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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
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58 やっぱり大好きなメイドさん(4)

 こんな場面であの素行の悪そうな羊メイドを呼ぶ理由はなんだろう。すぐそんな心配で顔が向くも。


「……ほんとにやるんすかロアベアパイセン。や、別にいいんすけどね? でもこの人大丈夫なんかなって心配なんだけど」


 なんならご指名の本人もご心配の様子だ。

 短めのスカートの下、人間らしい太ももを辿ればやがてつく膝の下――黒い毛皮を持つ羊らしい足がそうだった。

 ふわっとした毛並みの下には彼女を羊たらしめる蹄があるのだ。

 メリノは羊の耳をぺとっとさせながら、そんな自分の黒い足先を「いいんかこれ」と俺を心配そうに比べてた。


「……人の身体で何するつもりなんだお前ら」

「メリノちゃんの足って体重をかけやすい形をしてるっすよね? ならそれで圧し掛かってもらえばいいマッサージになると思ったっす!」

「あの……やめたほういんじゃないのロアベアパイセン? こちとら人外なんだけど、人の背中踏みにじるとか趣味じゃないんだけど、思いとどまれる時期だと思うんだけどどうなん?」


 俺だって心配したが、まさかそれで人様の背中を踏もうとするなんて誰が予想したか。

 ロアベアが背中に乗って踏んでくれたのはいやでも覚えてる。もちろん死ぬほど気持ちよかったことも。

 じゃあこの羊系ガールはどうなんだろう――ロアベアほどあれこれデカいわけじゃなない、いけるか?


「――よし、やれ」


 本当はロアベアに踏んでほしいが彼女のマッサージセンスのことだ、そいつを信じてみることにした。


「ええ……別にいいけどさ、大丈夫なの? ほんとにあんた平気なの? いや頭とか心に対する心配じゃなくてね、人間とヒロインの頑丈さの違いとかいろいろあるじゃん? ていうか、こっち羊だよ? 汚いんじゃないの?」

「イチ様なら大丈夫っす~♡ それに頭もちょっとぶっ飛んでるんで~」

「頭おかしいって意味じゃなくて脳欠けてるって意味だぞ今のは。まあやってみてくれ」

「ちょっと待って何言ってんのこの人……まあいいけど、痛かったらちゃんと言うように――で、どこ乗ればいいのこれ?」


 問題ない、と促した。するとメリノもようやく一歩踏み出したらしい。

 具体的には人の背中までだが。黒髪クールな羊系美少女はがつっとベッドまで乗り上げると。


 ぐぐぐっ……!


