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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
425/580

16 男3人騎士1人にロリ沢山(その名も緊急大規模依頼)

 【錬金術師の館の制圧】

 緊急とかいうくせに緊張感不足の文面が状況を物語っていた。


 曰く、先日のゴーレム騒ぎが関わっているとかそういう話だ。

 事の発端はこうだ。少し前、この都市に錬金術師が住み始めた。

 そいつは家事用ゴーレムだとかの販売でさぞ儲けたそうで、クラングルのお高い土地を買ってお屋敷まで建てたらしい。

 それだけならただの成功談だろうけど真実はいつも通りにひどいものだ。


 ――最初はどこかで魔法で作った生物で悪戯をしていた。まあそれはいい。

 ――次第に窃盗に使えることに気づいてこまごまと金品を盗んだ。アウト。

 ――うまくいきすぎて盗品を売りさばく稼業を始めた。アウト二回目。

 ――資金洗浄のためお家の安全を守るゴーレムを売り始めた。なぜかヒット。

 ――仲間と共にクラングルに移って大胆な窃盗を始めた。アウト三回目。

 ――調子乗って旅人を()()に誘ったらしくじってボロが出た。おわり。


 こんな背景で錬金術師兼窃盗団が悠々自適に暮らしていた。

 でもバレてしまえば呆気ないもので、張本人も同業者もすぐ捕まった。

 が、そいつは「いざという時の命令」をゴーレムに命じていた。

 どうせ捕まるならと暴走させて逃げる時間を稼ごうとして――あの悪趣味な人形どもは律儀にそれを守ったわけだ。


 皮肉にも捨てきれなかった貴重品やらが足かせになってそいつは捕まった。

 特大級のゴーレムもミセリコルディアの活躍で鎮圧されました、おめでとう!

 ……なわけもない、となると今度は残された屋敷だ。

 嫌がらせかそれとも籠城する魂胆だったか、広い土地にゴーレムたちがうじゃうじゃと構えて瞬く間に危険地帯になった。


 こんな所業にキレた市の皆さまと、この失態を埋めるべく血眼な錬金術師ギルドにかけて、屋敷を掃討してくれる方を募集中。

 衛兵と錬金術師の監視の下できっちり働き報酬は二万メルタ、手当も出ます。

 差し押さえるから屋敷は吹っ飛ばさないでください、仲間がいた場合は四肢の欠損問わず生け捕りにせよ。

 ただし等級ブロンズ以上、できれば強いの(具体的にはヒロイン)お願いします。


「……なあ、本当に俺たちが来ていいのか? 俺たちストーンだぞ?」


 そんな急な依頼に加わって、俺は遠くの屋敷を眺めた。

 リーゼル様の住まいほどでもなく、冒険者ギルドよりは大きな建築がある。

 庭園つきの仰々しい土地が都市の広さを無駄に使い、やたら豪華な建物がそろそろ悪趣味に感じてきた。


「俺とリスティアナちゃんが()()()だ、遠慮すんな」

「はいっ、私たちがお二人を保証しますから安心してくださいねー?」

「んでギルマスが頭抱えて見送って、周囲の連中も「まあこいつなら仕方ない」って感じだったろ? つまりチャンスってことだ」

「ふふふ、イチ君すごいですねー? ストーンなのにこんなに信頼されてるんですから」

「ついでにタケナカ先輩から「どうせ元気な顔で帰ってくるだろうな」って顔もされた気がするよ」

「ん……変な匂いがする、建物の中にもゴーレムがいっぱいいそうだよ」

「その通りに胸張って帰れりゃいいんだ。にしても中に敵たっぷりか、立てこもりやがって」


 そばではタカアキとリスティアナが同じ有様を目の当たりにしてる。

 わん娘も鼻をすんすんさせて訝しんでるようだ。


「……それよりなんなんだこの状況。ゴーレムより恐ろしいことになってんぞ」


 ここに余所者と犬の精霊とマフィアとお姫様という珍奇な組み合わせがある。

 本来ならブロンズ以下お断りだけど、タカアキめまた妙なことをしやがった。


 自分より下の等級の冒険者を連れていけるというルールがあったのだ。

 ただし制約もあるそうだが、それを窓口で持ち掛けたらどうなったと思う?

