121 ブルヘッドの戦い(4)
いったんニクやロアベアに民間人を守らせてから進軍した。
今度は西から盛大な戦闘の音が立っていた。間違いなくそこに敵がいる。
『再集合、再集合!』
『守りを固めろ! 浸透しろ!』
無人エグゾが集まった交差点にとうとう差し掛かる。
北の方から増援が目に見えた――妙に車高の低い戦車だ。
八輪の大きなタイヤでゆっくり進むそれは、車体上の砲塔と前方に向けた二問の銃座で敵を探っていて。
『射殺目標を確認! 火力を投射せよ、殺せ、殺せ!』
そいつはテュマーらしい電子音声を乗せて砲塔をくるっと合わせてきた。
ずどっと突き上げるような砲声――道端の車が爆発した。
無人外骨格からグレネード弾も飛んできた、五十口径も混じって数多の衝撃が身に襲い掛かる。
「ラーベ社の戦車じゃねえかありゃ!? 何がどうなってんだよ!?」
「拾ったAI複製して詰め込んだら自慢の商品が暴走してるんだとさ!」
「なにやってやがんだあのクソ企業!? カジノの件がまだ凝りてねえのか!?」
タロンと車の陰に滑り込んだ、後続の北部部隊の誰かが吹き飛ぶ。
ノルベルトが車をひっくり返してそいつを守った、五十口径で援護した。
「ラザロ! 戦車まできやがったぞ! 車高が低くて機銃が二門ついてる!」
『ラーベのミトラ・タンクだ! でもあいつは本来は無人兵器じゃないんだ! 上部の装甲が薄くて主砲は90㎜の――』
「説明はいい! んなもん無人兵器にしやがって、おかげでクソ迷惑だ!」
機関銃と主砲を撃ちまくるせいで一面が滅茶苦茶だ。
ふと砲塔と顔が合う。無人と思しき戦車がこっちを見て――まずい!
誰かさんの自家用車が爆発でふらりと持ち上がった。爆圧で背を蹴られる。
「うおマジかクソクソクソッ!?」
『ひああああああああっ……!?』
「っざけんなァァァッ!? 企業戦争でもおっ始めやがったのかよぉ!?」
たまらず二人で逃げる、なけなしの81㎜手榴弾に手をかけた。
合図の余裕もないまま放り投げて走った。銃弾砲弾漂う道路を下がった。
*zZBaaaaaaaaaaaaaaaM!*
攻撃が一瞬止んだ、けれども応射がすぐ後ろをえぐる。
走りつつ確かめれば外骨格たちは機敏に動いてた。あの爆発を避けたのだ、動きが良くなってる。
「タロンとストレンジャーを援護しろ! 急げ急げ急げ!」
「あいつらこっちの攻撃を避けてやがるぞ!? 中に誰乗ってんだ!?」
「よく聞け諸君、あれは人工知能搭載のエグゾだぜ! 街のルール破って作ったのが暴れてるってわけさ!」
幸い、後ろのレンジャーたちととデュオがフォローしてくれた。
五十口径の援護のもとトラックに転ぶように隠れる、敵の動きが全然違うぞ。
『AIが馴染むっていうのは本当らしいね! 動きが機敏になってる!』
そこへエミリオの声がした。
敵の方角、頭上からばしゅっとスティレットの発射音もおまけだ。
建物の上からぶっ放してくれたようだが、狙われた戦車は当たるかという寸前で急後退して回避。
『伏兵を感知。迎撃システム作動』
そしてお返しとばかりに二問の銃座が通りの屋上という屋上を薙ぎ払う。
「ひぃっ!?」というエミリオの悲鳴からして被害は免れたんだろう。
次弾を控えた砲塔がこっちを向いた瞬間でもあって、慌てて身体を引かせるも。
『あいつら戦車も無人兵器化しようとしてやがったのか、イカれ野郎どもめ!』
