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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
Journey's End(たびのおわり)
396/580

34 最後のご飯に肉じゃが(文章抜けてました)

 デイビッド・ダムの駐車場は明るかった。

 自動放送につられた沢山のフランメリア人に、便乗しにきた人間たち。

 そのまままっすぐ帰るやつもいれば、名残惜しそうに居座るやつ、ただ単に商魂たくましくこの世界らしい土産を売るやつとあまりにも顔ぶれは広すぎた。


「おい! 農業都市では働き手はいつだって募集してるぞ! ちゃんと国からの支援もあるし労働環境は一番まともだから来ないか!」

「鉱山都市の方が安泰じゃぞお前ら! 技術者とかいたらそりゃもう大歓迎じゃしお金いっぱい貰えるぞ! 酒もな!」

「歯車仕掛けの都市はあなた方の持つ知識や能力を必要としております。あなたの知るウェイストランドの文化を是非フランメリアの誇る大図書館に記録してみませんか? 今なら住まいや支援金も――」

「おい勝手に人の働き手取るんじゃねえよ! こいつらは俺たちが先約済みだ!」

「そんな野蛮人どもじゃなくて私たちエルフのところに来るといいですよ、我々は次なる世代の森林保護官を育成中です。自然を愛する方は是非……」

「サキュバスのところには行くな絶対だぞ! 死んでも知らんからな!?」


 そしてもれなく、傍らではやってきた人間の取り合いにまで発展してる。

 剣と魔法の世の中はどれほど人材不足なんだろうか。そろそろ各々武器を抜きそうなほどに盛り上がってた。

 そんな一際賑やかなものから一転して、大量の青色を積んだトラックが何台も道路を挟んでおり。


「帰るやつはこれ持ってけ! 一人一本な!」

「最高等級のミスリルじゃぞ! 持って帰ってフランメリアをびっくりさせたれ!」

「うわっはっはっはっは! ミスリルばら撒くとか夢みてえじゃな! 一度やってみたかったわい!」

「わしらもいっぱい持ち帰ってすごいの作ろうな! 今のうちにカッコいい魔剣のデザインでも作っとこうぜ!」


 なんということだろう、ドワーフどもがミスリルの延べ棒を同郷にばら撒いていた。

 道行くフランメリア人は驚いたり喜んだり、呆れたり目を疑ったり、果てには遠慮したが押し付けられたりと反応様々で。


「すげえ、純度最高級のミスリルが一人一本だぞ」

「一生遊んで暮らせちまうぜ」

「値崩れして世界やべえだろうな、大丈夫かフランメリア」

「勇者の国の連中が死ぬほど悔しがるだろうさ、いや楽しみだな」

「俺はせっかくだし家宝として取っとくよ、フランメリアの生活にゃ困ってなかったしな」

「相場崩れる前に売りさばいて我が家リフォームするか」

「帰ったらすぐ上司にこれ見せつけてさっさと退職するわ」

「なんだよこの量……魔剣換算で何本になると思ってんだ……」

「私は遠慮します、こんなものを持ったら次の日から何を招くか分かりませんから」

「みんなで持っちまえば問題ないから持ってかんか! 遠慮すんな!」

「加工してほしいやつはわしらの里に来いよ! タダで剣でも鎧でも作ってやらあ!」

「おい、スピロスの奴ら行っちまったぞい。あいつらにちゃんと渡したんか?」

「それがいらんって言っとってな。もう十分だとさ」

「けっ、幸せ者なこった。しかしインゴット全然減らんぞ、どうすんじゃこれ」

「そりゃ持ち帰るしかないじゃろ……なんか逆に不安になってきたんじゃが」

「おおい、わしら先に帰るぞ。里にマイ戦車持ち帰るわ」

「おう、先帰ってろ。錬金術師ギルドに燃料の作り方について話しとけよ」


 ずいぶんなお土産を持たされたバケモンどもは次々と霧の中へ向かっていく。

 人間を連れて、車両を伴って、大げさなほどの荷物を背負って、剣と魔法の世界にとんでもないものを持ち帰ってる。

 なんだか見ていて世界を二つぶち壊してる気分だった。

 だが誰にも止められない、たとえそれがストレンジャーだとしても。


「なあ、これでフランメリアぶっ壊れたりしない? 大丈夫?」


 明るい帰還になってくれたのは嬉しいが、いま目にしてる光景はファンタジー世界の秩序を崩すような光景だと思う。


「くくく。案ずることなどないぞ、イチよ」


 そんな不安に答えてくれたのは、帰還者たちからふらっと抜けた吸血鬼のドレス姿だ。

 久々に会うブレイムだった。背負った鞄と手にしたミスリルからして得意げに帰る準備ができてるらしい。


