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毒と健康は紙一重(3)


 表通りから少しずれると、一本の路地がアパートに後ろめたく挟まれてた。

 右も左も道なりに露店が続いて、激しい人通りからむせ返るような臭いが絶えず漂ってる。

 積まれた武器に焼かれる謎肉、がらくたから出所不明の新品まで流れるマーケットだ。

 日当たりの悪さからして『ブラック』と付け足すべきだろうが。


「――おい、さてはカリフォルニアからの回し者だな!? そうだろ!? 西からやってきたロシア崩れだな!? ブルヘッドから出ていけ!」


 最初に俺たちを出迎えてくれたのは不健康そうなご老人だ。

 意味不明な通せんぼの対処に迷ったが、またクリューサの手が遮り。


「もしや俺たちがロシア系移民の子孫か何かに見えるのか? ではお前の目は手も付けられぬほどの深刻な病だろうな」

「俺はテキサス・ウェイストランドだぜ爺ちゃん。んでツレはどっちもアリゾナ生まれだ、つまりロシア人なんざいねえわけよ」

「ならよし! いいか、あんな馬鹿どもに心を許すなよ! そもそもあいつらは『ミリシア』もろくに読めんやつらだ! あのロシアもどきめ何が『ミリティア』だ知恵足らずめ!」


 意味はさておき的確な問診が効いたらしい、タロンの肩を叩いて元気に去っていった。


「なあタロン、今日で変なやつに何度出会った?」

「まだ数えるにゃ早ぇかもしんねえぞ、ああいうのがあと十人ぐらい一期一会しにくるんじゃねえの?」

「まともに受け取らず馬鹿と薬中の見本市だと思え。相手にするだけ無駄だ」

『もう変な人はいいです……』


 愚痴も口々だが、ちゃんとした店が規則正しく並ぶバロールとは大違いだ。

 どっちが文明崩壊後の世界にあてはまってるかといえば、何でもかんでも貪欲に売買するこれこそがそうだろう。

 すぐそこの山積みの突撃銃なんかがそうだ。湾曲した弾倉が差し込まれて死を身近にしてる。


「気に入ったか? こいつはラーベ社製の"ノジメシニカ"突撃銃だ、6.5mmNJP弾を三十発も撃てるぞ。サベージ・ゾーンのニーズに応えて鉄製薬莢のやつもあっからな? どっちを撃っても壊れねえし絶対に撃てるぜ、だけど時たまメンテしてやれよ」


 俺の興味に気づいた店主はざっくばらんに置かれたそれに得意げだ。

 攻撃的な姿勢のカラスが銃とチップを抱えたラーベ社のロゴがある。気に食わない銃だ。


「壁の外にいる気分だ。ここってブルヘッドだよな?」

『バロールとは全然違うよね……同じ壁の中とは思えないよ』

「だからきょろきょろすんなって。まあそそられる気持ちは分かるぜ、外にゃない珍しい店がいっぱいあるもの」

「ついでに薬物中毒者の種類も増えているがな。そこで壁に頭を打ちつけているやつには近づくな、カリフォルニアの『アービードラゴン』という名のドラッグで勝手にこの世の真理を開いているぞ」

「あのさっきから壁に愛情注いでるやつか? なあ、あいつ心理どころか脳みそ開いて――くそっ嫌なもん見せやがって」


 目に見える人柄もいまだかつてないほど混沌としてる。

 買い物に神経を使うやつ、道端で踊り出すやつ、薬の症状でゾンビのようにのたうつやつと数え切れない。


『やれやれ、そこのマーケットは悪名高いと聞いてたけど本当に何でも揃っていそうだね。市場調査は後回しだ、先に私の用意した機材をセットしてくれ』

「了解、どこに置けばいい?」

『その路地裏には階段があるよね? もう少し進んだ先にカジノを見渡せる場所があるはずだ、そこに隠しておいてほしいんだけども……』

『撮影も忘れんなよ。とにかく情報が必要だからな』


 注文の多い無線機に従ってとりかかった。

 ここの壁際には屋上に通じる階段があるが、どれもが店の裏に隠れてる。

 客として振舞いつつ取り付く場所を探すと都合のいい屋台とご対面した。


「よお、腹減ってないか? この辺で安くてうまくて死にやしない店っていえばうちの店ぐらいだぜ、どうだ?」


 切り盛りしてるのはギャングのボスみたいなタトゥーだらけの男だ。

 大鍋で何かがぐつぐつ煮込まれ、焼き台で何かを串焼きにして、後ろで解体途中の何かを見せつけてと忙しい店だ。

 位置的に階段を上ればカジノの正面か。ここにしよう。


「小腹が空いてたところだ。今日のおすすめは?」


 俺は死ぬほど汚い屋台と向き合った。

 だって無理もない。背後で大型犬サイズのネズミめいた生き物がバラされてて、しかも店主は返り血まみれなんだぞ?