その反対側の建物から人の姿が現れた。ボレアスだった。
牽制射撃だ、身を出して撃つ。五十口径が無人兵器どもに当たって気を引いた。
そこからスティレット発射器の射出音もまた一つ挟まるが。
*dDODODODODODODODODODOMm!*
頭上を警戒していた銃座がいきなりどこかを撃ち始めた。
ボレアスの方に撃ちまくった? 違う、射角はもっと上だ。
すると空中がいきなり爆ぜた。無人戦車は煙の中で無傷のままで――まさか。
「見たかよ畜生! あの戦車、今スティレットを撃ち落としやがった!?」
そこへ砲弾が唸った。吹っ飛ぶ車の陰からデュオが逃げてきた。
あの戦車め、機銃でランチャーを撃ち落としやがったぞ。
ラザロの言う通りとんでもない方向性へ進化してやがる、冗談じゃねえ。
「元々ああいう機能があったわけじゃないよな!? だとしたらラーベの期待通り自動化は成功してるかもな!」
「そうだな大成功だ、このままじゃ買ってくれる客がいなくなっちまうぞ!」
「つまりこういうことですかい!? 奴さんらは無人兵器を勝手に作って、そいつが壁の中で悪さして、ついでに自社製品の展示会おっ始めてますよと! えらい迷惑してんぜ!」
タロン上等兵が立ち上がった。肩のミサイル・ポッドも持ち上がる。
援護のタイミングだ。五十口径と半身を出して敵にばら撒く、敵の攻撃を阻止。
我ながらいい具合だ。50㎜弾がばしゅしゅしゅっといい音を立ててぶちまけられ。
*zzzzZZZZbbbbBAAAAAAAAAAAAAAAMMMM!*
向こうの景色で一際派手な爆発が敵をぶっ飛ばした。
暖かい気持ちになる光景だ、遮蔽物ごと大量の鉄くずが立ち上がった。
「いいね、心が温かくなる風景だ。ざまあみろ」
「援護どうも! だが悪い知らせだ、自慢のランチャーが品切れしちまった!」
「予備のロケット弾はないのか!?」
「ねえよンなもん! こいつに予備の50㎜ぶら下げて動いたらいい的だろ!?」
タロン上等兵は飾りになったランチャーと仲良く戻ってきた。
ちらっと見れば無人の戦車と外骨格が、通りのど真ん中で等しくスクラップだ。
手投げ迫撃砲弾は一発、スティレットが二本……さてどうする。
『こちらダネル、聞こえるかお前たち。そこの品のない戦車をもっと街の方へ引きずり出してくれ、具体的に言えばヴァルハラから見える場所までだ』
そんな考えの最中にあのいい声が耳に届く。ダネル少尉の声だった。
すぐ理解した。戦車は北からの道路寄りにいて、ヴァルハラ・ビルディングとの距離感を測るに射線が通らない位置にあったからだ。
「ダネル少尉か! ノルベルト! あの戦車を南側に引きずり出すぞ!」
「おお、ダネル殿も来てくれたのか! よかろう!」
「スティレットだ! まだあるか!?」
「まだあるぞ! お見舞いしてやろうか!?」
「よし、当たらなくていいからお前もやれ! 側面後方だ!」
なら一仕事やってもらおう、俺は離れた場所のオーガに合図を送った。
スティレットの発射器を抜いて顔を合わせる――いけるな。
相手が姿を出した。やや斜めにこちらを向くミトラ・タンクの尻を狙って撃つ。
*Basshmmmmmm!*
二人分の擲弾がすっ飛んだ。慌ただしく動く銃座が空をどどどどっと穿つ。
宙で撃ち落とされた。だが迎撃で手いっぱいだ、戦車が慌てて下がる。
――か゛んっ!