 腰の上、まだ背中の張りが続いてるようなラインに冷たい重みが圧し掛かってくる。

 これが蹄の感触なんだろうか。人間の足とは違う、硬くて平べったい底がメイド一人分の重みを伝えてきて。


「……あのさ、痛くないの? その、重かったりしない?」


 初めての蹄の感触に驚いてると、背中にメリノの心配も落ちてきた。

 確かにずっしり来るが重いわけじゃない。むしろロアベアと違って力が鋭く入ってくるような……。


「けっこういい」

「え? いいって何が? このシチュエーション? それとも塩梅? どっちなん?」

「そのまま凝ってるところ踏んでくれって意味だ。ちょっと適当にやってみてくれ」

「いや適当って客人踏めっての私に。変態か?」

「パン屋だ……」

「どんな返答してんだこの人」


 ともあれもっと試してもらおう。ぐったり受け入れる体制を取った。

 うつ伏せの身体のまま待ちかねると、さっそくメリノはたどたどしく足踏みを始めて。


「……こ、こう? こんな感じ?」


 羊の蹄でバランスを取りつつ、腰と背の間、その両脇にあの平べったさをぎゅうっと伝えてきた。

 ロアベアが触れなかった筋肉の凝りにごりっとした重みがなぞる。背に気持ちのいい痺れが走った――


「……ん……今のいい……」

「今のいいとかマジなん……? じゃあ、こーゆーのは……?」


 段々と羊系の足取りが大胆になっていく。背骨を辿った蹄が、指圧で解された背筋を追いかける。

 そのたびにぐっ、ぐっ、となんともいえない重さが程よい感じで背中の調子を踏んでならす。

 初めて踏まれた時とは違う奇妙な気持ちよさがあった。

 背にこびりついた疲れがぎゅっと潰される感覚だ。つい「んふぅ」と妙な息遣いが出てくる。


「……なんか、すっごい……ぎゅっとくる……!」

「へ、へー……そっか、うん、気持ちいいんだ……?」


 メリノもだいぶ調子が乗ったんだと思う、段々動きから遠慮が抜けていく。

 ぐぐっ、ぐっ、ぐぐっ、と独特なリズムで人の背中に羊が散歩を始めた。

 揉まれて和らいだばかりの背で少し楽し気な足取りがステップを作り、指で届かなかったところへ蹄が食い込む。

 意外だろうが痛みと気持ちよさが混じる場所に妙に重なる。足底の大きさが筋肉を伸ばしていくのである。


「……どーしよ、これちょっと楽しいかも」


 一体どこに楽しみを見出したのやら、羊メイドは足先を目指してる。

 もちろん足掛かりにした部分も踏まれる。腰を通り越して、尻の筋肉が集まる箇所がぐりっと潰し。


「……つっ、かなりいい、いいところに当たる……」

「ふ、ふーん……良かったじゃん、なんかこっちもコツ分かってきたわ。こういうところとかどう?」


 二つの蹄が立ち止まる――思った以上に深い凝りに蹄のサイズがごりっと食い込み、途端に下半身に熱が流れる。

 やがて太腿の裏側まで到達。一歩進むたび、大腿骨を取り巻く分厚さもじんわりほどけていくが。


 ――ぐにっ。


 そのままメリノの足遣いが足先を目指していく、といった時だ。

 土踏まずに違う感触が混じった。温かくて、ぶにっとした柔らかみが二つも重なってる気が……。


「ん、ぼくもやる……」

「うわっ、あんたのわん娘ご一緒してんだけど。ねえ大丈夫? ヒロイン二人分の重さはヒロイン二人分なんだけど? 潰れちゃうけどいいの?」


 まさかと思ってちらっと見れば、黒い犬耳ッ娘がそこに立っていた。

 犬の四肢を駆使して、あの肉球がついた犬らしい造りで人の足裏を踏んでる。

 意外とある体重が柔らかいような重いような、それでいて犬の毛皮を感じる艶加減もろとも踏み抜いて。

 

