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59 シド・レンジャーの奇抜な連中どもを前に

 追いやられたテュマーたちがいなくなった後、シド・レンジャーズの北部部隊に基地まで案内された。

 トレーラーがエグゾアーマーを回収し、俺たちはその後ろについていく。

 あの都市の亡骸を抜けてしばらく。道中にちょっとした検問が立ち、道を突然と曲がった先にそれはあった。


 そこはかつて大学だったというのは間違いない。必ず規模の大きなものじゃないが、広い土地をふんだんに陣取るキャンパスの名残が幾つもある。

 アリゾナの山々をバックに存在する大学は教員も生徒もいなければ、その目的すらも変わっていたようだ。


 敷地にある幾つもの建物は今やそれぞれの役割を与えられ、ここが一種の軍の基地として機能させられていた。

 空いたスペースにはコンテナで作られた家屋が立ち並び、四方に作られた頑丈な監視塔が外の世界を見張る。

 そんな場所を強固なものだと主張するのは、そこを包むように作られた防壁だった。

 土砂を詰めた大きな土嚢がさながら壁のように脅威をせき止め、ダメ押しとばかりに廃材を使ったバリケードが重ねられて防御力は抜群だ。


 ここは西側のちょっとした街よりははるかにデカい。

 それに人だってけっこういる。レンジャーからそうじゃないやつまで様々だ。

 総じてここは軍の拠点だ。これほど攻撃的で頑丈な場所を、俺は一度も見たことがなかった。


「……軍の基地って感じだな」

『……うん、兵隊さんがいっぱいだね』


 機械油と火薬の香りが混じる夜風を浴びつつ、俺たちはトラックから降りた。

 駐車場ではさっきのエグゾアーマーを乗せたトレーラーが兵士たちを下ろしてるようだ。

 任務を終えた部隊は大学構内にあるガレージへずんずん歩いていく。中からは溶接の閃きやモーターの駆動音が漏れていた。


「おお……! シド・レンジャーズの兵士たちがこんなにも! これだけ強固な守りなのもうなずけるな!」

「大学がそのまま基地になってるんすねぇ、スピリット・タウンより人がいっぱいっす~」


 オーガとメイドが地面に着くなり好奇心たっぷりにあたりを見回すが、道行く兵士にその姿を訝しまれてた。

 でも、そんな奴らに顔を見せれば「よおストレンジャー」だの「良く来たな戦友」だのかなり親しい振る舞いが返ってくる。

 段々と人を物珍しそうにした奴らが集い始める一方。エミリオたちには無骨なアーマーを着た連中があてがわれ。


「――失礼、あっちのスカベンジャーだな?」

「ああ、うん、そうだけど。『ランナーズ』っていうグループさ」

「そうだったか。ホワイト・ウィークスの件でニシズミ社から「スカベンジャーたちに事情を聞きたい」と言われてる、しかるべき場所に出向いてほしいそうだが」

「……ワオ、それは前向きに出向くような話題かな?」

「さあ、分かりかねるな。でも情報提供の対価には糸目をつけないって言ってるようだが……」


 レンジャーの奴らは荷台の物資の量に驚きながらも、何やら込み入った話をしてるみたいだ。

 荷台のラザロはさながら蛇の巣にぶち込まれたネズミかカエルのごとく縮こまっており、不信感の募った視線が刺さってる。

 俺も少しばかりは話に加わろうかと思ったところ、そこでエミリオたちの話はまとまってしまい。


「ストレンジャー、名残惜しいけど君とはここでお別れみたいだ」


 すぐにイケメン顔が別れの挨拶を告げにきた。

 駐車場からはあたかもスカベンジャーたちの帰路を保証してくれそうに戦闘車両が近づいてる。


「そうか、俺からの別れの挨拶は二つ。「元気で」と「何があった?」だ」

『あの、エミリオさん……? 少しだけお話が聞こえたんですけど、何かあったんですか?』


 たった今見えたやり取りからあんまりいい印象を感じないが、安心したような不安なような、なんとも微妙な表情だった。

 さすがに気になって尋ねるも、その間に荒野色の戦闘服を着た兵士が挟まってきた。


「心配するなストレンジャー、何もこいつらとっ捕まえて煮て食おうって話じゃないんだ」

「その割には話の雰囲気が堅苦しかったぞ」

「そりゃ北の企業が直々に俺たちにお願いしてきたからだよ。盗まれた貨物やら、白いクソどもについての情報を喉から手が出るほど欲しがってるんだ。まあすべてはここの費用捻出のためなんだが」

