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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
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18 春のストレンジャーゴーレム粉砕祭り(1)

『庭園側から更に増援だ! 気を付けろ!』

『錬金術師どもめこれほどのゴーレムをどこに隠していた!?』

『よほど資金が潤っていたようだな! 冒険者に後れを取るな、構え!』


 お出迎えを始末した頃合いでトカゲ系衛兵たちの凛々しい声を遠く感じた。

 続いてずんずん足元が揺れる感覚が響いた。どうもまた外が騒がしくなってる。

 次第に『アアアアアアアッ!』と甲高い歌声の合唱も響いて、先日の悪趣味なやつを嫌に感じた。


「あんだけ倒したのにまだいるのか? どっから湧いてんだか」

「臨時でこれほど戦力が求められた理由が分かっただろう。先日の馬鹿騒ぎは氷山の一角だったわけだ」

「二万もぽんと出してくれるワケもすげえ分かったよ、なんて肉体労働だ」


 ついでに軍曹――シディアンのお堅い声で仕事のヤバさが今になって分かった。

 例え【スキル】の恩恵があっても半年前まで現代生活を営んでた人類には危険すぎる。

 世紀末世界で生きてた俺が言うんだ。一般人なら死に場所に困らなさそうだ。


「ま、社会勉強ってやつだぜ。プレイヤーが中々出世できない理由も分かったろ?」


 こんな世界でこうして五体満足ご存命でいてくれたタカアキはいい表情だ。

 あいつは散弾銃のフォアエンドを引くと、急に階段上にぶちかました。

 なんだと思えば粘土の人形が降ってきた。二階にもまだいやがったか。


「ああ、ついでに俺のこれからも不安になってきた」

「ん、ぼくがいるから大丈夫」

「イチ君なら大丈夫です、この調子で頑張ればスチール級だって夢じゃありません!」

「毎日こんな思いしろっていうのかお前ら、ひでえ注文しやがって」


 ニクとリスティアナの言葉遣いが支えてくれるも幸先悪い話だ。

 でもやっちまったものは仕方ない。一息つきつつ残弾を確かめると。


『シディアン隊長いますか!? シディアン隊長ー!』


 がしゃーん。

 後ろからだ。ただでさえ機能を損ねた両開き扉にトドメが入ったらしい。

 褐色白髪、どこぞのお医者様の相方を思わせる小さなエルフが駆けてくる。


『ぼ、ぼぼっぼ……』


 それも鎧を着こんだ粘土の長身を踏んづけた上で。

 死因はロリダークエルフの刃のついた長柄武器だ、兜ごと叩き斬られてる。

 そんな彼女は俺たちをくりっとした目で見上げてきたが。


「なんだ、貴官かハツユキ。何事だ?」


 ちょうどあてはまりそうなアラクネな上官が聞き入り始めてる。


「お外にいっぱい来てます! なんかこう、この前のでっかいのが!!」

「そうか。現状の戦力で対応できるか?」

「衛兵のお姉さんたちがいるから大丈夫そうです! シディアン隊長はどうですか!」

「二階の狙撃手は全て排除したところだ。だが思いのほか敵が潜んでいてな、守りが妙に硬いのが気がかりだが」

「さっすがです! それであの、このおにーさんたちは……?」

「こいつらは信用できる者たちだ。これより速やかに屋敷の残党を制圧する、皆を頼んだぞハツユキ」


 最終的に壁で蜘蛛のごとく佇む彼女の腕組み姿に納得したらしい。

 ちっこい褐色エルフは「隊長のことおねがいしますね!」と戻っていった。


「どういう関係とか聞いたら怒る?」

「私が率いるクランメンバーだ。外で大暴れしてる者の殆どは私の仲間だぞ」

「そうか、つまり女の子だらけにしてくれたのはあんたのおかげか」

「不服か貴官」

「ノーコメントです軍曹。さて、どうするんで?」


 外では先日の悪趣味なゴーレムとロリどもが大暴れしあってるようだ。

 なんて世界だ。現に壊れた入り口からは()()()()()()が青肌小悪魔なヒロインとガンガン打ち合ってる。


「いいか、良く聞け。中にまだゴーレムどもがいるが外に出られたら厄介だ、この閉鎖空間で奴らが満足に動けぬうちに各個撃破していくぞ」


 こんな状況にそう言葉を重ねてきたのは(不本意な形の)上官なアラクネだ。

 小さな口ではきはきと伝えつつも、しぱっと手で何かをはじいた。

 すると踊り場に忘れられた短槍が手繰り寄せられる。蜘蛛の糸の有効活用だ。


「俺たちだけでか?」

「本当なら私一人でやれるが、貴官がいるなら効率が良いだけのことだ」

「信頼してくれてどうも軍曹殿。では手始めにあちらのお部屋からどうです?」


 すぐに共闘する雰囲気に変わった。頷いて弾倉を交換した。

 最後の一本か、撃ちすぎたか。大切に込めて手近な扉に近づく。


「邪魔するぞオラァッ!」


 ノブに手をかけてドアを打ち開く――


『侵入者』『侵入者』『ぼぼぼぼっ』『おぼぼぼっ』『お帰り下さい』


 そして見えたのはご馳走が載ったままの長テーブルだ。

 問題はそこに粘土人形がご丁重に立ち並んで、こっちに足踏みを始めた点だ。


「――お邪魔しました」


 ばたん。

 見なかったことにした、この食堂はゴーレムたちが狂った宴を繰り広げてる。


「おいどうしたそっ閉じしやがって」

「真面目に言うから聞いてくれ、パーティー中だった」


 幼馴染の心配に続いて――すぐに扉から槍や斧刃がばきばき生えた。

 ふざけんなクソが! エントリー寸前だった面々で一斉に引っ込んだ!