その光景に不思議な青い火花が散った。
スティングで見たミスリル弾と同じ現象だ。砲塔の根元を叩かれたそれは止まり。
『ひひひひひひ被弾っ、エラー、予測不可能な事態にそなえそ――』
ぼんっ、と砲塔が弾けた。
戦車として価値を損ねたそれは火柱と共に沈黙、戦線に大きな穴が空いた。
「――おいおい、ミスリル弾かよ。ドワーフ製の武器は恐ろしいもんばっかだぜ」
あの弾の恐ろしさが分かるデュオが装甲の中で笑ってた、怖い爺さんどもめ。
反撃のチャンスだ、俺は迫撃砲弾を抜いて。
『信じられんな、主力戦車ではないとはいえ上面装甲をぶち抜いたぞ。なんなんだこの、ミスリル弾というのは』
「ダネル少尉に感謝しろ! お礼にぶち壊せ!」
「うちの少尉何しやがったんだよ!? 戦車ぶち抜きやがったぞ!?」
「フーッハッハッハ! 反撃だ! ゆけゆけェ!」
ピンを抜いて放り投げた。勢いを削がれた無人エグゾがまとめて吹っ飛ぶ。
すかさず車の陰から飛び出す、走る、ノルベルトも並走して二人で突っ込む。
『警戒! 警戒! 予測不能な攻撃を感知!』
『後退! 戦力を再――』
爆炎を突っ切った先は『詰んだ』外骨格どもだ。
目の前にいた一体の顔面を銃口で殴った。がんっと地面に縫い付けて。
「どうも、予測不能な事態だ。こいつは想定済みか?」
ご丁重に尋ねた、じたばた暴れる前にトリガを絞る。
*DODODODODODODODOM!*
重要な機器がありそうなそこをぶち抜くと震えて停止、次の敵に備えた。
隣でノルベルトが戦槌で一体引き倒した、その向こうで構える相手に撃つも。
がちっ。
くそ、弾切れだ。予備の弾倉もない。
それならこうだ――エグゾ用の形をした五十口径をぶん投げる。
『撤退! てった』
その先にいた骨格が揺らいだ、顔面に命中だ。
踏み込んだ。持ち上がるグレネードの砲身を掴んでぶちあたる。
装甲同士のぶつけあいはこっちの勝利だ、馬乗りになってセンサーいっぱいの顔に拳を落とす。
「っておい前! パウークだ! こっちに来てやがんぞ!?」
無人エグゾをぶち壊したところにデュオの警告が伝わる。
通りの奥からだ。四足のウォーカーがぎくしゃくと害虫のごとく走ってきた。
どう見ても最初に見た頃よりも動きが早い――そう思った矢先。
*Do-DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOM!*
遠くでぴたりと停止、砲塔から機関砲をぶっ放してくる。
咄嗟にさっき倒した無人機を盾にした、何発か喰らって足が重く踊る。
「うぉぉぉっ!? くそっ人に機関砲向けやがって……!?」
『ひゃあああぁぁぁっ……!?』
もうエグゾで転ぶのはこりごりだ、鉄の盾を投げ捨てて走り出す。
機銃もがりがり当たってエグゾが悲鳴を上げた。足も錆びたように重い。
『おい! 射線あけんかお主ら! ドワーフのお通りじゃオラァッ!』
そんなところにドワーフの気合の入った声がした。
戦いの場にぎゅりぎゅりと良く知る音がしたかと思えば。
『補給物資配達じゃ野郎ども! ついでに武器の試し撃ちってなァ!』
俺たちの後ろから『ハックソウ』が追いかけてきたのだった。
ドワーフどもを乗せた履帯つきの車は残骸すら登って突っ込んでいくと、攻撃に移る寸前のウォーカーめがけて飛び込み。
「停車しろ停車! 狙い定まらんから!」
「装填よいぞ! はよ撃て撃て撃て!」
「胴体ど真ん中狙え! ぶちこめ!」
騒がしい様子を荷台で繰り広げつつ、そこに乗せられた何かを向けた。
三脚で固定された――銃、いや大砲か、デカい得物をパウークに合わせ。
*zZZBAM!*
車体がぐらぐら揺れるほどの射撃が始まった。
音からして20㎜だ。その質量が向かう先で、四足の巨体に派手な青が散る。
