毒と健康は紙一重(4)
マーケットを離れる前に、頼まれた市場調査も兼ねることにした。
堂々と店先に並ぶ怪しげな偽造パス、ニシズミ社の電化製品、競うように売り出される自家製薬物と数えだしたらキリがない。
「デュオ、ざっと見たけど何か気になるとこは? なんならテイクアウトしようか?」
『全部持ち帰って欲しい気分だ。そこのバイクのエンジンはバロールの新しいやつで、さっき通り過ぎた店なんかニシズミの光学兵器売ってやがる。もう数えるのやめてえ』
「商品の数だけ悪い子がいるってことか。流石ブラックマーケットだ」
『ニシズミだって自分の製品が横流しされてることぐらい覚悟してるだろうがこの品数は異常だぜ。それだけあっちの回し者がいる証拠だ』
「カジノが要塞になってたのもうなずけるな。強気な商売スタイルなこった」
『まさに今がラーベ社の絶頂期なんだろうよ、これを機に縄張りを広める魂胆が見え見えだ。どんどん増えてく傭兵にスパイ、どうしたもんかねまったく……』
「そいつら増えすぎてそのうち壁の外まで溢れてきそうだな」
『もうなってんだよなこれが。ブルヘッドのもう一つの出入り口は傭兵どもが取り仕切ってるし、外でもお前らにゆかりのあるやつが来ねえかしっかり見張ってやがる』
「向こうが諦めてくれない限り命狙われるスリルに事欠かないとかマジ最高」
『調子づいてる今のうちに鼻っ面折っちまえば全部ひっくり返るだろうさ、それまでブルヘッドを堪能してくれ』
バロールの品々もちょくちょく見かけるせいで我らが社長殿もご立腹だ。
親父さんも『信じられんな』とため息交じりに嘆いたあたりでさっきの飯屋に通りかかったが。
「どうだい兄ちゃん、目ぼしいもんは見つかったか?」
相変わらず衛生管理がよくない屋台からあの店主が気にかけてきた。
そうだな、少しここについて聞いてみるか。
「いや、串焼き以外は特に」
「ははっ、うちの串焼きはあんたのニーズにぴったりだったか?」
「もう少しカレーの風味が強かったら俺好みだ」
「おまけに味にうるさいときたか。なあ、気を悪くしないでほしいんだが……あんたバロールの回し者だろ?」
ところが人懐っこい店主から出た言葉は俺の正体についてだ。
ほんの一瞬、意識が隠した武器に触れるが「しっ」と制してきた。俺の続きを待ってる。
「正直に言うとそうだ」
「だろうな。ここにいるやつは舌が馬鹿だから無心で口に放り込んでるが、あんたはクソ真面目に味わってた」
「そういう性格なんだ。で、正解した景品は何がいい? 45口径でいいか?」
「待て、別にからかおうってつもりじゃないんだ。あんたはうちの客だ、これ以上詮索はしないし変なことを言い広めるつもりも今のところなしだ」
だから正直に返した。ヌイスが『あのね君』と呆れたが今は無視した。
屋台越しの男といえば、いかにも味方ですとばかりの接し方だ。
『イチ君、向こうの人間に素性を明かすなんて正気かい? 私たちの計画を全て台無しにしかねないのは分かってるよね?』
『へへっ、これでいいんだよヌイス。こういう時のイチは不思議とうまくいくんだ、信じてやれ』
「そうか。じゃあついでに俺たちのバックに色々ついてて、まさに今こそこそやってる最中だっていったらどうする」
「じゃあ是非とも力になりたいね。欲を言えばおこぼれに預かりたいところだ」
「例えば60000チップのチャンスがあってもか?」
念のため有名人だと明かすと、流石の相手も少し動揺したらしい。
が、店主は壁にある『60000チップ』の張り紙と見比べてさぞ下らなさそうな含み笑いだ。
「こんなとこで肉焼いてるご身分がクソ正直に通報したところで、ケチなラーベがまともに全額払ってくれると思うか? それか横から傭兵だのサツだのがここぞとばかりに出しゃばって手柄を横取りするのがオチさ」
世知辛いラーベ・ゾーンの住民らしく『客だと装え』と目で訴えてる。心ばかりの1000チップを押し付けた。
「気前のいいバロールとえらい違いだな。サプライズ以外でおすすめは?」
「ならキノコサラダだ。まあなんだ、ここじゃ俺みたいな下々が出しゃばるとお上が意地悪をしにくるのさ」
「ケチな文化だな。じゃあサラダ一つ」
「あいよ、作り立てをご馳走してやる」
「で、そのお上っていうのは向こうで繁盛してるやつらとかがそうか?」
「そうさ、最近は表通りでどっかの傭兵どもが調子に乗りやがっててな。ああなったのも少し前に見たこともないブツを売りだしてからだ」
「商品名はエアブーストとエネルギスタって感じだろうな」
「そういう感じだ。カジノの地下で料理してる連中がいるそうなんだが、この前そこのモンがすげえ薬だって自慢して回ってたな」
