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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
Journey's End(たびのおわり)
368/580

6 R19アサルトライフル

「いつだったか私は言ったよな、人生とは数奇なものだってね? 私は成り上がり、あんたも名高くなって、そしてこんな甘ったるい場所でまた会えるんだ。いい格好してるじゃないか」


 久々に会う武器商人は誰が言ったか『良い男』の表情で俺を招いてきた。

 その満足具合といったら人の装甲服を手のひらで叩くほどで、硬さを確かめると尚のことご機嫌だ。


「ごらんのとおり今じゃ擲弾兵も兼業してるぞ。上等兵だ」

「上等兵ね、あんたも出世したもんだな。まあ私だって負けちゃいないぞ?」


 いい足取りは数歩先を行くと、「あれだ」と振り返ってきた。

 外から来たゲストが集う駐車場だ、水でいっぱいのタンクを『ツチグモ』に運ぶオーガが見えた。

 注目すべきところはその少し隣、ナガン爺さんが使ってたようなトレーラーが置いてある点で。


「どうだい? 事業がうまくいった証拠さ。でっかい車にいっぱいの傭兵、そして自慢の商品も「買ってくれ」って今もああして客を待ち望んでるぞ?」


 そこにあった今の生業をよく見せてくれた。

 少し古びた軍用のトレーラーだ。覗き窓付きの装甲で末端まで覆って、二問の銃座が五十口径を前後に向けてた。

 ナガン爺さんのものと比べると少し貧相に感じるが、周りでくつろぐ傭兵どもの装備はよく洗練されてる。


「商人用のトレーラーか。あれから事業拡大したみたいだな」

「あの時言った通りにうまくやれてるよ。傭兵も一緒さ、北部からかき集めてうちの商品で武装した精鋭だぞ?」


 俺たちが近づくとそいつらは気だるく立ち上がった。

 荒野色の戦闘服にしっかりした防具を重ねた連中だ。それも『リージョン』自動拳銃をホルスターに収めてる。


「みんな、聞いてくれ。私が出世したきっかけが来てくれたぞ、金づる兼世紀末世界のストレンジャー様だ」

「スティングとうちの雇用主の救世主様か。初めまして、会えて光栄だ」

「メルカバさん、グレイブランドの擲弾兵を金づると一緒にするなんてバチがあたりますぜ」

「ほんとに擲弾兵なんだな……あんたの活躍は聞いてるよ、装甲すら穿つ鋭い男だって北まで通ってるぞ」


 メルカバの紹介が入ると、良い装備の傭兵連中は握手を求めてきた。

 一人ずつ返すとこれでもかとがっしりした感触が伝わった。銃に扱い慣れてるし体幹がいい、確かに素人じゃない。


「初めまして、ストレンジャーだ。あんたらの上司には世話になったよ」


 俺はホルスターに収めた自動拳銃を叩いた。向こうは関心した様子だ。

 陽気な顔はだいぶ使い込んだ獲物にご機嫌な様子で肩を組んできて。


