表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
359/580

123 ブルヘッドの戦い(6)

 俺たちストレンジャーズは更に北へ向かった。

 地図にして『間もなくラーベ社』といった具合の微妙な距離感だ。

 裏切者の店をぶっ飛ばし、誰かさんの引っ越しを思い出す土地柄だが。


「こちらストレンジャー、サンクチュアリ・ストリートに来たぞ。ただ――」


 目の前の広がる光景には一体どういう理由があるんだ?

 そこは『サンクチュアリ・ストリート』という場所だ。

 この世界でよく見かけるヤシが立ち並び、左右でカジュアルな店が続く買い物の場が次の舞台だった。


『……なんか妙だよ、誰もいない……?』


 ところがミコが言うようにもぬけの殻なのだ。

 青空に反して、あるいはこの騒ぎ通りに雰囲気はどんよりと薄暗い。

 買い物客もいなければ店舗はどれも臨時休業、妙な沈黙を感じる。


「買い物楽しんで満足して帰ったような空気じゃないな」

「誰もいらっしゃらないっすねえ、もしかしてっすけど……」

「ロアベア、もし最悪の事態が起きていればもっと血なまぐさいはずだぞ。ここはきれいすぎるんだ」


 ロアベアもきょろきょろしてるが、クラウディアの思うように違和感が多い。

 敵は? 街の連中は? 遠く聞こえる銃火の音と比べて静かすぎる(・・・・・)


「ニク、匂いで分からないか?」


 念のため三連散弾銃に手をかけながらニクを頼った。

 すぐに相棒はすんすん嗅覚を利かせたようで。


「……お店の中にいっぱいいる……?」


 疑問形ながらの答えが返ってきてしまった。

 一瞬意味に困ったが、少し考えて適当な店に近づくと。


『あっ――あんたら、気を付けろ!』


 窓の向こうでいきなり人の姿が浮かんだ。

 おしゃれな服屋の振る舞いが必死の形相でどこかを指してる。

 だがおかげで理解した。どうも住民たちは周囲の店舗に避難してるらしい。


「ご忠告どうも。助けはいらないか?」


 ヘルメット越しに合った目が、防犯性のある窓越しにじろじろ見てきた。

 すぐに『ストレンジャー!?』という驚いた顔に変わって。


『あ、あんた……あの噂の擲弾兵か? マジで……?』

「ああ、最近イメチェンしたんだ。服屋の店主的にどんな感じだ?」

『泣くほど頼もしく見えるよ畜生。だがここはマジでやべえぞ! 悪いことは言わんから先へ進むな!』


 人のファッションチェックついでに相手は指で通りをさしてくる。

 そいつの言う『マジでやべえ』がこの奥にあるそうだが。


「落ち着け、そのヤバい事態に対処しにきたんだ」

『聞いてくれ擲弾兵の兄ちゃん、あっちにラーベ社の傭兵が続々来てやがる』


 必死の言葉が挟まって『ヤバい』の部分がようやく伝わった。

 傭兵がここに来た? すぐ俺たちの手に武器がかかったのは言うまでもない。


「オーケー、今どうなってるか説明できるだけでいいから言ってくれ」

『こ、ここに無人兵器が来たんだけどよ、傭兵どもが山ほどきてぶっ潰しにきたんだ! で、でも今度は俺たちのこと撃ちやがったんだぞ!? それでこの通りにいるやつはみんな店の中に隠れてて……!』


