表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
354/580

118 ブルヘッドの戦い(1)


「よーし、聞け戦友ども! バロールの縄張りで好き放題やってる無人兵器がいやがる、まずはそいつらからどうにかすんぞ! 飯食って着替えてひと騒ぎに備えろ!」


 地下駐車場を出てすぐ、地上にいろいろな武器が運び込まれていた。

 スカベンジャーからトラックの荷台までこき使って様々な顔ぶれが揃ってる。

 拳銃から重機関銃までは当然、ドワーフお手製の武器から爆薬まで腐るほどだ。


「オメーら、重突撃銃と五十口径の弾倉よこしな! 手投げ弾もだ!」

「迫撃砲あったから改造してやったわい! 持ってけ野郎ども!」

「スティレット対物発射器もっとないのか! 一人一本じゃ足りねえ!」

「今急いで作ってるから待ってやがれ! ドワーフ使いが荒い奴らめ!」

「ドワーフの爺ちゃん! でっかいゴーレム吹っ飛ばす爆弾とか作って!」

「フェルナアアアアアアアアァッ! 今そんな場合じゃないだろう!?」

「そういうと思って作ってやったわ! やつらの背中にくっつけてこい!」


 フランメリア人どもはすっかりいつもの調子だった。

 底知れぬ火力が集まってかなり攻撃力のある光景だ。

 避難してた人々が「こいつら正気か、戦うのか」とばかりの目線だった。


「今度は都市で戦争か。俺って道行く先を戦場に変えるジンクスでもあるのか?」

『どうしてこんなことになっちゃったんだろう……』


 そんな場所、俺は人目もくれず着替えていた。

 ロアベアにきっちり補修されたダークグレーのジャンプスーツだ。

 ジッパーを閉じてアーマーを装着、ヘルメットも被って余すことなく防御性を得た。


「ストレンジャー、ちょっと待ちなさい」


 身体に小火器を括り付けようとしたところで澄んだ声が届く。

 バイザー越しに振り向けば、栗毛の美女がエミリオと一緒に来ていた。

 その手には両足分の黒いブーツがぶら下がってるようで。


「よお、身だしなみのチェックでもしてくれるのか?」

「まあそうなるね。ヴィラが君のためにブーツを作ったんだ、スカベンジャー仕様な頑丈なやつさ」

「サイズなら心配しないで、勝手に調べさせてもらったから」


 投げ渡された。適度にずっしりとした新品の手触りがする。


「新しいブーツか、しかもお手製か?」

「ええ、ブルヘッドの最新素材をふんだんに使ってるわ。本当は運動性を重視した造りなんだけど、あなたのために少し調整して実戦向けに調整済みよ」


 革のようで、そうでもないような、そんな質感だった。

 紐から靴底まで足のつくりを考えて徹底されてて、見るだけで動きやすそうだ。


『そういえばいちクンの靴、ボロボロだったもんね……』


 肩の短剣にそう言われて思い出した、今履いてるものを足ごと持ち上げる。

 シェルターから度重なる実戦を経て戦いの傷跡がたっぷりだ。

 すり減った形といい削げ落ちた表面といい、思えばこいつも長らくの相棒か。


「なるほど、ちょうど変え時って感じだな」

「ウェイストランドでは足は命そのものよ。勇敢なあなたならなおさらでしょ?」


 ヴィラは人様の靴を見てとても関心してる――そうだな、靴を履き直そう。

 言われた通りにした。世話になったそれを脱いで、新しい靴に足先を通す。


「おっ……? するっと入ったな」

ぴったり(・・・・)じゃないから安心して。夏だろうが冬だろうが街中だろうが戦場だろうが通用するわよ」


