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つまり、薬と毒は用法用量を守るべきだ


 赤色溢れるカジノから離れるとサベージ・ゾーンは確かに賑わっていた。


 狂ったように回転させられた空調設備が、向かい側の通りまで赤い毒をもたらしているようだ。

 理性のない腹ペコの人々が傷つけ、食らい合って一つの塊と化しているのだ。

 今やどこを見ても血まみれな営みが執り行われていた。

 えーとつまり、これで【レッドレフト・カジノ】の名にぴったりだ。


「クリューサ、お前ほんとに皆殺しにするつもりだったんだな。クリンの方がマシだ」

「俺様、血沸き肉躍るぶつかり合いは好きなのだが……これはオーガから見ても凄惨だぞ。地獄絵図という言葉はこのためにあるのだろうな」

『……うぅ……むごいです……』

『お前らの感想など知ったものか。それより毒から十分に距離を取るようにしろ』

「マジで赤く染まってらぁ。こりゃもうサベージ・ゾーンはおしまいだな」

「まだまだよ。完全に破壊するにはもっと残酷に死を刻まなければならないわ」


 俺たちは道路の上で横並びになって待ち構えていた。

 風も吹いてバッカスとやらの効力はかなり北まで及んだようだった。

 赤色は薄くなっているものの、向こうまで住民たちの殺し合いは続いている。


*WooooooooooooooOOOOOOOOM!*


 遠いサイレンはそんな光景に向けられてるようだ。

 と思ったらゾンビ映画になりそうな光景など素通りで、カジノへ一直線だ。


「……なあ、一ついいかみんな」


 俺はそばにあった店舗のガラスをつい見た。

 汚れた表面に和服の美女を中心に、エグゾの装甲を胸だけ残したオーガ、レイダー下っ端のような角刈り男、悪役姿のボディビルダーと揃ってる。

 たぶん悪役の集まりだ。どおりでパトカーが急行してるわけだ。


「む、どうしたのだ?」

「なんか俺たち漫画の悪役みたい」

『……うん、言われてみればわたしたちすごい見た目してるもんね』

「たぶんオメーのせいじゃねえかストレンジャー、なんか悪役を取り仕切るお嬢様みたいになってんぞ」

「いいじゃないか。私は歓迎よ、パフォーマンスを披露するのも戦士には必要でしょう?」

「なんのお披露目会だよ。で、俺たち悪役チームはどう出迎える?」

『こんな状況なのに君たち余裕そうだね。そっちにも援護をよこすよ、こういうのはどうだい?』


 たった五人の殿だが、こっちにはヌイスがいる。

 六人目の仕業でカジノの壁にへばりついた重機関銃が狙いを探り始めた。


「おい、銃座が動いてるぞ。もちろん今の発言と関係あるんだよな?」

『ハハ、ゲームみてえだな。FPSは好きなんだ、オイラが的当てしてやるよ』

『遠隔銃座をハッキングした、操作はエルドリーチに任せたよ。それから――』


 そして今度は通りにある車が「ぎゅるんっ」と唸った。

 持ち主不在のそれが親し気にライトを光らせたかと思うと、パトカーに向かってドライブを始めた。

 先頭の車両に頭突きをお見舞いしたみたいだ。ついでにいうと玉突き事故も起きた、三両ぐらい不幸な衝突で弾け飛んだ。


「今度は事故ったぞ。ありゃ痛そうだ」

『う、うわあ……もしかして、遠隔操作しました……?』

『ちょっとしたミサイルをお届けだ。奥の車列にもお届けしておこうか」

「おおっ! 車がひとりでに突っ込んだぞ! 今のもヌイス殿の力か!?」

「やるじゃねえのヌイスの姉ちゃん! 交通事故死者数爆上がりだな!」

「お気の毒ね。さて、そろそろ試合の時間だ」

「タロン、爆弾はどうするんだ?」

「もうちょいまとまって来てくれるまで我慢してくれや」


 腐ったおまわりさんたちはあれで出鼻をくじかれたらしい。

 休職した同僚を避けて最初の車列がもたもたと近づいてくる。その数は五両、もっと遠くにはそれ以上だ。

 そこらに落ちていた突撃銃を拾った。ハンドルが右で苦手だ。


「デュオ少佐、確認よ。我々はブルヘッド内で警察を殺しても構わないね?」

『責任はバロール持ちだ、やっちまえ』

「そう、じゃあ死んでもらうわ」


 アクイロ准尉は「任せな」とばかりにその場を離れていった。

 彼女がずんずん歩いて向かったのはあのガス・ステーションだった。

 お目当ては馬鹿らしい配置で道路に売り込まれたスイカほどのタンクだ。


「あーはいはい、派手にやるんすね准尉殿」

「ええ、少佐の許可が下りているもの。タロン、温めてちょうだい」


 【エクスプロ・リキッド】という容器が軽々と持ち帰られてきた。

 タロンも服を千切って布切れを作ると、ライターまで取り出したようだ。


「おい、何するつもりだ准尉。つーかなんだそれ」

『あっ……あのー……? もしかしてですけど、それ……』