そして遅れて爆発した。立ち上がる炎を白旗がわりに地に伏せていく。
「っしゃあああぁぁ! 効いたぞ! 一撃必殺じゃこれ!」
「キルマークつけとけ! こいつで三つ目じゃ!」
「ラーベのゴーレムは脆いやつばっかじゃのうはっはっは!」
……ドワーフの爺さんたちはなんとも危機感のないまま駆けつけてきた。
しかもまだまだ援護の手は緩まない。今度は盛大な足音がごんごん迫り。
*zzZZVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAM*
俺たちの頭の上を金属音混じりの轟音が追い越していった。
音も威力もまるで四連装の重機関銃だ。無人エグゾの群れがばらばらだった。
まさか。みんなでなんとなく察した上で振り返ると。
『ここはわしらに任せんか! にしてもカフカすげえ、これフランメリアに持ち帰れんかの!?』
逆関節型のウォーカーがスピードを落として駆けつけたところだった。
どういう経緯でここにいるかはともかく、鹵獲したカフカMark1の中でドワーフの爺さんがとてつもなく楽しそうだ。
ダイナミックに割り込んできた援軍に北部部隊は固まっているほどだ。
「豪華な援軍だな、助かったよ爺さんども」
駆けつけてくれたドワーフはしてやったような笑顔だ。
すると硝煙がまだ続く荷台の『砲』を撫でながら。
「これか? これね、パウークの機関砲いじって作った対戦車砲」
「ミスリル徹甲弾じゃ、やべえぞこれ」
「今度は砲弾の中に爆薬閉じ込めてやったわ、飛ぶぞ。つかもうでけえの三機やっとる」
良く分かる説明をしてくれた。まーたすごいの作ってやがる。
「ミスリル大盤振る舞いだな。さっき戦車が吹っ飛んだぞ」
「リソースってのはこういう時に惜しげもなく使うもんじゃよ。ほれ早く補給せんか」
「我が社もおたくらのおかげで二歩先を行けそうだぜ、うちの新商品が大活躍中だ」
武器満載のハックソウが俺たちめがけてバックしてきた。
荷台には替えの重突撃銃やら弾倉やら、果てには見たことのない銃まである。
「おいおい……ドワーフだ、マジモンのドワーフが戦車乗ってやがるぜ」
「言っとくがこの世界には指輪なんてないぜ――いやなんだこの武器初めて見るぞ!?」
「ストレンジャー、お前の人脈の広さには驚くばかりだ。無節操というか分け隔てないというか、まあおかげで助かってる」
そんなものを持ってけと突きつけられた北部部隊の面々は困惑してる。
無理もないと思う。エグズサイズの初めて見る獲物が山積みなのだ。
「おお、なんだこれは? 爺様どもが作った得物か?」
ノルベルトが気にかけたそれとかがいい例だった。
どう見ても二十ミリクラスの通り道がある『携帯する大砲』みたいなブツだ。
弾倉すら横から生えてるそれは、もはやエグゾかそれの匹敵する存在以外に持つ資格はないとばかりの重量感があった。
「急ごしらえで作った二十ミリの手持ち銃だ、持ってけイチ!」
「ご親切にどうも、試し撃ちは済んでるよな?」
「お前さんの第一射目次第じゃな、まあ暴発せんだろ大丈夫大丈夫」
「素晴らしい武器をありがとう、今のが皮肉にならないことを祈ってくれ」
そしてご指名は俺だ、こんなん使えと。
ありがたくいただいた。照準や肩当ての銃床が「こいつで戦え」と訴えてる。
「早くもってかんかお主ら! わしら火力支援と補給並行しとるから!」
「50㎜ロケットあるか爺ちゃん!?」
「いっぱいあんぞ! 持ってきすぎんなよ!」
荷台からどんどん武器が下ろされていく。
レンジャーどもは戸惑い半分のまま装備を整えたようだ。
砲身が二問あるロケットランチャー、巨大弾倉を突っ込まれた40㎜擲弾発射機、死を振りまくよりどりみどりだ。
