120 ブルヘッドの戦い(3)
あけおめ
『ヌイスだよ。クラウディア君、次の通りへ差し掛かる前にさっきの機械を設置してくれたまえ。屋外だったらどこでもいい』
『む、分かったぞ。どこでもいいんだな?』
無人兵器の騒ぎに駆けつける途中、ヌイスとクラウディアの話が耳に入った。
頭上を並走するダークエルフの姿が引っ込んだ。何かやらせてるらしい。
「ヌイス、クラウディアに何させてんだ?」
『中継器を設置させてるのさ。具体的な説明はさておき、私も力になりたくてね? 君の前方にある監視カメラを見てごらん』
気になるところだが続きは『自分の目で確かめろ』だ。
重突撃銃を手に進み続けると、狭い道の脇に建物の裏口があった。
監視カメラが防犯意識を振りまいてるようだが、通りかかるとじっと見てきた。
「こいつか?」
『ご名答。今私が掌握してるよ』
『うんうん』といいたそうにカメラが上下する。
周りの顔ぶれを一人一人確かめてるようだ、あいつが操作してるのか。
「要するにハッキングだな? 悪いことしやがって」
通り過ぎる間際にエグゾ越しの姿で一瞥してやったが。
『こういうお下品なことはしたくないんだけれども、状況がこれだから仕方がないよね? ブルヘッドのセキュリティに穴をあけるのは違法だけど仕方がないさ』
カメラは「やれやれ」といわんばかりに首を振ってきた。
「心配いらねえぜ、責任は社長持ちだ。最悪ラーベ社に擦り付けてやるさ」
『それはどうもありがとうデュオ君、じゃあ心置きなく悪戯ができるね』
「じゃあハッキングでラーベのビルでも爆破しとけ」
『今そんなことをしたら余計に混乱が広がるだけさ、我慢しておくれ」
しかもデュオの許可も下りてしまった、社長公認の堂々たるハッキングか。
暴走する機械相手にどんな悪戯をしてくれるのか楽しみだ。
「ヌイス様ぁ、ついででいいんでカジノの勝率をいじってくださいっす。うちの台だけ二回に一度当たるようになる程度でお願いっす~」
しかし後ろで誰かがろくでもないことを言いだした、お前かロアベア。
「今ギャンブルの話したやつは無視しろ、いいな」
『あのね君、造作もないけどそれでいいのかい? 勝てばよかろうの精神は構わないけど、そんな見苦しいことに手を貸したくないかな』
「そんな~」
『ハッキングだのギャンブルだのろくでもないこと聞こえたがそれどころじゃねえだろ!? 北から続々敵が雪崩れ込んでるぞ、どうなってんだ!?』
緊張感もクソもないみっともない話にボレアスの声が加わった。
スカベンジャーたちはどこかでアホみたいな数の敵をお見掛けになったらしい、最悪のニュースってやつだ。
程なく道路の様子が近づく、行き場を失う車両が焦げてぶち壊されていた。
『ら、ラザロだ。い、今ヴァルハラ屋上からそっちを監視してる! なんとなく状況が読めて来たぞ!』
どもったラザロの声が重なる。
「相棒、現状がどうなってるか軽く教えてくれ」
『誰が相棒だ! 暴走したウォーカーやら無人機やらがラーベ社のエリアからそっちに向かって南下してる! えらい数だ!』
「それくらい分かってる。他にはどうだ?」
『で、でも向こうの傭兵やら企業の私兵やらが無人兵器と戦ってる! ほっ、北部であいつらが交戦してるのが見えた! 戦況は、よくないけど……』
早口からしてラーベ社は自分のミスに落とし前をつけようとしているようだ。
だが今はどうだ、まだ向こうで景気のいい爆発が立ち上がってるんだぞ。
「どうにかできてるようには見えないぞ。そもそもなんでこっちまで来てんだ」
『た、対応しきれないほどの数だからだ! それにあいつら、主戦力をラーベ社周辺に配置してるんだ! 自分たちが良ければそれで良しってやつだ、分かるよな!?』
「ラーベ社がそんだけ馬鹿なのかそれとも余裕がないか知らんけど良く分かった、わが身が可愛いんだな?」
『分かってくれて嬉しいよクソが! ホワイト・ウィークス辞めて正解だ!』
