオカルティックな情景が足された怪文書で。


【白き神はお怒りである。この地を踏みにじる者たちへしかるべき裁きを下すべくこの大地の下にお戻りになった。愚かな人々が産み落とした偽りの妖精を捧げしその後、黒く汚された天使と交わり浄化しその時、この世に審判が下るであろう!】


 ――などと黒くて赤い瞳をしたデカい人型がど真ん中に君臨した上で、強そうな言葉だけが並んでた。

 ちなみに白黒二人の頭上ではクラングルと思しき壁と街が表現されてる。

 まるで都市の下に何かいるような不気味さは果たして壁に貼っていいのやら。


「あーうん、もう一つ罪状追加だ。その名も紙の無駄遣い」

「それと燃やせるゴミの不法投棄だろうな」

「こんなのご近所に貼られたら一日が台無しになりそうだ」

「街の人達が迷惑がる理由が良く分かるだろ?」

「ついでに俺たちも迷惑だ。冒険者がこの神様を怒らせたって?」

「いうにはこの頃白き民が増えたのは俺たちのせいってことになるらしいぞ。実際どうだか分からんがな」

「こういう手合いが声デカくして叫んでるってことはどうせ嘘と見栄だ、気にしなくていいと思うぞ」


 あんまり崇めたくない白黒をひらひらさせた。

 タカアキに負けない怪文書は紙相応に薄っぺらいが――


「いや、こっちでもカルトに会うとか俺たちツイてなくね? 笑うわこんなん」


 なんだったら怪文書に定評のあるご本人がすたすた混じってきた。

 マフィア姿の【アイアン】相当のシートをぶら下げた奴がしれっと現れて、手にした紙を見るなり鼻でひと笑いだ。


「タカアキ、お前よりひどい怪文書だと思わないか?」

「俺だったらもっとキモくねっとりすると思うぜ。いやなんだよこれ、大層立派なお気持ち表明してるように見えるけど俺たちに伝えたい部分ふわっふわじゃねーか」

「元の世界のクソカルト連中の方がもっと上手だったろうな」

「だろうなあ。なんつーかよ、勧誘だとかそういうのじゃなくてはしゃでいるような文面じゃんこれ。クスリでもやっておられる?」

「クリューサがいたら末期の脳か心の病気って診断してくれそうだな」

「誰だクリューサって」

「知り合いの顔色めっちゃ悪い医者だ、ウェイストランドで一緒に旅してた」


 この紙の美点は一つ、二人で昔の出来事も笑い飛ばせたことか。

 いまいち伝わるものがないぺらぺらを置けば、タケナカ先輩は不気味さを振りまく紙に嫌な目つきなままだ。


「こんな気味悪いもんお目にかかれて笑い飛ばせるとはな。お前ら昔何があった、とか聞きたくなってきたぞ俺は」

「タカアキは俺の幼馴染でな、まあちょっと昔一緒に苦労した仲だ」

「俺もこいつもカルトには縁がないんだよ。特にこの殺人パン屋はその手の奴に追い回されてきたからな」

「しかもウェイストランドでもそう言うのと二度も遭遇したぞ。んで今度は四度目が果たされたわけだな」

「だなあ、お前なんか引き寄せてるんじゃねーの?」

「……なんてひでえ話だ、大丈夫なのかお前ら。まあ、笑って話せるってことは「変なことを聞いてすまなかった」とか言わなくていいんだよな?」


 二人で思い出に浸ってると微妙な顔をされてしまった。

 人生で四度目のカルトだけど、もしかして俺にはこういう手合いを引き寄せる力でもあるんだろうか?

