表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
460/580

51 冒険者たちの次の姿

きゃるちゃんは わたしの だいじな おらっきゃるっ!!!!!!!!!

 しばらく経つと、冒険者ギルド・クラングル支部はだいぶ形を変えていた。

 初めて見た頃の『人外娘どものコスプレ日本人添え』みたいな光景は薄れた。

 でも今は違う、ヒロインたちの傍らで俺たち人類は健気にやってる。

 今日も華やかに活躍する美少女たちに負けないほどの存在感があるのだ。


 その理由は集会所にずいぶんと面構えが違う連中がいるからだと思う。

 頂点には『キャプテン』を叩き斬ったタケナカ先輩。

 一番下にはストーン等級にも関わらず白き民の()()()()を森に不法投棄したホンダとハナコの地味コンビだ。

 ぱっと見ただけで分かるような「そこらの顔」を超えた雰囲気が十人ほどいるわけで、それが旅人冒険者を賑わせてるらしい。


「あれからそんなに経ってないよな? ここもずいぶん雰囲気が変わったみたいだ」


 まさにそんな雰囲気を集会所のテーブルから見渡した。

 手元に置いた紙袋を追い越せば、前より増えた人の数が少しだらだらとしながらも冒険者らしくやっていて。


『まさかあんな場所で白き民と遭遇するとはな……! サイトウがいなかったら危なかったぞ!』

『……ただの薬草集めのはずがどうしてこんな目に会うんでしょうかね。やはり白き民が増えてるというのは間違いなさそうですけど』

『ふ、二人ともたくましいなー……? ばったり出会った次の瞬間に戦ってたもん……』

『三倍の数の白き民に勝っただけあるよな……キリガヤ先輩とサイトウ先輩』

『私、初めてアーツ使っちゃった……!』

『やばかったけど俺やっと魔法覚えたぞ! 毎日練習してやるぜ!』


 例えば入り口。キリガヤとサイトウが新米を連れてぞろぞろお帰りだ。

 二人は最近増えた新入りを連れて、手が届きそうな依頼を着実にこなしてる。


『……どうして錬金術師の人達って変なトラブルばっかり起こすんだろう』

『うん……すごい数のお人形がわーーって走り回ってたよね。みんな大丈夫?』

『ホラーっスよあんなの……』

『全然楽じゃなかったんですけどー……』


 そこから横に移ると、大柄なヤグチと小柄なアオがお疲れの様子だ。

 付き添う金髪の男女も交えて仕事ぶりを思い返してる。大変だったらしい。


『倉庫の警備っていうから簡単な仕事だと思ったのにさ……』

『この間の屋敷の粘土ゴーレム、まだ街に散らばってるらしいよ……ていうかホンダ、剣振り回してるだけで何にも役に立ってなかったよね』

『しょ、しょうがないだろ!? いきなり暗いとこから出てきたんだし!?』

『あっちが武器持ってたら怪我してたよ、いつまでもこの前の依頼に浮かれないほうがいいんじゃないかな』


 ホンダとハナコの地味な顔ぶれも、部屋の片隅であれこれ言い合ってる。

 そこからだいぶ離れると、人間&ネコマタの仲睦まじい姿もよく見えて。


「――まあほら、俺たちも多少はできるやつって世間に届いたからじゃないか? ついこの前まで埋もれてたやつがいきなり顔出したんだからさ?」

「そうかもね? あれからタケナカさんの率いた人たち、私たちヒロインの間でもけっこー話題になってたし?」

「へー、なんて言ってたんだ? 気になるな」

「最近一目で面構えが違うって分かる冒険者がいるとか。もちろんシナダもね」

「俺たちのことそんな風に伝わってたんだな。まあ、まだヒロインに比べたら劣っちゃうけどよ……」


 シナダ先輩と彼女のキュウコさんがべったりくつろいでいる。

 二人の言う通りここの雰囲気も変わったけど、それにあやかって一緒にいることが多くなってる――というか堂々イチャついてる。