「サベージ・サプライズだ。一杯100チップだぞ」


 そんな彼のおすすめは大鍋いっぱいの……何かだ。

 ある種のシチューのような何かがぐつぐつと煮込まれてる。

 野菜とも肉ともつかない黄緑色は具だくさんだ。きっと食べたらステータスにデバフがつく。


「いや遠慮しとくよ。なんていうか……見た目が苦手だ」

「俺もだよ。こいつを作ってから十年間ずっと気に食わねえ見た目してやがる」

「十年も続けてるなんてたいそうな事情があるんだな。他には?」

「じゃあこいつだ、最近ここらで話題のビッグ・ヌートリアをカレー風味の串焼きにしたやつ。食いごたえ抜群でなんと一本100チップだぞ」


 まともなのは串焼きぐらいだ。でも『ビッグ・ヌートリア』ってなんだ?

 ゴルフ・ボールほどの肉の正体を探ると、店主はあの惨殺死体に得意げだ。


「なんだその顔、うちが使ってるのはちゃんとした肉だからな? ほら、最近こっちで増えまくってるあの獣だよ。ほっとくとどんどん増えて厄介だが、逆に言えば俺たちは肉には困らないってわけさ」


 そう答えてご機嫌に焼き串をくるっと動かした。刺激的な香りだ。

 向こうの小汚い灰色のげっ歯類の貫禄がそうらしいが、俺にはそれ以上推し量れなかった。


『いちクン、あれMGOの魔物だよ……アーマラットいたんだ……?』

『うわあ、アーマラットじゃないか。そいつもブルヘッドに転移してきたのかな、それとも誰かが外から……いやどちらにせよまずいね、あれって要はどんどん増える野ネズミだし』

『おいおい、あんなデカいネズミが壁の中で繁殖してんのかよ。フランメリア産か? だとしてもブルヘッドは外来生物お断りなんだぜ?』


 こしょっと耳にかかる声で正体は暴かれた。あれは転移してきた魔物だ。


「じゃあ三本くれ、焼き立てのやつだ」

「300だ。たまにはいい事も起きるもんだな? ある日突然まともな肉が手に入るようになるなんて、こりゃまるで神の恵みじゃないか」


 ありがたがる店主にチップを渡すと焼き立ての肉が気前よく返された。

 タロンはともかくクリューサが「毒味しろ」と目で訴えてるが、カレーみたいな温かい香りがする。

 焼きネズ……ビッグ・ヌートリアは少し硬い鶏肉だ。ほんのり甘くてスパイシー、でもなぜか後味が魚臭い。


「……んん? 意外といけるな。微妙に魚臭いけど黙って食えばチキンだ」

「チキンなんかよりうまいぞ、食ったことないけどな。にしても最近ニシズミとバロールが新しい人工食品を開発して、そいつのおかげでだいぶ食卓が賑わってるって聞いたぜ。そういうのは今までラーベの専売特許みたいなもんだったのにさ」

「ふーん、なんだか羨ましそうだな」

「羨ましいだろ? こっちは合成品のパンと培養肉ぐらいだが、あっちは限りなく本物に近い肉や魚が食えるって聞いたぞ。一度でいいから食ってみてえなぁ」

「そういうのはここに流れてこないのか?」

「今までのラーベの所業を考えるとそりゃ無理だな。一応こっちに横流ししてくれる親切なやつはいるが、そんなおいしいものは俺たち下々には届かない社会構造だ」

「ラーベの所業ってどれだよ、多すぎて悩むレベルだぞ」

「全部だろうな。俺が思うにもっと昔から思いやりの心を持って誠実にしてりゃ、このクソみたいな街もちょっとはマシだったはずだ」

「おかげでラーベは薬中と死体が名物か。悪いことはするもんじゃないな」

「俺みたいに薬も酒もやらない良い男なんてラーベじゃ絶滅危惧さ。かといって壁の外に出たらもう戻れねえ身分だが、奇しくも神はビッグ・ヌートリアを授けてくれたんだ。こつこつ稼いで抜け出してやる」