「こいつは人生最高の瞬間をくださった上客だ。それと喋る短剣と魔法のわんこも一緒だぞ?」


 鞘に収まった短剣とそばにいるわん娘の存在も伝えた。

 傭兵たちは俺のそばでぺったりくっつくダウナー顔が気になったようだが。


『は、初めまして。プレッパーズの『イージス』です』

「ん、ヴェアヴォルフ。よろしく」

「お前たちはまったく信じてくれなかったがこれがこの世の真実だ。南じゃ短剣も喋るし犬もヒトに化ける、どうだすごいだろ?」

「おいおい、短剣が喋ってやがるぞ。中に何入ってんだ?」

「ミュータント……じゃないよな、なんでこの犬みたいなガキは」

「さっきの『エルフ』といいアリゾナはどうなってるんだ? この世界の行く末が気になってきたぜ」


 ファンタジーテイストな二人にいまいち信じがたい感じだ、メルカバは得意げだが。


「あれからどうだ? うちの商品はあんたの手に馴染んでるようだが」

「大活躍だ。メンテナンスもちゃんとやってるぞ」

「そうでなくちゃね、良い客ってのは自前の装備の整備もちゃんとやるもんだ」

「それにドワーフの連中が面白いパーツを作ってくれた、ほら」


 俺はすっかり使い込んだ『リージョン』と、ついでに腰に収めたカービンキットを見せた。

 あの時と変わらぬ自動拳銃には鼻が高そうな顔つきだったが、折りたたまれた『ガワ』には疑問を浮かべたようで。


「おいおい、なんだそりゃ? パーツだって?」

「カービンキットだ。こんな風に組み込んで使うんだ」


 実演することにした。グリップを握って挿入口に銃身を差し込む、固定具をかけて銃床も伸ばす。

 あっという間に長物に早変わりだ。武器商人も目を丸くして驚くほどの。

 傭兵たちも興味津々だ。カービンもどきをメルカバに渡した。


「……なるほどね、拳銃を取り回しの良いカービンに化けさせるって魂胆か。いや私だってそんなものはどうかって考えてたがね? その想像を一回り二回り超える出来だよ、うん」


 スーツ姿はそれらしく構えた。少しぎこちないが扱いやすそうな素振りだ。

 ボルトを引いたり遠くを狙ったりすれば、自動拳銃の化け具合に驚きが隠せてない様子だった。

 次第にそれが傭兵たちの手に渡って確かめられていけば。


「こんな儲かりそうなものを作ってくれた奴は誰だい? 是非ともあってみたいものだよ」


 自動拳銃が返ってきた。メルカバは商機でも見つけたようないい顔だが。


「バロール・カンパニーでお勤めになったドワーフの爺さんたちだ」

「あの技術屋集団か、なら当たり前だな。しかもバロールか、ってことは……」

「ああ、社長殿には世話になったよ」

「聞いたよ、デュオのやつと壁の内側でラーベ社相手に派手にやったそうじゃないか」

「ブルヘッドの話はどこまで知ってる?」

「あいつが市の会議中に誰かさんの賞金首を掲げて「ストレンジャーから伝言だ、60000チップでお前らを許してやる」って得意げにいったところだな。いや中々痛快な真似をしてくれるじゃないか」

