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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
剣と魔法の世界のストレンジャー
411/580

3 チェンジで。

 テーブルの上で白皿にアップルパイが収まっていた。

 程よく冷めてしっとりした一切れだ。硬めのクリームも添えられて作ってくれたやつの善意を感じる。

 壁のボードには「本日アップルパイをサービス」とあって、あのりんごはこうして振舞われてるらしい。


「元々ニクは黒いジャーマンシェパードだったんだ。それが俺を助けるために精霊になる薬とか言うのを飲んでこんな姿になったのさ」

「あっぷるぱい、おいしい……!」


 俺は手をつけないままタカアキにわん娘に関して伝えた。

 話題の主たるニクといえばおいしいおやつを食べて尻尾をぱたぱたさせてる。


「まとめるとこうか? お前のわん娘は拾ったアタック・ドッグで、それがフランメリアのお薬パワーで変身して、そのままこっちに来たらステータス画面開けるようになってたってか」

「そして俺たちにフレンド登録が飛んできたってわけだ。どうなってんのこれ」

「こっちが聞きてえよ。お前ただでさえ情報過多なのにとんでもない話ばっか積もってく一方だぞ俺たち」

「ついでにいっとくとそのころカルト集団に生贄にされかけてたな。ドッグマンをあがめるイカれた連中だった」

「またカルトに狙われるとかお前もつくづく運ないな、しかもミュータント崇めてるとか馬鹿じゃねぇの。ちゃんと仕返ししたか?」

()()()に105㎜砲ぶちかまして神様のみもとに送ってやった。たぶん悪い方」

「てことはお前のやりたいことリストその1の「カルト系人種に痛い目見せる」が埋まったな、おめでとう」


 俺たちは可愛い(男の)娘になってしまったジャーマンシェパードをじっと見た。

 グルメな愛犬はまだぎこちない手つきでアップルパイを味わってる。


「……もしかして、ぼくもヒロインになったのかな」


 そしていまいち実感がなさそうにきょとんとされた。

 この世界に来た影響なんだろうか。確かにフレンド登録申請が飛んできたし、リストにもニクの名がまだある。


「まさかこっちに転移したからMGOの登場人物に認定されましたとか?」

「なんかそれ十分あり得る話だよな……マジでそうなんじゃねえの?」

「そう言えばタカアキ、ステータスを開けるのはプレイヤーとヒロインだけか?」

「どうも俺たちみたいな人種と元気なヒロインどもの特権らしいぞ。現地の方々にあれこれ聞いても「何言ってんだこいつ」って変な顔されただけだからな」


 なるほど、ステータス画面は余所者さんの特権らしい。

 じゃあ俺のわん娘はヒロインになってしまったんだろう、立派なオスなのに。

 ニクを眺めてると娘さんが手つかずのパイをちらっと見てきたのですかさず食べた――ワーオ、元の世界じゃ味わえない贅沢な味。


「じゃあなんだ、ニクがヒロインになった証拠っていいたいのか?」

「そうかもな。ポストアポカリプスな世界のスキルが組み込まれる事例がこうしてあるんだし? その逆、つまりお前のわん娘がこっちに来てヒロインになっちまうのもあり得るだろ?」


