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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
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57 やっぱり大好きなメイドさん(3)

 人外なメイド三名が集まったところで何をしでかすつもりなんだろうか。

 そんな心配をよそにしてると、少し離れた客室まで案内されてしまった。


「こちらへどうぞっす~♡ このお部屋はリーゼル様からイチ様へのプレゼントらしいっすよ、今後好きな時に使えとか言ってたっすあの人」


 メイドらしく扉をあけられた次には、立派なお屋敷相応の丁重な部屋だ。

 白い壁に茶色い床、それに合わせた家具が差し込む昼の光で優美に照らされてる。


「プレゼントだって? 俺には誰かさんが気前よくこの部屋くれてやるって聞こえたぞ、聞き間違いか?」


 リーゼル様はそんなものをくれてやる、だとさ。

 どこぞのラブホほどじゃないが、びしっと整ったベッドやクラングルの遠くを見渡せる窓は上等なホテルの一室に値すると思う。


「そっすよ~? あの人イチ様にもっと気軽に来てほしいって言えないらしいんすよねえ、あひひひっ♡」

「あのリーゼル様が直々に「君のためのお部屋」って言ってたんだよ、だから今日からここはイチ様の第二の我が家さ。泊りに来てくれたら私の自慢の毛並みも存分に堪能させてもいいそうだよ、どうだい寝床を共にしないかい?」

