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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
Journey's End(たびのおわり)
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24 追い求めていたデイビッド・ダムへ(2)

 一枚一枚に写る光景には山に囲まれた地形の中、拡大されたダムがあった。

 干上がったクロラド川が示すように、水がなくなりずっと機能を果たせぬままの施設がそこにある。

 ひどい有様だ。外壁は崩れ、鉄塔はへし折れ、大きな廃墟が取り残されてた。


 ゆるやかな坂道を見上げる形で撮られたそれは、間違いなくあの『デイビッド・ダム』だ。

 日の出の色に染まった戦前の遺物は鮮やかだと感心したいが、今回は一歩間違えて厄介な場所に早変わりしてるらしい。

 砲塔を積んだ装甲戦闘車が見下ろすように陣取り、小さな発電所の上に人の輪郭さえあった。

 撮影者の位置的にこぞって南側を見張ってるか。いい陣地をお持ちのようで。


「やっぱり傭兵ってどこもこうなのねえ。仕事無くなるとすーぐ賊になるもの」


 折り畳みのテーブルの上、広げられた情報に女王様が迷惑そうな感想だ。

 傭兵崩れどもはこの人の経験がそういうように今やすっかり仕事を失い、籠城するにふさわしい場所までこぎつけたらしい。


「じゃあなんだ、こいつらはブルヘッドから夜逃げして盗賊デビューしたばっかりか。それも人様のゴール地点で」

『ダムの後ろに続いてる道路の上、車みたいな形が映り込んでる気がするよ……? これ、もしかして占拠してる人たちのかな?』

「この場合は敵が持ち込んだものだと思うべきだな。地形的にこっちを見降ろせるんだ、お邪魔したら高所から撃ちまくれるし撃たれても怖くないからな」


 仮にブルヘッドを抜けた後ろめたい傭兵どもが、その道筋はどうであれどうにかここまでたどり着いたとしよう。


 そうなると連中は実に嫌な場所にいることとなるわけだ。

 ゆるい坂道を上る先――左に立つ小高い山と、右に構えるダムの外観がある。

 訪れる者にとってはそりゃ不都合だ。どちらもこちらを見下ろせて、広い視界のもと一方的に攻撃できる。


「むーん、間違いなく敵の車両が配置されているだろうな。何故ならこの地形を見るのだミコ、唯一の道が山とダムに挟まれているのだぞ?」

『……うん。監視もしやすいし、奇襲をかけるならうってつけだよね』

「向こうは高いところでどんと構えてればいいお気軽な環境か。いやらしい場所にいらっしゃるご様子で」


 ノルベルトともう一度写真を確かめたが、間違いなく施設の残骸の上にいる。

 ダムそのものはだいぶ崩壊してる。ぱっと見て内部の構造にお住まいになれそうな様子じゃない。

 川沿いの地形にある倉庫や休憩所も気になるところだが斜面の下だ。敵の待ち伏せには使えない。


「だがなイチ、私だったら山を絶対利用するぞ。ダム本体とここを抑えるだけで南の様子を抑えることができるんだからな」


 ダムの様子をどうにか探るも、クラウディアがぴっと一枚の写真を滑らせた。

 北西に向けて撮られたそれには乾いた色の山があった。

 とても困ったことに『その気になれば武器を持って登れる』ぐらいのものだ。

 仮にそこを誰かが押さえてしまえば、ダム側の戦力(仮)と共に南側を広く見渡す足掛かりになるだろう。


「残念なことにクラウディアの言う通りのことが起きてるだろうな、これ」

「む、何か見つけたのかイチ」

「山のてっぺんの少し下あたりだ。地形に埋まるように陣地が作られてる」


 ところが『感覚』が働いた。この写真はわずかに妙だった。

 山の膨らみの間、それはちょうど「覗き見るには都合がいい」ぐらいの場所に違う色彩が横へ伸びていた。

 本当にわずか、だが。拡大された風景には人間を匿うだけの陣地あたりがあるはずだ。


「このあたりか?」

「ああ、見上げてみると分かりづらそうな場所にある。おあつらえ向きだと思わないか?」

「なるほど。私だったらぜったいこのあたりに配置して狙撃なりさせるぞ」

「狙撃する奴がいるぐらいならともかくだ、傭兵崩れってことはそれ以上持ってたと思った方がいい。重機関銃とかロケットランチャーとかまで持ち出して、そいつが頭上に落ちてきたら人生最悪の瞬間だ」