「ニシズミ社ならまあ大丈夫だと思うよ。それにレンジャーたちが道中護衛してくれるみたいだからね、小遣い稼ぎぐらいの気持ちで出向くつもりさ」


 少々気がかりだったが、二人の様子からしてヤバい事態じゃなさそうだ。

 荷台に荷物のごとく乗せられたラザロを覗けば。まずいぞ、かなり震えあがってる。


「あーそうか、もう行くんだな?」

「ああ、ここでお別れさ」

「俺たちがしっかり守るから心配はいらないぞ。事情の説明の際も俺たちが付き添う形になってる」


 もうすっかり夜だ。エミリオもここの兵士も今すぐにでもブルヘッドへ行こうとしてる。

 ひどくガクガク&ブルブルしてる相棒(仮)を見て、ストレンジャーズ総出で「どうする」と顔を見合わせた後。


「ちょっと頼みがあるんだけどいいか?」


 さっそくここを発とうとする兵士たちを呼び止めた。


「どうした?」

「そこの荷台でびくびくしてるやつは見えるか?」

「ああ、後ろめたそうにしてる点から怪しく感じてたところだ」

「そうか、そいつは元ホワイト・ウィークスのやつなんだ」

「……は? おい、じゃあこいつは……」


 凱旋を果たそうとするエミリオとそれを守ろうとする奴らには悪いが、堂々とカミングアウトさせてもらった。

 今にも走って逃げそうなラザロにレンジャーの奴らは流石に小さく身構えるも。


「問題はあいつらを裏切って、俺と一緒にウォーカーで暴れ回ったって点だ。ついでにいうと無人兵器の頭の中を直して、テュマーに20㎜砲弾を食らわせて俺たちを助けてくれたんだ」

『えっと、あの、いちクンの言う通り、ラザロさんのおかげでみんな助かったって言いますか……』


 無理やりフォローをねじ込んだ。

 ミコの声に一瞬戸惑いながらも「そ、そうか」と警戒を解くも。


「……ん、その人はご主人を助けてくれた」

「うむ、そやつのおかげで多くの者が助かったぞ。スカベンジャーたちも取り切れぬほどの物資に大層喜んでいたな」

「うちらが無事にここまでこれたのは間違いないっすねえ、あひひひっ♡」


 人外な三名にもそう言われ、周りの兵士はお互いの顔を見て困り始めて。


「その男は白だぞ、兵士よ。もう悪者じゃないぞ」

「そいつは悪党としては小物だが、善人としてはそこそこじゃないか? そいつをずさんに扱えば北の連中は心の狭い奴だと思われるだろうな」

「危機的状況を覆した殿方ですわ! 大事にするべき人材ですの!」


 医者とダークエルフと芋の魔女の言葉もダメ押しとばかりに突っ込まれたせいで、ラザロは少し堂々とし始めたようだ。


「……まあ、そうだね、ストレンジャーズの言う通り悪いやつじゃないと思うんだ」

「ああ、それにこいつは電子工作に強いしウォーカーの操縦や整備もできる。そういうスキルをもった人間は大切にするべきじゃないか?」


 エミリオも口にしたところで俺もまた物申すと、十分すぎる言葉の量にレンジャーたちは確かにうなずいた。


「あー、わかった、わかった。そこまで言うなら俺たちからも良く言っておこう、ただしこいつについての良し悪しを決めるのはシド・レンジャーズじゃないことを忘れるなよ」


 そしてラザロを特に気にすることもなく、そのまま出発し始めた。

 「じゃあね」と手を振るエミリオたちの車が走り出す。エミリオともラザロともこれでお別れだ。


「――あ、ありがとう! 助かったよ、ストレンジャー!」


 離れて行くトラックを見届けてると、荷台からそんな声がした。

 背の低い男は少し自信がついたのかもうおどおどしちゃいない。また会おう相棒。


「じゃあな相棒! もうあんな奴らとつるむなよ!」


 別れの挨拶を交わすと、エミリオたちはブルヘッドに向かって消えた。

 ラザロの今後が無事であることを願おう。こうしてストレンジャーズだけが残されると。

 