「良くご存じで。マジでやってくれてありがたい限りだ」

「ありがたいのはこっちもさ。ラーベ社の製品の信頼性が落ちたから、今度はうちみたいな出来の良い武器の需要がいつにもなく増したんだからな」


 相変わらずこの武器商人は良く知ってるみたいだ、事の顛末に満足してる。


「ファクトリーの武器がか?」

「ああ、ラーベ社の銃器ってのはウェイストランドで広く使われてる武器だからな。良く言えば堅牢、悪く言えば雑、そんなものがこの世界で売れないはずがないんだ」

「そんなものを作ってる会社が業績がた落ちらしいけどな」

「色々と浮き彫りになって大損してらっしゃるからな。まあでも使うやつは使うさ、けれども今や武器の需要も次のステップだ――あんたのおかげでな」

「俺のせいか、何やっちまったんだ」

「これからのニーズは強くて堅牢、金に糸目を付けぬやつのための質のいい銃さ」


 メルカバは良い笑顔で「それだ」と示してきた。

 たった今ホルスターに収めた自動拳銃だ。俺の活躍はまた世界を変えてしまったらしい。


「こいつみたいにか?」

「そいつみたいにな」

「ちょうどそんな製品を扱ってるやつが目の前にいる感じだな」

「そうさ、まさに当てはまるようになったんだ。おかげで私はちょっとした贅沢ができるんだ、こうしてドーナツを嗜んでいられるほどにね」


 そして食べかけのドーナツを掲げられた。クリーム入りの揚げた生地は甘そうだ。

 傭兵たちも外に降ろしたテーブルを囲んでたみたいだが、そろそろ甘味に飽きたようにドーナツがまだ山ほど残ってる。


「繁盛してるみたいで何よりだ」

「私だってあんたらが元気で何よりさ。みんな元気か? メイドさんとかはどうした?」

「みんな今日も元気に好き放題だ。ロアベアなら――」


 するとふと上客の一人が気になったらしい、町の様子を探った。

 ドーナツを甘そうに食べてる緑髪のメイドを発見。目が合ったので手招きした。


「なんすかなんすか」

「ほら、元気だぞ」


 ちょこちょこやってきたメイドさんにメルカバはまたも嬉しそうだ。

 二人とも面識を覚えてるようで、一目でスティングでの仲が良く分かる雰囲気だ。


「おお、メイドのお客様! この親切なおじさんを覚えてるかい?」

「メルカバ様じゃないっすか、なんでこんなとこいるんすか」

「商売繁盛の片手間さ、こうしてドーナツを嗜んでるんだ。私の商品はまだあるよな?」

「もちろんっすよ、ボディアーマーも貫けるんで大助かりっす~」


 ロアベアはによによしながらメイド服上のホルスターを見せた。

 5.7㎜の造形がまだあって武器商人はご機嫌だ。

 ……ついでにドーナツ咥えた生首もサービスで取れた、傭兵連中がざわめく。


「おいこら! こんな時に生首取るんじゃないよ!」

『ロアベアさん、だからどうしてこんな時に首取っちゃうのかな……』

「デュラハン風の挨拶っす! どうも皆さん、メイドのロアベアさんっすよ」

「あー、うん、こんな風に首も取れるメイドもいるんだ。こんな彼女だがアイルランドの伝承になぞって呪い殺したりはしないから心配はしなくていいぞ」


 全然気にしない雇用主はともかく、上等な装備をつけた連中も流石に首無しメイドを気味悪がってる。

 傭兵たちもスティングでどんな商売をしてきたのかと疑問が浮かぶ頃だろうが。


「で、だ、そんな売れ行きのいい私がここまで招いた理由は何だと思う?」


 武器商人の手が甘そうなドーナツを平らげると、トレーラーの荷台を背に問いかけてきた。

 『ファクトリー』の武器がいっぱいだろう。そんなものを抱えて俺に話をしにきたってことは。


「ただドーナツ食ってお話ってわけじゃなさそうだな」

「そのついでにビジネスの話さ。嫌か?」


 やっぱりか、こいつの話は「武器でもどう」だそうだ。


「ならちょうどよかった、長物が一つぶっ壊されてな」


 俺は背中から消えた一つ分の重みを表した。

 無人エグゾにぶったぎられた『ハイド短機関銃』だ。射程は短いがあの弾幕で助かったことは山ほどあった。


「長物。どんなやつだ?」

「ハイド短機関銃だ」

「あの優秀な短機関銃か。口径は45、ストックは木製、精度も良くて頑丈なやつだな」

「そいつを無人エグゾに真っ二つにされた」

「あんたが真っ二つじゃなくて良かったよ、いいお守りになったんじゃないか?」

「あの時ばかりはファクトリーの品質に感謝したところだ」


 使ってた得物について話すと、メルカバは「そうか」と少し考え始めた。

 けれどもすぐにニヤリとした笑顔に変わって。


「なるほど、なるほど、だったらあんたに是非おすすめのものがあるんだが」

「ストレンジャーにおあつらえ向きのやつか?」

「というか、あんたのために作ったようなものだ」

「……俺のために?」


 武器商人の商売向けの笑顔は「こいよ」と荷台の方まで誘ってきた。

 勿体ぶるような背中を追いかけると。


「いやね、あんたの噂は山ほど耳にしてるんだ。敵に切り込む、戦車に殴り込む、何でも武器にする――なんていうかびっくりだ、これほど荒っぽい戦い方するやつは初めてだよ」