 つまりいる、これは確定と見ていい。

 それに先日ファクトリーを襲った傭兵崩れどもの装備からしてそれなりの武器はあるだろう。

 読めてきたぞ。こいつらは山とダムからの挟み撃ちで成り立ってる。


「これを見てくれたまえ、戦前のデイビッド・ダムのパンフレットなんだけど」


 写真を手掛かりに考えてるとヌイスが何かを挟んできた。

 古ぼけたパンフレットだ。どうにか読み取れる文面はともかく、ダムの軽い見取り図がある。

 本体と発電施設の規模はそれなりだ。でもあの破壊された有様からして内側もぐちゃぐちゃに違いない。

 だからこそだった。ダムの道の途中にある大きな駐車場が目立つ。


「戦前の奴だな。質素な内容なことで」

「ハーバー・ダムと比べてローカルな場所だったんだろうね。いやでも良かったんじゃないかな、このパンフレットが複雑になるほどの規模だったらさぞ大きな要塞が出来上がってたと思うよ」

「今だけでも十分厄介に感じてるところだ。山に敵が潜んでやがるからな」

「山が厄介なのは分かったけども、上にある駐車場は向こうにとって便利だろうね。広いスペースがあるんだから群れてなれ合うにはうってつけだ」

「それが場所的に写真におさまってる見張り的な奴らの位置と重なってやがるぞ」

「そうなるとダムの奥も敵だらけだろうね。本気で占拠してる証拠さ」


 そこの面積と位置的に、さっき見た写真にあった陣取る車と人間の姿が当てはまる。

 ダムの奥と山の上、この二つで向かって来る奴らを挟むように監視してぶち殺す――それがあいつらの身の振る舞い方ってわけか。


「傭兵くずれどもはその生業相応に頭は回ったみたいだな。ここで一旗あげるつもりか」


 手持ちの情報に大体触れると、クリューサが写真を見て呆れた。

 拡大機能を限界まで使った一枚だ。ダム上の車道近くにあからさまな人間が映ってた。

 顔までは分からないが武器も服も傭兵の生業だ、人の形が呑気にあくびを決めてる。

 更に言えばだが、道の上には手製のバリケードがぽつぽつと道を塞いでいるようだ。


「こんな物騒なお引越ししてるんだし、それにファクトリーにお邪魔してきた連中のことも考えると盗賊稼業にデビューしたところじゃないか?」

「昨日見かけた奴らとはまた別件だろうな」

「どうしてそう分かるんだ?」

「もしあいつらがつるんでいたら北と南で挟み撃ちだ、そうやって確実にここを手に入れてるだろう」

「距離的にダムから兵力送るにも十分だしな。そう考えると違う元傭兵どもか」

「ストレンジャーのせいで職を失った者同士傷をなめ合う余裕もないようだな、気の毒な話だ」


 地図を開いて写真をばら撒きあれこれ考えてると。


「よお、ストレンジャーズ。計画立案は捗ってるかい?」


 あのセキュリティの男がやってきた。

 暇そうにしてる。俺たちがどんな話をしてるのか興味があるみたいだ。


「敵が地形を生かして実に嫌な待ち方してるのが分かったところだ」

「高所にあるダムと山だからな、攻め込みたくない地形なのは間違いないさ。写真は役に立ったか?」

「おかげで山に敵が構えてるのを発見したぞ」

「おいおい、マジであいつらやる気に満ちてらっしゃったか」

「撮影したやつはラッキーだな、バレたら銃撃されててもおかしくなったぞ」


 これだ、と山の写真と敵がいそうな場所を指すと男はびっくりしてた。

 では現状どうするかって話だが。


「……おい、一つ聞きたいんだが」


 クリューサが質問を設けた。あくびをする傭兵崩れの一枚を持ちながらだが。


「どうしたお医者さん? 問診か?」

「そんなところだ。この写真に写ってる男の様子はどうだった? 何か気分が悪そうだったり挙動がおかしいといった様子はなかったか?」

「いや、どうだったって……」


 いきなりそいつの体調を尋ねられてセキュリティの男は少し困った。

 ところがその後に何か引っかかりを思い出したらしい。悩みながらの様子のまま。


「……いや、あったな。双眼鏡で見てたからよく分かったんだが、神経質な様子だったぞ」

「神経質か。詳しく話してくれないか?」

「そいつはダムの上あたりから南を見張ってたんだが、なんていうか気が張っててな。銃をきつく握りしめてずっときょろきょろだ、かと思えば苛立った様子で歩き回ったりと少し妙だったな」


