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102 エクストリームお引越し業者

「――お待たせ、ゲストの皆さま。これでこの街の概要が分かるよな?」


 食後数時間以内の情報整理は身体にいいと誰かが言ってた気がする。

 『フランメリア人作戦室(仮)』と雑な名札のつくラウンジの中、デュオは壁の特大のモニターを見てほしがってた。

 接続が確立されてこの街の全体図が浮かんだ場面だ。

 こんなものを取り付けた業者はバケモンの顔ぶれにびくびく退室し。


「大体の話は聞いたぜ、いっちゃんのせいで『ラーベ社』ってのが大損してめっちゃキレて仕返ししにきてんだよな?」


 そんな画面いっぱいの地図に、赤髪の兄ちゃんが竜の尻尾をぶんぶんさせた。

 大きな円状の壁に包まれた都市は西を走る川に面しつつも、かなり広い面積を荒野の上に作っているわけだが。


「もれなく俺たちが狙いに定まってるってこたー、奴さんたち目ざとく報復相手を数えてやがるな」

「後続の連中が襲われた理由がやっと分かったな、スピロス」

「でもよ、どうしてストレンジャーがフランメリア人とつながりがあるって分かったんだ? まさかカンか何かで襲ったわけじゃねえよな」

「そりゃ単純にスティングで大騒ぎして俺たちの名が馳せてるからじゃねーの?」


 『ラーベ社』がまとわりつくそれをみて、久々の牛と熊のお二人は腕を組んで嫌そうだ。

 俺たちは不当に配られたピザを目の当たりにしてる気分だろう。実際それだけ、かの大企業が占める土地ばかりなのだから。

 都市の北部と東部の殆どは赤く染まってる。全体の6割が横取りされ、残った企業が分け合い奪い合いという感じか。


「どーせあれでしょ、そのラーベ社ってやつらの息がかかった何かが南で情報収集してるとかじゃないの?」

「傭兵をいっぱいお抱えのようですからね、その気になればいくらでも我々のことは調べることができますよ。まあ此度名の知れたご一行になってるのは確かでしょう」


 そういえば後続の連中が襲われたと聞いたが、それはなぜかと金髪と白髪のエルフが画面を見上げる。

 次第に都市の各所に浮かぶポイントは、言葉で表すなら『危険です』って感じだ。


「――というか、仕返しする相手をずいぶんと手広くかけておられるようですね。そちらのスカベンジャーなる方々のお命もイチ様への報復への一環として数えられている気がするのですが」


 そこに、シスター服の悪魔っぽい姉ちゃんが角と尻尾と共にどこかを向く。

 パイプ椅子の上で穏やかな顔でしゅっと背筋を伸ばしてるが、見つめられるスカベンジャーたちは居心地悪そうだ。


「……それなら俺が説明させてほしいんだ、ええと……」


 フランメリアの異形たちに囲まれながらだが、そんなところにエミリオが立つ。

 壁のモニターまで近づくと分かりやすく『ブルヘッド』のマップを指して。


「この街はいろいろな企業があるけども、特に影響力のある三つの企業があるのはもう知ってるよね?」


 その上で個性豊かな顔と背丈に、あいつは面と向かって尋ねた。

 大体の事情は共有してたせいで頷きが返ってくる。「オーケー」と指は説明を続け。


「そのうちの一つ、ラーベ社ってのがあるんだ。こいつらはまあそのなんていうか、ひどいところでね?」


 北に遠く離れたところに位置する、あの大きなビルまでみんなの視線を集めた。

 嫌でも見えてしまうあれのことだ。デュオが「マジでひでえぞ?」と笑ってる。


「色々な事業を展開する大企業なんだ。日用品から武器まで手掛け、ブルヘッド・シティの市民に必要なものをお安く提供、身の回りが心配な方には傭兵も派遣してくれる手の広い連中なんだけど……」


 そっと耳に触れる程度なら「良い企業」と聞こえる物言いが始まるも。


「……それだけ聞けば耳当たりはさぞいいだろうが現実はこうだ。様々な産業に手を出す一方、水面下で他企業の成果から人命まで平気で盗んでいくし、金で物を言わせて競合他社に妨害を仕掛けるのも当たり前。邪魔すりゃそいつの知人まで目ざとく報復する大人げのない奴らさ」