「リキッドジェネレーター用の燃料タンクよ。下がってなさい」


 燃料と火だってさ、じゃあ導き出される答えは1+1ぐらいシンプルだ。

 「おお」と納得するノルベルトを盾にした。タロンが布を突っ込み――


「まああれだ、花火でお出迎えってやつよ!」


 警告灯のごとく熱々のオレンジが灯った。そしてアクイロ准尉の屈強さがそれを抱え上げて。


『あいつらだっ! 動くな××××がっ! いいか、そこでじっとして――』


 意気揚々と飛び出してきたパトカーにお手製の爆弾が投下された。

 それはボンネットに当たり、ガラスを転がり、車体の後ろまで転がっていき。


*zzZbaaaaaaaaaaaaaaaaaaMM!!*


 ドカーン、だ! 道路に派手なレッドカラーを空高く散らした。

 立ち込める毒を吹き飛ばすほどの爆風がパトカーをダブルキルだ。ドロップ品とばかりに回転灯が転がってくる。


「あーあ警察やっちまったよ……これで完璧に犯罪者だ」

『やっちゃった……!?』

「おお……! 素晴らしい! 見事な投擲力よ! 俺様も負けてられん!」

「ワオ、いいね! 派手にぶっ飛んだぜ! ウェルカム・ボムってやつだ!」


 あれはほんの前菜だったようだ、アクイロ准尉が堂々な姿ですたすた向かった。


「アクイロ准尉! 突っ込むつもりか!?」

「少し驚かせてやるだけよ、すぐ戻るさ。ついて来たければ好きにしなさい」

「ならば俺様もだっ! 行くぞォォォォォッ!」


 何考えてるんだろうあいつら。ムキムキとした巨体がぶつかりにいった。

 とりあえず後に着くが、燃え盛る道路から現れた犯罪者二人にパトカーが大慌てで停まった。


「応援を要請する! いや、待て、なんだあの着物の女は!?」

「あれがストレンジャーだって報告があったぞ!? 本当なのかよ!?」

「し、しるか! それよりなんだこいつら!? 人間か!?」


 愛車を盾にしたお巡りどもが迎え撃とうとしている。銃口を重ねた。


*Brtatatatatatatatatata!*


 当たらなくなってよしだ、フルオートでパトカー裏を抑えた。

 すると逞しい女性が便乗して一気に駆け抜け。


「応援を要請する! あいつら爆弾持ってやがるぞ!? パトカーごと大勢吹き飛ばしやが――」

「今度はこっちで勝負よ、私を楽しませてみな」


 ボンネットを跳ねて乗り越え、隠れていた警察官に落ちていった。


「おっぐっ……!? あああああああああああっ!?」


 踏み台にされた恐怖の顔はぐしゃっと音を立てて見えなくなった。

 半狂乱な一人が散弾銃を構えるが、その胸に猛烈なハグをして猛進した。

 お届け先は短機関銃の狙いに迷う同僚だ。


「ひっ……! く、くるな! 馬鹿やめろうわああああああああ!?」


*papapapapapapapapapapam!*


 警察官は副業に肉盾サービスを始めたようだ、三十発もの弾を防いでくれる。


「わっわあぁっ……待ってくれ降参だ! やめてくれ死にたくな」


 同僚の死にそいつが退くが、アクイロ准尉の魔の手は大ぶりに腰を逮捕した。

 「離せぇ!?」という抗議の声ごと巨体がパワフルに反った――パトカーめがけてごしゃんっ!とバックドロップだ。血肉の赤色!


「ストレンジャーはどこだ!? 探せ!」

「行け行け行け! エグゾでぶっ潰せ!」

『いつでもかかってきなぁ! エグゾを味わいたい悪い子はどこだぁ!?』


 今度はごついバンが突入してきた。エグゾと取り巻きがぞろぞろ出勤だ。

 青黒い外骨格が警察官らしからぬ軽機関銃を見せびらかすが、ノルベルトがちょうどパトカーのドアを引き剥がす頃合いでもあり。


「フーッハッハッハ! 悪い子はここだぞ、受け取れェ!」


 オーガの巨体がそれをスイングして投げたらどうなると思う? 答えはエグゾがぶっ倒れる。

 バイザーつきの顔面に衝突したようだ、仲間を巻き込んで行動不能だ。


『ぎゃあああああっ!? め、目がっ! ばっバイザーはどこだ!? クソバイザーがあぁぁ!?』

「なんだこのバケモン!? こんなのいるとか聞いてねえ!」

「馬鹿なにやってんだ!? おい待てこっちくんなうわあぁぁぁ!?」


 肝心のアクイロ准尉はこのチャンスに突っ込んでいた。

 警察官たちの間に割り込むと、跪くエグゾに腕を通して――持ち上げた。


『ぅ、わ、あ、あ、はなせっうわあああああああああああああああ!?』


 人間とは思えない膂力が合金製の肉盾を突き出していく。

 死ぬほど痛そうな衝突音が折り返して死が広まった。仕上げはトラックに叩きつけて人型の飾りが完成だ。

 バケモンだ。俺は一体何を見せられてるんだ……。


「……おお、なんと、なんという素晴らしき女性だ! 俺様はあのような強き人間の女を見たことはなかったぞ! 無駄なき身体に無駄なき戦いの身振り、これぞ人の強さなのだな!?」