「一目置かれる存在になれたわけだな……で、なんで彼女さん連れてきてるんだシナダ先輩」

「こっちが居心地いいっていうんだよ、別に彼女連れてイチャついてるわけじゃねえぞイチ」

「広場の方はいつもわいわいしてるしヒロインの子でいっぱいだし、落ち着けるっていったら落ち着けるんだけど。こっちの方が休まるからいいんだよね?」

「俺にはまさに二人で和気あいあいとしてるように見えるぞ」

「いやな、やっぱりここにいるとどうしても人間とヒロインの隔たりっていうの? そういうのがあって一緒に居づらかったんだよな」

「同じ職場なのにね? でもここができてからこうして二人一緒になれる機会が増えたんだよね、最近は私以外にもいろいろ来てちょっと足を運びやすいし」


 本人は否定してるが人間と猫系ヒロインのコンビは距離感近めで仲良しだ。

 二人の愛については物申さないが、俺は紙袋をごそごそした。


「確かにそうだな。あんまり馴染みのない顔が急に増えてるし」

「だろー?」「でしょー?」

「あわせんでいいから……」


 中身を引きずりだすころには集会所の窓際に目がいく。

 日当たりな良さそうなそこに、席を囲む場所が一つ用意されていて。


『ということで冒険者になった今、私たちもパーティを結成します。私がリーダーです異論は認めない』

『……あのリーダー、一ついい?』

『エルフしかいないんだけど、このパーティ。ていうか全員武器が弓』

『みんな弓使いとかうける――いやだめじゃん遠距離物理しかないじゃん』


 まったく知らない連中、もっといえばヒロインらしい姿が四人も座っていた。

 長耳の姉ちゃんたちが金銀青緑と色分けされた髪色でテーブルを囲んでる。

 この頃は冒険者に転向するヒロインも増えて、そいつらがこうして居場所を求めてやってくることも多い。


「……っていうかヒロインだよなあれ。ここって旅人が集まるような場所だと思ってたんだけど」

「だよな、最近あんな風にここを利用するヒロインが増えてるみたいだ。ところでなんであいつら弓使い四人で組んでるんだ」

「あのままじゃ弓パーティになるぞ」

「まあ大丈夫じゃね? ヒロインだし……」


 シナダ先輩が向こうの長耳の集まりに気が向いたらしい。

 「確かストーンだなありゃ」という点から新米で間違いなさそうだ。


「やっぱりさ、この前の討伐依頼の影響じゃないかな? ここもだいぶ名がついて、それに引き寄せられてたり……」


 紙袋から昼飯を取り出す頃にはキュウコさんもここの変化をよく感じてた。

 しかしネコマタというだけはあると思う、薄紙で包んだサンドイッチの刺激的な香りに猫目が煌めいてる。


「なあキュウコさん、それ逆に言ったら今まで大して活躍してなかったから誰も来なかったってことにならないか?」

「それもあると思うよ。やっぱり能力の差ってそういう隔たりを作ると思うし」

「人間と人外美少女の関係は世知辛いな」

「でも一番大きのはイチ君の影響じゃない?」

「俺?」

「ほら、あのミセリコルディアと依頼を受けたり、最近じゃここで一緒になることも多いでしょ? それに私たちヒロインと仲良くしてるのも良く見てるし」

「そう言うのを見かけてほいほいやってきましたってか?」

「そそ、正直ね、わたしたちもプレイヤーさんとどう付き合えばいいのかちょっと分からないところも多いし……」

「半年以上経ったのにか」

「ちなみに私は付き合ってはや二か月!」

「こっちは付き合い方が分かってるみたいだな」


 向こうでああやって集まるお嬢様がたは俺のせい、あるいはおかげだとさ。

 確かにそうかもな、ミコと一緒になってから活気づいてる気がする。


『わんこの毛並みがする!!』

『ほんとだー! ふわさらしてる!』

『……んへー♡』