 その続きはのろのろと画面に近づくボレアスの姿に変わり。


「で、先日俺たちは総意の上で『ホワイト・ウィークス』とか言うパクり野郎どもにちょっとばかりお見舞いしたんだが……そいつらがまさにその大企業と深くつるんでらっしゃってな」


 途中でとても嫌そうに画面を見上げるサムの言葉を交えた。


「そいつらをけしかけてお隣のニシズミ社の貨物を奪わせてたみてえだ。つまり奴らは下っ端をこき使って企業妨害中だったわけだな、ところがだ――」


 それからスタルカーのまとめ役はあたりを見回す。

 誰か探してるみたいだが、けっきょく見つからぬまま。


「ストレンジャーに喧嘩を売ったせいで台無しになっちまったんだ。盗んだ貨物も取り戻され、ラーベ社との関係もバレて、大金はたいて雇った無能集団は全滅。大損こいた矢先で妨害相手のニシズミ社が逆に得をしちまってんだからな」

「まあ気の毒とは言えないわよね? あいつらってニシズミ社の技術を何度も盗用したり、いろいろ工作して何人もあの世に転属させてたでしょ? その罰が当たったのよ」

「だとすれば、ストレンジャー殿はしかるべく報いを与えてくれた神様かなんかってことか? いい話だ、心が温まる感動ものだ」

「やつらにとっては悪魔か何かかもしれないけど、私たちからすれば福とお金をもたらす神様なのは確かでしょう?」

「ああそうだな、確かにクソほど儲かったが今は金より我が命だ畜生」


 ボレアスは誰かの彼女さんの楽し気な声もろとも、今あるだけのラーベ社の罪状を教えてくれた。

 要するにストレンジャーのせいで台無しにされて逆恨み案件である。

 おかげでみんな「またあいつ狙われてんな」という空気だが、そんなところに大きな鎧の姿ががしゃっと手を挙げた。


「……それはつまり。イチ殿に同調したあなた方も、企業の利益を損ねた原因として命を狙われる身になったということですね?」


 フランメリアの防御力高めなお姿に、スタルカーたちはサムから下っ端まで口を合わせて「そういうことだ」と示してる。


「俺たちも誰かさんの戦いぶりにあやかって好き放題やったからな。ホワイト・ウィークスのクソどもに仕返しができたのは確かだ」

「それが原因でものの見事にラーベ社の妨害をした連中と結びつけられたんだがな」

「向こうからすればニシズミ社を助けた余計な連中としても覚えられてるんじゃねえのか、リーダー殿」

「知らないうちに盗まれた貨物も取り戻して、更に言っちまえば持ち主に帰す仕事までやっちまったからな……」


 俺からすれば気に食わないやつに今日も元気にお見舞いしてやっただけだが、誰がここまで大事になると思ったか。


「で、わしらは今三つの企業とやらの一つ、そのもっともたる奴らに狙われとるわけじゃな」

「んで傭兵どもと一戦交えたらしいけどよぉ、こんなにラーベ社の占める場所が多いとほぼ敵地じゃねえのかこの街は」

「にしても都市部でこんなどろどろしとるくせに、しかるべき連中が調停したりせんのかデュオ。フランメリアだったら屈強な衛兵どもが飛んでくるっつーのに」


 見上げていたドワーフの爺さんたちもビール片手にあれこれ口にしている。その通りに赤色だらけの都市は危険地帯まみれに見えるのだが。


「爺さんどもの言い分はごもっともだが、おまわりさんも企業のモンみたいな感じだぜ。ここじゃ企業こそがルール、街の顔色に従って生活のためにお勤め中なんだ。アテにできるのは限られてるさ」


 デュオは三色混じりの地図を見ていつも通りに笑んでる。

 いい顔振りまく「いつものブルヘッド」の裏側はただの無法地帯、訳ありだったか。


「じゃあこの赤い場所へいったら、ラーベ社の息がかかったおまわりさんがいい笑顔でやってくるんすかねえ?」


 すると隣でロアベアが質問した。

 うとうとするニクを撫でて蕩けさせてたようだが、によっとした顔は地図のどこを見てるのやら。


「そいつは微妙なところなんだ、どっちともいえねえ」


 だがお返しの言葉は意外なことに「どっちつかず」だ。


「どういうことっすかデュオ様ぁ」

「確かにこの赤色はあいつらのテリトリーだが、単純に見るだけならただの敵地だぜ? 実際はそうでもない――例えば気に食わないやつがしぶしぶ居座ってたり、何も関わりたくない人間がいたり、むしろ無関係なやつが多いだけさ」