 慎重な息遣いを込めて答えてくれた。

 そして「ああ、それと」と付け足して。


「こんなの持ってたぞ。何かの注射器なんだが」


 作業着調の戦闘服から何かを取り出して見せた――ペン型の注射器だ。

 クリューサにとっては十分な収穫だったんだと思う。納得した頷きを返して。


「となると戦闘用ドラッグのせいだな、そうか」


 そう一言答えを導きだした。

 しかし何が「そうか」なんだろう。口角が何か悪だくみに近い感じに上がってる。


「あー、お医者様? 戦闘用ドラッグだって?」

「今お前が言った症状はこの『ピンポイント』という薬によるものだ。疲労を取って警戒心を高める効果があるが、そいつの使い過ぎで交戦的になってるようだ」

「よくご存じで先生。じゃあなんだ、あいつらは薬漬けなのか?」

「ついでに言おう、そいつには依存性があってな。ウェイストランドじゃ安価に手に入るからすがるやつも少なくはないぞ、知らないのか?」

「悪いな、うちはクスリだけはNGなんだ。マダムがうるさいもんでね」

「つまらないやつらめ。まあつまりなんだ――」


 そこまでいうとクリューサはそのままの様子でこっちを見てきた。

 不健康そうな顔だがまるで「案がある」とばかりの様子だ。


「こいつは使えるだろうな、イチ」

「あいつらの不健康さが便利だって言いたさそうだな?」

「まさにその通りだ。実はブルヘッドで少し面白いものを作ってな」

「そうか、じゃあもったいぶらずに言ってくれ」


 どうもその通りらしく、じゃあなんだと尋ねるとあいつは動いた。

 ツチグモの中へ行った。かと思えば少しして何かを抱えて戻ってくる。


「あの時の変異したカニは覚えてるか?」

「追われたからよく覚えてる」

「そいつの酵素を使って毒を作った」


 そうやってどん、とテーブルに置かれたのは小ぶりなケースだ。

 どこにしまってたのやら、本人が毒と称する小瓶が十個ほど二列を作ってる。


「今なんつったお前、毒だって?」

『ど、毒……!?』

「おいおい君、ツチグモの中にそんなものしまってたのかい?」


 さすがのヌイスもそんな危険物があったなんて思ってなかったらしい。

 しかしお医者様は平然としたまま細長いガラスを持ち上げて。


「心配はしなくていい、こいつは『リムーバー』という皮肉な毒だ」


 その中身をみんなに見せびらかした――深い青色だ。

 濃い絵の具みたいなさらさらした液体が中で踊っている。

 それが皮肉のある毒なんてどういうことだろうか。


「オーケー、俺たちの安心のためにどんな効能なのか医学的に説明してくれ」

「薬の応用だ。このリムーバーは特定の薬物の効果がある人間にだけ作用する毒だ」

「どういうこと?」

「どうせお前に薬のあれこれを話しても無駄だから簡単に言おう。フォーカスを始めとする戦闘用ドラッグの効果が回っている身体にひどい刺激を与えるものだ、薬の効果が強いほど与える苦痛は増していくぞ」


 またなんとも恐ろしい薬、いや毒だった。

 おクスリきめた人間を苦しめるだけのものらしい。その威力はクリューサのほのかな笑みが証明してる。


「そんな恐ろしいものをこそこそ作ってたのかお前」

「ヴァルハラ地下のラボのおかげで楽しく研究しただけだ」

「で、症状は?」

「程度がひどいと呼吸困難と筋肉の痙攣、優しくて頭痛と悪寒と手足の震えといったところか。一応聞いておくが、この中にドラッグに依存症を患ってるやつはいるか?」


 お医者さんらしいイビルスマイルが始まった。そうだったこういうやつだった。

 幸いにもストレンジャーズにはカフェイン中毒者ぐらいしかいない。この毒に当てはまる人種はいないのが幸いだ。


「――ふっ、いっちゃんの身体にすっかり依存してるわ」


 いや変なのがいた。ドヤ顔の女王様だ。

 クリューサは一際強くしかめっ面になった。


「良かったな先生、一名患者がいるぞ。毒効くかあれ?」

「残念だが脳と心は俺の担当外だ。このド変態ども」

「それで? その毒でどうするつもりだ? まさか忍び入って飯に混ぜるとか言わないよな?」


 紅茶ジャンキーはともかく、問題なのはそんな毒で何をなすかだ。

 十本ほどのそれでダムにいらっしゃる傭兵どもをどうにかできると思うか?