「お前らが噂のストレンジャーと愉快な連中か?」


 基地の奥からだらしのない男がのそのそとやってきた。

 本当にだらしがない。軍用のジャケットに、サンダルとハーフパンツという体たらくなほどには。

 軽く整えられたこげ茶色の髪と無精ひげがシド・レンジャーズっぽさを薄めてはいるものの、身体はまっすぐだ。


「ああ、どうもこんばんは。おっさん誰?」


 でもとっつきやすいのは確かだ。気さくに挨拶した。

 すると向こうは俺たちの奇妙な姿に、表情で難儀してるのを表しながら。


「俺か? ここの指揮官だよ、マガフ中佐だ」


 ものすごく威厳のない態度と声でそう言った。

 そんな身なりでいきなり「指揮官です」とか言われて信じられるかって? 悪い冗談だと思う。


『えっ、し、指揮官の方……?』

「えーと、うん、ずいぶんと軽装なんだな」

「レンジャーのアーマーが似合わないってみんなから言われたからな、反骨精神をもってこんな格好なんだ。似合うか?」

「気取らないところは気に入った」

「そりゃよかった。まあこんなところで立話もなんだ、もっといい場所でゆっくり話そう」


 こいつは本当に指揮官なんだろうか。

 気だるそうに身軽な身体で歩き出すと「ついてこい」と背中に続くように言われる。

 途中で何人かの兵士が気さくに「どうも中佐殿」とか「また変なの増えましたね」とかいって敬礼を飛ばしてきた。

 やっぱり北は変人ばっかなんだろうか。変な不安が募る中。


「キャンプ・キーロウは変わったとこだがきっと気に入ると思うぞ、ストレンジャー」


 自称指揮官のお誘いに、いきなり横から人が加わった。

 濃いブラウンの髪を薄く伸ばして、顎も口元も髭を蓄えたがっしりとした男だった。

 無線の声と同じだから間違いなくあの狙撃手だろうな。

 体格だってプレッパーズのつながりを感じるほどに力強いが、顔はレンジャーとは思えないほどにこやかだ。

 第一印象は爽やかなおっさんだ。でも間違いなく、この人はボスとのゆかりがあるやつだと思う。


「そうだな、敵が来てもすぐにぶちのめせそうだから気に入ってる」

「問題はあんまりにも強すぎて誰も攻め込んでこないってところだな」

「だったらなおさらだ。さっきは狙撃をどうも、いい腕だった」


 陽キャなおっさんがてくてくついてきた。

 変な一団になり始めてる。異様な集団に対する周囲の目が痛い。


「少尉に中佐、なんかバケモンのパレードみたいになってません?」


 そこに角刈りの厳つい黒人男性がやってきた。

 きっとこいつなら何も持たずに廃墟を徘徊してただけでレイダーだと判別できるほどガラの悪い人間だ。

 まあ、その代わり声はおちゃらけてる。感情豊かというか。


「それは俺も人外ってことかタロン、よーし前向きに受け取ってやるぞ。お前も道連れだ」

「タロン上等兵、ここは元々変人ばかりなんだ。もちろんお前もだが」

「ひでえや二人とも。どうも皆さん、タロン上等兵だ。さっき吹っ飛んだテュマーは見たよな?」


 また陽気なやつが増えた。あの時50㎜ロケット弾をばら撒いてたエグゾアーマーのやつか。


「あんたはあの時ロケットを雨みたいにばら撒いてたやつか。派手に爆発してたな」

「すげーだろ? うちの開発班と作った50㎜ロケットポッドだ。ところで皆さんどちらまで?」

「お客さんの接待までだ、暇ならついてくるか」

「もちろんです中佐殿。いやおもしれーなお前ら、ハロウィンのパーティー中?」

「ちゃんと首もとれるっすよ~、ほらほらー♡」


 面白そうな男がついてくるも、早速ロアベアが首を外しやがった。

 唐突に取れた生首に流石に兵士たちもドン引きだ。足を止めて唖然とするやつもいる。

 しかし少尉殿と面白黒人は流石というか特に気にしちゃいない。むしろ面白がってるというか。


「ボスの言ってた「頭が取れる」って物理的な方か。比喩的表現かと思えばこういうことだったなんてな!」

「すっげ~! 頭取れてやんの! メイドさん、脳みそどこにあんだよ!?」