「なあ、あの人ミュータントだったりしない? 素手でエグゾぶっ殺したぞ」

『ノルベルト君、感動しちゃってるよ……』

「すげーだろうちの准尉。フランメリアのやつらに負けちゃいねえと思うぜ」


 人間をやめた活躍ぶりにノルベルトは涙を流すほど感銘を受けたようだ。

 道路には猛獣に戯れで殺しまわられたような殉職者だらけである。

 きっと今の俺たちはゲームで言えば星が五つ並ぶような罪深さだ。


『さすがに今ので勢いが削がれたみたいだな。おかげで逐次投入に移ってやがるが、そうはさせないぜ』


 そんな光景を面白がって見てたようなやつが遠隔機銃をぶっ放した。

 遠くで恐る恐るに駆けつける応援車両が五十口径でどどどっと鎮圧される。

 パトカーが一台ハチの巣にされて炎上したところがだいぶ効いたらしい、降参した運転手が死に物狂いで職務放棄した。


『いたぞ! あいつだ!』

『攻撃開始! 全員俺に続け!』

『レッド・プラトーンはどうしたんだ!? いやなんだこの光景――』


 でも勢いだけはある連中だ、北からホバースキーの分隊も降下してきた。

 ただまあカジノの機銃まで想定が及んでなかったようだ、連射に迎えられてぼとぼと落下、増援はただの爆撃へと変わった。


『本当に食い止めたよこの人たち……』


 ヌイスが死ぬほど呆れてる、そろそろか?