「商品の宣伝もするなんて商売熱心だ。そいつらどんな自慢してたんだ? 良かったらもっと愚痴を聞かせてくれ」
「胡散臭い話だから気楽に聞けよ。なんでもあいつら、ヴェガスで見つかったっていう秘密の薬の製法をラーベから買ったってよ」
客という体で話を繋げさせると、店主は汚い冷蔵庫から何かを引きずり出してきた。
馬鹿でかいキノコだ。つるつるしたオレンジ色で、手のひらを隠せる肉厚の傘と切断されてもなお10㎝は余る柄がご立派だ。
それが焼き台で炙られると、ぎゅっぎゅっと大味そうな音を立てて刻まれた。
「ヴェガスで? それってここから北西にえらく離れた都市だよな、レイダーだらけでさぞ荒れてるって聞いたことがあるぞ」
「そうだな。愚直にここからまっすぐ行こうもんならクロラド川と放射能汚染地域に邪魔されるとこだが、今度はきな臭い噂をおまけでトッピングだ」
「どんな噂だ?」
「ラーベ社はカリフォルニア・ウェイストランドとコネがあるって話だ。なんでもミリティアをこっそり手引きしていて、こっちに侵攻するためにヴェガスに先行部隊が紛れてるとかな」
「よくできた話だな。今までの人生を振り返るとマジに感じるよ」
「陰謀論だと思えよ、真面目に受け取るな。でだ、お薬のレシピをこんなとこまで運んできたのはアリゾナに潜伏してるミリティアかもしれないって言われてんだ」
店主は周りに気を使いながら、マーケットの喧騒に紛れてそう教えてくれた。
料理も完成した。皿の上でぶっきらぼうに刻まれたオレンジが油で光ってる。
「案外その話は事実かもしれないな、さっきからずっとそんな気がする」
「実際、秘密の薬のせいでサベージ・ゾーンが賑わってるだろ? おかげで半年前よりタチの悪い薬中が増えてるし、人が面白いぐらいばたばた死んでて気が滅入るよ」
「しらふで良かったな。ところでその……ご立派なオレンジ色はなんなんだ?」
「これか? 見りゃ分かるだろ、キノコだ」
たっぷりと話を絞り出した相手は「召し上がれ」と差し出してきた。
塩と胡椒と酢で和えた謎のクソデカキノコだ。フォークで押すと食べられまいという反発を感じる。
「俺が聞きたいのはこいつのアクセントだ。呼吸困難になったり幻覚症状が出たりしないよな?」
「そうビビるなよ、ラーベ社傘下の企業が生産してる安心安全のキノコだ。ちゃんとウォーカーの人工筋肉に使ってる品種だぞ?」
「ウォーカー……なんだって?」
「仕組みはよく分からないんだが、こいつが伸ばす菌糸がウォーカーの筋肉になるんだとさ。で、肝心のキノコ本体といえば利用価値のない廃棄物だ。そいつを仕入れてさっと炙って刻んだものに調味料をかけて召し上がれだ」
まさかこんなものにウォーカーが絡んでくるとは思わなかった。
この硬そうなキノコには理解できない設定が詰まってるようだが、とりあえず頂くことにした。
「毒じゃないってことは確かなんだな。うまいのか?」
『(いちクン、それ食べるの……? 絶対やめたほうがいいよ……)』
「塩と油と酢かけりゃ大体のもんは食える。ちょいとピリピリするがチリ風味だと思ってくれ」
今の俺はここの客だ。一口だけ運んだ。
ぎゅむっとした反発力と塩コショウと酢の味だ。キノコの味なんてどこにもないし、なんだか電気的な刺激を感じる。
『えーとイチ君、それは企業によって品種改良されたキノコなんだ。人工筋肉用の菌糸を採取するためのものであって、人体への影響なんて微塵も考慮され……ってもう手遅れだったか……』
『うわっこいつマジで食いやがった! ストレンジャー、お前しばらく見ないうちにだいぶ悪食になってねえか? 変なもん食うように教育したっけか……』
「ふやけた発泡スチロールに調味料かけたみたいだ」
「俺以外にもそう感じるやつがいて安心した。それ食って死んだ客はまだいないから心配するな」
食べ物……と思しきものを無駄にしない精神をリスペクトして食べ進めた。
俺もだいぶマーケットに溶け込んでるはずだ。ほんのり痺れるキノコを片づけると店主は感心したようで。
「……だけどな兄ちゃん。何が一番気に食わないっていや、ついこの前あいつらの始めた新しいビジネスだ」
今度は周りの目を気にした慎重な言い方だ。
皿を平らげながら無線機が収音しやすいように身を整えた。
「麻薬で健康促進するキャンペーン以上に気に食わないのがまだあるのか?」
「思いつく限り最低なやつだよ。しかもそれで今まで以上に儲けが出てるんだ」
「へえ、どんな事業に取り組んでるんだ? カジノで人肉料理でも提供してるのか? 奴隷商人? それか臓器売買?」
「どれも当たってるかもな。実はな、あいつらバロールやニシズミから女を無理矢理連れてきてサービスさせてんだ――意味わかるだろ?」
レッドレフト・カジノにはいったいどこまでひどい話が詰まってるんだ?