 けっきょくタカアキの言う通りだなと思った。

 二つの世界が繋がってる現状、ニクがMGOのヒロインになってしまうというのもあり得るのだ。立派なオスなのに。


「帰ってくるなり難しそうに悩んどるがどうした? 何かあったのか?」


 と、そこにカウンターから親父さんが人の顔色を心配してきた。

 アップルパイをつつきながらこうして悩んでるんだからごもっともだろう。


「気にしないでくれ、悩みが一つ増えて戻ってきただけだ」

「俺たち悩みが多い時期なんだよ、心配いらないぜ」

「そりゃあわしにはいきなり妙なことを始めて、かと思えば悩み事を土産に帰ってきたように見えたもんだからな。ところでさっきのお嬢さんはどうしたんだ?」


 ちなみにあれからリスティアナは友達が増えて嬉しそうに帰っていった。

 親父さんには俺たちがあの美少女に何をしたのやらといった感じだが。


「ちゃんと帰ったよ。ついでに友達になってきたところだ」


 左腕を強調した。意味はともかく妙な真似はしてないと信じてくれたらしい。


「ならいいんだが他所の宿の客とトラブルだけはやめてくれよ。クラングルは懐が広い街とはいえ、そういう面倒ごとに関しては厳しいところだからな?」

「大丈夫だって親父さん、あの子に変なことはしてねえぞ。そもそも俺は単眼娘専門だ、もしあの顔で一つ目だったらちょっと心がやばかった多分一目ぼれだわ一つ目だけに」

「タカアキの言ってることは気にしないでくれ、元の世界でも時々こうだった」

「……イチ、お前さんが来てくれてよかったと最近思うぞ。そいつは突然狂うもんだから旅人ってこういうもんかと」


 幼馴染のお気持ち表明はともかくとしてPDAを開いた。

 【ソーシャル】タブを見るに個人に向けてメッセージやメールを送れるみたいだ。


「そう言えばタカアキ、フレンド機能って何ができるんだ?」

「チャットとかできるぞ。俺たちみたいな旅人やヒロインはこいつを使ってコミュニケーションが取れるからマジ便利」

「そりゃ便利なことで。ちょっとやってみるか」

「できんのか?」

「できるかもな」


 アップルパイを一気に平らげてから画面の『タカアキ』を選択。

 チャット機能という部分を指先でそっと押せば。


【P-DIY2000、データ取得開始。神経接続中……しばらくお待ちください】


 視界にいきなりウィンドウが浮かんだ。左腕にぴりっとかすかな痺れも走る。

 何だこれは。画面を見れば何と接続してるのやら、進行度が表示されていた。


「なんか接続始まったぞ、神経がどうのこうのって」

「言い忘れてたけどなイチ、あの世界のPDAってのは脳と神経とリンクする機能があるんだぜ。そういう設定だったの忘れてたわ」

「こんなタイミングで脳と神経だとか言うんじゃねえよ。今聞きたくない不安な言葉だぞそれ」

「心配すんな、一度接続したら取り外せない呪いのアイテムとかじゃねえから。そういう設定だった……はずだ多分」

「多分って言うのも聞きたくなかったよ畜生」


 早く言えタカアキめ。しかしすんなり作業は終わって。


【おめでとうございます、あなたの感覚とリンクしました! 新機能へようこそ、それでは引き続きP-DIY2000の使い心地をご堪能下さい!】


 あまり誠意の感じないささやかなアニメーションが流れる。

 ところが文字を発信しようとするとまた妙なことが起きた。

 視界のすぐそこでシャープな文字列がふわっと浮かんだからだ。

 チャットに相応しい配列が目に優しい青色で「入力してください」と指先を待ち兼ねてる。


「神経接続ってこういうことか? なんか文字っぽいのが浮かんでる気がする」

「なんだそりゃ、俺たちにみたいに空中に出てきた感じか?」

「ちょっと待ってろ、今試しに送ってみる」


 試しに指でなぞれば確かに入力できた。タッチパネルにそっくりな心地だ。


【ハロー、ストレンジャー】


 試しに一言だけ送信してみた。

 タカアキはすぐ気づいたらしい。さっそく宙をなぞってる。


「お、きたきた。初メッセージおめでとう、俺からもお祝いの言葉をどうぞ!」


 そういって向こうが何かを入力し終えると。


【もちもち単眼美少女アイちゃんぎりぎりバニースーツVER(R18)発売中! 5000メルタ!】


 ウィンドウにこの世の終わりみたいな宣伝が送られてきた。送ったやつの渾身のドヤ顔が死ぬほどむかつく。


「おいタカアキ」

「どうした?」

「どうしたじゃねーよ、たった今不幸になりそうなメッセージが来たぞ」

「アイちゃんは不幸のシンボルじゃねーぞ。サキュバスの姉ちゃんが作ってくれた幸せの偶像なんだ、分かるか?」

