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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
Journey's End(たびのおわり)
378/580

16 ファクトリー(6)

「……こいつのことか?」


 一つ目の大男のお望み通りだ。背中の得物を抜いてみせた。

 すると濁った目は「まさにそうだ」ばかりに凝視して。


「長く生きてきた鋼だな。人の世が生んだものにしては粘り強いものだ」


 落ち着かせた腰を持ち上げた――デカい。

 部屋の天井まで届きそうな背だった。そんなサイズがどん、どん、と鈍い足取りで近づいてきて。


「ふん、この磨き具合はドワーフの坊主に見てもらったか。あいつらもまだまだ未熟だな」


 人間の拳を握りつぶせそうな規格外の手のひらが持っていってしまった。

 しかし動きは繊細だ。一つ目が銃口から裏側まで余すことなく見ている。

 こいつは何者なんだろう。少し間違えれば洞窟に籠って人間をさらって食うような化け物にも見えなくないのだが。


「……びっくりしたか? この人は『オヤカタ』っていうんだ。背もでかいし目も一つしかないけど、ミュータントなんかじゃないからな?」


 付き添う職人の男はそんな姿を喜ばしそうに見てる。

 確かに巨体といい単眼といい人間の感覚が拒みそうな要素ばかりだが、皮肉なことに経験が生きた。

 タカアキ、お前が人の家に飾った単眼フィギュアのおかげだよ。


「ああ、心配するな。一つ目は日常生活で見慣れてたからな」

「はっ、オヤカタを見て驚かないなんて流石ストレンジャーだな」

「それで? そのオヤカタさんが俺に何の用なんだ? アバタールって単語を知ってるあたり赤の他人じゃ済まないタイプの人種らしいけど」


 俺は手にした散弾銃を覗きまわる一つ目に尋ねた。

 向こうは器用に銃身をかちりと折って中を検めると。


「手を見せろ」

「手相でも見てくれるのか? ありがとう」


 人の質問を無視して今度は『お手を拝借』だ。

 こういうタイプはあれこれ聞くより黙ってやらせた方がいい。アラクネのグローブを外して見せつけた。

 デカい手が手首をすくうように持っていく。単眼がじろじろと濃い視線を這わせてくすぐったい。


「……失礼。あなたはアメノ様ではございませんか?」


 人様の手を確かめられる最中、アキがそっと割り込んでくる。

 しかし無視だ。肯定とも否定とも分からない息遣いだけが聞こえた。


「ああ、これは失礼。私はフランメリアに仕えるアキと申します、あなたのような生ける国宝にお会いできるとは思いもしませんでした。この様子からしてそちらもこの世に誘われて……」

「もし俺がそのアメノだとしたらどうするつもりだ、フランメリアの役人風情」

「どうしようもないのですなあ、これが。しかし確認させていただきたいのですが、あなたはそのご本人であって、またこの世界に迷い込んでしまった身であることは間違いありませんかな?」

「ならお前の言う通りの人物で、そいつが見知らぬ異国の地に死ぬまで根付くとだけ国のお偉いがたに伝えてやれ」


 眼鏡エルフの質問もぶっきらぼうに返されるだけだ。

 しかし本人には十分な成果があったんだろう。納得したようにメモを取ってる。


「大体の事情は分かった。坊、お前はアバタールに限りなく近い誰かだな」


 そしてお手元の方も済んだらしい。一つ目の巨人が見てきた。

 まっすぐとした目つきだ。どこまでも見抜かれそうな不思議な力を感じる。


「まあ半分アバタールってところだ。もしかしてあいつに世話になったタイプの人種か?」

「あんな坊に面倒見てもらうほどのおいぼれに見えるか?」

「いや、ご立派なお爺ちゃんに見えるところだ。ついでにご老人には親切にするのが俺のポリシー」

「そうか、ならそういうことだ。フランメリアに招待してくれたことは感謝している」


 アバタール、ひいては未来の自分のことを知ってる一人なんだろうか。

 しかし何も聞きだせなかった。人の散弾銃を片手にじっと見てくるだけで。


「……あいつめ、このおいぼれを残して先に逝ったか。不義理なやつめ」


 いったい俺のことをどこまで分かってるんだろうか?

