60 キャンプ・キーロウ
白い景色にまたやってきた。
「またか」と思った。でも違う、なぜか手が自由に動くのだ。
意識も妙にはっきりしている。身体にある五つの感覚だっていつものように働いている。
だから、ここから周囲の状況が分かってきた。
満足に運動もできないほど小さな部屋に自分はいた。
殺風景なものだ。上も下も真っ白なら、粗末なベッドやトイレがある程度で面白みは徹底的に削がれてる。
扉はあった。ノブに当たる部分に複雑な機械がへばりついた頑丈そうなもので、よっぽど誰も出したくないんだろう。
見渡すうち、天井の隅で隠す気もないカメラがこちらを見てることに気づく。
視界から逃れようと足を動かすも、腕のあたりが理不尽なほどの重みにがちっと引っ張られて進まない。
左腕が手錠と鎖ににつながれていた。
あるはずのPDAの代わりに、電子的な施錠を施されたそれが壁の手すりと結ばれている。
【……どういう冗談だ?】
ふざけるなと鎖を引っ張るが、直後に体中から痛みが走る。
唐突にやってきたひどい刺激がどこまでも回って足がふらつく。
原因はなんだ? 濃い汗がどろりと流れる中、冷静さを取り繕って探れば口の中に一つ。
奥歯が抜けてる。血が止まらなくて、口の中がずたずたで痛い。
【……つっ……、ふざけんな……!? どうなってるんだ!?】
溜まった血を思わず吐き出してしまった。
しかしそうしてまた気づく。足元には今ぶちまけたのは違う赤色が広くにじんでいた。
白い部屋を彩る一色に、次第にいろいろな情報が立ち上がる。
切り付けられてひりつく顔、潰された胴体の鈍い苦痛、切り落とされた指の熱さ――俺は僅か一瞬で自分がボロボロだったことに気づく。
だが、思わずこの有様に声を上げようとしたその時だ。
「痛い……痛い……。もう……もうやめてくれ……あいつは何もしてないんだ、本当なんだ……助けて……!」
自分の口が勝手に動いた。まるで別の生き物を飼ってるかのようにばくばく動いて、弱弱しい声を勝手に述べる。
痛みの巡る全身もいきなりその場に縮こまり、ただひたすらに誰かに向けて何かを乞う。
だというのに、俺の意識そのものはいたって冷静だった。
まるでこんな目にあってる自分が他人事みたいな……いや、すぐにそうだと気づく。
【まさか、見せられてるのか?】
恐る恐る問いかけるが、身体は勝手を許さない。
『本当なんだ』『嘘じゃない』『どうして信じてくれないんだ』という口の動きだけここにある。
そういうことなんだろう。俺は今、どこかでこいつを見守ってるんだ。
「――おい! まだ同じことを言うか貴様!」
そこにがんがんとドアが叩かれる。
突然聞こえる乱暴な音に身体がびくっと震えた。
「ねえ主任、俺たちいつまであいつの面倒見なきゃいけないんですか?」
「依然変わらずだ。やつが人工知能に細工を施したと口にするまで止めてはならん」
「でも先月からずっと「違う」と「本当だ」の一点張りじゃないですか、よっぽど強情なのか本当のことしかいえないのか心配になってきましたよ」
厚い金属の向こうから人間二人分の声が近づいてくる。
自分は震えるだけだ。手錠で行き場を失った体はもはや身を守ることしかできない。
「不服か?」
「国家の命令で一般人相手に拷問だなんて、いけないことしてる気がするんですけどね」
「やつは世界を脅かす重罪人だ。我々が必要なのはこの馬鹿が口にする真実じゃない」
「っていいますと?」
「もはや事実などどうでもいいからだ。必要なのはこいつがノルテレイヤに何か手を加えたという証拠だ、たとえそれが嘘でもな」
「各国のご機嫌を取るための人身供物ってやつですか」
「そうだ、人類の結束のため、ひいては我が国の延命のためだ。強引にでもやったことを認めさせろ」
二人の言葉に一区切りつくと、扉は電子音を立てて開き始めた。
部屋と自分を繋ぐ電子錠が青くちかちかと点滅した気がした。