 道路はパトカーの墓場と化してた。今日は退職者が多すぎる。


『こちらダネル、お前たちのおかげでゴミ収集車が逃げ切ったぞ。だが悪いニュースも一緒だ、そっちに警察の本隊が直行している』


 俺たちの活躍でチップは運べたそうが、ダネル少尉の言うそれが遠く見えた。

 あれか。いかにもエグゾを積んでそうなバンがヤケクソ気味に投入されてる。


「もう十分だとさ。よし、そろそろ行くかタロン」

「おう。ありゃ駄目だなあ、あんなに密集して道路独占するみてえに走ってちゃ一網打尽だぜまったく」


 そんなラーベの怒りが現れた車の群集は道中のパトカーにこまねいていた。

 足並みを揃えた物量もひとまとまりだ――タロンがスイッチを握った。


『動くな、そこで跪け! よくもこんなにぶち殺してくれたなクソ野郎ども!』


 俺たちは背を向けて次のステップに移った。

 遠くで車が重々しく停まったようだ。耳障りな警告だってよく聞こえる。


『い、いちクン……? これからどうやって帰るの?』

「決まってんだろ、歩いて帰る」

『えっ歩いて……!? あっ……そっか、うん……』


 ミコは俺の意図に気づいてくれたか。それはさておき後ろがうるさい。

 やれ、と目を配るとタロンは躊躇なくそれを押した。


*zZZZBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAMm!*


 背中で街並みを吹っ飛ばすような大爆発が起きた。

 振り返らなくたって背中に伝わる熱さと風圧と、それから頭上を追い越すエグゾのパーツが答えだ。

 そんな背景を四人横並びで進むのは傍目に見ればさぞ悪党だろう。

 ガス・ステーションで縮こまっていた店主が「ひぃっ」と尻もちだ。


「ところでタロン、ウォーカーは好きか?」

「なんだよいきな――ああそういうこと!」


 タロンも分かってくれたか、俺は店舗横にある整備スペースを見上げた。

 高さ四メートルを超す逆関節型のウォーカーが二機、そこに収まっていた。


「よお、ストレンジャーだ。ここってウォーカーのレンタルはやってる?」

「ひっ、ひいいいいい! いったい何が起きてるんだ!? おっ俺は関係ない! ただのガス・ステーションの店主なんだ!」


 いかにもそれに携わってそうな店主はアルマジロさながらの防御態勢だ。

 こいつで帰宅したいっていうのに口が聞けないようだ、困った。


「落ち着けよおっちゃん、お話サービスは有料なのか? これやるからこっち見ろよオイ」


 ところがタロンがカジノで奪ったチップをじゃらっと施すと。


「――どうぞご自由に! 燃料も補給してあるしロックもかけてないから気の行くまで楽しめよ! あばよ!」


 一変してウォーカーの方へと案内されてしまった。

 『こんなところ用はねえ!』と退職したおっさんを尻目に乗り込むことにした。


『ねえ、これ乗り方分かるの……?』

「鉄鬼みたいなもんだろ。ラーベのやつらでも操縦できるならいけるさ」

「オメーのおかげで初ウォーカーだ! で、これどうすりゃいいんだ?」


 このカフカMark1は鉄鬼より一回り小さく、牛鬼ぐらいはある機体だ。

 機体の横には操縦席にめがけたバーが続いていた。そこを掴んでよじ登った。

 ガラス越しに見える操縦席が少し頼りない。探り回すと側面に開閉用のレバーを見つけた、捻って開ける。


*がしゅんっ*


 分厚いガラスが上へと持ち上がった。中身は鉄鬼とそう変わらない構造だ。

 ただし汗臭い、そして心なしかアンモニア臭もする。

 サベージ・ゾーンは臭い物ばっかだ――完璧な逃走プランに乗り込んだ。


「ノルベルト! こいつで帰るぞ、しっかり掴まれ!」

『う゛っ……ちょ……っ……いちクン、この座席、すごく臭い……!?』

「ふっ、俺様はそう簡単に振り落とせんぞ? 優雅な帰宅といこうではないか!」

「こいつが臭くなかったら完璧だったな! タロン、乗り方分かるか!?」

「わかんねえけどフィーリングでやっちゃうぜ! オメーはどうなんだよ!」

「経験済みだ! まずハッチ閉めろ! 次は電源、あとはなんかこうトグルスイッチ全部やってスタートだ!」

「適当やってりゃ動くだろ! こういうシチュエーション最高!」


 ノルベルトが機体の肩に捕まったのを確認、隣じゃアクイロ准尉も同じようにしていた、ヨシ!

 相棒の説明を思い出せ。まずは開閉ボタンを押してハッチを降ろした。

 次は電源だ。メイン電源をオンにするとミリタリーなロゴが流れた。


【Tactical Technologies……】


 迷彩パターンに星と銃が混ざったデザインが消えると【TACTICAL WALKER OS Ver.X.X.X】と出た、ステータスチェックだ。

 目の前のトグルボタンを片っ端から押してチェック完了、スタートを押した。


【リアクター起動、センサー起動、駆動システム起動、武器管制システム起動、操縦システム起動、全システム正常】


 計器に光が入った。ぶるるっ、と足元が唸って立ち上がる……ヨシ!!

 タロンも少し遅れて何とか起動したらしい。さっそくハンドトレースとコネクタに四肢を預けた。

 しかし目の前のガラスの一部が透明なテープで塞がれていた。また会ったな。


『っしゃぁおらぁ! ストレンジャー、お前のおかげで夢が一つ叶ったぜ!』

「そりゃどうも! 南へ向かうぞ、質問あったらいつでもどうぞ!」


 足でギアを入れて踏むと「ごんっ」とニシズミ製より軽い足取りで動いた。

 操縦法はまだ覚えてる。側面を蹴って道路へと機体を走らせた――。



 ごんっごんっごんっ。

 もしこのカフカMark1とか言う機体の足音を表現するならこうだ。

 鉄鬼より軽くて速いリズムだが、それ相応のスピードで機体は駆けていた。


 こいつの速度はサベージ・ゾーンの臭い街並みを軽々と渡ってくれている。

 視界の横にへばりつくノルベルトはご機嫌で「良いものだ」という笑みだ。


『お、おいっ!? あれうちらのウォーカーじゃねーか!?』

『なんでカフカがこっちに来るんだよ!? つーか何事だ!? 見回り行ってる間になんかあったのか!?』


 構造上よくみえる光景から集音機能がそんな声を拾った。

 目の前にはガラスを薄く覆う第二の画面がインターフェースを表示している。

 両腕代わりの重機関銃と同期した照準が交差点の装甲車を収める――ノルベルトが気になった。


「ノルベルト! 少しうるさいぞ!」

『素晴らしい光景だな! やれ、オーガの鼓膜など構うな!』


 あいつは撃って欲しそうに指で射撃支持を出してる。指を引いた。


*zzzZVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAMmmm!*


 カフカに載せられた15㎜重機関銃四問が一斉に唸った。

 曳光弾混じりの連射の束がこっちを見上げる傭兵たちを車両ごと裂いた。

 向こうは曲がり角だ。右から後続の装甲車がきた、五十口径がやってくる。

 目の前のガラスにガンガンと嫌な音と衝撃が波打つ。速度そのままに狙いを合わせようとするが。


『こいつロケットランチャーもついてんのかよ! 准尉殿、熱いですけど構いませんね!?』

『ちょうど肌寒かったところよ、温めてくれるかい?』


 機体が横からぼしゅっと発射音を拾った。もう一機のカフカが何か大きなものを撃ち込んだようだ。


『どうして俺たちのウォーカーが攻撃してん――うわああああああっ!?』


 白い筋を描いた何かが遠くで車両ごと爆散した。

 サブモニタをいじって確かめると正体が分かった。タロンの機体にはアーム側面にロケットポッドが増設してある。

 あっちにすればよかった。ところでアクイロ准尉は熱くないのか?