「そうか、俺が思うにあんたのいう神とやらはきっと『頑張れ』とか言ってるぞ。ところで見晴らしのいい場所で食いたいんだけどおすすめは?」

「前向きにやってくさ。おすすめのスポットは俺の後ろにある階段を上ればすぐだ、あのクソカジノしか見るもんはないがな」


 肉を齧りとっていると「そこだ」と壁の階段をすすめられた。

 俺たちはマーケットの客として串肉片手に上った。それにしてもこの肉、やっぱり魚臭い。


『いやはや、よもやブルヘッドにネズミの魔物がおられるとは……これは少々まずいかもしれませんな』

『おや、あのネズミじゃないですか。繫殖力はそこそこですが無駄にしぶといからどんどん増えていくでしょうね、お気の毒に』

『うーわ、ラーベの方にアーマラットおるんか。さっさと駆除せんとじわじわ増えてネズミまみれになっちまうぞ』

『見ろよスピロス、ラーベのやつらあのクソネズミで喜んでやがる。つーか農業都市三大害獣の一つがいるなんてこっち来て一番最悪なニュースだな』

『げっ、アーマラットいんのか!? 畜生、せっかく忘れてたってのに思い出させやがって……』


 カメラと無線機を通じて伝わるのはフランメリア人によるネズ……ビッグ・ヌートリアの話題だ、害獣らしい。


「みんな忌まわしそうにしてるな、どうしたんだ?」

『えっとね、あれって向こうだと厄介がられてる魔物なの。冒険者ギルドにも退治依頼がよく出されたなぁ……』

『序盤の雑魚敵みたいなもんすよイチ様ぁ、近づくとすっごい勢いで頭突きしてくるんすよねえあれ』

『アーマラットか、オーガの里でもよく見かけたぞ。俺様も父上に隠れてこっそりと狩りにいったものだな』

『そいつはフランメリア中に生息する魔物だぞイチ。みんなに嫌われる厄介者だが、皮には多少価値があるんだ。畑を食い荒らすやつは臭みがなくてうまいんだぞ』

『フランメリアが魔獣の群れによる被害で食糧不足になった際にはよく食べられていましたわね。でも私の大切なお芋畑を荒らしたから大嫌いな魔物です、滅せよ!!!』

『おにく……』

「みんな情報をどうも。クリューサ、食っても大丈夫らしいぞ」

「そうは言うけどドッグマンよかずっとうめえじゃねえか。こりゃ毎日いけちゃうぜ」

「いらん。俺が気にしているのはネズミの生態系ではなくここの衛生環境だ」


 みんなの反応から考えるにこいつはあんまり好ましいネズミじゃなさそうだ。

 「いらねえならくれ」と肉を頬張るタロンと最後の段を踏むと、ごちゃごちゃした屋上があった。

 粗大ごみだらけで不自由な場所だが好都合だ。家具に紛れて下を見渡す。


「ちょうどいい屋上に到着だ。ここだとあいつらのカジノがよく見える」

『よし、今の私たちにおあつらえ向きな場所だね。まずはバックパックに入ってる装置を目立たないところに隠しておいてくれ』

「このゲーミングノートみたいなやつか」

『そう、私の用意したハッキング用の中継器だ。それを置いてくれればラーベのセキュリティまでの隠し通路ができて、そのあたり一帯にちょっとした悪戯ができるよ』

「悪い言葉がいっぱい出てきたな。確認するけどこんなの置いていいのか?」

『いいわけないだろう? ましてバロールの市民権を持ってる私が他企業のシステムへの干渉なんてルール違反だしバレたら大問題だ。だからそれは使い捨てだよ』

「こんないい値段しそうな見た目で使い捨てか」

『心配いらないよ。向こうに探知される前に起動後一定時間経つか、私の指先一つで自壊する仕組みなんだ』

「ほんとに悪いことしてる気分だ。で、今すぐ使う感じか?」

『いや、設置だけだ。ここじゃハッキングの痕跡は企業にとって一番不利な材料だからね。可能な限り証拠を残したくないから、いざという時の今回きりさ』


 ひとまずヌイスの言葉にならってにバックパックからブツを取り出す。

 墨色に光る平べったいデバイスだ。特別な機能をずっしり感じる。

 するとクリューサがいい場所を見繕ってくれた。壊れた室外機だ。


「了解、ヌイス。ちなみにその"いざ"で何するつもりだ」