 そこに山積みの木箱やケースが並べられて、倉庫さながらの光景が広がってた。

 傭兵たちが腰かけるスペースの足元にすらも弾薬箱が敷き詰められていて、どんな商売をしてるのか感覚的に分かってしまうものだ。


「効率的っていってくれないか?」

「合理的、これでいいか?」

「満足だ」

「ならよし――おい、お客様だぞ! R19アサルトライフルを持ってきてくれ!」


 メルカバはそんな場所につくなり、武器庫さながらの様子に一声かけた。

 奥で冷蔵庫を漁ってた一人が気づいたみたいだ。冷えたビールをあきらめてあたりを探った。


「R19ですね、オプションは?」

「今のところはいらないぞ、ついでに5.56㎜弾の箱と弾倉も頼む」


 そいつは指示通りにあたりを物色したようだ。

 照明で薄く照らされる下、ちょうど散弾銃や小銃が収まるサイズを取ると。


「ありました。こちらがお客様で?」

「ああ、ストレンジャーだぞ。最高の売り手だ」

「そりゃうってつけだ。商売時ですね」


 傭兵の一人がこっちにブツを持ってきた。

 厳重に保管されたお堅いケースだ。それなりのブツが入ってるのだと雰囲気が語ってる。

 雇い主とその下っ端は商売の色気を出しながら外へ運んでいった。もちろんついてこいと背中で語りながら。


「メルカバ、俺のために作ったってどういうことだ?」

「まあ聞けよお客様。私は新しい商売先を開拓してるんだ」

「もっと繁盛しようと頑張ってらっしゃるわけか」

「そうさ、そのためには良い武器を相手の要求に合わせないといけないよな?」

「相手の手をちゃんと見てか」

「そう、覚えてくれて光栄だよ」


 どうも俺に纏わる何かがあるそれは、新しい商売に向けたものらしい。

 メルカバは甘ったるい空気が流れる駐車場を見渡して、程よくひらいた空きを見つけると。


「ではクイズだ、私はどこに向けて商売しようと目論んでると思う?」


 折り畳みのテーブルを抱えて、走り回れる程度の余裕に向かっていった。

 道中町の見張り連中に目がついたようで、そこに「見にこいよ」と招くのが見えた。


「そいつは俺が関わってる話題か?」

「おいおい、()()()()()じゃないんだぞ。直感的に一発で当ててほしいね」

「もしかして擲弾兵の皆さまっすか~?」


 武器を運ぶ姿に質問されたが、そこに答えを挟んだのはまさかのロアベアだ。

 せっかくの問いかけが台無しになって武器商人は唖然としてたが、すぐに砕けた笑いをして。


「いやあ参った、せっかくの楽しみが台無しだな。あんたが当てたら値引きしてやろうと思ったのに」


 その通りだよ、とあきらめてくれた。

 南東にいらっしゃる俺たちの先輩どもに売り込もうとしてるってわけか、こいつは。


「正解っす~♡ あひひひっ」

「そりゃ残念だな、でも擲弾兵相手に武器を売るってのはびっくりだ」

「あんたの先輩は確かに蘇ったが、課題が山積みでな。例えばその一つは武器だ、あいつらに相応しいちゃんとした武器が足りてないのさ」

「なるほど、じゃあ「うちが提供してやりますよ」と意気込んだわけだ」

「そうなるとどんなものが求められるか気になるよな?」

「買ってくれる商品がないと商売にならないからな」

「そう、だからあんたの戦い方を耳にしてピンときたんだ、擲弾兵の保身無き戦い方だってね。そんな奴らが欲しがる武器はなんだってしばらく考えてた、眠る暇もなくなるぐらいだよ」

