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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
448/580

39 機械を壊せストレンジャーたち


「――走れ! 命がけで!」


 誰が言ったかタカアキか、そんなことは全人類皆等しく分かる事実だ。

 幸い戦利品を手放せばすぐ突き当りで、右に曲がれば出口もすぐだ。


「なんであんなの置きやがった戦前の×××野郎! イカれてんのか!?」

「ご主人、はやく!」

「右だ右! 急げ急げ急げ!」

「みんな階段へ走って……!」

「どうして地下にあのようなロボットがいるんだ!? どうなってるここは!?」

「いち君の知り合いまさに今動いてるじゃないですか!? っていうかセアリさんの戦利品がぁぁぁぁッ!?」

「セキュリティ万全みたいだね逃げろー!?」

「つ、強そうなロボットですねー……!? たいきゃーく!」


 俺たちは無秩序好き放題に叫んで通路奥までもうひと頑張り――そんな時だ。


「あっ……!?」


 みんなが転ぶように右折する最中、視界の片隅で薄桃色が崩れる。

 つい向けば相棒が足をもつれさせていた、反射的に手を伸ばして支えるも。


「ちっ畜生ミコッ……!」

「――二人とも、危ないですッ!」


 更にその後ろ、誰かの可愛らしい叫びがこっちに迫ってきて――


*DDdodododododododododododododododommMM!*


 束ねた五十口径が自宅警備を執り行うのと、お姫様さながらの姿が飛び込んでくるのが見事に重なった。

 判断が僅かに狂った俺たちにリスティアナがずっしり飛んできたのだ。


「おっ……!?」「ひゃうっ……!?」「わぁっ……!?」


 おかげで三人仲良く合理的な形で通路へごろっと転がるハメになり。


*DDDDdododododododododododododododommMMMM!*


 軽装甲もぶち抜く質量が背のコンクリートをべちべち砕く。

 甲高い着弾の衝撃と閉鎖空間いっぱいの轟音も五感にひどく響いた。

 逃げ込んだ先でどうにか分かるのは眼前で12.7㎜の弾頭が暴れる事実に――


『――! ――!』


 弾幕の向こうで何かを伝えようと叫ぶタカアキの姿があった。

 そして俺たちは三人仲良くトイレ側の通路に流れ着いてしまったってことだ。

 あの恐ろしい連射がフォート・モハヴィの嫌な思い出を蘇らせてくれたが、とにかく床を這った。


「こっちだ! 逃げろ!」


 鼓膜に悪い轟音の中だろうが知るか、例え聞こえなくてもそう伝えて進む。


『――!? ――!』


 するとリスティアナが腰を抜かしたミコをどうにか起こして支えてくれた。

 俺も加わって二人三脚だ。よろよろ離れればそこには頼りない扉が一枚。

 我先にぶち破って押し入れば、あきらめがついたのか掃射も止んだ。


「ミコさん!? どこかお怪我はありませんか!?」


 駆け込んだところでリスティアナが無事なのは分かった。

 ミコも無事だ、涙目でびくびくしてるがショックで寿命が削れた程度だ。

 薄暗い、不衛生、腐臭がすると最悪揃いのトイレだが、今はまだ気にする余地がないのが幸いだ。


「だ……大丈夫……です……」


 さすがに五十口径には慣れてなかったか、水筒を「飲め」と渡した。