「うおおおおおおおおおおおおおふざけやがって畜生がああぁぁぁッ!」

「趣味悪いことがよーく分かったよお兄さん! とんでもねえもん置きやがって殺すぞクソが!」

「下がってご主人……!」

「うひゃあ!? 何なんですかこの数は!? ホラーですよ!?」


 おかげさまでストレンジャー予定地に殺傷部分が殺意たっぷりに集まってた。

 ぶちあけられた穴からは白い顔が『ぼぼぼ』と呼吸音を聞かせにきて、誰が言ったかとんでもないホラーだ。

 咄嗟に弾をお見舞いしようとするも。


「……リスティアナ! 出てきたところにぶちかませ!」


 どうも向こうはクソ律儀に扉の向こうに固まってるらしい。

 このまま全弾ぶち込んでもいいがこっちにはリスティアナがいる、なら――


「もうそろそろでクールタイム終わりです! やっちゃいますよー!」

「あいつらが見えたら一掃してくれ! 軍曹! 足止めできるか!?」

「もうやってる。退け」


 飛び出すところにちょっかいをかけてくれ、なんて言おうとした矢先だ。

 壁を這う軍曹は考えをくみ取ってくれたんだろう、扉前に蜘蛛糸がびっしり張ってる。


『おぼぼぼぼぼぼぼっ……!』『お帰り下さい!!』『ぼぼぼぼぼぼっ!』


 次の瞬間だ、扉がとうとう決壊するも。


 ――ぎぢぃっ。


 飛び出すゴーレムたちが張り詰めた音を立ててぴたりと止まった。

 張り巡らされた白糸がぎぢぎぢと遮ってくれたのである。

 いつの間に伏せておいたのやら、黒髪ロリな上官は「やれ」という顔で。


「ナイスですシディアンさん! 危ないですよー! 【ルーセント・ブレイド】!」


 リスティアナがあの名を叫んでマナを開放、と同時にぴんと糸が解けた。

 無様にスタックしていた人形たちがもつれ転がってくるが、盛大な一撃に飛び込むなんて気の毒だ。

 必殺の一撃で扉周りごと派手に吹き飛んだ、これでクリア。


「……これ見てるともう全部お前に丸投げしたい気分になるよ」


 一度確認したけど全滅だ、これにて屋敷をクビになったらしい。


「ふふふー、いいんですよ私に任せちゃっても!」

「そういう訳にもいかねーだろ。評価に響くぜそういうの」

「リスティアナさま、すごく強いね」

「プレイヤーがどれだけ苦労してるのも今日やっとわかってきた」

「驚いたな、貴官は噂のスペシャルスキルを使えたのか。実際に目にするとでたらめな威力だな……」


 人形系のヒロインは大型犬さながらの人懐っこさでドヤ顔だ。

 さあ次の部屋へ、タカアキの散弾銃と共に扉を開ける。


『ぼぼぼぼぼぼ!』『ぼぼぼぼぼぼ……!』


 お洒落な内装を白く彩る甲冑姿が待ち構えてたところだ。

 粘土の騎士が槍先に勢いをつけて迫ってきた。


*papapapapam!*


 が、ニクが機関拳銃を割り込ませた。

 入室直後の連射が装甲にかんかん弾かれるも「ぼっ」と足がゆるみ。


「もう完全にお客様歓迎モードじゃねーかどいつもこいつも! 殺す気か!」


 タカアキが散弾銃もろともエントリーだ、どいて突撃銃を構える。

 激しくつんざく12ゲージに甲冑の頭部が吹き飛んだ、もう一体を狙う。


*PAPAPAPAPAKINK!*


 5.56㎜の勢いに別の敵が二歩三歩と退くが、いい鎧なのかまだ立ってる。


「来る人拒むっていう感じですね……せえいっ!」


 出来上がった隙にリスティアナが掲げた剣で殴り込んだ。