「きっと心の中にあるんじゃないんすかねえ、いひひひっ♡」


 驚くどころか興味津々な二人に、ここの指揮官が「どうして変なのばっかり」と愚痴を漏らすのをうっすら感じた。

 いろいろご苦労なようだが、そこへ更に一癖強い姿が加わる。


「今宵はずいぶんと曲者ぞろいね。こんばんは、ストレンジャー」


 ……それは女性なんだろうか。

 もう少しで2mは達しそうな背丈で、身体はどうにか女性と分かる膨らみがある程度のボディビルダーというのか。

 お前素手でドッグマン殺したことあるだろ? と口から出そうなほどの淑女が入ってくる。


「あ、どうも……屈強ですね……」

「私はアクイロ准尉よ。そこの調子のいい奴みたいに筋肉馬鹿と呼ぼうが好きにしな」

「気を付けろよ、この筋肉馬鹿マジでつええぞ」


 滅茶苦茶強そうな顔で微笑まれたが、正直萎縮した。

 面白い上等兵が茶化すも気にしないほどの度量はあるみたいだ。なんなんだこいつら。

 とにかく癖の強い一団になった俺たちは、基地深くの建物まで案内された。



 そのあと、指令室と強引に押し付けたような部屋に連れてこられた。

 元々は大学のお偉いさんが使うような場所だったのかもしれない。

 そんな場所をちょっとしたオフィスにして、なおかつざっくばらんに物が散らばっている。

 だらしがないが、椅子に腰を掛けてさも責任者っぽい雰囲気を醸し出す点から間違いなく指揮官なんだろう。


「――で、お前たちが噂の『ストレンジャーズ』か?」


 さっそく、曲者のレンジャーをまとったマガフ中佐が尋ねて来た。

 確認というよりはどんな面白い連中か試すような口ぶりだが。


「お騒がせしてるストレンジャーだ」

『はじめまして、指揮官サン。わたしはイージスです』

「ぼくはヴェアウォルフだよ」

「俺様はブルートフォースだ、マガフ殿」

「アヒヒー♡ エクスキューショナーっすよ~」

「飢渇の魔女リーリムですわ! この基地にお芋は足りてるかしら?」

「ダークエルフのクラウディアだぞ」

「医者のクリューサだ。先にお願いするが、俺を人外と一緒にするなよ」


 俺たちは思い思いに返してやった。

 すると喋る短剣を携えた擲弾兵姿から不健康極まりないお医者様まで見渡して、どう扱えばいいか困ってそうな表情だ。


「南は今どうなってるのやら。目の前には今、仮装パーティーをしてるような連中が揃ってる気がするぞ」

「中佐、まだハロウィンになっちゃいませんぜ」

「今頃スティングじゃ街のあちこちにくりぬいたカボチャでも飾ってるのか? 面白い顔ぶれが来てくれたもんだな」


 この世の姿に迷う指揮官に、タロン上等兵とダネル少尉が軽く挟まってくる。

 隣で静かに静観してるマッシブな准尉殿は特に俺たちには気にはしちゃいないようだが、変わった顔ぶれに多少は興味が湧いてるようだ。


「とりあえず一つ謝らせてほしいんだが」


 そんなスタートをきった対面から、早速北部の少佐殿は俺たちに顔を上げた。


「お会いできてすぐに謝罪ってことは誰かが何かやらかした系?」

「まさにそんな感じだ。北部のブルヘッドでニシズミ社の貨物を巡るいざこざがあってな、そこにホワイト・ウィークスの件が絡んで我々が一仕事しなきゃならなかったんだが」

「つまりあんなの見過ごしてフォート・モハヴィに向かわせたのには理由があったのか?」

「そうだ。クソ面倒な企業同士の争いが絡んでいて厄介なもんでな、決定的な証拠を確保してからあそこに封じ込めていろいろとお尋ねになるところだったんだ」


 なんであの白いクソどもに何もしないのかと疑問だったが、何やら込み入った話があるらしい。


「ところがだ、中佐殿が言うには予想外の勢いでホワイト・ウィークスに反撃、これをほぼ壊滅させた奴がいるそうだ。心当たりはあるか?」


 そこにダネル少尉がからかうようにニヤニヤしてきた。

 大いにあります。周りからの信用たっぷりな視線に俺は答えることにした。