 見た目は少しきつそうに感じるが、いざ入れてみれば全然違う。

 爪先から足首まで心地いい感じだ。変な圧迫も不自然な突っかかりもない。

 すとんと収まった足が前より軽い。持ち上げてみれば腰まで馴染んでるようだ。


「どうだい? ヴィラはスカベンジャー向けの装備品を作るのが得意なんだ、そういう靴とかもね」

「前より足が軽く感じる。で、これで人蹴っても大丈夫だよな?」

「一発きついのぶちかましてやりなさい。気に入った?」

「気に入った、こんなの貰っていいのか?」

「私の情熱と材料を惜しみなく使った一品よ。本当ならかなりのチップをいただくんだけど、いろいろお世話になったお礼だからね?」

「二人に感謝しながら大切に使うよ、ありがとう」


 二人は自慢げだ、それだけいい品ってことだろう。

 少し動いて靴の具合を確かめてると。


「はい、それとこれも。あなたの大切なパートナーへ、私からの贈り物よ」


 ヴィラは続けざまに何かを取り出した、薄黒い鞘だ。

 人工的な革がえらく丁重にナイフの形に合わせられていて。


「もしかして……ミコのか、それ?」


 それはちょうど、肩に戻った相棒にあてはまるはずだ。

 『えっ私……?』と言葉をかしげる相棒にヴィラはにっこりしてる。


「ええ、ミコサンのよ。その鞘もだいぶ使い込んで傷だらけでしょ?」


 向かう先は、初めての給料で買った思い出いっぱいの鞘だった

 相棒を支えた姿は数々の戦いで紐がほどけ、端も裂けて機能性が損なわれてる。


『……そういえば、あの時いちクンがお給料で買ってくれたんだよね、これ』

「ああ、ナガン爺さんから買ってからずっと一緒だったな」

『うん、長い付き合いだよね……』


 そこへどうぞ、と鞘が渡された。取り換えてやろうと手が進むが。


『……なんだかちょっと寂しいな、この鞘と別れちゃうの』


 ミコがそんな声をもらしたせいで「やめ」だ。

 俺も同じ気持ちだ。こんな言い方どうかと思うが、この鞘はミコの家や保護者みたいなものだから。


「でもぼろぼろでしょ? 取り換えた方がいいわよ?」

『えっと、うん……そうですけど、この鞘って思い入れがあるんです。いちクンが私のために買ってくれたものだし……』


 そんなご本人から事情が伝われば、ヴィラは「なるほど」といった顔だ。


「そうだったのね、ごめんなさい。彼氏のプレゼントなら思い出がいっぱい詰まってるし、大切な物よね?」

『かっ、かれっ…………は、はい……!』


 それからニヤっとされた。ミコの照れた息遣いが良く伝わる。

 そうだな、こうするか。


「じゃあこっちの鞘はこいつのにするか。ヴィラ、後でミコの鞘を修繕したりできないか?」


 腰の銃剣を鞘ごと抜いた。こっちも中々に使い込まれてる。

 黒い刀身を突っ込んでみると意外なほど馴染む。軽やかな手触りだ。


「ええ、できる限りのことはするわよ? あなたたち二人は私の恩人だもの」


 鞘を取り換えると、ヴィラは満足そうな顔で隣にくっついてた。


「君と出会って大変な目に会ってるけど、悪くないものさ。こうして二人で活気に満ちた毎日を過ごせてるんだからね?」


 エミリオもいい表情だ。照れ臭いような、それでいて幸せそうだ。


「お前の彼女自慢を聞くたびに困ったけどさ、お前らっていい仲だと思う」

「お褒めの言葉をありがとう。あなたも彼女さんのこと大切にするのよ?」

「それもストレンジャーの仕事だ、ぬかりないさ」

「彼女の前でそんなことを堂々と言えるあたり流石ね。いい仲だと思うわ」


 俺は笑って返した。ミコも『ふふっ』と優しく笑んでる。

