115 壁の中に無人兵器が!
「これはデュオ少佐殿、ヴァルハラは一足先にハロウィンを満喫しておられるようで」
様々な顔ぶれが外骨格を調べる中、中尉がデュオに絡みに行った。
北部部隊のユニークな男が来てくれて嬉しそうだった。二人は敬礼した。
「今は社長だろ? よく来たなフォボス、ストレンジャーが世話になったな」
「こちらこそやんちゃな部下どもがお世話になったようだ。ブルヘッド暮らしは良い刺激になったようだ、ベースはずっとサベージ・ゾーンの話で盛り上がっているぞ」
「当ててやろうか? きっとマガフの第一声は「何の冗談だこれは」だろ?」
「正解だ、報告を聞いたところ数分は考え込んでたな。しかし路上で死を振りまき、盗んだウォーカーで逃げ、爆発四散した様子まで見せられては信じざるを得なかったようだ」
「ははっ、上映会でもしてたのか? いい映像だっただろ、映画が作れるはずだ」
「上等な映画のようだったな。そうだ、そちらのお望みどおり彼にエグゾ体験もさせてやったぞ」
「ほお! で、どうだった? 転んだか?」
二人はこっちを見て少し盛り上がってた。
そうか、エグゾ体験の件はボスたちが取り計らってくれたのか。
「何度か転んで傷物にして整備班に嫌な顔されたけど、その日のうちにダネル少尉と一緒に的当てするぐらいには楽しめたよ」
『いちクン、最初はずっと転んでたけどすぐに慣れちゃったよね……』
「タロン上等兵の言う通り「乗る」じゃなくて「着る」って分かってきてからコツ掴めた気がする」
「へえ、たった一日でものにしたってか? 大した奴だぜやっぱり」
「どんな感じか」をお望みどおりに手ぶり身振りで表現してやった。
理解したデュオは嬉しそうだ。フォボス中尉も「そうだぞ」と割り込んできた。
「本人がこういうように素晴らしいものだったぞ、少佐。イチ上等兵の戦闘センスは北部部隊でも通用するほどだ、365日貸してくれればアリゾナの情勢が変わるだろう」
「だが所有権は俺たちプレッパーズのもの、そしてあいつは向こうの世界へ行く身だ、諦めろよ」
「訳ありじゃなければ何が何でも引き抜こうとしていたところだ。さて少佐、少し込み入った事情になってるようだな?」
「ああ、あんたらも今朝の暴走事件をもうかぎつけた感じか? 敏いねえ」
「ホワイト・ウィークスの件といいカジノの件といい、前々から疑う条件など揃っているじゃないか。出遅れしないように駆けつけてやったぞ」
そんな二人と無人エグゾにたどり着くと、エグゾ調査がまだ続いていた。
装甲を剥がされ、むき出しになった配線を整えられ、引きずり出された基盤やらが死体解剖のごとき有様だ。
「どうだい? 君の目線から見て何かおかしい点はあったかな?」
しばらくしないうちに、解体現場をじっと伺っていたヌイスが尋ねていた。
そのそばで接続したラップトップを覗いていたラザロはというと。
「……はぁ!?」
第一声がそれだ。裏返った悲鳴同然の声だった。
当然周りは釘付けだ。エミリオやボレアスだって慌てて駆けつけてきた。
「ど、どうしたんだい君? 今の声はすごく良からぬ知らせがあったように感じるんだけど……」
「今度は一体なんだ。人類滅亡プログラムでも組み込んであったのか?」
「……いや、そんな、いや……ありえない、ありえないぞ」
心配するスカベンジャーも無視してもう一体の方に移ってしまった。
ピアノで圧死したエグゾも調べると、あいつの顔色はそろそろ真っ青だ。
「おい、小男。どうしたんじゃ? なんかすっごい顔色悪いぞおぬし」
「というか何しとんじゃこいつ。まさかゴーレムの回路いじるアレか?」
「そんな感じじゃね? こっちのゴーレムもフランメリアと変わんねーのな」
興味津々だったドワーフの爺さんどもすら伺いにくるが、もはや眼中にない。
あの時窮地を脱したきっかけを作ったやつがここまで取り乱す理由はなんだ?
