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106 ハウスクラッシャー

 人様の家でくつろぐ面々がワンテンポ遅れて銃を構えた。

 不意は突かれたが動きに容赦はない、その身なりは銃口と共に左右に動いて。


「敵襲ッ! ぼさっとするな応戦しろッ!」


 誰かが家具を蹴り倒して即席の遮蔽物を工夫したまま。


*PHTTTTTTTTT!*


 消音された5.56㎜の銃声がさっそく俺たちを出迎える。

 そこへオーガが立ちふさがる、ぺちぺちと弾が当たるのが耳に伝わった。

 散弾銃すらもあたりを薙ぎ払うが、そこにリビングに向かってニクが駆け出し。


「……こっちは任せて、行くよ」


 銃火の横をすり抜け、どんっ、と壁を蹴る。

 「なんだっ」と反射的に誰かがそこへ短機関銃をぶっ放す――通路に一名。

 オーガの巨体からそれて残弾をばすばすばら撒く、銃撃を阻止した。

 その間に犬の足で反発力を得た相棒はテーブルそばの敵に飛んでいき。


「嘘だろどんな動きして」


 退きながらのそいつの言葉はそこで途切れた。

 ニクがあの槍を展開させながら降り立ち、その首をひと撫でしたからだ。

 急所をざっくりやられた男が血の雨をぶちまけ転がるのは言うまでもなく。


「逃げるぞ! こいつらあのストレンジャーだ!?」

「ぶ、分が悪すぎるだろ!? 撤退! 畜生どうしてこんなとこに!?」


 その有様にだいぶ決意が揺らいだ傭兵たちが家中へとなだれ込む。

 だが逃走する瞬間を俺たちは逃さない。弾避けになったノルベルトがぐぐっと太足に力を込めて。


「――生け捕りは何人必要だ?」

「最低一人だ、やれ」


 そんな質問をされたので、弾倉を交換しつつ答えてやった。

 次の瞬間にはエミリオの家がきしむほどの勢いで猛ダッシュだ。


「はっ!? こ、こっちくんなっ」


 巨体が向かうキッチン先、進路上にいた男が交通事故の如く吹っ飛ぶ。

 人知を超える突進力は内装やらリビングを仕切る壁すらぶち破って。


「フーッハッハッハ! 逃げるな荷物よ! 俺様がしかるべき場所へ連れてってやろう!」


 大胆なリフォームを決めつつ、その先にいた誰かに殴りかかった。

 棚が砕け冷蔵庫がひしゃげる中、逃げ遅れた横顔の形を戦槌が削いでいく。

 ちゃんと地獄に配送されたようだ。削がれた部分以外は。


*Phttttttttttttttt!*


 そこへ閉じた扉から乾いた銃声が混じる。

 その先にいたニクがぴょんと飛び散る木片から離れていくも。


「クソがッ! こっちに来るんじゃねえ……!」


 通路からまた敵が現れる。倒れたテーブルに隠れて射線を誤魔化す(・・・・)