「おああぁぁぁぁ……っ、ちょ、ちょうどいいかも……」


 ニクの軽やかな足取りが食い込んで、痛いけど気持ちいい触りが下半身に渦巻く。

 羊と犬の足が背中を往復していくと――滞った疲れが流れ溶けていく心地よさが全身まで広がって。


 *ご゛り゛っ*


「おふっ……!?」


 ひどく脱力したところ、腰と背の中間、その背骨の両脇に蹄の底が食い込む。

 これが異常に気持ちよかった。背筋にそってしつこく粘る皮膚の硬さが、まるで引き剥がされるように踏み広げられたのだから。


「あっ……ごめんイチ様、大丈夫? 今なんかごりって足に伝わったんだけど、なんか踏んじゃいけないやつとか踏み抜いてない?」

「……俺が踏み抜いてほしくないのは親の話題とイグレス王国ぐらいだ」

「なにいってんだこの人、どんな過去背負ってんのあんた」

「めっちゃある……」


 おかげでいい仕上げになったと思う。足も疲れが取れて全身がすっきりだ。

 二人の足で全身たっぷりと踏まれたところで、手で「オーケー」を表して。


「……ふう、すごく良かった。下手したらロアベアに踏んでもらった時より気持ちよかったかもな」

「……良かった、またやってあげるね?」

「ロアベアパイセン超えちゃったか―……まあ、またやってやってもいいけど。楽しかったし」

「良かったっすね、お二人とも。イチ様もだいぶ顔色が良くなっておられるっすよ」


 二人に降りてもらった。整った体を起こして背伸びすれば、全身の筋がごりっとすり動く。

 朝から続いてた疲れも取れてしまったみたいだ。試しに身体を動かすも、今まで以上にひと暴れしてくれそうだが。


「アヒヒー♡ それでは上半身がほぐれたところでー……♡」


 緑髪のメイドさんがによっと両腕を広げてきた。胸の大きさを二つも突き出しつつで。

 親愛さを求めるような構えに「なにするん?」と首で疑うと。


「腕組んでくださいっす、こう!」


 腕を組む仕草に変わった。こう、『無』をハグするようにむぎゅっと。


「もしかしてあの時のか?」


 すぐ分かった、けっこう前にこの格好で背筋を引き延ばされたのはよく覚えてる。

 ロアベア先生を信じて言われるがままに腕を交差、両肩を掴んで空気を抱けば。


「そうっす~♡ そのままちょっと下向きになって力抜いてくださいっすイチ様ぁ♡」


 によつく笑顔がどうしてか胸の質量ごと迫ってきた。

 下着という概念を忘れた柔らかさに顔が息苦しくされるが、親しいハグが背中と首裏をその手のひらで捕らえてきて。


「こ、こう……?」


 期待感を胸に求められたとおりにした。組んだ腕を崩さないように首を丸めるが。


「いくっすよ~♡ せーーのっ……!♡♡」


 力を抜いた瞬間、ロアベアの重さにベッドの柔らかさまで押し込まれた。

 腰の力も加わった押し倒すようなハグに、自分の身体がずっしり底につけば。


*ご゛き゛ご゛き゛ご゛き゛っ……!*


 メイド服に抱え込まれた背がシーツに叩き落とされて――何かが引き延ばされる。

 硬く閉ざしていた骨が強引にこじ開けられるような、妙な解放感と野太い音がうなじ上まで響く。


「お゛お゛お゛お゛お゛お゛……?」


 深く潜ってた疲れが砕けていく……蹄で踏み鳴らされた背筋の力がすっかり抜けた。 

 しかしまだ終わらない。ぐぐっとまた持ち上げられて、腰をいれた動きが絶妙な角度にひねってきて。


*ばきばきっ……! べきき……っ!*


 わずかに浮かんだ身体から、左へ右へと骨がすり動く……。

 余すことなく骨をばきばきに鳴らされて、マッサージとは違う強い気持ちよさが身体いっぱいに伝わった。


「……すっごい鳴ったすねえ、こんなにやりがいがあるのは初めてっす……!」


 急な脱力感にぼふっとベッドに背を預けると、見上げる先でロアベアがものすごく興奮してた。そんなにひどかったんだろうか俺。

 でも伸びきった背中が心地いい。なんともいえない満足にはぁ……と深い息遣いしか返事ができないほどに。


「ありがとうロアベア、今のところ人生で一番気持ちよかったと思う」

「まだまだっすよ~♡ もっと気持ちよくしてさしあげるんで~♡」


 ぐったりしながらお礼を言えば、一仕事終えて向こうもすっきりしたニヨニヨ顔だったが。


「……じゃあ、次は私の番だね♡」


 そういえばお前がいたな――その後ろ、ラフォーレがドヤ顔で待ち構えていた。

 ベッドの上で余韻を味わってると、白髪ショートな狼系女子が瓶を手にしていて。


「ロアベア、現時点で心配なのはこの白いわんこに何させるかってことなんだけど。こいつ何持ってんだ? 怪しい薬は健康上お断りしてるんだぞ」

「劇物の類じゃないっすよイチ様、マッサージに使う薬用オイルっす」