 視線を落としてぼそっとそう言っていた。何かしらの縁があったのは確かだ。


「死ぬのを惜しむぐらいの仲だったらしいな」

「ふん。そいつが同じ顔して現れるのに驚く程度だ」

「ちょっと今、色々複雑でな。俺たちに何が起きてるか説明した方がいいか?」


 少し気を許してくれたみたいだ、一つ目の『オヤカタ』は俺たちを一人一人確かめてる。

 でもそれだけで何か掴んだんだろう。ゆっくり大きな瞬きをして。


「結構だ。俺は余生をここで過ごす、それ以外の情報はいらんし話すつもりもない」


 散弾銃をつまむように持ったまま、さっきの場所に腰を落ち着かせた。

 まるで全て分かっているとばかりの態度だ。その上でウェイストランドに永住の表明までされた。


「……だってさ、どうするアキ」

「仕事一筋な職人気質を具現化したような御方ですなぁ、いやはや素晴らしい……」

「関心してる場合かよ」

「ご本人の意思を尊重してあげましょう、それにぶっちゃけフランメリアでも何十年と行方不明になっておりましたからな」

「で、見つかった先が世紀末世界か。なんてオチだ」


 アキが言うには梃子でも動かぬ構えらしい。

 フランメリアに帰るつもりもなければ世間話もするつもりもないし、現状に満足してしまってるのだ。


「坊、ちょっとこっちこい」


 ところが、今度はそういって一つ目の大男がハンマーを手に取った。

 そいつの手のせいでえらく小さく見える獲物が、重みのある部分で45-70弾の重心をなぞってる。


「おい、何するつもりだあんた?」

「お前の大切なものを壊すと思うか? 良く耳を澄ませろ」

「いや、澄ませろって……」


 いかにも「叩きます」って構えだ。おい何しやがる。

 でも俺の言葉なんて無視して、その得物を慎重な手つきで振った。

 銃口あたりからこん、といい音がした。それだけだ。


「どうだ?」


 そして「どうだ」といわれても困る。


「銃身がぶっ叩かれたいい音がしたよ」

「そうか。そのまま良く聴け」


 一つ目はまたハンマーを持ち上げた。

 こん、こん、こん、と根元に向かって45-70用の銃身を叩いて追っていく。

 一定のリズムでそんなものを聞かされても「それがどうした」なのだが。


 ――こぃん。


 次に耳に伝わったのはずいぶん濁った音だ。

 明らかに一際鈍い感じがした。不愉快さすら感じるほどだ。


「……今の音はなんだ?」

『今までと違う音がしたね……』


 更に追っていく。根元に近づけば近づくほど、不純物を感じる鳴りが続く。

 最終的には「こぎんっ」とフォローしようのない異音がして。


「根元のあたりからだ。目には見えない傷が走ってる」


 傷。そんな不穏なことを口にしつつ銃身を覗いた。

 45-70の出口越しにこっちを見ると。


「えらく年を食った鉄だな。人の一生を二度も経たようなしぶとさだが、よくここまでもったものだ」


 弾丸の通り道越しに大きな目が関心していた。

 その言い方はあんまり喜べない類なのは言うまでもない。まるで「お別れ」を感じさせるんだぞ?


「急な加熱と冷却を繰り返してもなおこれか。これほどの鉄はフランメリアでも見かけられない稀有なものだろう、だが……」


 誰に言い聞かせてるのか、一つ目の男はまっすぐ褒めてた。

 ずっと旅をしてきた散弾銃に向けてるようにも感じるし、その持ち主たる誰かさんに伝えてるような気もする。

 しかしだ、そんな大層立派なものに終わりが近づいてる、みたいな言い方なのだ。


「まるで今生の別れでも覚悟しろ、みたい言い方だな。そのでっかい目に何が見えてるんだ?」


 よく見てくれるのは嬉しいが、だからなんだと尋ねた。


「坊、お前はよい縁に恵まれてるな。こんなものをお前に差し出した人間、そしてこれほど使い手思いの道具に巡り合えたのは果たして偶然か」

「……何が言いたいんだ?」

「この鉄は役目を全うしようとしてる。後一発でも『たま』を放てば、こいつがお前の手を吹き飛ばしていただろうな。『かやく』の力の行く道が乱れてる」


 その答えはとんでもないものだ。

 あの三連散弾銃がとうとうぶっ壊れようとしてる、だって?

 いきなりそう伝えられてひどく動揺したのは言うまでもない。

 さっき耳にした変な音のことも考えればなおさらだ。こいつに何があったんだ?


