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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
436/580

27 冒険者の訓練、スキルについて

 等級が『カッパー』になってからも元気にパン屋です――


 というのはさておき、この日はタケナカ先輩たちとの付き合いだ。

 あれから新入りがまた増えたからだ。それもヒロインではなく人間の。

 そいつらは講習をあてにするし、ギルド側もそのサポートを手厚くしてくれた。


 講習の場は建物一階、かつて昔は酒場が機能していた大部屋へと移った。

 そこに椅子やら机やらをかき集めて改めてスタートだ。

 数十ほどの人間の男女が集まるとタケナカ先輩はこう切り出す。


『この世界に来ちまってからはや半年ほどだ。だが俺たちみてえなプレイヤーは意外にも順応してやがる。まあ()()と違ってちゃんとしたうまい飯は食えるし、働き口にもさほど困らなねえとなりゃ2030年の日本よかずっといい環境だろうな』


 と、元の世界と比べられれば俺たち日本人はそりゃそうだよなと頷く。

 誰もが食事と仕事に困ってたご時世なんかと比べればここはもはや天国だ。

 皮肉にもその逞しさを作ってくれた元の世界には感謝したいが――


『さて、じゃあなんでここにいやがる人類の諸君は冒険者になったんだって話だ。わざわざ冒険者にならなくても最低限の食い扶持は保証されるような環境だってのにどうして『シート』をぶら下げてんだ? この国に尽くすと誓うことになるこの稼業になんで片足を突っ込んだ? こんな恵まれた環境で過ごせることへの感謝か? それとも冒険者として国に力をよこせばいろいろと恩恵があるからか?』


 ほとんどの奴は「フランメリアのため」とか酔狂な理由じゃないだろう。

 それはプレイヤーがゲームシステムを使えるところからきている。

 ステータス画面を通じて【スキル】の恩恵にあやかれるからだ。


 このゲーム的な要素は俺たち転移者を特別な存在にしてくれていた。

 例えば剣を振るえば【刀剣】のスキルが上がる。

 もっと適切に扱えるように身体が覚えるともっと増える。

 自分の技術力が可視化されるだけじゃない。増えれば増えるほど無茶ができるようになるのだ。


 先輩たちが言うにはこうだ。

 例えば【刀剣】スキルを上げていくとどんな恩恵がある?