 ギルド職員は『まあこいつなら』みたいに承諾してきたし、ギルマスは『パン屋以外だったらいけ』な顔色だった。

 周りの同業者は『あいつ屋敷ぶっ壊しそう』みたいに見てきて、先輩どもは『はよいけ』だ。

 こうして新米のはずが参加できた。まったくなんて職場だ。


「あー、うん、それについては俺も思うところがあるな。男だったら喜べそうなシチュエーションだったかもしれねえけどさ、こりゃ」


 んなこたーどうでもいい、アバタールらしくこの世に奉公してやるさ。

 だけどタカアキすら異質に思うほどの光景が周りに広がっているのだ。

 一度、ほんのかすかに周囲を伺うと。


「……ねえ、あれって噂の【デストロイヤー】じゃないの?」

「ほんとだ~♡ すごかったよねえ、一瞬でやっつけちゃって」


 人間の可愛いくもツリ目な顔つきに、猫の手足を持つ冒険者。

 ニクに大分そっくりな、狼ともいうべき四肢のちんまりしたヒロインの先輩。


「あの男は本当に銃で戦うのか……?」

「等級スチールの悪い先輩たちをやっつけた新入りさん、だよね……?」


 軍帽もどきを被ってびしっとコートを着込んだ――下半身が黒い蜘蛛な少女。

 うねる蛇の下半身に発育の良い人間の上半身が繋がるゆるふわ衣装なラミア。


「ストーンだけど大丈夫……そうですね、ゴーレムを一撃で粉砕したっていいますし」

「パン屋のお兄ちゃんがいる~」


 下半身がすっと消えて、全身がうっすら透けてる眼鏡美少女な子供。

 ぼーっとした様子だが、青肌はだける露出度高めなドレスと巨大な斧で挑戦的な悪魔風ロリ。


「――俺たち以外全部女の子ってなんの冗談だ。もしかして出勤先間違えた?」


 どこをどう見てもヒロインでいっぱいだった。

 人間じゃないかわいらしいロリしかいないのだ。

 そんないろいろな見てくれは数十にも及ぶ戦力をここに結集させてる。


「あはは……ほんとに女の子ばっかりですねー。あっ、これハーレムってやつですね☆」

「ああそうだな子供にも愛を向けられるような奴ならな」

「一応、ヒロインはみんな二十歳以上って設定ですから大丈夫です!」

「俺たちの周りでちんまりしてるやつ全部が成人って言いたいんだな? くそっ、なんて日だ」


 この職場環境に「なにこれ」と顔で尋ねればリスティアナはにっこりだ。

 何笑ってんだコラ。早く終わらせて先輩たちにこの居心地の悪さを伝えたい。


「ん、注目されてる……?」


 ニクのジト顔も調子が狂ってる。

 そりゃそうだ、この場合俺たちが異質な存在だ。

 ロリどもからは挙動一つ一つを見張るような視線がきて、正直居場所に困る。


「なあ、タカアキ――総チェンジって言ったらどうなると思う」

「自殺かな?」

「先輩どもには受けなきゃよかったってところから説明しようと思う」


 幼馴染に泣きつくがもう遅い。断言しよう、クソ職場だ。

 でも信じられるか? どいつもこいつもブロンズ等級以上なんだぞ?