「……なるほど、オヤカタがいうには銃身にガタがきてるってことらしいな」


 人様の散弾銃は隣の職人の男に「見ろ」と回されたようだ。

 受け取るなりまた銃口やらを覗いて、指で叩いて調子を見てる。


「こいつの銃身がもう限界だっていうのか?」

「ああ、おそらくはな。それだけ撃ったか、荒っぽい使い方をした覚えはあるか?」

「そりゃいっぱい撃ってきたさ。多少敵をぶん殴るぐらいもした」

「まあそりゃあんたのことだからするだろうが、それにしたってな……散弾銃の銃身が駄目になるぐらい撃ちまくるなんてこの世でもありえないことだ」


 次の疑問はこうだ、その原因はなんだ?

 この旅で散弾をいろいろな敵の身体にぶちまけてきたが、別に何千発とまで振舞ったわけじゃない。

 前の所有者――アルゴ神父が撃ちまくったからか? そんな考えにすら及ぶところに。


「……そうか、万能火薬だな」


 職人は何か気づいたらしい。折った銃身の中身に釘付けだ。

 万能火薬。この世界で使われてる「食べれる」火薬のことだ。

 加工すれば爆薬にも雷管にも使えるその名通りものだが、それがどうしたんだろう。


「万能火薬がどうしたって?」

「45-70弾ってのはな、元々黒色火薬っつー古い火薬を使ってたんだ。分かるか? 黒色火薬」

「ああ、作り方も知ってるぐらいだぞ」

「じゃあ説明はいらないな。だがそいつは万能火薬だ、黒色火薬とは全然出力が違う」

「どういうことだ」

「その三連散弾銃の銃身は12ゲージ弾ならともかく、45-70弾にロードした万能火薬の圧力に向いちゃいないんだ。言ってみれば使うたびにそいつの強度の許容範囲を超えた強装弾をぶっ放してるようなもんだ」

「おいおい、そんなの初耳だぞ」

「なんせこいつは戦前、それも150年どころの騒ぎじゃないぐらいの昔の骨とう品だろ? 万能火薬のパワーなんて想定してなくて当たり前だ。それに鞭打って強烈な弾薬をぶっ放してたんだから、撃つたびに寿命がごっそり減ってたと思ってもいいだろうな」


 男の説明は良く分かったし納得がいった、要するに45-70弾が規格外だったわけだ。

 銃身が受け入れられる圧力には限度があるって話をプレッパーズで教わった。

 火薬マシマシの強装弾というものがある。そんなものを撃てば弾はそれだけ早くすっ飛ぶが、その火薬量は銃身に負担をかけるのだ。


「……じゃあ俺はメーカー保証外の使い方をずっと繰り返してたってか?」


 そして三連散弾銃のライフル銃身は黒色火薬で発射する古臭い銃弾を使うことを想定してた。

 それを出力量の違う火薬をロードしたものを撃ちまくってたのだ。

 この男の言うようにずっと負荷がかかっていたはずだ。どうして気づかなかった。


「二百年以上経ってるからとっくに切れてるだろうが、そもそもこいつ自体が異質なのも起因してると思うぞ」

「そりゃ散弾二つに45-70をぶっぱなすのは中々ない話だろうな」

「本来だったら元々の品にちなんで狩猟用のマグナム弾を撃つための銃身だったんだろうが、こいつにあるのはとってつけたような45-70の銃身だ。俺から言わせてもらえば無理やり作ったような構造だな」

「俺がお構いなしにぶっ放したのは分かった。じゃあ次の質問だ、これが不発に関わってくるのか?」


 形見の持つ意外な事実はともかくだ、じゃあどうしてあの時不発したんだ?

