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116 ウォーカー大暴走


 駐車場を登って前触れのない音と振動を追うと、また遠くから爆音が聞こえる。

 続いて乾いた連射音がどこかで弾けて、どどどどんと連なった砲声も届く。


「うわあ、冗談だろう……どうかそうだと言ってくれよ!?」


 通りまで出たところでエミリオがどうにか音の発生源を探っていた。

 都市らしい光景の中で耳にしたくない環境音なのは間違いない。


「あんまりこんなこと言いたくないけど、こういうのフォート・モハヴィで聞かなかったか?」

『この音……どこか攻撃されてるよ!?』


 俺には嫌でも分かる音だ。誰かがウォーカーサイズの火器をぶっ放してる。


「俺の経験と耳が確かなら機関砲の音が聞こえるよ。ああ、最悪だ……!」


 イケメンの耳には覚えがあるせいか、事の重大さにすぐ気づいたらしい。


「くそっ! ちゃんと毎週お祈りするからどうか悪い冗談であってくれ神様!」

「同感だなボレアス。ご近所のクソな隣人がやかましくしてるのとはわけが違うんだ、こいつは最悪ってレベルじゃねえぞ」


 ボレアスとサムも顔色いっぱいに「最悪」を浮かべていた。

 スカベンジャーたちが勢ぞろいで警戒する都市の北側からは、あってはならない砲声がしつこく繰り返されている。


「間違いない、ウォーカー用の火器の発射音だ……!」


 しかし困った、ラザロに至っては非常に心当たりがあるらしい。


「……もう遅かったのかもしれませんね、これは」


 心当たりのあるメンバーで実に(・・)気にかけてると、ニシズミ社の人間は諦めたような物言いだった。

 そういうことなのだ。今まさにブルヘッドのどこかで無人兵器が暴れてる。

 だが実感がなかった。というのも、街の住人たちは特に気にしてないからだ。


「それにしちゃみんな落ち着きすぎじゃないか……?」

『そうだよね、音だけじゃ説得力がないだけかもしれないけど……』


 確実に砲声やらがあるのに「今のはなんだ」と緊張感に欠ける姿ばかりだ。

 そこへ爆音や振動が折り返されても、街の様子から原因は何かと探るだけで。


「壁の内側で濃縮されたブルヘッド生活の弊害だな、俺たちと違って実戦(・・)に疎いのさ。悪く思わないでくれよ」


 こんな光景はデュオの表現通りなのかもしれない。

 確かに壁の中は好き放題にやる企業はあれど、その無秩序さは外よりもマシだ。

 だからこそ危険のしきい値(・・・・)が俺たちと違うんじゃないか?


「無理もない話よ。荒廃した世とはいえ格段と平和な場所なのだからな。こうなってしまえば実物大の恐怖が迫らん限りは変わらないぞ」


 ノルベルトの意見も「仕方ない」といわんばかりだ。

 すぐそこを見れば、事情が分かるやつ以外はいつも通りの営みをしてるのだ。


「……なんだか変な気分になっちまうな。どう考えてもやべえのに、ここの連中は暢気すぎるんだぞ?」

「おい、戦いの音が聞こえるのは間違いないよな。こいつら避難とかさせなくていいのか?」


 スピロスさんとプラトンさんも一歩前に出て、そう心配してしまうほどだ。

 本当に無人兵器の暴走なんてあったのか? 俺たちの考えすぎじゃないか?

 ビルから出てきた一団がきっとそんな考えまで至ったであろうその頃合い。


*DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOMm!*


 ひどいタイミングで覚えのある音が響いてきた。

 機関砲のつんざくような速射だった。それも近い、通りの方からだ。


「おいおいおいおい……気のせいじゃなかったみたいだぜ、こりゃ」


 いきなり街中で野太い砲声が聞こえていい顔でいられるやつがいるだろうか?