『言っておくけど私にできることは限られてるからね。君たちがいざ攻め込むときのサポートがせいぜいだよ、次の布石ってやつさ』

「ハッキングでなんやかんやしてカジノ吹き飛ばしてくれるんじゃないのか?」

『あのねえ君、そんな真似ができたら誰も苦労していないよ。それにあのカジノの図体を見てもまだそう思えるのかい?』


 デバイスをタロンに「頼んだ」と投げて、ゴミ越しに通りを見渡した。

 看板通りの【レッドレフトカジノ】が象徴とばかりに目立ってる。

 大昔はオフィスビルだったであろう建物はだいぶ無残な形でリノベーションされているようだ。


「ああそうだな、前に見せてもらった写真とだいぶイメージが違う気がする」

『……全然違うよね。見張りがたくさんいるし、防御もすごく固められてるし』


 ただし、ラウンジで見たものと印象が全く違う。

 屋上でせり出す監視塔が見張りを利かせ、ビルの表面を対戦車ロケット対策のフェンスで覆い、コンクリートの障壁が望まぬ客を拒んでた。

 遠隔銃座が幾つもあるのはもちろんだが、巡回する傭兵やウォーカーが守りを硬くしているようだ。

 そんな堅牢なあれに『おいおい』とデュオも考えるものがあるらしく。


『いつの間にこんな劇的なリフォームしやがったんだか。カジノが要塞になっちまってるじゃねえか』

「その反応はほんとに想定外って感じだな。あの写真は信頼できる奴が撮ったんだよな?」

『バカ言うなよ、撮影者はバロールお抱えの信頼できる密偵だぜ。しかも数日前撮ったばかりの新鮮なやつだ』

「じゃあなんでこんなに食い違ってんだよ。ここにそいつ呼んで問い詰めた方がいいんじゃないか?」

『そいつならサベージ・ゾーンから帰ってくる途中で傭兵に撃たれてくたばっちまった。続きが気になるならあの世で直接聞いてこいよ』

「そりゃ気の毒だ。命がけだったことは一生感謝しとくよ」


 あの要塞さながらの有様はまさに俺たちの想定外っていったところか。

 魚臭さが後を引く串肉を平らげながらもっと目を凝らすと。


『やあやあ皆さん! 遺伝子組み換え植物を使ったフレッシュなバイオ燃料がレギュラー1200チップ、プレミアム1500チップだ! 物足りねえか? ならエクスプロ・リキッドもあんぞ、火気厳禁だがな! お持ち帰りサイズもどうだ!?』

「お隣さんは燃料売ってるみたいだぞ。タバコ咥えたやつが店の前に燃料タンク並べて商売中だ」

『あそこにいる人、なんで燃料の近くで喫煙してるの……』

「うへえ、可燃物の横に拠点構えるとかばっかじゃねーの! 待てよ、あそこ爆破すりゃ……いや、あんなしょぼいガス・ステーションじゃせいぜいそこらに火まき散らすのがやっとってとこか」

「ヴェガスのレイダーどもでさえ火気厳禁の概念をわきまえていたが、まさかラーベの民度がここまで落ちていたとはな。どこぞのバロールの社長が頭を悩ませるわけだ」

『ボスとかヒドラが見たら死ぬほど呆れてるだろうなあ。いつ爆発するか分からない格安クソ物件だからあそこに落ち着いてんじゃねえのか? ま、ウォーカーの燃料をすぐ補給できるってメリットはあるかも知れねえが……』


 だいぶ左手にはこじんまりとしたガス・ステーションがあった。

 ちょうど三機目のウォーカーが背に繋がるホースから給油しているところだ。

 よく見ると左手には機体を整備するスペースが設けられていた。あれは傭兵どもと仲が良い証拠だ。

 他には雑に積まれた取っ手付きの燃料タンクが路上に向けて売られてるが、肝心の店主は喫煙中だ。


『ふーむ……皆の者、ちとよく見てみ? 周りを囲っとるコンクリートブロックは真新しいし、遠隔銃座もえらく新品じゃ。おそらく急ぎでこしらえたんじゃなかろうかの』

『お主ら、道路にも気をつかわんか。ウォーカーが歩いとるのにそいつの馬鹿でかい足跡がさほど刻まれておらん、こりゃ慌てて準備したに違いないぞい』


 ドワーフらしい見解も混ざって分かった。あれは急ごしらえの防御だ。

 が、それなら問題は山積みだ。まるで誰かが仕掛けに来ることを見越したような構え方なんだぞ?