 じゃあ古い装備はどうしようかと悩んでると。


「古い靴やら鞘やらは私がもらっていいかしら?」

「引き取ってくれるのか?」

「ええ、ストレンジャーの身に着けてた品っていい自慢になると思わない?」


 処分先もすぐに決まった、こいつらの物語はヴィラが引き継いでくれるらしい。 


「そうだな。お前が末永く自慢するためにも――」


 ぼろぼろの靴と鞘を手渡して、通りを見た。

 ずんずんと歩く音が近づいてる気がする。戦いの雰囲気は広がる一方だ。


「悪いロボットとその原因を作った馬鹿を懲らしめないとな」

「ああ、このままじゃせっかくの安泰な暮らしが全部台無しになるからね」

「ここの歴史が今日で潰えるのはごめんよ。これから職人として名をはせる予定だったんだからね」

「お前らはどうするんだ?」

「ランナーズを連れて戦うよ。俺たちだってできることはあるだろうし?」

「せっかく新しい住まいと新車を手に入れた以上、これからのために戦うに決まってるわ」


 武器を身体に括り付けてると、二人の後ろからぞろぞろ人の気配がやってきた。

 スカベンジャー特有の仕事着に着替えた連中だ。

 動きやすい灰色の服にポーチだのをくっつけたそれは、間違いなくフォート・モハヴィで見たもので。


「いっそ財産もって壁の外まで逃げようと思ったんだがな、それだとあいつら(・・・・)に負けて逃げたみてえで気持ちが悪いんだよ」


 その先頭にボレアスがいた。


「俺たちはついこの前さんざん逃げ回ったからな、もう脱兎のごとく振舞うのには飽き飽きだ」


 サムもだ。スタルカーのそばには他の同業者たちもいる。


「よう、あの時はどうも。追い回された時以来だな?」

「リンチの現場から救ってくれたのは、まあ忘れられないっつーか」

「やられっぱなしは悔しいからね、私たちらしく戦うわ」

「あんたがライヒランドを倒した実績を見込んだ上だ、やってやるよ」

「この前は世話になったな、あんたがやる気で俺たちも奮い立ったぜ」


 お互い濃い経験をしたせいで見覚えはある。あの時助けた連中が勢ぞろいだ。

 親しい笑いを交わすほどの縁はこうして律儀に戦いに加わってくれている。


「一応聞くけどスカベンジャーの皆さま、相手はお前らの嫌いな無人兵器だぞ」

「お前よりここ(・・)の構造を理解してるんだ、嫌がらせぐらいはしてやる」

「やばいと思ったらすぐ逃げるから心配はいらないぞ、向こうで懲りたからな」


 そんな面々はボレアスとサムに率いられて武器を受け取りに向かった。


「――イチ! おめかしの時間だぜ、早く来いよ!」


 残った装備をバックパックにまとめてると、デュオのはしゃぐ声が届く。

 向こうで作業員が運んだエグゾアーマーが搭乗者を待ちわびてた。


「デュオ社長、彼もですか?」


 周りの作業着姿は「お前乗れるのか?」と言いたげだが。


「心配はいらねえさ、レンジャーどもから指導済みだぜ?」

「彼のことなら心配はいらないぞ。気前よく一着くれてやりなさい」


 社長ご本人とフォボス中尉の口の前にすれば「どうぞ」だ。

 言われるがままに近づいた。キャンプ・キーロウで見たのと同じタイプか。


「……このサインはなんだ?」


 装甲開閉用のレバーに手をかけるが、ふと気になる。

 アーマーの目立つところに覚えと親しみの籠ったマークがあった。

 棒状の手榴弾とシャベルが重なる姿は、なんというか擲弾兵らしさが強い。


「識別用の印さ、イカしてるだろ?」

「擲弾兵のシンボルってやつだ、あんただって嫌でも分からないか?」

 