「いや、どーなってんのこの人にお屋敷の部屋丸々一個上げちゃうとか。あの人厳しめに見えて身内にはけっこーどろっっどろに甘々だよね、リーゼル様そういうところやぞ」


 生首つきメイドからドヤ顔白狼メイドに黒髪羊メイドすら口をそろえてこういうんだ、この部屋の主は今日から俺らしい。

 良く行き届いた掃除具合が「いつでもどうぞ」を体現してるものの。


「それじゃイチ様ぁ、今日はうちらが全身くまなく解して差し上げるっす~♡」


 見慣れた緑髪はすたすたベッドへ歩いていく。

 そこに無遠慮に大きな尻を落とせば、白い寝具をぽんぽん叩いてきた。

 お誘い通りに荷物も下ろして、その佇まいにいざご一緒しようとするも。


「……なあ、その前にそこのメイドさん二人が何をしでかすつもりなのかお聞きしてもいい?」


 腰かける前にだ、どうしてもラフォーレとメリノの二人が気になってしまう。

 白い毛並みに自信いっぱいの方は『ポーション』としか言えない瓶を手にしてるし、テンション控えめな羊系は布で蹄をきれいに磨いてるほどで。


「私のこの毛並みを最大限に堪能させるつもりさ、楽しみにしててね♡」

「や、別に変なことしないから。こちとら生首先輩に頼まれたことやってるだけだから、まあお楽しみってことで」

「おいお楽しみって表現でごまかすな。お前ら変なことしない? 大丈夫?」


 二人してそう言うのだ、つまり秘密らしい。

 代わりに「この子の面倒は見ておくね」と白い狼の手がニクの頬をもちもちした、くすぐったさそうだ。


「んへへ……♡ ラフォーレさまの手、さらさらしてて気持ちいい……♡」

「分かってくれるんだね、なんていい子なんだわんこちゃん。君も毛皮の手入れをするといいよ、この毛並みならまだまだ伸びしろがあると思うし……」

「見てのとーりわんこ同士仲睦まじくやってるんで、まずはロアベアパイセンのマッサージをご堪能くださーい……なんなんこれ」


 次第に白黒わんこ(厳密には片方狼)がさらさら毛づくろいを始めた

 ニクの面倒は任せるとして、メリノがダウナーに呆れたのを信じてそっと腰を下ろすと――


「んにゅっ♡」


 いきなりだった。ずいっと身を寄せてきたロアベアの顔が頬に当たる。

 もっと言えば、あのによっとした口遣いがほんのり温かく伝わった。

 ふんわり目を瞑った表情がそっ……と離れるのも横目越しに追えて。


「――ん!? ロアベア、お前いきなっ」


 てっきり何かの施術とうきうきしていたがすぐ気づいた、キスってやつだ。

 そんな様子をまじまじ見ていたメイド二人は唖然だ。奇襲同然の口づけにぴたっと動きを止めていて。


「……イチ様ぁ? ミコ様とはキスしたんすよね?」


 周りの混乱を誘おうがロアベアは構うこともない。

 艶のある薄緑色の髪ごとぐりっとすり寄ってきた。

 耳元を伝って落ちる髪質がくすぐったい。清潔さを感じる妙に鼻をなぞるいい香りがこれでもかと押し付けられ。


 ぐにゅう……♡


 メイド服の白生地いっぱいの乳圧ももれなくついてきた。

 腕に伝わる生暖かさが重たくずっしり柔らかい。妙に直接的すぎる感触で、あいつの下着事情が蘇る。


「……おい、何の確認だ? マッサージの前準備じゃなさそうだけど」

「イチ様のファーストキスはミコ様にお譲りしたっすけど、うちの初めてはまだなんすよねえ……♡」


 あいつめなんてことを。横から胸の圧をかけながら、にまぁ♡といやらしい表情を浮かべてる。

 そのまま人の肩に顎を乗せて落ち着けば、まだつながった首ですりすり髪をこすりつけてきて。


「それに、うち寂しかったっす。向こうでいろいろな女の子とご縁を結んでおられるそうっすね?」


 ああ、うん、そういうことか。

 顔を伺って分かった。ロアベアの頬がかすかにぷくっとしてる。

 というか意外だった、あのダメイドがこんなにも甘えてくるなんて思わなかった。

 

