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40 プレッパータウン(4)

「いま誰か――いや知ったことか! 焼却師! 我らの業火で炙ってやれっ!」


 今度は不気味な奴らの列が接近してきた。

 手には何も持っていない、だがそいつらは手を突き出すように構えて。


「焼かれちまいなァァァッ! ブレイズ・ウェーブ!」


 何かの名前を叫ぶ、そして青くて白い光が浮かんだと思うと――炎の壁がいくつも立ち上がって、こっちに向かって襲い掛かってきた!

 ただの壁なんかじゃない、もし飲み込まれれば全身やけどじゃすまない質量だ。


「うおおおおおおおおおおっ熱ィィ! なんだありゃあああああッ!」

「あっつ! やべえ新手の焼夷兵器か!?」

「どっちだっていい! 退避しろ! レアじゃすまねえぞ!」

「俺は焼け死ぬときはベリーレアって決めてんだ! 冗談じゃねえ!」


 混ざり合った炎が連なったまま町を飲み込んでいく。

 さっき見た大きな家に炎の壁が当たって、衝撃で壁が砕けた。

 民家の屋根が積まれた土嚢ごと焼き払われ、住民たちがあわてて頭をひっこめる。


「あっっ……つぅ!? これマジで魔法か!?」


 ジャンプスーツ越しに熱湯をぶっかけられたような熱さを感じる。

 真っ黒な犬は足元で「クゥン」と熱そうにしながら怯えていた。


『いちサン! 伏せて! あれは火属性の範囲攻撃魔法の――』


 燃やし迫る炎の壁は、ついに岩陰を乗り越えて頭上まで迫って来るが。


『ブレイズウェーブっていう……』


 ミセリコルデの説明が終わるより早く、すっと消えてしまった。

 焼き払われた地面と熱々の空気を残して。まただ、なんなんだ?