 急いで床を滑ってずれると、斜め上でばぁんっと散弾が木材を削り散らした。

 同時に向こうの扉が蹴り飛ばされた――覗く銃身がニクを狙う、まずい。


「し、死ねェェェェッ!」

『セイクリッド・プロテクション!』


 カービンを向けるもミコの方が早かった。青い盾がわん娘につきまとう。

 かんかんかんと素早い数点射撃が弾かれる、背中を襲う散弾も派手に散っていく。


「なっ、効かねえ!? まさかバリスティック・シールドかありゃ!?」

「ニク! 早くやれ!」


 続きは犬の相棒にあわせた。

 通路から見える腕と散弾銃に向けて撃ちまくる、槍が扉側の敵を刺し貫いた。

 そして再び銃声、通路からの散弾が周囲をぶちのめす。ニクが戻ってくる。

 弾切れを狙うか? HEクナイで吹っ飛ばすか? そう考えが過ぎれば。


「――お゛ぉっ!?」


 散弾銃の持ち主の潰れた悲鳴が転がってきた。その身体もろともだが。

 リグやアーマーを上乗せした格好が痙攣しながら倒れれば、


「愛すべき我が家が滅茶苦茶だ! 引っ越して本当に良かったよ畜生め!」


 その後ろからナイフを手にしたエミリオがやってきた。

 姿が見えないと思ったらどこかで回り込んでたんだろう、不意打ちを食らわせてやったらしい。


「あっ、たすけっ、いっ、ああああぁぁぁぁっ……!」


 お次は破れた扉の向こうから傭兵がよろよろ現れる。

 咄嗟に武器を向ければ、身体中血だらけのまま逃げているご様子で。


*Phtt!*


 仕上げの一撃が後頭部に血を咲かせた。犯人は追いかけてきたヴィラだ。


「信じられないわ! こいつ人の寝室漁って私の下着漁ってたのよ!?」


 どうも下着泥棒を許せなかったようだ。全身弾だらけな理由もやむを得ない。

 よく見るとたった今亡くなった男は下着を握ってた。セクシーな黒ですこと。


「あーうん、もしかしてブルヘッドじゃ下着は高く売れるのか?」

『うわあ……最低……』

「そんなわけないでしょ? ただの変態よ」


 そんなところ、がしゃーんとキッチンで粉砕音が響く。


「フハハ、そうなるとこいつらは傭兵などではなくただの賊ということか。刺客どもも大したことがないではないか?」


 ノルベルトが誰かの首をぎっちり締めながらこっちにやってきた。

 手にした包丁で必死にぺちぺちと腕を叩くも通用してないのが虚しい。

 「生け捕りだ」と顔で表すと、黙らせるように握って戦意を奪ったようだ。


「皆様~、こっちも捕虜捕まえたっすよ~」

「寝泊まりしてる連中がいたから静かにしてやったぞ。上は制圧した」


 ロアベアたちも害虫駆除の仕事が終わったか。

 メイドじゃない緑髪と褐色エルフがふらふらリビングにやってくる。

 返り血で白いジャンプスーツがいい感じに紅白模様だが、そんな彼女の後を傭兵がとぼとぼついてきて。


「四人ほどいたようだが一人だけ生かしておいたぞ。調子が良くて少し派手にやってしまったがな? くくく……♪」


 身ぎれいなブレイムも吸血鬼の優雅さのままお帰りだ。何があったのやら。

 対して傭兵のやつは悲惨だ、血の塊が全身にこびりつく攻めた格好をしてる。


「……あ、ああ、も、もうやだ……し、死にたい……」


 そうお気持ちを伝えてくるほどだ。別に捕虜が一人減ろうがどうでもいいが。


「あらそう、じゃあ私が殺してあげようかしら?」


 ヴィラがまだ動く口にごりっと銃口を噛ませて黙らせた。

 指が少し動けば永久に大人しくなるはずだ。

 捕まえた奴は二人か。エミリオとロアベアがてきぱき手錠をかけていく。


『よう皆さん、お片付けは済んだかい? できたならさっさと荷造りしちまってくれ、残り時間があることを忘れるなよ』

「クリアだ、今からやるぞ」


 折よく窓の外で偽装したトラックがバックしてくるのが見えた。

 一通りのゴミが片付け終われば、まあなんともすごいありさまだ。

 既に好き放題に荒らされて、目につく部屋全てがかき回されていた。

 物理的に引退した傭兵のせいでもはや曰く付きの物件の様変わりか。


「よし、お前らの荷物はどこだ」


 住みたくなくなるような住まいの中、俺は元持ち主二人に尋ねた。