「ラザロ、悪い知らせか?」
『あの……どうかしたんですか? 顔色、すごく悪いですよ?』
「……ストレンジャー、質問がある」
ミコと一緒に覗きに行くも、恐る恐るといった様子で振り返ってきた。
貧血になりそうな顔色からしてまずいものを掴んでしまったに違いない。
「シリアスな質問だろうな。どうした?」
「ま、まず……こ、こいつはどこのどいつが使ってた?」
「えーと……ヴァンガード・ゼロっていう連中だったか。傭兵の空き巣に手を貸してたやつらだ、ラーベ社絡みなのは間違いない」
「そ、そうか……じゃあ……この機体は他にいたか? ここにある二機以外だ」
ラザロの続けざまの質問に答えられるほど機械の知人はいなかった。
アグレッシブな引っ越しに参加した面々に「みたか?」と身振りで聞くも、この場の二機がせいぜいらしく。
「ラザロ、何かがあったのかはよくわかりました。まず落ち着いて説明してください、一体どうしたんですか?」
そこへニシズミ社からよこされたエヴァックが諭すように近づいた。
ラザロの顔がいろいろな言葉を口走りかけてもごもごしまくったが。
「……エヴァックさん、聞いてください。これはフォート・モハヴィの暴走した無人兵器のAIをそのまま使ってるんです」
二つの横たわる外骨格を背にはっきりとそう答えた。
さっきヌイスが触れた部分だ。その白衣姿は「やはり」という目つきだが。
「それもそのまま複製したやつですよ、中にあるウィルスごとね。ラーベ社の管理用のプログラムが上書きされた形跡もありますが、既に書き換えられてて攻撃目標が人間に再設定されてます」
続いた言葉のなんとまあとんでもない事実か。
あのウィルス感染済みの無人兵器がそのままここに詰まってるってことだぞ?
ラザロの口はどうにか保ってた平静もぶち破れて、早口加減が強くなっていき。
「……これは間違いなくラーベ社のものです。作り方は素人でもできそうなやり方ですよ、どこで手に入れたか知りませんがデザートハウンドのAIからウィルスを除去する、そこに少し手間をかける、最後にお粗末な管理用タグをつけ足して複製すれば簡単に無人兵器用のプログラムが手に入るんですからね」
そういって、絶望的な顔つきで動かぬ外骨格を横目で見ていた。
つまりこいつは実質『デザートハウンド』だ、あの狂ったAIを努力して書き換えたようだが無意味だったらしい。
「でも、でもですよ? 無人兵器のAIっていうのはしぶといんです。例えばあいつらがデザートハウンドの残骸をどうにか手にしたとして、それに少しでも電力が残ってれば生きてるんですよ。だから除去したとしても、周りに一体でもまだ稼働してる個体があれば――」
「ラザロ、もういいですよ。実にわかりました」
聞き取れなくなるほど口が早まるが、エヴァックが「もう結構」と手で制す。
事の重大さは説明を求めたスーツ姿が頭を抑えるほど広まってた。
「……これはラーベ社が作ったものなのは間違いない、それはいいとしましょう。ですがウィルスに汚染済みで、まだ他にもいるとなれば実に大問題です」
そういうように、壁の中に狂った無人兵器がいることになるのだから。
既に二体いたという事実はこうして目の前に転がってる。
「おいおい……何考えてやがんだあいつら、汚染済みのAIを複製して売り物にしようって考えてたのか? ないわー……」
最前列で良く耳にしていたデュオなんて死にそうなほど呆れてた。
俺だって「ないわー」だぞ。あの人殺し無人兵器が一緒にコピーされてエグゾに組み込まれてた、なんて最悪の知らせにもほどがある。
「じょ、冗談だろう……!? 無人兵器を作ってたってそういうことかよ!? あの廃墟の殺人マシンをブルヘッドに持ち帰ったってことじゃないか!」
「どうにか生きてフォート・モハヴィから帰ってきたってのによ、今度はホームグラウンドで無人兵器だって? 今世紀最悪のニュースが来ちまったぞ……」
エミリオもボレアスも震えあがってしまってる。
無人兵器のヤバさを知ってる仲だからこそ分かり合えることだ。
あのお構いなし見境なしの機械がこんな都市に現れたらどうなると思う?