良く分かったよ畜生、暴走機械がブルヘッド中に広まってるんだな。
あいつらの尻拭いをやってるようで気持ち悪いが、この自慢の製品どもをぶち壊せばそれだけ損はするはずだ。
「聞いたなみんな、ラーベ社自慢の商品が気前よく街にばら撒かれてるらしい。全部ぶっ壊せばあいつらの大損だぞ、倒産するんじゃないか?」
だから言ってやった、重突撃銃を前方に向けながら。
ぴゅう、と面白がるようなエミリオの口笛が聞こえた。
『前向きに恐ろしいことを考えるね君は、よっぽど恨んでるみたいだ』
『全部ぶっ壊せばどれだけの大赤字になるか楽しみになってきたわ』
『フォート・モハヴィの一件の仕返しができるんだな? 乗った』
『みてやがれクソ企業め、倒産させる勢いでぶち壊してやる』
『ランナーズ』一同から誰かの彼女に至るまで和気あいあいの返答だ。
あの巨大な廃墟でさぞ損したらしいがもっと味あわせてやる。
――次の道路に踏み込んだ。
銃口を向けた先はまた戦場だ。
真昼間の通りが地獄に早変わりしていた。
あたり一面は新鮮な廃車だらけで、建物も砕かれ焼かれる戦火があった。
『なんでラーベ社のウォーカーが来てやがる! まさか戦争か!?』
『頭を出すな! マジでぶち殺しにきてるぞあのクソウォーカー!?』
『市民がやられちまってんだぞ!? これ以上好き勝手――』
運の良し悪しはともかく、そこに交戦中の連中がまたいた。
市民受けしそうな白いエグゾ部隊が道路のど真ん中で立ち往生してる。
ブルヘッド・セキュリティの連中だ。倒れたバンの裏側で戦ってるようだが、そこら中に砲弾の衝撃が立って怯えている。
『交戦中! 交戦中! 優先目標:役立たずのセキュリティ』
『デイジー! デイジー! 君が全て! 死ね!』
その原因は少し離れた場所だ。バケツ頭のウォーカーが何機も揃っていた。
『鉄鬼』より背の丈こそ劣るが、改めてみると武装はなかなかのものだ。
ロボットらしい無骨な造形は人型らしく武器を持っていた。片腕には盾と、もう片方にはスケールアップした機関銃を握り込んでいる。
肩には対人機銃が、反対側に四連のミサイル発射筒があるという充実具合だ。
『くそっ! いったい誰が乗ってやがるんだ!?』
『こっちにゃ市民がいるんだぞ!? 遠慮なく撃ちやがって!』
そして俺たちが差し掛かったタイミングは相変わらずだった
セキュリティの連中が攻撃に晒されながら立ち向かい、商業トラックの後ろで怯える市民たちが丸まっていた。
*VAVAVAVAVAVAVAVAVAVAKINK!*
そこに、マニピュレータに掴まれたウォーカー大の火器が激しく唸る。
盛大な金属音も添えられたやかましい炸裂音の連続だ。機関部が大きく稼働する迫力に、大口径の着弾があたり一面を砕く。
巻き込まれたセキュリティのエグゾが何名か重く弾けた。即死だった。
重突撃銃の反撃なんて効かず、市民に向けた対人機銃が悲鳴の合唱を引き出す。
『かっ固まるな散れっ! 畜生! こんなの来るなんて聞いちゃいないぞ!?』
誰かの白いエグゾが25㎜グレネード・ランチャーを構えたようだ。
しかしウォーカーは目ざとく手持ちの火器で叩き伏せた。そいつはごろっと地面に叩きつけられた。
まるで隙が無い――妙だ、さっきより攻撃の精度が増してる。
「おいおい……あのバケツ頭なんか強くなってないか? しかもなんだよあの武器、ウォーカー用の機関銃かよ」
『おそらくウィルスがそいつに馴染んだんだろうね。驚くべき進化だよ』
「適応してきたってことか」
『さっきよりも戦闘が激化してるだろう? 戦闘が長引いて順応したってことさ』
そしてまた殺戮が続いた、無人のエグゾも便乗してあるだけの弾を街へ打ち込む。
敵は多いが眺めてる分だけ都市の死者数が更新されるだろう、やるしかない。