「まさに今一国の身を案じてるとこだ。未来の俺のために詳しく話してくれ」

『いきなりこんなに押し掛けて、それも車とかいろいろ持ち込んだりしちゃっていいんでしょうか……?』

「フランメリアは貪欲な国だ。どんな者も、どんな技術も、どんな文化も受け入れる度量があるのだぞ? あれくらいでは悲観するような事態など起きぬ」

「そりゃ心の広いことで。でも誰だって食べ過ぎると腹壊すだろ?」

「あっという間に消化されて血肉に変換されるだけのことよ。人間ごときの常識が通用しない混沌なる国なことぐらい承知しているだろう? くくく……♪」

「国そのものがデカい化け物に見えてきたよ」


 そんな彼女の物言いから分かるのは「どうにかなる」ぐらいだった。

 霧を超えて門に駆けつける奴らが、巨大な怪物の口中に嬉々として自分から入ってくようにすら思えてきた。

 まあフランメリアの混沌ぶりは良く知ってる、せいぜい情報量が濃くなるだけか。


「そうだブレイム君。君はエルドリーチの奴にどこぞの都市の指導者を一任されたそうだけど……」


 吸血鬼のお姉ちゃんと仲良く帰宅光景を眺めてると、ヌイスの心配が入った。

 そうだった。不死者の街とか言う場所を(かなり適当に)任されたんだった。

 しかし本人は覚悟を決めたんだろうか? 「ふっ」と軽やかに遠くの景色に笑うと。


「――どうしよう。我、そういうことしたことない」


 諦めたように困り果ててた。おいノープランじゃねえかこいつ。


「おいこいつ何も考えてないみたいぞ」

『どうしてそんな穏やかに諦めてるんですかブレイムさん!?』

「うん、あいつはこうなると思って全部ぶん投げたんだろうね。なんてひどい」

「だ、だって誰かの上に立ったことなんて一度もなくて……」

「じゃあなんであいつに勝負なんて挑んだんだよお前」

「あわよくば傀儡にして、我が裏で暗躍する指導者になろうと……」

『それってエルドリーチさんに面倒なこと全部押し付けるつもりだったんですよね!?』

「見事にその目論見が逆走して君にぶつかってるね、うん。どうしようか……」


 ブレイムは弱弱しく、具体的に言えば追い詰められた小動物みたいに困ってる。

 「どうしよう」という視線がまた飛んできた。俺を頼っても最適解はないぞ。


「……こうなってしまってはやむを得ん。我なりに頑張ってみようと思う」


 でもけっきょく、威厳もクソもない不安そうな答えを導き出したそうだ。

 楽し気に帰っていくフランメリアの奴らの姿にヒントがあったんだろうか。


「大丈夫なのか? 明日には都市が一つ崩壊しそうなテンションだぞ」

「不死者の街は我にとって心地の良い故郷、帰るべき場所なのだからな。居場所を必要とする者たちが困らぬようにしなければ大勢が困るだろう?」

「そこまで考えられるなら大丈夫さ」

「そうか。まあマスターリッチのやつが色々と準備をしてくれたのだ、悔しいがそのお膳立てに従って正真正銘の長として振舞おうではないか」


 ブロンド髪の吸血鬼は最後に笑った。この旅を締めくくるようなものだった。


「さらばだイチ。その運命に負けずお前らしくあるのだぞ、肩の相棒と仲良くな」

「もちろんだ。まあなんだ、何か困ったらコネいっぱいのリム様でも頼れよ」


 しなやかな手が差し出された。手袋越しだがしっかりと握手した。

 ついでにリム様の存在もあるんだと示してやると。


「ふふ、大丈夫よブレイムちゃん。何かありましたら私に何でもおっしゃりなさい! その対価にそちらの都市に暗闇でも育つじゃがいもを」

「よし我頑張るまたな皆の者! 良ければ我が都市に来るがよい、もてなすぞ!」


 当たり前のようにじゃがいもをちらつかされたせいで逃げ帰ってしまった。

 これで不死者の街が芋に支配されるシナリオは回避できただろう。頑張れよ。


『うおおおおおおおおおおおおおっ気づくのおせーんだよレイちゃんんんん!』

『フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 ……吸血鬼が去った次にやってきたのはあの二人の声だった。

 道路の人混みをかき分けて、ものすごい力走を繰り広げるドラゴン男と甲冑姿だ。

 フェルナーとレイちゃん(渾名)もきたか。がしょがしょ走る鎧はちょっとばかりイメチェンしたみたいで。


「あっいっちゃんいるぞうおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「貴様アアアアアアアアアアッ! 良くも私の兜をすり替えたなああぁぁぁッ!」