段々と事の重大さは広まっていった。やがてフランメリア人にも伝わるだろうが。
『で、でも……どうしてラーベ社はそんなものを作ろうとしてたのかな……?』
しばらく無言が続くとミコがいきなりそう言った。
確かにデカい企業が「実質暴走無人兵器」を丸ごと粗製乱造する理由が分からない。
「そ、それは……近頃のラーベ社の業績に起因してると思う」
みんなで「どうして」の部分を考え始めた頃だった。
突然関係のない声が後ろから聞こえてきた。誰のものかと思って振り返ると。
「ローレル! お前どのツラ下げてここに来やがった!?」
ボレアスが速攻で突っかかるやつがそこにいた。裏切者のローレルだ。
相当ボコられてまだ顔に傷が残ってるが、どうもこうして生かされてたらしい。
「おい、なんでこいついるんだ? 脱走か?」
「ま、待ってくれよ。ローレルはもう大丈夫だ、デュオ社長が解放してくれたんだよ」
「ローレル、何か知ってるの? 続きを話してちょうだい」
つい身構えると、エミリオとヴィラにかばわれてしまった。
スカベンジャーからのひんしゅくも受けつつ「わかった」と続きが始まり。
「あ、あのさ、俺はこういうの詳しくないんだけど……最近ウェイストランドの情勢が大きく変わりすぎて、ラーベ社は従来のやり方じゃ儲けられなくなってたんだ。外の経済状態が良くなったり、勢力が一つ潰れたりで、その影響は間違いなくこの街にも来てた」
ラーベ社の実情を落ち着いて話してくれた。
確かに誰かさんのせいで世の中は変わったが、その変化はそこまで影響を与えてしまったんだろうか?
「で、商売仇のニシズミ社に嫌がらせをしつつ、新しい商売を模索するべく事業開拓してやがったんだよな? ホワイト・ウィークスとか言うパクり野郎を雇ってな。最近なんて閉業しちまったがレッド・プラトーンズなんてのもあったなぁ」
するとデュオが食いつく、ローレルは小さく頷いて。
「で、でも、情勢の変化でニシズミ社とバロール・カンパニーは逆に利益を出してた、人工食品なりスカベンジャー用のグッズなり得意な分野があったから。浅く広くで特に押し出せるもののないラーベ社だけずっと損をしてたんだ、世の変化に乗り遅れてたんだ。だから自分たちも新たなシェアを獲得しようとしてたんじゃないかなって」
この場にいる全員にそう主張してた。
困るに困った結果がまさか無人兵器ビジネスなのか、と思ったが。
「なるほど「誰にも手がつけられない事業」が無人兵器か。だがそもそも、やつらが赤字だった理由は単純だぞ、君」
フォボス中尉が何気なくローレルと距離感を狭めてきた。
後ろめたい人柄はシド・レンジャーズのコート姿に怯えてるが、続けた。
「エミリオから聞いたよ、ラーベ社はライヒランドととつながってたって。スティングの戦いのせいであいつらの取引相手が潰れたんだよ、たぶんだけどこれは――」
「私も色々と調査をしたよローレル君。ライヒランドの近くにはまだ価値のある鉱山やらがあるんだからね? この都市で製造した物資を秘密裏に運ぶ親密もあれば、向こうで手に入る資源が密かに送られてくることもあるだろう。それが台無しとなればさぞ手痛いな?」
「そうだ、あいつらは物資と資源を交換してたんだ。前のレッド・プラトーンがその輸送を担っていたのがその証拠だ、でもそれがある日突然無意味になって、ラーベは取り返しのつかない損害を被ったんだ」
「うんうん、その通り。ちなみにだが、そのレッド・プラトーンがなぜ女性をさらって臓器売買にまで手を染めるのかも判明したぞ。誰かさんが持ち帰ってくれた書類に堂々と書かれていてな」
レッド・プラトーンにまつわる事件のおかげで、ラーベ社の後ろめたい部分はシド・レンジャーズにまで行き渡っているようだ。
現にデュオが横から何かを持ってきた。女装してまで持ち帰った書類だ。
「そ、そこは俺も思ってたよ。なんであんな傭兵たちがラーベに指名されて、臓器のために女をさらうように指示されてたのか不思議だった。もしかしたらだけど、穴埋めのためだったんじゃないかって。ライヒランドと取引していたのは資源だけじゃなくて――」
「おいおいローレル君、鋭いじゃねえか。いいね、解放してやるから続けな」
「…………ライヒランドは臓器売買をしてたんじゃないかってことだよ。人肉を食う連中なんだ、移植するに値する新鮮な内蔵なんて幾らでも取れるだろ?」
レッド・レフトカジノから出てきた話がとんでもない形で繋がってきたぞ。