 ヒロインは強しいえどもこんな小さな子が武器を手に戦うのは複雑だ、それから全員先輩だっていう点も。

 未来の俺よ、お前のせいだこの馬鹿野郎。


『……よろしいですか、冒険者の皆さま! ()()()()()()屋敷は壊さぬようにお願いします! 決して命を捨てるような蛮勇もなしですぞ!』

『我々衛兵も支援する。大物相手にはリーチと数の差で打ち勝て、無理に突出するんじゃないぞ』

『かの錬金術師とつながりのある人物がいた場合は手荒でもいいので必ず確保、連行してください。手足切り落としてでもです、いいですね?』

『イっちゃんおもしれーことになってんな!』


 更にこのとんでもない仕事に市民の皆さんが顔を突っ込んでいた。

 片眼鏡をかけたオークが心配そうに屋敷を見守り、トカゲのお姉さんどもが衛兵らしく身構え、血管ブチぎれそうな人間の男が強く言ってるところだ。

 あと野次馬から『フェルナアアアアアアアアア!』とか聞こえる。


「ま、やるしかねえな。ヒロインのお嬢様方はこんな見てくれだが少なくとも俺たちよか強いんだ、足を引っ張らねえように気をつけようぜ」


 こんなロリまみれな状況だが、タカアキは明るく飛び込む覚悟だ。

 散弾銃と短機関銃を背に括って、腰に拳銃と弾帯二巻きと火力が籠ってる。


「そんな戦争するみたいなファッションでいうんだからそうなんだろうな」

「おう、あのゴーレムの作者殿のお住まいみたいだからな。前回の反省生かしてショットガン持ってきた」

「弾は?」

「スラグ弾とダブルオーバックを交互に装填してある。357の強装弾もだ」

「狙うなら頭だ。それができなきゃ首下あたりを狙え、外すよりはマシだぞ」

「待てよ、魔壊し効くならお前が使った方がいいんじゃね?」

「必要なら借りるぞ。そいつで誤射するな死ぬなの精神で頑張ってくれ」


 物騒な幼馴染はしゃこっと得物のフォアエンドを引いてる。

 薬室には装填済みの青い薬莢(スラグ弾)だ、装甲をぶち抜く気概がある。


「あっ、ちなみに私は【刀剣】スキル持ちですよー。こう見えて68もあるんです、何かあったら三人とも私が守っちゃいますからね!」


 人形なお姫様はというと、ドヤ顔で背中のホルダーから大剣を抜いてた。

 ほのかに蒼い刀身に得意げな調子がきらっと写り込んでる。


「なあ、最近挨拶みたいにスキル値とか読み上げる奴よく見かけるんだけどさ。高いとどうなんだ?」

「あーそれな、本にも書いてるがどれくらい()()()で戦えるかっていう指標ぐらいに思っとけ。それとアーツが使えるかの判断材料にもなるから」

「えーと、イチ君にも分かりやすく言うとなると―……スキルが高いと恩恵があるんです、値が高ければ高い程早く強く触れちゃうよーみたいな感じで!」

「つまり俺のそばにいる大剣ガールはお強いんだな?」

「腕には自信があります! 騎士なので!」

「了解、何かあったら助け合いの精神でいこう」


 スキル云々の話はまだ謎が多いが、ふふんとドヤ顔になる効果はあるようだ。


「ぼくもスキルを見てみたけど、【槍】が50ぐらいになってたよ。これってすごいのかな?」

「けっこう上がってたんだなお前、最大値の半分だったか?」

「最大100で50だぜ、てことは槍がお上手ってことだ」

「そんなに上がってたんですね? 武器の扱いに恩恵がつきますし、いろんなアーツが使えますよ~?」


 ニクを見ればじゃきんと槍を展開してる。

 撫でてやった。ついでに依頼を一度思い返すことにした。

 ゴーレム壊滅しろ、犯人見つけて捕まえたらボーナス、死ぬな。

 オーケー理解した、R19突撃銃を下ろして銃剣を取り付ける。


「――あっ! にーちゃん!?」


 全員の動きが揃い始めると急にそんな声がした。

 こんな状況にそぐわぬ元気な女の子のもので、わいわいやってるヒロインたちから何かが抜け出てきた。


「あれ? お前は確か……」

「やっぱりだー! あの時のにーちゃんがいる! ボクのこと覚えてる?」


 肘から先が茶色い羽色で、膝下は鳥の足取りな――ハーピーってやつか。