 しかしそんな心配はご無用、クリューサは足元を探って。


「簡単なことだ、少し加工してこいつに詰め込む」


 さっき渡された『試供品』を持ってきた。

 ケースの中にあったグレネードランチャーだ。

 それに伴う40㎜弾が薬の行く先らしい――そういうことか。


「なるほどー、そういえばガス弾ってあるらしいっすね。弾の中に催涙ガスとか詰め込むやつとか~」


 ロアベアも悪知恵が働いたそうだ。そう、おクスリをグレネード弾にぶち込むのだ。


「正解だ馬鹿メイド。お前の言う通り、こいつにその原理で『リムーバー』を入れるとなればいい武器になると思わないか?」

「よっしゃ~」


 そういうことかと思ってしまった。

 条件がそろってるのだ。敵はまさにジャンキー、そしてここはファクトリーだ。

 グレネード弾を作るぐらい造作もないはずだ――そうとばかりにセキュリティの男は納得していて。


「……いや、あんたも恐ろしいね先生。頭が回るお方は是非うちに欲しいぐらいだよ」

「あいにく薬物を嗜めない場所はごめんだ。こいつを使ってガス弾を作れないか? 煙幕効果もあるやつだ」

「喜んでつくるよ。心配すんな、失敗して毒が蔓延したって苦しむ人種はいないさ」

「そうか。リーダー、お前の判断は?」

「採用しかないだろうな。頼む」


 毒攻めを採用だ。クリューサにケースを手渡させた。

 事情を了解した男は急いで倉庫に向かったようだ。


「さて、問題はどう敵に接近するかね。まさか遠くから延々と撃ち合う訳にもいかないでしょ?」


 話は変わった。女王様がテーブルに地図をまた広げる。

 次は山とダムという守りをどうやって攻めるかだ。


「一応言っておくけど、ツチグモで突貫なんて案はお断りだからね? これはあくまで万能なRVであって戦車じゃないんだからね」


 そこにヌイスがツチグモを示してきた。俺だって無茶させて壊したくない気持ちは一緒だ。


「むしろ今回だと尚のこといい的だろうな。前線に出すべきじゃないのは間違いないぞ」


 クラウディアも理解してるみたいで安心した。その通りなのだ。

 こいつで突っ込んだとして武器は二連機銃とデカい図体だけ。中身の顔ぶれはともかく状況的にも相性が悪すぎる。

 仮にそうしたとしても一本道だ。ツチグモが通れる道はあれど、道中の連中は死に物狂いで火力を浴びせてくるだろう。


「……じゃあこうだな」


 少し地図を見て思いついた。

 ダムまで向かう道のりの途中にあるパーキングエリアだ。

 道路のカーブの手前にあるそこは周囲の起伏でちょうどダムから隠れてる。


「ここまでツチグモで移動、次に降車して山へ向かう」


 そして徒歩で荒野を歩く。しかし幸いにも険しい地形なのだ。


「もちろん行く理由は登山エンジョイじゃないぞ、山籠もりしてるやつらの排除だ。ここ押さえとけばとりあえずこっちから向こうの様子を監視できる場所になる」


 少し遠回りしつつ問題の山に近づいて陣地に忍び寄る。

 まずはその監視所を制圧する。これで敵の拠点を一つ潰して、なおかつ向こうより高所を取れるわけだ。


「なら私の出番だな。これくらいの山なら楽勝だぞ」

「ん、ぼくも慣れてる」

「奇襲なら私も得意よ。私に任せなさいな」

「少人数でケリをつけるぞ。今名乗ったやつと俺の四人で行く」


 この点はクラウディアとニクと女王様あたりが適役だろう。ついでに俺もだ。

 ロアベアやノルベルトがいれば頼もしいが隠密性のためだ。次の行動に控えてもらう。


「まずは手につけられる戦力を削っておく、常套手段ですなあ」


 その次をどうしようかと考えてると――どこからかアキがきた。

 腕に青色の混じった瓶を抱えていた。マナポーションだ。


「問題はその次なんだよな。山を制圧した後どうするかって話で」

「山を制圧後、ある程度攻撃を加えたら降車した方々でダムまで押し入るぐらいでしょうな。ちなみにですがファクトリーからは人員の支援はできないそうですぞ、近辺の南の廃墟への警戒や防御の再編成がありますからな」