 まあ、気にするなと首で返しておくとして。


「心配すんなタケナカ先輩、人生で四回遭遇して二回は潰してきたから」

「ご覧の通りこいつ笑顔だし大丈夫だろパイセン、そういうの物理的にぶっ潰すようになってお兄さん嬉しいや。成長したなあイチ」

「おい、いい顔ですげえこと言ってやがるが()()()ってのはなんだ。何しながらここまで来たのか心配になってきたんだが」

「解散させてやった」


 少なくとも俺には人食いカルトとドッグマンカルトを道中潰した実績がある。

 その証拠に「にっこり」しておいた――ちょっと引かれた。


「……お前が言うんだからマジなんだろうな、そんな後輩が怖くなってきたよ」

「こいつらが悪さしたら俺が全部やっつけてやるよ」

「それでだ、お前ら。我らがギルマスがどうもこの白い連中を気にしてるみてえだ、なんでかは分かるよな?」

「俺たちの仕事の邪魔になるからだろうな、白き民絡みのお仕事で栄えてる今日この頃にだ」

「それに冒険者のイメージも汚すにはいいボリュームだと思うねえ、おまけにクラングルご在住の皆さんもさぞ不愉快な一日をお過ごしじゃねえの?」


 そんな白い連中にどうにもギルマスはご機嫌がよろしくないみたいだ。

 確かに、クラングルにストレスと不安を巡らせるには十分な材料だろうな。

 けれどもタケナカ先輩の目つきは一つ上の心配事をもってるようで。


「まったくもってその通りなんだが、十年も大人しくやってた連中がなんで今になっていきなり勢いづいたかって気にならねえか? タイミングといいやってる事といい、どこか妙だろ?」


 今まで表立たなかったやつらがどうして急にバカ騒ぎを起こしてるのか、と置かれた紙越しに悩んでる。

 何度見ても「俺たちの足元に白き民と黒い化け物がいる」という不気味な絵面だ。

 こんなものをばら撒いてやかましくしてる理由は一体なんだ?


「あっ、おはようみんな。どうしたのかな、三人でお悩みみたいだけど……?」


 くしゃくしゃのイラストもまじえて「うーん」と悩んでると、おっとりした声が混ざってきた。

 ミコだ、穏やかな様子で集会所の人混みをかき分けてきたらしい。


「おはようミコ。ちょっと男三人で悩ましくしてたところだ」

「やあおはようミコちゃん、なんつーかこいつの嫌いな話題だぜ。カルトのお話だ」

「おはよう、来て早々悪いんだが【白き教え子たち】とかいう連中について話しててな」


 俺たちは三者三様で、ついでに奇怪な紙も見せれば桃色髪のお姉さんも「またカルト……」とでもいいたげだ。

 すぐに話に加わりにきてくれた――ただし。


 むにゅっ♡


 なぜかすぐ真横、胸を押し付ける形でくっつきながら。

 いきなりの距離感にサングラスも坊主頭も「えっ」って顔だが、腕の柔らかさにはぞっとする何かを感じた。


「……なあ、ミコ?」

「白き教え子たち……確か、今朝も広場で演説していた人たちですよね? なんだかわたしもちょっと気になってて……」


 真面目な言葉は話を折らずに支えてるものの、なぜだか腕が持ってかれる。

 柔らかくて暖かい、もっといえば体温のある塊二つが押し当てられたままだ。

 もしかしてと横目を這わせれば、むすーとした頬のつくりがうっすら見えた。


「…………えーと、だな、そうだ、あんまりにも不自然すぎやしねえか? こんな突拍子もなく声をデカくして、しかもやってることはただ人類への警鐘をクソやかましく鳴らすだけ。強引な勧誘だとか詐欺を働いているわけでもないんだぞ?」


 タケナカ先輩は強引に話の調子を取り戻してきた。

 堂々とべったりくっつくミコに周りはざわざわである。

 幼馴染に至っては「あちゃー」って顔だ、なんだその表情。


「あー、うん、確かにおかしい話だと思う。いきなり勢いづいたのは今のところ理解できないけどな、そのままのノリでやってることがただの偽りの預言だけっておかしいだろ。一方的すぎるんだよ」


 暖かい胸のボリュームを腕にしたまま、俺はまた紙を見た。

 よくわからない文面はともかく【感覚】ステータス的に感じる点が少しある。

 この図が教え解こうとしてるのは「だから白い民を崇めよ」だとか「我々の同志になれ」とかじゃない気がする。

 一方的なのだ。この世が終わるから歯食いしばれ程度の警告にしか見えない。


「だよなあ……そういう連中からすりゃ、じゃあうちらの神様が暴れ狂ってるから悔い改めるチャンスですよって感じで信者収穫シーズン到来なんだぞ。なのにやってるこたーこうだ、勝ち誇ったみてえにこの世の終わりを触れ回ってんだぞ」


 タカアキも気づいてたか。この文章はここで終わりなのだ。

 まるでこれだけ大きな態度に出られる何かを得たような、そんな調子が籠ってる。

 