 ひと裂きで胴体をぶった切られて一撃だ、見事だし恐ろしい。


『それほど後ろめたいことを続けていた証拠だろう。一人当たり二万も出す理由とはこんなものか』


 その時、後ろから重たい金属音が鳴り響いた。

 振り向けば二メートル越えの粘土人形と、それに圧し掛かる蜘蛛姿だ。

 「やったぞ」と首に槍をぐりぐりしてる――背中をどうも軍曹。


「とりあえず今頭の中で思い描いてるのはこんなん作った馬鹿殴ることだ」

「同感だなそりゃ。どこに街中に殺意マシマシのお家建てるかって話だ」


 残念ながら俺たち人間二人には愚痴も出る話だ。

 得物を構えて次の部屋をぶちあけようとするも。


 ばたん。


 どこかでドアが開いて、反射的に突撃銃がそっちへ行く。

 目につくそれに手をかけようとするも、そこにいたのは人だ。

 こういう時ローブを着て鞄を大事に抱えるような人種は撃つべきかどうか悩ましいが。


「あっ……ば、ばれ……くそおおおおおおおおおおっ!?」


 そいつは抱えた荷物でよろよろしつつも階段を上っていく。

 ニクの言ってた誰かだろうし、軍曹の言う後ろめたい誰かだろう、つまり。


「――逃がすな! あいつは捕獲対象だぞ!」


 途端に蜘蛛ガールが強い声を上げる。悪いやつだあれ!


「マジでいやがったのかよ!? 待てオラァ!」

「逃がすかよ! 追うぞ! 野郎ぶちのめしてやらァ!」

「ん、逃がさない……!」

「あれって悪い人ですよね!? 早く捕まえないと……!」


 次の瞬間には全員で階段を上り、あるいは壁をつたって追いかけるわけだが。


『LaAaAaAaAaAaA! LAAAAAAAAAAAAAA!』


 そんな逃げる背中が奇妙で賑やかな歌に遮られた。

 不吉な前兆そのまんまに歪な姿がずっしり落ちてきたのもすぐだ。

 なんてこった。嫌な思い出だらけの()()()()()()()()だ。


「うひゃあぁ!? あ、あの時のゴーレムじゃないですか……!?」

「どけッ!」


 リスティアナが腰を抜かして立ち止まってしまうのも無理もない。

 代わりに前進、屋敷に窮屈そうな歌うゴーレムに得物を構えた。


*PAPAPAPAPAPAPAPAKINK!*


 顔面にお近づきのご挨拶をぶち込んだ。

 効果は絶大だ、ごろっと身体が転げ落ちてくる。

 が、ぎゅりっと張りつめた音がそれを遮る――シディアン軍曹の白糸だ。


「ごっ、ゴーレムども! 俺を守れえええええっ!」


 潜り抜けると通路で背を向けて逃げる男がいた、照準器で追いかける。


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』


 ところがどすんと巨体が割り込む。白く眩いお高そうな鎧を着たデカブツだ。

 特別だと言わんばかりの雰囲気が「行かせない」と通せんぼしてきたのだ。

 反射的にぱきぱき撃ったが効かない、平然と大きな歩幅でやってくる。


「タカアキ! 厄介なのが来やがったぞ!」


 足をさらおうと銃身を下げるもカチっと虚しい音がした。

 弾切れだ! そこへ粘土人形どもが部屋をぶち破って通路を濃く塞ぐ。


「イチ! 使え!」


 いいタイミングでタカアキが代わりの何かを投げてきた。

 少し錆びた回転式の拳銃だ。突撃銃を戻してキャッチ、腰だめに構え。


*BABABABABAM!*


 トリガを絞ったまま撃鉄を動かした――ファニングだ!