臓器の入手先が潰されて、それを運んでいた連中の仕事がなくなって、それならと壁の内側で調達させるように仕向けたわけか。
ローレルの説明に嫌な納得が場に回った。フォボス中尉なんて満足気味だ。
「君の言う通りだ。実はな、どうも物資の見返りには新鮮な臓器というものがあったそうなのだよ。ラーベがあの傭兵たちを介して臓器売買を始めようと目論んでいたのは、少しでも穴を埋めようという苦し紛れだったに違いない」
「まあ、その傭兵どもは雇い主の言いつけも守れず好き勝手やっちまったんだよな。こそこそって言葉の意味が分からないまま調子こいてこのザマだ、ビルの屋上から素敵な観光名所が見えただろフォボス?」
「あの焼け野原は絶景だったぞ少佐。つまり、ラーベ社は大切な取引先を潰されてとうの昔に尻がついていたということなのだ。なのに必死に他の企業から盗み取ったチップも取り返され、境界線近くの前哨基地も死屍累々で威厳も台無しだ――わくわくしちゃうね?」
サイコ味のある中尉からにやぁといい笑顔をされた。
ああうん、ストレンジャーのせいで泣きっ面にメドゥーサだったらしい。ライヒランドに勝った時点で死ぬほど恨まれる理由ができてたのか。
「あいつらが俺を親の仇みたいに恨む理由がやっと理解できたよ。俺が倒したのは金のなる木だったんだな、何人リストラしたか誰か分かるか?」
俺は業績不振の原因らしさを込めて軽口を叩いた、微妙な笑いが返ってきた。
「いや素晴らしい。イチ上等兵、君は図らずとも我々の敵に大打撃を与えていたんだ。やっぱりシド・レンジャーズに入らないかい? ん? どうだい?」
「金づる潰されたらそりゃお前の身内まで憎たらしく感じるだろうさ。だが心配はいらねえよ、こっちにゃよく喋る馬鹿が遺してくれた遺産があるんだ。大事な秘密バラされるのを恐れて派手なことはもうできねえよ、ざまあみろ」
「お気の毒だな。もうちょっとで倒産か?」
『そっか、ラーベ社ってライヒランドにかなり依存してたんだね……』
ラーベ社が俺やその友達を狙ってくる理由がこれか。くだらない仕返しだ。
「は? じゃあスティングで勝利した時点で私たちも恨まれてたわけ?」
「そのようですなあ……よほどの大損害を被ったように見えますね」
「あれだけ気合の入った報復を敢行する理由がこれですか。愚かな」
長耳を立てていたエルフたちも納得してた。
いや「はいそうですか」と受け入れる話じゃないと思うが。
「だが……ローレル君だったかな? 君の言う通り商売先が一つ潰れ、他の企業に追い越されたラーベ社はよほど困ってたに違いないだろうな? 他の企業が手を付けられないことといえばやはり「無人兵器」だ」
フォボス中尉はビビる裏切者の男にまだ楽しげな。
しかしふと気になったことが浮かぶ。ちょっと質問してみるか。
「なあ質問。無人兵器ってここらの技術があれば簡単に作れる気がするんだけど……今までそういうのに手を付けた企業とかなかったのか? なんかラーベ社が初めて試みたように聞こえるぞ」
それは無人兵器のことだ。
この壁の内側だったら全自動人殺しマシンなんて簡単に作れるはずじゃ?
なのにわざわざ暴走した人工知能をコピーして自社の物にする理由はなんなんだ?
どんな事情があるんだ、と周りに伺った矢先に。
「実にその通りです。ですがストレンジャー様、これにはブルヘッドの掟というものが関わっておりまして」
「作れない理由とかあったりするのか?」
ニシズミ社の男がさぞ複雑な事情がありそうに語りかけてきた。
「簡潔にどうぞ」と手で招くと、相手は少し考えてから口を開いた。
「確かに作れるでしょう。ですがそもそもブルヘッドは無人兵器を作ることに拒絶反応が出てしまうような場所です。外の様子やテュマーのもたらす悲惨な歴史を知っているのであれば、壁の中に無人兵器を作るなんて嫌だと思いません?」
「ああそうか。市民一同仲良く『無人兵器マジ怖い』ってか」
「実に。そんなものと隣り合わせになって気持ちのいい方々はおられないでしょう、我々だって興味はあれど壁の外のような惨劇を目の当たりにはしたくないですからね――だからこそなのです」
「だからこそ?」
「ブルヘッドは確かに企業ありきの世界ですが、だからといって無秩序を望んでいるわけではありません。市と企業が話し合った結果、我々は長らく「無人兵器用のAIを禁ずる」と定めているのですよ」
伝えられたのは「無人兵器作んな」だ――いや待て、じゃあなんでこいつが?
