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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
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35 白き民の事故物件

 突然現れたお屋敷、隠されたシェルターと新しい家主入り。

 そんなこじれた物件を人様の所有地にスポーンさせた原因は俺だ。

 テュマー入りの建物を連れてきた挙句、得体のしれない『白き民』に住処を無償で提供したわけである。

 なら持ち込んだ犯人は責任を取るべきだ――そういうわけで参加した。


 ヴァルム亭の参加に向こうは二つ返事で「どうぞ」と喜んでいたそうだ。

 その理由にはミコたちへの信頼もあるだろうが、どうも向こうは俺が巨大ゴーレムをぶち壊した実績を覚えてくれてたらしい。

 おかげで滞りなく手続きは済み。


「……セアリさん車とか初めてなんですけど、これくっそ便利ですね。人類がこぞってハンドルを握る理由がようやく分かっちゃいました」


 ……俺たちは装甲車の中でぎゅうぎゅう詰めになっていた。

 この世界らしい街道を軽やかになぞる四輪駆動の中は美少女まみれだ。

 天井ハッチから呑気にしてるセアリはまだいい、誰が言ったかショートパンツいっぱいのデカいケツの圧が迫ってくるだけでいいが。


「セアリ、尻尾を振るな頼むから! 顔に当たってくすぐったいんだが!?」

「こうして見るとセアリってケツでっっかいよね……ミコよりすっごいよこれ、叩いていい?」

「こらっ! 誰がデカケツですかエルさん!? 踏みつぶしますよ!?」

「なんで私の方に来るんだ貴様!? いい加減にしないか! お前が尻尾を振るたびに誰かに当たってるんだぞ!?」

「でもエルや団長だと尻尾長いからもっと大変なんだよね……かといってリスティアナちゃんとか完全にスカート丸見えになっちゃうしさあ」

「私は大丈夫ですよー? 変わりましょうか?」

「ダメです! セアリさんはお外の空気を感じたいのでここは譲りません!」

「いや大丈夫だとかそういう問題じゃなくてだな、リスティアナ……」

「一応ここ男の子三人いるんだからね……? ちなみに団長もスカートなので立てません」


 後部座席はミセリコルディアの面々とリスティアナがわいわい賑やかだ。

 そこにワーウルフの青い尻尾とエルとフランの尻尾やら翼やらで更に窮屈に。

 唯一の取り柄はやかましすぎて退屈しないっていうところだ。


「……あいつら賑やかですこと」


 その点、俺が腰かける助手席はまさに特等席だ。

 ただし膝上にはちょこんと座る黒髪の美少女(男)が犬耳を立てていて。


「ん……♡ ここ好き……♡」


 今日もニクは尻の重さを預けて人間椅子でくつろいでいる。

 時折顔にかかる毛先がくすぐったいし、洗ったわん娘の香りがする。


『セアリさん、エルさんたちが困ってるから落ち着こうね……?』

「ミコさんもセアリさんのケツがデカいというんですか? 上等ですよコラ」

『言わないよ!? なんでわたしも巻き込もうとしてるの!?』


 そして肩には鞘入りの物言う短剣もくっついてる。

 八名を効率的に車に押し込むにはどうするか悩んだ結果、ニクを膝に座らせ相棒を定位置に戻すという力技に至った。


「心配すんな嬢ちゃんがた! 俺がスカートの中を気にするのは単眼美少女だった場合のみだ!」


 それにしてもタカアキはこの流れで何を言ってるんだ。

 左側を見ればハンドル片手にいい笑顔で親指だ、残念だが冗談性はない。


「えっ単眼……? 何を言ってるんですかあの人は……」

「……一つ目の種族のことなんだろうが、本気で言ってるのか?」

「タカアキ君の性癖変わってんね~、団長ちょっとびっくり!」

「ふふふ、タカ君ほんとうに一つ目の女の子大好きなんですねー?」

「単眼じゃないとときめかないんだよ! 分かるか!?」

『タカさん、本当に単眼の子が好きなんだね……』