 そんなものを描いてくれた地下作業員たちが悪戯っぽく笑ってる。


「ご親切にどうも、俺らしくて最高だ」


 期待に応えてやるべく腰のレバーを引いた、がしゅんと背中が左右に開く。

 布地の張られた内側はちょうど人型を誘ってる。

 装備ごと入り込めば、外骨格の機構が身体を持ち上げてくれた。


「悪い、誰か背中にバックパックつけてくれないか?」


 背中が閉じて着ている(・・・・)感覚が来ると、俺は誰かに頼んだ。

 ニクが受け止めてくれたらしい。「ん」と装甲に荷物が触れる感触が伝わる。


「いいかミコ、今度は転ばないからな」

『……いちクン、まだ気にしてたんだね』

「あれ以来エグゾ見るたびに嫌な顔した整備班の皆様が思い浮かぶぐらいだ」

『うん……すごく面倒くさそうな顔してたの覚えてる……』


 訓練を思い出して、いつもの動きに重さを加味して踏みしめる。

 エグゾ向けの大ぶりの一歩だ。ずんずんとした歩幅でデュオまで近づく。


「うんうんいいね! 上手だぞイチ上等兵!」

「へー、マジで乗りこなしてやがるなぁ」

「だからいっただろう、デュオ少佐。彼の戦闘センスは素晴らしいのだ」

「そりゃ北部部隊が欲しがるわけだよ。だがな中尉、俺だって負けてねえからな?」


 鑑賞中だった社長殿も着込んだようだ、がしんとエグゾに組み込まれる。

 中の身の丈に合った装甲は俺よりずっと軽やかに歩いてきて。


「似合ってるぜ、まあ俺の方がもっと様になってる気がするけどな」

「まだエグゾで敵をぶちのめしたことがないからな、これからだ」

「言ったな? お前の成長性(これから)に期待してるぜ?」


 俺は機械の手を経てハイタッチした。

 それからトラックのたまり場へと向かえば、手慣れた様子で武器を検めるフランメリア人だらけだ。


「ってうおっ!? なんだテメーらゴーレムか!?」


 誰がゴーレムだ。第一声はエグゾ用重機関銃をいじるスピロスさんだった。


「中身はちゃんと人間だぞ、この声に覚えはないか?」

『スピロスさん、わたしたちです! いちクン乗ってますから武器降ろしてください!?』

「みんなの大好き社長もいるぜ、イカしてるだろ?」


 三人で存在感を出すと、荒ぶる牛の顔立ちは「お前か」と安心した。

 デュオが荷台から降ろされた武器をくいくい求めるとその手に従って。


「お前かよ、どうしちまったんだその格好」


 プラトンさんの熊の毛だらけの太腕がお目当ての物を投げてくれた。

 理解力から選ばれたのは手持ち式に改造された五十口径だ、キャッチ。


「ちょっとしたイメチェンだよ、似合うか?」

「機械の鎧さ、熊の旦那。今の俺たちはあんたらほどじゃないが力持ちだぜ?」

「敵のゴーレムそっくりでいい気分はしねえな、まあ色やら模様は違うっぽいけどよ」

「敵をぶち殺しまくってるのが俺たちだ、そいつで判断してくれ」

「そういうわけだから間違えて襲わないように努めてくれたまえ、いいな?」

「言いやがって。ほら、予備の弾だ」


 弾薬箱も何個か受け取った。腰のマウントにあるだけ突っ込む。

 一つを銃本体にセット、むき出しの弾を噛ませてレバーを引いて装填完了。

 ついでにトラックに立てかけられたスティレットも何本か貰った、後は――


「わしらも背丈があれば着てやるってのに……」

「て、手足短いもんね……くくくっ……!」

「笑うなクソエルフめが! わしらだってすき好んでこんな樽みてえなしとんじゃないわい! 今に見て俺すげえもんみせてやる!」


 ものすごく羨ましそうにこっちを見てるドワーフの爺さんがいた。

 そばで笑いをこらえるエルフが見えたが、何かないか尋ねてみよう。


「敵をぶっ飛ばせる奴をくれ、あんたらの代わりにぶちのめしてやるよ」

「そういうと思ってすげえの用意したぞ、飛ぶぞこれ」

「何が?」

「敵が」


 しかし無念そうなドワーフボディは待ってましたとばかりの様子である。