 焦る口調に無茶させるようで気の毒だが、現状も引きずり出した。

 周りの店にみんな隠れてる理由はそれか。傭兵どもは何考えてやがる。


「落ち着くのだ店主よ、じきにここも安全になるぞ。してその傭兵どもというのはどれほどの数だ?」


 まだ肉眼にありつかない敵に気を向けてると、ノルベルトが強く聞き出した。

 筋肉溢れる質問にミュータントの「ミュ」と口に出かけたらしいが。


『と、通りを埋め尽くすほどだよ……そ、それにウォーカーまで持ってきやがったんだ、俺たちに警告射撃とかいってロケット弾ぶち込んできたんだぞ!?』

「ふむ、あのゴーレムも駆り出してるのか」

『ゴーレ……? いや、とにかくすごいんだ! まるで戦争ふっかけにきたような数でさ、一体何考えてやがるんだよ!?』


 最後まで絞り出した答えから状況の最悪さが伝わってきた、ウォーカーだ。

 ちゃんと人が言うことを聞くやつがいるそうだが、あんまり好意的な接し方はしてくれなかったらしい。

 通りの様子を少し確かめて、ひとまずヴァルハラのある方向に親指を向けた。


「よくわかった、とりあえずヴァルハラの方へ逃げろ。今からどうにかする」


 服屋の男はすぐに頷いてくれた。

 『おい逃げるぞ!』と一声かけると店奥から客と思しき連中がぞろぞろやってきた、平時だったらさぞ繁盛だ。


「わ、分かったよ! 逃げるぞお客さん! 南へ走れ!」

「ありがとうストレンジャーズ! ご武運を!」

「ふざけやがってラーベ社め! イメチェンどころじゃねえ!」


 無事に行ったみたいだ。今のうちにできるだけ助けておこう。

 何も言わないうち、俺たちは全員で手分けして左右の店舗に向かった。

 お土産屋から雑貨店まで手掛けると、買い物を台無しにされた客が逃げていった。

 だがこの通りはまだ長い、根本的な部分をどうにかしないといけない。


「ヌイス! 機械を設置したぞ!」

『接続を確認したよ。あーうん、お買い物の場所がえらく寂れてるじゃないか』


 次第にヌイスの声も届く、クラウディアが遠隔操作範囲を広げてくれたようだ。


「サンクチュアリ・ストリートの奥に傭兵が来てるらしい、確認できないか?」


 できる限りの市民がどっかにいったところで前方を伺う。

 道のど真ん中に立つ飲食店やら噴水やらのせいで見通しが悪い、ならヌイスのスキルを頼るべきだ。


『確認したよ。悪い知らせだ、そこにかなりの数が集まってる』


 さっきの言葉はマジだったか、客が逃げる理由になるだけの数がいるそうだ。


「ぶち殺していい知らせに変えてやる。どのあたりだ?」

『君のいる場所から北へ200m向かった先、そこから通りの終わりまで長く続いてる。ウォーカーも随伴中だ』

「そのウォーカーは人間と仲良し(・・・・・・)な方か?」

『たぶんね。でも見たことない機体だ、逆関節で身体中に武器を着けたやつなんだけど』

『ら、ラザロだ。今映像を見たけどそいつはラーベ社の新型機だ、ニシズミ社からパクったOSで動かしてる対歩兵用の機体だ、気を付けてくれ』

『……だってさ、そんな対人用の機体を投入するなんて何考えてるんだろうね』


 奥に市民の脅威になるような奴らがたむろしてるのか。

 それだけ分かれば十分だ。ウォーカーがいようが必ずぶち壊す。


「クラウディア、先行して偵察頼む」

「分かったぞ。ノルベルト、私を屋根まで送り届けてくれ」

