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そして分かった、健康が一番だ


 ヴァルハラ・ビルディングの根元をしばらく気のゆくままに歩いていた。

 特に理由なんてない。ただ休日を過ごしているだけだ。

 気楽だった。武器もジャンプスーツもない過ごし方は身も心も軽くなる。


「……やっぱ武器を持たない過ごし方って大事なんだな。なんかすげえ楽だ」

『それが普通だからね……? 最近ずっと戦いっぱなしだったし、わたしも気持ちがすごく楽だよ』

「ん、今日はのんびりおさんぽしたい」


 短剣とわん娘と吹き抜けを見上げると、アリゾナ・ウェイストランドの青空がビルを景気よく照らしていた。

 荒れた大地の上で見るのとは違って文化的で平和的だった。

 陽の光をたっぷり受けてまた進むと、すれ違う住民たちがこっちに気づく。


「やあストレンジャー、会えて光栄だ」

「よう、ラーベのやつらに痛い目見せてくれんだって? いい気味だ」

「サベージ・ゾーンが地図上から消えてせいせいしたよ、ありがとう」

「どうも、あんたらのいいストレス解消法になったみたいで良かったよ。頑張ったから今日はオフだ、いい休日を」


 俺は気さくさをやり取りしてから、ここの店の並びを適当に見て回った。 

 商業施設と混ざり合ったマンションの構造にも、行って迷わず帰ってくるぐらいには慣れてしまった。


『――違う、こうだ! 素振りというのはいかに剣を止めるのかが肝要だ、ただ上下に振るのではなく剣の動きを制するのだ。剣に振り回されるのではなくお前が剣を振り回せ!』


 ライオンの貫禄を人型に当てはめた獣人が剣の作法を指導する姿も「やってんな」と気にしない。


『……そこで私は救出対象を乗せた車を助けるべく、ビルの上から弓を放ちました。サベージ・ゾーンを駆け巡るパトカーを見つけては射貫き、空飛ぶ乗り物もとりあえず射貫き、降参してきたのもとりあえず射貫き、八面六臂の大活躍です、楽勝でした。空飛ぶ竜と比べればあんなのクソザコヌルゲーです』