「転移する前から単眼の彼女欲しいとか言ってたからなこいつ」

「そして今は一つ目の可愛い女の子がそこらじゅうにいる世界だ、やったぜ」


 まあおかげで後方はちょっと落ち着いた。ドン引きともいう。

 幼馴染の性癖カミングアウトはともかく、こいつの「車使っちまえ」という案は正解だったかもしれない。

 美少女でみっちりな通勤風景だが目的地はどんどん近づいてるはずだ。


「しかし……セアリの言う通り車というのは本当に便利なものだな。馬やらよりも早い上にこうもたくさんの数を運べるのだから、この世界では反則気味というか……」


 そんな発想の甲斐あって、エルが関心するほど移動はスムーズだった。

 もし徒歩で目指そうものならけっこうな道筋に違いないが、装甲車の機動力にかかればだいぶ気軽な遠出だ。


「ていうかもうついてますよ皆さん。もう依頼先が見えてるんですけど」


 天井ハッチからのデカいケツ……じゃなくセアリの言葉がその証拠だ。

 道を曲がったところに石垣と門が広く待ち構えていて、例の屋敷が画像そのままに佇んでいたからだ。


「見事に世界観ぶち壊してるってことはあれがそうなんだろうな」

『うん、あれがそうなの。周辺の安全は確認したんだけど、中に『白き民』がいっぱいいるみたいで……』

「ん……テュマーの死体とデザートハウンドがあるよ。ここに住んでた人達が倒したのかな」


 肩の短剣と膝上のわん娘と仲良く見る分には――枯れた噴水が堂々とある。

 そこらに立つ国旗がぼろぼろにはためき、そばの看板が語るには。


【我々はテュマーに屈しない】


 こんな主張だったが周囲はどうだろう。

 機能を失った逆関節型の無人兵器が佇んでいて、死んだテュマーたちが今なお死に様を晒してる。

 ものものしい歓迎だが、奥ではあの屋敷の崩れた玄関が来るものを拒んでる。


「ワーオ、デザートハウンドだらけだ。こいつが動いてなくてよかったな――なんだかあっちの世界に帰って来た気分」

「うーわマジでデザートハウンドじゃねーか……。つか知ってる顔だったか、おかえりってやつか?」

「ただいまって言った方がいいか? タカアキ、そこで降ろしてくれ」

『……気を付けてねいちクン? 危険な場所なのには変わりないんだからね?』


 総じてここは剣と魔法の世界に乗っかったウェイストランドらしい光景である。

 静まり返ったそこへ八人を乗せた装甲車はごろごろ入っていく……。



「はーい到着だぜお姉ちゃんども。こちらが依頼先の事故物件でございます」


 車から降りるとタカアキのふざけた物言いが建物によく重なった。

 クリンの豪華な屋敷を思い出す光景だ。ただしノルベルトが暴れ回った後の。

 テニスコートには白骨体が残り、噴水は薬莢だらけ、建物なんて自重に負けて豪華さを三分の一ほど圧縮してる。

 玄関の崩れようなんてネズミすら入るのも難儀しそうだ――つまり廃墟。


「事故物件……」

「まあ曰く付きっていうのは間違いないだろうな。何せこのザマだ」


 俺は元に戻ったミコと一緒に廃墟を見渡した。

 ここはクラングルから街道を辿って少し寄り道したところにある場所だ。

 現に遠くで小さくなった都市の壁が見えるぐらいだが。


「……こっちにも来てたんだ、デザートハウンド」


 ニクは噴水近くにある無人兵器の残骸が気になったらしい。

 両腕に機銃を積んだあの逆関節型のロボットだ。今は槍の穂先でつんつんしても物申せないまま立ち尽くしてる。


「おおっ、これはロボットとかいうやつですか!? こっちの世界らしからぬ造形ですけど、カッコいいですね☆」

「リスティアナちゃん、こいつはデザートハウンドっつー無人兵器さ。いやこうして実際に目の当たりにするのは初めてなんだけどよ、思ってたよりでけーなおい……」

「そんなお名前だったんですね! ってタカ君、なんだかご存じみたいですけど……」

「まあよく知ってるやつだ。稼働してたら機関銃ぶっ放しながら追っかけて来るけど、これじゃただの置物だな」