「そういえば言ってたっすね、そういうのに関心がない御方がいらっしゃるとかなんとか」

「そゆこと。むしろ厄介なのはそこに混じってる奴らさ、この赤いエリアで息を潜めて武器を整え、虎視眈々とチャンスをうかがう連中がうようよだ」

「うわ~、厄介っすねそれ……ずるくないっすか」

「実際ずるいぜ? ラーベ社絡みの傭兵ども目線じゃ、そこらへんの民間人は肉の盾かなんかとしてカウントされてるんじゃねえの?」


 ロアベアとの気だるいやり取りを横から聞いて分かったのは、なんにせよ明確な敵が市民に混じってることか。

 俺も地図を見てみるも、そう考えた上で見ると本当に厄介だ。

 半分以上を掻っ攫うラーベ社のせいで一体どれだけの敵がいらっしゃるのか。


「むーん、そういえば気になっていたのだが……このブルヘッド・シティには入り口は二つもあるようだな?」


 みんなで眺めてると、今度はノルベルトが声をかける。

 見る先には確かにあった。都市を覆う壁に入場用のゲートが二つも描かれてる。

 一つは俺たちが使った南側、ニシズミとバロールの間に位置するところだ。

 二つ目は北東側にある出入口、完全にラーベ社の領域に直接お邪魔する形だ。


「そこの素敵なぐらい真っ赤なところか? 実質ラーベ社専用のやつだな」

「ふむ、この北東に位置する門は奴らのために設けられたというのか?」

「んなわけないだろ? ここは元々誰でも気軽に使える第二の玄関だ、それがちょっといろいろあってラーベ社御用達になっちまってな」


 またデュオは「訳あり」と話した。

 その言葉の通り、もう一つの門は完全にラーベ社のためにあるようなものだ。

 入れば真っ赤、進めば真っ赤、ずっと遠くもとにかく赤い。後ろめたい奴らのため道のりが出来上がってる。


「それだとあいつらが都市の出入り口のもう片方を独占してるということになるんだが。どうなっているんだ? 悪者具合にますます磨きがかかってるぞあいつらめ」


 そんなふざけた場所にクリューサはとても嫌な顔だったのは言うまでもなく。


「かなり前はそうでもなかったんだよな。誰でも使える気軽な道だったんだが、ご覧の通り地図の配色がセンスのない入れ替わりを遂げて以来、すっかりラーベ社ごひいきの特別ルートになっちまったのさ」