 持ち上がる銃口をねじ伏せつつ、357マグナム弾を至近距離でぶちかます。


『オゴ……ゴゴゴゴ……?』


 さすがに効いたか。鎧姿のクレイ・ゴーレムがどろっと粘土をこぼす。

 だが安堵する暇はないようだ、後続が通路に難儀しながら迫ってきた。


「弾! 弾は!?」


 弾のおかわりを要求するとタカアキが散弾銃を浴びせつつ応じた。

 「受け取れ!」とやってきたのはまさかのばらけた弾だ。

 何発かこぼしつつ受け取った。開けたシリンダにこつこつ詰めて戻す。


「もしこれ全部街に流れたらどうなってたんだ!?」

「この前のクラングル春のお人形祭りおかわりだろうな!」

「そりゃ最高だ! 俺たちも仕事に困らなくなるな!」


*BAM!*


 目の前の胸に357をぶち込む。槍を突き出す足取りが硬くなった。

 繋げて目につく敵を撃つも穂先が視界に飛び込んでくる――


「ご主人、奥の部屋から人の匂いがする。隠れてるみたい」


 クールなジト顔がそれを遮る、変形槍が迫る獲物をはたき落とす。

 あの野郎逃さないぞ。捕まえてぶちのめしてやる。

 落ちたばかりの槍を掴んで鎧をきしませる泥の人型に構えた。


「オーケー分かったぶちのめすべきか助けるべきか今迷ってる!」


 全力で放り投げた。必殺の【ピアシングスロウ】をどうぞ!

