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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
Journey's End(たびのおわり)
387/580

25 追い求めていたデイビッド・ダムへ(3)


 話し合った結果、俺たちがすべき行動が決まった。

 なんてことはない。敵より早く早起きしてお邪魔するだけだ。 

 まるで世紀の決戦だとばかりに待ち構えるいけすかない連中に付き合うものか、皆殺しにするだけで大層なものじゃない。


 やるべきことをマダムに伝えて、俺たちは黙々と準備に移った。

 地図を確かめ、装備を整え、飯を食って夕方を待つ。

 日が暮れる前にデイビッド・ダムへの途中にあるパーキングエリアに到着したらそこで一晩を明かす。

 そして世紀末世界の寒々しい早朝を駆けて山の陣地を奪いにいくのだ。後はいつものように気の行くままにである。


 それからリム様の買い出しを手伝ったり、仲間にグレネードランチャーの扱い方を教えてやったりと過ごせば――


「行くんだね、あんたら?」


 気づけばその時はあっという間だ。

 ごろごろとアイドリングを始めるツチグモにわらわらと人が集まってた。

 恰幅のいいマダムを押し出すように並ぶファクトリーの連中だ。興味をひかれた外の人間も混ざって盛大なお見送りになってる。

 

「いろいろ世話になったな。本当にありがとうマダム」

『ありがとうございました、マダムさん。みんなの寝床まで用意してもらって……』


 ウェイストランドに来てから末永く世話になった意味も込めて礼を伝えた。

 暗みが落ちた世界でも輝かしい笑顔が返答だ。気持ちのいい口角がツチグモの方を向き。


「いいのさ。あたしらは相応の対価をあんたらに渡しただけ、そして今度はあんたらがしかるべきことをするだけさ」


 そういって「しかるべきもの」を目で追っていた。

 ノルベルトによって運ばれる武器ケースだ。あの火力を存分に振るってほしいらしい。


「マダム、俺がシェルターを出てからあんたらの装備にはずっと助けられてきたよ。あの時からここに縁があったんだろうな」


 俺はファクトリーの雰囲気を最後に一目見た。

 たとえ夕暮れに覆われようが、ここで確かな工場の風格を明るく映していた。


「だったらあんたはあたしの戦友さ、坊や。寂しくなったり食うに困ったらいつでもうちにおいで、用心棒として雇ってやるよ」

「これで擲弾兵クビになっても安泰だな?」

「なんなら擲弾兵と兼業でうちの用心棒でもいいさ」

「月に一度あのバーベキューが食えるなら魅力的だ」

「あの味が恋しくなったらまた戻っておいで。うちらはあんたを家族みたいに出迎えるからね」


 見ればマダムは優しい笑みに切り替わってた。

 握手した。見た目からは想像できないがっしりとした力強いものだ。


「息子さんに「自慢の母さんに会ってやったぞ」って生意気に伝えてくれ」

「伝えてやるさ。擲弾兵がこうして足を運んでくれたんだ、喜ぶだろうね」


 最後にハグも交わした。意外にも筋肉の硬さがある巨体だった。

 なんとなく相手も分かってるんだろうな。俺が二度とこの世界に帰ってこないかもしれないってことに。


「お前のおかげでエイダムとの縁がやっと切れたぞ、こんなに感謝しかない気持ちは初めてだ」


 セキュリティチームもやってきた。ディ(超略)との因縁もここまでか。


「俺もあいつとお別れできてせいせいした。ちゃんとあのクソみたいな家具は片づけたか?」

「来週あたり火葬してやるつもりだ。跡形も残さないように努めるさ」

「良かったらスピリット・タウンってところにそのことを教えるといいぞ」

「見事に逃した挙句他所で迷惑かけたやがったし、そのお詫びをしにいくつもりだ。あそこが発展すれば南への道のりも安定するしな」


 ファクトリー直送の高品質な装備を着た連中は一斉に敬礼してきた。

 それらしく返した。セキュリティの男は満足した表情だ。


「ストレンジャー、オヤカタがあんたに「しぶとく生きろ」だとさ」


 間を割って作業着姿の職人が一人やってくる。手には鞘入りの銃剣がある。

 「それは?」と聞く前に差し出された。今着けてるものよりも少しリーチが長いようだ。


「俺らしい言葉を選んでくれたみたいだな。そいつは?」

「実はあんたのマチェーテを作る時に鋼材がだいぶ余ってな、オヤカタがそいつを無駄なく使っただけさ。鞘は他の奴らが作ってくれた」

「お気遣いどうもありがとう、そっちもあの人とうまくやってくれ」

「なんか気に入られちゃったみたいでな。これからいろいろ学ばせてもらうつもりさ」

「これでオヤカタの跡継ぎの心配はなくなったな?」

「お、俺がか……? いや悪くないかもな、ウェイストランドの鍛冶師……いい響きかもしれない、うん」


 腰の鞘ごと取り換えてみると引き抜きやすく感じた。

 どうもオヤカタはまたこだわりを入れてくれたらしい。

 今まで使った方の銃剣をバックパックに入れてから握手を交わした。

 こんなものか。乗員と荷物を抱えた特大のRVがいつでもいけるとばかりに唸りを強めると――


「い……イチ!」


 マスクのかかった男の声がした。

 目で追えば「まさか」だ。青いジャンプスーツが人混みをかきわけてる。

 電子機器店にいたアリフのやつだ。マダムだってそんな奴が来てくれたのを意外そうに見ていて。


「アリフ! あんたが出てくるなんて珍しいじゃないかい! どういう風の吹き回しだい?」

「挨拶しにきたんだ。その、ちゃんとしたやつを」


 周りの視線にお構いなしにそいつは近づいてきた。

 傷だらけのマスクは相変わらずだが、あまり外を歩きなれていない様子で面と向かうと。


「おれ、あんたのおかげで少し勇気が出たよ。えっと、あの時ちゃんと……別れの挨拶ができなくて、本当にごめんな」


 なんともぎこちない謝罪をされてしまった。別に気にしちゃいないのだが。

 でも気持ちは伝わった。誰が言ったか律儀な奴め。


「気にすんな。あの時は怪我もしてたし、いろいろあって気分が曲がっても仕方ないだろ?」


 それに、そんな奴がこうしてわざわざ来てくれるのが一番うれしい。

 大丈夫だと笑って返した。シェルターのガスマスクの表情は分からないけれども、ほっとしたような身振りだ。


「ありがとう。これから大変かもしれないけど、どうか頑張ってくれ。応援してるから」

「お前もな、ハーバー……」


 俺が「シェルター」とつないで一緒に同郷を惜しもうとしたその時だった。

 ずいっとアリフが不器用に迫ってきた。それから背後に見えないように、マスクの口元に「しっ」と指を立てて。


(……ごめん、シェルターのことは黙ってほしい)