 羽を広げてばさばさしながら、元気に八重歯を覗かせてお近づきだ。


「あっ、あの時のハーピーの子ですね!」

「ドールのねーちゃんもいる! なになに? みんなでお仕事―?」

「はいっ♪ 今日は頼れる助っ人を連れてきたんです、その名もイチ君です!」


 リスティアナにも気づくと無邪気にダイブだ、球体関節な腕が抱っこで迎えた。

 機能性のあるキュロットや上着は冒険者らしい格好だ。この子も同業者、それも先輩って事実なのが信じがたい。


「あーどうもパン屋のイチ君だ、元気にお勤めしてるようで何より」

「それからこの犬の精霊さんがニクちゃんで、こっちのスーツのお兄さんがタカアキ君です、そして私がドールで騎士なリスティアナです!」

「ん、よろしくね」

「ようハーピーの元気ッ娘、ご覧の通りお兄さんたち楽しく出稼ぎ中だぜ」

「みんなでパーティ組んでるのー? 強そー!」


 あべこべな面子に茶髪でボーイッシュなロリは目をキラキラさせてる。

 この異色さに好奇心が働いてる様子は冒険者というかご近所の物好きな子供だ。


「ボクはハーピーのピナリアだよ。あの時は助けてくれてありがとね、にーちゃん♡」


 とにかく、元気そうな鳥ッ娘はぱさっと羽を広げた。

 三歩歩いても覚えててくれたらしい。しゃがんで視線を合わせてやった。


「じゃあピナリア先輩か。一人で来たのか?」

「クランのみんな連れてきてお仕事! 今度のボクは違うよ、キックでやっつけるから! それと先輩呼びはいらないよー?」


 依頼の内容はともかくとても明るい声でやる気に満ちてる。

 「しゅばばって!」と鋭いかぎづめを軽やかに持ち上げるほどには。

 人間的な太ももと鳥の鋭さがある爪は剣先さながらだ――首筋を斬り落とせそうな不吉な音がする。


「あのデカいのが出たらそこの水色髪のお姉さんに任せとけよ」

「みんな来てるから平気だよ! にーちゃんに何かあったら助けてあげるね?」

「そりゃどうも先輩」


 調子は狂うが等級を示す『シート』は間違いなくブロンズだ。

 八重歯の眩しい彼女は「うへへー」とかいいながらすり寄ってきた、鳥体温。


「――近づいちゃだめだよ!」


 すがりつく鳥ッ娘をあやしてると、今度は厳しい声がかかった。

 ロリの群れから悪魔っぽい翼の生えたロリが現れた。さらさら金髪に角が生えてる。


「あ、キャロルねーちゃん」

「どうしたんですかキャロルねーさま……って、あの時の不審者さんがいるんですが」

「ピナリア様、こちらにお戻りください……」


 そこにまたまたちっこいのが続いてくる。

 ニンジャっぽい装束を着た狸耳なヒロインに、そっと杖を抱く白い衣の兎耳なヒロインだ。

 総じてロリどもである。もうこいつらが全員成年と認めるとして。


「その人は危ないからダメだよピナちゃん、不審者には気を付けてねってシズクおかあさんが言ってたでしょ!」

「えー大丈夫だよー、このにーちゃん前にボクを助けてくれたんだよー?」


 小悪魔さながらな子供はぷんすかしていて、鳥娘の友達をずるっと引き抜いた。

 その身柄を取り巻くヒロインのところまでまで確保、収容、保護すると。


「――この子たちのおねえちゃんだよ! 近づいちゃだめだからね!」


 気強くそう注意してきた。

 ふりっとした衣装こそしてるが、背には本人よりデカい剣があるのだ。

 しかも胸元には『アイアン』相当の輝きをたたえてる――こんなのが先輩か。


「あ、あのー……? この人大丈夫ですからねー? 怖くありませんよー?」

「だめだからね!!」


 リスティアナのフォローも虚しく接触禁止令が出た、分かったよそうするさ。


「あー分かった、距離の置き方はわきまえてるつもりだ。で、誰だお前」

「――おねえちゃんだよ!!」


 どちらさまか尋ねたが返事は「お姉ちゃん」だとさ、そうか。

 「またねにーちゃん」としょんぼり離れるのを見届けた。変な奴ばっかだ。


「さっそく変なのに絡まれてやんの、笑うわこんなん」