 抱えたレタスをウサギのようにむしゃむしゃしては物語る白エルフがいても、とりあえず関わらないようにした。


【健康促進キャンペーン実施中!:ビタミン強化レタス大増量!】


 道すがらのそんな広告に好奇心のまま食いついた。

 すぐ隣のダイナーの電子的な宣伝だ。レタスに自我を持っていかれたハンバーガーが公衆の面前に晒されている。

 さも生き生きと育てられた水耕栽培の様子がマーケティングに一役買っているようだ――ここにしよう。


「……やっぱり無人の飯屋って慣れないな」

『うん、わたしも誰かがいてくれたほうがいいや……でもここの人達、みんな当たり前のように利用してるよね』


 なんとなくで入ってみると白とオレンジで温かく取り繕う飲食店の風貌だ。

 客入りはぼちぼちだが、大きく目立つのは店員が見えないという点だろう。

 つまり無人営業だ。壁際でガラス張りの機械が梱包された料理を淡々と売ってる。


「でも壁の外よりはずっと恵まれてるだろうな。チップさえあるならすぐありつけるんだぞ」


 俺は電子的な機能をもった陳列棚を目で漁った。

 308口径も防ぐ分厚いガラスの向こうに紙包みのハンバーガーの列がある。

 グリーンのやつだな。番号を選んでパスをかざすとアームで運ばれてきた。


『いちクンが野菜いっぱい食べるなんて珍しいね、どうしたの?』

「不健康はサベージ・ゾーンで懲りただけさ」

『ふふっ、クリューサ先生の言ってたこと気にしてるの? だからエナジードリンク飲まなかったんだ?』

「……あとカジノの素敵なクソパーティ」

『カジノって……あっ……う゛っ……』


 あのカジノのせいで身体は人工肉のパティと野菜を求めてる。思い出させてごめんミコ。

 バーガーを何個も買って、飲み物も手に入れ、ビルを抜けて周辺を探った。


「む、うまそうな匂いがしたかと思えばお前たちか。散歩か?」

「俺のアドバイスを真面目に受けてゲームなどせず過ごしているようだな」


 見た目も中身なフラットな公園にクリューサとクラウディアが座っていた。

 頭のいか……包帯が消えたお医者様は晴れていつもどおり不健康な肌色だ。


「よおクリューサ、頭の中大丈夫か?」

『いちクン言い方』

「おい、その言葉遣いは俺に何か物申したいようだな」

「カジノを素敵な立食パーティーに変えてくれたおかげで嫌な思い出がまた増えたぞ。どうだ? レタスマシマシだ」


 俺の口の利き方が不適切だったのか一瞥されたが受け取ってくれたようだ。

 クラウディアにもくれてやるとハンバーガーが行き渡った。


「イチ様ぁ、うちも混ぜてほしいっす~」


 ああ、それと、とてとて駆け寄ってきたロアベアも。


「フハハ、ラーベの者たちをたっぷりと驚かせてやったな。良き思い出がまた増えたぞ」


 そこらにいたノルベルトもだ。ビルをスケッチしていたらしい。

 全員に行き渡ると残りは二つだ。抱えていた缶入りの飲料も回した。


「ノルベルト、いつものだ。ロングサイズだぞ」

「うむ、缶入りのドクターソーダもまた違った味わいでよいものだな」

「ロアベア、ほらコーラ」

「どうもっす~……エナドリじゃないんすか」

「今日は控えとけ。クラウディア、お前が最近飲んでる……なんかのお茶だ」

「私の好みが分かるとはさすがだぞ。マテ茶は故郷の味にそっくりなんだ」

「クリューサ、お前はなんかこの……よく分からないフレッシュジュースだ」

『なんで分からないもの買っちゃったの!?』

「せめて理解しておけ――なんだ、ただのビタミン添加した清涼飲料水か」


 揃ったか。俺はニクとメロン味のソーダを飲んだ――白々しいメロン味!