「……なんだって?」


 オイル。そう言われれば確かに、ワーウルフの手の上で液体が揺らめいてる。

 もったりと粘っこさが伺える動きに確かにその名前通りに感じるが、持ち主は蓋をきゅっと開けると。


「これは私の毛並みにもいい薬効のある特別なオイルさ。今からこれを使って……」


 中身を手のひらに落とした――肉球つきの手にとろみが溜まっていく。

 刺激の少ないハーブ系の香りがする。そんな何かを手にするなり、ぬちゅぬちゅ音を立てて両手に馴染ませ。


「フェイスマッサージだよ。君の顔をたっぷり解してあげようか……♡」


 女性が見たらイケメンと勘違いしそうな笑顔も足して、尻尾をゆらゆらさせながら迫ってきた。

 顔のマッサージってなんだ。そう尋ねようにもなぜかラフォーレは多めの歩幅で迫って。


「ちょっ……ちょっと待ったラフォーレ! 顔ってマッサージするもんなのか!? ていうかそのぬるぬるしたのでやっちゃうのか!?」

「そう言うのも普通にあるから別におかしなことじゃないっすよ? 大丈夫怖くないっすよー」

「いや、それにしちゃぐいぐいきすぎじゃないのこの人。なにしでかす気なん?」


 メイド二名よりだいぶ距離の詰め方に遠慮のないまま、ぐいぐい迫り――


「……捕まえたよ、子犬ちゃん♡」

「うおっ……!?」


 妖し気な笑顔が圧し掛かってきた。

 ワーウルフという名前通りの手際で飛びついて、ベッドの上に押し倒されてしまう。

 見上げれば舌なめずりをするイケメン女子に見下ろされ、人の腰に尻を乗せたそいつがぬとぬとになった手を突き出す構図である。


「なあ、ヘッドマッサージってこんなのアグレッシブなのか……?」

「大丈夫だよ、イチ様。その顔にちょっと触れるだけさ? 何もおかしなことはしないから、ね?」


 そのまま、ラフォーレは両の手のひらを伸ばしてきた。

 あの独特の香りがするオイルをまとって肉球も毛並みもしっとりしていて、自前の白さが際立つそれが肌の手前まで近づくと。


「……まずはここからかな? 顔の前に……」


 ぬちっ……とワーウルフの手が頬の形にあわせて顔を持ち上げてきた。

 ご機嫌なメイドの表情に見下されつつ、滑りをまとった肉球がつうっと顎下までなぞってきて。


「ん、ふっ……!?」


 くすぐったい。濡れた毛並みの柔らかさも相まって、首にぞわぞわと刺激が走る。

 そんな様子も「くすっ♡」と小さく笑われ、イケメン狼女子は耳の下まで手を這わせ。


 ぬりゅっ……。


 犬系動物らしい温かさを伴いつつ、首横をつたう筋肉を指で追いかける。

 なんというか、意外と気持ちが良かった。

 普段意識しない顔の凝りが解されてるんだろう。ぐりり、と耳から首までの形にオイルが刷り込まれる。

 耳たぶの根元あたりにもぐいっと指が入った。穏やかな親指の使い方が顎下までをとんとん揉んでいって。


「わあ……君って不思議だね♡ 男の子なのに肌がすべすべしてて、それでいて柔らかい……普段耳にする戦いぶりからは想像できない完璧さだよ……♡」


 なぜか向こうはうっとりだ。

 人の表情をどう申そうが勝手だが、薬効をまとった手は顔の作りを確かめるように揉んできて。


「……そりゃよかった」


 なのにだ。本当に不思議だが気持ちが良かった。

 最初はくすぐったいと思ったワーウルフの毛並みも、段々と顔から首へ、首からその下へなぞっていき。


「鎖骨もやっておくね? ここは顔の一部と言ってもいいぐらい密接なつながりがあるんだ、この辺りにある筋肉は大事な君の表情にも関わってくるからね」


 オイルを広げる手がますます大胆になっていく。

 首の下、胸の傷までそう遠くない鎖骨の並びにあの手がにゅるりと触れる。


「ん゛っ……!?」


 変な声が出てしまった。恥ずかしいが、向こうはそんなものも意に介さず。


「大丈夫♡ 痛くはしないからね? ほら、私を信じて……♡」


 耳元でからかうような声の甘さを披露して、また骨の形に毛並みが当たる。

 肉球の質感も混じったそれで骨の下の肉を撫でる。首筋までつうっと上って、また降りて。

 撫でるような手のさばきが力加減を増しながら鎖骨から首、首から耳元までオイルの居場所を広げると。


「鎖骨のあたりはデリケートだからね、こうやって撫でる程度で……♡ じゃあ、次は君のその美しいお顔だね? 私の方がもっときれいだけど……♡」


 オイルも調子も馴染んだ両手が、俺たらしかめる表情の輪郭を挟んできた。

 親指で顎の横をくいっと抑えて撫でこする。そのついでとばかりに首筋まで達して、つやの増した白毛が喉もとまで敏感にかすった。


「……っ、あっ……」


 弱さの極まった首への刺激に、今はまだ「くすぐったい」で許される息が漏れる。