「良かろう。頼んだぞクラウディア殿」


 ひとまずダークエルフの能力に任せて様子を見てもらうことにした。

 褐色肌の身体がオーガの両手を足場にふわっと飛んでいく――もう屋根の上だ。


「むーん、敵が集結しているのは分かったが、なぜこのようなときに傭兵どもがバロールの縄張りまで出しゃばっているのだ?」

『……まさかこんな時にどさくさに紛れて盗みに来たのかな?』

「傭兵ご一行の火事場泥棒ってか? そりゃここなら盗み放題だな」

「それはあり得る話だ。引っ越しの際も好き勝手に漁っていたのだからな」


 ノルベルトの疑問はもっともだ、地図からしても向こうはバロールの色を踏んでしまっている。

 どうであれ実際に相まみえないと事実は謎のままだ。俺たちは道を辿った。


『そこが死屍累々じゃないってことは、そいつらが無人兵器をどうにかしてくれたのかもな。もっとも――』

火消し(・・・)かもしれんな、そのあたりは向こうの戦力にとっていい足掛かりになる立地条件だ』


 そこへデュオとダネル少尉の声が言った、傭兵が「後片付け」にきたと。

 いまさら事態を収束させようにも遅い気がするが、バロールの市民に横暴を働く理由になってたまるか。


「そのついでに市民に向かってロケットランチャーぶちこんだらしいぞ。文句も言ってやった方がいいか?」

『あのよぉ、あいつらバロールの民と暴走した兵器の区別できねえのか?』

『モラルのない連中め。ちなみに北部部隊は交戦中だ、ダネルおじさんの頼もしい援護は期待するなよ』

「了解、二人とも。他の奴らはどうだ?」

『こちらエミリオ、西寄りの人達は大体避難させたよ』

『スピロスだ、今からエグゾの群れに喧嘩ふっかけるぞ』

『白エルフのシロです、目につくゴーレムぶち抜いてます』

『イっちゃん元気ー?』『フェルナアアアアアアアアアアアアッ!』


 通信内容も受け取った。ラーベ社の連中はぶっ潰してもいいらしい。

 スカベンジャーもフランメリアのバケモンも順調だ。ここは俺たち次第か。

 その時だ、後ろからぎゅるるっと甲高いタイヤ音が混じったのは。


「イチ殿、増援に来ましたぞ」

「どうなってんのよもう!? そこらじゅうゴーレムまみれなんですけど!?」


 振り向くと――こっちに向けて横腹を見せるバンがあった。

 軍用車じゃないベージュ色が眼鏡と金髪のエルフどもを下ろすところで。


「ハッハァァッ! ハードコアだ!」


 ……それから知らない黒人のおっさんも一緒だ。

 いやどっか見たぞ、スーツ姿越しに浮かぶ筋肉量があの時助けた奴と重なる。


「君がストレンジャーか! どうだい、良かったら映画の主役にならないか!?」


 更に変なのも増えた、白髪と白肌の目立つ陽気なおじさんだ。

 どう見てもこの荒事にふさわしくないのは確かだ、なんだこいつら。


「おいアキ、なんだこの変な奴ら」

『映画……? あの、今それどころじゃないですよね……?』

「いやはや、この方たちがここまで送ってくれましてな。イチ殿に「えいが」の撮影というものを手伝ってほしいとか」


 エルフを配送してくれたのは嬉しいが、こんな時に映画の撮影だって?

 もうちょっとタイミングを考えろと出かけるが。


『あー、イチ、そっちに映画がどうこう言ってるやつが向かってるよな?』


 まさにタイムリーだ、この無線からしてデュオの野郎がよこしたのか?