文字通り『いっぱい』武器が配られると。
「よっしゃ! ニシズミの方行ってちょっと狩るか!」
「ネズミ狩りじゃ! いくぞ!」
「南西向かうぞ! 次弾込めろ!」
爺さんたちはハックソウを唸らせてとても陽気に行ってしまった。
カフカも追いかけていった。帰ってくる頃には撃墜数が増えているはずだ。
「デュオ少佐殿、いつの間にブルヘッドはこんな技術革新されたんで? 見たことねえですぜこんな武器の数々」
「フランメリアの賜物ってやつさ、おめーら全員大丈夫だな?」
「そりゃもちろん、もっと殺せますぜ」
「エグゾのサーボが少しおかしいですがやれます」
「そろそろこの服を脱いで一服したいところです、ところで危険任務手当はちゃんと貰えるんでしょうね?」
全員補給が済んだようだ。ニクとロアベアがうまくやってることを願って先へ進んだ。
◇
敵を求めて西への道を進めば、繁華街の様子に踏み込んだ。
あたり一面には戦いの痕が今なお増えつつあって、まさに激戦区だ。
逃げ戸惑う民間人はゼロ、見捨てられた車が散らばり、破壊された建物が景観を損ねてるぐらいだが。
「どきなぁッ! ドラゴンブレスはいりまああああああああああああああす!」
そんなところにいたのはフランメリアの連中だ。
フェルナーがいた。竜の羽で着地を決めた直後、向こうで固まるエグゾの群れに身構える。
かと思いきや鋭く息を吐いて――いきなり真っ赤な炎が空気を伝った。
火炎放射器以上の火力が街中を覆った。外骨格が立ち往生してフリーズする。
「馬鹿かお前は!? 街中で炎を使うなと言ってるだろうに!?」
そこへ褐色蜥蜴の姿が剣を抜いた、アストヴィントだ。
バケツ頭のウォーカーに迫る。撃たれようとも軽やかな足取りで近づく。
そして足を一太刀のもと叩き切った。ごきんと鈍く切断される。
仰向けに倒れた姿に追撃、首元めがけて剣先を捻じり込んで確実に破壊した。
「貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「どうしたどうした! こいつは学習できねえかぁ!?」
牛と熊のコンビが炎のエンチャントを宿した斧&槌でパウークの四足を、砲塔すらも焼き払い焼き砕き。
「はっはっは! この程度ではまだまだフランメリアの民には勝てませんぞっ! 【ウィンド・サイス】!」
『あーもうまたスピロスたちに持ってかれた! 私たちと相性悪いのよねこいつら!』
眼鏡エルフが無人エグゾを殴っていなして風の魔法でまとめて切り裂き、屋上からエルフの対物ライフルが一匹ずつゴミを片づけ。
「チャールトンの旦那を連れてくればよかったな! そしたらこんな彷徨う鎧の群れなんてあっという間だ!」
「いいやこれで良い! やつがいたら獲物が取られてしまうだろう!」
牙むき出しのオークが両手剣で切り払い、ライオンの獣人が次々斬って突いて行動不能にしていく。
いきなりそんなのを見せられた北部部隊がフリーズしたようだ。
無理もない、フランメリア人が無人兵器より破壊を振りまいているのだから。
「……あー、なんだありゃ。何の撮影だ? そういう映画でもあんの?」
『こちらダネル、ファンタジーの連中がファンタジー映画さながらに活躍しているのを確認した。バロールはいつからこうなんだ?』
タロンたちは俺に答えを求めてるようだ。答えようがない。
「オーケー、平和だな。スクラップ回収業者がしばらく不眠不休になりそうだ」
『……もうこの人たちだけで大丈夫なんじゃないかな』
曲がり角からウォーカーの足並みがずんずんやってくる。パウークとルツァリだ。
敵のエグゾたちも随伴していて、パレードさながらの光景が近づいてきた。
「オメーのお友達ってのは火を吐いて生身でウォーカーぶったぎるんだな。友人選びのチョイス最高かよ」