 追いかける側はエグゾの頭部をかぶせられていた。犯人はきっとフェルナー。

 二人の追跡劇は門に向かって一直線だ。声が途絶えたんだから無事に帰還したはず。


「騒がしくてごめんなさ~い、またお会いしましたねイチ様」

「あの馬鹿二人はいつまでああなのだ……! 失礼しましたイチ様、我々もたった今到着したところですぞ」


 代わりに現れたのは、そんな二人をのんびり追いかける悪魔の姉ちゃんとトカゲ男だ。


「クレマとアストヴィント、よく来たな。あいつらどうしたとか言わないぞ」

『フェルナーさんたち、相変わらずですね……』

「誰かさんがレイナスちゃんの兜をすり替えちゃったんですけど、三日たってようやく気付いたみたいなんですよねー」

「真実を知ればやかましいゆえ、向こうに帰るまで黙っておこうと思ったのですが……折り悪く先ほど気取られてしまったのです。まったくあの馬鹿大将め」

「ほんとになにやってんだあいつら」


 元魔王の二人は困った様子だ。それにトカゲの方は見覚えのある兜を抱えてる。


「ふふふ、あのお二人はいつまでも遊び心を忘れない子たちですわね?」

「ここに来るまであの走る騒音公害みたいなスタイルで旅をしてきたのが伺えるね」

「フランメリアに来た頃からずっとああですからねー、仲がいいですよね」

「あちらの世界では二人がああして騒ぐものだから迷惑をかけてばかりでして……はあ、またあの馬鹿どもを全身全霊でなだめる日々が戻ってしまうのか」


 そして魔女と白衣からの言葉に、クレマとアストヴィントは道を振り返った。

 どうもこの世界へのお別れが少し寂しいらしい。そんな顔をしてる。


「でもいいじゃないですかー、これで周りに自慢できますからね。うはうはです」


 まあ、シスター服の方は両手に抱えた四名分のミスリルに尻尾がとてもご機嫌だが。


「もう誰にも「この世界に連れてきてごめん」なんていわないぞ。向こうで楽しくやってくれ」

「もちろんです。また一味変わったフランメリアが来るでしょうから、私たちの旅はまだまだこれからですよ」

「それがしは感謝しております。我々の腐れ縁がいかに深いものか分かりましたからな」


 二人に別れを告げた。騒がしいチームフェルナー(仮名)も無事にご帰還だ。

 と思ったらが霧の方から甲冑が走ってきた。ぜーぜーいいながらレイナスが――


「イチ殿、どうかその心に強き生き方を! 貴方は数多の者が認める善き人です!」


 美少女の顔で透き通ったお別れの言葉を告げてきた。

 少し強気の目が目立つきりっとした顔に、透き通る薄緑の髪がさらさら踊ってる。

 一礼すると三人で行ってしまったようだ。女だったんかお前!


「……あいつ、女性だったのか」

『き、綺麗だー……!?』

「あら、気づきませんでしたの?」

「なんというか、他人は見かけによらないものなんだね。うん」

「ん、ぼくは気づいてたけど」


 異世界人の明るい帰路はまだまだ続いていた。



 それからというもの、バケモンどもの集団帰宅はあっという間だった。

 長い列を作った集まりは次々と銀の門に飲み込まれて、やがて帰りにつく姿がまばらになると居座ってた連中もあるべき場所へ向かった。


 中には今日初めて会うフランメリア人もいたが、一体どこまで噂が届いていたのやら?