 銃身の不具合だけなら弾は撃てるはずだ。一つ目の『オヤカタ』の言葉を拝借すれば「手が吹き飛ぶ」かもしれなかったようだが。


「でもな、銃身がそうなったからって弾が撃てないなんてありえないんだよな」

「まあそうだろうな、撃針とかは大丈夫なんだろ?」

「だったら撃てるはずなんだ。まあマジで暴発してあんたの手を吹き飛ばしたかもしれないけどな、フルロードしてる時なんて散弾二つもおまけについてくる」

「顔ごと吹っ飛ぶ危険性があったってか」

「つまりあんたはいつ爆発するか分からない爆弾抱えてたわけだな」

「またか、一体何個抱えりゃいいんだ俺は」

「他にもあるみたいな言い方だな」


 対して俺の気持ちは「一つ目に銃の何が分かる」がでかけてるが。

 しかし一つ目の巨人は何も言わない。じっとこっちを見るだけで。


『……もしかして、おじいちゃんが守ってくれたのかな』


 そんなところに挟まったミコの言葉は不思議としっくりきた。

 トリガを引いて自殺せずに済んだのは、誰かさんが指でも挟んで食い止めてくれたからなんだろうか。


「そいつは死のうとしてる。お前を良く守ってくれた良い鉄だ」


 返ってきた散弾銃を眺めてると、オヤカタの言葉が届いた。

 穏やかさのある調子だ。細めた目がどれだけこの銃がいいものか分かってくれてるような気がする。


「ストレンジャー。あんたにはうさん臭く感じるかもしれないが、オヤカタの言うことは確かだよ。そいつはもうぶっ壊れる寸前だ」

「いや、信じるよ。フランメリアの奴らはいつも通り信じるさ」


 職人の男が言うように、その物言いは嘘じゃないんだろう。

 じゃあ信じてやるよ。でもだからといって、アルゴ神父の形見と別れるなんてごめんだ。


「だったらこいつを治せないか? 問題があるのは銃身だけなんだろ?」


 いつもの重さを掲げて見せるも、一つ目の顔はぶんぶんと横に振られた。


「無理だ」

「あんたでもか?」

「そいつはいい鉄だ、治しは効かん。そこらのありきたりと違ってごまかしは通らないぞ」


 こいつが本当に伝説の鍛冶職人だとして、そんな奴ですらどうにもできないほどなんだろうか。

 返ってきた言葉に頭をひどくぶっ叩かれた気分だ。治しようがないって?


「俺なら違う鉄でそれと同じものを作れるが、それはもうお前の形見じゃないだろう。そいつはその『じゅうしん』あってこそだ」


 続く言葉もひどいものだ。言われてみればその通りだ。

 旅の道中で改良やらを加えられて、そんな姿で変わらぬままあるのは銃身ぐらいだ。

 これを取っ払って別のものに置き換えたらどうなる?

 答えはは戦前の銃の部品を寄せ集めただけの何かが残る。形見が消えてしまう。


『……じゃあ、銃身を溶かしてもう一度作り直すのはどうでしょう?』


 ミコも苦しそうに案を出してくれたが。


「ファクトリーなら作れるだろうが、そりゃちゃんとした時間をかけて作った図面あってこそだ。簡単なモドキなら作れるだろうが……」


 職人の男が難しそうに銃身を見てきた。


「結果は同じだろうさ。それに元通りの姿にしたとしてもそいつがまた45-70弾に耐えてくれるか分からないだろ?」


 しかしだ、行きつく話はその顔つき通りだ。

 ここの技術力なら無理矢理蘇らせられるだろうが、根本的な処置にはならない。


「たかだか銃身ぐらいで、とかは言わない方がいいよな」

「気持ちは分かるがストレンジャー、そういう話なんだ。いっそ別の鉄と混ぜてしまうってのもありだが、溶かしたところで実戦に耐えうる銃身の図面がない。今からあんたの大事な三連散弾銃の図面を書けって言われても、そいつができるのは多大なチップと時間を費やしてからこそだ」

「図面なしでできないか?」

「そりゃ俺たちのノウハウがあればそれらしいものは作れるだろうさ。まともにテストもできない粗削りなものができろだろうが、でもな」


 我ながらひどく見苦しいゴネ方をしてる気がする。

 それでも職人の男はまっすぐこっちを向いて良く話してくれて。


「俺たちはそういう仕事はしない主義なんだ。上客さんの命を預かる品を作る以上、妥協だらけの中途半端な仕事をしろだなんてごめんだね、そいつが原因であんたに死なれたら不名誉だ」