目の前のしかめっ面は噓偽りなく不愉快そうだ。俺だってそうだ。
「おまけにさらった女で金稼ぎか。あのカジノは間違った方向性で事業開拓してるみたいだ」
「しらふで健康的な女はここじゃ上物なんだよ。んで薬漬けにしてあそこに閉じ込めたまま商売させるのさ、くたばるまでずっとだ」
「ブルヘッドで三番目にショックな話だよ、畜生」
「しかも噂じゃラーベ傘下の企業がきれいな臓器のために女を買い取ってるって話だ。どうだ?」
「オーケー分かった。そんなろくでもない新事業を始めたのはいつからだ?」
「マジで最近だ、まだ半月も経っちゃいない。ちょうど変な薬が広まりだした後でもあるな」
「じゃあレッドレフト・カジノが調子に乗り始めた頃だな」
「なあ兄ちゃん、俺は異性との付き合いに一家言あるんだ。死んだおふくろも言ってたよ、女と付き合う時は男らしくフェアに挑めってな。売春宿すら気取り始めたあいつらに食い物にされるのが気の毒でしょうがないんだ」
「俺も気の毒だ。ところでギャングのボスみたいな見てくれのやつの口から清らかな言葉が出てきたときってそういうジョークとして受け取った方がいい?」
「……そうか、ではやつらはその秘密の薬とやらを低俗な扱い方で金儲けに用いているのは間違いないようだな。それだけ分かれば十分だ」
余すことなく聞き出していると急な形でクリューサが割り込んできた。
どこまで耳にしていたのかは定かじゃないが、店主は「あんたのツレだろ」とおおむね理解してる頷き方だ。
「最近あいつらはどうかしてるよ。ついこの前いきなりカジノを要塞みたいに固めだしたり、どっかからウォーカーが運ばれてきたりであのザマだ。何考えてんのかさっぱりさ」
「どっかの誰かと戦う準備ができてるのは間違いないな」
「ここで戦争なんてごめんだ。願わくばバロールかニシズミに引っ越したいね」
「商売中に長話して悪かったな。お礼に次会う時には引っ越せるようにしてやろうか?」
「そりゃありがたいが今はあのカジノが潰れてくれるだけで幸せさ。またな」
収穫はありだ。皿を返して屋台からさっさと離れた。
俺たちはまたマーケットに紛れるが、クリューサは何かをちらつかせてきた。
「やはりサベージ・ゾーンからドラッグが流れ込んでいるな、エネルギスタを始めとする諸々が主にあのカジノで製造されているのも間違いないようだ」
「そっちも調べがついたか。大体の原因はあのカジノみたいだな」
「しかもやつらがばら撒いているのは失敗作を劣化コピーしたものだ、間もなく数え切れんほどの死体であふれるぞ」
収穫ありみたいだ、手には新品のエネルギスタが怪しい色を発してる。
「ひでえニュースだ。これで言い訳できないぐらいに証拠が揃ったな」
「いくつか興味深い情報もある。まずはあのカジノについてだ」
「何か分かったのか?」
「お前たちが大暴れした後に急いで防御が固められたのは間違いない。やはりこちらの動きを意識しているな」
「狙われたら困るってことだな。じゃあいいニュースだ」
「聞く話によればレッド・プラトーンのリーダーがラーベ社に話を持ち掛けて支援を受けたらしい。建物の改修やウォーカーの配備がそれだ」
「ワオ、誰かさんのために歓迎パーティーの準備してくれてるみたいだ」
「ラーベの思惑というよりは、単にやつらは商売の邪魔をされるのがよほど嫌なようだ。それと横から聞かせてもらったお前たちの話の裏付けも取れた」
「薬漬けのくだりか?」
「残念なことにな。件のカジノが近頃になって女を使った商売を始めたと話題になっている。おかげで客入りが激しくなっていることもな」
クリューサの土産話からしてレッド・プラトーンは感性はともかくカンがいいらしい。
まるでストレンジャーが来るから備えろ、みたいな嫌な話だが。