 『アバタール』の贔屓を期待するようにお目にかかりにきたやつも多々いた。まあ「はよいけ」で追い返したが。


 連れ添う世紀末世界の人々もいざ待ってみればそれほど多いわけでもない。

 この荒れ果てた大地からごっそりと掻っ攫ったわけでもなく、浮かび上がった物好きをすくい取ったたようなものだ。

 ストレンジャーより一足先になった人々が今後どうなるかは謎だ。良くも悪くも。


「パレードみたいな賑やかさだったな。騒ぐだけ騒いで行っちまったぞ」


 俺はツチグモの銃座から駐車場を見渡した。

 夜空の下、そこで帰国前にひしめき合っていた情報量の多い連中はもういない。

 ささやかな宴の名残も律儀な民度のせいでゴミ一つ残さずに片づけられてる。


『ほんとにちょっとしたお祭りだったよね。それでいてお開きになったらきびきび帰っちゃうのはフランメリア人らしいというか、うん……』

「あの様子だと向こうについてもまた騒いでるんじゃないか?」

『っていうか……あんなに知らない人達を連れ込んで、ほんとに大丈夫なのかな?』

「人間の取り合いが起きるぐらいだったし大丈夫じゃないのか?」

『ウェイストランドの人を巡って喧嘩してたよね、あの人たち……』

「向こうの世界は労働力不足かなんかなのか? 本気で取り合ってたぞあいつら」


 だから、また静かになってしまった。

 『ストレンジャーズ』を満載しても快適だったRVなんてもっともだった。

 今じゃたった五人でその多機能性を持て余していて、つい数日前まであんなにわいわいやってたのが嘘みたいだ。


「……ん。ぼくたち、すっかり静かになっちゃったね」


 見るものもないダムを眺めてると、ハッチとの間からにゅっとニクの犬耳が生えた。

 後ろから軽く抱きしめてやった。洗ったわん娘の香りがする。


「あいつらが勝手に騒がしくしてただけさ。俺たちは元々こういう集まりだったろ?」


 たっぷり撫でてやった。ジャーマンシェパードの黒耳は少し寂しそうな形だ。

 だからもっと撫でた。くたっと背中を預けられて、じとっと見上げて来た。


「はじめはぼくとご主人とミコさまで旅をしてたよね。おばあさまたちに見送られて」

「そうだったな。お目覚めして間もなく哨戒任務だ」

『その時だったよね、ストレンジャーズってコードが出てきたの』

「覚えてたのかお前」

『ふふっ、覚えてるよ? でも、そのコードがウェイストランドに広がるなんて思ってもなかったなぁ』

「今だから言っちまうか、あれはその場のノリと勢いで口から出た単語だ」

『それが今じゃわたしたちを示す言葉になっちゃったよね』

「まさかこんなところまでその名を広めるなんてな。人生何があるか分からないもんだ」

「でもぼくは好き。みんなと一緒になれたコードだから」

「俺もだ。あいつらのおかげですっかりいい意味だ」

『うん、わたしも好き。ずっとここまで旅をしてきたんだよね、ストレンジャーズは』


 そう言えばそうだ、はじまりは今の俺たちだったのだ。

 脳が欠けたストレンジャーに喋る短剣、そして頼れる黒いジャーマンシェパード。

 それぞれが名前(コード)を刻まれた『タグ』を渡され、その名通りの活躍をした。


 『ストレンジャー』は立ちふさがるものをぶっ潰しながらこの世を流れた。

 『イージス』はこんな姿でありながら沢山の人の命を守ってきた。

 『ヴェアヴォルフ』は人間顔負けの活躍で人を狩った。ついでに可愛い子に化けた。


 つまりボスのネーミングセンスは正しかったわけだ。

 まあ、当時はちょっと物申したかったが。だってストレンジャーだぞ?