 木箱いっぱいに並んだ81㎜ほどの迫撃砲弾――を外殻でごてごてに包んで安全リングと時限信管をくっつけたナニカだ。

 一目でやばいとわかる冗談めいた「手投げ迫撃砲」だが。


「フハハ、その身体ではちょうどよいサイズではないか?」


 ノルベルトがアラクネジャケットの上に何個か取り付けているから本気らしい。


「やっぱこれくらいねえと駄目だな、手投げ弾は」

「俺だったらもっとデカくてもいいぜ、100m先までぶん投げてやる」

「全員市街地だということを忘れるなよ、ここの民を吹き飛ばすような真似は許されんぞ」


 牛熊ボディから茶色いオークだってスナック菓子感覚で持ち歩こうとしてる。

 ブルヘッドの市民の皆様へ破片と爆風が及ばないことを願おう。


「そういえばお前、こういうのぶん投げてたよな……」

『ノルベルト君、そんなにもって大丈夫なの……?』

「案ずるな、人に危害を加えぬよう最善を尽くすぞ」

「そりゃ頼もしいことで。デュオ、お前は?」

「俺はごめんだぜ、なんつーか身軽な方がいいな、うん――ボスに今のお前見せたらどんな顔すんだろうな」

「じゃあ写真でも撮って後で見せてやれよ」

「そりゃいい考えだ、おいカメラマン! ちょっと来てくれ!」


 一通りの武装を施して火力マシマシになると、そんなところに人骨がやってきた。

 エルドリーチだ。なぜかカメラを手にしてる。


「ちょうどよかったな、オイラが撮ってやるよ」

「エルドリーチ、なんでカメラ持ってんだお前」

「思い出作りさ、社長もご一緒にどうぞ」

「いいね、アドバイス通りボスに送ってやろう」

「では俺様も映ろうではないか、格好良く取っていただこうか?」

「うちも映るっす~♡」

「ん、ぼくも一緒」


 ポーズを求められたのでデュオと一緒に写った、今ならノルベルトとメイドとわん娘もしれっとおまけだ。


「俺も映る~!」

「フェルナアアアアアアアアアアッ! 爆弾持ったまま走り回るなァァァッ!」

「うちのリーダーがごめんなさーい、あっ私もご一緒でいいですよね」

「我らの大将が申し訳ございません! こらっ物騒なものを外せせめて!」

「愚かな人類どもの懐で一枚とってもらいましょうか、いい思い出ですね」


 なんかぞろぞろやってきた、俺の周りはあっという間に情報量過多だ。

 いい思い出をどうも。撮影が終わるとデュオはトラックの荷台にずんずん近づき。


「ヌイス! 現状説明頼むわ!」


 側面のモニタを背に立った、説明モードだ。

 一声を受けたヌイスは熱気とやかましさでごった返すさまへとやってきて。


「よし、手短に説明するよ。ひとまず我々がすべきことはバロール・カンパニーの保有するエリアの安全確保だ」


 たくさんの戦士でも分かるような現状を表示してくれた。

 画面いっぱいに映るのは例の地図、そしてどこかを映すカメラの映像だ。


「今回はブルヘッド・セキュリティの協力で市内のカメラを使わせてもらってるよ。これが今の街の現状だ」


 まずこれをみろ、とばかりにブルヘッドの都市らしい風景が拡大された。

 ひどい有様だ。人型のウォーカーがお散歩中、無人のエグゾが戦術的に移動し、しまいには戦車らしきものすら走り出してる。


「……なんだこれ世界の終わりか?」


 思わずそう口にせざるをえないほどの様子が続いた。

 無人兵器どもはビルから公共施設に至るまで砲弾と機関銃を打ち込まなきゃ死んでしまう病気でも患ってるに違いない、

 そこにはセキュリティと思しき連中や、傭兵たちが交戦してる様子もあれど。


「北部から次々と無人兵器が南下してるんだ。向こうじゃラーベ社の保有する私兵部隊や傭兵が鎮静化させようと努力してるけれども、見て分かるよね?」


 ヌイスが呆れてしれっというように芳しくない。

 確認できるのは四種類の敵か。

 二足で歩き回る趣味の悪いやつに、四足歩行の重たいやつ、それにセンサーを積んだ履帯持ちの車両。