「なんかくれないんすかメルカバ様」

「――おい誰か5.7㎜弾を二箱もってこい、クイズの景品だ! メイドさんにくれてやれ!」


 リッチになったメルカバは大げさな手で南東あたりを表現した。

 愚直に手先を追いかけ続ければ擲弾兵の故郷にぶちあたるところだ。

 傭兵の誰かが面倒くさそうに荷台へ乗り込むところも目にすると。


「ごつくて、頑丈で、メンテナンスも楽、そして強い銃が必要だと至ったわけだ」


 目の前にテーブルが広げられた。その上に乗っかったのはあのケースだった。

 その物言いは確かに魅力的だが、性能はともかくお値段も気になるところだ。


「向こうの財布事情も考えた上でか?」

「あいつらの懐は温まってるさ。スティングとの交易、ライヒランドから奪った物資やチップ、そこに安過ぎず高過ぎずで良い品を売り込めば長い付き合いになると思わないかい?」

「良く調べてるみたいだな」

「今じゃ私たちトレーダーの間では擲弾兵が熱いんだ。そいつらが顧客につけば商売的にも最高のステータス、見逃したら人生最大の大損だね」


 なるほど、どうやって調べたか知らないけれどもお客様の身辺も知った上らしい。

 こいつのことだから理不尽なぼったくりはしないだろうが、商魂の逞しさもスティングで磨きがかかったのかもしれない。


「それでどんな商品がいいかと考え抜いた結果、擲弾兵も兼業してるやつを参考にしたって?」

「ああ、ファクトリーの連中もあんたの噂を耳にして興味深々でね。私も結構な投資をしたが、おかげで傑作ができたぞ」

「大した言いようだな」

「大したもんなんだ、まあ見てくれ」


 メルカバは興奮した様子で自らケースを開けてくれた。

 金具から解き放たれた次に見えたのは――『突撃銃(アサルトライフル)』だ。

 長い銃身、木製のハンドガードと銃床、握りやすい拳銃型のグリップとカスタマイズの効くレールが上部を走る長物の姿があった。


「……突撃銃? これが俺のどこから生まれたんだ?」


 そんなものを見てると、向こうはいい顔で得物を抱っこした。

 薄黒い機関部は反射防止のこだわりがあるし、リングサイトの二つ下からまっすぐ銃口が飛び出てる。

 装填に使うボルトはハンドガードの上、銃身近くから横向きに伸びていて。


「あんたの戦い方をコンセプトに作った"R19アサルトライフル"だ。戦前の古き良き突撃銃の青写真を何枚も吟味して、いいとこどりした上で接近戦向けに調整した『狙撃もできる鈍器』さ」


 販売主がその扱い方を実演してくれた。

 弾倉を差し込む、銃身上部の装填ボルトを引いてかちゃっといい音を立てる。

 曲がりのない銃床を肩に押し付けて構えると、スーツ姿にそれらしい戦いの格好が浮かぶ。


「使用する弾薬は5.56㎜、ファクトリー規格の弾倉が使えるぞ。いろいろカスタマイズがつくように都合も良くしてある、メンテナンス性については何も言わなくていいよな? うちじゃ過酷な現場じゃ使えないものなんて売り物にしない主義でね」