「全員生きてるんだな? ここに手足吹っ飛んでるやつはいるか?」

「いちクンもリスティアナさんも大丈夫……? ご、ごめんなさい……!」

「それ言うならあんな迷惑極まりない外来種を持ち込んだ俺の責任だ。少し飲んで落ち着け」

「私はご覧の通りへっちゃらですからね! 気にしないでください!」

「……み、みんなはどうなったのかな……?」

「俺たちとは真逆みたいだ、無事って意味でな」


 相棒はぷるぷるしながら一口飲んでるが、どうも次の心配事はみんならしい。


*ぴこん*


 そんな俺たちを追いかけるようにメッセージの着信だ。

 どうも他の二人も知るアテから来たらしい、たぶん無事な連中からだ。


【生きてるかお前ら? こっちは階段側で元気してるぜ】

【ご主人、大丈夫!?】


 現にタカアキとニクから元気な証拠が確かに送られてた。

 ミコもリスティアナもそうなんだろう、宙を引っ掻きつつ安堵してる。


「みんな逃げれたんだね……よ、良かった……」

「タカアキ君たちは逃げられたみたいですよ? でもどうしましょう、私たち追い込まれちゃったみたいです……」

「そうみたいだね……あ、あの、リスティアナさん……?」

「はい、なんでしょう?」

「あ、ありがとう……ございます。わたしのこと、助けてくれて……」

「いえいえ、困った人を助けるのが冒険者の務めですから」

「……ふふっ。リスティアナさんは立派だね? ついてきてくれて本当に良かった」


 ひとまず、足並み揃えて不名誉な死に方をせずに済んだのは間違いない。

 だが問題が待ち構えてる、トイレに閉じ込められてからの「これから」だ。


「仲良し中失礼、まず先に「あんなの持ち込んでごめんなさい」だな。すまない二人とも」


 そもそもこんな事態を招くに招いてここまで至った原因は俺である。

 しかもここは150年モノのトイレとかいう最悪の環境だ。おかげでもっと謝る必要がありそうだ。


「ううん、謝らなくてもいいよ。仕方がないよ、あんなの……」

「イチ君も色々事情があるようですけど、私は気にしませんからね? それよりお二人が無事で何よりです!」

「そうか。じゃあ次はこんな汚いもん転移させてごめんだ、許してくれるか?」

「……うわあ」

「えーと……ちょっとこれは私も引いちゃいますね……?」


 なんでかって? 鏡は割れ放題、便器どんより汚らわしく、カーテンで仕切られた個室にはご遺体がある。

 そしてこんな場所調べさせてごめんフラン。後で謝罪しておこう。


「後でフランたちに謝ろうと思う。で、とりあえず現状を確かめるに……」


 ひとまず全員が五十口径から逃げ延びたことは分かった、なら次だ。

 銃声は止んだがそれっきりということは向こうは目標を見失った。

 足音もしないってことはまだ仕留めにかかってこないわけだ、チャンスはある。


「……音が止んでるね、こっちに来ないのかな」

「向こうで待ち伏せてる可能性がデカいと思うぞ、何せ帰り道は一つしかないからな」


 相棒も長い耳でそっと感じ取ってたらしいが、あいつは確かに追ってこない。

 よし決めた、荷物を下ろして扉に手をかけた。


「ちょっと見てくる。ここで待っててくれ」


 こんな場所に待たせるのはひどい話だが、俺は様子を見ることにした。


「……うん、気を付けてね?」

「い、いっちゃうんですか……? 危ないと思ったらすぐ戻ってくるんですよー?」