「あいつらのリーダーなら間違いなくぶち殺しておいたぞ」

「それが本当なら俺たちの仕事を奪ってくれたことになるな。嬉しい知らせだが、仔細を話してもらいたいものだ」

「中佐、あのクソやかましい演説は聞いたか?」

「こっちまで聞こえてきたとも。あまりのやかましさにダネル少尉とタロン上等兵がこっそり近づいて狙撃なり爆撃させてくれ、だなんて頼むほどにはね」

「エグゾアーマーでおめかしして適当なビルにでも登らせてくれれば、いいタイミングで頭を吹き飛ばしてやるといったんだぞ俺は」

「集まってるところに一発でかいのお見舞いすりゃいいじゃないかって思ったのによ、ケチな指揮官だぜ。ねえ少尉?」

「で、俺があいつらがテュマーたちにお気持ち表明してるときに乗り込んで直々にやったわけだ」

「にわかには信じがたいがああも瓦解した様子からしてそうなんだろう。奴の死因は?」

「ウォーカーに乗り込んだところをテクニカルトーチでベリーウェルダンにしてきた。生きてても地獄だろうな」


 ことのあらましを全て話すと、中佐殿は「こいつ正気か」というような目をしてきた。

 他の連中は好意的だ。よくやってくれた、的なものを感じる。


「お前の言うことはきっと本当だろうと思う。口にしていい類の冗談じゃないからな」

「そういえば偵察チームからウォーカーがウォーカーぶんなぐってるって聞いたけどよ、やっぱお前の仕業か?」

「ああ、親切なやつに教わりながら殴り倒してきた」


 呆れすらある指揮官に続いて上等兵に尋ねられて、ウォーカーで「こんな風に殴った」と操縦桿の動き込みで教えてやった。

 十分だったらしい。話をよく聞いたここのお偉いさんは悩み少々、それから少しすっきりとした様子で。


「よくわかった。お前が大活躍してくれて我々の手間が省けたことが今ようやく確認できた」

「多少の粗相はお咎めなしってことだよな?」

「お釣りがたっぷりだぞ。少尉、すぐにブルヘッドからニシズミ社の兵士が派遣されて回収に来るぞ。適当に動ける奴を回しておいてくれ」

「了解、指揮官殿。よくやったなストレンジャー、面白いやつめ」


 陽気な少尉と一緒に親し気に笑んでくれた。

 きっとあいつらが煩わしかったんだろうな。

 どうにか俺たちを認めたそいつは、少し軽くなった肩をゆっくりと下ろして。


「我々北部レンジャーの枕を高くしてくれたわけだ。ようこそストレンジャーズ、お前らを歓迎しよう」


 気だるい顔を崩してニヤっと笑った。

 それからびしっと立ち上がり、俺たちに向かってそれらしい敬礼をする。

 そんな様子に部下たちは物珍しそうにしていたものの、少尉から上等兵までつられて軍の色のある礼儀を示し始め。


「まったくあのばあさんめ、長生きしてくれそうだな。皆が恐れる北部部隊にこんなサプライズを用意できるユーモアがあるあたりもう百年は生き延びそうだと思わないか」

「いやあ、あの人魔女だとか言われてるっすからね。そのうち箒乗って現れるんじゃ?」

「ボスは魔女の猟犬だとか言われてたが、いよいよあの人も魔女か。まあここに本職がいるそうだが?」

「あの方はバーバヤーガと呼ばれていたからね。いつまでも恐ろしい人よ」


 だらしない格好に見合わない意志の強さがそこにあったものの、すぐに戻ってやる気のなさが満ち溢れた。

 適当に付き合う部下たちもなんだかレンジャーと思えないゆるさだが、それが北部部隊の強さの秘訣なのかもしれない。


「ひとまず空いてる兵舎がある。といっても戦前のコンテナを繋げただけの簡素なものだけどな、良かったら使ってくれ。お前たちみたいな酔狂な連中には是非とも重い荷物を下ろしてくつろいでもらいたくてね」


 俺たちは恐らくこの人の人生で一番不可思議な顔ぶれだろうが、そんなものすら受け入れてくれたようだ。

 こうして基地に招待された俺たちは、安心して休める場所を提供してもらった。


 ◇

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