 全員揃って適当に渇きを癒すと、あの戦いが嘘のように落ち着いてきた。

 バーガーも食べてしまおう。包みを開けると熱に屈してしなしなになったレタスが溢れてた。


「……なんか思ってたんと違う」

『広告と全然違うよ……』

「すごくしなしなしてる」

「よく火が通ったレタスが詰め込まれているな。こういった料理なのだろうか?」

「これヴァルハラの下で売ってるやつじゃないっすか、広告詐欺っすねえ」

「私が気になってたやつだぞ! だいぶ見てくれが違うが大事なのは味だ!」

「特殊栽培したレタスか。加熱されても色だけ立派なあたりは流石だな」


 みんな見た目に思うところがあるらしいが、誰が言ったか大事なのは中身だと信じて食べた。

 化学的かつ合理的に膨らませたバンズと、極めてみじん切りにされた野菜を感じるパティの味だ。

 ソースの甘酸っぱさもぬるいレタスに殺されてる――なにこれ。


「なんか思ってたんと違う……」

「ご主人、そろそろ本物のお肉食べたい」

『おいしいけど……パティじゃなくてミートローフだよこれ』

「んん……一度に様々な味が現れて複雑だな、ブルヘッドの料理というのはユニークではないか」

「口の中がレタス畑っす……」

「まあまあうまいぞ! レタスをもう減らせば完璧だな!」

「リーリムの料理を日頃食える俺たちは恵まれていたのか。これを考えたやつの心理状態は芳しくなさそうだ」


 おおむね不評だ。クレームはバロールの社長でいいんだろうか。

 微妙な味にも負けず食を続けると、クリューサが話を切り出す横顔で。


「……ミコ、お前のおかげで深刻な中毒者は全て治ったようだ。あの忌まわしい薬もじきに忘れられるだろう」


 北のどこかを見たままそう伝えていた。

 それはラーベ社のビルなのか、それとも目的地のダムなのかは分からない。


『良かった……みんな、もう大丈夫なんですね?』

「ニシズミには治療薬の製法を伝えた。時間こそはかかるが、そこまで症状が深くないものもやがて完治するはずだ」


 クリューサがこんなしんみりした話し方をするのは、あのカジノを潰したあとに色々とすべきことがあったからだ。


 俺からすればサベージ・ゾーンを上手に焼いて『はい終わり』だが、他はそうはいかなかった。

 持ち帰った情報がヤバすぎたせいである。

 ドラッグの流れやラーベに加担する内通者のリストに加えて、ミリティアやライヒランドとの秘密裏なやり取りなどとまるで悪行の百科事典だったのだ。

 おかげでセキュリティの連中は逮捕に駆り出され、スカベンジャーもこき使われ、特に理由はないが運び屋も嚙まされた。


 俺たちストレンジャーズだってもれなくそうだった。

 クリューサが突然、薬の中毒に苦しむ人間を治したいと申し出たからだ。

 治療法や中毒を治す薬の製法もニシズミに伝えて、患者を招いて片っ端から捌いた。

 もちろん、ミコの希望もあって魔法で重度の患者を処置することになった。

 回復魔法が使えるフランメリア人も加わって、しばらくぶっ続けで対処することで治すことができた。


 その間にもいろいろなことがあった気がする。

 サベージ・ゾーンの大部分が焼けて消えたり、ラーベ社の株価がなぜか暴落したり、機密情報をダシに世論が操作されたりといろいろだ。

 シド・レンジャーズも大量の土産を抱えて一度ベースに戻ってしまった。また会えるそうだ。


『あの、クリューサ先生?』

「なんだ」

『……わたし、クリューサ先生が元気になったみたいで安心しました』


 いまいちなバーガーに手間取ってると、肩の短剣がクリューサに安堵した物言いだった。

 言われた本人はやや困ったようだ。どうせ次のセリフは『俺がか』だろう。


「俺がか」 

『はい。だってこの前からずーっと怖い顔してたんですよ?』

「そこの馬鹿どもが言うように俺の顔色の悪さがそう見えただけではないのか」

『ううん。肩の力が抜けてるし、何かを見る時にだいぶ穏やかだから、きっと嫌なことがなくなったのかなって……』


 ミコのおっとりな言葉遣いに黙ってしまった――よし俺がどうにかしよう。


「もう少し顔色良くなれば完璧だな、まあがんばれ」

『こらっいちクン!?』

「クリューサさま、触るとひんやりしてる。大丈夫?」

「それは血行が良くないのだろうな、簡単な鍛錬から初めて見るとよい!」

「朝晩ストレッチした方いいっすよクリューサ様ぁ、鎖骨とか意識されたらどうっすかね」

「身体を冷やすものばかり食べてはだめだぞクリューサ。温かい飲み物を意識して飲むだけでも違うんだぞ」

『なんでみんな畳みかけるの!?』

「いい加減にしろ。なぜ隙あらばこぞって俺の健康を指摘するんだお前たちは」


 お医者様がブチギレて血行が改善されたはずだ。これでヨシ!

 とてつもなく一瞥されたが、クラウディアは爽やかな笑い方で。


「クリューサ、あっちがもっと楽しみになっただろう?」


 最初は医者を、次には俺たちを、やがて北の方を見てそう口にしていた。

 そうだな。だいぶこれでお前も気楽になっただろうさ。


「……立つ鳥跡を濁さずか。やっと俺の気がかりが一つ解けたんだ、新しい生活にもさほど困ることはないはずだ」


 意外なことに、ミコの言葉は顔色悪しなお医者様から小さな笑みを探しだしたらしい。

 ――なんてこった! きっと何か悪いことの前触れだ!


「うーわ……クリューサが素直だ、明日あたり無人兵器が襲ってきそうだな」

『いちクンいい加減にしなさい』

「お前の無礼な言葉の数々はいずれたっぷりと掘り返してやるぞ覚悟していろこの大馬鹿者」

「誠にごめんなさい」


 二人に怒られたけどまあいいか、せいぜいフランメリアでもその顔色の悪さで元気にやってくれ。

 ところでこの口にあわないバーガーはどうしてくれようか。そう思ってるとPDAがラジオ放送に感づいたらしい。

 バロール市民向けの放送だ、たった今始まったようだ――聞いてみるか。


『さて、今日もエルドリーチが親愛なるリスナーの皆さんが午後の眠気を吹き飛ばすようなお話を持ってきたぜ。コーヒーと一緒にどうだい?』


 誰かと思ったらエルドリーチの笑うように流暢な声だった。

 みんなもうっすら食いついてるので、音量を上げて続きを聞き取れば。


『最近、あの冷酷非道な傭兵たちを操るラーベ社が冬のナマズみたいに静かだと思わないか? ハハ、ブルヘッドだけにね。オイラもそう思うよ、バロールの街並みがずいぶんと穏やかになってるしな。ただこれにはちゃんと理由があるんだ、なんとラーベ社はオイラたちの愛するブルヘッド・シティに薬物を流してたのさ、もちろん市がNGとする違法なやつだ。それだけじゃない、ニシズミ社の女性たちを誘拐して、臓器売買にも手を染めていたことも判明したんだ』

『ハハ、でも心配はいらないぜ。外からやってきたヒーロー、その名も"ストレンジャー"が全て解決してくれたんだ。先日、街を一つ惜しみなく使った壮大な花火大会はご覧になったかい? アイツは薬中と傭兵だらけの街に乗り込み、女性たちを救い、薬物製造工場を焼き払ったのさ――街ごと丸焼きでね。だからリスナー諸君はもう心配しなくていいんだ。囚われのお姫様は無事に助けられ、悪党だらけの土地は根こそぎローストされて真っ平らになったからな』