『そ、そいつは『ルツァリ』っていうウォーカーだよ! 左腕のシールドで防御しながら手持ちの火器で攻撃する歩兵だ! 対人用の機銃と対戦車ミサイルもついてる、気を付けろ!』
「あいつ、鉄鬼より装備が強そうだぞ? 弱点はあるのか!?」
『あれは機動性をどうにか取ろうと装備重量に対して下半身の構造が脆弱になってる、足を狙え! 機体を制御するパーツは操縦席の上、要は首の中だ!』
相棒のアドバイスも受けた、鉄鬼より火力ありそうなのが癪だ。
「ニク、ロアベア、囮になるから下半身にスティレットぶち込め」
やることは変わらないか。五十口径の装弾具合を確かめて後ろに頼んだ。
「ん、分かった」
「了解っす~」
「デュオ、ノルベルト、あそこで真面目に勤務中のやつらを助けてきてくれ」
「へへ、任せな」
「心得たぞ」
「クラウディア、隙があったら首元か肩の装備にどうにかぶち込め。撃破できなくてもいい」
『よし任せろ』
それからデュオとノルベルトには人命救助だ。
クラウディアの支援も頼んだ、頭上からいい角度から攻撃できるはずだ。
そうこうしてるうちにウォーカーたちがずんずん進む、飛び込む頃合いを測る。
「――行くぞ!」
エグゾの足並みで駆けた。がしゅがしゅ駆動する足が想像以上に身体を運ぶ。
ちょうどセキュリティの連中に迫る『ルツァリ』がこっちに振り向いた。
『敵性生物発見! 撃て、撃て!』
『デイジー! デイジー! 死んでおくれ!』
バグった電子音声と攻撃が飛んでくるのは言うまでもないだろう。
機銃が、砲弾が、はっきりとこっちを追いかけてきた。
無人エグゾたちの攻撃もおまけだ。あるだけの火力が向かってくる。
「うおっ……!」
がんっと五十口径が弾けた。ほんのり足元が浮いた、耐えた。
『わっ……!? う、撃たれた……!?』
次に背中を突くような衝撃が装甲いっぱいに広がる、喰らったか。
エグゾがぎゅりっと悲鳴を上げた。腕が少し重いが無事だ、持ってくれ。
廃車を過ぎて道路を蹴って、攻撃を受けつつ走れば。
*BBashhmmmmmmmM!*
反対側の路地にたどり着く手前、スティレットの音を背で感じた。
金属の破壊的な音が確かに聞こえた。攻撃が止んだ、一瞬振り向く。
『危険を感知! 目標を変更!』
『私はおかしい! 君が好きすぎる! 死ね!!!』
ニクたちの攻撃だった、ウォーカーたちが持てる火力をあちらに構える。
機関砲と機銃がばらばらと二人を狙うが、素早く路地まで引っ込んだらしい。
「うおおおおおお走れ走れ走れ! 人命救助だ!」
「もう心配はいらんぞ人間よ! 俺様たちが来た!」
「う、うわっわあああああああああ!? ひ、引きずるなァァァ!?」
「ひ、ひいっ!? ミュータントだァァァァ!」
その間にデュオとノルベルトがやってくれた、エグゾと民間人を連れてくる
「こ、この声……デュオ社長か!?」
「あの南からきたミュータントもいやがる!?」
「なんだか良く分からないがチャンスだ! 俺たちも……!」
そんな様子に白いエグゾの集まりも勤務意欲を取り戻したらしい。
それぞれの得物を手に身を乗り出して攻撃、無人の外骨格を足止めした。
『見えたぞ、首をやる』
そこにいいタイミングでクラウディアの声が届く。
予定通りの屋上からの攻撃だろう、どこにいるかさておき。
*Baaaaaaam!*
後方のバケツ頭の首元が爆ぜた。いきなりの爆発に動きが停まる。
『こうげげっ、警戒、警戒! 制御装置にダメージ、要修理……』
『デイジ――伏兵を感知、直ちに排除しま……ッ!?』
クロスボウの奇襲にウォーカーが「獲物はどこだ」と探りを入れた――今度は別の機体の肩が爆ぜた。
ダークエルフの攻撃は実にいやらしく決まったらしい。
小さな爆発がミサイルという大きな爆発を呼んで、皮肉な形で片腕が落ちる。
『発見! 発見! 伏兵を排除せよ! 死ね!』
しかし別の機体が犯人を見つけたようで、屋上めがけて発射器のカバーが開く。
そして射出音を立ててミサイルが小刻みにすっ飛んだ。