 その様子をまじまじ見るラフォーレは、いっそう得意げな笑顔を深めて。


「顔の筋肉も凝ってるね……ほら、私をもっと見なよ……♡」


 まるでこっちを見ろ、とばかりに顔の位置を正してきた。

 狼系らしい瞳は色が籠ってる。下ろした腰の後ろで白い毛並みがぱたぱた揺れてて。


 にゅりっ……にゅりっ……。


 顎を辿っていた指が頬を揉んでくる。

 その奥に根付く筋肉を顔の形にならって解される。上りあがるような気持ちよさが起きて、口元が緩んでしまう。

 ぐっぐっと力を込めた指先も表情をのぼって、こめかみ周りの硬さも肉球つきの指圧を前に弛緩していく。

 オイルの薄まった手のひらが目の横や眉間、額まで撫で揉み行きつくと――


「……はいっ、おしまい♡ 君、相当顔がお疲れだったみたいだね? たまには自分でやってみるのもいいんじゃないかな?」


 すっ、と白い手が離れた。

 気づけばくすぐったさも忘れて、ずっとオイルマッサージの心地よさに意識を持ってかれたみたいだ。

 でも頬のあたりが軽い。皮膚の下に溜まっていた何かがどこかに流れてしまったようにすっきりしてる。 


「……すごいな、顔が軽いぞ」


 つい手が伸びてしまう。オイルが馴染んだ顔つきに、跳ね返るような柔らかさが確かにある。

 やってくれた張本人を一度見上げれば、まだ腰を落としたままのイケメン女子顔が相変わらず得意そうで。


「私の毛並みはどうだったかな? うっとりするぐらい感じ入ってたみたいだけど……気に入ってくれたかい?」


 まだ滑りの名残がある毛並みを閉じたり開いたり、一仕事終えたような達成感が親しさを振りまいてた。

 最初はくすぐったいだけだったが、慣れてくうちに顔を繊細に撫でられる肌触りがたまらなかった。


「ああ、顔がきれいになった感じがする。それに色合い的に知り合いを思い出したよ」

「へえ、私みたいな毛並みの子がいるのかい? 気になっちゃうな?」

「ただのちょっとした恩人だ。毛並みの良さはお前が上だろうけど」


 とにもかくにも、身体中ほぐされた甲斐あって眠気も疲れもぶっ飛んだ。

 頭の中すらもさっぱりした気分だ。ああ、もちろんいい意味で。

 白狼様をどこか思い出しつつ、まだゆったり腰を落ち着かせるラフォーレに「どうも」とどいてもらおうとするが。


「……ねえ、イチ様? こうして気持ちよくなってくれたみたいだけど……」


 どうして見上げる先、イケメンワーウルフが「にたっ♡」と笑んでるんだ。

 起き上がろうとするもヒロインとの力の差が生きてた。腰をぐりぐりしながら熱のこもった目で見降ろしていて。


「お礼にうちらを気持ちよくしてほしいっすねえ……? ギブアンドテイクっすよイチ様ぁ、アヒヒヒッ♡」


 ロアベアも汚い与え合いを提案してきた。待て、この流れは……!


「え、ちょっ、何言ってるんすかこの先輩ども……さっきまでの行い全部下心隠れてたわけ……?」


 じっと見つめてたメリノは戸惑ってる。もじもじしながらだが。

 まさかとは思うけどニク、お前も――そう思って黒い格好を追うも。


「……ん♡ シちゃう……?」


 ぺろっ……♡と、一体お前は何のサインを送ってるのかはともかく、パーカーを持ち上げて白いお腹を見せていた。

 ご主人そんな風に育てたつもりはない。

 いや今回ばっかりはお断りだ、この余韻のまま帰らせてもらうぞ。


「――話は聞かせていただきましたわ! では浴場へ向かいましょう!」


 ばーん。

 そしてドアが開いた! 畜生、エプロン姿のリム様だ!

 この人が来たということは俺の死を意味する、というか何ならその後ろには。


「いいでしょう、こちらのお屋敷では浴場は24時間開いておりますのでちょうどいいですね。それではお客様、こちらへどうぞ」


 メイド・リーダーのデカ女もこの場に便乗していやがった、何がいいでしょうだ馬鹿が!

 断ろうにも拒否権なんてお前にはないとばかりにラフォーレが人の上で尻尾を振ってる。せめてもの情けを求めてロアベアを見れば。


「……キスしちゃったんすからちゃんと責任取るっすよイチ様ぁ♡ お預け食らった分ここで取り返すっす♡」

「いや、お前が勝手にキスしてきただけだろ何勝手に責任負わせようとしてんだこの馬鹿メイド」

「クロナ先輩、お風呂連れてくっす!」

「ほら、ロアベアがこう言っているのですから行きますよ。おらっついてこいっ!」

「畜生! ハメやがったな!?」


 ……ダメでした。

 抑え込まれてる隙にデカいメイドがのしのしやってくると、鼻息荒くこっちの身体に覆いかぶさってきて――



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