静かにスライドしたそれを超えて現れたのは、青と黒の組み合わせをまとった警備員のような男たちだ。
「――加賀祝夜、手短に言うぞ。この文章を今から読み上げろ」
歳をとった白髪交じりの男が、丁重に書き込まれた紙を手渡してくる。
だがそこに親しみはない。ボディアーマーをまとうからだは力づくにするために身構えており、腰のホルスターや警棒が勝手を許してくれそうになかった。
「いいか、頑固になるな。もはや真実など探ってる場合じゃないんだ。事態の収束のため、ただノルテレイヤが軍事用AIの暴走に関わってると口にするだけでいい」
そうして突き出された文面はこうだ。
ノルテレイヤがバグで狂っただの、想定外の成長を遂げてしまっただの、人類を滅亡させるように意図せず思考しただの。
自分は一瞬、安心したような気がした。
それさえ読んでしまえば苦しまずに済む。部屋の隅にあるカメラが一字一句を拾ってくれて、あとは何も考えないで解放されるはずだ。
「さあ、読んで。今からの発言は記録されてしかるべき場所に送られますから、公正な判断の元あなたは解放されます」
もう一人の男がじり、と近づく。
つるした警棒に手が添えられるのが見えて、身体が強張る。
「ち……違う。あいつのせいじゃない、あの軍事AIが自ら人類の滅亡を選んだだけだ! ノルテレイヤは一貫して俺たち人間の為にやってくれてるだけなんだよ!」
だが、なんということだろう。
手が勝手に動いて、必要なことが書き溜められた文章を引き裂く。
心臓がけいれんしてしまいそうなほどに手先すら震えさせながらも、硬い表情を一層引き締める二人に確かにそう口にしていた。
「そうか。まだ粘るんだな?」
うんざりだ。そう言いたそうな顔で歳を取った方が警棒を抜く。
やっとわかった。自分はこの男の誘いを何度も何度も断ってきたんだろう。
たとえ全身を殴り続けられても、指を切り落とされても、意志をまげなかったんだろう。
「残念だ。左腕と右腕、どっちがいい?」
良く使い込まれた金属の感触が腕に触れてきた。
思わず退くが、もう一人の男の存在と手錠がそれを許さない。
腕に力がこもった。右腕だ。そいつは自分の肉と骨を叩き潰さんと構えて。
……そこにけたたましい警報が頭上を襲う。
不安をあおるような耳ざわりなアラームだ。目の前の二人の意識と動きを削ぐには十分すぎる警告が全てを包む。
『ミサイル発射情報。当地域に着弾する可能性があります。屋内に避難し――』
調子の変わらぬ機械の音声が淡々と現状を告げる。
男たちはいきなり入り込んだ情報に食い下がるも、そこにどぉぉぉん……!と外から膨れ上がるような爆発音が届く。
ついで足元が揺れ、天井も揺れ、建物が振動する感触も平等に行き渡る。
「な、何事だ!? まさかノルテレイヤ――」
ぐらぐらと全てが揺れた。
振動で男の警棒が落ちる。思わず躓いて、鎖に引っ張られながらも尻もちをつく。
ただならぬ事態の中、空きっぱなしの部屋の中に小さな何かが這い寄るのが見えて。
『よお』
中性的な、男か女か判別しづらい声が突然と響く。
二人組の後ろからだ。冷静さを失った男たちが気づく頃には、手のひらほどのクモみたいな何かがかさかさとその体をよじ登り。
ばぢんっ。
小さく弾けるような音を立てて、歳を取った男の首筋に電気が立つ。
そいつはびくっと跳ねるように倒れた。それと同時に、片手を縛る手錠がかちりと音を立てて解除され。
「の、ノルテレイヤの奴らか……!?」
クモもどきは素早い動きでもう一人の男の足元へと絡みついた。
職務も忘れて振り払おうとするも、身体が勝手に動く。
足元に落ちた警棒を拾って、背を向けたそいつの後頭部に――叩きつける。
「あ゛っ、がっ」
鈍い感触が嫌に生々しく届く。たぶん骨がいった。
もし俺の思い通りに動けばもっと効率的に砕けるだろうが、自分の身体はそれっきり警棒を落としてしまった。