「……正直言うと、こんな名前貰った時はすごく微妙に感じたんだけどな」

『そう言えばいちクン、すごく不満そうだったもんね。「なんで俺よりカッコいいんだ?」って』

「まったくだよ。問題は目が覚めてボスに告げられた時に「ひどいネーミングセンスですね」って返したやつがいるってことだな」

『え゛っ。まさか……』

「そのまさかだ。んでそんなひどい名を授けてくれた奴は誰だと言ったらすげえ呆れた顔でこっち見てきて死を覚悟した」

『き、きまずいね……!? ていうか、ダメだよそんなこと言っちゃ!?』

「怪我人じゃなかったら三日三晩どつかれてたと思う。もう二度とやりません」


 でも今じゃ気に入ってる。この名前にまつわる皮肉がたまらないのだ。

 ニルソンに流れ着いた余所者(ストレンジャー)で始まって、今度は剣と魔法の異世界へ赴くストレンジャー(余所者)になろうとしてる。

 その過程で起きた出来事は、すべてこの名を形作るいい糧になってくれたから。


「今なら胸を張って堂々とこう言えるよ、俺は世紀末世界のストレンジャーだってな」


 だから俺は笑った。

 ようやく今までの過酷な旅路を笑えるのだ。このストレンジャーは。

 俺ってこの名前あってこそだったんだな、ボス。


『ふふっ。わたしはその名前が大好きだよ、あなたらしくて』

「ん、ご主人といえばストレンジャー」

「だったらボスの判断は適切だったんだな。俺もまだまだ新兵(コーンフレーク)だ」


 それに、あの人が授けてくれた誇らしい『コード』だ。

 この名前がある限り俺はずっと一人じゃない、プレッパーズの一員なのだから。

 まあ、いつぞやカッコいい改名を提示されたときは本気で変えたかったが。


『おばあちゃん、みんなのことを良く見てくれてたんだね。そう思うと嬉しいなあ』

「――でもやっぱり『バレットストーム(銃弾の嵐)』か『シルバーバレット(銀の銃弾)』がよかった」

『まだ引きずってるのあの時の改名案!?』

「もうちょっと粘るべきだったと思う……」


 諦めよう、もう一度「変えてください」なんて言ったら三度目はやばいぞ。

 ストレンジャーが生死の境目を()()()なんてごめんだ。大事にするよボス。


『イっちゃ~ん、きてくださいまし~』


 けっきょくいつまでもこの名でいようと思ってると、中からリム様がお呼びだ。

 ゆるいロリ声に誘われてツチグモの腹の中に戻れば。


「イチ君、後続の人達が君のためにいろいろ物資を置いてってくれたんだけど……」


 テーブルいっぱいの雑多な品を前にヌイスが困り果ててた。

 どうも帰還する連中が親切なことにいろいろ分けてくれたらしい。

 例えば水や食べ物、例えば弾薬と様々だ。俺たちが持て余してしまうほどに。


「おすそ分けっていうか在庫処分みたいな感じだな」

『うわあ……山積みになってる……!?』

「まあそうかもね、かさばるものとかドッグフードとか無遠慮に積まれてるし」

「ドッグフード……!」

「ヌイス、ドッグフードの話はなしだ」

「ちょっと待ちたまえ、なんでニク君はよだれたらしてるんだい?」


 どちらかといえば「捨てるぐらいなら」と捧げられた類に見える。

 目ぼしいものは全部土産にしたんだろう。ここにあるのは戦前のお菓子や缶詰、わん娘がじゅるりする犬のご飯ぐらいだが。

 

「ふふふ……! いっちゃん、これをごらんなさい!」


 ところが、だ。

 リム様は粗いつくりの袋を抱っこしてた。じゃらじゃらいってる。

 何か細かいものが詰まってるみたいだが、一体なんだと覗きに行けば。


「……これって米か!?」

『あっ! お米だ……!』


 真っ白な米がいっぱいに詰まってた。そう、まぎれもない白米だ。

 一体どういうことなんだろう、どうしてそんなものがこの場にあるんだ?