 その例をまた一つ上げるなら、ソファーの上でブラシをさばく金髪ロリ。

 今日も尻尾と翼と角の黒さがうっすら輝くちんまりした自称姉が居座ってた。

 茶髪ふわふわなハーピー娘と一緒に人様のニクをブラッシングだ。気持ちよさそうにしてる。


「……ところでそのサンドイッチの具はスモークサーモン?」


 まあ、それよりもこの猫系彼女は人のサンドイッチが気になったらしい。

 包み紙の一つをあければ、厚みのあるパンがレタスとスモークサーモンで断面を赤緑に彩ってた。

 味付けはタカアキに作ってもらったアンチョビ入りクリームチーズだ、猫まっしぐらである。


「ああ、食べてみるか?」


 物欲しそうにされたけどちょうどいい、「食う?」と差し出した。

 もちろん相手は嬉しそうに猫のお手並みでしゅばっと奪うわけだが。


「いや、いいのかよ。っていうかここで飯食うのはダメなんじゃないのか?」


 お隣の彼氏さん(名はシナダ)が難しい顔で伺ってきた。

 でもご安心を、俺は親指でびしっと後ろの壁を示して。


「ギルマスが直々に許可してくれたんだよ、ほら後ろ見てみろ」


 ここ最近で「あれだ」と一番強い得意げな顔を見せた。


【酒類持ち込み禁止。ただしパン類、お菓子は許可する――冒険者ギルドクラングル支部マスターより】


 そこでギルマスの文字がものすごく不本意そうに張り付いてた。

 つまりサンドイッチをここで食おうが後ろめたくないのだ。


「いや……おま……どういうことだこれ!? パンの許可が下りてるぞ!?」

「ギルド職員の総意でこうなった。トドメは娘さんと一緒に直訴した」

「またお前の仕業かよ!? 少し目離したら何やってんだよ!?」

「いや、受付のお姉ちゃんたちいつもパンもらってるからって……」

「パンで買収されたみたいになってんぞあの姉ちゃんたち!?」

「それでお父さんに詰め寄ったらすっげー嫌な顔されて書いてくれた」

「……やっぱお前すげえよ、イチ。タケナカ悩ませるわギルマス動かすわ大物だ」


 シナダ先輩は今日も「なにやってんだ」な顔だ、でも驚くのはまだ早いぞ。


「んー……食べ応え抜群でぐっど! スモークサーモンにまた違う塩気の効いたクリームチーズが混ざって、塩味のないパンと魚の風味がすごく合うね!」


 そこに人のサンドイッチを美味しそうに貪る彼女さんが挟まった。

 猫的な所見を込めたいい感想だ、これには俺にっこり。


「ちなみに簡単に俺の昼飯をくれてやった理由も教えてやるよ。そいつは俺が今朝作ったやつだ、パンから具材まで自分の仕事だ。クリームチーズは幼馴染にぶん投げたけど」

「イチさんが作ったんだこれ!?」

「……お前がか!? おい、なんか変なもんいれてないよな!?」


 それはもう得意げにそうネタをバラしてやった。

 猫系な彼女は「そうなんだ!」みたいな猫顔で驚いてるし、シナダ先輩に至っては「何食わせてんだ」みたいな不安だが。


「異物と愛情の代わりにこだわりなら入ってるぞ。具はスモークサーモンからアンチョビからレタスまで市場でそろえた奴、パンは先日試作した俺の塩なしパンだ。具材は全部俺の給料で買ったぞ」


 これみよがしにPDAの画面を見せた。

 かまどで自撮りするストレンジャー、調理台に置かれた塩なしパン、ヴァルム亭の台所を占拠するサンドイッチ組み立て図。

 最後に完成した品をタカアキと「いえーい」と自撮りすれば、これにどんな経緯があったか分かるはずだ。


「すごいね! パンから作っちゃうなんてほんとにパン屋さんだ!」

「……えっ? マジで? お前パン焼けたの?」

「塩なしパンは石窯で焼くんだ。前日に仕込んだ種をベースにして、そいつを溶かして小麦粉と混ぜて生地を作って……って感じで。二日は持つからこうしてサンドイッチにすると具の水分を吸ってしっとりするぞ」