 どうにか耳に届く声でそうささやいてきた。

 自分と同じ背の男が怯える小動物みたいにひそひそするのは中々ない光景だろうが、それだけの理由があるんだろう。

 そうか。ファクトリーの連中に故郷をずっと隠していたのか、こいつは。


「……ハーバーシェルターを出た頃とは違うことをあいつらに叩き込んでやるよ。じゃあな」


 引き受けた。握った拳を差し出した。

 相手は一瞬それをどうすればいいかとあたふたしてた。裏拳をぶつけ合うように促すとやっと理解したようで。


「お前なら大丈夫だよ。おれがいうんだから間違いないさ」


 やっとつながった。おそらくマスク越しに穏やかな顔が浮かべてそうな声だ。

 アリフは名残惜しそうに離れていった。

 でもそうやってハーバーシェルターの思い出を大事にしてるんだ。お前の分も戦っておいてやるさ、さよなら同郷の者。


『みんな、挨拶は済んだかい? そろそろ出発だよ』


 耳元にヌイスの声がした。振り返ればツチグモからニクがじっと見てた。

 みんなも各々挨拶を済ませたらしい。車体にオーガから眼鏡エルフまで乗り込んでいる。

 手のひらで別れを表現してから俺も乗り込もうとするが。


「――さあ、行くわよいっちゃん! 出陣だ!」

「ヒヒンッ」


 金髪碧眼の美女が白馬で来た。新調した鞍でご機嫌そうだ。

 マジで馬で来るとは。人混みをかき分けると「乗るかい」とこっちに向かって横腹をぺちぺちした。

 でもなんか顔と視線がいやらしいので遠慮した。顔を撫でて車に乗った。



 ファクトリーから夕暮れの世界に飛び出したツチグモは順調に進んだ。

 当初の予定通りにようやくダムへと曲がった先で待っていたのは、ひたすらに不毛な大地だ。

 本当に何もないのだ。左右を見ても乾いた荒野に無数の丘、そこに暗闇が降りかかれば一体どれだけ不気味か。

 あの暗い地形から誰かが狙ってるんじゃないか? そんな不安ばかりだった。


 結果としてそんなことはなかった。

 不意を突く待ち伏せもなければ、激しいカーチェイスが始まるわけでもない。

 日が落ちて世界が真っ黒に変わる頃、俺たちは何事もなくパーキングエリアにたどり着いた。


 想定仮の事態はこの世にただ一つ、予定より早く来てしまったことだ。

 けっきょく俺たちは北へ1500m離れた先にあるダムにから感づかれないように、ひっそり夜明けを待つことにした……。


「あっけないものだな。てっきり敵が潜んでいるなり、何かしらお出迎えがあると思ったんだが」


 光量を落とした照明が広がる車内、クラウディアが銃座から戻ってくる。

 褐色の両手を寒そうにしていた。夜のウェイストランドの寒さはダークエルフでも応えるらしい。


「この広さにこんな地形だ、あいつらが住んでた壁の『下』と勝手が違うだろ? それにそこまで手を広げる余裕がないのかもな」


 俺は作業台に向き合いつつ、窓際のブラインドを一瞬だけ開いた。

 深い夜空とだだっ広い荒地の一部があった。それ以上見るものはない。

 ダムも暗闇と地形で隠れてるのだからその時が来るまでお互い気づくことはないだろう。


「もしそうなら、おそらくその傭兵崩れとやらはまだこのあたりに来てから浅いと思うぞ」

「こっちまで流れてきたのはここ最近らしいからな」

「こんな際限のない荒野なんだ、もし追われる身が自分たちを守る場所を探すとしたら……それだけの頭数を匿えて、安心して枕を高くして眠れる条件を求めるのは当たり前のことだぞ」