『ただちょっと眉唾な話もあるんだ、なんとラーベ社にミリティアと密接な繋がりがあるとか……もちろんあくまで噂だ、賢いリスナーたちは信じすぎないよな? 薬と同じさ、噂は用法、用量を守って正しくお使い下さいってな。薬は時として毒になるっていうが、そういうことだぜ。健康が一番だ』


 すらすらと耳に入ってくるリズムは楽しそうに物語っていた。

 まるでストレンジャーが大虐殺をおっ始め、街を焚火にしたような言い方だが概ね事実だ。

 ラーベの悪行はこうしてぎりぎり急所を外れる程度に晒され続けていた。

 今ではニシズミにも伝わっていて、ブルヘッドの総意はラーベ憎しに傾いているらしい――ストレンジャーを担ぎ上げて。


『大体あってるけど……あってるけど……うん』

「流石にライヒランドとかの話は回ってないな。でもあれから物騒な話がないってことは、掴まれたら不味い情報でもあった感じか」

「ふん。デュオのやつはラーベの尻尾を掴んだんだろう。今やニシズミも同調して世論も大きく動いたとなれば、やつらも大人しくせざる得ないさ」

「ラーベも今までのツケが回ってきて大変そうだな……ん!?」


 バーガーをちびちび食っていると、不意にビル外側のディプレイに目がつく。

 外壁の形に添って湾曲したえらく大きなそれが、なんかこう、見覚えのある光景を流していた。

 言葉にするなら【大爆発するカジノと燃える街。滑走するウォーカーを添えて】ってところか。

 誰が撮影したのか、サベージ・ゾーンの破壊と決死のカーチェイスが迫力のある映像としてバロールの民の余興になってる。


 【バロールの魔の眼はお前を見ている!】


 どっかの企業の格言がそうカッコつけて、ストレンジャーの活躍が語られ始めたようだ。

 弱みを掴んだ以上、もうこそこそしなくていいってことなんだろう――これ絶対ラーベに対する当てこすりだ。


「イチ様ぁ、なんかお一人で虐殺なさったようになってないっすか」

「そこに放火犯の罪状も追加されてるみたいだ。これじゃ重罪人だぞ俺」

「ウォーカー窃盗犯もあるだろう、忘れたのか?」

「わ~お。罪深いお方っすねえ」

「裁判所に出頭しろとか言われたら死ぬまでオレンジ色のファッションになりそうだな。デュオに頼んで裁判長に賄賂でも送ってもらうか」


 逃げ戸惑う傭兵が馬鹿でかい矢で射貫かれるところでバロール人は大喜びだ。

 ざまあみろ、やりやがった、万歳だの色々だ。うっ憤が溜まってたらしい。

 しばらくするとサベージ・ゾーンの不穏なニュースに変わり。


【ラーベ社の支配地域で奇病が発生!?】


 と、ぼかした映像が流れた――食らい合う傭兵たちがモザイクを貫通してる。

 しまいにラーベ社が秘密裏に開発していた細菌兵器のせいだとか好き勝手に語ってるようだ。


「クリューサ、なんか細菌兵器によるバイオハザードみたいになってんぞ」

『なんでお昼にこんなの流すの、ここの人達……』

「デュオたちにカバーストーリーを作ってもらったものでな」

「へー、カバー……おいまさか俺にバイオテロ罪でも着せる気か?」

「あれはラーベ社が秘匿していた細菌兵器で、不手際により漏洩して大惨事を引き起こしたという体に仕上げてもらった。さぞ印象も悪くなることだろう――いい気味だ」

「罪擦り付けて楽しそうに言うなよ」

「俺の人生の中で最高の意趣返しだ。それにお前がバイオテロにまで手を染めたわけではないという証明になるだろう?」


 クリューサの計らいであいつらの極悪非道さに磨きがかかってるようだ、でもまあいい気味だ。

 映像のせいで食欲が底をついてしまったが、そこへ人の歩みが近づいてきた。


「やあ。やっと状況が落ち着いたね、これでバロールもニシズミも安泰さ」


 ヌイスだ、金髪眼鏡の美顔には疲れがはりついてる。

 こうして俺たちが呑気にまずいバーガーを食えるのもこいつのおかげだ。ずっと情報を処理して、事態の後片付けをしていたからだ。


「お疲れさん。あんだけ嫌なことばっかりだったのに全部消えちまったな」

『お疲れ様です……ヌイスさん、ずっと働きっぱなしだったんですか?』

「君たちのお土産が多すぎて今朝までずっと働いてたよ。でもこれでスッキリしただろうね? あの薬も、奪われたチップも、頭を悩ませていた隣人も、全部片が付いたから都市の血の巡りも良くなったよ」