 二人に見送られてそっと扉をあければ――ワーオ。

 首を生やすように覗けば、五十口径でずたずたに掘られた壁が見えた。

 危うく美少女二人と『2:1』で無残な挽肉になってたはずだ。

 こういう時、恨むべきは転移させた俺なのか戦前の奴らの馬鹿どもなのか。


『索敵中……当機は現在、戒厳令につき情け容赦ができません。ご協力をお願いします、ご協力をお願いします……』


 いや、こんなアホみたいなことを地下でぬかすやつだろうな。

 中央通路から人を探るような言葉がかすかな駆動音と混ざり合っていた。

 弾痕だらけのそこを横切れば階段まですぐだが、一歩踏み込めば確実に死ぬ。


*ぴこん*


 そこへ着信音、同時に向こうで人影が見えた。

 心配そうにするタカアキたちだった、サングラス顔が人差し指を立ててる。


【覗き込むな、とりあえずいったんトイレまで戻れ。静かにな】


 そのついでに深刻そうに戻れと促してきた。

 オーケーだタカアキ。頷いて慎重に戻った。


「……あ、おかえり。大丈夫? 嫌な顔してるけど……」

「どうでした……? まだこっちには来てないみたいですけど」


 汚い臭い気持ち悪いの不幸な場所に戻ると二人が気にかけてくれた。


「ぎりぎりってとこだ。こっちの帰宅ルートが一つしかないのをいいことに奥で陣取ってやがる、舐めプってやつだ」


 返す言葉は首を横に振りつつの、腹立たしい無人兵器の職務態度についてだ。

 その気になれば向こうは簡単に俺たちをぶち殺せる。

 次にみんなで「どうしよう」が顔に浮かんだ――ノルベルト、お前が恋しいよ。


「……いちクンに魔法が効いたら……」


 ぼそっとミコが言いよどむ。何か思いついたか。


「なんか案でもあるのか? 言ってみてくれ」

「えっとですね……ミコさんが短剣に変身して、向こうに投げて【ショート・コーリング】で引き寄せてもらう……って考えが浮かんだんですけども」


 リスティアナの言葉が補ってくれるも、なるほど物言う短剣を向こうに送り届けるってわけか。

 確かにいい案だ、俺はともかく二人はそれで無事に戻れるんだから。

 それにこいつは俺がもたらしたトラブルだ、これ以上付き合わせるのも酷な話だろうし。


「それで二人ともお先に帰って後は任せろっていったらやってくれるか?」


 後はどうにかする、とそのプランを促してみた。

 ところがミコが首をふるふるした。それはもう、とても嫌そうに。

 リスティアナも似たようなもんだ、旅は道連れ世は情けの勢いが出てる。


「……いちクンだけ置いてくなんてやだよ。絶対にダメ」

「私もあなただけ置いてけぼりにするなんて納得できませんよ? みんなで帰らなきゃいけないんですから」

「そもそもこんなん持ち込んだ俺の責任だ。お前らに「ご一緒にどうぞ」なんてすすめたくないのもある」

「絶対だめ。わたし「相棒を置いていけ」なんておばあちゃんから教わってないからね?」


 ところがミコにそう言い返されてしまった。

 くそっ、ストレンジャーの謳い文句を真似しやがって。

 でも今気づいた、ミコの首からシートと一緒に『タグ』が下がってた。

 そこには【イージス】とボスがくれたプレッパーズの名前がある。


「そのセリフは俺のもんだと思ったんだけどな」

「ふふっ、独り占めはだめだよ?」


 オーケー、相棒。最善を尽くして全員帰るんだな?