 タカアキが面白がってた。スカーレット先輩風になにわろてんねんだ。


「この場合は俺たちが異質だろうな。さて――」


 こうなったら仕方ない、不審者らしく戦ってやろう。

 薬室を確かめれば5.56㎜弾がある。安全装置も覚悟もよしだ。


「で、どうすんだ皆さん。さっきから向こう見てお悩みのようだけど、まさかこのままお屋敷眺める会で終わるわけじゃないだろ?」


 それから周りにお尋ねになった。

 小さな先輩たちは敵がご不在に見える屋敷にどうも用心してるようで。


「それがね……この前からずっとゴーレムが隠れてるみたいで……」

「でも匂うんだよねえ。屋敷もそうだけど、庭園にいっぱい潜んでそう」


 猫だとか狼だとかのロリの目つきが答えてくれた、敵が潜んでるとさ。


「おそらく、そこら中に隠れてわたしたちを待ち伏せするように命令されてるんだと思います。もっと調べたいのは山々なんですけれども……」

「堂々と出てくれば魔法で一掃できるのにねー、たぶん向こうは屋敷に手を出せないって分かってるから引っ込ませたんだろーね。いやらしーゴーレムめ」


 幽霊な女の子と青肌悪魔なガキの意見も追加だ、いやらしい配置だそうだ。

 このお屋敷の機密性は抜群で、おかげでこうしてうかつに進めないという。


「敵の数不明、どこにいらっしゃるかも不明、でも間違いなく歓迎ムードか」


 俺は様子を見つつヘルメットをかぶった。

 バイザー越しに伺う分には庭の茂みや小屋も怪しいし、硬く閉ざされた両開きの扉だって胡散臭い。


「だがこちらはこれだけの数があるのだ。この場で少々炙りだして確かめるのがよかろう」


 対して下半身蜘蛛なロリは好戦的で、クロスボウに矢をつがえてた。

 前髪ぱっつんな黒髪の下できりっとした瞳は間違いなく屋敷を狙ってる。

 後ろを伺えば「壊さないでくれ」って顔だが無理な注文になるかもしれない。


「シンプルにいこうぜ、派手な音立てておびき寄せるってのはどうだ?」


 そこへすっ……と散弾銃の銃身が伸びる。

 タカアキは茂みに向かって()()()するつもり満々だ。

 俺が数多のロリ顔に「どうだ」と無言で尋ねると、躊躇い混じりに頷かれた。


「タカアキ、あそこの茂みあたり怪しくないか?」

「隠れるならうってつけだな。じゃあお邪魔しますよっと」


 許可が出た、ポンプアクション式の12ゲージが向こうを狙う。

 俺もいつでも撃てるように得物を構えて――


*Baaam!*


 派手な炸裂音が響く。

 何かがいれば当たるだろうし外れれば芝生をえぐるだけ、その二択だ。

 しかし返事はない。銃声の名残が遠のいていくぐらいで。


「む、あれは――!」


 そんな時だ、横で軍帽を被った蜘蛛系ヒロインが身構える。

 彼女の注意が向く先、柵で覆われた屋敷のあちこちから何かが現れた。


 人間――いや、それに近い何かだ。

 白い粘土をこねたような人間大の姿がずんずん鋭い行進で何太も現れる。

 安っぽいが全身をしっかり覆う防具や槍を身に着け、見た目以上のきびきびした動きであたりに布陣していく。


「……なんだありゃ、粘土のゴーレムか?」

「おーおーどんどん出てきやがって。すっげえキモいデザインだな!」

「す、すごい数ですねー……!? この前のやつとはだいぶ柔らかそうですけど……」

「ん、土臭い。あれを全部やっつければいいの?」


 変な敵に疑問が浮かぶが、そうすると声を上げた蜘蛛娘が割り込み。


「知らんのか? あれは魔術で作られたクレイ・ゴーレムだ。作り手の腕次第でその強さが決まるというが、武具も扱い機敏に動くとなると厄介なものだぞ」


 ロリボイスwith硬い口調でそう説明してくれた。


「ご説明どうも蜘蛛のお嬢さん」

「貴官はあの珍妙な男か、ならば心配あるまいな。私はシディアンだ、なぜか軍曹と呼ばれてる」

「イチだ。なんてこった俺より上官か」

「む、どういうことなのだ」

「俺の階級は上等兵でな」

「であれば私が上官だな、よかろう」

「何がよかろうだ」