「このお米はフランメリアのお米ですわ! 精米具合から加工場所は歯車仕掛けの都市、袋から農業都市で販売されてたものですの!」

「なるほど、つまり向こうからやってきたのか」

『そう言われてみれば、この袋ってクラングルで売られてたのと同じかも……』


 正体は料理ギルドのマスターが良く知るものだったらしい、こいつも転移を食らった犠牲者ってことだ。


「……私もびっくりだよ。いや、お米というものを()()()見るのは初めてでね」


 しかし特に驚いてるのはヌイスだ。

 袋の中に手を突っ込んでさらさらとした感触をよく味わってて、あのクールな顔のまま好奇心を働かせてた。

 そうか、実体を持ってからこうして触れるのは初めてだったか。


「あらヌイスちゃん、お米をご存じなかったのかしら?」

「知ってはいたけどね、ただ実際にお目にかかるのは初体験なだけさ」

「マジで米だ。元の世界でスーパーに並んでたような奴とほぼ同じだな……」

「これがおこめ……? 変わった見た目」


 俺も思わず混ざった。触ってみるとしゃりしゃりと小気味いい肌触りだ。

 ニクも加わって三人で米をかき回す妙な儀式をしてると、リム様は一際調子の良さそうな笑顔を見せて。


「今日はごはんを炊きますわ! いっちゃん、手伝ってくださいまし!」


 まさかの料理の助手のご指名をしてきたのだ、このストレンジャーに。

 一応「俺?」と指で尋ねたが、リム様はもう準備をしてしまっている。


 ◇


「……こうか?」

「強くこすっちゃだめです! 研ぐように豊かな動きで!」

『いちクン、お米を研ぐときは力強くかきまわしたら砕けちゃうからね?』

「こう?」

「そうです、少し水を注いだままぐるぐると! しっかりやらないと糠の臭いが残ってしまいますからね!」


 ガラス製のボウルいっぱいの米を水と一緒にかき回してとぎ汁を捨てる。それを二回。

 次に水を切った米をかき分けるようにしゃりしゃりと混ぜて、また水を注ぐ。 

 白濁した水を捨ててまた()()()、またゆすいで。

 ……笑える話だと思うが、ストレンジャーはエプロンを着て米を研いでいる。


「ごはん炊くのって意外と大変なんだな……」

「炊飯する量が増えると研ぐのが大変なだけで、別に大したことはありませんわ! 二回研いだら軽くゆすぐだけです! 手早く!」


 たぶん、こいつは俺にとってのラスボスだ。

 大き目の入れ物にざっくりと入った米を混ぜて綺麗にしていくのは意外と大変なのだ。

 それでもじゃりじゃり混ぜて白さを取り除いていくと、三度目に注いだ水はだいぶ綺麗になった。


「……なんかまだ濁ってるけどこれでいいのか?」

「問題ありませんわ! フランメリアの精米技術は年々進化する一方ですの、だからこれ以上研いだら美味しくなくなっちゃいます!」

「じゃあ後は炊くだけ?」

「いいえ、吸水が待ってます。お水に漬けて三十分ほど放置するのです」

「きゅうすい……ってなんだ」

『ごはんに水を吸わせるんだよ。水分を含ませておくの』

「は? なんでそんなことしなきゃいけないんだ?」

「そうすることでお米に水分が回って熱を伝えやすくなりますの。おいしく炊きあがる秘訣ですわ」


 その結果できたのが、まだ水の中で白い濁りを残す米だ。

 このまま数十分置いて水を吸わせてから炊飯するそうだが、自分の知らないことばっかりだった。

 元の世界で何気なく食べてた米がまさかこんなにも大変だったなんて。


「……信じられないよ、まさか君がちゃんとご飯を作ってるなんて」


 ヌイスはそんな俺をカメラで撮影しまくってた、馬鹿にされてるような気がした。

 未来の『加賀祝夜』がどれだけ生活能力ダメダメだったかがうかがえるが、どんだけ壊滅的だったんだろう。


「未来の俺、そんな駄目だったん……?」

「炊飯器オンにしたら宇宙が広がってたよ。深き深淵の方の」

『深き深淵!?』

「邪神でも呼んだのか俺」

「料理の「り」すら知らない君が手をかけるには荷が重すぎたんだよ、炊き込みチャーハンは」


 ほんとに何やってたんだろう。そもそも炊飯器でチャーハンなんて作れるのか?

 まあ料理スキルはさておき炊飯という単語で思い出した。

 ツチグモのキッチンの前、どうやってこの米を炊くんだって話だが。


「お米の吸水が終わったらこのフランメリア製の炊飯用のお鍋で炊きますわ。使い方を教えますの」


 リム様は人が尋ねる前にその疑問を解消してくれた。

 あの物理法則を無視する鞄からずるっと何かを引きずり出す。

 取っ手の付いた大きな鍋だ。ガラス製のふたつきで、陶器のような質感がただならぬ鍋のオーラを醸し出してる。


『あっ、そのお鍋……クランハウスにもあったなぁ』

「知ってるのか?」

『うん、あっちだとご飯を炊くときはこれを使うの。サイズも色々あって、けっこうな値段がするんだけど美味しく炊けるよ』

「ふふふ、料理ギルドがドワーフの里や歯車仕掛けの都市に掛け合って作った炊飯専用の特別なお鍋ですの! これのおかげでかの国の米食文化は著しく進んだと言っても過言ではありません!」

「へー、ごはんって炊飯器以外でも炊けたんだな……」


 触ってみた。テュマーの頭殴ったら確実に殺せるほどに重い。

 『水素コンロ』と注意書きのあるそこに乗せるとしっくり収まった。ニシズミの奴らもまさかここで炊飯するなんて思ってもなかったはず。


「……実はこのお鍋は、あの子のために作ったのです』


 米に水を吸わせてると、リム様はそんな大層なものをじっと見つめていた。

 あの子。そうか、アバタール(未来の自分)が絡んだ品だったのか。


「こいつ、アバタール絡みだったのか」

「ええ、あの子はよくお米を食べたいと言っておりましたの」

「今ならその気持ちがすげえ分かるな」


 安心しろ未来の俺、このストレンジャーだって米に飢えてるぞ。

 面白い話だな。そのおかげでこうしてご飯にありつけるなんて。


「ふふ、本当にあの子ですわね。それで私たちは、なんとかあの子が気軽にお米を食べられないかと模索したのです。その結果」

「その結果……?」

「私たちはまず米の普及から始めることにしましたの。移住してきたジパングの方々と接触して、ドワーフやエルフの皆様の力も借りての一大プロジェクトでした」

「いやいきなり壮大な話になったなオイ!?」

『そこからなの!?』

「え、なに? そのお鍋ってそんな深い物語が閉じ込められてたの?」


 問題はこの鍋一つにそこまでぶっとんだ話がまつわってたってことだ。

 アバタール、お前は幸せ者だぞ。日本人らしい食べ物のためにそこまでしてもらってたんだ。


「大変でしたわ……! ジパングの職人の方からご飯の炊き方を教わったり、品種改良に付き合って頂いたり。土地の確保から生産者の募集に精米設備の開発に……」

「待ってくれリム様、一体フランメリアで何があったんだ」

『この鍋の背景すごく大きすぎるよりむサマ!?』

「うん、料理ギルドの長という名にふさわしい行いがあったようだね。どうなってるんだいフランメリア」


 聞けば聞くほどこの炊飯鍋の情報量は増してく一方だ。

 とんでもない物語が今なおここにあるようだが、リム様は少し思い出した後。


「でも、あの子のために作ったはずのお鍋がフランメリアの食文化を大きく変えました。流れ着いたジパングの方々がもっと気軽にご飯を食べれるようになりましたし、国民の皆様の口にも異国の食べ物が伝わるようになりました。今思えば、その時たくさんの人の心を動かしたのでしょうね?」


 こっちを見て微笑んでた。

 なんて話だ。たった一人の我が子のために起こした行動が、フランメリアの食卓に大きな刺激を与えてたなんてな。

 それが巡り巡ってこの俺に回ってくるんだ。世の中は奇妙(ストレンジ)なもんだ。


「おかげであの塩おにぎりを食えたってわけか、ずいぶん遠回りをしてきたんだな?」

「いっちゃん、そのことなのですけれども」

「ああ」

「このお鍋ができた時、あの子に初めて食べさせたのも塩おにぎりでしたの」

「……そうか」

『そうだったんだ……!』


 俺も笑ってしまった。未来の自分め、お前のおかげだぞ?

