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24 異世界から異世界にきた短剣の話

 物言う短剣は教えてくれた。

 正式サービスが開始するはずだったあの日、その事件は起きたと。


 まず、自分が何者かを教えてくれた。

 最新のAIを備えた彼女たちはヒロインと呼ばれていたらしい。

 実際、無数のキャラ一人一人に名前や自我、性格まで備えられていたとか。

 彼女たちはデータの中の架空の世界で『本当に生きてるように』暮らしていた。


 そしてMGOとは――人工知能たちが自由に動ける空間だそうだ。

 あれはただのゲームじゃなく、ヒロインたちが生活するための世界でもあった。

 俺たちが正式サービス開始の知らせを聞くずっと前からプレイしていたらしい。


 そしてプレイヤーたちがやってくることになったあの日。

 ヒロインたちは平等に遊べるようにとステータスを初期化。

 歓迎の準備も整ってサービス開始を待っていた時だった。


 彼女たちは急に眠くなるような感覚を覚えた。

 そして大勢の人工知能の意識が消えた――いや、眠っていたという。

 

 目を覚ますと違和感を感じたらしい、自分たちによりリアルな感覚があると。

 やがて気づいてしまった、自分たちが本物の肉体を持っていると。 

 本物の世界で、本物の人外娘(・・・)になれてしまったわけだ。


 正式サービスに参加しようとしていたプレイヤーたちも同様だった。

 気が付けばゲームのような世界に放り込まれていた。

 最初は何事なのかと混乱していたが、すぐに誰かが気づいたそうだ。

 『ここはMGOに限りなく近い世界』なのだと。


 ヒロインたちが降り立った地の名前は魔法の国フランメリア。

 たくさんの人間と人外娘たちはMGOそっくりな世界で楽しく暮らしましたとさ。


 ――なんやかんやで普通に生活してるらしい。


「つまり転移して、本物の肉体を得て、みんなで楽しくやってましたってか?」


 ドラム缶の上で真っ黒になった肉を払い落としながら、物言う短剣に尋ねた。

 信じられない話だ。それをいったらこっちだって相当アレだが。


『ほ、ほんとだよ? 最初はみんな混乱してたけど、助け合いながら暮らしてたの』

「なんでそっちに行けなかったんだろうな、俺」

『じゃあ……ここはあなたのやってた別のゲームの中、ってことなのかな?』

「G.U.E.S.Tっていうサバイバルシミュレーターの中らしい。その名の通り素晴らしいサバイバル生活を満喫してるところだ、くそったれ」


 よくわかった、こいつの発言がマジならMGOそっくりの世界があるらしい。

 そしてフランメリアというのは間違いなくそこのことだ。


 で、メールの内容からしてそこに向かえばいいわけか。なら話は信じるし異世界に来てしまったことは認めてやろう。

 じゃあ異世界からまた異世界に行く方法なんてあるのかって話だが。


『大変、だったんだね。こんな世界で一人で生きてたなんて……』

「まあな。少し慣れてきた」


 次の疑問だ、じゃあこの喋るナイフはどうやってここにやってきた?


「まだ聞きたいことがある。お前はどうやってここにきた?」

『えっと……クランのみんなで街の郊外にある森の探索をしてたんだけど、そしたら急に白いもやもやした場所があって』

「白いもやもや?」

『うん、もやもや。すごく白くて……なんだろうなって近づいてみたら景色が変わり始めて……気づいたらわたしだけ知らない場所に来てて』

「そのとき一緒にいた仲間は?」

『……分からないよ。でも、わたしだけここにきちゃったんだと思う』


 白いもやもや。つまりあっちの世界に入口みたいなものがあるということか。

 剣と魔法の世界に世紀末世界がつながってしまうなんてひどい話だが。


「いつからここにきたんだ?」

『十日ぐらい前かな。この姿になってからそれくらいは経ってると思う』

「……この姿?」

『うん。わたし、短剣の精霊だから武器に変身できるんだよ』


 こいつ、姿を変えてたのか。ということはもとの姿に戻れるんだろうか?