「もとはと言えば俺が原因でこうなったようなもんだ、はなから期待してない」

「まあ確かにそうなんですなあ、これが。我々が追いやったようなものですし?」


 だったらファクトリーの連中の力を借りて頭数揃えてしまうという選択もあるが、そうもいかない。

 けっきょくこの件は俺が暴れて引き起こしたことだ。それにここにはここなりにやることもある。

 だったら俺たちのみでやるだけだ。ブルヘッドの因縁はこの世に残すつもりはない。


「南の傭兵崩れのやつらを片付けたこともいずれ向こうに伝わるぞ、イチ。そうなったら奴らも更に警戒を強めるはずだ」


 クラウディアの言うこともあてはまってた。悠長にしてたら写真以上に堅牢な要塞でも生まれるに違いない。

 向こうがこの地域の異変に気付いて一層警戒を強める前にやらなければ、今考えてる計画全てを覆すシチュエーションと相まみえることになる。


「……よし、どうであれこうだ。山の陣地を奪う、そこからダム側まで攻め込む。バリケードやら置いて身を隠せる場所ができてるからな、逆に流れ込むには十分だ」


 地図を見て思いついた。あいつらが作った遮蔽物は便利だ。

 車止めも兼ねた頑丈なものなんだろう。おかげで数百メートルほどの道路を「撃って下さい」と丸裸で進む必要がなくなる。


「40㎜クラスのガス弾なら十分な煙幕効果も見込めるだろうな。敵の射線を潰すことも想定済みだ」

「道の幅からして十分だな、問題はグレネードランチャーは誰が使うかって話だ」

「私がやるぞ。そういうのも得意だからな」

「じゃあクラウディア、お前に任せるぞ」


 クリューサのアイデアもここで生きる。俺たちは煙幕を張りながら進める。

 その仕事はクラウディアに任せよう。こいつの射撃センスなら誰かの背中に撃つことはないはず。

 駐車場エリアまでたどり着けばこっちのもんだ。乱戦に持ち込んで壊滅する。


「ついでに私の風の魔法やらもお忘れずに。機関砲程度なら防げますぞ」

「分かった、頼りにしてるよ」


 今なら眼鏡エルフの魔法もある、俺たちが突進するには条件が良く揃ってるみたいだ。


「あのさあ、君たち正気かい? この人数で敵の防御に突っ込むんだよ? 戦いの法則とか分かってるか私は不安だよ」


 みんなで和気あいあいとぶち殺しプランを立ててると、ヌイスが不安とドン引き混じりの顔で俺たちを見てた。

 たぶん俺たちはその言葉で今までの旅路を思い出したはずだ。

 ……よく考えたが自分より大きな戦力にぶつかってぶち抜いてきた思い出しかない。


「ストレンジャーズだったらいつものことだぞ」

『ヌイスさん、めちゃくちゃかもしれませんけど慣れてください……もうこれが普通なので』

「大丈夫、ご主人強いから」

「フハハ、前はもっと多勢を相手にしてきたのだぞ? それと変わらん」

「いやあ、だいたいどうにかなるんでうちら……あひひひっ♡」

「こいつらと同類にされるのは屈辱的だが心配することはないぞ。どうせお前が見るのは死体の山だ、敵のな」

「私たちはどう敵の防御を崩すか良く知ってるからな、よく動いて良く殺すだけだぞ」

「だいたい向こうはこんなトコで切羽詰まってより固まってるのよ? 追い詰めて一網打尽にするチャンスじゃない」

「フランメリア人を前にすると窮鼠猫を嚙むとならないのですなあ、これが。ははは」


 出てきた総意は「まあどうにかする」だ。

 俺は知っている。

 この世で一番恐ろしいものは緻密に考えた計画からくる壮大な攻め方よりも、何を考えてるか分からないやつの適当な奇襲だ。



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