 ヴィラは「やっとね」でエミリオは「なんてこった」だった。


「私の大切な作業台はガレージにあるわ、手を貸してくれる?」

「……せっかくのテレビやら冷蔵庫が滅茶苦茶だよ。せめて二階にあるピアノだけは運んでくれないかな、150年以上の歴史が詰まってるんだ」


 敵がいないことを確認して、とりあえず運ぶべきものを聞きだす。

 一階と二階か。だったら手分けして運ぶだけだな。

 残り時間は20分にプラス少しだ。さっさとしないと本物が来てしまう。


「ノルベルト、ガレージに行くぞ」

「うむ、心得たぞ」

「ニク、ロアベアとブレイムと一緒に二階いけ」

「ん、わかった」

「了解っす~、うちら力持ちっすから安心するっすよエミリオ様」

「少しばかり過激な有様だが案ずるなエミリオよ、さあ行くぞ」

「……もし俺が吐いても許しておくれよ、行ってくるよヴィラ」


 俺たちは作業を分担することにした。

 他の奴らに二階は任せて三人でガレージへ向かった。

 さっきエミリオが傭兵を奇襲した通路だ。途中で刺殺死体が一つ転がってる。


「悪いな、思い出の家を事故物件にして」

「いいのよ、駆除された害虫の死骸を見てる気分ですっきりしてるわ」

「フハハ、お前たちの荷物は傷一つなく綺麗に運んでやるから心配はいらんぞ」

「そう、貴方の腕力に期待してるわ。それにしたってあいつら本当に好き勝手やってるわね、家主不在の間にこうもされたらとてつもなく腹が立つわ」


 後ろではノルベルトがぐったりした傭兵を連れ回していた。

 まるで死体を引きずり回してるような感じだ、もはや生を諦めてる。

 進む先では一軒家にしてはそこそこ広いガレージがもぬけの殻を晒しており。


「待ってたぜ? 進捗はいかが? この様子だと家はひどいありさまみてえだな?」


 開きっぱなしの入り口の近く、デュオがタバコを吸って待っていたようだ。

 オーガがにっこりと「これだ」と捕虜を突き出せば社長殿はご満足で。


「はっはっは、元気かい傭兵くん。お迎えに来てあげたぜ?」


 意地の悪い笑顔でとっ捕まえた二人の肩を優しく叩いてやった。

 傭兵たちにとって生きた心地のしない瞬間だと思う。

 何せ噂の社長が直々に、それも作業服を着て現場の様子を見てきてるのだから。


「……ふざけんな、どこにこんな社長がいるって話だ」

「なんでこんなところにいやがるんだ……? くそっ、ツイてねえ」

「ヴァルハラへ二名様ご案内だ。ブルートフォース、優しくぶち込めよ」

「了解したぞ社長。むごたらしく死にたくなければ大人しくするのだな」


 生け捕り傭兵どもはトラックの荷台にぶち込まれに行ったらしい。

 デュオとノルベルトが送り届ける間、肝心の作業台はどこだと探れば。


「こっちよ、ここに私の大事な仕事道具があるんだけれども……」


 ヴィラがくいっと手招いた。ガレージの隅に置かれた小さな部屋だ。

 急ぎ足で向かう背中を追いかければ依頼の品とやらは確かにあった。

 壁に飾られた道具に取り囲まれるような形で、大きな作業台が存在感を示してる。


「……予想以上にデカいな」

『……これ、どうやって中に入れたのかな』

「これ、昔エミリオが仕事のために私に買ってくれたの。どうしてもこれだけは持ち帰りたくて……」


 多分、分解したものをこの中で組み立てたんだろうか。とにかくデカい。

 入口の面積以上の幅と高さに加えて、本体の持つ無数の棚が更に重くしてる。

 中身は数え切れぬほどの工具だらけだ、確かに重労働になる理由がここにあるが。


「――ノルベルト! ヴィラの大事なものを運ぶぞ、手伝え!」


 ここには難題をぶち破るブルートフォースがいるんだぞ?

 あいつを呼ぶとすぐに来てくれた。力に自信がある姿は親しく現場に訪れるなり。


「待っていたぞ。して、これがお前の大切なものなのだな?」

「ええ、そうよ。どうにかして運びたいのだけど……」


 速攻で理解したらしい。オーガの最速案がさっそく戦槌に手をかけさせた。


「では通り道を良くしてやろう、行くぞ」


 心配そうなヴィラを退けると、台を覆う壁に向けて獲物を振りかぶり。


 ――ばぎんっ!