 いるわけがない。デュオが「やべえ」といっぱいの表情で発生源を探した。


「てことは、マジで無人兵器が暴走してますよと。そういうことなんだな?」


 俺たちはすっかり臨戦態勢だ。街の連中が遅れて騒ぎ出すのもようやくだった。

 だがすぐに正体が判明した。遠くの人の流れが騒ぎ出すのが見えたからだ。


「う、うわっ、うわあああああああああああああッ!?」

「なんだあれ……うぉ、ウォーカーだ! ウォーカーが暴れてる……!?」


 こっちに向かって人混みが逃げて来た。

 口々に悲鳴を上げて、しかも『ウォーカー』という単語まで出てる。


「……うぉ、ウォーカー……!? まさか……!?」


 そんなひどく力強いワードにラザロがはっとしたその時だ。

 ずしん、ずしん、と向こうから黒い影が現れた。

 それもデカい。目測で五メートル以上はあろう背を揺り動かす何かだ。


「……ラザロ、あなたの予想はあってたようですね、実に」


 エヴァックが呆気にとられるのも無理もないはずだ。

 ウォーカーという名の通りそいつは確かに歩いていた。

 自動車を軽々踏みぬく足を運び、黒光りする身体があたりを見回す。


『市民の皆様、こんにちは! 降伏か! 死ね! 降伏か! 死ねや! 降伏か! 死ね!!』


 その上で電子的なボイスがこう告げるのだ、こんにちは死ねと。


「あー、どうも、お前先日どっかで会わなかったか――くそっふざけんな!?」

『うぉ、ウォーカー!? しかもあれ、ノルベルト君が倒したのと同じ…!?』


 その姿や動きは前にも目にしたものだ。

 丸みのある胴体を四本の足が支え、丸みのあるボディに機関砲つきの砲塔を乗せた姿はよく知っていた。

 前にウォーカーで逃げる俺たちを待ち構えていた機体――『パウーク』だった。

 砲塔が標的を追いかけ、足踏みをしながらそこらの人間を踏みつぶそうと狙っている。


*Do-DO-DO-DO-DO-DO-DOMm!*


 遅い間隔の機関砲が逃げ回る人々を撃って追いかけて、所かまわずの砲弾が街並みを破壊する。

 山ほどいる標的をいちいち丁重に狙っているんだろう。逃げる人間大をぎくしゃく探って砲弾をばら撒いていた。


「そういうことか。君たちのカジノ強盗の帰り際に出てきたのは、もう既にウィルスの影響を受けた……」


 ヌイスがじっくりと観察していたがそんなことしてる場合か! 白衣を引っ張って物陰に隠れた。


「おいラザロ! なんでウォーカーが暴れてんだ!? ラーベのやつらが攻め込んでるのか!?」


 すると流れ弾がどんっ、と近くの壁をえぐる。

 次第に通りは大騒ぎだ。暴れるウォーカーと逃げる人々の構図がまるでパニック映画の様相だ。


「ひっひぃぃぃぃぃぃ!? お、俺が知るかよぉぉぉ!?」

「まったく見た目も構造も悪趣味な機体ですね! 逃げますよ!」


 ラザロも慌てて車の陰に隠れた。エヴァックもご一緒にやってる。

 趣味の悪いあれの射線を避けつつ、地下駐車場への下り道に隠れるも。


「おっ――おい、こっちに来てんぞあのゴーレム!?」


 誰かが、そう、スピロスさんが大声でそう言った瞬間だ。

 獲物を求めて滅茶苦茶に上半身を振っていたパウークが止まった。

 逃げ回る市民のかわりにちょうどいい俺たちに、砲塔のセンサーがきらめく。


「ああ、ほんとに趣味が悪いな……全員ヴァルハラまで引けェェェッ!?」


 砲塔の機関砲もこっちを向いたのは言うまでもない。


*Do-DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOMm!*


 あの砲口が吠えた。オレンジ色が周囲で爆ぜた、全力で引っ込んだ。