 自分の言い分が間違ってたことに気づいた。こいつらはそういう人種だ。

 無理してこの銃をどうにか持ち直してくれるだろうが、ここは『ファクトリー』だ。

 仕事に対する責任感はいらないから作れ、だなんて一瞬考えてしまった自分が恥ずかしい。


「……悪かった、あんたらにも仕事があったよな」

「そりゃこっちのセリフだよ。こんな男がそれだけ悔やむほどの形見なんだろうな」


 もう一度、あの人の形見を見た。

 どう見たって俺にはおかしな点は感じられない。いつもと変わらぬ姿なのだ。

 これが下手すれば自分をぶち抜いてたなんて信じられない話だ。


「……ご主人」


 じっと見ているとニクがすり寄ってきた。撫でてやった。


「なあ、一緒に行くって約束しただろ? いきなりすぎるだろ、アルゴ神父」


 声もかけたが返事なんてするはずもない。

 でも、そうだな、きっと暴発一発分を守る程度にあの人は見守っててくれたはずだ。


『……お別れ、しなくちゃいけないのかな』


 肩から悲し気な声すら聞こえてきた。俺たちはずっと一緒だったんだ、悲しいに決まってる。


「ふむ……であれば、これを材料に『銃身』以外は作れるのですね?」


 三人でお別れの言葉を紡ぎかけてると、いきなりアキがそう挟まってきた。

 ひどいムードなのにずいぶん明るい様子だ。まあそんなご機嫌はさておいて。


「そいつは長生きしたいい鉄だ、『じゅう』などに使うのがもったいないほどのな。しかるべき加工をすればよりよい姿に生まれ変わるはずだ」

「問題は溶かしても図面なしで一から、それも戦前の不安定な試作品の銃身を再現するのが限りなく難しいだけってところで……」


 そんな提案に一つ目は素材の良さを褒めるし、職人の男は強く悩む一方だ。

 しかしアキはどういう気持ちなんだろう、にこっといい笑顔を浮かべて。


「でしたらそれを材料に別のものを作ってしまうというのはいかがですか? いやあ、伝説の鍛冶師がいるわけですし? いっそ刀とか格好の良いものを作ってもらって大胆なイメチェンと洒落込むの一つの手かと」


 とんでもない提案をしてきた。形見の散弾銃が大嫌いなカタナになるなんてごめんだ。


「人の形見をなんだと思ってるんだ? ついでに言うけどカタナはごめんだ、お前もブルヘッドでチャンバラ野郎に追い回されてるの見てただろ?」

「カタナと変な縁が紡がれてますなあ、ははは」


 この眼鏡エルフの言うことはアレだが、確かに一理はあると思う。

 三連散弾銃を形見たらしめてるのは壊れかけの銃身だけで、それ以外は寄せ集めの状態だ。

 そいつが復元できない以上、せめて別の形で一緒になれたら……それでいいんじゃないか?

 カタナだけはごめんだが。


「よほど大切な品のようだな」


 考えが揺らいでると、一つ目の巨人が尋ねてきた。


「命がけですくってくれた恩人の形見だからな」

「そうか」

「一つ聞きたい、伝説の鍛冶職人さんとやらの目線だったらどうする?」

「その『じゅう』の処遇か」

「あんたには壊れかけの武器に見えるだろうけど、俺には思い出の品だ」


 だから問い返してやった、だいぶ無理難題を吹っ掛けたと思うが。

 しかし本人は大きな目でじっと人と得物を見比べると。


「無駄にはしない。溶かして違う形でいてもらうだろう、そこに積み重ねた時間がある限りは」


 向こうは淡々とそう答えてきた。

 でも妙に説得力があった。この形見を形見たらしめるのは共にした時間だ。


「……これからも積み重ねられるかな」

「お前次第だ」


 少し考えた。

 ファクトリーの連中に無理言って図面を作ってもらって、完成を待つのも一つの手だろう。

 『分解』して心の中で生きてもらうというのもあるし、ここに置いてく選択もある。

 けれども俺は約束がある。一緒に旅をするというものだ。


「……こいつを溶かして、何か作れないか?」


 決めた。三連散弾銃を突き出した。

 一つ目の巨人の反応といえば「待ってた」とばかりの顔だ。

 あのぶっきらぼうな顔が「ふっ」とようやく小さく笑った気がする。


「お前の手を見て相応しい姿を考えていたところだ。いいんだな?」


 そして言うのだ、やってやると。

 こいつには遠い未来を見渡す広い視野でもあるんだろうか。参ったよ、俺の負けだ。


「カタナ以外だったらなんでもいいさ」

「そうか。ちょうど退屈してたところでな、なら勝手に作らせてもらおう」


 ずっと大事にしてきた銃を渡した。

 オヤカタは丁重に受け取ると、よく頷いてから作業台に向き合った。


「その代わりだが、頼みがある」

「なんだ、いってくれ」

「フランメリアに俺の馬鹿息子がいる。ブツが完成したら見せてやってくれ」

「わかった」

「今から仕事に入る。さっさと出ていけ」


 その代わり、後ろ姿からお願い事が飛んできた。引き受けてやった。

 一礼してから立ち去ることにした。すっかり向こうは仕事モードだ、雰囲気ががらっと変わった。


「おい、お前は残れ」


 ところが呼び止められた。一つ目が職人の男にちょうど向けられてるところだ。


「お、俺っすかオヤカタ?」

「何かの縁だ、お前も付き合え」

「あっ、ありがとうございます! よ、喜んで!」

「礼など言われる筋合いはない。今すぐ革のエプロンを着けてこい」


 助手が必要だったみたいだ。二人がかりの大層な立派なものができるに違いない。




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