 心が押しつぶされたあの時、心の底からうまいと思ったあのおにぎりを食えたんだ。


「どおりでうまかったわけだよ。あのおにぎり」


 忘れもしない。ただの塩が効いたおにぎりがあんなにうまいなんて思わなかった。

 元の世界ならその気になればいくらでも食べれるようなものだ、けれども最高の味だった。


「ふふ。あなたがおいしそうに食べてるのを見て、あの時はすごく嬉しかったですの。作った甲斐があったなって、また味わってくれてよかったなって」

「……それを言うなら俺だって、頑張って生き抜いた甲斐があったと思ったよ」


 もう二度とあれを上回るご馳走はないはずだ。

 ウェイストランドじゃないどこかであれを食べたって、もう同じ味は感じられないだろう。

 思えばあれがこの世界で「死んでたまるか」って思った理由なのかもしれない。


「なあリム様、フランメリアってご飯が普通に食べられてるのか?」

「まだまだパンには及びませんけれども立派な主食ですの」

「すごいところだな」

「ふふ、タカちゃんも同じようなことを言っておりましたわ」

「タカアキがか?」

「……ええ、お米を持っていくように言われたほどですから」


 更に行ってしまえば、そんなものがこうして巡ってきたのはアイツのおかげだったのか。

 タカアキ、作物の種と言い何といい、お前はどこまで俺のために動いてくれたんだろう。


「……あいつはほんと世話焼きだったみたいだな。ほんとにさ」

「ごめんなさい、ずっと黙っているつもりでしたけれども」

「なんだ、言ってくれよ」

「タカちゃんはあなたを苦しめていたと、ずっと思い悩んでいましたわ」

「知ってるよ。あの馬鹿そういうやつだから」


 でも安心しろよ、お前は未来の自分を命張って助けてくれたんだろ。

 お前のせいでこの世界が生まれて迷い込んでしまったわけだけど、これで痛み分けだ。

 どうしてもお前が責任を感じてるなら俺とお前で仲良く半分こだぞ、タカアキ。


「――そうか。やっぱり()()()は変わっていないんだね?」


 ヌイスが安心したように笑んでた。

 未来のタカアキも相変わらず馬鹿なお人好しだったらしいな。

 そんな奴にいつまでも世話と迷惑をかけないようにしよう。再会したらびっくりさせてやる。


「……なあ、リム様とヌイスはいつあっちに行くんだ?」


 少し時間をかけて、俺は口にしたくない話題を出した。

 向こうへ行く順番が二人に回ってくるにはいい頃合いだったからだ。


「本当でしたら、いつまでもイっちゃんとご一緒したいですわ」


 ところがリム様は寂しそうにこっちを見てきた。

 なんだったら墓の中にまで付き合ってくれそうだが、そうもいかないだろう。


「いつまでもいてくれたら俺も助かるだろうな。飯には困らないし」

「ふふ、私のご飯がそんなに気に入ったのですね?」

「あたり前だ、心が折れずにいられた理由だよ」


 この旅で分かった大事なことがある。うまい食べ物は大事だってことだ。

 俺はずっと食事をないがしろにしてきたけど、過酷な旅と良い料理人のおかげで考えは変わった。

 温かい飯を共にする人間がいてこそだ。嫌なことがあっても生きていける。

 アルゴ神父と一緒に食べた缶詰がそうだった。思えばあれが始まりだったんだろう。


「なあリム様、俺ってけっこう……食べることを適当に扱ってたんだ。まあ、今じゃだいぶ変わった。みんなで食った方がやっぱりいいよな」


 しゃがんで視線を合わせた。リム様は優しく頬に触れてくれた。


「あなたがそう思ってくれて良かったです。私、あなたのためになれたかしら?」

「いつまでも親離れできないのはカッコ悪いって思うぐらいにはな。思えばずーっと、リム様のご馳走に頼りっぱなしだったな」

「まあ、ご馳走だなんて」

「ほんとだよ。みんなもそう言ってただろ? あのクリューサだってあんなこといったんだぞ?」


 お返しに頬を挟んでやった。今度は優しくだ。

 くすぐったさそうにしていたけれども、これから何が続くかなんとなく想像はつく。


「……イっちゃん、フランメリアはまた変わろうとしています。料理ギルドの皆様もそろそろ大変な思いをしていることでしょうし、お姉さまにも私の口からこのことを伝えなければなりませんわ」

「うん」

「それに、タカちゃんにも伝えてあげたいのです。あなたが無事だって、また会いたいって思ってるって」

「ついでに「泣くな、すぐ戻るぞ馬鹿野郎」って伝えてくれないか?」

「ふふっ、いいですわよ」


 リム様も行っちまうんだな。

 あの優しい顔がそう物語ってた。けっこう、その口から切り出しづらかったんだと思う。

 