 持ってみろよ、といい笑みが向けてきた。

 おすすめのそれを受け取るとハイド短機関銃より一回り上の重さが伝わった。

 長さもあれ以上だが取り回しは似たようなものだ。しかしバランスがとてもいい。


「……構える時に素直に向けられるな、不思議だ」

「ああ、人工工学に基づいてトリガ周りからストックの微妙な反りまでこだわってるんだ。ピストル・グリップを握って持ち上げた時に感じる重さもちょうどいいだろ?」


 言われた通りにグリップを持ち上げてみると、射撃時に反動と仲良くできるようなバランスを感じた。

 そのまま遠くの風景、荒野のあちこちに照準を重ねるとすっと身体が動く。

 良くなじむのだ、これは。輪状の照準器に次々と思ったものが収められる。


「もちろん中身も上等なもんだぞ。弾倉を突っ込んでみろよ」


 今度はゆるく湾曲した弾倉を確認。レバーを押して装填中のものを外す。

 軽く取れた。今度はマガジンキャッチに差し込んでボルトを引いてみる、かちゃりと小気味よかった。

 弾倉そのものだってぐらつかない。トリガを絞れば軽い引きが確かに伝わる。


「構える時に肩で全体を受け止めやすくしてあるな」

「そう、構えさえ良ければ素直に当たるいい子だぞ。まああんたぐらいの戦い慣れた奴じゃないと、そいつの良さは生かせないだろうが」

「弾倉は何発入るんだ?」

「ファクトリー製の35発入りマガジンに30発だ、五発マイナスの理由はお分かりだよなお客様」

「確実性を求めて五発抜きか」

「物覚えのいい客は大好きだよ。本体は強装弾とかにも対応してるし、ライフル・グレネードも撃てるぞ」


 気前のいい武器商人は紙箱を渡してきた。5.56㎜弾入りのものだ。

 ここまで信用してくれるなんて至れり尽くせりだ。抜いた弾倉に十発ほどかちこち押し込む。


「命中率に関しては実際にお試しくださいってか?」

「ああ、あんたを信用してるからな。実弾渡して私をぶち抜かないことも知ってるし、律儀に応じてくれるいい男だってのも周知の事実さ」

「そりゃどうも」

「ついでに金払いの良さも」

「俺が買ってくれるっていうところも信じてくれてるみたいだな」

「いや絶対買うさ、まあ撃ってみろよ」


 気づけば興味ありげな見張りの奴らも周りに集まってた。

 傭兵の誰かが向こうに的を用意してくれたみたいで、目測50mほど離れた先に三脚と丸形の的がちょうどある。

 そんな離れた的に構えて、ど真ん中あたりを照準の上に置いてると。


「ただそうだな、黙ってようと思ったんだが誠実に言おうか。ちょっと欠点があってな」


 双眼鏡を手にした武器商人がいきなりマイナスポイントを語り始めた。

 構わず息を整える。ふう、と何度かかすかな動きから『心臓』を重ねる。


「どんなマイナスポイントだ」

「ボルトの作動で金属音が鳴るんだ。まあそれを除けばいいんだ、この際元気にやってる証拠ってことで見逃してくれないか?」

「どれくらいかによるな」


 ――トリガを引いた。


*PAkinK!*


 ハイド短機関銃よりもワンランク上の反動と銃声。ぱきんという金属音混じりのものだ。

 しかし銃床のまっすぐな具合でさほど気にならない。一発なら、だが。


「……うん、お見事だ。少し下に逸れてるが十分人は殺せるね」

「もう一発いいか?」