屋上に派手なオレンジ色が上がるも、クラウディアは『ははっ』と楽しそうに逃げたようだ。
「フハハ! よくやるではないかクラウディア殿!」
そこへノルベルトが戻ってきた、手にはあの迫撃砲だ。
狼狽える姿にばきんっと砲弾をお見舞い、横合いからの一撃に巨体が震えた。
そして気づく。このウォーカーはたくさんの標的に処理が追いついていない、せっかくの巨大な銃が彷徨ってる。
「エグゾの数多すぎないか!? くそっ! どんだけいるんだ!」
俺もあわせて無人エグゾに五十口径を向けた。
人間さながらの不気味な姿を撃った、一体、二体と動き出すところを抑える。
しかし着弾に反応はしても怯みはしない、ただただ合理的に迫るのみだ。
「下っ端に配るほどあったんだ、そら腐るほどあったんじゃねえのか!?」
デュオが近くの車をひっくり返した、どうぞ、だそうだ。
滑り込んで射線を確保、一緒に身を乗り出して目につく敵にぶち込む。
そこへ機関砲が降ってきた、背中越しに車体が揺れて金属の質量が弾けた。
『ご主人、こっちにエグゾが来た……!』
『分断されてるっすね、ちょっとうちら下がるっす~』
釘付けにされていると無線が入った。
浸透してきた無人エグゾがさっきの通りへ向かっている。
「分かった下がれ! 無理するな、他の奴らに任せろ!!』
いや、逆にチャンスだ。二人が離れたならこいつが使えるな。
迫撃砲弾を掴んで絶交した。南へ向かう一団めがけて身を乗り出す。
デュオの支援射撃も挟まった――フラグ投下!
*ZZbBaaaaaaaaaaaaam!*
黒いエグゾの群れが吹っ飛んだ、流石に81㎜はキツいらしいな。
「俺様からもくれてやろうか! もっていけ、ゴーレムども!」
ノルベルトも投げようとしていたのでピンを抜いてやった。
機械顔負けの投擲力はウォーカー周りに向かったらしく。
『市民の皆様、どうか武器を下ろして楽に死ね――』
爆発の広がりに肩周りを破壊されたウォーカーが大きくよろめいた。足元のお友達も道連れだ。
機関砲の唸りが途絶えた、今だ。
スティレットを抜いて照準を起こす、準備が整ったそれを片手にして。
「ドワーフからのプレゼントだ、吹っ飛べ!」
随伴戦力なしの巨人に向けてトリガを引いた。
突き出すように構えたそれから弾が弾き飛ばされ――ちょうどいい具合に首元へ向かったようだ。
*BAAAAAAAAAAM!*
実に嫌なところに当たった、半身に明るい閃光が走る。
万能火薬の煙を立ち込めさせながらも、そいつは頼りない脚から崩れ落ちた。
『イチ君、そこをどいてくれるかい?』
その時ヌイスの声がした。
そばの車がぎゅるっとエンジンの音を立てた。
急いで避けるとフルスロットルで前進、足を引いたバケツ頭に突っ込む。
――がしゃーん。
なんとも間抜けな光景だ。暴走車を足に受けた機体が無様に這いつくばる。
まだまだ暴れ足りない車はすさまじいカーブを見せて、ついでにエグゾもがんがん弾いていく。
「カジノの時を思い出すな!」
『ここにはまだいっぱいあるからね、どんどんお見舞いしようか』
「車の修理費はバロール持ちだな! 行くぞ! 押し殺せ!」
絶好のチャンスが来た、自由を得すぎた車の群れに続く。
後ろから「あいつら何なんだ!?」とセキュリティの声を受けつつ、倒れたウォーカー周りのエグゾに弾をばら撒く、また倒した。
『きゅ、うえん要請! 脚部を損傷、メーデー、メーデー……』
倒れてじたばたと起きる努力をするバケツ頭まで迫るが、ガチっと弾切れだ。
弾倉交換してる暇はない。重突撃銃を捨ててそいつの懐に飛び込んだ。
激しく点滅するセンサーと目が合った――エグゾを乗せた腕を引く。
「あーおいお前まさか……」
「オラァァァァッ!」
ビビってんならお前の予想通りだ、クソロボット。
ついてきたデュオの予想通りだ。俺はそいつの顔面に拳を叩き込む。
――がんっ!