「流石キラー・ベーカリー……名にたがわぬ成長ぶりだね、パン屋さん兼冒険者とか私初めて見た」

「……お前パン屋にでもなるつもりか?」

「奥さんが言ってたんだけど開業には程遠いってさ、まあパンの焼ける冒険者ぐらいにはなれって言われてこうして任される仕事が増えてる」


 どうせなのでシナダ先輩にも一つすすめた。

 サラミ入りのクリームチーズと玉ねぎのピクルス、ナスのソテー(タカアキ作)を挟んだ一品だ。

 かなり恐る恐るに受け取ると、厚めの皮ごとがぶっと食らいついて。


「……いや、うそだ、そんな……うまいなこれ!?」


 もぐもぐしてから信じられなさそうな顔をされた。

 味見を繰り返して分かったけど、このパンは塩気を強めに足すとうまい。

 ここ最近試行錯誤し続けたせいでサンドイッチばっかり食ってる気がするし、この前の報酬も材料費で吹っ飛んだけど必要な犠牲と割り切ろう。


「ってことで試食どうも二人とも、これからも精進してやるよ」

「ほんとイチ君って面白いね? 他のプレイヤーさんたちからなんだか一線飛び越してて、確かに話題になるのも納得しちゃったよ」

「その気になればスチール等級もあっという間なんだろうけどな、ご覧の通りこいつは我が道を今日も縦横無尽に進んでやがる……後でタケナカにも食わせたらどうだ?」

「そう思っていっぱい用意しました」

「とうとうサンドイッチ配りにきやがったぞこいつ!?」


 俺も一つかじった、厚いパンに生ハムとチーズの味が挟まっていい感じだ。

 このパンは毎日食べても飽きない、まるで俺たちの食う白米と感覚が似てる。


『……こ、こんにちはー? いちクンいますか……?』


 タケナカ先輩来たらお見舞いしてやろう、とか考えてたら覚えのある声だ。

 集会所にそっと身を乗り出す桃色髪のお姉さんがいた――ミコが来てる。


「あ、ほらイチさんの彼女来てるよ」

「お前だって彼女連れてきてないか? お呼びだぞイチ」

「ちょうどいいサンドイッチお見舞いするか」

「お見舞いとか言うな!? 一応ミコさんたちここの顔みたいなもんだからな!?」


 よく見ると今日はもう一人多い、リザード系女子がきりっとした目でいた。

 エルも一緒か。初めて踏み込むせいか賑わう集会の場に戸惑いがある。


『おおミコさん、こんにちはだな! イチならあそこだぞ!』

『あ、こんにちはミコさん。あっちでシナダ先輩たちと一緒ですよ』

『ミコ先輩だ……こ、こんにちは! ヤグチっていいます! いつもご活躍耳にしてます、頑張ってください!』

『彼女のアオです! すごい、ミセリコルディアのマスターさんとエルさんだ!』

『お、俺ホンダです! ようこそミコさん!?』

『エルヴィーネさんもいる……すごい人たち来ちゃってるね。いつもイチ先輩にはお世話になってます、あの人ちょっと最近無遠慮だけど……』

『……おいミコ、この方々は貴様の知り合いか?』

『そ、そうなるのかな……? こんにちはみんな、ここもすっかり賑やかだね?』


 名の知れたクランは大変そうだ、面構えの違う連中が殺到してる。

 ニクも「ミコさまだ」と尻尾を振ると向こうはこっちに気づいたらしい。


「ふふっ、こんにちは? なんだかここってすごく明るいね? 少し見ない間に雰囲気がだいぶ変わっちゃったみたい」

「ん、こんにちは。ここ、すごく居心地がいいよね」

「こんにちはニクちゃん、すっかり冒険者だね?」

「よお、あの依頼やってからどうも盛況してるらしい。ところサンドイッチ食べる?」

「さ、サンドイッチ……?」

「こらイチ! 会って早々にいきなりすすめるな!? 順序ってもんがあるだろお前!?」