震えてる。そうだな、初めて人を殺した時と同じ震えだ。
『アバタール君! 大丈夫かい!?』
そして乱れる呼吸の中、どこからかの放送が自分を呼ぶ。
足元にいた小さなクモ……ではなく、それを模した機械も足をよじ登って来る。
『よお、助けが遅れて悪かったな』
「……お前たち、助けにきてくれたのか……?」
『ごめんよ、いろいろ訳ありなんだ! 早くそこから出て地下へ向かうんだ!』
スピーカーを通じた女性の声は「逃げろ」と促してきた。
身体が緊張でひどく脈打つ。不安定な手の動きは足元の男から自動拳銃を引き抜く。
いろいろな感情が伝わってくる。
どうやって撃つんだ、FPSゲームと同じだ、俺なら撃てる。
【そうだ、スライドを引いて残弾を確かめろ。薬室に入ってなかったら引き切って装填しろ。くそっ、なにやってる? 安全装置も見とけ!】
そんな光景がひどく他人事のまま伝わってきて、俺はもどかしかった。
俺だったら念入りにぶち殺したうえで使えるものをはぎとるだろうが、今の自分は震える指先でどうにか撃てる準備を済ませたところだ。
「主任! 大変です! 無人兵器の攻撃が――」
武器を奪った自分がもつれる足で駆けだすと、そこで同じ制服を着た男とばったり会う。
ひどく取り乱した顔色だが、すぐにこっちを見ると「あ、う、あ」と戸惑った様子で武器を抜こうとして。
「う、うわああああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
それよりも深い混乱のもと、こっちの手が動く。
そいつに持ち上げた拳銃が滅茶苦茶にトリガを捌かれ、九ミリの連射がぱぱぱぱぱっと人の身体に穴をあける。
狼狽えた男は死んだ。自分の手から力が抜けて、まだ弾のあるそれをごとっと落とし。
『アバタール、落ち着け。とにかく安全な場所に避難しろ』
立ち尽くそうとするも肩に乗った機械の蜘蛛が強く言われて、足がまた動く。
ここはどこだ? 知らないビルの中、ひたすらに走る。
途中にあった窓からは広大な都市の光景が見えた。しかし今や、その一端は焼け爆ぜていた。
それに何か妙だ。空気が灰色に汚れて、埃が舞ったように全てを覆い尽くそうとしている。
『突き当りに非常用のエレベーターがある! 地下室まで下りて身を守るんだ!』
「タカアキが死んだ、タカアキが死んだ、タカアキが死んだ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……!」
『ニュイス、錯乱してるぞ。かなり深刻だ』
『アバタール君! 気をしっかり持つんだ! 今はとにかく生き延びて――』
どこかに走りながら、一体どうしてかあの名が出てきた。
死んだのか? タカアキが?
幼馴染の死をひたすらに告げながら、俺の視界は逃げ場を求めて逃げ戸惑う。
言われた通りにひっそりと構えるエレベーターを見つけた。スイッチをガンガン叩いてこじ開け。
「何が起きてんだよ!? この有様はなんだ!? ノルテレイヤがやったのか!? なあ……!?」
またひどい揺れが襲う中、狭苦しい空間に転がってそう尋ねた。
照明が消えた。それでも下り続けるエレベーターの中に、女性の戸惑う息遣いが伝わる。
『……落ち着いて聞いてくれ。事態は複雑なんだ』
「どう複雑だって……?」
『軍事用AIがとうとう人類滅亡に働きかけた。そして君が傷つけられたせいでノルテレイヤが怒り狂ってる。この世界はもうおしまいだ』
頭上でまた爆発が生じた。
薄暗い密室の中、俺が感じている身体はむなしくふさぎ込んでしまった。
◇
「……くそっ、ふざけんなっ!?」
得体のしれない不愉快な感じが全身に走って、俺は飛び起きる。
ひどい夢を見た気がした。
だが目の前に広がるのは茶色だ、ふかふかな茶色がいっぱいだ。
……ん? 茶色?