 あいつは疲れたように伸びをしていた。

 俺たちに混ざるには毛色が違う思ってるんだろう、まだ少し距離があった。

 誰一人として欠けなかったのは間違いなくヌイスのおかげだ――缶入りのコーヒーをちらつかせた。


「ヌイス、色々悩んだけどコーヒーでよかったか?」


 そばに誘うと少し驚かれたものの、とても穏やかな笑み方だ。

 ヌイスは俺たちに加わった。やっと一息ついたような深呼吸だった。


「今は紅茶の気分だったんだけど気が変わったよ、ありがとう」

「そりゃよかった。あとこの……なんかレタスでいっぱいのやつ」

「……それ、巷で美味しくないって不評のレタスバーガーじゃないか。え? なんで君たち勢ぞろいで食べてるんだい?」

「うーわマジか……ごめんみんな、見栄え重視したら盛大にミスった……」

『やっぱり不評だったんだ……!?』


 そして分かった、俺は一番まずいものを選んだ戦犯だったらしい。

 どおりでまずいわけだよ……しょうがないので無理矢理飲み込んだ。


「ヌイス様ぁ、お疲れみたいっすね? マッサージはいかがっすか」

「え? いや、なんだい、いきなり……」

「わ~お、背中あたりが凝ってるっすねえ。うちにお任せあれっすよ」

「あ゛~そこ、もうちょっと肩甲骨の外側をぎゅっと――いやうまいね君」


 座ったところにロアベアが首をぎゅっぎゅと指圧し始めたようだ、これでもうこの輪の中から出られないはずだ。


「――お芋が必要だと私の人格が囁いていましたの! オラッポテト! あっ特製チキンバーガーもお持ちしましたわ~」

「ポテトも来たぞみんな……おい俺がハンバーガー買ったの馬鹿みてえじゃん、なんであんなの買っちまったんだくそっ」

「あら、ダブっちゃってますわね……でもこっちの方がうめーですの!」

『……み、見事にかぶっちゃってる……おいしそう』


 トド……締めのポテトもきた、リム様が料理の入ったバスケットと共にちょこちょこ突入してくる。

 フライドポテトが恐ろしいほどあるが、さっき食べたのよりも1000倍良さそうなバーガーが詰まってた。


「俺も入れてくれるよな? まあなんだ、ささやかな戦勝祝いってやつ?」

「今日はめでたい日だぞ、君たちの活躍でニシズミもバロールもやっと自由になったんだからな。こんなすがすがしい日はいつほどだったものか」

「俺たちも付き合うよ、もう修羅場を潜り抜けさせられた仲だからね」

「最近はいいことづくめね? 刺激的だし、みんないい顔してるもの」

「ハーレーの野郎、飯運べって言ったらキレやがった。ストレンジャー運ぶのより気楽だろうに」

「あいつならなんやかんやで持ってきてくれるだろうさ」

「あー、我々も合流していいのか? バロールは個性が豊かなやつばかりだな」

「ごめんイっちゃんの家村人に乗っ取られちまった!」

「フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 デュオもわざわざビルを抜けてきたか、瓶入りの飲み物を大きく抱えてる。

 その後ろにけっこうな人だかりもついていた――親父さんとスカベンジャーたち、それからイワンたちもだ。

 けっきょく、ひっそりとやるつもりのお祝いはだいぶ賑やかになったようだ。

 料理やら酒やらが運ばれて、想定以上の盛り上がりが始まろうとしてた。


「お前も来たのかよ。じゃあ仕切り直しだな、乾杯って言葉から始めるか?」

「めでてえだろ? バロールがアリゾナの青空以上に明るいんだ、祝わずにはいられねえだろ」

「サベージ・ゾーンは地獄みたいに真っ黒だけどな、ざまあみろ」

「そうだ、ざまあみろ! 弱みも握れてスカっとしたぜマジで!」


 プレッパーズらしくデュオと絡んでると、傍らで誰かがくすっと笑った。

 ヌイスも混じっていたからだ。彼女はもうこのクセの強い連中の一人だ。


「まったく、君は滅茶苦茶だよ――でも悪くないものだね」

「もう手遅れなレベルだろうな。でも意外と気に入ってる」

「潔いね。私は君の役に立てたかい?」

「一緒に戦えて楽しかったさ、助かったよ。またこういうのはどうだ?」

「いいよ、でも次はもう少し計画を練ろうか」

「それもいいかもな。計画通りに行かなくても怒らないでくれ」


 俺も同じように笑った。


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