 タカアキとリスティアナも興味深そうにぺたぺた触ってるようだ。


「よお、久々だな。お前のご主人さまはどうした?」


 俺も一緒に胸の装甲をノックしたが返事はない、ただのガラクタだ。

 ついでに何か漁れるものはないかと腕の重機関銃を探ろうとすると。


「いち君、この物騒なロボットもウェイストランドのものなんですよね? なんか良く理解が及んでいるような眼差ししてますけども……」


 セアリが輝きの消えたセンサーをじっと見上げてた。

 思えばもしもこいつが稼働してたら――まずかったと思う。

 ここで無差別に五十口径をばら撒く最悪の隣人が生まれてたはずだ。


「そんな感じだ。こいつがもし動いてたら最悪だったろうな」

「……ん? 動いてたら? どういうことですか?」

「こいつは人類を襲うように設定されてる無人兵器だ。今はこうして機能停止してるけど、ちゃんと動いてたら職務上遠慮なく銃撃してくるぞ」

「は? なんですかそれ!? いやセアリさん初耳ですよ!?」

「初対面が元気なやつじゃなくてよかったな。もし生きてるのがいたら逃げろ、この重機関銃でひき肉にされたくないだろ?」

「まるで動いてるのと邂逅したような言い草じゃないですか……」

「ああ、動いてたしひき肉にされかけたよ」


 幸い、勤めを果たしてる最中の無人兵器はここにはいない。

 でもテュマーがいるのは悪いニュースだ。しかも人殺しマシンもご一緒か。

 どうかそいつらがフランメリアの人達を害してないことを祈ろう。


「……で、これが俺の連れてきた廃墟とやらだな。シェルターはガレージの中だったか?」


 次第にデザートハウンドから豪邸のガレージに目が誘われた。

 建物の地下に潜っていく下り坂があるが、そこに唯一無事な内観が見える。


「うん……あそこなんだけど、中に階段があるの。そこにシェルターがあったんだ」

「規模は?」

「クリンぐらいかな……? ご、ごめんね? 嫌な例えしちゃって?」

「分かりやすい表現ありがとう、クリン思い出した」

「お二人とも、クリンってなんですか。セアリさん気になります」

「団長も気になります。なんか二人して渋い顔してるけどなんかあったん?」

「今日のお前らの晩飯は肉料理か? だったらまた今度な」

「ごめんね、ちょっと話す気になれないよ……」

「えっなにがあったんですかその反応」

「肉食べられなくなる話なんか……!? 逆に気になっちゃう!」


 ミコと確かめるに、ここに人食い族のシェルターほどが埋まってるそうだ。

 地上は荒れているが安全だ。周囲に平たく続く土地にも敵が隠れる余地はない。

 まともに残ったものと言えばガレージだけで、屋敷はほぼ焼け落ちてしまってる。


「いいかイチ、白き民はあんな見た目だが油断ならない敵だ。連携も取ってくるし中には魔法を使うものもいる、お前なら問題ないだろうが奴らの動きには気を使え」


 そこへいざ踏み込むぞ、とばかりにエルが腰の鞘を確かめてた。

 人間の手じゃ振り回しづらそうな剣が収まってるが、少し長めな柄からしてトカゲらしい腕がぶん回すのにちょうど良さそうだ。


「えっと、リスティアナさんは……白き民と戦ったことはあるのかな?」


 ミコも車から何か引きずり出してきた――杖だった。

 丸みのある先端に緑色の石をはめ込まれたいかにもなデザインだ。

 けれども流石はヒロインだ、いざ手にするとけっこう様になってる。


「もちろんありますよー? あっ、私は【スペシャルスキル】を使えますのでいざという時には言ってくださいね!」

「わっ、スペシャルスキル使えるんだ……!? どんな効果なの?」

「マナを込めた一撃でどーんです! 衝撃で周りの敵も巻き添えですよ!」

「すごいなあ……じゃ、じゃあ必要なときはお願いするね?」

「まっかせてください!」


 リスティアナも背中のホルダーに自慢の大剣を収めて準備万端だ。


「まーあのゴーレムぼっこぼこにするいち君なら楽勝でしょう。中にいたのはまだ弱い部類でしたし」


 セアリも爪と毛皮の生えた手をにぎにぎしてる――素手で戦うらしい。