「そりゃ冒険者やってれば知り合いも増えるだろ? 別にそういうのじゃ……」

「うち、あなたの愛人諦めてないっすよ。ずっと前から愛してるっす」

「いや、愛人ってお前……!?」


 とうとう愛してるなんて言われるレベルだ。

 正気かって疑ったがそうだった。によっとした顔はどこへ行ったのやら、少し寂しそうに上目遣いで。


「……ということで、マッサージの条件はうちとキスすることっすよ♡ イチ様のものにしてほしいっす……♡」


 あいつにしては妙に甘ったるい声で「ん♡」と口をすぼめてきた。

 見れば、普段の立ち振る舞いの真逆をゆくようにかわいく小さく絞られてる。

 この状況でやれってかロアベア。

 そう視線をずらせば、ニヤニヤするラフォーレと顔赤く伺うメリノがいた。

 ニクは? 「おー」と期待してる。見世物じゃないんだぞ。


「い、いや……お前……、この状況でいきなりキスしろとか正気か……?」

「イチ様はうちのものだって他のメイドさんに示さないと駄目じゃないっすかー……?♡ あひひひっ♡」

「畜生、マッサージしてもらえるってウキウキしながら来ただけだぞ俺は」

「もちろんしてあげるっす♡ で、うちとするっすか? いやっすか?」

「嫌なわけじゃないけども!!」


 気持ちはよく分かった、すごくキスしたいのもわかった。

 でも「わーいマッサージだー」ってパン抱えてきたのにこのザマだぞ? こいつのせいでラブホの二の舞踏みかけてやがる。

 別にこいつとするのは嫌じゃないし、内心可愛いとは思ってる、でもだからってこんな形でしでかす気が湧かないだけだ。


「じゃあなんなんすかイチ様」

「……せめてそういうのはこう、雰囲気とか大事にしたくて……」


 このままだと真心抜きのヘルシーな口づけに終わってしまう、そんなの嫌だとごにょごにょしながら答えるも。


「あっはっは♡ 君ってそんな立派な顔してそう言うのを大切にするタイプなんだね! ああ、可愛いなあ……♡」

「いや、その佇まいで乙女みたいなこと言うとか無理があるでしょ。なんなんこれ、何見せられてるんうちら」


 さっきから傍観してるメイド二人は何様だ、片や笑ってんだぞ何笑ってんだ。

 ニクも「キスすればいいのに」とじとっとしてる。現物的すぎる奴しかいないのか俺の周りは。


「確かに雰囲気は大切っすねえ、うちもそう思うっす」

「だろ? とりあえず今日はマッサージだけのコースだけでお願いします」


 しかしロアベアはなるほど、と頷いてる。

 分かってくれたかこの馬鹿メイド。こっちも頷いて引き剥がそうとするも。


「……じゃあ、うちが雰囲気作ってあげるっす。イチ様の大好きなやり方で――♡」


 ぐいっ、と手繰り寄せられる。

 さすが向こうで過ごしただけあると思う。肩を引っ張られて、手際よくあいつと向き合う目になった。

 横からどむっと突き出された胸が、重みを乗せて押し倒してくる――僅か数秒でベッドの上で馬乗りである。


「だ、大好きってお前……別にこんな……っ」


 あっという間だった。ロアベアの重たげな身体が目と鼻の先まで迫ってくる。

 上着を通じて丸裸を包んだメイド服のふくらみが胸板で重なれば、まだつながった首が近づいてきて。


「うち、イチ様のことはけっこう知り尽くしてるつもりなんで……んっ……♡」


 柔らかい身体を下ろしつつ、あいつは口元の柔らかく整えた桜色を近づけ――


 むぢゅっ♡


「ん゛……っ……!♡♡」


 そんな見た目とは裏腹な濃い口づけをされてしまう。

 敏感な唇の薄皮の下、あいつの厚みのある温かさがじんわり侵食してきてくすぐったさすら感じた。

 それだけなら、まだしも。


「……んぢゅ……♡ ちゅむむ゛……!♡」

「んぉ゛……♡ う、ふ……♡♡」


 顔をぎゅっ♡と抑えられたまま、熱くてとろりとしたものが口中をこじ開けてくる……。

 ひどくくすぐったかった。じりじりと痺れるようなむず痒さが頭蓋骨の内側を伝って脳を上っていく。

 ロアベアの身体に「ストップ」の手がゆくも向こうは遠慮なしだ。開いた唇ごと吸い付いて、もじもじしながら尻を落としてくる。

 すると薄く開いた歯をこじ開けられ、狼狽えていた舌に何かが触れ。


「――ぢゅるっ♡♡ んむぅ……♡ んにゅふふ……♡ ちゅむるるっ……♡」

「ん゛……!?♡ お゛っ……♡♡ んっっ……あ゛……♡♡」


 間違いなく、口の中であいつと重なってしまった。

 今にもとろっと溶けそうで、知らない味がした。

 いや、味なんてないはずだ。それなのに目の前から感じるあいつの強い香りに『甘い』と味覚が騙されてる。


「……ちゅぅぅっ……♡ んっ――♡♡」

「んん……♡ んぐ……♡ ふ、ぅ……♡♡」


 更に体重が圧し掛かる。柔らかさと体温に遠慮なく潰されて、下着のない身体つきを嫌でも感じた。

 メイド服いっぱいに表現されたロアベアを全身で確かめさせられる……。

 あいつの体温も、匂いも、味も、そしておそらく気持ちも。全て押し付けるようにぎゅううううううううっ♡♡と固めてくると。


「んっっ……ぉ゛ぉ゛……!♡♡ ふっ、うぇへへ……♡♡」


 それで満足したんだろうか、熱々の身体つきと一緒に薄緑髪が持ち上がる。

 嬉しそうだった。涙目だが、にやつく口元からはとろぉ……♡と唾液の濃い筋が垂れて心地よさそうだ。

 俺だってそうだった。塞がらない口から誰のものか分からない濃い味が、しっとりベッドの上を汚していて。


「あはぁ……♡ やっぱイチ様、マゾなんすねえ♡ うちの下で気持ちよさそうにしてたっすよ……あひひひっ♡」

「…………お前なんてもう知らん」


 そこで冷静になった。押しつぶされていた羞恥心が蘇る。

 だって身体を起こしたら見物人が三人もいるんだぞ?