 ちょうど外へ向かう側の面積をぶち破った。

 一発、三発としばらく殴れば薄い壁が塩味のクラッカーのように割れるわけだ。


「なるほどね、素晴らしい案だわ。とってもスマートで気に入ったわ」

「フハハ、では貴女の思い出の品を大切に運ぼうではないか。イチ、手伝ってくれ」

「お前がいてくれてほんと助かったよ」

『豪快だね……』


 障害物がなくなったのをいいことに、俺はノルベルトと一緒にそれを抱えた。

 二人でどうにかバランスをとれば後は運ぶだけだ。せっせと荷台に向かっていく。

 デュオに見張られた傭兵どもをどかしてずしんと積載完了――まずは一つだ。


「お待ちどう、これでご依頼の品一つ確保だ」

「傷は一つもついていないぞ、安心するのだな」

「素敵よ、本当にありがとう! これで心置きなく引っ越せるわ!」


 捕虜たちの「本当に引っ越しに来たのか」と言いたげな顔を背に、二階はどうしたのかと見上げようとすれば。


『こちらゼロ・ツー。目当てのモンは手に入った、敵はフランメリアの連中が惨殺しやがった。少し早いがヴァルハラまで撤退するがいいよな?』

『スピロスからだ。敵がうじゃうじゃいたが家ごとぶち壊したぜ、皆殺しだ』

『今の牛野郎の言う通りスプラッター映画さながらの有様だ、メッセージの説得力がひどいがこれで嫌でも威圧できるだろ』

『誰が牛野郎だ。一仕事終えたってことでいいよな社長?』


 無線が入る。ボレアスはちょうど仕事を終えたばかりか。


「上がっていいぞ、ちなみに俺たちはエミリオの彼女さんのわがままを成し遂げたところだ。彼女満面な笑みだぜ、引っ越しサービスに手を染めるのも悪くないかもな」

『知るかんなもん。とにかく俺はもう帰るぞ、しばらく肉は食いたくねえ……』

『こちらゼロ・スリー! 荷物は回収した! だが、畜生、俺の家燃やしやがったぞこのバケモンども!?』

『ごめん敵が立てこもってたからあぶり出そうとしたらめっちゃ燃えちまった!』

『フェルナアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!! こんな場所で火を噴くな馬鹿者があああああぁぁぁッ!』