「……おい、どうなってやがる!? 奇跡の業火が消えたぞ!?」

「なにやってんだ焼却師ども! 真面目にやれ!」

「い、いや……何か変だ! かき消されたような感触がしたんだ!」

「何わけの分からないことを言ってやがる! もう一度やれクソども!」


 焼却師とか言うやつらは一体どうしたんだろうか、攻撃の手を止めている。

 もう一度身を乗り出してカービンを構えた。

 照準をふらふらと合わせる、青い膜みたいなのに包まれた中央のやつに。

 トリガを連続で引く。軽い反動数回分の後、遅れて向こうでターゲットが倒れる。


「だっ……だめだッ! 何かおかしい! 俺たちの奇跡が通用してないぞ!」

「一体どうなってんだよ!? 奇跡の盾は無敵じゃねえのか!?」


 あいつらは動揺してる。

 それならもう一回だ、今度は大雑把に狙いをつけて小銃を撃ちまくった。

 なぜか弾は膜にせき止められることもなく貫いている、明らかに動揺していた。


「ひぃ!? も、もう無理だ! 俺たちゃ退くぜ!」

「こんなところで命かけるつもりなんてねえよ! 退却するぞ!」

「待てお前ら! 戻るんじゃねぇ! 残って戦えェェッ!」


 ……妙なコスプレしたやつらが北に向かって全力疾走してる。

 敵は背中に矢玉や味方の罵声を受けながら引っ込んでしまったようだ。


「ボス、良くわからねーがあいつら使い慣れちゃいないみたいだぜ」

「見りゃ分かるよ、突っ込んでた味方ごとウェルダンにしてたからね」

「そりゃえぐいぜ。焼死体って近づくと体がべたつくから嫌なんだよな」


 よく見ると町中に取りついたカルト信者たちがこんがり焼けている。

 ぐだぐだだ、でもおかげで肉薄してきたやつらは一掃された。

 その代わりこっちだって相当なダメージを受けているみたいだ。町のあちこちが焼けているし、各所から聞こえていた銃声が途絶えている。


「役立たずどもが……! こんなやつらさっさと押しつぶしちまえ!」


 すると魔改造されたごみ収集車がずっしりとこっちに迫ってきた。

 上部の銃座に座っていたやつが二連装の機関銃をこっちに向けてきて、


「ヒャッハァー! 50口径はお好きかな!? 死にやがれェェェ!」


 恐ろしい大口径のそれがぶっ放される。

 離れていても耳が痛くなるほどの強烈で重々しい銃声が響いてきた。


「いひぃっ!? なんでこっちばっか狙うんだくそくそくそっ!!」

『い、いや……いやあああああぁぁぁ……怖いよ……もうやだよぉぉぉ……!』


 盾にしていた岩に何かが当たってばしばし音を立てる。どうして俺のとこばっか狙ってくるんだクソ野郎。

 弾の威力を受け止めきれなかったのか頭上で欠片が飛び散って、泣きわめく短剣と怯えて丸くなってた犬と一緒に当たるんじゃねえぞと祈りまくった。


「サンディたちの援護はどうしたんだい!」

「あいつらのことだ、きっと移動中だろうよ!」


 そんな中でもこの攻撃的なばあさんと迷彩男はさほど動揺しちゃいない。

 心臓が戦車の装甲で出来てるのか、こいつら。


「ああくそっ! 私の別荘になんてことしてくれるんだいイカれ野郎ども!」


 後ろでは機関銃の射線がずれたのか、あの大きな家にぼこぼこ穴が開きまくっている。


「あーあ、見ろよボス。焼かれた上に穴だらけだな。暇だから酒盛りしてたのにな」

「はっ、どうせまずい酒だから構うもんかい! それより弓を持ってるやつがいるよ、矢に気を付けな」

「矢ねえ……いい思い出がないぜ」


 そこで銃撃が止んだ。

 向こうから「早く装填しろ!」と何かをがちゃがちゃ動かしてる音が聞こえてきた。


「上等だ、こいつら一人も生きて返すんじゃないよ!」


 それと同時に老人が起立、背筋をまっすぐ伸ばしてワンショット。

 きっと当たったんだろう、満足した様子でボルトを引いて空薬莢をはじいた。


「燃やせるごみ、一つ追加だよ。これだから勢いだけでやるやつは嫌いだ!」

「言えてるなぁ!」


 カジュアル戦闘服な男身を乗り出す。どこかに向かって数発連射していた。

 それにならって起き上がるが――車両の陰から槍を持った連中が飛び出してきた。


「アイシクル・バレット!」


 今度はそいつらが手にしていた槍を突き出しながらそう唱える。

 構えられた槍の先で青い光が発生、そこから鋭い氷の塊がにゅっと放たれた。

 それは滑らかな動きで飛んでくると、近くで身を乗り出してた誰かの腹に命中した。


「次は氷か!? なんてこった、魔法かなんかか!?」

「おい、大丈夫か!」

「ぐおっ……ファクトリーのボディアーマー、つけててよかった……」

「アーマーぶち抜いてやがる!? 誰かこいつを下がらせろ! 包帯まいとけ!」

『いちサン! こっちにも来てる……!』


 そんな様子を見てたらこっちにも塊が飛んできた――やべえ、こっちに来る。

 避けられない。額にひんやりとしたものが触れた気がして。


「やばっ……!」


 氷の矢はパキッと音を立てて粉々に砕けてしまった。

 その欠片すら残せずに綺麗に消滅、なかったことにされた。


「なっ――!? いまあいつ、俺の氷弾を……かひゅぅ!?」


 魔法を放ってきたやつが驚いていると、横からの矢に頭をぶち抜かれた。

 そしてぱんぱんと細かな銃声が聞こえて、氷魔法使いたちが沈黙。


「サンディたちは立て直したみたいだね。おい新兵! 生きてるかい!」

「なんとか……」


 しかしあいつらだってまだまだあきらめない。


 太い鉄製パイプのようなものを担いだ敵が町へとそれを打ち込む。

 ぼしゅっという音のあと、背後で炸裂音。民家が崩れる音と悲鳴が混じる。


「いまだ同志たち! 異教徒どもをなぶり殺せッ!」


 狙撃が止んだ隙に前進した群れが町の中に押し入り、応戦していた人々に襲い掛かる。

 物量に押されて乱戦状態だ。これは流石にまずいんじゃないか?