 わん娘と出迎えるとにっこりおっとりやってきたので包み紙を突き出した。

 シナダ先輩に注意されたけど「ええと」な感じで受け取ってくれた。


「……これ、パン屋さんのかな?」

「いや……何やってるんだ貴様は、会って間もなくいきなり何事だ」

「おすそ分けです。ついでに今日から冒険者ギルド支部はパン食うのはOKになりました」


 ついでに得意げな顔で「これ」と後ろの張り紙も指した。

 不本意そうな文面にミコもエルもストレンジャーの所業を顔で疑ってきたが。


「イチ、あんまりミコさんたちに迷惑かけるなよ。こいつの先輩ってことになってるシナダだ、ごゆっくり」

「こんにちはミコさん、ネコマタのキュウコだよ。そのサンドイッチおいしいから食べてみなよ?」


 先輩とその彼女に言われて、手元の空っぽの包みも見て食欲が進んだらしい。

 味覚の鋭いミコだ、シンプルな【オリーブと生ハムとチーズ】を渡した。


「……この張り紙、いちクンまた何かしたの?」

「ここが噂の集会所か。プレイヤーばかりが集まってるという話じゃなかったのか? ヒロインたちも普通にいるように見えるんだが……?」

「森で白き民やっつけるお仕事やってからこうだぞ。今まで以上に賑わってるだろ?」


 席に着いた二人はあっという間に変わったここに空気に少し驚いてた。

 そのままサンドイッチにもくもく口をつけた――エルが「ふむ?」と関心してる。


「うん、聞いたよ? 白き民の群れに勝った、とか噂になってたし……あっ、おいしい……?」

「私も耳にした時は驚いたものだな。ニクがいるとはいえ、プレイヤーたちであの化け物に打ち勝ったというんだからな――生ハムとチーズか、シンプルだがパンの味に合うな」

「さっきお前らにご挨拶したのがそいつらだ。タケナカ先輩なんてキャプテンぶったぎったぞ」


 二人の「うまい」って顔に集会所の壁際を指で案内した。

 そこに誰かの太刀筋が残る鎧が丁重に飾られてた。すっかりここのシンボルだ。


「さっきの人達がそうなんだね……っていうか、タケナカさんキャプテン倒したんだ……!?」

「ヒロインでもないのにあれほどの相手を倒すとは、やるな……」

「ホンダとハナコってやつもすごいぞ。ストーンなのに『ソルジャー』に勝ったんだからな」


 もぐもぐするミコとエルに話題の人物を「あれ」と紹介することにした。

 地味顔二人は気づいたらしい、傷跡の残る方がにやついて、眼鏡顔が軽く会釈だ。


「そういえばストーン等級の人も参加したっていうけど、さっきの子たちだったんだね……すごいなあ」

「どおりで先ほどから顔つきの違う連中が見受けられるわけか」

「最近じゃ白き民関係の案件も増えてるだろ? そういうのに慣れようとするやつも同じくして増えてるわけだけど、タケナカ先輩があいつらとの戦い方を教えてるところだ」

「そうだね……この頃、郊外のいろいろなところで見つかったって言ってるし」

「私の知り合いもこう言っていたぞ、この世界のモノじゃない廃墟に白き民が巣食っていた、だとかな。あのシェルターのようになってるところがあるらしい」

「俺のせいで世間をお騒がせしてないことを願いたいところだ」


 話を聞くにやっぱり白き民と巡り合う機会は増えてるらしい。

 タケナカ先輩のいうように今後も間違いなくそれに関わる依頼が増えるはず。

 が、そんな仕事に取り組むのは危険に首をずぶずぶ突っ込むことだ。

 今はまだ大きなトラブルはないものの――今後は分からない。


「……まだこの世界で旅人としての勝手が分からん奴がいっぱいだからな。あんな得体の知れんバケモンで同郷の奴を失うなんざ嫌な話だろ、だから俺たちはもっとこの世界の勝手を知らないといけねえのさ」