「デュオ、俺の気のせいじゃなきゃその映画野郎が撮影するとかほざいてる」

『そこにいらっしゃるのはブルヘッドの映画監督と主演だ、B級のな』

「ああそうか、今この状況がB級映画の撮影現場って言いたいのか?」

『まあ聞けよ、そいつらの力を借りればこの大惨事の証拠が増えるんだ。事態が収まった後のあれこれのために乗ってやってくれねえか?』


 我らの社長殿は一体何を考えてるのやら。

 ブルヘッドの惨状をどうにかする気概なのは買ってやるが、無人兵器が暴れる中で撮影でも手伝えってか。


「さっきは助けてくれてありがとう、俺はハズリットだ。一人称視点で没入感のあるアクション映画を撮影してるスタントマンさ」

「監督のヘンリーだ、こいつからいい人材がいるって聞いて飛んできたぞ。それとブルヘッドの有様を伝える手立てが御入用みたいじゃないか?」


 二人は流暢なまま握手を求めて来た、仕方がないので丁重に返してやったが。


「初めまして、二人して趣味の悪い映画でも作ってらっしゃるのか?」

「まあ落ち着けよ兄弟、どうしても作品に一味加えるための刺激がいるんだ、新鮮味のある二人目の主人公の活躍がな。ハードコアなやつだ」

「手短に言うぞ、こいつ着けて暴れ回るだけでいいんだ。金も出すし名声も得られるまたとないチャンスだぞ?」


 さっさと失せろと出かけたところで、向こうはどんどん押し掛けてくる。

 黒人の方はいい笑顔で肩は叩くわ、監督を名乗るやつは暗視ゴーグルみたいなものを差し出してくるわでやりたい放題だ。


「すまないな、ほんとだったら撮影班総出でいい絵を取りたいんだが」

「市民に訴えるいい撮影ができるチャンスなんだ、バロール・カンパニーの世論に効くぞ? もしやってくれるならそのカメラ(・・・)を顔に取り付けてくれ」

『あ、あの……今どんな状況か分かってるんですか……?』


 ノルベルトに任せて放り出してもらおうとしたが――ええい分かったよ畜生。

 渡された『カメラ』は顔に固定するもので、目線は両目より下に構えられてる。

 ヘルメットにその装置をがっちり固定した。伺う仕草は「これでいいか」だ。


「ラーベ社が悪者でいいんだな?」

「乗ってくれるんだな!?」

「ああ、ただし邪魔するなよ」

「ハッハァァッ! 思った通りだ! ハードコアだ!」

「よし! お互い得したな! よーし説明してやるが……」


 ハードコアうるさい黒人は嬉しそうだ、自称監督も。

 やかましい奴らに周りも難儀してるが構わず足を進めた。


「いいかストレンジャー、お前は第二の主人公だ、俺のピンチにかけつけて悪者を共にやっつけるヒーローさ」

「できればそいつの活躍ぶりも映るように立ち回ってくれ、それさえ守れば何をしたっていいぞ」

「イチ様ぁ、なんすかこの人たち」

「どっかの映画監督と主演だ、んで俺が臨時の出演者らしい」

『ブルヘッドってほんとに変な人ばっかりなんだね……』


 元気な二人をメイドに押し付けた。取れた生首に「なんて技術だ」と驚いてた。

 賑やかさが数段マシで進めば、いよいよ先ほど耳にした連中が見えてくる。


『クラウディアだぞ、お前たちのすぐ先に敵がいる。ゴーレムも一緒だ』


 さっそくおでましか。俺は映画二人組に人差し指で促した。


「……しっ。お前ら、出演予定の傭兵どもがいらっしゃるぞ」


 カメラで少し重く感じる頭で見る先、通りのど真ん中に集う男たちがいた。

 かなりの数だった。屋上、店舗のそば、あちこちに傭兵の格好が詰まってる。

 まあ、そのついでで周囲の店から物色してるらしいが。


「ウォーカーとやらもいらっしゃいますなあ……何をしておられるのやら」