『見たかストレンジャー! 初キルだ! やっぱ俺ってデカい武器がお似合いだな!』

「そっちに乗ればよかったかもな! こっちのはガラスにテープ貼ってある!」

『それもしかしてあん時のやつかよ!? どうする? 後で変わろうか?』

「ああ、まずは落ち着ける場所探さないとな!」


 俺たちはまだまだ敵がいそうな街中をウォーカーで並走した。

 バロールめがけて曲がり角を曲がると、そこで有視界めがけて飛んでくる空飛ぶバイクと鉢合わせる。


『はぁ!? うぉ、ウォーカー!? あれってレッド・プラトーンのやつらか!?』

『違う、敵だ! あいつら奪われたって言ってるぞ!』

『ど、どうすんだ!? 俺たちじゃ歯が立たねえぞあんなん!?』


 でもウォーカー二台は分が悪かったようだ。旋回しようとする数台を狙った。

 この機体は照準の合わせ方が独特だ。上半身の動きで固定式の武器を合わせないといけないからだ。

 肩で狙いを定めるように狙った――ずばばばっと短連射を繰り返して落とす。

 タロンの機体も機銃で追い回せば十字砲火の完成だ、街中のどこかが爆ぜた。


『こちらヌイス、女性を乗せた車両はほとんど逃せたよ。だけどエミリオ君が乗っている車両がまだ追い回されてるみたいだ』


 地上で薬中たちが見上げているのを横切ると、ヌイスの報告が間に入ってきた。

 また問題か。あいつらいったいどこ彷徨ってんだ。


「報告どうも、ヴィラもセットでピンチなんだな? 助けは必要か?」

『二人ともピンチさ、可能であればお願いしたいけど……今そっちはどうなってるんだい?』

「どうなってるって? ちょっとウォーカーを奪って南へ……」

『えーと? なんだって? ウォーカーで?』

「奪ったウォーカーで帰還中。タロンも一緒だ、蹴散らしながら進んでる」

『分かったよ、これから退路をナビゲートする――ねえ社長、いったい君たちは彼にどんな教育したんだい?』

『はははっ! 見ろよダネル、あいつらウォーカー盗まれてやんの! 大損害だ!』

『やんちゃな上等兵どもだな。他の連中の援護が完了した、今からダネルおじさんがお前らの帰り道を見守ってやる』


 このまま押し通れば帰れるだろうが、友人とその彼女を失うのはごめんだ。

 『まっすぐだ!』という指示の先はさっきより少しマシな景観が息づいてる。

 数百メートル先の光景では驚く人々と、その手前にバリケードとばかりに固まるラーベのパトカーだ。


『ストレンジャーがウォーカーに乗ってるってマジじゃねーか!? 何やってんだドミトリーの馬鹿野郎!?』

『や、やるしかないだろ!? とにかく撃て!』

『誰かパトカーで突っ込め! それなら効くだろ!?』

『俺はごめんだ! 付き合ってられっか!』

『まっ待ってくれ! 俺もっ!』


 ぐんぐん距離を詰めると小火器の着弾が防弾ガラスにリズムを刻んだ。

 敵は半分ほど散り散りだ。直進で踏みつぶそうとするとタロンが先行する。


『少しは学習しろやボケどもが! 固まってたらいい的ってことを再教育してやるぜコラ!』


 スピードを落としながら狙いを定めたようだ、俺も機銃で牽制した。

 ぼぼぼぼぼしゅっとロケット弾の連射が通りを襲った。あいつの言う『いい的』は道を作るぐらいに吹き飛んだ。

 向こうには十字路がある。このままずっと直進するルートだ。


『イチ君! 手元にランディングローラー用のギアがある! 引くんだ!』

「ラン……なんだって!?」

『機体の高速移動装置だ! それを引けば起動する!』


 突然ヌイスが知らない知識をぶち込んできた、どれだギアって!?

 それらしいのを探って触れた。膝横のあたりにレバーがある。

 左手で引くと機体ががくっと姿勢を作った。足元で何かが降りる感触もした。

 画面に【ランディングローラー起動中】と浮かんだ……ペダルを踏む!


 ――ぎゅりりりりりりりりりりっ!


 次の一瞬、有視界越しの景色が一気に加速した。

 足に伝わる機体の動きも変わった。地を歩く感じじゃない、タイヤのような何かが走る感触だ。

 オーバーライドとは違うスピード感がパトカーの間をすり抜け、野次馬だらけの十字路を颯爽と突破していく。


「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおお早えええええええっ!?」

『えっなにっうひゃあああああああああああああああああぁっ!?』

『フーッハッハ! 心地よい風だな、もっと早く走るがよい!!』

『うおおおおぉぉぉなんだこりゃ超早えええええええええええ!?』

『いいじゃないか、もっと飛ばしなさいタロン。まだ足りないわ』

『君たちうるさいよ!!! 楽しんでないで急いでくれ!』


 スピードアップした分だけ危険もそれ相応だ、路上に停まる車の数々が目について足を横に蹴る。

 左右に押せばぐらりぐらりと機体がそこへ曲がるらしい。車を避け、見上げる市民をビビらせ、道をなぞって走った。

 エミリオ、許せ! ちょっと楽しい! 