 そこへ無人で暴走するエグゾの群れ――どうなってんだ。


「ああすげえ分かる、もう少しでこの世が終わりそうだ」

「そうならないように今から君たちが頑張るんだよ」

「軽く言いやがって」


 そんな連中相手にヌイスは「頑張れ」だとさ。

 人間様はともかくさすがのフランメリア人は「やってやる」って気概だ。


「ひとまずはこうだね、暴走した無人兵器は南側、つまり私たちのいるバロールの領域まで踏み込んでるんだ」

「どうしてこっちに来てるのかはあいつらに直接聞いたほうがいいか?」

「どうして南下するのかは分からないけれども、私の推測だと少しでも人類を減らそうと殺す場所を選んでると思ってるよ」

「いっぱい殺せる場所をお望みってことか、機械の癖に最高だな」


 大暴走の様子はともかく、地図が拡大された。

 現状にあわせたいびつなピザ(・・・・・・)だ。カジノの一件でかすかに変わったが、ところどころが点滅して敵の存在を訴えてる。


「このヴァルハラ・ビルディングに直進する戦力が多数いるみたいだ。その数は不明、しかも民間人もいっぱい取り残されてる」


 その上でヌイスは続けた、指先が触れると敵はどれだけいるかが協調された。

 北部の末端からバロールの保有エリアぎりぎりまでいらっしゃるらしい。


「だから困った人を助けて、見える敵をぶちのめして安全な場所を広げてくってのは難しい注文かい?」


 そこから出てくるデュオの注文はかなりぶっとんでた。

 無理難題だろう、本当なら――しかし。


「スティングとあんま変わらねえよな」

「ここの住人にとって隠れる場所も多いからな、見つけるのも簡単だろ」

「敵を倒せばその分助かるんじゃろうし楽勝なもんよ」

「人手も足りそうですしね、さっさと救助してご機嫌取りましょう」


 みんな余裕そうだ、そういうやつだったフランメリア人。

 ヌイスはもう「ああうん」と納得した様子で。


「それからもう一つ、我々がここを取り戻す理由の一つはニシズミも関わってるのさ」


 地図をまた注目させた、複雑なブルヘッドの入り組みについてだ。

 こうして見るとニシズミ社の持つ領域はバロールとぶつかって、妙な陣取りゲームを描いてる。

 今じゃバロールの色合いに包まれて無人兵器の脅威からたまたま守られてるようにも見える――なるほど。


「俺たちが頑張ればニシズミの連中も助かるんだな?」


 そういうことなんだろう、俺たちの活躍次第であいつらも助かる。

 皮肉にも複雑な縄張りの取り合いが向こうに助かる道を作ったらしい、ということは。


「正解だね、だから向こうは協力を惜しまないつもりだ。じきに西から支援がくる、だから我々は協力し合う形で行動ができるわけだね」

「利害が一致するってのは気持ちいいねえ」


 デュオもそういってるが、向こうにとっても利益だ。

 なるほどニシズミの奴め。あんなに自信ありげに支援するとか言ったのはこれが理由か。


「どんな支援がくるんだ?」

「分からないさ、でもイチ君、君が喜ぶようなものを用意するってさ」

「俺が? ジンジャーエール一生分か?」


 そして俺も絡んでるか、そうか、頼りにしてるぞニシズミ。

 ジンジャーエールは流石に冗談だが、ヌイスはうなずいてから。


「細かく説明してやりたいけど時間がない。状況が状況だ、私はできうる限りサポートはするつもりだからここにいる人員で可能な限り広く制圧してほしい――できるね?」


 とてもシンプルなお願いをしてきた。

 できるとも。スティングを明るくした俺たちにはとても単純な問いかけだ。


「楽勝さ、どうせいつもどおりだ」


 俺はエグゾ越しに得物を持ち上げた。

 それが合図になったんだろう、ヴァルハラの好戦的な連中も動き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