 20もあったらそこそこ振り回せるようになる。まあ思い込みかもしれない。

 40ほどに上げると不思議と剣の扱いが楽になる。さながらゲームのように。

 60まで達すれば映画のごとく振舞って感覚的に敵をぶった斬れるようになる。

 80なんて行けたら人間とは思えない巧みな剣捌きでざくざくいけるらしい。


 つまり鍛えれば鍛えるほど非現実的な力をまとっていく。それがこの恩恵だ。

 しかし簡単には言えるが実際はスキル上げというのは大変だそうだ。

 更に調べによると上がり方にも個人差がある、つまり個人の資質が絡むのだ。


 そして条件さえ満たせば【アーツ】や【魔法】も扱える。

 俺もさんざん世話になったが、あれを覚えれば誰もが直感的に使える。

 ゲームのように活躍できる可能性を誰もが秘めてるとなれば心躍る話だろう。


 この背景のもと『システムにあやかれば強さを得られる』のが転移者である。

 そんなものが手元にあったら使いたくなるのが人間の性、そしてゲーム感覚で振舞ってしまうのもまたやむを得ない話だ。

 じゃあそのゲーム的な強さをどこで生かす? まだ見ぬ冒険と凶悪な敵に向けるのが妥当なはず。


 つまり――手っ取り早く()()()()()()()には『冒険者になろう』ってわけだ。


 フランメリアは極まった平和と極まった危険が混在する場所だ。

 食うに困らぬ暮らしができる一方、未開の地は数多く危険生物もごまんといる。

 結果、冒険者が腕を振るうには都合のいい世界ができあがってるわけだ。

 が、ここに根を張った現代人がスキルの恩恵を使おうが、それでもやっぱり危険な稼業であることには変わらない。


 更にそこへ『ヒロイン』だ。

 俺たち人類がひーひー言ってる傍らで彼女たちはこの世界にすぐ順応した。

 元々は人工知能だったころに遊んでいたゲームが関わってるとなれば、そりゃ造詣も深いはずである。

 人間の二段階分ほど上位互換の存在であれば冒険者の仕事なんて捗るだろう。

 おかげでプレイヤーの肩身は狭い。こうしてる間にも信頼されまくりなヒロインたちは稼げる仕事をどんどんこなしてる。


「ワオ、AIに仕事を持ってかれるなんて元の世界そっくりだな」


 話の最後に冗談でそういうと、全員からとてつもなく微妙な顔をされた。



「……いいか、お前たちがどんな事情で冒険者入りしたのかは聞かんがこれだけは言っとくぞ。さっき話した通り転移者が持つ【スキル】ってのは適当に上げれるもんじゃない、だが上がれば非常識な強さを得られるのは確かだ」


 新入りに軽く触れ回った後、訓練場でタケナカ先輩の説明が続く。

 ここには先輩どもと新米の「とりあえずなってみました」な顔ぶればかりだ。


「目安になればいいんだが、俺は刀剣がだいたい60ほどある。そしてアーツの【チャージドスマッシュ】を覚えてるんだが、実際にどんなもんか見てくれ」


 実際にMGOのスキルがどんな効果を及ぼすか披露してくれるらしい。

 新しい顔ぶれが囲むように空きを作ると、坊主頭の先輩が「頼む」と剣捌きの犠牲者を求めてきたので。


「こいつでいいか? 備品庫にあったから職員に聞いたけど使っていいってさ」

「ん、持ってきた」


 ニクと一緒に樽をごろごろ運んだ。埃をかぶって朽ち果てた年代物だ。

 お湯でも溜めれば風呂にでもなりそうなサイズだが、タケナカ先輩はちょうどよさそうに見て。


「ぶっ壊してもいいっていうところまで聞いたか?」

「片づけの算段まで組んであるぞ。遠慮なくどうぞ」


 さぞ派手にやるつもりなんだろう。鞘から剣を抜きつつ気にかけてきた。

 頷いてごろっと立ててやると、そこへ長い刀身がそっと下を向く。


「アーツは発動のためにスキル値という枷がある。それさえクリアして、なおかつ習得してれば感覚的に発動できるぞ。別に名前を叫ぶ必要もねえが直感で使うもんだと覚えとけ」