『ダネルだ、お前たちの進行方向にウォーカーがいる! 警察のやつらだ!』


 しかしそんな楽しい思いに水を差すやつがいるそうだ。

 次の交差点に差し掛かるあたりで、青黒い塗装の逆関節型が腰を落として滑るように割り込んできた。

 俺たちと同じカフカだ! 振り向きざまに重機関銃がこっちを睨んだ。


「タロン! 合わせろ!」 

『あいよ! お先どうぞ!』


 先制攻撃だ、足を上げて減速しつつ停止、ご対面したばかりのそいつにトリガを絞った。


*zzzZVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAVAMmmm!*


 連続した轟音と共に銃身と機体が震えた。弾幕が敵の機体を叩いて揺らす。

 青黒いカフカは身をよじって後退したようだが、向こうも同じようにこっちを撃ってくる。

 ががががっ、と不快な音がガラス上を跳ねた。ランディングを解除、機体を旋回させて急いでノルベルトを守った。


「おらおらぁ! テメエで撃墜マーク作ってやらぁ!」


 その隙間に急停止したタロンがロケットをぶち込む――敵の操縦席が爆ぜた。

 操縦者ごと叩き割られた機体はがらがらぶっ倒れた、被害総額増加だ。

 

『いたぞ! あいつらを逃すな、確実にぶち殺せ!』


 そんな横合いにまたランディングの走行音が追いかけてくる。

 街の北側だ。二機目の警察色をしたカフカが姿勢制御をしながら詰めてきた。

 ……が、すぐそこまで近づいたところでそいつの防弾ガラスにヒビが走る。

 ウォーカーのお巡りさんはとてもゆるやかに俺たちの目の前で停止した。操縦席の大きな穴が原因だ。


「援護どうもダネル少尉。たった今席が一つ空いた」

『見たかタロン、俺も撃墜だ。流石に20㎜の徹甲弾は効いたか」

『離れた敵にまっすぐ突っ込んでくんなよ素人が――そうだ准尉、あれ奪ったらどうです?  三機目ですぜ!』


 すると持ち主永久不在のそれを奪えとか言い出すやつが現れてしまった。

 困ったことに本気で受け取るやつだっている。機体を伝ってアクイロ准尉の筋骨隆々ボディが乗り込んだ。

 ガラスハッチを開けると上半身が行方不明のご遺体と交代だ。三機目が動き出す。


『このまま頂いていくわ。隊列を組んで前進よ、ストレンジャーは先頭をお願い』

「こちらストレンジャー、三機目の鹵獲に成功したぞ。ところで持ち帰っていいんだよなこれ?」

『さ、三機も奪ってる……どうやら君たちは強盗の才能に恵まれてそうだね』

『でっけえガレージ用意しねえとな? もっと暴れてこい!』


 アクイロ准尉は開きっぱなしのカフカに少しぎこちなさそうだ、先導しながら地を蹴った。


『こちらエミリオ! あいつらに追われてる! タイヤがやられてうまく走れないんだ!』

『さっきからずっとしつこいわね!? いい加減誰か助けてくれない!? ストレンジャーあたりがいいわ!』

『イチ様ぁ、いらっしゃるならどうかお助けっす~』


 知らない通りを三機で揺らしていると、あちらの風景に車の集団がそれらしい状況で曲がり込んできた。

 やや調子の悪いトラックが助けを求めて疾走中だ。パトカーと装甲車が銃撃しながら追いかけてる。


「こちらストレンジャー、助けに来たからどうにか避けろ!」

『いや助けにって――うわっもしかしてそういうこと!?』


 俺たちは即席の射撃陣形を作って迎え撃った。

 三機の織りなす掃射は最悪に違いない。滑り込んできたトラックすれすれを追い越して機銃をぶっ放す。


『どっ、ドミトリーあの野郎ふざけやがっうわあああああああぁぁぁ……!』


 そいつは警察や傭兵か、なんにせよ恨み言を残しながら廃車の山になった。

 ようやくカーチェイスが終わったトラックを見た。エミリオが青ざめてる。


『うそでしょ!? あの人ほんとにウォーカー盗んだの!?』

『だから言ったじゃないかヴィラ! これで二犯目だ! ウォーカー泥棒で食べていけそうだね彼!?』

『またお盗みになったんすかイチ様ぁ』

「盗んだウォーカーってどこで買い取ってもらえるんだ? 誘導する、さっさと帰るぞ」

『特等席で見ているぞエミリオよ。もう安心するがよい』

『ぶ、無事でよかったです……暴れすぎだよいちクン……』


 肉眼で見るにエミリオたちは無事だ。三機でトラックを包むように走った。


『よし、最後のルート変更だ、次の十字路を右に曲がってくれ。そこからはもうひたすらまっすぐ進むだけでいい』


 ヌイスが言うにはこれでラストランらしい、ランディングローラーを落とした。

 ぎゅりりりと足が道路を滑り、コネクタの横操作で右にくねったその時――不穏なものが向こうに見える。


「……おい、待て! なんだあのウォーカー!?」


 それはランディングローラーと思しき動作で横道から現れたようだった。

 だいぶ遠くに四つ足のウォーカーが少しぎこちなく滑り込んでいた。

 脚部のローラーが持ち上がると、しっかりと地に足のついたウォーカーはボディに乗った丸みのある砲塔を向けて。


*zZDODODODODODODODODOM!*


 機関砲と思しき砲身を盛大に唸らせた。

 カフカの重機関銃より強い炸裂音だ。足の動きで射線を横に切る。

 幸い射撃センスは下手くそらしく、そこらの民家が弾幕に晒された。


『あれはパウーク、ラーベ社のウォーカーだ! なんでこんなところに!』

『あんなのもってんのラーベ社の直属部隊ぐらいだぞ!? あいつらいんのか!?』

『おいおいおい冗談じゃねえゴツいの来やがった!? どうすんですかい少佐がた!?』

『落ち着けお前たち、何処から来たか知らんが奴は単独だ! 我々でどうにかするしかないだろう!』


 無線の混乱がそいつについて物語ってるが俺たちはそれどころじゃない。

 エミリオを気にしながらトリガを引いた。15㎜程度の機銃はあの『パウーク』とやらをノックする程度だ。

 平然と機関砲の狙いがこっちに定まった。そこへタロンが俺を追い越し。


『ラスト・ロケットだ! これでだめだったらもう知らねえ!』


 向こうの得物が炸裂するタイミングにロケット弾をかぶせた。

 がぎんっとそばで鈍い金属音がした、向こうで爆発が激しく立ち込めるのもほぼ同じだ。

 タロンの機体の片腕が弾け飛んでる。一方で相手は無傷だ、外れたか。


『タロン、無事か! 二階級特進は必要そうか!?』

『もうちょい先みてえです! くそっ、外しちまった!』


 大丈夫みたいだ。ダネル少尉の狙撃がかすかに相手を揺らした。

 しかしどっしりした構えは変わらず、俺たちも機銃で返すが効果がない――


『イチよ! やつにぶつかれ!』


 距離を詰めるにつれてノルベルトが急にとんでもないことを言いやがった。

 何をしでかすか心配する矢先、あいつは見覚えのある棒状を取り出していた。

 テクニカル・トーチだった。スカベンジャーから拝借したような笑みだ。


「ああそうか、俺の真似だな!? いいんだな!?」

『ノルベルト君!? 本気なの!?』

『構わんっ!』


 その強い顔には俺の真似事があるんだろう、じゃあ乗ってやる。 

 高速移動をフルにしたまま四つ足の怪物に飛び込んだ。

 砲弾が機体を襲った。目の前のガラスがぶち破られる、足元のどこかで金属の悲鳴が上がる。

 それでも減速はしない。割れた視界いっぱいに後ずさる敵機がすぐそこで。


 ――ごがんっ!!