「そして選ばれたのがデイビッド・ダムでしたと」

「うむ。まあ地図を見る限り、そこぐらいしか逃げ込める場所がなかったようだぞ」

「つまり行き当たりばったりの身にたまたま都合のいい場所が人様のゴール地点だったわけか。最高だな」

「いい迷惑だぞまったく。だからこそ私はやつらに時間を与えるべきじゃないと思ってる」


 PDAを立ち上げた。ステータスを見ると確かに成長していた。

 レベル14のストレンジャーはさんざん撃ちまくった火器のおかげで【小火器】が7、【重火器】が5(特殊PERKで実質7)に上がってる。


「確かにそうだろうな。生業を失った傭兵どもとはいえ、このあたりの土地に慣れてしまったら厄介な賊と化すに違いあるまい」


 【クラフトアシスト】画面を開いてるとノルベルトもやってきた。

 両手で紅茶が甘い湯気を立てていた。ダークエルフがかっさらっていく。


「ダム暮らしのレイダーご一行か。ファクトリーへの道まで気軽に出稼ぎにいける便利な物件ですこと」


 俺も受け取った。顔に触れた途端に甘さに混じってピリっとした香りがする。

 一口飲むとスパイスの効いた刺激的な味だ。冷えたクラウディアの身体には特に染み入るものだったらしい。


「その通りだぞ二人とも。それに奴らだってこうして逃げ延びるために十分な蓄えを持って行ったとは限らんからな、その手の人間は食い物が尽きればなんだってするぞ」

「糧が尽きるのを待って瓦解するのもありえるだろうが何せ人と武器がいるのだろう? であれば尽きたところで「飢え死にするぐらいなら」ということだ」

「この環境じゃ自給自足は無理だな。ってことは腹ペコで死ぬか戦って死ぬかの二択しかないか、気の毒に」


 俺たちはこうして温かい飲み物を口にしてるが、果たしてダムの連中はどんなものやら。

 そもそもこの辺りは本当に不毛だ。もしかしたらたまたま植物がよく育つ土壌や水脈があるかもしれないが。

 あんな場所で大所帯を賄う物資が尽きたらもはやすることは一つだろう。南へ降りて略奪する盗賊稼業の始まりだ。

 そうなったらいずれ北部部隊がぶち殺しにくるだろうが、そう熟すまで待ってやるつもりはない。


「であれば、私たちがすべきことは相手よりも温かな食事を摂って体力を豊かに保つことですわね?」


 三人で紅茶をずずっとしてるとリム様がお皿を持ってきた。

 エプロン姿が示す通りにお茶に合わせたものが乗ってる。

 きゅうりの緑色が見えるサンドイッチにカロリーバーみたいなお菓子、それからケーキみたいな何かだ。


「だからってここまでするか? 何このカロリーメイトもどき」

「かろりーめいと? それってどんな食べ物かしら?」

「ちょうどこの甘そうなブロックみたいな感じの食い物だ。クッキーかこれ」

「ショートブレッドです。ここに来る前に作り置きしたバターたっぷりの焼き菓子ですわ、紅茶に合いますの」


 この白く焼きあがった指ほどの大きさはどうにも立派なお茶菓子らしい。

 どんだけバターを使ってるんだろうか、まったりした香りが強い。


「――それはお茶菓子には欠かせないものよいっちゃん。私の国では「フィンガー」って呼んでる伝統的な焼き菓子よ」


 食べようとすると案の定、紅茶の一言に女王様が現れた。

 開いたツチグモのドアから少し肌寒そうにしていて、早足で紅茶にありつこうとしてる。

 ついでにこっちに向かって冷たい手で頬を挟んできた。冷たいぞ馬鹿野郎。


「あ~温まる……冷えた時はやっぱり紅茶といっちゃんね?」

「最近俺のことなんだと思ってんの女王様?」

「頼めばなんでもやらせてくれる私のおも」

「はよ紅茶飲めボケ」