 ボスに誓った気持ちを生かす時がきた。目指すは三人で五体満足だ。

 ひとまず見渡すと――相変わらずクソ汚いし、そこにまた通知が来る。


【いいか、裏情報その2だ。ゲームの都合上こういうシェルターは大体プレイヤーが入るための通気口がある、トイレは確実だ】


 なるほど、そういうことかタカアキ。

 言われるがまま見上げれば本当だ、壁に大きな通気口がある。

 ちょうどはがれたカバーが人一人這えそうな隙間をこっちに見せてる。


【あったぞ。どこに繋がってるかは分からないけどな、そっちで分からないか】

【見取り図からして一応階段の方と繋がってるらしい】

【分かった、行ってみる。それと戦前の奴はクソだ、覚えとけ】

【知ってるさ。とりあえず行ってみろ、音は立てんなよ】


 そこに「もしかしたら」があるらしい。クソみたいな選択だがそれしかない。

 試しに背伸びして剥がれかけの表面を引っ張る。

 ぐらぐらさせるとべきっ、と控えめな音もろとも取れて。


「……いちクン、何してるの?」

「こういうところにはダクトがあるから行け、だとさ。多分出られる」


 ミコの心配をよそにウェイストランドの世界観らしい道ができた。

 その名も通気ダクト、暗所と閉所に恐れをなす人間が死ぬ場所だ。


「なるほど……! そこから出られるんですね?」


 周囲を恐る恐るに探ってたリスティアナも少しは希望を見出したらしい。

 ただし帰れるかは未定だ。なので「多分な」と付け足しておいて。


「帰り道がないかちょっと調べてくる。静かにしてろよ」


 ダクトめがけてよじ登った。そこからは薄暗い世界が延々続いてる。

 ライトを抜いて照らせば曲がり道が一つのみで、ごそごそ這って進むも。


「……マジかよ」


 口から出たのはそれだけだ。

 確かに階段側へは続いていたさ、頑丈そうな格子に隔てられた上でな。

 残った道は曲がって中央の通路を這うのみで、下から差し込む明かりがここを不吉に照らしてた。

 よって速やかに戻った、最悪の土産だ。


「確かに帰り道はあったぞ、塞がれてたけどな。それかあいつに向かって行くかのどっちかだ」


 そのせいで降りた先の「どうだった」という顔にそう答えるしかなかった。

 すぐに俺たちはじゃあどうするかって話し合う態度に変わって。


「デザート・ハウンドを倒す方法はある? クラフト機能で何か作るとか……」

「さっきの部屋の工具があればライフルグレネードだとか爆薬は作れる。おびきよせてドカン、ができるんだけどな……」


 ミコの案が一つ、クラフトでどうにかする。

 ダメだ、作れる環境がないし、ライフルグレネードに必要な突撃銃もない。


「間合いと時間的余裕が十分なら、私のスペシャルスキルで倒せるかもしれないんですけど……」

「ダクトを這って上からやれるか?」

「ちょっと無理かもしれません、構えが必要ですし……撃たれちゃうかもしれません」

「じゃあ向こうからおびき寄せるっていう案が一つだ。正直危険だけどな」


 リスティアナの【ルーセント・ブレイド】で吹き飛ばすのも微妙だ。

 まず近づけないし、こっちにおびき寄せたとして、次に見たものがスタンバイ中の重機関銃だったら死ぬ。


「俺からは二つある。一つはお前らが魔法で引き寄せて逃げて、それから【ニンジャバニッシュ】で姿消して通り抜ける」

「……それならいけるかな? でも……」

「イチ君、忍術も使えたんですね……? じゃあいけるんじゃ……?」

「そうなると俺たちは派手な音立てて横切るわけだ。それにあいつのセンサーまで誤魔化せるかどうかまでは謎だ」


 アーツですり抜ける、これも考えた。

 ところが向こうは機械だ、ニンジャバニッシュは見えなくなるだけで、何も弾がすり抜けてくもんじゃない。

 魔法の詠唱や発動の音で警戒させるのも考えると――やっぱりまだ危険だ。


「もう一つはおびき寄せて、向こうの連中と挟み撃ちで強引に倒す。こういう時ノルベルトがいればどんだけ楽なんだろうな」


 最後はこうだ、おびき寄せた上で八人総がかりの突撃。

 いけるかもしれないが、あの火力を閉所で投射されたら死ぬほど困るだろう。

 ダメだ、危険すぎる。もっと確実性がないといけない。


「……あんなのを一人で倒しちゃうノルベルト君って、すごいよね」


 思い詰まってしまったが、ミコもちょうどあいつを懐かしんでるらしい。

 オーガの巨体は五十口径を防いでくれたし、デザートハウンドも当たり前のように仕留めるほど頼もしかったな。


「あいつに頼り過ぎたツケが回って来たな、こういう時いてくれたら――」


 相棒と一緒にノルベルトのことを思い出してるとふと個室に目が行く。

 骨だけの誰かが、便器に顔を突っ込む死に様をまだ晒してた。

 ところがそんな不名誉な死のそばで、灰色のぼろ布と古びた鞄が――まさか。