ウォーカーの顔面に「人間がいたら死にそう」な複雑極まりないへこみを作った。
手足が必死にもがくが続けた。首元狙ってぶん殴りまくる。
そこらのエグゾもヌイスに暴走させられた車がかっさらっていく。景気のいい破壊音だらけだ。
『きゅえ、メーデーっ、あ、あがががががががっ』
「死ね! このっ! クソロボット! ぶっ壊してやる! オラッ!』
今言えるだけの罵詈雑言をたむけてとにかく殴った。
隙間が増えた首めがけて全力の一撃を捻じり込むと――むき出しの配線が小さなスパークを起こして。
『めめめめめでっぎゅるるっ』
低い電子音を響かせながら停止した。ロボットは殴れば殺せるのだ。
中の部品やらもぶぢぶぢ引き抜くと、向こうの景色でまた爆発が起こった。
無人エグゾたちが派手に吹っ飛んだのだ。一度や二度足らず次々爆ぜていく。
『危険人物を目視! 後退、後退せよ!』
『戦力が不足している! 繰り返す、我々は戦力が不足している!』
『敵の潜水艦を発見、敵の潜水艦を発見、敵の潜水艦を発見……』
数十といた外骨格が懸命に撤退していった、だが爆撃は止まない。
まさかノルベルトかと思ったが。
「フーッハッハッハ! どうしたぁ! 俺様はここだ、良く狙えェい!」
違う、逃げ遅れたエグゾを捕まえて馬乗りのまま戦槌をご馳走していた。
デュオも見たが「俺じゃねえぜ」とエグゾで表してる、じゃあ誰だ?
『おいおいおい……俺の指導効果ありすぎだろ、どこにウォーカー殴り殺す奴いんだよ』
その時、覚えのある声が無線に混じる。
後ろで太く連なったエグゾの足音も揃って、咄嗟に足元の得物を拾うも。
「よう、遅かったじゃねえかタロン上等兵。待ってたぜ」
『げっ、少佐殿。まーた前線ではしゃいでらっしゃったんですかい?』
呑気に振り向くデュオで分かった、レンジャーカラーのエグゾ部隊だ。
その中で硝煙漂うミサイルポッドを担ぐやつもいた、タロン上等兵だ。
「イチ上等兵、期待の新人とは聞いたが誰がここまでしろっていった?」
「おいタロン、お前の教育方針はどんなものだったか思い出せないんだが」
「ウォーカーを殴って壊すやつなんて初めて見たぞ、どうだお前、やっぱり入隊しないか?」
先輩どもが集まってきた。馬乗りになるストレンジャーに親し気だ。
「おめー俺から何教わったっけ? ウォーカーの倒し方なんて伝えたっけか」
「そりゃ教え方が良かったからな」
「そうかい、なんてやつだよマジで」
『た、タロンさん……こ、この前ぶりですね……』
「ミコちゃんもいんのかよ、酔わせてねえよな?」
「この通りだ、相棒なら元気だぞ。サベージ・ゾーンのローストは見たか?」
「あそこ真っ黒こげになってて笑っちまったぜ、待たせたな」
タロンのエグゾがこっちに来た、軽口混じりで拳を合わせた。
北部部隊の面々もノルベルトと「また会ったな」と叩き合うぐらいの仲がある。
「おっ……おい、あんたらまさか、北部部隊の連中か!?」
「ストレンジャーもいやがるってか……ははっ、地獄に仏が一個分隊分きた気分だ」
「あ、ありがとう……し、死ぬ寸前だったよ……」
セキュリティチームの外骨格も立ち直ったらしい。民間人も無事だ。
しかし間も悪く、誰かの白いエグゾにがんっと五十口径の着弾が挟まった。
すぐに俺たちは身を隠した。向こうから二メートルほどの体躯が攻撃してくる。
「北部部隊が来てやったぜ! おたくらは民間人連れて下がりなぁ!」
そこへ持ち上がったミサイルポッドが白い煙をばしゅばしゅ噴き出す。
50㎜の砲撃が遮蔽物ごと敵を散らすのが見えた、敵の調子が崩れた瞬間だ。
「頼もしい連中が来てくれて何よりだ、じゃあ行ってくる」
「早い者勝ちだぞタロン殿。さて、今日はどれほど徳を積めるだろうか」
「山ほど詰めるだろうな、死んでも天国に3回ぐらい通えそうだ」
この機会を逃すものか、俺は弾倉を交換した。
ノルベルトも追いついた。セキュリティが落とした重突撃銃を投げてくる。
「行ってくるっておい、おめーら何すんの? マジで?」
「お先に失礼ってやつさ、行くぞ!」
『い、いつもどおりです……!』
俺たちは立ち止まる北部部隊を出し抜いて――突っ込んだ。
体制を立て直した敵がぶっ放してきた。12.7㎜相当の重みが装甲を叩く。
だがもうこっちの間合いだ。左手に五十口径、右手にも五十口径、二挺同時はどうだ?