「うわあ……♡ キスされただけであんな可愛らしい顔するんだね……♡ いいもの見せてもらったよ、君なら私と一緒にもっと美しくなれるんじゃないかな? ふふ……♡」


 白い狼な子が「うわあ♡」ともいやらしい笑みだし。


「う、うーわ……♡ 変態じゃんか、この人たち……♡ てか、男のくせにそんなメスっぽくなるとかどうなってんの……?♡」


 羊系の奴が赤面しながらもじもじしてる上に。


「……ご主人、また可愛くなってる……♡」


 ニクも同じくだ、誰を見てそうなったのやら興奮してた――ベッドに潜って面会謝絶だ。

 もうマッサージなんて知るか馬鹿野郎。集う視線をそうやって避けてると。


「はふぅ、気持ちよかったっすねぇ……♡ じゃあ、晴れてこれでうちはイチ様のものってことで……♡」

「畜生、みんなそうだ。毎回毎回リム様も女王様もなんならミコもいつもいつも人のこと好きに使いやがって、俺がなにしたっていうんだ……」

「イチ様ぁ♡ 今度はマッサージでお返しするっす~♡ 出ておいで~♡」

「挙句の果てにそんな面識ないメイドの前であんなことするとかどうなってんだよ馬鹿野郎、つーかなんで二人とも見とれてるんだよ変態しかいねーのかクラングルはクソが」

「そんなところでお気持ち表明してないで堂々とするっすよ、ちょっとここのメイドさんたち欲求不満でムラムラしてるだけっすから。マッサージするっす」

「この流れでマッサージに移るとか正気かお前……!?」


 延々とベッドの中でぐちぐちいおうと思ったがやめた、こいつの切り替えの早さの異常性に負けた。

 ロアベアは着崩れたメイド服を整えて「どうぞっす~♡」とシーツを叩いてる。まだ顔がほんのり赤いが。


「……お詫びにフルコースだぞ」

「もちろんっすよ~♡ マッサージしてあげたくて楽しみにしてたんすからね? 上着脱いじゃってくださいっす」

「全部脱げとか言うなよ」

「むしろうちが全部脱ぐっす」

「やめなさい」


 しかしいろいろ考えた末、それにリーゼル様の施術風景を思い出してそっちの気が勝った。


「いや、その流れでマッサージに移っちゃってるじゃんあんた。正気か……?」

「この人は元々こういう人っすよメリノちゃん」

「えっ、そんな美少女相手にオラついてそうな人なのに? どういうことっすかロアベアパイセン」

「逆っすねえ」

「え、何が? 何が逆なん? 美少女相手にオラつかれてるって意味? なんなんこのお兄さん……」


 メリノがなんか横から言ってるが切り替えの早さがストレンジャーズの良いところだ、ごろっとうつ伏せになる。

 あの馬鹿のせいでどっと疲れたからさぞ凝ってるはずだ。そう思って背中を差し出すと。


「さーーーーーーて……まずは首元からチェックするっすね~♡」


 ずっしり。

 人の尻に何かが重なってきた。ロアベアの大きめな尻のボリュームだ。

 一瞬確かめようとするも、白黒のメイド服が馬乗りになってるのが僅かにみえた程度で。


 ぐにっ。

 首の裏側に温かさがじんわり突き刺さる。

 ちょうど髪の生え際あたりだ。背骨沿いの筋肉の硬さに、あいつの慣れた手つきを感じた。


「あ゛っ……」


 しかしお見事だと思う。それだけ筋肉が広げられて気持ちが良かった。

 まさに凝り固まった首裏の筋だ。そんな具合をロアベアは指で調べてきて。


「お~……これは凝っておられるっすねえ、立ち仕事だとやっぱり首も酷使しちゃうっすよね、うちわかるっす」


 背中越しの関心はぐっ、ぐっ、と首から肩まで指を歩かせていく。

 親指の感触が首から肩先までの形を辿って、そのたびに繋がった凝りを適度に押し潰す。

 特に「凝ったら思わず触る場所」あたりをぐぅっと押されれば。


「お゛っ……それ、いい……!?」


 まさしくクリティカルだった。自分でも信じられないぐらい、痛みとそれ以上はある気持ちよさが広がってる。

 いっそそのまま丹念に揉んでほしい。そう思うも、無情にもぴたっと動きは止まって。


「なるほど、これは重症っすね!」


 なんでそんな嬉しそうに嫌なことを伝えてくるんだお前は。

 でもこいつがそういうんだ、そのよっぽどが俺の身体にあるわけか。


「どうにもならないレベル? それともクリューサ必要なレベル?」

「うちがいれば余裕っすね、まだリーゼル様の方がやばいっす」

「そうか……じゃあ頼んだロアベア先生。リーゼル様より健康にしてくれ」


 このメイドの余裕さにあやかってどうにかしてもらうことにした。するとずいぶん温かい細い指の感触が肩にやってきて。


 ――すっ。


 揉まれる、かと思えばするりと手のひらが流れていく。

 するとまたさすられる。今度はさっきの首筋から肩の先へ、まさに凝っていた部分をなぞるようにだ。

 何やってるんだ、と声に出したい言葉が今生まれるも。


