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26 気持ち悪いクラフティングシステム

 まずは持ち物の選別――と、その前にやることがあった。

 とりあえず集めた物資を床に綺麗に並べてから、


「でだ。これが俺のステータス画面なんだ、どうも俺はこの世界とリンクしてるらしい」


 缶詰に立てかけたミセリコルデにステータス画面を見せた。


『……いちサンもステータス画面があるんだ』

「……"も?" 待て、まさかお前にもこういうのがあるのか?」

『うん。プレイヤーさんも、わたしたち(ヒロイン)も開けるんだけど…』

「マジか……」


 ニンジンを無心で食む牛をバックに喋る短剣は教えてくれた。


「良かったら見せてくれないか?」

『ええと、目の前に手をかざせば画面が浮かぶんだけど……今はこんな姿だから……』

「……あーそうか、ごめん」


 あっちの世界とやらにもステータス画面があったのか。

 しかも空中にポップアップするとかこっちのやつよりも便利そうだ。


「じゃあやっぱりスキルとかもある?」

『うん、あるよ。戦闘スキルとか、生産スキルとか、魔法とかもあって……』

「魔法? ゲームみたいに本当に魔法が使えるのか?」

『【マナ】と【スペルピース】っていうアイテムがあればだれでも使えるよ。あっ、マナっていうのは大気中にある魔力のことで、スペルピースっていうのは呪文(スペル)を覚えるための石だよ。それからスキル値を上げてアンロックして使えるようになるんだけど……』

「オーケーもういいぞ。……はあ、こっちが苦労してる間に向こうは魔法か」


 ひどい落差だ、こいつの言う魔法の世界はこんな不毛な世界より楽しそうだ。


『……ほんとは、わたしも魔法が使えるんだけど……』


 なかなか上がらないスキル画面を見てると、喋る短剣がいきなりそういった。

 こんな状況もあって魔法が使えるだなんて魅力的な話題だ。


「……おいおいおい、まさかお前魔法使えるのか?」

『うん……でも、マナが漂ってないから発動しないみたい。わたし回復魔法とか防御魔法とか覚えてて、試してみたけど発動しなかったよ。あ、魔法っていうのはマナを取り込んで変換して放出するんだけどこの世界はマナがなくて――』