「……ねえ、いちクン? わたし、ちょっと思うことがあるんだけど……」


 また紙とにらめっこしてる時だ、ミコがそっと口にした。

 相変わらずべったりくっつくその物言いは、なんだか俺の脳裏に触れるものがる。

 いや、俺だって話を聞いた時からそう言うのを感じてる。何か引っかかるのだ。


「どうした?」

「白狼教会は覚えてる?」

「スピロスさんご一行ごとな――いや、待て」


 しかしだ、あのカルトの名がこうして出てきていよいよ強く感じてしまう。

 アルビノのドッグマン崇めるカルト、その名も【白狼教会】とかいう連中のことだ。

 あいつらはスティングの騒ぎの中に紛れて「神の子を産ませて食べてみんな神になる」とかいう馬鹿を成し遂げようとしてた。

 その背景にはどこぞのクソ共産主義者どもにそそのかされた背景はあれど、いきなり街中で世界の終わりを表明してた気がする。


「あんな感じだなって思うの、あっちとは違って布教活動とかはしてないみたいだけど」

「ちょうどあいつらも世界の終わりを訴えてたな。そう考えるとなんか重なってきたぞ」

「……あの人たちみたいにとはいわないけれども。この人たち、ここで何かしようとしてるのかなって思うの。なんだかこの文章も教えを説いてるっていうか、得意げになってるように感じるし」

「オーケー。いま俺の中でNGに指定したいワードが一つできた、その名も『儀式』だ」


 相棒と共有する思い出がなんとまあ、皮肉な形で働いたことか。

 確かにそうだった、あの白狼教会も神になれる一歩手前で浮ついてやがった。

 白いドッグマンに産ませた子供を食べれば『神食』で神になれる、とアホ抜かしてたのは嫌でも覚えてるさ。

 その出来事を踏まえるとこう感じる――『白き教え子たち』は何かしてるんじゃ?


「……ご主人、白狼さまがどうしたの?」


 敏感に聞き取っていたであろうニクも耳をピンとさせながらやってきた。

 料理ギルドのオートマタからもらった干し肉をむしゃむしゃしながらだが。


「なんだかそれに近い何かを感じてるところだ。何か胡散臭いことマジでやってるかもしれないぞ、儀式とかな」

「またカルトが悪いことしてる?」

「かもな。嫌なもん思い出した」

「もしかしてだけど、クラングルで何かしようとしてるのかも……?」

「おい、どういうことだお前ら。儀式だって?」


 とうとう思い入れのある三人であれこれ話してると、タケナカ先輩がしゃれになってない様子で割り込んできた。

 さっきまで投げ捨ててあった紙が一層気味悪く見えたらしい。


「なんかその手の思い出があるみたいだなお前ら? つまりどういうこった、なんかすごいことが裏で起きてるのか?」


 そんな白き民と黒いやつの構図を拾い上げるやつがいた。タカアキだ。

 どう説明したもんか、ともかく俺にできる説明はこうだ。


「今までの話をまとめるとおかしいんだよな。この手の奴がいきなり現れて、得意げな顔して世界が終わるだのを解いてるんだぞ? 勧誘っていうか注意喚起だ、信者を増やす形には思えないだろ?」


 俺は紙に描かれた奴に関して物申した。

 ここにある仰々しい白さと不気味な黒さは住民の不安を煽るだけだ。

 同時にこうも感じる。もう信者を増やさなくてもいい、みたいなところまで極まった連中の気概だ。


「そもそも冒険者でいっぱいのクラングルでそんなことを朝から堂々と言うのもおかしい、もしガチで白き民を崇めてるなら、ここは敵地ど真ん中だぞ? そんな場所でおっ始めるとかよっぽど何か決定的なものか自信があるか、それかガチで狂ってるか、どうであれそれを裏付けるなんかが背後にあるんだろうさ」