酷い夢を見た気がするが、顔いっぱいに広がるふかふかとした感触に気づいて俺は何かを振り払う。
『あ、お、おはよういちクン……?』
「おー、起きたな」
そこはストレンジャーが占領する兵舎の中、そしてベッドの上だ。
枕元にはちゃんとミコがいて、目の前では俺を見下ろす陽気な黒人兵士、そしてなぜか回りに蔓延る可愛い熊さん。
どういうことだ。目の前に騎乗していた人形を掴むと、作り物の熊はにっこりこっちを見ていた。
「おかしいな、ここに来るときはクマ出没注意の看板なんてなかったよな」
一晩を共にしたそれを手にタロン上等兵にお伺いになった。
ところが返ってくるのは呆れたような、楽しそうな、お気楽なレンジャーの様子だ。
「うちの少尉のいたずらだぜそりゃ」
「……ダネル少尉が?」
「あの人いい年して悪戯好きでよお、ちょうどいい奴がいたからこうして襲撃しにきたんだよ。今日は添い寝の相手をいっぱい増やすテロだったみてえだな」
「いつもあんなことしてんのか、あのおっさん」
「今日はまだいい方だぜ? 前は泊めてやったスカベンジャーの枕元にでっかいクモのぬいぐるみ置いてやがったからな」
「何やってんだあの人」
「キャンプ・キーロウの伝統だ。愛嬌の印と思った方がいいぜ」
なるほど、あのおっさんの仕業か。
いい年して何やってやがるんだ。俺は近くの喋る短剣に「どうなってんだ」と顔を合わせる。
『ご、ごめんねいちクン……あの人、すごく無邪気にやってたから……』
「言っとくけどよ、俺は何もしてねえぜ?」
「じゃあなんでいるんだよ」
「いや、どんなリアクションなのか確かめるように少尉に言われた」
「共犯って言わないかそれ」
おはよう熊。
俺は全方位にちょこんと座るテディベア部隊を蹴落とさないようにそっと起き上がった。
少し考えて見渡すと、そこは巨大なコンテナをくりぬいてくっつけたちょっとした建物だ。
ベッドやらロッカーがあって、ひとまずは憩える場所にはなってる。
確か、そう、どっと疲れてみんなぐったり。到着するなり倒れるように眠ったんだった。
「で、お前らは何も止めてくれなかったのか?」
問題は人の寝顔に熊を添えてくれた少尉殿がいるってことだ。
周りにいる既に起きた面々を見ると、ニクがぬいぐるみを抱っこしながらこっちを見ていた。
「……ん。ぬいぐるみ、可愛いかったから」
「フハハ、あんなに愉快な顔でされては俺様も止められぬものよ。それに良い目覚ましになるだろう?」
「残念だが総意で決まったことだ、あきらめろ」
ノルベルトやクリューサも見捨ててくれたらしい。薄情者め。
ひどい仲間をもったもんだ。熊たちを後に起き上がって、朝日を感じる外へと出ていく。
「おはようストレンジャー、良く眠れたか?」
コンテナ兵舎から出るなり、早速にこにこする髭面が待っていた。
オレンジ色の綺麗な朝のもと、気楽な軍人の姿は健康的な姿を振りまきながら人様の顔を伺ってる。
「おはようダネル少尉、残念だけどここにきて早々悪夢を見た」
俺は事実だけを答えた。思い当たる節があるのか髭面はにやにやしてきた。
「ほう、それはいけないな。どんな夢だ? 熊に襲われるやつでもみたか?」
「いいや、うまく思い出せないけどもっと恐ろしいやつだ。んで目覚めたら可愛い熊さんがいた。びっくりして内容忘れたぞ」
「そうかそうか、じゃあ誰かさんが派遣した二分隊の熊のおかげで良い目覚めになったんだな?」
「ああ、ついでにみんな誰も止めてくれない薄情な奴らだと分かった」