「知るか。初めて受信したメッセージがお前の宣伝なんて最悪だ」

「お詫びに飾ってやろうか? すげえぞ、太もも上の食い込みが特にこう」


 幼馴染の怪奇極まりない振る舞いはとにかく使い方は分かった。

 操作の具合を探れば画像送信もできるそうだ。

 そうだな、【リスティアナ】へのメッセージを立ち上げて。


【おやつ】


 無駄を削いだ一言を添えて撮影したばかりのアップルパイを送信。


【あっ、さっそく連絡してくれたんですね~♪ このアップルパイはどうしたんですか? 宿のメニューにありましたっけ? 美味しそうです!】


 するとすぐに返事が来た。そうかそうか、これは便利だ。


【こうやるの?】


 かと思ったらニクからもきた。ぎこちない動きでわたわた頑張ってる。


「なにこれ面白い!」

「だろ? 撮影した写真も送れるから便利だぜ、そうださっきいったアイちゃんの画像を」

「ん、リスティアナさまがアップルパイ食べたいって言ってる」

「オラッ! 喰らえ! クリンの殺人鬼のベッドルーム!」

「うわなにこれ……なんで揺りかごに料理の写真……おいまさかそういうことか!?」

「……お前さんたちはいったいさっきから何をしとるんだか」


 親父さんに死ぬほど呆れられたが、俺たちはしばらくこのやりとりを楽しんだ。

 ニクの謎はともかく俺もMGOの機能にあやかれると分かっただけでも大きな成果だ。



「――ようこそ我が部屋へ。ここが俺の住処さ」


 ご厚意で頂いたおやつを平らげたあと、俺たちは宿の一室に入り込んでいた。


「ここがお前の仮住まいってやつか。なんていうか……」


 タカアキの部屋だ。扉の先では木造りの簡素見た目があいつらしく染まってる。

 そう、例えば、どこかの廃墟で取って来たであろう現代的な家具とか。

 この世界に似つかわしくない机にノートパソコンが置かれ、隣で一つ目の守護者がきわどいスカート姿をくねらせてた。


「元の世界の俺の部屋っぽいだろ? ちょっと物騒だけど」


 けれどもこの際単眼フィギュアはいいとする。

 問題は壁だ。どこで回収したのやら黒のガンラックが銃器をいくつか取り込んでいた。

 床にはあの軍用ケースに弾薬箱が押し込まれて火力をひけらかすばかりだ。


「……武器庫みたい」


 ニクがぼそっというように。親父さんが見たら顔色を損ねそうな火薬庫である。


「そうだな、まずこいつの入手経路について聞きたいな。どうしたんだこれ」

「この世界にいろいろ向こうの建物があるだろ? そういう場所とかにいっぱいあるんだよ、まあG.U.E.S.Tの世界観的に仕方ないっていうか」

「そんな場所からこんなアホみたいに集めてきたのか。何考えてんだお前」


 試しにそこらの銃を一つ抜いてみた。埃と煤で汚れた戦前の猟銃、値札つきだ。

 どうも集めたはいいけど持て余してるらしい。そんなものをどこで集めたのやら。


「さっそくだがこいつを見てくれ。クラングルからやや離れたとこの地図だ」


 あいつはどっかのオフィスから永久拝借してきたようなボードを引きずってきた。

 そこにはここらへんの地図が広がってる。

 地形の上にいろいろ書き足されて、細々とした模様はだいぶ質を変えていた。

 いや広いなおい。この都市の周りだけでも向こうの旅路の三分の一ほどはあるぞ。


「この都市の郊外だけでも既に場違いな建物が幾つもあるわけよ。ガソリンスタンド、工場、モーテル、既にいろいろなもんが見つかっててさ」

「じゃあ地図の上に書いてある点やらは全部そうなのか?」

「おう。知り合いだとかに手伝ってもらったり、あとは自分で見て回ったりで見つけた」

「調べに行ったのか。こんなにお部屋が豊かな理由はそういうことか」

「ところが厄介なもんもセットでな。意味は分かるよな?」


 それだけのウェイストランドから転移してきたそうだが、続くタカアキの表情は「面倒ごと」を表現してる。

 建物やら土地やらがそのままやって来るとなると――


「先客だな?」


 俺はすぐに気づいた。部屋の隅でざっくばらんに積まれた武器の山だ。

 そこに黒い刀身を持つナタみたいな得物がある。ナノマシンで動くゾンビが扱えばちょうどいい造形だ。


「……ん、テュマーが使ってた武器。もしかしてこの世界にもいる?」


 ニクが訝しむように嗅いでるおかげで「そうなんだよな」と困り顔だ。


「そう、テュマー、無人兵器、ミュータント、そういう類の先住民がいらっしゃるんだよな」

「つまり外来種を持ち込んだわけか。最悪だ」

「お前ならどんだけやばいか分かってるみたいだな。幸いにもみんなやべえって気づいて下手に刺激はしてないさ、おかげでほぼ手つかずだ。いや手のつけようがないっていうべきか」