『ちょっ、おまっ、ゴーレムこっちきてるうううううううううう!』

『フェルナアアアアアアアアアアアアア! 見てる場合かああああああああ!』

『オメーら逃げろ! 冗談じゃねえ街中でゴーレムが暴走だぁぁぁ!?』

『おいそこのお前! 転んでる場合じゃねえぞ早く来い!』

『ここの奴ら助けながら逃げろ! 早くしろ!』


 あれはまともな装備もなしに挑む相手じゃない。俺たちは満場一致で逃げた。

 次の瞬間には滅茶苦茶な照準が通りいっぱいに砲撃をまき散らした。

 スピロスさんたちは逃げ遅れた住人を担いで走ってる、何かしなければ。


「イチ! 使え!」


 そんな時、後ろから声がした。

 見ればドワーフの爺さんどもがこっちに大急ぎで走ってくるところだ。

 短い腕はバックパックと愛用の武器を掴んでた、ひったくるように受け取る。


「こんなこともあろうかと『スティレット』を作ってきたぞい!」

「一人一本だ! 何体いるか知らんがそいつもって一発お見舞いしてこい!」


 続けて台車いっぱいの使い捨ての対物発射器がごろごろ運ばれてきた。

 なんて準備がいいんだ。大安売りとばかりにぶっこまれた一本をいただく。


「お前ら! スティレットきたぞ! 狩りの時間だ!」

『か、狩りって……あれと戦うつもりなのいちクン!?』

「いつも通りだろ!?」


 そうとなれば話は早い。バックパックに固定してさっそくUターン。

 斜面から身を出せば、そこに上半身を滅茶苦茶に振り回すパウークがいた。


「う、おおおおおおおおおおおおお!? なんで俺ばっか狙うんだクソがああああ!」


 どういうことなのかは分からないが、プラトンさんが追い回されてる。

 けっこうな勢いで逃げるせいか照準が重ならず、小さな爆発が熊の巨体を追いかけるという珍妙な有様だ。


「お前ここにきて太ったからだろプラトン!? しっかり捕まってろ人間!」

「は、はいっ!? 分かりましたから食べないでください!?」

「くわねーよバカ! こっちだ! 早く逃げろ!」


 しかしいい囮になってる、スピロスさんが通行人を抱っこしながらやってきた。

 後ろにはパニック状態のままついてくる街の連中もぞろぞろだ。


「ご主人、どうするの……!?」


 その光景を前にニクが尋ねてきた。しっかり使い捨てのランチャーを握ってる。

 なぜだか敵はあの武器を効果的に使えてないようだし、明らかに複数の目標に対応できてない、となれば――


「行くぞお前ら! 一発食らわせて離脱だ!」

『本当に行くの……!? わ、分かったよ……!?』

「ん、分かった」


 ここにもう二人追加だ。かく乱して別のやつの攻撃チャンスを作る。

 ハイド短機関銃を抜いた。こっちに気づいたスピロスさんとすれ違った。


「おいおい正気かよストレンジャー……!?」

「おお……! ウォーカーに立ち向かうのですね……!」

「何やってんだお前ら!? 囮になるからヴァルハラまで逃げろ!」


 途中で隠れたままのニシズミ社の二人が見えた、早く行けと促しつつ構えた。


「おい! こっちだ下手くそ!」


 狙いはスピロスさんにまだ夢中なウォーカーのセンサー部分だ


*Papapapapapapapapakink!*


 走りながら撃ちまくった。金属音混じりの45口径の銃声が良く響く。

 弾をばら撒きつつ横切ると挑発に乗った黒いボディが持ち上がる。

 誰かさんを敵として認めてくれたようだ。機関砲が持ち上げられて――


「た、助かったぜイチ! ったく俺も太っちまったか!?」

「ご主人! 隠れて!」


 そこにニクが手にしていた『スティレット』の安全装置を抜くのが見えた、射撃を中止して走り込む。


*bashmmmmmmm!*

 