 ついでに自己紹介もされた、これで黒髪ぱっつんな上官ができた。

 まあそれはいい。この間にもざらざら木々の擦れる音も響いて。


【マスタアアアアアアアアア……マスタアアアアアアアアアアアア……】


 この前の全長数メートルほどの白い姿も四足で這いずってきた。

 相変わらず気味が悪いが流石はヒロインどもだ、あれを見て目が据わってる。


「ワーオ……とんでもねえもん飼ってやがって。防犯意識極まってんなオイ」

「あいかわらず不気味です……。趣味が悪いと思いますよー……?」


 おかげでタカアキもリスティアナも渋い顔だ。

 そんな様子を見れば二人は「どうしよう」と伺ってくるも。


「俺はパン屋が心配だ」

「あれ見てそっちの心配できる余裕が羨ましいよお兄さん」

「ふふふ。パン屋のこと本当に好きなんですね、イチ君?」

「キリガヤとサイトウしくじってないよな……?」


 あんな得体の知れないもんよりパン屋が心配だ。

 待ってろ奥さん。必ず完遂して帰ってくるよ。


「……うーわまーたやらしーんですけど。屋敷を盾に待ち構えてるよね」


 しかし青肌悪魔が言うように、趣味と気味が悪い生き物は位置が絶妙だ。

 『派手に吹き飛ばそうものならこの屋敷がどうなってもしらんぞ』

 真っ白で口のない表情は俺たちにやらしーく物語ってる――さあどうする。


「ああそうだイチ。実は今日もこっそり誰かさんから頼みごとがあってな」

「誰からなのかは聞かないぞ、今度はなんだ」

「見込みのあるストーンらしく派手に初手決めてこいってさ」

「いいようにこき使ってくれてるのも信用してる証拠って思った方がいいか?」

「冒険者は仕事を選べねえ、だろ?」

「だったな――じゃあ」


 敵は屋敷を中心に細かく動いて、こっちの動きにあわせて警戒したままだ。

 四つ足のデカいゴーレムもその威圧感を()()()にひけらかしてる。

 こっちか向こうか、誰が先に行くかって雰囲気だった。

 向こうは下手に進もうものなら包囲してやるぞとばかりの雰囲気だが。


「おい、向こうの防御を崩したらいい感じに奇襲できそうか?」

「待て貴官、何をするつもりだ?」

「いい案を思いついた、俺とあんたらで敵を包囲する」

「包囲殲滅という言葉の響きは好きだがこの状況に対しては不適切だぞ。あちらの頭数の方が上なのが分からないのか?」


 銃剣の装着具合を確かめつつ周囲に尋ねた。

 シディアン軍曹を筆頭に戸惑いが返ってきたが「できる」って雰囲気はあるようだ、なるほど。


「場数じゃ俺の方が上だ――おらぁぁクルースニク・ベーカリーだぁぁッ!」


 着剣した突撃銃を掲げて誰よりも先に吶喊(とっかん)した。

 タカアキが「マジかお前!?」と引くよりも早く。

 リスティアナが「ええ!?」と驚くよりもずっと早く。

 ニクより先行して、群れの前に現れた四つん這いゴーレムに近づき。


【……! 侵入者は帰れ! 帰れ帰れ帰れえええええええええええ――】


 長い手がぶぉんと凪いでくる。

 尻から滑り込むように懐へ跳んだ。

 見上げれば真っ白な胴体、そして白い無表情が見下ろすさまがすぐそこだ。


*PAPAPAPAPAPAPAPAKINK!*


 その顔面に5.56㎜弾を短く浴びせた。

 膝ががくんと崩れた。勢いを乗せてでこぼこな胴体に銃剣を刺し通す。


「ニク、タカアキ、先に来い! ぶちのめして奥まで食い込むぞ!」 


 そのまま駆け抜けて、胸から股まで一気にぶった切る!

 分厚い布を切り裂くような手ごたえを感じつつ、俺は敵に突っ込んだ。

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[気になる点] アシダカ軍曹か……ところで軍曹、強力なゴーレムが布陣していくのをながめるとか舐めプか お次は18禁ロリハーレムでもやる気か?! [一言] クレイゴーレムなんざパン屋で鍛えた手で…
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