 狭苦しくひしめく仲間をまとめてぶち抜いたようだ、かなり減らせたぞ。


「蜘蛛ッ娘! 奥にいらっしゃるみたいだぞあのクソ野郎!」

「逃げ場なしのようだな。それと誰が蜘蛛ッ娘か馬鹿者」


 ちょうどよく頭上からシディアンがかさかさ戻ってきた。

 天井に張り付いたままクロスボウでどこかを狙ったようだ。離れた剣持ちに大きな矢がぐっさり生える。


「もう少しですよ! 無理しないで私に任せてくださいね!」


 いいタイミングで代わる代わるリスティアナが通路におしかけた。

 手近な相手を斜め斬りにして、減った数に追い打ちをかけていく。

 ニクもぱぱぱぱぱっと機関拳銃を敵の端に撃ち込む。ダメージはともかく急な衝撃に動きが緩んだ。


「畜生弾切れだ! どうすんだまだいやがんぞ!?」

「どの道普通の弾じゃ効かないぞ! 後は俺に任せろ!」


 残る敵は指折りで数えられる程度だ。

 自動拳銃か、クナイか、それとも突撃銃with銃剣か――いやこうする。


「この狭さならこっちが有利だ、突っ込むぞ! 逆に押し込め!」


 自動拳銃にフルロード済みの延長弾倉を叩き込んだ。

 左手に45口径を移して、利き手で背のマチェーテを抜いて敵へ潜り込む。


『おぼぼぼぼぼ……っ!?』


 溶け出す粘土を踏みにじれば、待ち構えるのは剣と盾の姿だ。

 通路を狭苦しく塞ぐ通さまいという意思表示にあえて突っ込んだ。


「オラァァッ!」


 鎧にも兜にも守られてない白い首筋に無理やり刃を叩いて通す。

 どこぞのロアベアを思いつつもマチェーテを手繰れば魔法の粘土なんてざっくり斬れてしまい。


『ぼっ――』


 首がお別れだ。呼吸すら続かずにどろどろに倒れてく。

 そこへびゅっと刃物が落ちる。先端がナタみたいになった長い武器だ、回避。


「ん、ぼくの出番」


 目の前には長柄の獲物を構えるゴーレム、けれども来てくれたのはニクだ。

 屈んで45口径を構えて足元に射撃、防具に覆われた足がぐらついた。

 『ぼ、ぼ』と荒げた呼吸が聞こえて――槍先がごしゅっと顎を払う。


「グッドボーイ! このまま押すぞ!」


 よくやったわん娘。犬の足が蹴とばした矢先に得物を構える。

 密集した剣持ちたちが転がってきた鎧に足をこまねかせていた。

 すかさずショート・トリガを生かして45口径の連射で散らす。


「一度止まれ! こんな単純なやつらなどこうしてくれる!」


 と、頭上から愉快そうなロリ声もした。

 見上げると天井にへばりつくシディアンが指先を手繰らせていて。


 ぎゅりりりっ。


 銃撃に鈍った連中の足元であの糸がひどく食い込む音がした。

 張り巡らされた蜘蛛のそれがほどよく身体に絡んだようだ。

 足元の悪さも相まってどさどさ転ぶ。鎧の重さもあればぺしゃんこである。


『ぼっっっ』


 糸が食い込み過ぎてすっぱり首が落ちるやつもいるぐらいだ。

 向こうはそれでも職務に忠実で、糸を引きちぎろうとするも軍曹のクロスボウがそれを縫い留める。


「ほんとに一人でやれそうな感じだな!」

「必要以上の労力はしたくない性分でな。やってしまえ、上等兵」


 残りは任された。弾切れの自動拳銃をタカアキにぶん投げて敵に駆け寄る。

 起き上がったばかりの奴と遭遇、横手に構えたマチェーテで腹をブッ刺す。

 ニクの槍も突きまわってただの粘土塊に変えていく。


「アラクネの子ってすごいですよね~……攻防一体っていうか、便利で羨ましいですよー」


 総崩れの敵にリスティアナも切り込む、起き上がる様を叩き伏せる。


「……蜘蛛の糸って、こんなに頑丈なんだ」


 残り少ない頭数になってきた、最後の敵にわん娘の槍が圧し掛かる。

 通路は持ち主不在の武具と粘土がごちゃごちゃですっかり汚らわしい。


『ひ、ひぃ……ッ! なんなんだ、あいつらは……!?』


 撃って斬って倒すに倒して押し入ると近くの部屋から声が震えた。

 頭上の軍曹が「ふん」と呆れてる。オーケーお邪魔します。


「オラァッ! 逃げられると思うなよォ!」


 ばーん。

 ドアを足で下品に開ければ、そこにはベッド脇で縮こまるさっきの男だ。

 「くっ、くるな!」とそいつは頼りない短剣を構えるも。


「なんともベタなものだな。まあそいつはしかるべき場所に突き出してやろう、報酬は分け合うとしようか」


 背後からアラクネな上官がかしかし割り込んでくる。

 その姿に向こうは一層震えたらしいが、指先を向ければ静かになった。

 具体的には白糸でぎっちぎちである。変な男は口と腰回りが窮屈に染められた。


「これでお仕事完了って感じか?」


 拘束プレイに興じられた男を蹴とばした。

 もごもごうるさいがこれで屋敷は静かになった気がする。


「……まだみたいだよ、ご主人」


 ところが外からずんずん聞こえる音にニクのダウナー声が重なった。

 今まで室内戦闘のやかましさでいっぱいだったが今ならはっきり聞こえる。


『ゴッ――ゴゴゴッ……ゴオオオオオオオ――!』


 あの聞きたくない轟音めいた呼吸音が。

 なんならこうして窓を見るとちょうど大きな槌が振り落とされる場面で。


 ――ずっっっどん……!


 そんな爆音が屋敷を根元からぐらぐら揺らした。

 それもそのはず、外で先日の巨体が変わらぬ振る舞いをしてたからだ。


『こんなもの隠してるなんて聞いてないよー!』

『こ、後退ー! やられちゃうよ急げ急げー!』

『なんでこんなものがあるんですかね……!? 何考えてるんですかここの人達ー!?』

『し、シディアン隊長助けて―!?』


 ついでにわちゃわちゃやってる女の子たちも見えた。

 ゴーレムが落とした一撃が敷地のあちこちを致命的にへこませてる。

 敷地の広々さもあってか街で見た時よりもずっと身動きが良さそうだ。


『ゴゴゴ……! ゴオオオオオオオオオオ――!』


 最悪のニュースはまだ終わらない。そんな巨人がもう一体いるのだ。

 二体だ。二体も暴れてやがる。どうなってんだクラングル。


「え、ええー……? こんなのいるなんて思わなかったんですけど……!?」


 リスティアナの言葉はもっともだ、錬金術師はクスリでも決めてるのか。

 しかも足音はまだ重なっていて、二体どころじゃないような感じだ。


「うーーわ……何考えてんだよ、二万メルタとかちょろいぜって思いかけてたんだぞこっちは!?」


 さすがのタカアキも「ふざけんな」って顔だった。

 一緒に窓を覗けば、屋敷から少し下に灰色の頭がつるっと大きく見えた。

 俺たちなんか知らずに庭園でヒロインたちを追いかけてるみたいだ。

 そうか、なるほど――


「……やれるか?」


 一方で俺はこうだ。今なら奇襲できるんじゃ?