「お帰りなさいヴィクトリアちゃん、温かいスパイスチャイとお夜食ですわよ。もちろんショートブレッドにはクルミを入れておきましたからね?」

「流石リムお姉ちゃん! こんな世界でもクルミ入りのやつ食べれるなんて幸せねほんと」


 紅茶をすすめた。夜明け前には少しカロリー過多な気がするが嗜み始めた。

 ショートブレッドとやらはだいぶイメージと違う味だ。サクサクしてて濃いバターの香りががつんとくる。

 ミコにもどうだろう。ほんのり寝息が聞こえる短剣をとんとんした。


「ミコ、起きてるか?」

『うぇあ゛っ!? もう朝……!?』

「ごめん夜食タイムだ。やっぱ寝てていいぞ」

『あ、ふぁ、ごっ、ごめんね……? 寝ちゃってた……!』


 無理に起こしてしまったみたいだ、なんだかこっちが申し訳ない。

 お詫びにスパイスの効いたチャイに差し込むと『すぱいしー……』だってさ、うまそうにしてる。


「確認するけど出撃は夜明け前、まずは私たちで山を制圧する、これが第一目標ね?」


 すると女王様はもう一つカップを手に出入口へ向かった。

 そんな質問の合間に見えたのはあの馬だ。毛布で体を包んで暖かそうに顔を覗かせてた。

 カップを近づけられるとぺろぺろ飲み始めた。穏やかな瞳で味わってる。


「そこさえ押さえれば向こうもダム側に押し留まるしかないからな。とにかく足掛かりをつくる、感づかれる前に制圧してダムを見渡す、逆にこっちが頂くわけだ」

「その後は路上のバリケードと煙幕を利用して敵に肉薄、これが第二ね?」

「ああ、んでもし予想以上に敵が多かったりとか手に負えないようだったら素直に別の手。西の山側陣取ってダムを惜しげもなく使った的当て大会開催だ」


 ダムでのストレンジャーズらしい立ち振る舞いについては考えてある。

 山を陣取れば逆にこっちがダムを見下ろせるのだ、これだけででかい。

 地の利を取ってしまえば駐車場あたりは丸見えだ。仮に難儀する数の敵がいてもそこから撃ち放題である。


「なるほど、私ふくめてちょうど三人も射撃上手な選ばれし射手がいるわけね」

「女王様はともかく俺の銃の腕は期待するな。それと道中伏兵がいるかどうかはニクの嗅覚に任せる」


 壁に張った地図を通して話してると話題のわん娘がのそのそ現れた。

 少し寝ぼけてる。ダウナーに「どうしたの」と言いたそうに首をかしげてる。


「ん……ご主人、呼んだ?」

「お前を頼りにしてるって話だ。はい夜食」


 お目覚めの干し肉を投げた。眠そうにぱくっとキャッチ、もぐもぐした。

 俺もきゅうりのサンドイッチにかぶりつく。酢とコショウが効いて爽やかだ。


「うちらは車を降りてダムの上に向かえばいいんすよね~?」


 そこへロアベアもエナジードリンク片手に駆けつけてきた。

 ニヨニヨな視線が向かうのはボードに留まる数々の写真だ。

 「これだ」とばかりに強調される一枚がある。それは南の道路からダムの全景を拡大して映したもので。


「明るくなる目に川沿いを進んで、ダムの施設の根元に沿ってここに向かってくれ」


 俺はそこを指を向けた。

 どうにか形を保つコンクリート張りの施設がダム上の道路に向けて伸びてた。

 そこを辿れば頭上の敵の死角に潜れるし、更に言えばそこからは傾斜が続いてるのだ。

 そう、デイビッド・ダム・ロードの横には砂利でできた斜面があった。

 徒歩で侵入するには十分な余地がある。ここを軽く登れば駐車場に直接攻め込むことだって可能だ。 


「敵の皆様の懐っすねえ、あひひひっ♡」

「お前らが襲撃しやすいように山からひきつけるのがこっちの仕事だ」

「何かあったらこの「ぐれねーどらんちゃー」で私が援護してやるから案ずるな」