「落ち着け分かった。とにかく「今はMPがないから使えません」ってことだな?」

『ご、ごめんなさい……つまり、そういうことです……』


 が、残念ながらその興味を引く魔法とやらもここじゃ使えないらしい。

 内心かなりがっかりだが「教えてくれてありがとう」とステータス画面を閉じた。

 とりあえず準備でもしようかと思ったものの、なんだか疲れた。


「……ごめん、ちょっと疲れたから休む。おやすみ」


 薄い毛布にくるまって、硬い枕に頭を預けた。

 今日は頭の中がパンパンだ、いい意味でも悪い意味でも。


『……は、はい。おやすみなさい……』


 おっとりとした短剣の声が聞こえて、眠くなってきた。

 カルトを皆殺しにしたらこの喋る短剣と出会って、いろいろ話して物資もたくさん手に入って、実によくやった。


 ああそうか、誰かとこんなに話したのは久々だったか。

 一日のことをざっと思い返してから、深い眠りに落ちた。



 気が付くと目が覚めた、たぶん朝だ。


「――おはよう、さっそく準備するぞ」

『ふあっ!?』


 俺はがばっと起き上がった。昨日はいろいろあったけどもうスッキリだ。

 人間嫌なこととかがあっても眠ればすぐに回復するというけど間違いない。


『おっ……おはよう、いちサン』

「……なんか勢いで大声出して申し訳ない」

『ううん、大丈夫だよ。わたしも起きてたし……』


 それに今は話し相手がいる。おかげでじめじめとした気分で目覚めずに済んだ。

 もうここで一人で起きて、ぶつぶつ言う必要もなくなったのだから。


「さて、まずは……朝飯だな」

『今日はなにを食べるのかな?』

「そうだな……」


 朝食ついでに持っていく食料の選別もしよう。


 食料はあるだけ持っていきたいがやっぱりかさばる上に重い。

 それに道具だっている、食べ物だけ持っていけばOKというわけじゃない。

 よって必要なものと不要なものを選ばないといけない。


「……冷静に考えたら、これ全部持ってけないよな」

『うん、いっぱいあるもんね……』


 『トヴィンキー』と書かれた大きめの箱を開けた、ずっしりとしたスナックケーキだ。

 開封して一つ割ってみるとずっしり詰まった白いクリームの姿が。


「……いただきます」

『……おいしそう』


 うらやましそうな声になんだか申し訳なさを感じつつ食べた。

 ところが――なんだこれクッソ甘い。

 喉に絡みつくほどクリームがねっとりしてて、そのくせいつまでも舌に残り続けるんじゃないかってぐらい甘い。

 スポンジケーキも甘すぎる、そして口の中をぱっさぱさにしていく。


『大丈夫……?』

「えふっ……また口の中ぱっさぱさだちくしょう」


 寝起きに食べるんじゃなかった。とにかく強烈な甘さで脳が覚めてきた。

 さて、こんな量の食糧や道具を運ぶには今まで使ってたバッグじゃだめだ。

 つまりもっと物を運べるようになる必要があるわけで。


「それでまあちょっと思ったんだ。いまこそこいつの出番だ」


 PDAを開いて、クラフト画面をミセリコルデに見せつけた。

 資源のゲージがけっこう溜まっていて、リストには何種類かのアイテムが製作可能と表示されている。


『クラフトアシストシステム……ってなんだろう?』


 俺だってこいつの正体は分からないが、今は『バックパック』が製作可能だ。

 これを作るには布や皮、少量の金属などを使うそうだ。

 それから針、ハンマーになるもの、穴をあけられるもの。

 すべてが手元にある今、ようやくこのシステムを使うことができる。


「さあな、実は俺も良く分からないんだ。だからこうする」


 迷わず『クラフトアシスト開始』を押した。

 するとどうだろう、画面に『クラフト中』と表示されて。


 ばさっ。


 そんな音と一緒に地面に何かが落下。『わっ』とミセリコルデが驚いた。

 見れば、そこにはカーキ色の――いろいろな形状の布地があった。

 革製のパーツやジッパーもある。ただしバラバラだが。


「……なんだこりゃ」


 まるで分解された状態のパズルを突き出されたような気分だ。


『材料……だと思うよ。もしかしてだけど組み立てろってことなのかな?』


 喋る短剣に見せてみるとそんなことを言われた。

 そういわれてみればバックパックの材料に見えてきた、なるほど。


「なあ、まさかこれ自分で作れと?」


 ……じゃねえよ、どうしろっていうんだ。裁縫とかしたことないんだぞ。


『や、やり方なら分かるから教えてあげるよ?』

「ちょっと自信がないから頼んでもいいか?」

『うん、任せて。えっと……まず道具だね。針はある?』


 バラバラの布を眺めているとなぜかやれそうな気がしてきた。

 というか何をすればいいかなんとなく、見てるだけで分かってくる。

 どうしたんだろうか、なぜか「これからどうすればいいのか」理解した。


「ん、んー? ちょっと待て……なんか……変だ」


 それだけじゃない、なんだか身体が勝手に動く。

 裁縫用の道具と、それからフォーク、くぎ抜きハンマーを準備。

 手が勝手に動く。まずベースになる布を広げて、底にあたる部分の布地と合わせて。


「……なんか身体が勝手に動くぞ!? 気持ち悪いなおい!?」

『え!? それって大丈夫なの!?』


 ほとんど触ったことのない針と糸をセット、手が勝手に縫い合わせていく。 

 その上にポケットとなる布地を形作って押し付けて。

 革製のパーツにフォークで穴をあけて本体にあわせて。

 ジッパーを取り付け金具を調整して――みるみるうちに形ができてしまい。


「……できちゃったな」

『……できちゃったね』


 ほどなくして立派なバックパックが完成してしまった。それはもう思わず同じタイミングで声を出してしまうほどに。

 ちょっと雑さが目立つ部分もあるが、世紀末にはふさわしい仕上がりだ。


「ほんとに俺が作ったのか、これ……気味が悪すぎるぞ」

『……なんだかすごかったね、機械みたいに手が動いてたよ?』

「ああ、こういうの初めてなんだけどな……こわ」


 ぶっちゃけやってる間はすごく気持ち悪かった。

 そりゃ勝手に手が動いて勝手に出来上がるのだから、不気味極まりない。

 だがこんな世界だ、たとえこれが呪われていても使えるものは使う。


「まあいいや、さっさと他のも作るぞ」

『……いちサン、慣れるの早いね』

「そうじゃないとやってられないさ」


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