『薬漬けにして閉じ込めてるなんて、あの人たち何考えてるの……!? 最低……!』
誰とは言わないが鞘の中でわなわなと声が震えていた。
どこぞの馬鹿どもの新しい商売への文句は、無線機の向こうから何人分かのため息を絞り出すきっかけになったようだ。
『いったいどこまで悪い話が出てくんだよ……薬害どころか人身売買に臓器売買だって? 西側の関与までちらついてて心臓がパンクしそうだ』
『あいにく影武者の方もパンクしそうだぞ息子よ。いずれ誰かが探らねばならなかった事とはいえ、これはとんだ藪蛇だったかもしれん』
「それからデュオ、お前の危惧している通りラーベはミリティアと繋がっているぞ。メドゥーサ教団や西側の薬の製法がこんな場所に届いているなど偶然にしてはできすぎた話だろう?」
『お前の口からそんなセリフ聞きたくなかったぜ。生きてて一番最悪なニュース殿堂入りだ、おめでとう』
「アリゾナ・ウェイストランドで6.5㎜弾が普及しているのも妙な話だ。ライヒランドの件も間違いなく関与しているはずだ」
『じゃあなんだ、いずれ西から連中が攻めてくるかもしれねえってことかよ。なんてこった』
「あんなゴミ溜めのようなヴェガスでもミリティアを塞き止める役割があったようだ。今頃あそこはやつらに蝕まれているかもな」
『ラーベがカリフォルニアと仲良しか、こりゃ大きな収穫だぜ。ありがとよ』
『ミリティア』という単語が何度も飛び交ったせいで、デュオの声は今までで一番深刻な調子だ。
「幸先悪いトークだな、大丈夫かデュオ」
『ミリティアがなんなのか分かってるよな?』
「何度かぶっ殺したからよく覚えてる。西側にいる傭兵集団だろ」
『あいつらは遥か西のカリフォルニア・ウェイストランドを陣取ってる組織なんだ。で、そいつらに動きがあっていつか来るかもしれねえって話だ』
『補足するとだね、ミリティアは戦前のロシアからの移民をルーツに持つ者たちなんだ。ウクライナとの戦争に敗れて国が分裂した時、大量に雪崩れ込んできた難民が州を乗っ取ってね。その子孫はこうして国ぐるみの傭兵集団として西側を掌握しているのさ』
『そのロシア崩れどもがヴェガスまで迫ってきたかもしれないってさ。ライヒランドの件も考えると十分あり得るぜこりゃ……』
そこから聞かされる話は正直ラーベ社が薄まるほどの悪いニュースだ。
俺の人生は悪いニュースを好む癖らしいが、あの西の傭兵どもが本気で押し寄せてくるってのは特に最悪だ。
ヴェガスとニルソンの距離はそう遠くないからだ。つまりボスたちが危ない。
「そりゃ俺にとっても最悪だぞ、ボスがヤバいだろ」
『ヴェガスって、プレッパーズの人達とけっこう近い場所でしたよね。じゃあおばあちゃんが……』
『ああ、今すぐボスに伝えとかねえと。近い将来、やつらが押しかけてくる可能性ができちまったわけか……』
プレッパーズに危険が近づくんだ、デュオの気が落ち込むのも無理もない。
一瞬、ここに残っていつ来るか分からない敵を相手取る選択も浮かんだ。
でも俺の任務はフランメリアへ行くことだ。半端に戻る選択肢はもうない。
「あのクソカジノが閉店したら少しは気楽になるか?」
だからいつもの軽口を挟んだ。デュオは「へっ」と苦く笑ってくれた。
『今はそういうのが死ぬほど嬉しいぜ、やっぱお前は最高だ』
「褒めてくれるのは終わってからにしてくれ。そう言えばタロンはどうした?」
『……そういえばタロンさん、どこいったんだろう? 品揃えを見てくるとか言ってたけど』
「先ほど見かけた武器屋の方にまっすぐ向かうのが見えたが、玩具を目の前にしたような子供のような面構えをしていたぞ」
マーケットの調査はこんなもんか。あとは現在行方知らずなタロンだけだが。