 二人がサンドイッチを食べ終わる頃には、噂をすればなんとやらだ。

 タケナカ先輩がずかっと隣に座った。片手に抱えた紙袋に少し困ってる。


「あ、タケナカ先輩来たな。ようこそ俺の隣へ」

「こんにちは、タケナカさん。お邪魔してます」

「あなたがタケナカか。噂に聞いたが『キャプテン』を打ち倒したそうだな?」

「ミコさんに……あのエルさんか。初めましてだな、その戦果についてはそこのパン狂いのせいでもあるぞ」

「俺は突破口を開いただけだぞ」

「お前に乗せられたのは俺の責任だとして、どこにあんな喜んで敵へ突っ込む奴がいるかって話だ」

「……いちクン、また無茶なことしたでしょ?」

「……またか、相変わらずだな貴様」

「敵の意表をついてやっただけだ」

「確かにあれじゃ逆に撤退したところで追われる身にはなっただろうがな、今思うとあんな真似はできれば二度としたかねえ」


 そう口にして困り顔を延長してた――なぜかいつもより戸惑いがある。


「……タケナカさま、そのお菓子どうしたの?」

「もっと誇れよタケナカ。つーかよ、その袋どうした? お菓子だって?」

「確かに甘い匂いがするよね。クッキー?」


 しかしニクの鼻が甘さを突き止めたらしい。

 シナダ先輩と彼女にはお菓子の入った袋が映ってるようだが。


「貰った」


 どうしたものか、そんな顔で後ろに親指を向けてた。

 そこに集会所の入り口があるわけだが、何やら可愛らしい顔ぶれが三つある。

 天使さながらに羽を生やした女の子、狐の耳と尻尾が立つ女の子、表情乏しい球体関節の女の子――あわせて3ロリが視線を送ってる。


「あー、そういうこと。真心こめたのがあそこにいるな」

「ふふっ、タケナカさんのことじっと見てるね? 気に入られたのかな?」

「あの子たちはどうしたんだ? さっきからここの入り口前でそわそわしてたのを見たんだが」

「料理スキル上げにいっぱい作ったからどうぞ、だとさ。いや、こういうのをもらうのは初めてだからどうすればいいかって話なんだが」


 お悩みがこうして告げられて正体は見えた。この坊主頭が気になるらしい。

 さっき言ってた「人とヒロインとの隔たり」に踏み出せそうでそうでもないそわそわ具合だ。


「いい解決法があるぞ。おい! タケナカ先輩が「どうぞ」だとさ! 俺からもどうぞだ!」

「ちょっ、ちょっと待てイチ……何勝手にあの子たち」


 じゃあこうしてやろう。

 クッキー片手にこまねいてる先輩とそばのミコたちも紹介して手招いた。

 三人は顔を見合わせて覚悟が決まったらしい、ちょこちょこそわそわ入ってくる。


「こ、こんにちはー……? 私たちが来てもいいのかな……?」

「お邪魔します……? あの、さっきはいきなり渡してごめんなさい。良かったら食べてくださいね? こだわりのフォーチュンクッキーです、メッセージに魂注ぎました」

「前々からここには興味がありました、我々が利用してもよろしいでしょうか?」

「……あー、ここは別に俺たちだけの場所じゃないからな。クッキーをありがとう、ゆっくりしていってくれ」

「何かったらこの怖い顔の人に聞くといいぞ」

「おい、誰が怖い顔だって?」

「いちクン、失礼すぎるよ」

「ごめんなさい」


 ロリ三つ分は厳つい顔に安心を見出したようだ、ちょっと嬉しそうに空いてる席に落ち着いた。


「ほらな? 解決だ」

「……お前はいつも強引だが、そうやって引っ張ってくれてるから助かるやつがいるんだろうな」

「誰かにそうされたからさ」


 タケナカ先輩は手元のクッキーを見て少し困り顔で――笑った。

 前と比べて表情にはいつも余裕が浮かんでる。

 一番変わったのはこの人かもな。

 初めて絡んだ時は切羽詰まってたけど、今じゃお菓子をもらって苦笑いする程度だ。


「……それで、ちょっと大事な話がある。いや、大した話じゃないんだがな」


 しかしそんな表情もすぐに「お仕事モード」だ。

 大した話じゃなさそうなのでしれっとサンドイッチを進めておこう。

 「またか」みたいな顔を返事にスモークサーモン&オニオンクリームが渡った。


「何かあったのか?」

「いきなりサンドイッチ渡すようになったお前が怖いよ。それよりもだ、前に話した警備の依頼は覚えてるか?」

「ああ、クラングルを警備する、とかいうやつだろ?」

「最近不審者が増えて住民が迷惑してるそうだ、そこで市がけっこうな数の冒険者を募り始めた」