「大歓迎さ、あんたが撃てばそれだけ宣伝になると思ってる」


 俺も双眼鏡で確かめるが、確かに照準が少し下向きだ。

 45口径の長物に慣れたせいだな。もう一度落ち着いて狙って。


*PAkinK!*


 撃った。紙製の標的がぴくっとかすかに震えた。


「どうだ」

「お見事、殺意を感じるよ。今度はセレクターでフルオートにしてみろ」


 当たったらしい。今度は連射をご所望だ。

 親指に触れる位置にあるレバーをいじった。単射から連射にシフト。

 反動の跳ね上がりを加算して少し下を狙って絞る。


*PAPAPAPAkinK!*


 素早い短連射で銃身が持ち上がった。

 どうにか手籠めにした反動はいい結果をもたらしたみたいだ、周囲から口笛が聞こえた。


「……うん、あれが私だったら生きた心地がしないだろうね。ストレンジャーを恐れる理由がそのまま写されてる気分だ」


 そう笑っていたのを感じて双眼鏡を覗くと、50mほど先で的が穴だらけだった。

 縦になぞるように腹から首までぶち抜かれた人間がちょうど重なるところだ。

 ついでにもう四発追加で打ち込んだ。向こうで中心点周りがずたずたになる。


「こりゃいいな、遠くの標的に正直に当たる」

「だろ? 連射時のコントロールができれば敵の集団も蹴散らせるさ、まあ稼働時の音はこそこそ後ろめたくぶっ殺すときには合わないだろうが」

「あんたの言う通り元気な便りと思ってやるさ」

「素晴らしいフォローをありがとう。だが真骨頂はまだだぞお客様」

「まだ何かあるのか?」


 確かにいい銃だが、驚くべき部分がまだあるらしい。

 銃声を聞きつけたギャラリーがどんどん集まってきた。見張り連中も旅人どもも好奇心のある目で銃の性能を確かめてる。


「そいつは接近戦(CQB)に対応したつくりなんだ。銃床あたりがそうだと思わないか?」


 その秘訣はこの肩当て部分にあるそうだ。

 がっしりとした木製のものだが、補強用の道具が更に頑丈さを際立ててる。


「こいつがどうしたんだ?」

「最近ウェイストランドに『木のミュータント』ってのがいてな」

「木のミュータント?」

「さっきのエルフの兄ちゃんが言うには『トレント』っていうバケモンらしいんだが、そいつから切り出した木材を使ってるんだ。これがまたすごい材質でな、敵を殴り殺すのにうってつけな具合なんだ」


 ……どうもこいつが言うには、フランメリアの化け物が宿ってるそうだ。

 ハンドガードに至るまでそうなんだろう。なんてもん使ってるんだこいつ。


『……と、トレントを使ってるんですか……』

「あんたの相棒もご存じみたいだね」

「トレントってなんだ?」

『巨大な木のモンスターって言えば分かるかな……? それを武器に使うなんてびっくりだよ……』

「……ああ、うん、素材の味が生かされてるみたいで。そのトレントの怨念とかは宿ってないよな?」

「スピリチュアルな心配はいらないさ、それにあんたのことだ、祟ろうとしたら逆に呪い殺してくれると信じてるよ」


 妙な信頼をしてくれて何よりだ。

 俺の呼び寄せたものがたいそうな働きをしてくれたみたいだが、メルカバは続けて。


「白兵戦の時にそいつをぶん回して戦うことを前提に作ってるんだ。部品は堅牢、弾倉も殴った時に死ぬほど痛くなるように作られてるし、銃床なんか敵の骨をぶち折るにも便利だ。意味分かるよな?」