「変身って……もともとこうじゃなかったんだな」


 できることならその姿になってほしいと思ったものの、


『……知らない人たちが近づいてきて、怖くなって変身してやり過ごそうとしたんだけど……元の姿に戻れなくなっちゃった』

「戻れない、って?」

『……うん、いつもなら戻れるんだけど……身動きもとれなくて、けっきょく変な人に捕まっちゃって……』


 それで今日に至るってわけか。


「まあ、とりあえずその変な人に怯える心配はなくなったわけだ」


 俺は血がこびりついた短剣を持ち上げた。

 いまのところキャンプは死体だらけだ。暗くなる前にここを漁ってしまおう。


『えっ……? あ、あの……この人たちは……どうしたの?』


 ……こいつは周りが見えるんだろうか。


「変な人たちとやらは全員死んだからな、ついでにいうと俺がやった」

『……それって、殺したってこと……?』

「俺もクソほど殺された、お互い様だろ」

『……えっと……』


 物いう短剣は言葉に詰まってる。他にもいっぱい話したいことはあるが後回しだ。


「ちょっとそこで待ってろ、漁ってくる」


 短剣を木箱の上に置いて周りを探し始めることにした。

 さっき倒したカルト男が落とした短機関銃を拾う、錆びだらけだ。

 触れると『スクラップSMG』とでた。どうやら【分解】できるらしい。


『あの……?』


 中の弾だけ抜いて【分解】しようとしていると声をかけられた。


「どうした」

『あなたの名前、教えてほしいなって』

「俺の名前か?」


 すぐに自分の名前を答えようとした。

 だが少し考えて、箱型の弾倉から弾を抜きながら。


「……112だ」


 本当の名前をいいかけたが、今の名前を伝えた。


『……い、いちいち……に……さん?』

「イチでいいぞ」

『じゃ、じゃあいちサン……でいいかな?』

「どうぞご自由に」


 近くに転がる雑多な武器も片っ端から『分解』する。

 それから、木箱のほうを見て。


「……なあ、一緒に行かないか? 話し相手がいなくて死ぬほど退屈だったんだ」


 異世界からまた異世界へやってきた物言う短剣を誘ってみた。


『……う……うん、わたしで良かったら……どうぞ』


 てっきりまた考え込むかと思ったけど返事は即答だったか。

 俺はおどおどしている短剣を手に取った。


「なら決まりだ。よろしくな、ミセリコルデ」

『……はい。よろしくね、いちサン』


 こうして仲間を手に入れた、まあ短剣だけども。

 これで少なくとも話し相手に困ることはなくなるはずだ。


「さーて……暗くなる前に物資集めだ」

『あの、良かったらだけど……あとでこの世界についてもっと教えてほしいな? わたし、ここがどういうところなのかよく分からなくて……』

「ああ、いいぞ。でも一晩明かすぐらいの覚悟はしとけよ?」

『お、お手柔らかにおねがいします……』

「冗談だ。知りたいことがあるならなんでも聞いてくれ」

 

 さてあたりを見回すと……火の上に大きな鍋があった。

 フタで密封された上で接続された銅製パイプが横に伸びていた。

 濡れタオルが巻き付けられて、水筒の中へと水滴を落としているようだ。


『これって……蒸留してるのかな?』

「らしいな、ここじゃきれいな水は貴重だからな」

『……た、大変なんだね、この世界って……』


 『きれいな水精製中。勝手に飲んだら死ね』と書置きがしてある。

 メモを放り投げてカバーのついた軍隊カラーの水筒を回収した。

 一口飲んでみると……良かった、蒸留した水の味がする。


「さーて、略奪だ」

『えっ……、略奪……?』

「お上品にいったほうがいいか? じゃあ拝借(はいしゃく)だ」


 【分解】できるものを片っ端から消して、物資をかき集めた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  実施、無数のキャラ一人一人に名前や自我、性格まで備えられていたとか。 表現が気になったので
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