「いやあ、一大事じゃねえか。ライヒランドの次はミリティアの本隊なんてシャレにならねーわ」
いや、いた。店の一つからお探しの角刈り男が突撃銃を掲げて戻ってきた。
「あんな感じのスマイルか」
「ついでに欲しかったものが手に入ったようだな、何を考えているんだ奴は」
「へっへっへ……見ろよおめーら。ラーベ社のノジメシニカ突撃銃にニシズミ社のホロサイトとアングル・グリップ付きだ! 予備弾倉もおまけしてくれたぜ!」
再会の挨拶はぴかぴかの光学照準器と斜めに傾くフォアグリップがくっつくカスタム銃だ。何やってんだこいつは。
「お前の趣味じゃなくて証拠品の確保ってことでいいよな? それとも両方か?」
「いやかっけーだろ? シド・レンジャーズじゃこういう銃使わねえから欲しかったんだ、ベースに帰ったら自慢しよっと」
「しかもそれミリティアとライヒランドのやつらが使ってたやつだろ、なんか嫌だな……もちろん他に収穫はあるよな?」
「えーと、まああるぜ? カジノの連中はみんな女好きとか聞いたし、可愛けりゃサービスしてくれるってさ。そんだけ」
『おいタロン、その銃は6.5㎜弾だろう? 持ち帰ったところでうちの弾薬規格は5.56mmか308だ、残念だが食堂の飾りぐらいしか使い道がないぞ』
『まあいいじゃねえかダネル、証拠にもなるしちょっとしたご褒美にもなるだろ? 社長のおごりだ、好きなの買って来いよ』
「さっすが社長だぜ! さてダネル少尉殿、何か欲しいもんはありますかい?」
『まったくお前たちは呑気なものだな。あるならV16軽量バイポットと34mmの照準器を頼む、息子へのプレゼントにしたい。もちろんニシズミのやつだ』
『あのねえ……そちらの住人になりきれとは言ったけど、お買い物を満喫しろなんて言ってないからね? ところでプラズマ火器用の電撃発生装置はあるかい? あるならなるだけ質のいいものを買ってきてくれたまえ』
「横流し品だってこと忘れてないかお前ら。今から移動する」
タロンのせいでお使いクエストが追加された気がするが、人混みをするりと縫って次へ移った。
とはいえ期待の声が割かし本気だったので応えることにした。品ぞろえを物色しつつ進むと。
「――なあ聞いてくれよ兄弟。ラーベ社の敷地でウォーカーが毎日毎日歩いてるんだとさ、しかも一体二体じゃなく十体二十体もだ。もしかしたらあれだ、戦争かもしれねえ」
「んなわけあるか、今度戦争が起きたらブルヘッドはマジでおしまいだぜ。流石のラーベのジジイもそれくらいわきまえてんだろ」
「でもよお、戦争見たくないか? ウォーカーが派手に駆け回るマジの戦争だ」
「ああ超見てえ、みんなで大騒ぎしてえ。ニシズミあたりから火事場泥棒でもするか? そしたら一晩で大儲けだぜ」
「いいね、ますます戦争起きてほしくなってきた。ああ、戦争戦争戦争……」
道すがらそんな物騒な会話が耳についた。頭のおかしいやつらだ。
「デュオ、向こうの民意は戦争らしいぞ」
『馬鹿言うなよ、企業同士が衝突するたびに甚大な被害が起きてボロボロになってんだぞ。なりふり構わぬラーベ社だってこれ以上は避けたがってんだよ、戦前に一回、戦後150年の間に三回起きて計四回だ』
「ここってそんな歴史があったのか、ちなみに戦績は?」
『四回ともラーベ社の勝ちってとこだ。だからあんな勢力図になってる』
なるほど。ラーベ社も表立った戦争は避けたいそうだ。
代わりに毒みたいな薬を広めたり、他所の女をさらったり、人様の物を盗んだりする攻め方が続いてるわけか。
どうもストレンジャーはそんなクソ素敵な文化と相性が悪いらしい。そろそろやめ時を教えてやろう。
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