「これくらい疲れてるときはまずさすって温めるように解すんすよ。筋肉を引っ張って緩めてを小刻みに繰り返して、まずは下ごしらえっす」


 そんな説明がすぐ挟まって、その通りの感覚が伝わってきた。

 力の入った手がぐぐっと首裏を撫でこすり、肩の付け根まで凝りをなぞる。

 これが不思議と気持ちがいい。凝ったラインが引っ張られ、離され、引っ張られ、離され――不自然な凝りがほころんでいく。 


「……ん、さすってるだけなのに気持ちがいいな……」

「いきなり揉んだら身体に毒なんすよイチ様。まずは揉みやすくしておくのが鉄則っす」


 マッサージ知識の披露もろとも、ロアベアがさする範囲を広げていく。

 首と肩からきて次は背筋、押し付けられた掌底の心地が背骨まわりの凝り固まりの表面を右往左往だ。

 さする動きに肩甲骨の硬さがくいくい引っ張られて、指で押すのとは違う気持ちよさが積み重なる……。


「……ふぅ……」

「背中もぱつぱつっすね、これは解しがいがありそうっす」

「これでもリーゼル様より楽だって言いたい?」

「楽っすよ、あの人は運動しないしシャワーしか浴びないし、食事も偏ってるし夜更かしするでちょっと目を離せばすぐ戦車の装甲みたいになっちゃうっす」

「不健康なんだな」

「リム様がいらっしゃるので食生活はいずれ矯正されると思うっす」


 しかしこれがリーゼル様よりマシで、そのご本人が思ってた以上に不摂生な暮らしをしてるなんてな。

 どんだけ硬いのか興味がわくところだが、そこで手が止まり。


「今からゆっくり解してくっす。リラックスするっすよイチ様ぁ」


 二つの親指の感触を首筋に添えつつ、によっとした調子が合図を送ってきた。

 やるんだなロアベア。ふう、と深呼吸を繰り返して整えて、余計な力を絞り出せば。


 ぎゅうっ。


 絶妙な角度を向いた指がそこを触れる。

 まさにさっき気持ちよかった場所だ。指の腹が背骨に向けてぎゅっと絞りだすように押していく。


「おー……それ、すっごい効く……」


 凝りを潰せばまた動く、首の凝りをぐりぐりと押し広げながら肩先まで迫る。

 普段なら感じることのない疲れが潰される。鈍く刺さるような気持ちよさが、どんどん不自然な張りを薄めた。

 肩から首までのこわばりがぐっ……ぐっ……と一つずつ潰され、戻り、繰り返し、広まった緊張感が溶ける。

 動きがゆっくりとしてる分、その気持ちよさは長く続いて……。


 ぎゅうぅっ。


 と、今度は指とは違う広さが肩周りの疲れを襲う。

 指でじっくり広がった凝りが、掌底の圧でぎゅっと包まれたのだ。

 筋の硬さに合わせてじっくり広げてくような加減に、ロアベアの温かさも混じってひどく力が抜けてしまう。


「はぁ…………」


 肩のど真ん中が魔の手に捕まった。じわりと呼び起こされる痛みと気持ちよさに残ったため息が絞られる。

 何度か手のひらで捏ねると、力を込めた撫で方でぐりぐりと肩から背筋を押し揉んで。


「こういうのはどうっすか~? えいっ……♡」


 ぐぐぐぐぅっ……!


 悪戯っぽい声に、肩甲骨のはずれに手のひらの肉厚さが横から食い込む。

 背の凝りごと背骨に向かってより合わせるような動きに、手の届かない凝り固まりが「くきっ」とかすかな音を立てる。

 疲れが取り除かれるあの気持ちよさでいっぱいだ。背に気味の良い鳥肌がぞわぞわ立つ。


「あ゛……っ! そ、それ……やばい……っ! 効く……っ」


 温かくなってきた背中の広まりに二つの手がぐいぐい揉んでくる。凝りのひどい肩甲骨周りからこきこき刺激が立つ。

 そうやって背中を撫でて押してよく解せば、親指の感触が肩甲骨に包まれた背骨の形にそっと触れ。


「仕上げはこれっすねえ♡ 覚えてるっすか?」

「……疲労回復のツボだったか」

「正解っす~♡ えいっ♡」


 骨と骨が有無絶妙な間、その筋肉の深くにぐりっ……!と指が押し込まれる。

 徐々に力を込めて、けれども決して力づくじゃない塩梅が、信じられないほどの痛気持ちよさをもたらして、


「……! おぉぉぉっ……! 背中に、じーんってくる……!」


 メイドの技巧で凝りを剥がされた背中から、妙な重みが洗い流されていく。

 ウェイストランドで北部を旅してるとき、休憩中に受けたあのツボ押しよりもずっと効いてる。

 下準備に時間をかけたせいだろう。文字通り疲れも吹っ飛んだのだが。


「まだまだっすよ! じゃあメリノちゃん、さっそく出番っす!」


 うつ伏せのまま満足してるところ、ロアベアが乗せてた尻をようやく放してくれた。

 でもなぜかその呼びかけがメリノを呼び寄せていたわけだが。


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