「待てよ……もしかしてこいつは」


 恐らくはスカベンジャーの格好だ。

 乱暴にはぎ取られたあいつらのシンボルが荷物と一緒に放置されてた。

 テュマーにいただかれたか。でもそばには食えないものが雑に避けられていて。


「スカベンジャー……だよね?」

「ああ、知り合いじゃない方のな。気の毒な死に方したらしい」


 確かなのは俺たちの知る人間じゃないこと、それから仕事道具があることだ。

 中でもその一つは嫌でも記憶に触れた。

 発火装置が取り付けられたパイプのようなもの――テクニカル・トーチだ。


「……テクニカル・トーチか」


 なんて偶然だろう、ノルベルトの話をしたらこれがあるなんて。

 だいぶ古びてるが()()()()として価値はあるはずだ。

 手に取るとまだ重みがある、スイッチを押せば数千度の熱が出るかもしれない。


「あの、それってなんですか? なんだかスイッチがついてますけど……」


 リスティアナが気にかけてきた、もちろん返事はこうだ。

 ミコも一瞬「まさか」って顔だが。


「こいつは化学反応で金属を焼き切る道具、そして俺たちのプランBだ。あいつをぶっ殺す」


 まだ使えそうなテクニカル・トーチの重みを見せてそう答えた。


「待って!? 正気なの、いちクン……!?」

「お膳立てができてるだろ? 向こうへの道は一直線、こっちにはテクニカルトーチ、んでストレンジャーだ。回り込んで後ろから焼き切る」


 嬉しいことに条件が揃ってるのだ。

 向こうへ続く道が用意されて、しかも確実に殺せる手段が手元にある。

 ご丁重に向こうは無防備に陣取ってると来た――いい具合じゃないか。


「そ、それでやっつけるんですか……? さすがに危険すぎますよ……?」

「こいつでああいう手合いを焼き切った知り合いいるからな。おかげでやり方は身に染みてる」


 ギザギザのついたパイプを見せつけて「やってやる」とたっぷり教えた。

 どの道あんないけすかないのを放置して「依頼完了」っていうのもひどい話だ、きれいに片をつけたいのもある。。

 それに……ノルベルト頼りの今までとはお別れだ、やってやる。


「ってことでリーダー、こいつで仕留めるプランはだめか?」


 ミコにやっていいかどうかを尋ねると。


「……いいよ、でもわたしたちも一緒だよ」


 (あきらめたように)承諾してくれた、なんだか意外だ。


「具体的にどう一緒だ」

「ちゃんと機能しないかもしれないし、その時のために万が一を準備したいの」

「俺がしくじった場合の万が一か。是非ともほしいけど、どうする?」


 ミコの心配ごとからすれば、確かにテクニカル・トーチはくすんだ見た目だ。

 じゃあその万が一はどうやるかって話だが。


「聞いて、二人とも。何かあった時のために、わたしとリスティアナさんでデザート・ハウンドに対応したいんだけど……」

「お前らが?」

「わ、私がですか……?」

「うん。もしも、だけど……その時わたしが防御魔法をかけるから、リスティアナさんのスペシャルスキルで倒してほしいの」


 なんてぶっとんだアイデアだ、両手剣でぶっ倒せってことらしい。

 そんなことを言われた本人といえば。


「……いけそうですね」


 いけるらしい。マジかお前。


「おい、どういけるか説明しろ」

「あの距離なら私の本気にかかればいけちゃうかもしれません……! それに、危険だったら両脇の部屋に逃げれますし」

「うん、あそこなら射線から逃れられそうだし……最悪、三人ばらばらになってかく乱でもできると思うの」

「そして最悪タカアキたちも来てくれて包囲できるわけか」


 最悪の最悪は階段の連中の援護だそうだ、ミコはそうだ頷いてる。


「……分かった。俺はオーケーだ、リスティアナは?」


 俺はやる気だ、ストレンジャーの名にかけてぶっ壊す。

 でもこの万が一はリスティアナ次第だ、正直この件に巻き込みたくないが。


「ここまでご一緒したのは何かの縁です、リスティアナの名にかけてやらせていただきますよ?」


 頼もしい笑顔で引き受けてくれるそうだ。

 決まりだ、全員無事に帰るために命をかけてやろう。


「よし、向こうが動きを変える間にしかける。悪いけど急いであいつらに連絡してくれ」

「お願い。いつでもいけるようにわたしたちもすぐに取り掛かるから」

「分かりました、ぜっっったいに気を付けてくださいね? 死んじゃだめですからね?」


 相棒もといリーダーと、付き合ってくれる律儀なやつに見送られてダクトへよじ登った。


「悪いな、あいにく死ねないもんでな」


 最後にそんな一言を付け足していざ暗闇へ。

 頭の中に残るダクトの構造を頼りに、明かりも音もゼロに這った。

 一体どうして俺は剣と魔法の世界でこんなのを手に芋虫みたいにしてるんだ?