「それでも好奇心で探るような奴もいるよな」

「ああ、さっきの人形のお姉ちゃん見てそう思ったわ俺」


 そう、フランメリアにはあのウェイストランドの『敵』も流れ込んでるのだ。

 リスティアナは言ってたな。廃墟を探索してたらあの武器ケースを見つけたって。

 そんなヤバイ奴がいるのにも関わらずつい探索してしまうような奴も既にいるわけだ。

 となると、とたんに地図の上の場違いな場所のヤバさが増してくる。


「でだ、イチ。こういう場所がある以上、大げさに言うならけじめをつける必要があるよな?」

「俺たちが持ち込んだんだから落とし前は二人でつけましょうって話か。俺も考えてた」

「そういうこと。まあ俺の場合、そのついでに中にある便利なものが欲しいのもある」


 タカアキはそういって机の上をちらっと見た。

 回収されたパソコンは電源がついていて、現在進行形で活用されてたようだ。


「その便利なものを求めてやってくる奴も少なからずいそうだな」

「そう、だからそういう場所に行って死にかけたとか言う事例も少なくないんだ。俺たちでどうにかしなきゃならない問題の一つってわけ」

「ワオ、問題だらけで最高だ」

「二人でやれば怖くねえさ。まあ今は生活基盤を作る方が先だ、急ぐもんじゃねえ」

「そうだな」

「だからって今すぐどっか行こうって話じゃないんだ、()()()()()があって現地住民の方々も多少なりとも困ってるから覚えといてくれ」

「やばいところが野放しになってるってことだろ? 今すぐ行かなくていいのか?」

「こういう場違いなもんはやべえってどことなく広まってるからな。首突っ込まなきゃ大丈夫みてえだから『触らぬ神になんとやら』で距離置かれてるし、実際それでデカい事件も起きてねえし今んところ大丈夫だ」

「じゃあこの部屋いっぱいの場違いな品々はなんなんだ。どこに首突っ込んできたのやら」

「西の方にモールがあったからスタートダッシュでかき集めたのさ。ちなみにミュータントだらけだ、良い子は行かない方がいいぜ」


 そういってあいつは現代的なソファーに「座れよ」と手で誘ってきた。

 どうもアイツはここからについて話すつもりか。ニクと一緒に腰かけると。 


「それはそうとお前、親父さんに試されたな?」


 片隅にある小さな冷蔵庫を漁ったようだ、冷たいジンジャーエールの瓶がある。


「試されたって?」


 そいつをくれるのは分かるが、試されたって言うのはどういうことなのやら。


「考えてみろ、ただの客にいきなり金渡して「お使いいってこい」なんて普通じゃねえだろ? 持ち逃げされるかもしれないのに任せるか? まあ、3000メルタぐらいのぎりぎりを賭けてきたみてえだけどよ」

「確かにこんな新顔に3000も渡しておつかいさせるなんていきなりだな。マジで俺の人柄を探ってきたような感じか?」

「お前の素性とか気になったんじゃね? 冒険者を抱えてる宿ってのはこんなもんだぞ」

「なるほど、じゃあクラングルの誇る伝統行事かなんかだったのか」

「そのとーり。いい自己紹介になったんじゃねえの?」

「だったらご期待に応えられたか心配だ」


 なるほど、親父さんはこうしてどこからきた余所者(ストレンジャー)を探ったわけか。

 タカアキとの絡みもあってそこそこ信用してくれてたみたいだが娘さんもいるんだ。方法はともかく見極めたくもなるはず。


「結果は満足してると思うぜ、利子つけて律儀に帰ってきたし」

「リンゴに助けられたかもな」

「ああ、娘さん喜んでたしな。もっと安心させたきゃギルドに入るべきだけどな」

「ギルドってあのよく小説とかゲームにあるあれだよな?」


 そこから続けたい話題はどうにも『ギルド』ってことらしい。

 タカアキは栓抜きを差し出してきた。ぷしゅっと開けて煽った――辛い。


「そう、フランメリアじゃ転移してきたやつの大体がそういうのに入ってるらしいぜ。それだけで身分証明になるし、むしろ義務って言った方がいいかもしれないな」

「問題はそのギルドとやらがなんなのか理解してない点だな」

「簡単さ、仕事にありつける、ギルドのおかげで身分を得られる、そして裏を返せば「私の身をこの国にくれてやります」ってことになる」

「だったらうってつけだな。そんな約束を誰かとしてきたところだ」


 どうもそのギルドとやらに入った方がいいんじゃないかって話らしいな。

 この世界で信頼を得てやっていくためにも視野に入れろ、というか何でもいいから入れ、そんな感じでタカアキは俺を見てる。


「別に入らなくたって他のコネがあるならやってける場所だけどよ、いつでもいいから入っとくべきだぜ。こんな身だし、変なのよりつく前に居場所は固めといたほうがいいだろ?」