 外ではちょうど二体分の巨体が屋敷を背に戦ってる。

 ツイてる、もし『ウォーカー』相手だったら一方的にやれる間合いだ。


「あー、待て貴官。今なんと言った?」


 俺からすればこれはチャンスだ。アラクネな上官の言葉を無視して機を伺う。

 着地はまあ、どろっどろに溶けたゴーレムに飛び込めばどうにかなるか。


 ずずん。


 また外で動いた、つるつるの頭がちょうど窓の下にやってくる頃だ。

 よしやるか! ニクにバックパックと突撃銃やらを預けた。


「デカいのには縁があるんだ。ちょっと止めてくる」


 窓を開けると槌がぐぐっと持ち上がるワンシーンだった。

 周りでは一段と小さく見えるヒロインたちが動き回り、放った魔法が敷地をカラフルに彩ってる。


「おいおいおいおいおいお前マジか何考えて」


 幼馴染の制止の声を合図に――跳んだ!

 着地先はつかみどころのない頭だ、抜いたマチェーテを逆さに構えた。


「頭上注意だ、クソ野郎!」


 その頭頂部を踏みしめるように着地した。足元が滑るが刃先を突き立てる。

 硬い表面にぐっさり刺せば案外簡単に通るものの、巨体はぴたりと止まり。


『ゴッ……ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!』


 そばで振りかぶっていた槌がずり落ちた。

 作り物の指から落ちたそれがひどく地面を揺らすが、なおくたばらないクソデカゴーレムは必至だ。

 指が必死に異物を探ってきた。くそっ、これでも死なないか。


「くそっ! こいつでっ! どうだっ! さっさと! くたばれっ!」


 ならこうだ。マチェーテを手掛かりに空いた手で殴る、ひたすら殴る。

 アラクネのコンバットグローブのおかげだ。殴れば殴るほど真っ白な頭部にひびが走っていく。

 ばきっ。ごきっ。ぐしゃっ。べきっ。

 しつこく拳を突き立てれば音色も変わる、段々とマナ色が蠢く断面が見えて。


『ゴゴ……ゴオオオオオオオオオオオ――!!』


 やっと効いたらしい。とうとうデカさが取り柄のゴーレムが膝を折る。

 こいつはサービスだ、ベルトからクナイを抜いてリングを外し――


「召し上がれ、だ! クルースニク・ベーカリーの贈り物をどうぞ!」


 割れた頭部めがけてブッ刺した!

 まあ問題はどう帰るかだ、マチェーテを掴んで倒れる身体にしがみつくも。


「なっなんて無茶するんですかあなたは!? 正気とは思えませんよ!?」


 ふわっと何かに手を引かれた。

 いったいなぜだかずり落ちていく予定だった身体が浮く。

 なんだと思って見上げると、腕が半透明の眼鏡ッ娘にぐいぐい引かれてた。


*BAAAAAAAAM!*


 ついでに後ろで爆発も重なった。綺麗なマナ色がそこらに飛び散った。

 幽霊なロリは「ひゃぁっ!?」と驚きながら地上に運んでくれたようだ。


「ご親切にどうも。得意だったんだ」

「得意ってどういうことですか!? もうっ! 早く離れますよ!?」


 やっと地に足がついた途端、あのサイズが門に向かってぶっ倒れていく。

 真昼間の幽霊と仲良く離れれば馬鹿でかいゴーレムはやかましく沈んだ、これで二体目の撃破だ。


『私も行きますよーっ! うおおおおおおおおおおりゃああああああああッ!』


 屋敷から水色髪の女の子が飛び出たのも同じくだった。

 窓をダイナミックにぶち破ったお姫様姿がかっとんで、近くで暴れるもう一体へと落ちていく。

 そしてストレンジャーと違って綺麗な一撃を脳天に叩きこんだ。

 つるつる頭をカチ割るとあっけなくそいつは倒れた――リスティアナは「やりました!」と軽やかに降りてきた、バケモンか。


「これで二体撃破だな。よくやったな俺たち」

「イチ君を見てたら閃いたので真似しちゃいました! どうですか!」

「え、ええ……倒しちゃった、この人たち……」


 そばで引く幽霊ガールは置いといてハイタッチした。

 これで脅威はクソデカサイズ二つ分は去ったはずだが。


『キャロルねーちゃん!』


 周囲を見渡すとあの元気な声を感じた。

 ピナリアか? どこだとすぐに目を見晴らせば、いた。

 庭園の奥だ。木々の間の向こう側でまだ巨体が重々しく動いてる。

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