「敵襲! 敵襲! 白兵戦に――」
「おせえぞ、プレゼントだ」
敵の群れに突っ込んだ、左右の得物のトリガを絞った。
*dDODODODODODODODODODODODODODOMm!*
一度やってみたかったことリストにある『五十口径二挺撃ち』が解消した。
構える敵を追いかける、隠れた奴をあぶり出す、目の前にたっぷり浴びせる。
撃たれながらもとにかくばら撒いた。目につくものは敵だ、ご馳走してやる。
*dDODODODODODODODODODODODODODOMm!*
敵陣で目に付く限りぶっ放してると、外骨格が距離を置き始めた。
それでも撃ち続ける、動く敵を銃口で牛追いしてると。
「おまっ、正気かよ!? どこに敵に突っ込んで暴れるやつがいんだよ!?」
「教育指導の問題はお前にあるからなタロン! とんでもねえやつ送って来やがってプレッパーズの野郎ども!」
そこへ後続の連中もきた、攻撃に加わってそこらじゅうが銃火で満ちた。
「後退せよ! 後退せよ! 味方と合流せよ!」
「エラー、エラー、エーー」
ヴァルハラの方角へ逃げる姿もあった、銃口で追いかけるが弾切れだ。
「戻ったっす~! 皆様ご無事っすかね~?」
「ご主人、大丈夫……!?」
いいタイミングで犬とメイドが立ちふさがる、抜かれた剣に足が折れた。
続けざまに切っ先を脇腹に立てて中身を壊したようだ。
ニクも別の敵を蹴って倒して槍でぐさりだ。すっかり慣れてる。
『爆発矢がそろそろ切れそうだぞ! 補充してくる!』
更に別のエグゾが内側から爆発。クラウディアが手を振ってから姿を消した。
「無事だったか二人とも! ご覧のとおり北部のものどもが来てくれたぞ!」
「タロン様じゃないっすか、来てくれて嬉しいっす~」
ノルベルトも逃げ遅れを捕まえて地面にはっ倒してる。
逃れようと暴れた結果、突き立てられた戦槌で念入りにぶっ壊された。
せっかく来てくれた北部部隊の連中は「なんだこれ」といった感じだ。
「……俺ってよ、教育センスあったのかな? 死屍累々じゃねーかよもう」
タロン上等兵は『主成分:エグゾとウォーカー』の屍の山を見て戦慄してる。
「あとで中佐殿になんか言っとこうか?」
「うちの中佐ならレッド・プラトーンの件でさんざん嫌な顔してたんだ、これ以上悩ませるとハゲるぜありゃ」
「それは困るな。もっとぶっ潰してストレスの原因を片づけとかないと」
「准尉と中尉もいるぜ、ジータ部隊集合中ってやつだ」
「ったく、これだから擲弾兵様はおっかねえぜ」
「こいつはプレッパーズの最終兵器だろ、これくらいやってもらわねえとな」
近くからは激しい戦闘の音が良く響いてる、通りをなぞった先か。
行くぞとデュオに促されてずんずんと進んだ。今度は北部部隊も一緒だぞ。
「北部部隊だ! あいつらきてくれたぞ!」
「――す、ストレンジャー! ありがとう! あんたは命の恩人だ!」
「す、すげえ……ウォーカー壊しやがった、噂はマジだったんだ……!」
「社長! 死ぬんじゃねえぞ! あのクソ機械どもをやっちまってくれ!」
途中、建物から安全をかぎつけた市民たちがぞろぞろやってきた。
デュオのエグゾの気さくな手ぶりに安心して逃げていった。
セキュリティの連中が誘導してくれてるらしい。もっと安全にしてやろう。
◇