「はなからぶん殴ること前提で作られてるわけか」

「あんたそういうの好きだろ?」

「遠くからこそこそ撃つのが苦手なだけさ」

「じゃあうってつけだ。そいつの真価ってのは銃剣を着けてぶん回す時だぞ」


 荷台からまた何かを運ばせてきた。

 今度はスイカだ。どこで手に入れたのかはしらないが、緑と黒の縞模様が甘ったるい街で鈍く輝いてる。


「私の目指したコンセプトはこうだ。ファクトリーの頑丈な銃剣を装着すれば、ひとたびリーチのある人殺しの道具に化けてくれる冷酷な武器(コールドウェポン)ってね」


 そして言うのだ、そいつをやれと。

 空っぽのテーブルにどんとスイカが置かれて、好奇の目を引きながらの実演を求められてる。


「確認だ、どうやって着けるんだ?」

「下にファクトリー規格の銃剣を差し込む機構があるだろ。そいつを差し込んで固定してみろ」


 言われた通りに銃剣を抜いて差し込んだ。装着部分の溝にかちりとはまった。

 更に金具でがっちり固定されると、堅牢な突撃銃とかなり頑丈に混ざり合ったようだ。


「いいか、お客様。そいつで思いっきりスイカを叩き切れ、横にだぞ?」


 武器商人はいつにもなくニヤニヤしてやり方を教えてくれた。

 銃剣の重みが加わってそれなりに感じるが、銃口から伸びる鋭さは威圧感抜群だ。


「……分かった、行くぞ」


 周りのギャラリーからも期待感がいっぱいだ。

 いいように宣伝として使われてる気がしてたまらないが、いっそ自動拳銃の恩として一つ返してやるか。


「よし行け! 憎たらしいライヒランドのやつだと思ってぶった切れ!」


 茶化されながら背中を押された、訓練を思い出してあの足取りで近づく。

 果たしてスイカごときに憎いやつが重なるかどうかは定かではないが、敵の横を通り抜けるイメージで地面を踏んで。


「――ふっ!」


 一呼吸を込めて、吐き出しながら払った。

 重量が手元から刃先まで回っていくのを感じた。そのまま銃剣でスイカを横合いに切り込み。


 ――ざくっ。


 いい感触が伝わった。硬い皮と果肉を裂く手ごたえだ。

 突然の銃剣攻撃を食らったスイカは横からざっくりと切れて、その半分ほど硬い皮からごろっと地面に落ちていく。

 ジューシーで健康的な赤色を散らしながらもざっくりだ。

 もし人間の頭だとしても同じ結果だと思う。周りから拍手がとうとう上がった。


「ワオ、こりゃすごいね。人様の頭蓋骨だったらもっとエグいことになってそうだ」

「……すごいのはこの銃だな。スイカも叩き切れる武器に早変わりだ」

「だからいったろ? あんたのために作ったって――どうだい、この容赦ない武器に恋しちゃったか?」


 確かにすごい武器だ。

 今までの得物と違って汎用性が違う。遠い敵にも対応できるし、接近戦でも暴れ回る資格をこうして持ってるのだから。

 肝心の販売元は「買ってくれるよな?」と期待する顔だ。それだけこいつはストレンジャーにとって理想的すぎるのだ。


「今日から枕元に置きたい気分だ。いくらだ?」


 決めた、買おう。

 ポケットからチップを確かめると、メルカバは待ってましたとばかりのいい顔だ。


「いい商売先を見つけるとこうも幸せだ。そうだな、私の利益を考えるに15000チップだが……この盛り上がり具合だ、本体は12000、予備弾倉やらの付属品を込めて3000でどうだ? それとそのスイカも食べていいぞ」

「サービス込みで15000なら安いもんだ」

「私が思うにいい商人の条件にはまだ他にあって、金払いとノリの良い相手がいることだと思うんだ。お買い上げありがとうビジネスの友よ。おい、スリングとか5.56㎜の弾倉とか持ってきてくれ! 私の相棒がいいお買い物をされたぞ!」


 お買い上げだ。武器商人は下っ端をさっそく働かせた。

 傭兵どもは「マジで買ったよ」って顔だ。手元のテーブルに弾倉やらクリーニングキットがおまけでいっぱいついてきた。


「良い買い物ができて光栄だ、大事にするよ」

「思えばあんたとの縁が私の輝かしい人生の始まりさ、これからもうまく生きてくれ」

「もちろんさ。そうだな、もしブルヘッドに寄ることがあったらドワーフに俺の名前を伝えてくれ。そうすりゃ何かと良くしてくれるはずだ」

「コネも得られて幸せなこった! 見てろよストレンジャー、次合う時はもっとビッグな商人になってやるさ」


 最後に握手も追加だ。お互いいい取引ができた証拠が広がった。

 周りには商品の良さを聞きつけた客でいっぱいだ。メルカバは両手を広げてさっそく対応に向かったみたいだ。


「さあさあ、興味のあるお客様はいないかい? 私はメルカバ、ウェイストランドの武器商人だ。ファクトリー謹製のぶち殺しの道具が適正価格で手に入るぞ!」


 安心した、この様子だとストレンジャーがいなくなってもさぞ栄えそうだ。

 俺は銃剣を取り外しながら。


「ロアベア、切っていいぞ」

「よっしゃ~」


 中途半端なスイカに向かってメイドをけしかけた。

 ニヨニヨ顔は素早く一閃、見えない二度切りが余った姿をいい感じにカットしてくれた。

 手頃サイズになったそれを手にして「もらってくぞ」とその場を去った。良く冷えて甘さ控えめだ。


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