『見ていて楽しい光景だな。どれ、ダネルおじさんも茶々を入れてやろう』
「味方なのは間違いないからな、ミュータントと間違えるなよ」
「ウェイストランドの生態系がぶち壊れてる気がするぜ、そんじゃ……」
しかし俺たちは軽口で出迎えるような奴らだ。
タロンが50㎜ロケットを敵に送った。突然の爆撃で敵は散り散りだ。
「ああ、乗り遅れる前にやるか」
「俺たちも参加だ! 今日はロケット大盤振る舞いだぜお客様!」
「フランメリア人どもに動きを合わせるぞ、前進!」
爆撃をきっかけに食いつくことにした、二十ミリ砲を抱えて突っ込む。
立ち往生する無人外骨格を発見、アスファルトをがっしり踏んでトリガを引く。
*ZZBAAAAAAM!*
エグゾ越しだっていうのにひどい反動だ。
どうにか姿勢を保ったまま見届ければ、無人エグゾの半身が後ろ向きに吹き飛んでいた――人間だったら真っ二つだ。
北部部隊の面々も配られた武器をぶっ放すと、ロケット弾や40㎜のグレネードが無人兵器の足元をさらっていく。
「……なんだこの武器、妙に当たるぞ」
「おい、これキーロウに持って帰ろうぜ。うちの整備班喜ぶぞ」
さすがの屈強なレンジャーどもも引くほどの性能だ。
そこへがんっ、と迫撃砲も混じる。ウォーカーの足が掬われてよろめく。
「フハハハハハ! フランメリアの者どもが暴れているな、早い物勝ちだぞ!」
ノルベルトが砲撃したらしい、敵の勢いが今まさに削がれてる。
視線で合図した。やるか、相棒。
「スティングじゃ世話になってばっかだったしな――やるか?」
「――やるぞ。さあ大物狩りとしゃれ込もうではないか!」
崩れた陣形に向かってダッシュ、手持ち砲を掲げながら迫った。
よっぽど近づかれるのが嫌なのかウォーカーの機関砲が唸る。
何発か貰った、肩のあたりがぎしっと悲鳴を上げてしまう。
『異常存在を検知! 対応せよ! 対応っ』
だが間に合った、そこはルツァリの大きな懐だ。
機関銃を向ける手が遅い、構わず砲口を後ずさる胴体に上げた。
*ZZBAAAAAAAAAAM!*
撃った。腰の上からエグゾがびくつく、反動で足が後ろに下がる。
構わずもう一発、更に一発、まだ一発、ずばずば撃って動きを止めた。
「慣れてしまえば容易いものよ! 永遠の暇をもらうとよい、ゴーレムよ!」
もう一体の処理はオーガがやってくれたようだ。
蜘蛛さながらの姿に潜り込んで、81㎜の砲身を腹に押し付け――ゼロ距離射撃。
ごがんとひどい音がした。迫撃砲サイズの徹甲弾はさぞ痛いだろう。
『きけっ、危険因子ししししししあががががっ?』
「なんだ、このパウークとやらは懐の守りが薄いではないか」
そいつはぎくしゃく崩れた。仕上げに太い腕が穴をえぐってトドメだ。
これで大体の増援部隊は片付いたようだ。エグゾ越しにハイタッチ。
『この徹甲弾だが、追加で十ダースほど貰えないものかな。こいつがあればライヒランドの装甲部隊も俺一人で食い止められたかもしれん』
ダネル少尉の狙撃も戦果が次々だ。
さっきから合いの手をここに挟んでたみたいだ。エグゾが弾け、ルツァリが倒れ、ご機嫌な的当てと化してる。
「よし、今日は絶好調だな」
『の、ノルベルト君もすごいよね……生身で倒しちゃってる……』
「うむ、今宵も徳を良く積んだな」
そうやって片づけて通りの様子を確かめようとした時だ。
エグゾがねじれるような衝撃が走った。いきなりの一撃に身体が持ってかれる。
気づいたノルベルトも覆いかぶさった爆発に吹っ飛んだ――おいまさか。
「あーやっべ前言撤回だクソッ……!?」
振り向く、北の方だ。
いや見るべきじゃなかった。バケツ頭の群れがこっちに押し寄せていた。