 眼鏡エルフもその光景をしっかりと目の当たりにしてるところだ。

 グレーのウォーカーが逆関節の足で背を伸ばしながら、誰かを待ち構えてる。

 どう見ても仲良くできそうにない重厚さで、市民がいるであろう店先をなめ回すように見張ってる――いくしかないか。


「おい、映画野郎。邪魔すんなよ」


 念入りに一言込めてから姿を出した、返事は「オーケー」だ。

 カメラが作動する電子音がかすかに聞こえた。そのまま堂々と通りを歩けば。


「……おっ、おい!? あれっ! あれっ!」

「す……ストレンジャーだと!? おいなんで」


 一目見えた傭兵どもがざわめいた。あまり喜ばしくない反応だ。

 ひとまず武器も下ろして敵意がないまま。


「ラーベ社の奴らか? そこで何してんだ?」


 狼藉中の盗人はともかく、その集まりについて尋ねた。

 対する向こうの行動はひそひそ話だ、武器から手も抜けずに悩ましそうで。


「……現在ここはラーベ社が対応中だ! 部外者は立ち去れ!」


 やっと出た一言がそれだ、周囲の物騒なやつらが集まってくる。

 そこらじゅうから一斉に銃口が持ち上がるが、なんというかぎこちない。

 やむを得ず銃を向けてるような感じだ。まだ話す余地はありそうだ。


「傭兵殺戮ショーをしに来たわけじゃないぞ、とりあえずこの状況について俺より賢く話せる奴はいないのか?」


 俺は非武装のまま遠くを指した。

 つられて向く傭兵たちの先には騒がしい街中だ、ますます動揺が広がる。


「そ、それは――待てみんな! 武器を下ろせ! 話し合おう!」


 一人食いついた、実に良し。

 このまままとわりつく銃口をどうにかしようと続けようとした矢先。


『ストレンジャアアアアアアアアアアアアッ! テメエエエエエッ!』


 ずんずん。そんな野太い足音が近づく。

 ウォーカーならではの重みだ。逆関節の巨体が身体中の得物を向けてくる。

 カフカMark1より大きな五メートルほどの体躯は、兵装にミニガン、五十口径、ロケット、ブレード付きのアームに加えて下品な罵声もあるようだ。


「おい、あの騒がしいのはお前らの友達か?」

『お、俺たちの仲間をっ、良くもやってくれたなぁオイ!? てめえか!? 俺の明るい未来を潰してくれたのは!?』

「お、落ち着け! 今話してるんだ、お前はいったん引け!」

「誰だ、こいつにこんなの与えたの!?」


 なんともまあ、心に引っかかるようなことを表明してきた。

 周囲も慌ててる。黙れだの下がれだの言われても、そいつは一向に引かず。


『ホワイト・ウィークスに対してやった所業を覚えてないってか!? ふてえやつめ、俺たちがこんなに困ってるのはお前のせいだぞ! ぶち殺してやる!』


 勝手なお気持ちを延々と告げたまま、それは兵装を持ち上げた。

 周りを取り巻く連中も身振り手振り込みでなだめようとしてたが、そのうち何人かがちらちらこっちを見てくる。


「待て! 勝手に割り込むんじゃねえ!」

「…………や、やっちまえ!」

「お、お前のせいで大損だこっちは! こいつらしかいねえんだ、ぶっ殺せ!」


 流れだっていたってシンプル、向こうも次第に武器を持ち直す。

 最初からそうしろ。すかさずスモーク・クナイを地面にたたきつける。


*Pam!*


 白い煙と一緒に姿が消えた、走った瞬間に背後でミニガンが唸る。

 通りに広がる煙幕に、掃射の生み出す土煙が混ざって濃くゆらめかせた。

 おかげで隠れる場所がいっぱいだ。滅茶苦茶な銃口の軌道から後ろへ引く。


「んもー話聞かない連中」

『な、なに考えてるのあの人……!? せっかく話し合えるはずだったのに!?』


 そこらへんの店舗の中に飛び込んだ、みんなも一斉に散ったらしい。