 背後でランチャーの発射音がした。ばぎんっと装甲を捻じる感覚も伝わった。

 一瞬向いた。面積いっぱいの上半身のどこかに当たったらしい、攻撃が停まる。


『警告、無駄な抵抗はやめなさい! 死ね! 抵抗は無意味だ、死ね!』


 ところが何一つ良いことはなかった。

 ボディを持ち上げたかと思えば、脇腹に抱えた機銃をどどどどどどっと散らす。

 五十口径だ。すぐ近くをばすっと掠めて、なおさら全力疾走する羽目になった。


「……あーくそヤバイヤバイヤバイヤバイ!」


 だがいい時間稼ぎにはなっただろう。今頃後ろでは――


「フーッハッハッハ! こっちだぞゴーレムよ、戦い慣れていないようだなぁ!」

「イチ様~! 気合で逃げてくださいっす~!」


 やっぱりだ、ノルベルトとロアベアがいたか。

 どうにか途中の路地にニクと飛び込めばばしゅばしゅっ、と発射音が折り重なる。

 甲高い着弾音も二つだ。俺も対戦車筒を抜いて姿を出せば、センサーのあたりから煙を流す機体があった。


『め、め、メーデー……救援を、たの、たの……!』


 あの人類と仲良くできない機械的なボイスをまき散らしながら敵を探ってた。

 反対側の二人を狙ったようだ。機関砲も機銃も撃ちまくり、次第に胴を振り回して手当たり次第に弾をばら撒くだけの生き方を始めたらしいが。


「やっぱこういうところは動きやすいぜぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!」


 俺も横合いからスティレットをお見舞いしようとしたその時だ。

 上空からあのやかましい声がした。フェルナーの元気なやつだった。

 一体どうしたんだと見上げてしまえば、そこにあったのは――


「叫ぶな馬鹿者があぁぁぁぁぁぁッ! バレたらどうするつもりだお前は!?」


 ……竜らしい赤い翼を広げて空飛ぶやつと、それに持っていかれるレイナスの甲冑姿だった。

 何をしでかすのかと思えば二人はそれなりの勢いでウォーカーへ向かっていく。

 もちろんやかましさのせいでバレバレだ。四足は突然の空襲に引き始めるも。


「……何やってんだあいつら」

『……と、とんでるね……!?』


 使うべきべきか迷ったスティレットを向けた。狙うはその脚だ。

 起こした照準に着地する前足を見越してトリガを絞る。


*Bashhmmmm!*


 発射。ずんぐりした弾体が地に着いたばかりの足をぶち抜いたようだ。


「よっしゃあああああレイちゃん投下ァァァァ!」


 いいタイミングだった。フェルナーがあの甲冑の重さをウォーカーへ落とした。

 バランスを崩したそいつにレイナス飛び降りると、予想外の客を乗せる羽目になって大騒ぎだ。


『――警告、警告! 直ちに当機から降りなさい! 繰り返す! 直ちに――』


 四足のウォーカーがじたばたと暴れ出すが、もう遅かった。

 元魔王というだけあるのか、あの重たそうな身体で脳天に当たりそうな部分でがっちりしがみつけば。


「……ううううおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!」


 とんでもない叫びが響く。

 それ相応の一撃がごんっ、とこっちまで耳に届いた。

 ぶん殴っていたのだ。ごんごんがんがんと陣取ったそこを強く殴り続ける。


『けいこっ、くっ、救援、救援っ、し、こわい』


 すさまじいぶん殴りを急所に繰り返されたウォーカーは根負けしたらしい。

 何度かぐらぐら不安定さを見せた後、だらりと胴体を地面へと下ろしていく。 


「……まじかよアイツ!? 素手でぶっ壊したぞ!?」

『うわあ……』


 間違いなく撃破だ。ぎゅるぎゅると断末魔めいた機械音が遺言になった。

 レイナスは腕を引き抜くとがしゃっと用済みウォーカーから降りてきた。


「すごいなお前! ウォーカー殴り壊しやがった!」

「ゴーレムとの戦い方はフランメリアで確立されて――って!? イチ殿! 後ろ、後ろォォォッ!」


 拍手で迎えてやろうかと思ったが、甲冑姿は爆音ボイスで呼びかけて来た。

 後ろ? おいまさか――咄嗟に振り向けば。


『危険因子を発見! 破壊、破壊、破壊! 解体工事を開始します』


 そこにいたのは2mを超える人型。いわゆるエグゾってやつだ。

 あの外骨格をゆるやかな形の装甲で覆って、黒と黄色の警告色を施したものだ。

 その手にはずいぶんと分厚い丸鋸のようなものが持たされていた。というか、ぎゅるるるるるっと回転を始めて……。


「……おいおいおいおいこいつもかよォォォォッ!?」


 ヤバイ、解体されちまう!

 本能がそう気づいて引こうとしたが、電子的な笑い声が襲い掛かる。

 咄嗟にハイド短機関銃でガード。銃身と機関部の間にぎゅりりりっと火花が散る。

 すさまじい振動が手が押し戻されて、回転する感触が金属をぶち抜きどんどん近づく。ふざけんなこんなもん使いやがって!


「う、おおおおおおおおおおおおおお!?」

『いっいちクン!? だ、誰か――』


 路地いっぱいに火花と一緒に血しぶきをぶちまける――そんな未来が見えかけたところでニクが来てくれた。


「ご主人から離れろ……!」


 しゃきんと槍を展開、すれ違いざまに無人エグゾの脇腹を叩いた。

 強みの乗った声だけあって「ごいん」といい音だ。刃を空回りさせて仰け反る。

 だが手持ちの機関銃がぱっくりと割れた――くそっ、気に入ってたんだぞ!