そこにまた一撃、エグゾのどこかがひん曲げられてががっと嫌な駆動音が響く。
腕が、いや足が動かない。ぶっ壊れやがったか。
「畜生動かないぞ!? どっかやられたか!?」
『え、エグゾが壊れちゃった……!?』
幸いにもアフターケアはやってくれるらしい、根を上げた装甲が背で開く。
ノルベルトも「ぐむう!?」とよろめきつつ起きている、急いで抜け出した。
「ストレンジャー! 早く逃げろ!」
タロンの呼びかけがきた、簡単に言いやがって。
背後の抜け殻が砲弾で叩き折られるのを感じた。
オーガにまたグレネード弾が炸裂、ごろっと巨体が倒れる――待ってろ相棒。
「ミコ! 回収!」
『は、はいっ!』
手近な遮蔽物を探した、倒れたセキュリティのバンを発見。
装甲の剥がれ落ちたエグゾから荷物をひったくって滑り転がる。
落ちて来た銃弾が追いかけてきた。どうにか逃れて短剣を抜き。
『ショート・コーリング!』
相棒の引き寄せの魔法を頼って倒れたノルベルトを無事回収だ。
身を隠せたがなんだあの量は、どうしろっていうんだ。
北部部隊と無人兵器軍団の撃ち合いど真ん中に取り残されてしまうも。
「お困りのようですねー、大丈夫ですか?」
どこから空気を読まないような女性の声が混ざってしまった。
まさかと辿れば、絶賛フランメリア人暴走中の方向からシスター姿が来ていた。
悪魔っぽい姿は相変わらずだが――いや待て、なんだあれ。
「あー、困ってるし大丈夫じゃないけど……なんだそれ、ぷかぷかしてないか?」
『け、剣が浮いてる……!?』
ミコの言葉通りだ。そいつの周りを巨大な剣が何本も浮いていた。
ペットの犬みたいな感覚で連れてこられたそれは、持ち主の周りを愉快にふらついている。
「なんだあのシスターの姉ちゃん!? 何してるかわからねーがこっちにくんなあぶねえぞ!?」
タロン上等兵が悲鳴めいた声でそう頼むのも無理もない。
ところが、だ。
――がきんっ!
鋭くも濃い金属音が彼女の回りから響いた。
それも一度じゃない、続けざまに何度も何度もだ。
そのたびに剣が機敏に動き回り、足元に尖りのあるものがごろごろ落ちた。
「この辺りは私にお任せください、すぐ片づけますのでー」
そこでようやく分かった、この剣は敵の弾を叩き落としてるのだと。
五十口径か、25㎜か、ウォーカー用機関銃か、踊る刃物が迎え撃っていた。
悪魔のシスターという矛盾した姿は敵へとにっこり堂々と向かっていき。
「行けッ! 我が魔剣! なんかこう……綺麗にしてきなさい!」
ものすごくふわっとした物言いを告げると、取り巻く青色の剣がすっ飛ぶ。
砲弾すら叩き落とすのが音で伝わった。そこらにがらがら鉄くずが転がる。
攻撃が通用しない悪魔のお姉さんに機械どもは引くか引かまいか漂うほどで。
『火力を集中せよ! 火力ッッッッ』
その先頭にいたバケツ頭の電子音声がぶつっと途切れた。
いや、空踊る剣で身体が散らばった。胴体も手足もばらばらだ。
巨大な人体が転がれば、周囲の無人兵器も次々と同じ現象に見舞われ。
『撤退! 撤退! 想定外の戦力を検ちちちちちちち』
『異常存在を確認! 再集合! さいっ』
シスター姿を取り巻く六本もの剣が手当たり次第に切り刻んでいく。
まるでバターでも切り裂くような、そんな感覚でだ。
結果、一瞬で敵は壊滅だ。ふよふよ飛び回る剣はご機嫌そうに上下してる。
「終わりましたよ皆さまー、このあたり一面の制圧は我々にお任せくださーい」
にっこり笑顔でシスターさんが帰ってきた。なんだこいつは。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお退けェエエエエエエッ!」
そんなところに横から雄たけび、甲冑の出で立ちが何かを突き飛ばしてくる。