 ウォーカーの重火器に傭兵たちの適当な銃撃も混ざるが、連中はすぐに狙いが消えたことに気づいたみたいだ――攻撃が止む。


「せっかく話が通じそうだったのに台無しっすねえ、北部の方は野蛮っす」


 するとロアベアがにゅっと横に現れた、手には仕込み杖だ。

 反対側の店舗でノルベルトが元気に手を振ってる、監督どもは知らん。

 ニクは……屋上だ、向こうでクラウディアと一緒に上ってる。


「身の上複雑すぎて話すのが面倒くさかったんじゃないのか? 側面頼む」

「了解っす、気を付けるっすよイチ様ぁ」


 ならこっちだってやる気だ、三連散弾銃を抜いて立ち上がる。

 理解したメイド姿も店奥まで行って回り込んでくれた。


『ストレンジャー! どこだ! どこいきやがったぁ!?』


 煙が晴れる頃合いだ、そこにウォーカーが逆関節の足取りで周囲を探る。

 突き出るような胴体の輪郭が見えた、そこにめがけて大雑把にトリガを引く。

 散弾に煽られて「そこだなぁ!?」とお気持ちが上がった、ミニガンと一緒に。


*Vooooooooooooooooooooommm!*


 背中に着弾音が近づくのと、全力で走り込むのはほぼ同時のタイミングだ。

 つられた傭兵の射撃も混ざって店舗が派手に砕けた、構わず堂々と退店して。


「クラウディア! やれ!」


 銃口に追いかけられながらも敵前を駆け抜けた。

 ばしゅっとロケット弾の飛来音。大ぶりの一歩の後ろで爆発、身体が浮き上がる、わざと転がってバランスをとると。


『――もらったぞ、間抜けめ』


 実に得意げな一言が向かった。

 銃撃音に混じってかんっ、とウォーカーの姿にいい金属音を感じた。

 そのまま反対側の店へ飛び込むとオーガの巨体が守ってくれた、その直後。


*zZBAAAAAAAAAAAM!*


 攻撃中の人殺しマシンから爆発が立ち上がった。肩の発射機が吹っ飛んだ。

 片腕ごと失ったそれは『ひぃ!?』と初々しい悲鳴を上げてる、中は素人か。


『うおっ!? なんだこの犬ガキ!? く、くるなやめっああああああああ!?』


 今度は頭上から人が落ちてくる。コースは頭から、ゴールは複雑骨折だ。

 更にその向こうで屋根上の敵が首を抑えて落ちてきた、死因はクロスボウか。


「随伴歩兵なしだ、サプライズしにいくぞノルベルト」

「うむ、驚かせてやろうか」


 買い物通りは大混乱だ、俺たちの戦う場所が出来上がってた。

 展開された戦槌の音を合図に店から飛び出た。パニックに陥って滅茶苦茶に撃つウォーカーを発見。


『うっ、わあぁああああああああ!? なんだくそくそくそ! 来るなアァァ!』

「ばっばかよせ! 味方に当たる! いったん引け!?」


 胴体から機銃をお構いなしにばらまいてるところだ。誤射記録は増えつつある。


「――う、上だ! 変な犬のミュータントがいやがる!」


 道中、店先で屋根に銃口を向ける敵がいた。三連散弾銃もろとも詰め寄る。


「話し合いはもういいのか? それともあの世で続ける感じ?」


 銃身で相手の得物をはじく、払われた突撃銃がぱぱぱぱっと横を撃つ。

 そこに半身を捻じって銃床をスイング、顎を横にぶん殴った。

 仕上げに「あがぁ!?」と痛がる顔面を突く――続きは結構、吹っ飛ばす。


『こ、このやろおおおおおおおおおおッ!』


 そんなところにグレーカラーのウォーカーがこっちを向く。

 だが弾切れらしい、機体のあちこちが「がぢっ」と分かりやすい音を奏でた。

 しかし近くで傭兵どもに殴り込んでたオーガがちょうどよかったらしい、残ったなけなしのアームを突き出し。


 ――ぎりりりりりりっ!