「少佐、俺あんまこういうこと言いたくないんすけど、こっちの攻撃見越して守り固められてないっすかね。キャンプ・キーロウより贅沢な守りだこりゃ」

『そりゃそうかもな。売人とっ捕まえて傭兵も何人か帰ってこないとなりゃ、次の狙いがあそこになるぐらい向こうも考えるか。いやそれにしちゃ準備が良すぎねえか?』

『こちらダネルだ。俺の方からもうっすらと見えるが大盤振る舞いだな。少し分けてもらいたいものだ』

『私たちの縄張りまで傭兵を送り込んでくるような動きの良さを鑑みるに、こちらの情報もいくらか向こうに盗まれてることはしょうがないよ。今議論したって無駄だ、引き続き仕事を続けてくれ』


 とにかく、カメラの向こうにいる観客に赤いカジノをたっぷりと見せた。

 けっこう客入りは良いらしい。陽気な傭兵の手招きにぼちぼち導かれてるし、薬を手土産に出ていくやつもいる。


「で、どうする? 閉業させたいなら砲撃してあたり一面吹っ飛ばすぐらいやらないと駄目そうだぞ」

『そんなの真っ向から仕掛けたらただの戦線布告だぜ。その路線はなしだ』

『私たちが考えていたのは侵入してビルの要所に爆弾を仕掛けてぺしゃんこにするプランさ。表向きはガス爆発という体で中にあるドラッグ製造設備も瓦礫の下に埋もれてもらう寸法だったんだけども』

「どの道きれいに消えてもらうプランか、その方がブルヘッドのためになるだろうな」

『爆弾デリバリーするなり刺客送り込むなり、何するにせよカジノの状態と構造が分からなきゃ始まらねえさ。よし、次のステップだ』

『今度はそこから更に南下して、指定された場所であちらの内通者と接触してほしいんだ。彼らが今回の計画に必要なものを引き渡してくれるはずだ』

『ついでにマーケットの品ぞろえも確認だ。さっき見た限り横流し品だのがわんさかあったからな、我が社のためにどうか悪い子探しに協力してくれ』


 カジノの下見はもういいようだ。今度は向こうの裏切り者と接触か。

 「引くぞ」と室外機のカバーを閉じたクリューサを合図に階段を降りた。


「……まったく気に食わんな。出来損ないとはいえ、メドゥーサ教団の薬を娯楽のために使うなど反吐が出る」


 見晴らしのいい場所から離れる途中、あいつの不満がはっきり聞こえた。

 振り返ればクリューサの表情が顔色の悪さも相まって過去一番に不機嫌だ。


「なあお医者さんよぉ? ひょっとしてだけどよ、お前んところのやらのお薬がずっと東でこうも面白おかしく使われてんのが気に食わなかったのか? ちょうどそんな顔してんぜ」


 タロンが軽々しく挟んだせいでそれが一層険しくなったのは言うまでもない。

 だけど的は得ていたんだろう。あいつは「ふん」と鼻でつまらなく笑った。


「あいにくお前たちが恐れた教団はもうこの世に存在しないが、我らが作り上げた薬を汚らわしい金儲けの手段として扱っているのが死ぬほど気に食わん。これで満足か?」


 返ってきたのはメドゥーサ教団らしいコメントだ。

 本当に口から反吐が出そうな顔つきだが、クリューサがここまでついてきた理由は確かにあるようだ。


「要するにお前んところの薬が無断使用されてることに一言申したいのか? どうする? レッドなんとかのボスに使用料でも請求するか?」


 俺はこれ以上顔色が悪化する前に軽口を挟んでおいた。


「あの悪趣味なカジノを吹き飛ばせばだいたい片が付くだろう。俺はそのついでに薬を広めたやつがどんな面をしているのか拝みたいだけだ」

「オーケー、慰謝料はあいつらの命ってことだな」

「ああも広まっては傭兵共をどうにかしたところで根本的なものは潰せんが、少なくとも俺の気分が良くなることだけは保証されているだろうな」

「お前がすっきりしたいってのはよく分かったよ」

「しいて言うなら立つ鳥跡を濁さずというやつだ」


 言うだけ言って少しは落ち着いたようだ。次に移った。


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