 デュオが不健康な顔に返せる表情は「仕方ねえだろ」だ。


「つまり情勢が変わってからずっと奴らの出入り口になったわけか」

「そうだなあ、おかげさまで厄介なんだ。あいつらの傭兵だとか、兵器やら積んだトラックが堂々と出入りできるんだからな」

「それはさぞ便利なことだろう、人様に装甲車と傭兵をぞろぞろけしかけるぐらいにはな」

「まさにそいつらの通り道ってわけさ。爆破しといたほうがいいんじゃないかって思うぜ最近は?」


 ついでに社長直々にクソ厄介な現状も教えてくれた。 

 なるほど、あれだけの武器と傭兵を堂々と外に運べるルートも持ってたわけか。

 ここを通る連中はさぞガラが悪そうだ。ますます向こうの脅威が分かってくる中。


「……で、諸君にはもう大体の事情は掴んでもらってるはずだ。こっちから堂々と刺客をぶちのめし、ちょいとお話した結果なんだが」


 デュオは続けた。画面に浮かぶ点に指を向けて。


「同業者の勤務状況を話してくれたぜ。雑多な傭兵どもがどうも俺たちを囲うように配置されてるみたいだが、まだまだ諦めるつもりがないのが見て取れるよな?」


 ようやくさっき浮かんだ点の正体を教えてくれた。それは傭兵どもだ。

 幸いにも俺たちのご近所にはいないようだが、それにしたって多い。

 少しでも企業の加護から外れようものなら、四方八方すぐに駆け付けられる場所にうじゃうじゃだ。


「……はは、なんてこった、俺たちの家のすぐ目の前にいらっしゃるじゃないか」


 そう、エミリオが絶望するほどに。ご近所づきあいは命を狙う隣人まみれだ。


「ボレアスやサムのお家もけっこうピンチみたいね、引っ越し先が見つかって良かったじゃない」

「玄関出てすぐ正面に暗殺者がいやがんぞ!? いつでも死ねたのかよ、クソが!?」

「お前はまだマシだぞリーダー殿、たった今気になるあの子の家に傭兵がいるのを確認できた。もう距離を置いた方がいいだろうな」

「お前の恋愛事情なんざ知るかサム! 俺の家を見ろ、目の前に何人いやがんだ!?」


 他のスカベンジャーの雰囲気もだいぶ重いものだ。

 そりゃ自分たちの住まう場所に割と近かったんだろうが。


「で、向こうはこんだけやられたんだから「どうしよう」ってお悩みの時期だ。そこでまた悩みを増やしてやりたいのさ。伝統的なプレッパーズならではのやり方だ」


 デュオがへらっと笑いながら、傭兵どものいるであろう点をノックする。

 付き合わされるランナーズやスタルカーは正気を疑ってるところだ。


「人様の住処の前に陣取られてるところに一体何をしろってんだ、社長どのは」

「引っ越しさ」

「……はぁ?」

「どうせあいつら、このあたりにいるってことはお前らの手がかり求めて人様の家を物色してんだろうよ。だから逆にそこへお邪魔しに行くんだ」


 本当に正気かどうか怪しい案が浮かんできたぞ。

 デュオは誰かさんの家と、その近くに居座る傭兵どもの間を指してる


「こうして場所は割れちまってるよな? お住いの地域がわかりゃこっちのもんさ、だったら逆にこっちから出向いてそいつらを全員ぶちのめして、ついでにおたくらの家にいって引っ越しの準備さ。家に大事なものとかあるんだろ?」


 続く言葉はなおさらとんでもなかった。比喩かなんかだろうか。


「ふざけやがって、その言葉の通りに人殺し慣れした連中が待ち構える我が家にお邪魔して『お引越し』っていうなら正気を疑うぞ?」


 ボレアスも脳の容量いっぱいに疑ってるが、あるのは社長満面の笑みだ。


「その通りだぜ? いや、そこの綺麗なお姉さんがどうしても運び出したい家具があるっていうからさぁ」


 そこで向かうのがヴィラだった。

 彼女はいい顔で頷いているのだからますますとんでもない。


「ええ、私の大事な仕事道具があるの。どうせ引っ越すならせめてあれだけは持ち帰りたいわ」

「ヴィラ、君は本気で言ってるのかい……?」

「だったら人様の家にお邪魔してる連中をぶちのめして力を見せつけて、あわよくば生け捕りにしちまおうってプランさ。まさか俺たちがマジで引っ越し目的でおいでなさるなんて誰も予想できねえだろ?」

 