 睨みつける砲塔へと盛大な衝突が決まった。

 俺もつられて強化ガラスに頭突きをお見舞いだ、温かい血の感触が迸る。


『ふん……っ! 貰ったぁぁぁっ!』


 だが本命はノルベルトだ。ぎくしゃくと暴れ歩くそいつの砲塔にしがみつき、例の魔法の杖を頂点に押し付け。


*bBaashhhhhhhhhhhhhhhhhhMmmmm!*


 ヒビの深いガラス越しでもはっきり分かる真っ赤な熱がそいつを襲った。

 科学がひねり出す数千度の炎だ。ウォーカーの操縦席はウェルダンだろう。

 トーチが一通り炎を吐き出すと、敵の機体は弱弱しく悶えた後に静まった。


『どうだ! 俺様も大物を仕留めたぞ!』

「一機撃墜だな、おめでとう。どうだった?」

『やはり獲物は大きければ大きいほどよいものだ、さあ行け!』

『や、やっちゃったんだ……大丈夫? っていちクン、頭から血が……』


 ノルベルトは無傷だ、よってこいつの圧勝である。

 パウークの残骸を後にすると、遠くにあるバロールの街並みに安心した。

 ボロボロのガラスを開けると空気が死ぬほどうまいし、戻ってきたノルベルトの強めな笑顔が気持ちいい。


『よし、境界線はすぐそこだ! まったく、ウォーカーは盗むわテクニカル・トーチで焼くわ、君たちはそんな発想をどこで培ったんだか……』

『た、助かったよストレンジャー……何度命拾いしたんだろうね俺』

「俺たちいつもこうだぞ。おいデュオ、こんな臭い思いをするのはもうごめんだ。バロールが恋しい」

『マジで街中ぶち壊しながら帰って来やがったな、よくやってくれたよほんとに――おっと、仕上げだ』


 気も落ち着いて、ランディングローラーを解除した途端のことだった。


*ぼぉんっ……!*


 ずっと離れたどこかでくぐもった爆発音が湧いた。

 まさかと機体ごと振り返るとサベージ・ゾーンに極太の炎が吹き上がる一コマだ。

 カジノどころか街一帯にすら火が及んで芸術的だ――俺知らね。


「これで健康だな。なあ、ところであれって放火罪にあてはまらないよな?」

『デュオさん……? なんか、火が燃え広がってませんか……?』

「おおっ、あの派手な燃え上がり方はドワーフの爺様たちの手が込んでるな? フランメリアらしい晴れやかな花火ではないか?」

『なあに心配ご無用さ。普段ヒマを持て余しているラーベの消防署にいい仕事をくれてやったんだ。これでしばらくはあんな消防意識ゼロの景観を作ろうとはしねえはずぜ』

『まるで天災が三度往復したようになってるっすねえ……あひひひっ♡』

『私が思うに天災だってもうちょっと手心があると思うよ……』


 やっと戦いの気も抜けてきた。もう後ろを気せず境界線へ向かえる。

 はるか右手にあの廃工場の輪郭を感じた。バイソンズにそっと敬礼した。


『へっへっへ、やったぜストレンジャー! これで俺は金持ちだぜぇ!』

『タロン上等兵、今回の件はお前の活躍だけじゃないということを忘れるなよ。私が横暴な上官命令を下す前に平等な分配をしてくれるのを期待しているぞ』

『あら、さっきのギャラは安くないわよ。私も正当な支払いを期待しているわ』

『分かってますってお二人とも! 中佐にバレないようにしねえとな』

『当たり前だ、一応土産でも買って誤魔化しておけ。マガフへの報告はどうしたものかな』

『とりあえずストレンジャーの大活躍で悪が滅びたぐらいでよくないすか? あいつに全部擦り付けましょうや』

『ついでに私の神業の如き狙撃が窮地を救ったというところも語ってやろうか。さあ、寄り道せずさっさとお家に帰ってこい』

「マジでチップくすねたのかよあんたら……」


 シド・レンジャーズも肩の力が抜けてた。本当に戦いが終わったんだな。

 三機のカフカがゴミのない道路を踏むと、バロールの景観との境目があった。