 少し距離を置けば、目に映るのは両手で剣をそれらしく握る先輩の姿だ。

 得物を床に向けたまま樽との間合いを数歩で詰め――素早く振り上げる。

 直後に身体のしなりも混ざった一撃がびゅっと鋭くそこを切り。


 ばぎっ。


 構えた直後からあっという間の出来事だ。樽を袈裟斬りにされてしまう。

 叩き斬る。そんな言葉が合うほどに金具ごとぶった斬っているのだ。

 もし人間で換算すれば半身にさぞ深い裂け目が入るはずだ。


「……なんか地味だなあ、すごいけど」


 おい、誰だそんなこといったやつ。

 せっかくのお披露目に物申す新入りがいたみたいだ。

 まあ気持ちは分からなくもない。はたから見れば樽を斬って壊した程度だ。


「そうだな、でもこれを見たらもっとすごいって思うんじゃないか?」


 説明を補ってやろう。ぶち壊したばかりの樽の残骸を拾いにいく。

 確かに木材が派手にばらけてるが、それを取り巻く輪状の金具が断ち切れてる。

 剣で樽を囲う金属部分をきれいに切断したのだ、それも数本全部ざっくりと。


「おお……! 金属を斬ったのか!」


 そこへ濃い茶髪をした熱血系の顔――キリガヤが素直に驚けばよく伝わった。

 一振りで鉄をぶったぎる、普通の人間じゃできない一発芸だろう。


「……うわっマジかよ……!? 金属だよなこれ!?」

「剣で斬れるのかよ……」

「スキルの恩恵ってこんなにあるんだ……初めて知ったかも……」


 犠牲となった金具を渡すと『ストーン』の新入りたちは驚きの顔だ。

 一閃が樽を底までぶった切るとよく理解したらしい、これがスキルの効果だ。


「今のは刀剣スキル20ほどのアーツだ。分かるか? 条件さえ揃っちまえば、俺たちはただの剣で金属すらぶった斬れんだぞ? シナダ、次頼む」

「おーし次は俺な。槍スキルは53、必要値50の【イグノアストライク】いくぜ」


 続いて別の先輩が背中の槍をぶぉん、と抜き回す。

 皮鎧を着た戦士らしい姿はもう一つの標的へ軽やかに踏み込み。


「……ふっ!」


 急停止、からの滑り込むような動きが穂先を強く捻じり押す。

 ぐぎっ。そんな高めの音を奏でて樽が串刺しだ――反対まで深々刺さってる。


「こんな風に簡単な防具ぐらいならマジでぶち抜けるんだ。実際、この前のゴーレム暴走事件の時に盾持ちのやつを仕留めたぜ。ちなみに槍は戦い慣れてないやつにおすすめだぜ、下手な剣より安全な距離で戦えるからな」


 樽を惨殺した先輩は自分でも薄気味が悪そうだ。

 無理やり引き抜くと希望者の元へ「見たけりゃどうぞ」と樽が転がっていった。

 みんなはその威力に少々戦慄してるようだが、おっかない実演はまだ続く。


「そして締めは魔法だ。俺が今から炎魔法の【ブレイズ・バレット】ってのを実演するぞ。ちゃんとギルマスからは許可貰ってるから心配はいらん」


 最後は杖を持った先輩冒険者による魔法の実演だ。

 宝石らしいものが埋め込まれた杖は「いかにも魔法使えます」と触れ回ってる。


「魔法ってのはマナが必要だ。でもそのマナってのは空気中に流れてて、俺たちはそいつを酸素みたいに吸収してくんだ。人体っていう入れ物にある魔法の源を消費して使ってると思えよ?」


 こっちに的をセットするように促してきた、了解先輩。

 別の樽をやや遠く立てれば、杖持ち先輩は「危ないぞ」と周囲に一言置いた。


「使えば減るが時間が経てば自然に吸収される。だがそれでも足りないときはマナポーションって言うのを飲めよ。薄いスポーツドリンクみたいな味だから別にクソまずいわけじゃない」


 次に杖を構えた、先端がマナらしい青さを輝かせたのは一目で分かった。


「――【ブレイズ・バレット】!」


 そして訓練場にはっきりと名前が告げられると、魔力がぎゅっと形を作る。

 赤色だ。わずかに鋭さを持った炎の塊が勢いよくすっ飛ぶ。

 直後、死にかけの樽が大きく弾けてトドメになった――めらめら燃えてる。


「この通り必要スキル20ほどのものでも、人間に当たれば十分死ぬ威力がある。燃えやすいものに使えば火事になるのは当たり前、すごいだろうが危険な技術なのは間違いないぞ。それとこういう杖は魔法の詠唱をサポートしたりといろいろな効果がある、こういうのを生業にする奴には便利だな」


 炎の魔法の実演が終わると、新米たちは老若男女問わず信じられなさそうだ。

 というか魔法効かなくてよかった、こんなの命中したら火傷じゃすまないぞ。


「分かったな? 転移者はその気になればこんなことを普通にできちまうのさ」

「もちろんそれに気づいて悪用した馬鹿も実際いる。俺たちはその気になればあくどいことがいっぱいできるわけだが、もちろんそれも分かった上で冒険者入りしたんだよな?」

「しかもだ、冒険者稼業で相手にするモンスターってのはRPGで出てくる可愛いスライムとかじゃない、そんな恩恵があってようやく渡り合えるようなやべえのがうじゃうじゃだ」


 その上で先輩どもからプレイヤーの可能性と実情を語ればみんなたじたじだ。

 そいつらの中にはゲーム感覚で軽々しくシートをぶら下げるやつもいるはずだ。

 冒険者らしくモンスターをやっつけてお金を稼いで強くなる。

 そんなことをできる奴はこの世に三種類、お強いヒロインたちか、ゲームと割り切って無茶をする人間か、それか自分を磨いて堅実にやれるお利口さんぐらいだ。


「何も冒険者にならなくとも、スキルさえ上げちまえば幾らでもこんな力を振舞えるだろうがな。だがこうしてギルド支部に足を運んで晴れて登録したってことはだ、ゲーム要素にあやかる機会を得に来たってことにもなるよな?」