俺は思わず足元に転がる無人の外骨格を見た。
「……なるほど頑張った考えたようなルールだと思う、でも破ってね?」
続いてみんなも見て来た。どう見てもレギュレーション違反の証拠がある。
「それがどうもそこに付け入る隙があったようですね。確かに我々は総意のもとで「無人兵器に利用できる、またはその可能性がありえるプログラムの開発、製造を禁ずる」と決めましたが、「既存の無人兵器のAIを調整して複製したものを搭載してはいけない」とまでは至ってなかったのですよ」
だが、しかし、エヴァックは困ったように半笑いだ。
何笑ってんだよ。法律のグレーゾーン攻めてきてるぞあのクソ企業。
「おい、じゃあブルヘッドの法の隙間をすり抜けて来たのかよ」
「実にそうなっちゃいますね。いやまさか、あの恐ろしいフォート・モハヴィから無人兵器のAIを持ち帰り、シド・レンジャーズの皆様の目をかいくぐり、その上でこの都市まで持ち帰ってそこまでするとは思わないでしょう?」
「それを実際にやってるんだぞ。しかも実績付きだ、暴走のな」
「だって普通、考えはしても実際にやります? それだけ切羽詰まってごちゃごちゃしたまま始めたのでしょう。世の中の乱れに乗じた火事場泥棒さながらといいますか、本当にやっちゃいますかねえははは」
「笑ってる場合じゃねえだろマジでやりやがったんだぞふざけやがってあいつら」
さすがにどついた。「おうふっ」と正気を取り戻してくれたみたいだ。
「えーと、つまりですね、私が思うに前々から新商品ということで『合法無人兵器』を開発してたと思います。ところがラザロの言う通り、おそらくまだ稼働していたAIがウィルスに再感染させたんでしょうね。その結果どうなるかと言いますと、現時点でラーベ社が作った分だけの無人兵器がそのままこの都市で暴走することになります」
危機感の感じられぬまま続く言葉によれば「暴走無人兵器パレード」の予兆がある、だとさ。
ブルヘッドの一日が最悪な雲行きに変わるのをみんなで仲良く感じてると。
「そのことなんだけど、あの……ちょっといいか?」
ラザロが控えめに挟まってきた。
その顔はかなり嫌なものを含んでいたのは言うまでもなく。
「こいつには番号が振られてたんだ。おそらく機体を管理するためのナンバーなんだと思う、でも……」
「こんな流れでこんなこと聞きたくないけど聞いてやるよ相棒、「でも」の続きは?」
「……この無人エグゾには『0403』と『0404』って割り当てられてた。だからその……俺の単純な見解だけど、最低でも無人兵器は400体ぐらいはいるんじゃないか?」
『400体の無人兵器(質はとわず)』が既に街にいらっしゃるという仮定だ。
はっはっは、そうかそうか、殺人機械が都市のど真ん中に現れたってか。
「……っっざっけんな!? 都市のど真ん中に無人兵器が400っていいたいのか!?」
『よ、四百……!? ここでそんなにいっぱい現れたら大変なんじゃ……!?』
冗談じゃねえ。思わずラザロに食いかかった。
「あ、あくまでの話だよ! だいたい400体分の無人兵器の入れ物をどうやって用意したっていうんだ!? こんなのかなり前から準備してたとしか……」
本当に400もの敵がいないことを願ったが、悪い知らせはまだ続いた。
ヌイスが耳元の無線に手をつけながらいかにも続く言葉が悪そうにしていて。
「……イチ君、間が悪いだろうけど、更に悪い知らせがあるよ」
「今度はなんだ!? 俺は悪い知らせ専門の芸人じゃないんだぞ!?」
「盗んだウォーカーで戻ってくる際、君たちはあのパウークを撃破したよね?」
「ああ、ノルベルトが中までクリスピーにな! それがどうした?」
「実はあの後、ちょっと気になってね。こっちに寝返った傭兵の人たちを通じて調べてもらったんだけど……あのウォーカーの中身には、誰も乗っていなかったんだ」
本当に悪い報告が伝わったその瞬間だった――
俺たちの頭上が鈍く揺れた。ぐらぐらと、不気味に。
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