「でも油断は禁物だよー? あいつら戦術的に動くし、雑魚だろうがごり押しでいける相手じゃないからね?」


 フランも身の丈に合う赤い槍の具合を確かめてた。ニクと同じ戦い方だろう。


「要は人間みたいなんだろ? じゃあ得意だ、後はぶちのめすだけだ」


 そんな中、俺も周りにあわせて手持ちの装備に触れた。

 ヘルメットを被り背にマチェーテ、腰には自動拳銃、そして――


「まーそうだな、俺たちみたいに戦うって言えば分かるか? 剣も使うし矢も魔法も放ってくる、待ち伏せしたり罠にかけたりもしてくる連中だ」


 タカアキが車からスリング付きの散弾銃を引っ張ってきた。

 室内戦を考えて突撃銃よりこっちがいいだろう、掴むとポンプアクション式の造形に【カードボード】と浮かぶ――()()()()か。


「人間臭いこった」

「人間じゃねえぜ、血も流さないし倒すと消えちまうからな」


 あいつも同じ得物を吊るしていて、散弾入りの紙箱と弾帯を渡してきた。

 大き目の粒が詰まったそれをちゃこちゃこローディングゲートに詰め込む。

 相手は二足で立つ人間大だそうだ、ということは俺の得意分野か。


「テュマーより可愛げがあるといいんだけどな。アドバイスは?」

「頭をぶっ飛ばせだ、シンプルだろ?」

「なるほど、分かりやすくて気に入った」


 装弾が終わるとタカアキは実に分かりやすいアドバイスをしてくれた。

 じゃきっとフォアエンドを二人仲良く前後させて装填完了。

 弾帯も身体に巻いて、最後に『ファクトリー』の銃剣をかちりとはめた。


「ん、準備できた」


 ニクもパーカー上のリグに弾倉を差してばっちりだ、これで全員が整った。


「――みんな、準備はいい? 行くよ」


 やる気も満ちたところでそう尋ねたのはミコだった。

 いつもとは違う雰囲気だ、クランマスターとしての貫禄が確かにある。

 全員が「オーケー」と頷けば、自然とガレージの方へと向かって。


「おい、まさかあれか?」


 豪邸の地下に足が触れると、あの青ざめた死体が律儀に待ってた。

 『白き民』の仕業だろう、斬られて貫かれての暴力的な死に様のお披露目だ。


「……ご主人、あのテュマーの死体があるよ。何人かに囲まれてやられたみたい」

「せっかくフランメリアにきたのに嫌なもん見ちまったよ。ところでタカアキ、こいつに会うのは初めてか?」

「前に廃墟漁ってたら遭遇したことあるぜ?」

「そうか、それで? やったことはあるのか?」

「俺のファーストキルを知りてえのか? 待ち伏せて斧で頭カチ割った」

「それがマジならサイコパスみたいな殺し方だな」

「いんやマジだ、敵だって知ってたから頭にアクセサリ飾ってやったぜ」

「じゃあ次生きてるの見かけたらお前に任せる、またカチ割ってくれ」

「お前もこえーこというな。ちなみにそっちはどうなんだ?」

「いっぱいシャットダウンさせてきたところだ」

「ん、ぼくもいっぱい仕留めた」

「頼もしいことですこと。とはいえこっちじゃそんなに見ねえからな、無人兵器なんて今日やっと見かけたぐらいだ」

「イチ。あまり突き詰めたくはないんだが、貴様は向こうでいったい何をしてきたんだ……」

「ひえっ、ブラックなやり取りしてますよこの人たち……あのミコさん、いち君殺し屋だったりしませんよね? タカアキ君もだいぶ言動ヤバいですよ?」

「笑顔でショットガン担いでるとかもうカタギじゃない絵面だよ君たちぃ……」

「ノーコメントでいいかなみんな……」

「だ、男性陣の方々は逞しいですね~……? 私も負けてられませんね、いっぱいやっつけてみせますよ?」


 テュマーの殺人現場にニクとタカアキも興味を示してた。

 ヒロインの皆さまはなんだか距離を置いてるがミコはそうでもないらしく。


「見ていちクン、この矢は白き民が使ってるものなの。だからここに必ずいるはずだよ」


 実際、ご遺体にぶっ刺さってる矢を平然と引き抜いてた。

 受け取ってみるとちゃんとした作りだ。出来過ぎなぐらい整ってる矢じりにはテュマーの頭蓋骨をぶち抜く実績がついてる。