 タケナカ先輩は訓練場を見渡して、次第に俺にも目を向けながら続けた。

 あの露出罪を被った先輩でも思い出してるんだろう。肩をがっくり落としてる。


「もしも転移者が持つこの力で悪さをする馬鹿がいようものなら、冒険者ギルドは死んでも許さねえそうだ。そういったものが今後出た場合は他冒険者に依頼して()()してもらうって話だ、生きてこの世界で暮らしたかったらスキルを使った悪事はやめとけ。俺たちの役目はスキルでイキることじゃねえ、この世界の連中とうまく付き合いつつお行儀よく地道にやっていくことだ」


 そして俺たち人類はこの地で礼儀正しく堅実にやっていく。それがこの人の言う「なすべきこと」だそうだ。


「あれから大分経ったが、転移した人間は冒険者としてはまだ信頼されちゃいねえんだよな。そこにはヒロインの強さって言うデカい壁もあるし、同郷の奴らが実際に問題を起こしたりしたことも起因してる。たとえ俺たちがその気になれば伝説の剣豪になれるチャンスを抱えてるとしても、この世界の住人に受け入れられなきゃ何もできねえのさ」

「つまりタケナカがいいたいのはこういうことだ。小さな仕事でもいいからこつこつ成功を積み重ねて社会から信頼を得て、みんなで仲良くお行儀よく育ちましょうってことさ」

「俺たち先輩はそんな新米に手を貸すように言われててな。訓練でスキル上げに付き合ってやるし、新米を保証して少し上の仕事に連れて行ってやることもできる。その代わり問題は起こすなよ」


 先輩たちが順に言葉を足せば、新入りざわめき混じりで覚悟したようだ。

 幾分か不安はありそうだけど「やってみる」って頷きだ、悪いものじゃない。


「冒険者という仕事を介してこの世界とうまく調和していく、そうなりゃいいと思ってこうして講習を開かせてもらってるわけだ。俺は別にその考えに同意しろとはいわんし、人間の地位向上のために頑張れともいわん、だがこの世界はゲームのように振舞う場所じゃないと分かって欲しい。知りたいことがあれば聞け、戦い方を知りたかったら教えてやる、仕事選び方法からやり方まで先輩がたが教えてやるさ。以上、タケナカからだ」