「イチ君、私は正直迷ってるところさ」


 ヌイスも混じってきた。こっちはその言葉通りにクールな顔に迷いがあった。


「本当なら共にしたいところだけどね、不確定要素が多い上に文明レベルが違う世界だ。このツチグモはひどく目立つだろうね」

「あー、そうか……一応あっちは剣と魔法のなんとやらだからな」

「エルドリーチの奴から力になってくれそうな方とのコネは教わったのだけれども、()()()()したら何が起こるか怖いからね。まああの国民気質からして、理解できぬ事柄で火あぶりにされるほどの蛮族性はないと思うんだけども」


 確かにそうだ、こんなハイテクの塊みたいな車は確かにすごいが果たして向こうに釣り合うか。

 良く目立つだろうし、それが良いものを招くとは限らない――となれば、ヌイスが落ち着ける場所を早く探さないといけないだろう。


「それなら私がお力になりましょう。こう見えていろいろなギルドと深いつながりがありますの、貴女が動きやすい居場所を作ることなど造作もありませんわ」


 しかしさすが料理ギルドのマスター、頼もしいことを言ってきた。

 それでヌイスはけっこうな考えを巡らせたらしい。行くべきか行かないべきか。


「……だったら安心していけるんじゃないか?」


 だから背中を押してやった。


「いや、うん、それは助かるんだけどさ……?」

「どうした、リム様じゃ不安なのか」

「ツチグモがなくなったら君、不便だろう?」


 ところが心配事があったそうだ、まさしく俺のことだ。

 こいつは快適なRVがなければ何もできない人間だと思ってるらしい。


「おいおい、俺はプレッパーズで訓練されてるんだぞ? ソロキャンプもできれば戦車もぶっ壊せる立派なストレンジャーだ」


 そんなことないと笑ってやった。

 こいつには自分の心配をしてもらった方がいい、それにもう十分助けてもらった。


「……いいのかい?」

「早く行って安心できる環境を作って来い。俺の心配なんてもうするな、やることがあるんだろ?」


 あのクールな金髪は「そうか」と視線を落とした。

 寂しそうだが、別に一生別れるわけじゃない。お互い生きてるだけでチャンスは無限にあるのだ。


「でも心配してくれたのはすごく嬉しいな。ありがとうヌイス、遠い未来から世話になりっぱなしみたいだな?」


 たぶん、アバタールもそうだったんだろう。

 ヌイスが心配するほどの人柄で、こうやって気にかけ続けていたのかもしれない。

 いつまでも世話になるわけにはいかないさ。ここで終わりだ。


「……君も変わったね、とてもいい意味で。逞しく見えてるよ」

「まだまだこれからさ。そういうわけだ、お前がしたいことを優先しろ。もうアバタールの目を気にせず自由にやれ」


 未来の俺が残してくれた人工知能を撫でてやった。

 最初はくすぐったさそうにしたヌイスは、ようやく肩の力を抜いてくれたみたいだ。


「分かったよ。安定した生活さえ確立すれば幾らでも君に会いに行けるしね、リム様のお世話にでもなってフランメリアに身を構えようか」

「それでいいんだ」

「うん。ありがとう、君はいつだって優しいんだね」

「ずっと優しくされてきたからな、今度は俺がそうする側さ」


 ということは次に行くのはこの二人か。

 快適な寝床も、美味しい食事も離れて行くわけだが――別にいいさ、そんなもんなくても死にやしない。


「……そうですわ! ごはんのおかずも作らないといけません! 何作ろうかしら!」


 リム様はすぐに切り替えてくれた、ちょっと無理を見せながらだが。

 テーブルにはいっぱいの食材が並んでいて、その気になれば大抵のものは作れそうだが。


「ジャガイモ入りのやつだな」


 俺はすかさずあの食材の名前を挙げた。

 意外そうに「えっ」という顔が返ってきたが、すぐに分かってくれたようだ。


「あら、いっちゃんがお芋を求めるなんて……意外ですわね?」

「嫌いなんて言った覚えはないからな」

「ふふ、嬉しいです。分かりました、それなら――」


 よほど嬉しかったのか、リム様は喜びいっぱいの顔で食材を漁りだした。

 その中から黒い液体の入った瓶を目ざとく見つけると「まあ」と少し驚いて。


「ふふ、()()()()なんてどうでしょう?」

「肉じゃが? 肉じゃがってあの――」

『に、肉じゃが……!? それって……!』

「……にくじゃがってなに?」

「驚いたね、それって元の世界の料理じゃないか。どうして知ってるんだい?」


 びっくりするようなことを返してきたのだ。ここにきてまさかの肉じゃがだぞ?


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