「そうだな。その前にいろいろ調べておきたいかな」

「おう、前に渡した本にいろいろ書いてるし、分からねえことがあったら聞けよ。社会経験ほぼゼロのお前でも分かるように教えてやる」

「ご親切にありがとう友よ。ちなみにお前は何か入ってるのか?」

「一応は冒険者ギルドだ、あくまでこの世界で活動しやすくするためだけどな。クソ真面目に依頼やってるような人種じゃないぜ」

「この部屋を見ればそうだなって思うところだ」


 そんな幼馴染は一応は冒険者という身分らしい。

 俺には変態性癖のマフィアにしか見えないが、そんなやつでもいられるんだから手ごろな場所なんだろう。


「あれからまだまだ覚えることがいっぱいだな。資金はある程度稼げたけど」

「向こうの世界からいろいろ拾ってきたみたいだからな。でも気を付けろよ、クラングルで油断すりゃ数万メルタなんてあっという間に溶けるぜ」

「油断して既に三分の一以上消えた」

「お前が買ってくれた短機関銃は大切にするぜ。とにかく食い扶持探しも必要ってわけさ」

「前途多難な気分。でも元の世界よりずっとマシだな」

「ああ、飯安いからな。うまいし」

「……ぼくも冒険者っていうのになれる?」

「なれるさ。問題はなった後だぜ」


 そうやって三人であれこれ話してる時だ。


*Knock Knock*


 いきなり扉が細くノックされた。

 娘さんか? 見合わせた顔に答えも浮かばず、代わりにタカアキが立ち上がり。


「あー、どちらさん? 今ちょっと野郎三人で取り込み中ですよっと」


 スーツ姿が気だるそうに向かうのを見守れば扉がゆっくりと開いて――


「突然ですが失礼いたします、タカアキ様。私は魔女リーゼル様から遣わされた女中でございます。こちらにイチ様はいらっしゃいますか?」

「ワーオなんかお前あてのメイド来てんぞ、なにこれ怖い」


 次に見えたのは軽やかに一礼するメイドの姿だった。

 仕込み杖を携え、見覚えのある白黒衣装を着て、緑髪をさらっと伸ばした真面目な顔が中を探ろうとしていて……。


「――あっ、イチ様いたっす~♡ うちっすよ、ロアベアさんっすよ~♡」


 ところがメイドらしい振る舞いはすぐにぶっ壊れてしまった。

 無理もない。なにせそいつは俺に気づくなり目の色変えて手をぶんぶんするやつだ。


「ロアベア! お前かよ!?」

「ロアベアさま……! お久しぶり、元気にしてた?」

「えっ、これがあのメイドさん? なんかちょっとイメージと違う」


 幼馴染が話に浮かんだメイドにどんなイメージを浮かべていたかは知る余地もないが、ニヨニヨ顔は喜んでるようだ。

 俺だってちょっと嬉しかった。

 離れ離れになったけどロアベアがこうして元気そうで何よりだったからだ。


「アヒヒヒッ♡ リーゼル様の命令で連れてこいっていわれたんすよ~、元気にしてたっすかイチ様ぁ」

「アバタール案件で来やがったか。見ての通りそこそこ楽しくやってる」

「それは何よりっす~♡ ところでそちらのマフィアさんはどちらさんすか?」


 が、部屋の中にいた出来損ないのマフィアみたいな姿が目に付いたらしい。


「こいつは幼馴染のタカアキだ。この格好はコスプレだから気にすんな」


 仕方がないので紹介してやった。


「ああどうも、いつもイチをお世話してますタカアキです」

「また誰かのお世話になってるんすねえ。どうもどうも、イチ様のお世話をしてたロアベアさんっすよ」

「お前メイドさんの世話にもなってたんか……」

「ニク君も元気そうっす! フランメリア楽しんでるっすか?」

「ん、広くて楽しいかも。ご飯もおいしくて最高」


 ロアベアの馴れ馴れしさに対応できるあたりさすがはタカアキだと思う。

 二人の物言いは今は許してやるとして、向き合えばニ幸せそうに両手を広げて。


「リーゼル様がお呼びっすよイチ様ぁ、ついでにうちとデートでもするっす~♡」


 大きな胸をどんと構えて、色気のこもった目でこっちを見てきた。


「――チェンジで」


 ばたん。

 なんか腹立つのでドアを閉じた。さよならロアベア。


「いや閉めるタイミングじゃねーだろ今の、チェンジすんなこんな場面で」

「心配すんな、俺たちいつもこうだぞ」

「ご主人、また扉閉めてる……」

『そんな~』


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