 だが今更かって話だ、前々からストレンジャーはこうなのだ。


「奇妙な人生はいつもどおりだな、ノルベルト」


 皮肉に皮肉が重なる生き物、それが俺だ。

 奇しくも一人の相棒が見せてくれた戦い方をきっかけに、自分から八門の五十口径へ進んでるときた。

 あのデカい相棒は何もストレンジャーズを守ってくれただけじゃない、背中でいろいろ示してくれた――今回みたいにな?


『敵を検知できず。探索中、探索中』


 ほら聞こえてきやがった。

 明かりの混じる長いダクトの向こうから電子音声が良く届く。

 少し急ぐ。途中で下の通路の様子が見えた、置き去りの戦利品がいっぱいだ。

 それに混じって後ろからも足音がかすかに重なる――動いたか。

 ところが、だ。


『……威力偵察モードに移行します。市民の皆様、お気の毒です。どうか当機の前に出しゃばらないでください』


 なんてタイミングだ。真下からがしゃがしゃと逆関節ならではの音がする。

 シェルターを軽く揺さぶるほどの重さがずんずん歩く感覚だ。

 重機関銃が狙いを定めるモーターの音すらもある。


「おいおい……冗談じゃねえぞ……」


 最悪の事実がこっちに来てる、機械の質量が間違いなく獲物を探してた。

 やがてダクトの錆びた格子越しに影が見えた。

 大きな輪郭が一つ、続いて丸みを帯びた胴体にあわせた正面装甲もだ。

 どっしり歩く姿すらも迫り、次第に銃身の束と頑丈そうな曲線が真下まで――


「……いいや、チャンスか。そうだよな相棒?」


 だからこそだ。

 すぐ真下までそいつが迫る直前、俺はノルベルトみたいに強く笑った。

 することはもはや単純だ、格子に肘を叩きつけてがんっと叩きのめし。


『音響センサーに異常を検知。警戒モードに――』


 そいつが見上げた瞬間だ、落ちていく金属もろともするりと抜け出した。

 見上げるデザート・ハウンドへ、魔法の杖を添えてのダイブだ!


「ご名答、俺が異常だ」


 さすがにこれは予想外だったらしい、落下先でそいつが進むか引くか迷った。

 いや退いた。銃身を持ち上げようとする上半身にとびかかって、腕を絡めてへばりつく。

 背中はいただきだ。片腕一本でうまくしがみつけば――


『脅威レベル甚大! 接敵中! 接敵中!』


 巨体が暴れた。フル稼働した機構が邪魔者をぶんぶん振り回す。

 逆関節もぐらぐら彷徨って、巻き込まれた俺はたまったもんじゃないが。


「くぅ、おっ……! 今日でクビだ、クソ野郎……!」


 無人兵器の背で一緒に踊り狂いながらも握ったトーチを脇腹に押し付け。


*bassssshhhhhhhhhhhhhhhhhhhhMM!*


 魔法の杖が火柱を吹いた――数千度の熱のお味はいかが?