 最後に一言が残されると『ストーン』な面々は信頼感のあるまなざしだ。

 やがて「おすすめの仕事は」とか「スキルはどう上げればいい」と飛び交うが。


「つい最近までお前たちと同じ『ストーン』だった先輩もここにいるんだ。実際にどうやって昇級したかとか、普段はどんな仕事をしてるかとか聞いてみるといいぞ」


 新しい先輩――俺も含めた幾つかの面々も紹介してきた。

 今や地道に依頼を重ねて『カッパー』になったやつがそれなりにいる。

 俺やニクもそうだが、キリガヤを含めた何人かも今や前に立つ側だ。


「……あ、あなたって確か……」

「噂のパン屋の人、ですよね……?」


 おかげでこっちにも流れてきた、目元が片方隠れた地味な黒髪青年と眼鏡をかけた地味な女の子だ。


「どうもクルースニク・ベーカリーの店員です」

「おいイチ、この流れでパン屋を名乗るな頼むから馬鹿野郎!」

「い、いろいろ聞きました……! ゴーレムを破壊したとか……!」

「詐欺や窃盗を繰り返してた冒険者を素手で返り討ちにして引退させたとか、いろいろです!」


 樽の残骸を【分解】で片づけてると地味コンビが仲睦まじく迫ってくる。

 他の新米もぞろぞろと「デストロイヤーいる」とか「あの人いるぞ」とかさぞ話題になってるようだ。


「いかにも日本人って顔のコンビだな、よろしく後輩ども」

「あ……俺はホンダ、ホンダ・アヤトです。つい昨日登録したばっかりで!」

「わ、私はオザキ・ハナコです……ホンダとは幼馴染で……あっ、ちなみに魔法が使えます! 覚えたばかりですけど……」


 目の前の二人はアヤトにハナコという新入りらしい。

 皮鎧と片手剣で「どうにか剣士」と、杖とローブとメガネで「なんとか魔法使い」だ。ホンダとハナコと呼ぼう。


「ホンダにハナコか。俺はイチだ、こっちのわん娘がニク」

「ん、ニクだよ。よろしくね」

「ワーウルフの子と一緒なんですね。あの、俺たちイチさんの噂を聞いてなったんです」

「す、すごかったですよ! 錬金術師の館事件でもあのミセリコルディアが苦戦した【コロッサス】を単独で倒したとか!」


 なんてこった、こいつら俺のせいで冒険者になったのか。

 地味男と地味女は目を輝かせて興奮気味だ、その熱を生かしてみないか?


「そうか――よし、じゃあ仕事だホンダにハナコ。パン屋行くぞお前ら」


 ということで閃いた、パン屋連れて行こう。

 俺はさっそく鞄からがさっとエプロンと頭巾を取り出した。ニクも同じくだ。


「……えっパン屋?」

「……パン屋ですか?」

「現地の人達の顔を調べて、向こうにも名前を覚えてもらうにはパン屋がいいんだぞ。今日は人手入ってないしちょうどいいから手伝え」


 仕事姿になって準備完了。困惑する二人に「行くぞ」と外の世界を親指で示した。


「イチ! さっそくパン屋をすすめるな馬鹿野郎!!」

「心配すんなタケナカ先輩、ちゃんと仕事のやり方教えるから」

「そういう問題じゃねえ! 速攻で新入りをパン屋に連れてこうとするな! しかもなんでここで着替えてるんだお前!?」

「いやもう少しで仕事だし……」

「タケナカ、諦めろ。こいつやるっていったら強引に行っちまうタイプだ」

「今朝もあいつ新調したばっかの講習室に広告貼ってやがったぐらいだぞ。もう無理だ俺たちには」

「ていうかカッパーになっといてなんで頑なにパン屋勤めしてんだあいつ……」

「料理ギルドよりよっぽどパン屋に貢献してるとか街の人が噂してたぞ」

「じゃあパン屋行ってきます!! 行くぞホンダ、ハナコ!!」

「えっ……ほんとにパン屋行くんですかイチ先輩!?」

「ぱ、パン屋……? あの、私接客とか苦手で……」

「大丈夫だ、やり方も教えるから。俺も最初は駄目だったけどすぐ慣れるぞ」


 俺は先輩らしく後輩二人を連れて訓練場を離れた。

 後ろから「なにあの人」と見送る新米の視線が飛んできたけど知るか。


「……いいか、あのイチとか言うやつには気を付けろ。隙あらばパン奴隷にしようとしてくるぞ」

「……パン奴隷!?」

「た、タケナカ先輩……あの人確かうわさのすごい人ですよね? あっという間にカッパーになったとか聞きましたけど」

「マジであの人パン屋勤めてたんだ……」

「お、俺もパン屋の仕事やってみようかな……? 依頼書いっぱいあるし……」

「なんで冒険者なのにパン屋で働いてるんですかあの人」

「本人に聞け。くそっ、お前らはあんな風になるんじゃないぞ。そのためだったら俺はなんだってやってやる」

「あっタケナカ先輩なんか買って来る? 今日はバタークリームあんぱん新発売だ」

「パンの注文を取ろうとするな! つーかその商品の広告貼りやがったなお前!?」

「おい、受付の姉ちゃんたちがおやつのパン買ってこいってまた頼んでやがるぞ」

「新入りども、アドバイスの一つなんだが……あいつのせいでなんかおかしくなってるが、頑張って慣れてくれ、以上」


 ついでに頭を抱えるタケナカ先輩の姿も見届けてから。

 さあ今日もパン屋だ! ヒロインたちをかき分けて職場へ向かった。


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