『申し訳ございませんサム殿! うちの大将は決して遊んでいるわけではないのです! 何卒、何卒お許しを!』

『放火魔になっちまったぞクソッ! 撤退するからな!? いいな!?』


 ……代わる代わるサムの怒声とあの叫びが聞こえてきた。

 スカベンジャーたちの「ふざけんな」「おいおい」といった声が滅茶苦茶な様子を言い表してるところだ。


「他の連中は無事らしいな」

『ボレアスさんとサムさんはもう終わったのかな……?』

「ああ、サムの家で焚火した馬鹿いるらしい」

『焚火……!?』

「ははっ、サムのやつ気の毒だな。確か思い出が詰まってるから壊すなって言ってた気がするぜ」


 デュオが「何やってんだよおもしれえ」と笑ってるが、他のチームは十分に威力を示したみたいだ。

 すると二階からごとごと不愉快な音が聞こえてきた。難儀してる感じだ。


『……どうやって運ぶのだ、これ』

『そもそもどうやって運んだんすか、これ』

『……エミリオさま、これ運べない』

『…………俺だって分からないよ、じいちゃんから運び方聞いとけばよかった』


 無線に続く声は二階の連中の悩ましいものだった。諦めちまえと口からでかけるが。


「……あー、まずいぞ。イチ、トラブル発生だ」


 そんなところだった。外からごろごろと重いタイヤが動く音が聞こえる。

 もしやと思ってデュオにつられると、住宅地を一台のトラックが走ってる場面だ。


「デュオ、あれってまさか……」

『……トラックが来てる。ってことは……!?』


 まさかだ。V&Zと派手に彩る商業用トラックがこっちに向かっていたからだ。

 残り時間はまだあるが、なのに本物が来てしまったみたいだ。

 一体どういうこった。身を隠して得物を掴むも。


「……おい、どうなってんだ!? なんで俺たちのトラックがこんなとこにあんだよ!?」


 深夜を照らすライトもろとも、その図体は道路に止まった。

 降りてきた誰かが近寄ってきた。やがて何人分もの足音が重なって。


「それより傭兵どもと連絡がつかないんだぞ!? あいつらに何かあったんじゃねえのか!?」

「こいつはどこのトラックだ? 今出勤中の車は三両だぞ、どっかのやつが間違えてここに来たのか?」

「んなわけあるかよ、あいつら移動中って言ってただろ? じゃあこいつは……」


 野郎どもの声が降りてきた。ヴァンガード・ゼロの連中らしいな。

 ノルベルトとヴィラを荷台に待機させたまま、俺はトラックの下に潜り込む。


『こちらデュオ、まずいぞ。なんだか良く分からないがヴァンガード・ゼロどもが予定より早く来ちまった』


 デュオの連絡も届いたようだ。二階の連中はどうするのか。

 アスファルトと車の隙間から見る限り、俺たちと同じ格好が何人も集まってる。


「……くそ。とにかくこいつを起動するぞ、作業プログラムも立ち上げる」


 一人がタブレットを手にしていた。周りが何かに同意すると荷台が開く。

 その光景の中、薄暗いそこから何かがずんずん歩いてきて。


『任務開始、初めまして』

『行動を始めます。ご注意ください』

「おーおーマジで動いてやがる……よし、データ取るぞ。カメラも回しとけ」


 機械的な音を連れながら、それはガレージの方へ向かっていく。

 断片的だがその姿が見えてしまった。あれは……エグゾアーマーだ。

 人工音声が不自然さを生むが、間違いなくあの外骨格が歩いている。


「……やべえぞデュオ、エグゾアーマー連れてきてやがる」

『……マジかよ、何考えてやがるんだ。まさか俺たちの存在に気づいちまった奴か?』


 訓練後だからその脅威は嫌でも分かる。

 デュオが嫌がるのも仕方ない話だ。デカい銃を握った姿がガレージ奥へと進むも。


「フーッハッハッハ! そこまでしてやる気か、よかろう相手になってやるぞォォォ!」


 どんっ! とオーガが駆け込むひどい音がした。

 つんざくような雄たけびにエグゾがぐらっと立ち止まるほどで。


『敵を検知、応戦ッ』


 がぎんっ。

 戦槌がどこかに叩き込まれる音がした。黒い骨格が倒れて揺れを感じた。

 ならいい、俺もすぐにトラック下から転がり出て。


「な、なんだお前は!? 何して……う、うあああああああ!?」

「敵だ! 畜生襲われてたんだあいつら!」

「引け! 外骨格に任せちまえ! 俺たちは逃げ」

「よお」


 にょきっとそいつらの足元に姿を現した。