 ノルベルトの身体に向かって回転する丸鋸を突き立てたのだ。

 いきなりの鋸刃がぎゃりっと嫌な音を立ててオーガが仰け反る、が。


『捕まえたぞ! ひゃはははこのままバラしてトロフィーにし』

「大ぶりな攻撃は確実な頃合いでするものだぞ、素人め」


 あいつはニヤっと受け止めていた。

 見れば戦槌で受け流したらしい、虚しく狙いを逸れたアームに機体が後ずさる。


『な……なんだって!? う、腕がうごか……くそおおおおおおっ!?』

「イチよ、せっかくだ。ここで記録更新でもするがよい」

「残してくれてどうも。見掛け倒しだなあのウォーカー」


 交代だ、ノルベルトと行き違う。

 あいつは店の中に籠る敵を殴りに行ったらしい、すれ違って後始末だ。

 連携が取れてない、守ってくれる仲間がいない、一人ぼっちのロボットは死に際も寂しいものだ。


『ひ、ひいいいいいっ!? 来るな来るな来るなァァァッ!?』


 と、その時だ。機体がどっしり構え出す。

 平たい上部から太い筒のようなものが突き出てくる――まさか。


「――近接散弾だ! お前ら気を付けろ!」


 ウォーカーに搭載されてた散弾発射機だった。

 気づいた時には遅かった。犠牲者は俺だけだ、腰の()()()()に手を伸ばすも。


「【ウィンド・ウォール】!」


 アキがずさっと滑り込んできた、そこからの詠唱はあっという間だ。

 青い光が消えた後、眼鏡エルフの頭上に薄緑の膜がゆらめきを見せて


*zZZBAAAAAAAAAAAM!*


 うっすらとした緑色の向こうで、派手な爆発が立ち上がった。

 一面にばらばら飛び散る弾が同僚ごとあたりを引きちぎっていく。

 だが俺たちは無事だ。目の前で立ち込める緑の膜が、散弾の銀色をふわふわと受け止めていた。


「どうもアキ。ところでこれってなんの魔法だ? すごいやつ?」

「はっはっは、風の防御魔法ですぞ。そう大層なものではありません」

「……は?」


 神秘的な緑色の下で、一緒に防御魔法にあやかった傭兵と目が合った。

 立ち止まった散弾に唖然としていた。45-70に切り替えて射殺。

 拳銃に手を回しつつ前進、発射煙に包まれたウォーカーに向かう。


『や、やったか――!?』


 そのセリフは駄目だろ、ホワイト・ウィークス。

 まっすぐ足元に駆けると、向こうで固まる傭兵の射線が自分に重なるが。


「よそ見は禁物っすよ傭兵様ぁ、あひひひっ♡」


 そこへロアベアがドアを蹴とばして突っ込む、ご挨拶は一閃だ。


「め、メイド……ォォ……!?」

「う、うわあああああああ!? 首! 首がぁぁ!?」

「う、撃て! あいつらに惑わされるな!」


 いきなり迫られて首を落とされて、それでも勇敢な連中は反撃した。

 銃を向けられるもメイド姿は冷静で、すかっと仕込み杖で銃身を払って回避、からのくるっと柄を反転させ。


「残念っすね、こういうのもあるんすよ~」


 にっこり笑顔で何かを引いた――柄から散弾がすっ飛んだ。

 射線上の頭が不幸に弾ける。割れたザクロみたいな仲間は嫌な光景だろう。


「ひっ、ああああああああああああああああ!? いやだいやだ死にたく」


 それが生き残りの最後のセリフだ、首が喋りながら落ちた。

 孤立したウォーカーはきょろきょろロアベアを狙ったが、好都合だ。

 既に丸出しの背がそこにある。あの時を思い出して飛び乗った。


「おい! 俺も乗せてくれよ!」


 ご丁重に一声かけた。ロボットの姿が慌てて振り返ろうとする。

 『離れろ!』と暴れるが手遅れだ、背面の切れ込みにレバーを発見、思い切り引く。

 装甲がゆっくり開いた。既に腹の決まった中身は拳銃をこっちに向けていて。


「く、来るんじゃねえ! 死ね! 畜生が!」


 撃ってきた、ひっこめるもヘルメットの縁にべぢっと弾が触れる。

 来客を歓迎してないご様子だ。お詫びに爆発するクナイの柄に指をかけて。


「悪かった、今度から邪魔するときはノックしとく。お詫びの品だ」


 くるっと一回転、ついでに信管も作動させて中に放り込んだ。

 機体を蹴って離れると、ワンテンポ遅れて悲鳴が聞こえてきたが。


*BAAAAAAAAM!*


 くぐもった爆発が届いた。中は血肉で鮮やかになってるはずだ。


「う、わあああああああああああああぁ~~~~!?」


 そこへぐしゃっと人が落ちてくる。串刺しにしたニクも一緒だ。

 その背後に銃を向けるやつがいた、店舗の中だ、拳銃を抜いて三連射撃。


「ハッハアアアアアアアアア! ハードコアだああああ!」


 そんな矢先、狙いに収めた建物から黒人男性が出てくる。

 なんということだ! 後ろから蹴り飛ばしたであろう傭兵に乗っかって、スケボーさながらに滑って来やがった!

 アスファルトに削られた男の顔立ちは悲惨だ、とどめの革靴が後頭部を踏む。


「お見事。ブルヘッドじゃそういう乗り物が流行ってんのか?」

「ストレンジャー! 魅せなきゃだめだ! それが映画ってもんさ!」


 武器一つ持たない黒人は陽気に敵へ突っ込んでく。

 ニクのそばをするっと通り抜け、噴水近くの傭兵と親しい距離感になった。

 咄嗟の反応射撃がぱぱぱっと広がった、流れ弾がくる、よけながら続く。


「一体なんだこのおとっ」

「ハードコアな男だ! ごきげんよう!」


 魅せる男は銃撃を逸れてそいつの側面に回り込む。

 何をするかと思えば相手の背を倒して、ぴょんっとそこに乗ってしまう。

 いい踏み台を手に入れると華麗にジャンプ、体幹を崩したそれの頭上めがけて肘を叩き落とす。


「うぎょっ……!?」


 後頭部への一撃は致命的だったみたいだ。腕をぴんと伸ばして死んだ。

 かと思えば更に近くの敵へ駆け込む、今度は勢いをつけてドロップキック!


「これがハードコアだ、ストレンジャー! 良く目に刻んでおけよ!」


 そして反動を生かしてごろっと寝転がって、頬杖と共にドヤ顔を見せてきた。

 ハードコアだ。親指を立ててほめたたえた。

 そんなだらしない姿に傭兵が銃床で殴りかかる――横顔に拳銃を打ち込む。

 黒人男優の寝転がる格好に添い寝が追加された、満面の笑みだ。


「しっ死にやがれ! ストレンジャーが!」


 弾倉を交換と思いきや、スポーツショップの佇まいから男が突っ込んでくる。

 戦闘服に身を包んだ――カタナを持ったやつだ!