 そこに見出した点も付け加えると、周りの冒険者もそろそろと耳を立てにくるも。


「俺には「信者はもういらない」「俺たちすげえことしてるぜ」ってサインに見えるな。なんていうか挑戦的なんだよ、この怪文書は」


 こう続けると、先輩も幼馴染も「おいおい」って顔だ。

 同僚たちもざわめいて訝しむぐらいだ。やっぱり何かがあるぞこれは。


「……あいつらただ喚き続けてるじゃねえってか、それがマジなら気味悪いにもほどがあるぞ」

「確かにそうだなぁ、同調してくれる奴をお尋ねするようなデザインじゃねえもの。ってことはなんだ、俺たちの下でこそこそ悪いことしちゃってるってか?」

「ギルマスの心配は正しいかもな。あいつらがこうも活発な理由を探っておいた方がいいんじゃないかっていうのが俺の意見だ、どう思うタケナカ先輩」


 一通りそう教えて「以上だ」と頷いた。

 耳にしたタケナカ先輩は、いや、集会所の面々も胡散臭いものを感じ始めてる。


「……今現在は衛兵が多忙であること、それから実害はないからと放置されてるようだがほっとけない話題になってきたな。何かにおうぞ」


 気持ちが重なってくれたか、気味の悪い文章に警戒心をもってた。


「このままほっとくと街に何か起きちゃう系の案件かもしれねえぜこりゃ、俺も心配になってきたぐらいだ。どうするよ?」


 タカアキも周りの冒険者たちに調子を尋ねてる。

 そろそろ誰もが『白き教え子たち』を疑う頃だ。


「街の人たちもけっこう不安に思ってるみたいだから、わたしも調べた方がいいと思います……もしかしたら、ここで何かしようとしてるかもしれないし」


 そこにミコの声も直接届けば、もはやみんなの意志は大体一つだ。

 すっかりここの顔になった坊主頭は目で分かるほど気をぎゅっと引き締めて。


「分かった、俺たちは白き教え子たちについて調べるべきだ。今話したことはひとまずギルマスに報告するとして、すぐにでもあいつらの動向を探ったほうがいいな」


 集った連中に向かって言い広めた。

 大分面構えの違う面々が揃っただけあって、誰もが耳を傾けて乗り気だ。


「よし、聞けお前ら。手の空いてるやつは今すぐにでも『白き教え子』たちについて情報を集めろ、ただし直接接触はするなよ。できればフレンドにも話を広げて俺たちの動ける範囲を少しでも増やせ」


 厳つい顔が手短にそう伝えれば、さっそくこの話題を土産にギルマスのところへ向かったらしい。


「面白くなってきやがったな。あの騒がしいのは気に食わなかったところだ」

「俺も寝起きを邪魔されたばっかだ。お前らいったん集まれ、聞き込みのやり方を教えてやる」


 代わりに聞きつけた先輩どもが集まってきた――集会所は一瞬でやる気モードだ。


「こういう手合い相手にそこまで言えるようになるとは、お前も強くなったじゃねえか?」


 タカアキもやる気か。「へへっ」と楽し気に小突いてきた。


「あの時とは違うってところを良く見せてやるさ」

「んじゃ俺もだ。あの時のリベンジと洒落込もうぜ」

「まあ俺の方が一足二足先にやり返してたけどな、これでカルトを潰すのが三度目になりそうな気がする」

「いうことが派手だねえ、よーしお兄さん頑張る」


 この手の縁を共にする幼馴染とこつっと拳をあわせた。カルトキラー・イチ再来だ。

 そうやって二人で楽しくしてると。


「……ねえいちクン。やっぱりわたしたち、こういうのと縁あるのかな?」


 そういえば半年前からカルト案件に首を突っ込む相棒がいた。

 ミコはおっとりした顔と声に「またカルト」と良く浮かべて思いを馳せてる。

 ただし、なんというか、さっきからずっと胸を押し当ててくるのだが。


「ぶっ潰すところまでがそうだろうな。そこまで値する連中じゃないことを願うか」


 そう言葉を締めて俺たちも先輩どもの元へ向かおう、という時だった。

 腕を取ったミコがしゅっと空中を引っ掻いた、メッセージ機能を使ってる動きだ。


*ぴこん*


 さっき感じた不穏さが蘇ってしまった。

 見れば画像を受信中、送り主の名は【ミセリコルデ】で。


『一緒にお泊り行こうねー♡』


 場合によってはすっごい恐ろしい文面と共に、心当たりしかないスクリーンショットが添えられていた。

 どっかの浴場のタイルの上、泡まみれのままセクシーな狼狽顔を振り向くメス男子がぐったりしてる最中である。

 もっといえば撮影者はロアベア、なんならミコにそんなもん送り付けたのもロアベアァ!!


(ふふっ♡ 一泊二日でいいよね?)


 あいつのおかげで桃色髪の相棒はいい笑顔で囁いてきた。

 ただし緑色の瞳はボスの狙撃手向きの目つきより据わってる――死ぬわ俺。


(…………まことにごめんなさい)

(……わたしもメイドさんになろっかなー? あ、ロアベアさんも誘っちゃおうかなー?)

(畜生、お前のせいだぞロアベア……!)


 前に妖しさうごめくカルト、後ろにスイッチ全開の相棒、なんてひどい構図で『白き教え子たち』の調査が始まってしまったんだろう。


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