「我らのリーダーが平気な顔して死体に触ってますよ……すっかり逞しくなってますね、うん」

「ミコ、よくそんなの触れるよね……」

「いい矢だな。それで、こいつらの死に方そのまんまが俺たちに向かって来る可能性があるってか?」


 フランとセアリが少し引いてるがとにかく事実はこうだ。

 テュマーを殺せるほどの奴らがいて、そいつらが殺しにかかってくる。

 そんなのがいるなんて聞いちゃいないが美点が一つある、殺せば死ぬことだ。


「最初はテュマー、次は白き民、ここは不幸な事故が二度起きた物件みてえだな。俺たちが三度目にならねえように気引き締めとけよ」


 タカアキの言うように二重の不幸が舞い降りた物件だが、商業ギルドのためにも冒険者が死んだいわくもつけないように努めよう。


「……これがシェルターとやらの入り口だ。この先に奴らがいる」


 エルが俺たちを追い越すと、ちょうどすぐそこに階段が待ち構えていた。

 クリンで見たものとそっくりな幅広の構造だ。奥では電源不明の照明が俺たちを誘ってる。


「敵の数は分かるか?」

「セアリさんがちょっと見てきましたよ。階段を下りた先に通路があるんですけど、そこに見張りが数体です。奥から匂いもいっぱいするしうじゃうじゃでしょうね?」


 セアリに尋ねれば、鼻をすんすんさせながら確実性のある答え方だ。


「……ご主人、変な匂いがいっぱいする。人みたいな、そうでもないみたいな」

「ニクちゃん、それが白き民の匂いですよ。覚えておいてくださいね」

「ん、わかった」


 ニクの嗅覚的からしても間違いなく「うじゃうじゃ」が裏付けられてる。

 さてどうするか――静かに顔を合わせてかは銃剣を持ち上げた。


「先行したい、いいか?」


 それからリーダーであるミコに尋ねた。


「うん、お願い。タカアキ君とリスティアナさん、それからフランさんもお願いしていい?」

「了解だマスター・ミコ。ぶっ飛ばしてやるぜ」

「はいっ! 何かあったらばーんっていきますので!」

「接敵したら団長が迎撃するよ。他のみんなは適当に距離あけてついてきて、退路塞がないでね?」


 どうぞ、だそうだ。得物を手に階段をそっと降りていく。

 それから散弾銃を持った幼馴染が横に、後ろにお人形系美少女がぴったり、そばを補うように槍持ちのドラゴンガールがついてくる。

 ぞろぞろ降りればコンクリートの冷たい通路が続いているようで。


(……いましたよ、まだあんなところに陣取ってますね)


 ゴルフカートが爆走できそうな幅広さを感じたが、セアリの言葉に足が止まる。

 そっと入り口の陰に身を潜めて先を伺うと。


(あれが白き民ってやつか? なんていうか思ってたより……)


 確かに――そこに白い人間というやつがいた。

 通路の途中で人間的特徴を削いだ真っ白な人型がぴんと背筋を伸ばして、それが『白き民』だと証明している。

 筋肉が浮かぶ身体が逞しく、握った槍と着こなした胸当てがそいつに戦士らしさを与えているようだ。


「OOOOOOOOOoooooo……」


 怨霊の呪詛みたいな深い呼吸音と共に、だが。

 スクリーンショット通りの表情のない白い顔がそこにあった。

 俺の身長をやや越す白いそれはというと、どうもうつ伏せになったテューマをじっと見てるようだ。


「ne-plu-malamikoj?」

「Atentu-Atentu」


 が、そこに同じく死体を見下す仲間もいた。

 人間には理解できない単語と音質で何かやり取りしてるようだが、そこには明らかに意思疎通がある。

 テュマーの電子音声とは違って感情が籠ってる――気味が悪くてつい一歩引いた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 伊達にテュマー相手の戦いを共にした仲だからな。 「伊達に〜」なら否定形くっつけた方がいいと思いますまる
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