 そこには車が集まっていた。トラックとあのリムジンだ。


「よお、遅かったな坊主ども。ずいぶんとデカくなって帰って来たな」

「派手に吹っ飛ばしてきたみてえだな。ありゃ早く消火しねえと大変だぞ」


 その手前で待っていたのはスピロスさんとプラトンさんだ。

 血がこびりつく得物を担いで、その近くに黒い戦闘服姿が転がって「だいたい」の説明がある。

 なんなら喋る牛と熊の姿にガクガク縮こまるご存命の傭兵もいるぞ。


「放火犯は俺じゃないからな。ところでそいつらどうしたんだ?」

「待ち伏せしてたらまんまと引っかかったから斧でご挨拶だ。お嬢さんがたは全員無事だぜ」

「頭潰れたくらいで戦意喪失とか舐めてんのかまったく、張り合いがねえ」


 この様子だと気の毒な傭兵の処遇はデュオ次第だ。ウォーカーから降りた。

 向こうでニクが尻尾を振ってた。おいでと招いて抱っこしてやった。

 あのリムジンに近づけば、イワンが部下たちと疲れた座り方だった。


「イワン、再会を祝うコメントは『退職おめでとう』でいいか?」

「一生分の冒険をした気分だ。こんな退職の仕方はこれっきりにしたいものだ」


 現在無職の男は疲れより笑みが勝ってた、俺も笑った。

 少し間を置いて、ねぎらいの軽口でも振舞ってやろうと思ったが――


『イワンンンンンンンンンンッ!!! まだだ! まだだぁぁぁぁぁっ!』


 ごんっごんっごんっ。

 拡声器に乗せたねちっこい叫びがこっちにきた。

 俺たちめがけてカフカMark1が迫っていた。あれはカジノにあった三機目だ。


『よくもっ! よくもぉぉぉぉっ! お前のせいで俺はぁぁっ!』


 しかし遠目にも分かるほど、機体はぼろぼろだった。

 何があったか計り知れないが、機銃は曲がってガラスは破れ、今にも倒れそうな逆関節が操縦者の寿命を表してるようだ。

 いや倒れた。何もない場所でとうとうそいつは崩れて。


「ストレンジャー……! お前は悪魔だっ! 俺の輝かしい毎日を、俺のこれからを、俺を見てくれるやつらも、お前が全部壊しやがった! ぜーんぶだっ!」


 中から這い出てきたやつが執念でお気持ち表明をしてきた――しぶとい。

 あの地獄をどう切り抜けたのか、身体中は切られ殴られ噛みつかれの跡が痛々しく、片目も抉られていた。

 誰かの言う通りゴキブリの方が慎ましいだろう。イワンが呆れてる。


「よくもっ! よくも俺の人生を奪ってくれたな!? 俺はてめえらを呪ってやる! 空っぽだった俺を埋めてくれるささやかな生きがいを奪ったな! 俺の寂しさを紛らわしてくれる居場所も壊したな! 俺を騙して笑いやがったな!」


 よく喋るってことは後十年は生きるだろう。どうしようこいつ。

 スピロスさんが「なにあれ」と困ってるが、ふと向こうで土煙が上がった。

 心なしか真っ赤なものがこっちに向かって来ているような――


「俺はお前たちを呪ってやる。死んでもお前たちを恨んでやる。人を傷つけたら必ず自分に返ってくるんだ、ならばお前たちはあの地獄が」

『ヒャッハアアアァァァァァァッ! 俺の車の赤色だぁぁぁぁっ!』


 ごしゃっ。

 もう30分は続きそうなスピーチは突然のオープンカーで永遠に中断した。

 薬中が乗り回すそれは仕上げの赤色を彩ると、そこらの廃車に乗り上げて飛んでいった――廃工場の壁へと。

 

「俺を見ろ! 俺を見ろ! 俺を見ろ! 俺が真っ赤だぁぁぁぁぁぁッ!」


 唖然とする俺たちの前で車が突っ込み、そして真っ赤に爆ぜて散った。


『ふん。最後は自分が育てた毒に飲み込まれるとはな。お前の長々とした話し方にやっと滑稽な話のオチがついたな』


 ドミトリーがわざわざ用意してくれた話のオチに、クリューサは鼻で笑った。


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