 頭が痛そうに悩むエミリオはともかくだ、本気でそういう話(・・・・・)になってる。

 敵前に堂々と乗り込んでお引越し、その目的は威力誇示と捕虜の覚悟、そこにマジで家財を運ぶ点を少々。

 こんな敵をつまづかせるためのダイナミックな引っ越しがどこにあるんだろう。

 が、フランメリアの方々は「面白い」とばかりに聞き入ってるのだからもう半分ほど実行されてるようなものだ。


「……おい、その前に一つだけ言わせろ」


 とんでもない発言にひどく調子の悪そうなボレアスがそっと手を挙げた。

 どうしたんだろうか、みんなが重々しい言葉に首をかしげるも。


「ぶっとんだプランを聞かせてくれて感謝してるぞ、おかげで家に置いたお気に入りのソファが持ち帰られるんだからな。で、今日もやってくれるストレンジャーはどこだ?」


 丸刈りの男はこの場に見えない誰かさんをようやくご指名してきた。

 するとみんながいないだの、どこいっただの『ストレンジャー』を探しており。


「いやさっきからずっといるぞ」


 今だ。俺は立ち上がってスカートをひらひらさせた。

 当然視線が集まるわけだが、堂々たる位置で今この姿を見たボレアスは目をごしごしした。

 頭もふって正気も確かめたがまあ無理もない、なんたって今の姿は――


「…………え゛っ!? まさか君、ストレンジャーだった!?」


 エミリオの悲鳴めいた声が届いてやっとネタバレができた。

 そうだとも。けっきょく解かぬままの女装スタイルだ。


「そうだぞ。すごいだろ?」

「は? え? 嘘だろう……!? 知らない美人がいたと思ったら、うわあ……!?」


 そして場の雰囲気にヌイスに着替えさせられたままの姿を見せつけた。

 白い肌と太ももの乗ったハイソックス姿を振舞うと、よほど威力があったのか酒を飲んでたドワーフが噴き出すレベルだ。


「…………お前さんなにしとんじゃ!? 何その格好、ストレスたまっとんのか!?」

「オメーかよ坊主!! 誰かと思ったらしれっとなんてことしてやがんだ馬鹿野郎!?」

「女装してるぞこいつ!? おい、まさかこんなやべえやつずっとそば置いたまま真面目な話してたのかもしかして!?」

「美少女と思ったらいっちゃんかよ! すげえなその女装!?」

「美人かと思いきやイチ殿……? なんということなのでしょう……こんなことをするとは、データにはありませんでした……!」

「……いや、君、何その……ええ……」

「おい、なんでこいつパーフェクトな女装してやがるんだ? 誰か説明しろ頼むから」

『……ごめんなさいボレアスさん、いちクンちょっとふざけてるだけなんです』

「着替えるのめんどいしいいやって……」

「お前、頭イカれてるのか? そうだよな? 畜生、びびらせやがって!」


 阿鼻叫喚になった。おかげで空気がぶち壊しだ。


「ははっ、いや、誰か気づくかなって賭けてたのさ。すげえよなこいつの女装」

「お~、イチ様すごいっす! うち気づかなかったっすよぉ、あひひひっ♡」


 さすがに気づいてたデュオはいい笑顔だ。なんならロアベアはニヨっとした顔のまま感心していて。


「すごいぞミコ、また騙せた!!」

『……いちクン? 本当に大丈夫だよね? 味占めてない……?』


 俺はニクと一緒に女装姿をみんなにお披露目した。ドン引き半分、驚き半分だ。

 クリューサは? 毒物を目の当たりにしたような冷ややかな目だ。


「おお、お前だったのかイチ。なんだその格好は、俺様の目も欺くとは大したものではないか?」

「ヌイスがやってくれたんだ」

「……くそっ、あいつめ傷が悪化して性癖をこじらせたか?」

「お前だったんだなイチ! すごくきれいだぞ、どうしたんだそれ!」


 ノルベルトにも「どうよ」と薄めの上着をめくってると、台無しの空気にばたんとドアが開いた。

 見れば必死の形相で駆けつけて来たであろうヌイスがいた。ずれた眼鏡を直してこっちを見ていて。


「気に入ってくれたのかい……! やっぱり君、シューちゃんだよね……!?」

「誰がシューちゃんだ」

「悪いなイチ、発作だ。どうぞごゆっくり」


 そういって、大事な言葉を告げてからエルドリーチに抱えられてどっかに消えた

 なんだったんだろう。まあそれはともかく、デュオは女装野郎を一名置いたまま。


「そういうわけだから、明日に住宅エリアに待機中の傭兵どもに「こんにちは、進捗どうですか」ってご挨拶へ行くぞ。逆にこっちからお邪魔して数か所のポイントを制圧したのち撤退する、一撃離脱ってやつさ」


 タバコを咥えてものすごく適当にそう告げた。

 すぐ画面が変わって『どう動くのか』と細かく描かれた計画の図が浮かぶ。

 大掛かりなトラックが数両、攻め入る場所が数か所、そして脱出ルートまでもが事細かに時刻を追いつつ描かれてる。


「プランはもう練ってあるから心配すんな。とりあえず場所を変えねえか? 見せたいものがあるんだ」


 ここにいる連中に嫌でもその『案』とやらを見せびらかすと、デュオは軽々とした足取りで部屋を出て行こうとする。

 そしてくいくいと手招くのだ。ついてこいと。


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