突進を食らって宙高く吹っ飛んできたパウークだった。
四つ足を掲げるようにずしんと倒れ込むと、そこにレイナスが馬乗りになって胴体をタコ殴りにした――屑鉄の完成だ。
『あら、おかえりなさーい。どうでした?』
『勝手にはぐれるなクレマ! 私にパウークの群れを全部丸投げしおって!』
『あっ見ろよレイちゃんだ! 無人エグゾと間違えそうだからどっかいけ!』
『馬鹿者茶化してる場合か! レイナス! こっちは順調だぞ!』
『フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「……ストレンジャー、なんでこいつら生身でぶっ壊してんの? 夢かこれ」
『俺も変な夢を見てるみたいだぞ。あの鎧のやつ、パウークを十機ほど殴り壊していたようだ。まるで歩く戦略兵器だな』
「悪夢じゃないのは確かだ、相変わらずうるさいなあいつら」
『……元魔王だけあって本当に強いんだね、あの人たち……』
「おおそうか! 彼らはフランメリアができて間もないころに次々と訪れたという魔王たちだったのだな! ならばあれほど強いのもうなずけるな!」
「ボスがお前の交友関係に不満そうだったが、今度は魔王とお友達になったのか? お前といると人脈に困らなさそうだなぁ」
すさまじい火力で一掃された様子にみんなで呆れてると。
「ご主人、戻ったよ」
「イチ様ぁ、ご無事っすか~……ってなんかすっごいバラバラになってるっすよ、なんすかこれ」
「フランメリア人パワーでどうにかなったところだ、ついでに俺のエグゾもバラバラだ」
別行動中だったニクとロアベアがやってきた。
南側はだいぶ騒ぎが収まってきてる。これで大体はやったか?
――まあ、そう思ってるときに限って『NO』だ。
更に西から北から、知らない砲声と悲鳴が響いた
ブルヘッドのどこかがますますひどい状況になってることだけは明らかだ。
「おい、大丈夫かよイチ? 怪我はねえか?」
街の現在に目と耳を立ててるとデュオが心配してきた。
破壊されて横たわるエグゾと見比べられたが、ご存じの通り元気だ。
「せっかくのエグゾがやられて心苦しい感じだ」
「お前の命に比べりゃ安いもんだ。しかし一体どんだけいるんだって話だが」
「敵の数なんて数えるなよ。でも努力の甲斐あって敵が減ってるのは確かだ」
「おいおい、俺から見れば「こんなに倒したのにまだいっぱい!」だぜ?」
『ここもだいぶ安全になってきたね……あの、怪我された方はいませんか? 今のうちにわたしが治療しますので』
「おい、ミコちゃんが見てくれるってよ! 誰が怪我したやつはいねえか!」
「別に怪我しちゃいねえがカウンセリングしてくれ!」
「かすり傷だ、酒飲めば治る。ちょっとそこのコンビニで拝借していいか?」
ひとまず制圧した場所で全員の安否を確かめてると。
「……まずいことになったぞ!」
実に嫌なタイミングでクラウディアがしたっと着地しにきた。
降ってきた表情から余裕を奪うほどの何かがあるらしいが。
「デュオ、もっとまずいことになってるらしいぞ」
「とっくの昔にまずいだろ。今度はなんだ? 無人兵器が人間捕まえて食っちまってるとか言わないでくれよ」
「それか市民の皆様がテュマーに変えられたとかじゃないよな」
「違う、すごく巨大なゴーレムが歩いてるぞ! とにかくすごいんだ!」
あいつは語彙力はともかくヤバイと伝えようとしてる。
現状が一層悪くなるような知らせは最悪だ、もっと言うなら――。
……ずずん。
そんな明らかに質の違う重みが、北の方から聞こえたってことだ。
ウォーカーの足音にしちゃデカすぎるし重すぎる。一体何が来やがった。
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