「おいおいおいカタナだって!?」

『か、カタナだ……!?』


 銃剣で対応しようとしたがリーチが違いすぎる、横に逸れて逃げた。


「ご主人! どいて!」


 代わりにニクがお客様の対応だ、槍で受け止めて払った。


「調子に乗りやがって! くたばれえええええ!」


 気品に欠けた雄たけびがまた近づく、サムライ気取りがまた増えた。

 乱戦に銃を諦めた結果が日本刀だそうだ、この街の文化はどうなってんだ。

 情けないが逃げた、スポーツ用品店のドアを蹴とばして押し入る。


「ひっ、や、やめてください! うちにはなんにもありませんよ!?」

「ら、ラーベ社が来ちまった!?」

「やめて! こないで!」


 出迎えの第一声は年寄り店主の悲鳴だ、それと匿われたお客様の数々。

 こっちはそれどころじゃない。空降る刀身が陳列棚にがぎっと食い込んだ。

 だが相手も早い。すぐ抜いて一振り、ヘルメットにぎゃりっと嫌なものが響く。


「う、うおおっ……!? なんか、武器!」

「あっ、えっ、これを!? 甥のバットです!」


 後ずさりながら避ける、武器を求める、その結果が伸びてくる店主の腕だ。

 金属製のバットがあった、それと同時に。


『いちクン! 目瞑って! 【セイクリッド・ウェーブ!】』


 肩の短剣が魔法を発動した、ばしっと店内に明るさがもたらされる。

 いきなりの発光現象に向こうが怯んだ――バットをひったくって。


「この野郎! いい年して人にカタナ振り回すな!」


 怯んだそいつの脳天に叩きつけた、ごゅんと生々しい重さが伝わる。

 かなり効いたらしい、相手が引きつった息もろとも武器を手放す。

 更に横向きに殴った、金属の重量が頭蓋骨を砕く手触りだ。


「い、がっ、あ……や、やめてっ……」


 尻もちをついて手が突きだされた、もう一度顔面を殴った。

 更にもう一発。脳天も割れていい顔になった。


「て、てめっ! 良くも仲間を――」


 同時に後ろから声がした、振り向くざまに大ぶりにバットを放り出す。

 ちょうどよく入店した男の顔面に命中、よろめきながら速攻で退店だ。


「どうも。勝手に借りて悪かったな、いくらだ」


 俺は血まみれのスポーツ道具を拾って店主に見せつけた、べこべこだ。


「け、けっこうです、き、記念に残しますので……!」


 店主は引きつった笑顔のままいそいそバットをひっこめた。

 商魂たくましいやつに「隠れてろ」と一声加えて出て行った。


「だ、だめだ! こいつらどうなって……!?」


 お買い物が終わった矢先に見えたのは、ラーベ社どもが逃げ腰な場面だ。

 そんなところにばすっと発射音、そいつの顔面に40㎜の不発弾がめり込む。


「よっしゃ! 大当たり!」


 エルフの不発弾を食らった男は死ぬほど痛い目にあってるに違いない。


「ウォーカーだ! いったん引いてウォーカーにまかせ――」


 死屍累々になるお買い物通りに、誰かがそう叫ぶのが見えた。

 そのご本人に黒人男性のドロップキックがまた炸裂するのだが、道の遠くでがしょん、と重たい足音が幾つも重なった。

 後ろに控えるウォーカーたちが本腰を入れたらしい。

 何機も控える逆関節姿が後退する味方を守るように踏み出すも。


『遅れてごめんよ! 今片づける!』

『なにやってんだお前ら……助けにきたぞ』


 その光景にエミリオとボレアスの通信が交差した。

 様々な店の屋上に灰色の服装が飛び交っていた。

 スカベンジャーたちだ。手には何か筒状のものを握っている。

 そいつらは交戦を控えるウォーカーの頭上に向かって飛び乗り。


『おやすみ』


 イケメンの言葉に従ってばしゅばしゅと景気のいい音が吹く。

 六機ほどはあった機体が、規律を揃えた人間の手で数千を超える熱を捻じり込まれて焼き抜かれる。


『ああああああああああああああああっ! あああああああああ!? 熱い! あついだいぅあああああああ!?』


 結果として背中を陣取られたウォーカーがなすすべなく焼かれるわけだ。

 人間が苦しむさまを機体にぎくしゃく体現させたまま大人しくなった。


「も、もうだめだ――! 望みが断たれたァァ!」


 そこへ逃げ出す姿を発見、追いかけようとするが。


「ストレンジャーさん! これ!」


 さっきのスポーツ店から子供が出てきた、手にはサッカーボールだ。

 その子の健気な配慮なんだろう、遠慮したいが黒人の男は映えを期待してる。


「レッグパリィ覚えて良かったな、うん」


 こいよと手招きした、飛んでくるボールを【レッグパリィ】でシュート。

 いい感じに弾んだサッカー用品が逃げる背中に命中、ぐしゃっと倒れた。

 子供の顔を伺うと満面の笑みだ、手を振って離れた。


「――おい傭兵ども! ぶっ壊してほしいウォーカーがあるならもって持ってきやがれ! 全部買い物通りのオブジェにしてやる!」


 ヘルメットのカメラ目線を思い出して、物陰から盛大に向こうを煽った。

 しかし伺うに、何やらあちらは話し合ってるようだ。

 いや動きがとまってる。構えた銃も下ろして慌ただしくするだけで。


『待て! 待つんだ! 降参だ! お前ら、武器を捨てろ!』


 やがて一人が武器を投げ捨ててきた。

 周りもだ。殺傷力がなんのためらいもなく投げ捨てられた。

 目の前に武器の山が積まれるも、仕事にあぶれた面々は急ぎ足で寄ってくる。


「聞いてくれ……! もう俺たちには戦う理由がなくなった!」


 それに応じて構えを解いた先に言われたのがそれ(・・)だ。

 まだ戦闘が続くブルヘッドに対して情けない顔ぶればかりである。


「俺たちにはあるってことは忘れるなよ。それでどうした?」

「しゃ、社長が……自殺未遂を起こして意識不明になりやがった」

「……自殺未遂だって?」


 そして言われたのが、あの企業のボスが死に損なったって?


「くそっ、雇い主がこれじゃ俺たちはもう弾一発たりとも撃てないんだよ。もうこの街はおしまいだ……!」


 ここにいる全員が困ったのは言うまでもない。なんたってまだ無人兵器は暴れてやがるからな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