 ヴァンガード・ゼロの泥棒集団はびっくりだ、ふためく姿に撃ちまくった。

 次第にばすばすと音が重なる――デュオとヴィラも加わったらしい。


「私もいるぞ。逃がすものか」


 二階からしたっとクラウディアの足も降りてくる。

 逃げる先へ回り込むなり、混乱する二名の首と脇腹を短剣で抉った。

 そうして戸惑う一同が串刺し、拳銃弾まみれになったところで。


「せえええええええええええええええい!」


 ごきん、と倒れたアーマーに留めの戦槌がねじり込まれた。

 すると電子音をちらつかせながらも火花もろとも停止、破壊されたようだが。


『危険因子を発見、排除! 排除!』


 どこか覚えのあるフレーズもろとも、別の一体が何かを向けた。

 デカイ銃だ。単純な表現だが、重機関銃より太い銃身がノルベルトに向けられ。


*Do-Do-Do-Do-Do-DoM!*


 間延びした連射音――グレネード弾の連射がぶちかまされる。

 25㎜か。小さな爆発が何度もオーガの身体を襲って「ぬぅ!?」とあいつが怯む。

 次第に仰け反り飛ばされた。壁まで追い詰められてもなお連射は続くも。


「はーっはっはっは! これでも喰らえ! 甲冑め!」


 頭上ですさまじい音がした。

 べぎべぎと壁をぶち破るような、いやそのまんまの音が家の外観を損ねていく。

 見れば斧槍が窓周りをぶち壊して、そこからこげ茶色のボディがせり出し。


「お、俺のピアノが……ええい! これでも喰らえだ、知ったことかもう!」

「ピアノ通りますっす~!」

「……ノルベルトさま、今助けるよ!」


 持ち主の悲鳴もろともピアノが突っ込んできた。

 グレネードをぶちかましていた外骨格の気を引くのは十分だろう。

 何せ、人生において頭上に落ちてきてほしくないものが落下してるわけで。


 ――ごおおおおおおおおおぉぉぉぉん……!


 朝日登る前の住宅街に素晴らしい音を奏でる。打楽器寄りのだが。

 ピアノに潰された外骨格はぎゅるぎゅる空回りした悲鳴を上げながらぺちゃんこだ。


「……ワーオ、引っ越し失敗。大丈夫か?」

『ノルベルト君、大丈夫!? 【ヒール】!』


 ひと騒ぎが収まると、俺は焦げ臭いノルベルトに近づいた。

 服はぼろぼろ、破片が刺さる肌から嫌な香りがする。ヒールで少しマシになった。


「……むう、まさかこのような武器があるとはな。何なのだこれは」

「25㎜グレネードだ。40㎜だったら近距離で爆発しないからな」


 手を貸してやった。起き上がると念入りに足元のエグゾを踏みつぶす。

 何とも嫌な金属音が響くが何かおかしい。ばちばちと火花が散ってるような……。


「おいおい……なんだこりゃ、ラーベのエグゾじゃねえか」


 デュオも倒れた外骨格が気になってるようだ、小走りで調べに来た。

 が、ほどなくして遠くから無数のエンジンの音が重なった。

 この感じからして好ましくない類の何かが来てるのは間違いなさそうだが。


「今はそれどころじゃないだろ、俺たちも撤退するぞ」

「そうだな、まあ想定外はあれど完璧だ。ブルートフォース、そいつ運んでくれ」

「うむ。皆の者! 退くぞ、戻れ!」

「こんなものを持ち帰ってどうするつもりだ。まあ私は手伝うが」


 この外骨格はともかくやるべきことはやった。それは確かか。

 ノルベルトが一声かけながら運ぶのを見て、俺もクラウディアと一緒に手伝った。

 潰された骨格がごろっと雑にぶち込まれれば傭兵どもが「ひっ」と竦んだ。


「お帰りになるんすね? 今いくっす~」

「ん、分かった」

「エミリオよ、お前のピアノは勇敢だったぞ。気を落とすでない」

「……いや、うん、いいんだよ。誰かを助けてくれたならそれで……はぁ」


 二階の連中も霧になるなり飛び降りるなりで着地、帰宅準備はあっという間だ。


「こちらゼロ・ワン。トラブルがあったけど帰還だ、犠牲はエミリオのピアノだけだ」

『引っ越し失敗したってのは分かった。死ぬんじゃねえぞ』

『こっちはもうヴァルハラにつく。お先に失礼してるところだ』


 他のチームに一声入れると、またトラックが走り出す

 しばらく後ろの方で車両の駆動音が重なったが、すぐに遠ざかったようだ。

 少々トラブルはあれど、俺たちは無事にヴァルハラへ戻ることができた。


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