 ウォーカーすら焼き殺すあの熱が装甲をじゅわっと焼き落とすのが伝わる。

 しがみついた機体の動きが硬くなる。押し付けた先端からぎゅるっと空回りする駆動音が聞こえて。


『致命的な――そそそ損傷を……』


 ごんっ……とシェルターの床材に膝を落とした。

 が、その途端に手元からぶしっと不安げな音が絞り出される。

 威勢のいい火柱が途切れ途切れになって、焼き切るはずの勢いを失っていく。


「……くそっ! いつもこうだなふざけやがってくそくそくそ!?」


 その効果は如実に出てると思う。

 半分ほどで途切れてしまったということは威力も半分だ、つまり……。


『セーフモード起動、標的を排除します』


 ぐぐっ、と機体が無造作に持ち上がる。

 まずい。そう思った直後にはデザート・ハウンドは強引に動き始めた。

 背中の邪魔者を払う、とばかりに半身が勢いよく振られる――機械的な容赦のなさに意識がぶん投げられた。


「がっ――!」


 武器庫の方へと一直線だ、弾かれるように転がった。

 急いで立て直すも向こうはどすどすと不機嫌そうだ、重機関銃込みで。

 通路の脇へ飛び込もうとするも、胴の赤いきらめきは逃がしてくれそうにない。


『リスティアナさん! お願い!』


 そういう時だ、あいつの声がしたのは。

 突然の知らない声に音響センサーが働いたようだ、銃身がそこへ振り返るも。


「いっっけええええええええ!」


 その先には物言う短剣を蹴り飛ばすリスティアナが……何考えてんだ!?

 あいつの驚くべき脚力の賜物というべきか、すさまじい勢いで相棒が滑る。

 からからやってくるそれに目が行ってしまうその直後である。


『【ショート・コーリング】!』


 あの詠唱が響いた、一体誰をだ? まさか……。

 慈悲いっぱいの十字が通路をかっとび、積み上がった戦利品で止まれば――ぶょんと転移エフェクトが起こって。


「これならいけます……! 【ルーセント・ブレイド】!」


 そこに今にも一発ぶち込もうとする水色髪のお姫様が現れた。

 そういうことか、スペシャルスキルお届けサービスだ!

 当然、いきなり現れた必殺の一撃の姿にあれが対応できるはずもなく。


『警告する! 直ちに当機からはな――』


 乗っ取られたOSが一言物申すよりも早く、マナを纏った大剣が落とされた。

 左右の機銃を潜り抜け、真っ向からの一撃に爆ぜるような衝撃が走る。


『きききききき機能停止……!』


 あいつの必殺技は通用した、青い刀身が胸に深く食い込んでたからだ。 

 中枢部を完全に失い今度こそ膝をついて、そこでようやくシャットダウンだ。


「……やっ、やりました……!」


 大物を仕留めたお姫様も思わず尻もちをついてる。機体には青い剣が芸術的に食い込んだままだ。


「や、やった……! いちクン、大丈夫!?」


 ミコもふわっと元の姿で手を差し出しにきた。五体満足で傷一つなしだ。


「うおーいマジか……なんて無茶するんだおめーらは!」

「無事か貴様ら!? まったく、よくも危ない真似を……!」


 どうにか起こされると向こうからもタカアキとエルが駆けつけてきた。

 次第に心配したみんなもそこに揃った、つまりこれにて全員無事なわけだ。


「……やっぱひとりじゃ駄目みたいだな?」

「ふふっ、言ったでしょ? わたしたちもって?」

「まったくだ。ありがとうリスティアナ、おかげで挽肉にならずに済んだみたいだ」

「え、えへへー……わ、わたしもいけちゃうとは思いませんでした……? こ、怖かったですよー……」


 三人でどうにか支え合えば、そこら中に五十口径の空薬莢が転がってた。

 戦利品も無事だ。動かなくなった機体の後ろじゃ武器庫が開きっぱなしで――


「……メーデー……メーデー……!?」


 中からこっちを伺う青い瞳があった。

 一体どういう心境なのやら、あのテュマーが大きな入り口の裏にすがってる。


「……いい経験させてくれてどうも、俺からの礼だ×××野郎」


 そいつにめがけて自動拳銃を抜いた。

 急な動きにそいつが逃げるも手遅れだ、感覚的に構えてトリガを絞る。


*Bam!*


 向こうで45口径の衝撃を食らった死にぞこないが派手に転んだ。

 すると【LevelUp!】と嬉しい通知が届いた――レベル16だ、おめでとう俺。


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