 だからこそだ。俺たちは山を奪って攻撃する。

 注意を引いて向こうが動いてくれれば、いや無理でも動かしてやるが、敵の群れを道路まで引きずり出す。

 山さえとれば退路もなければ車が行き来できるのはダムの上だけだ。

 500ほど離れた場所から丸見えの駐車場を攻撃して、うまく敵が乱れたらもう一つのチームを送り込む余地ができる。


「我々がここを抑えれば直接乗り込むことも、横合いから挟み撃ちにもできますなあ」

「フハハ、必要であれば奴らのど真ん中で暴れてそちらに送り届けてやるぞ」

「どっちにせよ接近して待ち伏せするチームの仕事は大暴れだ。事が起きたら俺たちも降りてそっちに合流する」


 ノルベルトとロアベアとアキ、この三人がまさしくそれだ。

 車内の傍らに置かれたケースを見た。中に見えるスティレット発射器がちょうど人数分だ。

 しかし今回は一味違うのも混じってるようだ。先端の丸い弾頭を備えた榴弾があった。

 大き目の手榴弾をかっ飛ばせるようなものだ。対人効果は抜群なはず。


「スティレットは一人一本だ。対戦車と対人榴弾好きなの選べ、後者は爆発に巻き込まれないように気を付けろ」


 そしてクラフト画面を見ると【ライフルグレネード】という項目があった。

 金属、火薬、布だのを使って作れるファクトリー規格の擲弾らしい。

 ご丁重に説明もあって。


【調整済みの万能火薬を充填した5.56㎜、308口径の銃器に対応した小銃擲弾です。弾丸トラップ方式だから自爆の運命をたどる必要はないでしょう。原材料に相応しい対装甲、対人を兼ねた多目的榴弾です】


 だそうだ。工具の揃った作業台の上で制作を押した。

 するとごろっと部品が転がる。挿入口のついた安定用の翼、安全ピンのついた筒状のアダプター、先端に丸みのある弾頭だ。

 組み立ては実に簡単だった。弾本体を筒に押し込んで翼と合体させて終わり。


「お前たちが勇敢な姿を見せてやってる間にこっちは後方で待機だな?」


 他にも追加の数本、クナイやらを作ってるとクリューサが来た。

 ヌイスも紅茶を求めて現れたところだ。二人とも熱々のカップを手にするとそれぞれくつろいだ。


「流石にツチグモには直接攻撃の支援をする能力はないから安全な場所でくつろがせてもらうよ。万が一にも敵が想定以上だったりで撤退を余儀なくされた場合は多少無理してでも迎えに行くつもりだからね」


 白衣姿の言うことそのまんまだ、このRVには自衛にしてはいささか過剰な程度の二連装機銃がせいぜいだ。

 仮に突っ込ませる事態があってもダムの道路は狭いし障害物だらけ。よって後ろで安全に待機してもらう。


「後ろは名誉あるそっちに頼んだ。ニシズミの奴らに大砲かミサイルでも積んでもらうべきだったな」

「それは名案だね、ダムを半壊させるほどの火力があれば片が付いたろうに」

「お前たちは目的地を地図から消し飛ばすつもりか。グレネード弾の勝手については問題ないな?」

「毒じゃないから堂々と元気に呼吸しろ、でいいな?」

「これみよがしに平然と煙の中に向かえ。向こうに毒だと思わせなければただの煙幕と勘違いするだろう」

「了解だ先生。お薬の効果期待してるぞ」

「期待するならあいつらの薬物中毒の程度だ。日頃のストレスで依存してることを祈るんだな」


 だいたいが定まったところで弾倉に弾を込めた。

 銃剣よし、銃よし、投げ物よし、マチェーテよし、最後にミコもよし。

 お茶と夜食を平らげて少し仮眠を取った後、俺たちは静かに荒野へ出ていった。



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