「ナイス、ニク! この……!」


 そこへぶぉん、と力任せの振り回しが向けられる。

 ニクがしたっと飛んで回避、こっちもバックステップで間合いを取った。

 HEクナイを掴みながらピンを抜いて絶交した、空振りしたばかりの敵に向けて。


「人がくっそ悩んでる時期に来やがって、クソロボットが!」


 全力投擲! 【ピアシングスロウ】だ!

 アーツ込めて首元あたりにぶん投げるとがきんと刺さった、そして爆ぜた。

 熱々の屑鉄ができたが新手がどこからか現れた。別のエグゾが迫ってくる。


「イチ君、伏せたまえ!」


 そこにちょうどヌイスの声がした。ふらりと斜めに下がって射線を開けると。


 ――ばぢんっ!


 そんな放電音のようなものがして、すぐそばを何かが過っていく。

 青白い稲妻だった。目に見えて危険な電気の塊がエグゾ向かって走り抜ける。

 それが鋭く突き刺さった外骨格が、ばちばちショートしながら立ち止まり――


「おっと危ない」


 俺は腰にあった『取っ手』を構えた。ニクと一緒にシールドを立ち上げると。


*zZbaaaaaaaaaaaaaam!*


 無人エグゾが爆ぜた。破片やら爆風にぐわんと膜が揺らめく。

 飛んできた頭部の装甲すらも受け流すと、振り向いたところにヌイスがいた。


「やあ、見事な一撃だったね。なんというか歩く対戦車兵器だよ君は」


 見れば手にドアノブを思わせるような妙な銃を握ってた。

 そいつのおかげなんだろう。欲を言えばエグゾを綺麗に吹っ飛ばすぐらいはしてほしかったが。


「援護どうも。ところでなんだそれ? ブルヘッド製の武器か?」

「これは私が作った武器だよ。『ヌイスの電撃銃』とでも言おうか、ちゃんと無人兵器に効くみたいだね」


 金髪白衣の美女は「どうだい?」と黒い銃のようなものを見せてくれた。

 銃口も弾倉も見当たらない、言ってしまえば出来の悪い玩具みたいなものだ。

 そんなものが外骨格を嫌でも止めてしまうのだから、結構な威力なんだろうか。


「おらああああああああああああああああっ! どうした、どうしたぁぁぁ!」


 急にプラトンさんの盛大な声も届いて、ハイド短機関銃を捨てて通りへ戻った。

 そこにいたのは最低五メートルの高さが保証された機械の巨体だ。

 どうにか人間らしい四肢とバケツみたいな頭部をかぶったウォーカーだった。


「こんなんだったらフランメリアの近衛ゴーレムの方が10倍つえーぞ! 舐めてんのかコラァ!」


 が、横合いから混じったスピロスさんが巨大な斧をぶん回す。

 無人のそれは一歩引くたびにあちこちを切り刻まれて、機銃やらミサイル発射筒やらも叩き落とされて一方的に嬲られていた。


『撤退、撤退……!? 危険生物を感知! ただちにきゅうえ』

「うるせーぞ! 死ねェ!」


 とうとうウォーカーがよろめいたところに熊のハンマーが足をへし折る。

 追撃の斧刃がもう片方も斬って、オレンジ色の太い繊維がぶちっと飛び出た。

 そいつは腕だけでじたばたもがいて逃げようとするが。


「あー、君たち、そいつを調べたいから半殺し程度で済ませてくれないかな?」


 非常識な光景にヌイスがそう伝えると、二人は顔を見合わせて。


「ヌイスの姉ちゃんが生け捕りをご所望みたいだぜ、プラトン」

「じゃあ手足もいどくか、右頼むわ」

「おう、じゃあなゴーレム、悪く思うんじゃねえぞ」


 ごしゃっ、ごりっ。

 斧と槌が両手すらもいでしまった。四肢を失ったウォーカーは置物に変わった。

 『メーデー、メーデー』だけが口にできる言葉になったようだ。気の毒に。


「うーわえっぐ……もうちょっとこう、加減っていうか手心っていうか、そういうのあった方がいいんじゃないか?」

『ひぃっ……! き、機械なのにエグい……!』

「一応言っておくけど、人工知能だった私からすると結構複雑だよ。同族がひどい目に会ってるような気分さ」


 まだ動く機体にヌイスが複雑そうに近づいて、あの銃がバケツ頭を狙った。

 そして撃った。ばちんと痺れる音を残して機能が停止した。