 塩なしパンにかぶりつきながら話せる内容だったらしい。

 前にしれっと耳にした話だけど、語り方からして深刻な感じだ。


「……うん、実を言うとわたしもそのことを話しに来たの」

「大した仕事ではないらしいんだがな。頼りになる人手がいっぱい欲しいと聞いて、こうしてイチを誘いにきたんだが」

「ご一緒にどうぞってやつか? なら別にいいけど……タケナカ先輩は?」


 ミコたちは俺をじっと見てる――お誘いになるつもりだったか。

 話しを持ち掛けたご本人の目つきは、彼女とイチャつく先輩から周りの面々まで広く見てから。


「実はな、ここにいる連中にもオファーが来てるんだよ。白き民に輝かしい勝利を収めた旅人たちも加われば、警備の質にも箔が付くだろうなって理由でな」

「そ、そうだったんですね……? でも、すごいかも……市から手伝ってほしいって言われるなんて」

「なるほど、ここのプレイヤーたちも頼っているわけか。であれば、私たちは同じ依頼をこなすことになるな」

「あんたらミセリコルディアも全員で取り掛かるみてえだが、市民の皆さんが安心できるようにと信用できる奴をどんどんぶち込めだとさ。ここぞとばかりにな」


 「どーしたものか」と言いたげに顔立ちを一つずつチェックしてる。

 活躍した人間の皆様も都市の治安のために是非おいでください、って話か。


「そういうことか、でもなんだかひどい数合わせに感じるな」

「実際そうだろうな。よっぽど深刻なのかしらねえが、ギルマスからも話を持ち掛けられたところだ」

「んで今物色してますよと」

「市はヒロインたちも俺たち人間も等しくこの街を見てるぞ、というサインにしたいらしい。そこでちょうど俺たちに矢が立ったわけだ」

「だったら俺は参加だな、ニクも一緒だ」

「ん、ぼくも一緒だよ」


 ミコに誘われて、タケナカ先輩もここの顔ぶれを誘ってる、なら俺も行くか。

 わん娘も参加を表明すると厳つい先輩は人手が増えて安心した様子だ。


「そうか、助かる。必要な等級は『カッパー』以上だが、ホンダとハナコの責任は俺が持つとして……とりあえずこの前一緒にやった連中は全員誘おうと思う」

「白き民討伐フルメンバーか? 縁を感じるな」

「ちなみにキリガヤ、サイトウは二つ返事でオーケーだ。この様子だと討伐依頼参加者フルで出向きそうだ」

「なんか面白そうだな。タケナカ、俺も参加な」

「彼女もついていっていいよね?」

「そしてシナダとその彼女もか。あっさり集まっちまったな」

「えっと、あのね、これが依頼書なんだけど……一晩で4000メルタ、もし不審者を捕まえたりする、とかの功績があれば追加で支払うらしいの。いっぱい参加するだろうし、そんなに危なくはないと思うけど」


 依頼の話が固まったところでミコがそっとテーブルに依頼書を差し出した。


【最近不審者が急増したため、クラングル市の夜間警備に参加する冒険者を急募! 4000メルタ】


 という感じの内容を見せてくれた。

 昼過ぎに説明があって、お仕事は夕方を過ぎてからだそうだ。

 クラングルで一晩過ごして4000か、少し考えて街中でドンパチやる機会はもうないだろうと信じて受けることにした。


「オーケー、ちょうどよかった。白き民はもうお腹いっぱいだからな」

「分かった、お前らはミコさんと一緒に組んどけ、昼過ぎの説明会で会おう」

「ああ、何かあったらメッセージ機能で連絡してくれ。それからサンドイッチどうだった?」

「味気ないパンだと思ったが具材とかみ合ってたな。うまかった」

「あ、おいしかったよ? シンプルだけど奥深くて……クルースニク・ベーカリーの塩なしパンかな? でも風味がいつもとちょっと違ったような……」

「食べ飽きない味だったな。気軽に食べれるし食べ応えも悪くない」

「ネタバレだ、実はそれ俺が焼いたパン。そして具を挟んだのも俺だ、感想ありがとう」

「そうだったのか……ん!? 待て今なんつったお前!? パン焼いたって!?」

「えっ!? いちクンが……えっ!?」

「……貴様が作ったのか……!? いや、てっきり店のものかと思ったんだが!?」


 ついでにネタバレもした。

 ひどく驚く坊主頭とトカゲガールにいい気分だけど、ミコの舌は騙せなかったのは流石だと思う。

 パンをドヤ顔で見せびらかしてから俺は仕事の準備をしにいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