新人にずいぶんお茶目なことをしてくれるやつだが、おかげさまでひどい夢の名残はない。
納得のいく結果に満面の笑みを浮かべる少尉殿は親しくぽんぽん肩を叩いてきて。
「タロン、うまくいったな」
「いい反応でしたね少尉。それもポジティブな効果をもたらしたようで」
「俺の悪戯も隅には役に立つってことだ」
タロン上等兵とさぞ楽しそうにしたまま、お目覚めの男どもに「こっちだ」と手招いてきた。
ここキャンプ・キーロウは朝からとても賑やかだ。
外骨格が何やら荷物を運んでいたり、熱心な兵士は既に訓練を始めていたり、戦闘用の装備に着替えた連中が外へ行くのも見える。
「いい朝だろ? さっそく朝飯といきたいところだがまだできちゃいない。そこで合わせたい人物がいるんだが」
そういって俺たちを駐車場の方へと連れていく。
道中で「おはようストレンジャー」「良く眠れたか?」とか言ってくるレンジャーたちに挨拶を交わしつつも続けば、なぜか遠くが賑わってた。
「誰だ? ここの濃い連中か?」
「いや、もっと親しい奴だぞ」
尋ねてみるがダネル少尉は愉快な足取りだ。
いたずらの結果に満足してるのか、それともご機嫌になるような誰かがいるのか、そう思って人混みに近づけば。
「おお、やっぱりいたかストレンジャー!」
人が集うその奥に、見慣れたトレーラーが止まっていた。
武装を積んだ礼儀正しい輸送車両だ。その前にはたくさんの荷物が広げられ、特にそれを仕切るように立つ老人が元気に手を振ってる。
間違いない、ナガン爺さんだ! どうしてここに!
「ナガン爺さん! 来てたのか!?」
「お勤め中さ! 今日はキャンプ・キーロウに物資を届けにきたもんでな!」
「ついでに「好きな物でも買ってけ」ってことさ。どうだストレンジャー、俺とお買い物でもするか?」
なるほどそういうことか。
エグゾアーマーが運んでいる物資はトレーラーの貨物らしいし、寄ってたかる連中は商品を買い求める姿だったのか。
「この前ぶりだなナガン爺さん、繁盛してるみたいだ」
『こんにちは、ナガンさん。いっぱいお客さんが来てますね?』
俺は上官殿の誘いの通り、一緒に人混みをかき分けてナガン爺さんの元へと向かった。
「そうだなお二人とも、今日はブラックガンズからの食料品やら何やらを届けに来たんだ。それとお前たち宛てにいっぱい仕送りがあるぞ」
「仕送り?」
「色々なやつからお前当てにだ。プレッパーズにブラックガンズ、キッドタウンやスティング、そういったところから贈り物がいっぱいだぞ」
そしてお互いの顔を確かめるなり、ナガン爺さんは部下に「仕送りだ」とブツをもってこさせた。
コンテナが幾つもやってきた。けっこうな名前の籠ったそれは、相当な物資が入ってるはずだ。
「わざわざ持ってきてくれたのか?」
「ああ、わざわざな。それからそうだ、お前の上官から贈り物もある」
みんなでいきなりのプレゼントに驚いていたが、続けざまに何かを手渡される。
メモリスティックだ。こんなものを送り付ける先輩なんていたか?
「先に言っておく、というか頼まれたから言うが、お前は今日から昇格だ。本日をもって上等兵だとさ」
特に謎が強い二つを見ていると、ナガン爺さんは微笑みながら肩を叩いてくれた。
昇格? 上等兵? ってことはなんだ、まさか擲弾兵の奴らか?
俺はいきなりの言葉に手にしたそれと共に周りを伺うが、「そいつだ」とメモリスティックを促されてしまった……。