「ひっさあああああああああああああああああつ! ドラゴンドロップウウウウウウウウウウウウウ!」


 そこにずどぉんっ!と何か落ちて来た……お引越しの時に見たエグゾだ。

 抱き着いたフェルナーによって脳天が見事にアスファルトに叩き込まれてる。

 ブルヘッドに現代アート一つ追加だ。赤髪のイケメン顔が「どうよ」と感想を求めてきたが。


「フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 敵で遊ぶなと言ってるだろうがァァァ!」


 路地からレイナスががしゃがしゃ戻ってきた。両手で掲げたエグゾも一緒だ。


『離しなさい! 離しなさい! 離せ、警告、当機の活動を阻害したものは罰金――』

「レイナス、お前も遊んでる場合か! せえええええええいッ!」

「誰が遊んでるか! やれ、アストヴィント!」


 そんなところに元魔王なリザードマンもやってくる、甲冑の手のひらの上でじたばたするエグゾが放り投げられると。


 ――じゃぎん。


 妙な金属音がいっぱいに聞こえた。そう、まるで金属を断つような。

 見ればあのアストヴィントが片手程の剣で迎え撃っていて、その左右に外骨格の半身がごろっと転る。

 そう、つまり、文字通り両断したわけである。上半身と下半身は今日をもって縁を切った。


『エグゾを斬っちゃった……!?』

「元魔王っていうのはマジなんだろうな、うん……」


 そして気づけば一方的な虐殺が始まってた。

 無人外骨格が巨大な矢にぶち抜かれ、質量たっぷりの得物で殴り殺され、魔法で焼かれ凍らされ機能停止に至る。

 スティングで実戦を重ねたフランメリア人に掛かればこんなもんだ。気づけば静寂があった。


「いやあ、いいねえ。こいつらいるとほんと楽ができて気持ちがいいよな」


 騒ぎが収まってくると、ひょこっとデュオが戻ってきた。

 タバコを嗜む程度には余裕そうだ。というかもはや敵の姿はどこにもない。


「どうなってんだよあんたら……うぉ、ウォーカーぶっ壊しやがって……!?」

「実に素晴らしい……。ファンタジーな方が来たという噂はそれはもう、実に耳にしておりましたがこれほどだったとは。感服しちゃいましたよ、ええ」


 ラザロとエヴァックもやってきた。驚きと感激が織り交じってる。


「……なんか普通に倒せたな、俺たち」

『……うん、そうだね』


 もう暴れ回る無人兵器はいない。それどころかこの有様に気づいた住人たちがわいわい戻ってきていた。


「ヌイス殿! 俺様も生け捕りにしてきたぞ!」

「流石フランメリアの皆さまっすねえ、無人兵器が哀れになるぐらいっす」


 ノルベルトとロアベアなんてどこでどうしてきたのか、四肢をもがれた外骨格を引きずってきた。

 あたり一面にはバケモンどもが食い散らかした敵の残骸がはしたなくぶちまけられていた。

 それはある意味、このあたりが救われた証拠なんだろうが。


「あのさあ君たち、なんていうか……うん、もう何も言えないよ」


 街の人々に混じってエミリオたちも来た、どうも避難を手伝ってたらしい。

 無機物相手に死をもたらした俺たちは無意識に集まっていた。エルフから社長までずらっと揃ってる。


「すっ……すげえ……!」

「おい……今の撮ったか?」

「ははっ、冗談だろ……ウォーカーに勝ちやがったぞこいつら」

「なんてやつらだよ、信じられねえ! おい、やったなあんたら!?」

「た、助かった……ありがとう、フランメリアの人達。マジで……うん、どうなってんだよこれ……」


 戦いが終わったと感づいたブルヘッドの市民がわんさかやってきた。

 四方八方あれこれ騒ぐ人間だらけだ。逃げ場が塞がるほど殺到してきて、ある意味敵より厄介だった。


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[気になる点]  さすがにまともな装備もなく相手にするのは全種族平等の意見らしい。 表現が気になったので
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