 そうだ犬は? 駄目だ足元ですっかりおびえてる、役に立たねえ。


「やべえぞボス、侵入されちまった! ロケットランチャーまで持ってやがるぞ!」

「中のほうはアレクがなんとかしてるさ! それよりもっと派手なやつが来たよ!」


 そんな中で一体どうすればいいんだ――と思っていると。


「いけ! 祝福兵! 思う存分暴れてこい!」


 誰かの指示に従って、人の形をした金属塊がのしのし歩いてきた。

 いや、人間だ。半身を覆う盾と金属製の鎧に身を包んで滅茶苦茶な足取りで迫ってくる。


「異教徒は消毒だァァ!」

「殺せ! 焼いて貫いてぶっ殺せェェ!」


 身体は変にブルブル震えていて、兜からのぞく目は間違いなくイっている。

 そいつらは「ブレイズボルト!」だの「アイシクルスピア!」だの叫んで手にしている槍から氷や炎の弾を手あたりしだいにぶっ放し始めた。

 炎はまだいい、氷は標的に誘導されているのかほぼ間違いなく当たるのだ。


「ぎゃっ!?」「あ、足がぁぁぁ!?」「氷に気をつけろ! 姿を見せるな!」


 そのたびにそんな悲鳴が飛び交う。そんな恐ろしい光景を見て何かできるかって? 

 無理だ、あちこちで銃声が聞こえてどこを見ても敵。

 しかも攻撃が降り続ける激戦区で身動きなんて取れると思うか?


「……おい、新兵」


 もう遮蔽物としての価値が損なわれてきた岩陰で引っ込んでると、呼ばれた。


「な、なんだ?」

「お前さん、見た限りはあの変なのが効いてないみたいだね?」


 あのばあさんは小銃からスコープを外して銃剣を差し込んでいるところだった。


「……俺だってよく分からないけど、あの魔法は無効化されてるみたいだ」


 確かにそうだ、ミセリコルデのいう『魔法』は一体どうしてなのか俺には効かない。

 だがそれだけだ、一人だけ魔法とやらが効かない程度の話じゃこの状況は変えようがない。一体どうしろってんだ。


「なるほど、よく分からんがひらめいたよ」

「何をひらめいたって?」


 だがまあ、その事実さえわかれば十分なのか、


「プランBさ。ツーショット、オコジョは頼んだよ!」

「任せてくれ。それじゃいってらっしゃいお二人さん……と一匹」


 いきなり肩を組まれ……たんじゃない、首に腕を回された。

 足が浮きかかるぐらいのとんでもない力だ。そのまま抱きしめられたかと思えば、老人と新兵、二人でベタな強盗&人質みたいな形になるわけだ。


「……おい新兵、借りるよ。散歩といこうじゃないか」


 こうして戦場の中、二人仲良く肩を並べて――いやいやちょっと待て何するつもりだ。


「ぐぇっ……!? 借りる、って……!」


 首がみしみし絞められて苦しい、というかほとんど持たれた状態で俺たち(・・)は進んだ。

 とても悲しいことにその進行先というのは敵の眼前である。


「暴れるんじゃないよ! アレク、まだいるなら入ってきたやつらを片付けてきな!」

「はぁっ!? ちょっ……くるしっ……押すな……っ!?」


 ああなるほど、これで防げるわけだ、盾には盾ってか?

 これで俺は立派な肉盾となって――じゃねえよおい何してやがる!?


「なんだあいつ!? 奇跡の業が効かねえ!」


 そんな様子はあっちからしても異常だったようだ。

 肉盾(おれ)に向かって面白いように炎やら氷の矢がぽんぽん飛んでくる。

 もちろん少しでも触れた瞬間にすべてかき消されるのだが。


「はっ! こいつはいいね、このままぶっ潰すよ!」

『いっ……いちサンを離して!?』

「うおっ……おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 スピードが上がる、ほぼ走るような感じで共に敵陣へと突っ込んでいく。

 迫りくる肉盾を前に、あいつらは地獄を目の当たりにしたようにビビってた。

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