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58 北部レンジャーの手厚い歓迎

 好き放題欲しいものを手に入れてショッピングモールを後にした。

 無尽蔵の物資を前にまだまだ盛り上がっていたが、お仕事を邪魔しないよう俺たちは進んだ。


 後は簡単だ。

 エミリオたちが持ってきたトラックに荷物(ストレンジャーズ含める)乗せ、気楽に街中を走り抜けるだけである。

 もちろん車体にあった『W』はかき消して。


 それだけの戦利品に恵まれた車両が走り出せば、スカベンジャーたちが見送りにきたようだ。

 テュマーの死体より生気に満ちた灰色の姿が、手を振り言葉を届け背を押してくれた。

 「元気でな」「遠い地でも良い狩りを」「行ってこい」とその口さまざまだ。


『こちらスタルカーだ。ホワイト・ウィークスの奴らをどうにかしてくれて、みんなあんたらに感謝してるぞ。明日には同業者同士で楽しく競争する日々が戻ってくるだろうな』

「こちらストレンジャー。あいつらみたいになったらまたぶちのめしてやるから心配するな」

『だとさお前ら、今の言葉を忘れるなよ。第二の白いカスどもになったら地獄に叩き落としてくれるそうだ』

「そうなりたくなかったら振る舞いに気を付けるか、善行でも積むんだな」

『だったら両方だな。じゃあな兄弟』

「お前らの支援には本当に助けられた、こちらこそありがとうだ。じゃあ行ってくる」


 無線から通じた声に軽く返すと、あっという間に街の光景は離れていく。

 駐車場を抜けた先はもぬけの殻だ。テュマーはどこかにいったし、この車を遮るろくでなしものもいない。

 ストレンジャーズを乗せた三台のトラックは難なく道路をすり抜け、俺たちが通るべきだった道へと向かう。


『……なんだかとっても濃い一日だったね』


 道中、誰かによって壊された車両やらウォーカーが見えるとミコが言った。


「ああ、ロボットにも乗れたしな」

『でもあれはやりすぎだよいちクン……』

「邪魔されたから地獄に蹴落としてやっただけだ」


 むき出しの荷物に座ったまま戦いの跡を眺める。

 ぶん殴られた逆関節の人型が幾つも転がり、そのついでに破壊された軽戦車や装甲車やらがまだくすぶってた。

 自分でやったとは思えない戦果がそこにあるわけだが。


「……俺、どうすればいいんだろう」


 そんな光景にちゃっかりついてきたラザロがクソ重いため息をつく。

 こいつは結局、スカベンジャーたちに馴染めず逃げてくる形で同乗してきた。

 誰かの人生にああしろだのとは言うつもりはないが、もうあんな奴らと一緒になるなとしか言えない。

 

「足を洗って普通の仕事でもすればいいんじゃないか?」

「普通ってなんなんだろうな……」

『え、えっと……ラザロさん、機械とか電子機器に強いなら、そういうのを生かせるお仕事についてみたらどうでしょうか……?』

「ブルヘッドじゃそういう仕事には困らないのは確かだ、でもニシズミ社の所有物を奪った時点で俺の人生は積んだも同然なんだぞ。……ところで今更聞くけど、この声なんなんだ?」

「俺の短剣は喋るんだ、なあミコ」

『こ、こんにちは……今更ですけど、わたしミセリコルデっていいます……』

「なんだそのナイフ、人工知能でも積んでるのか?」

「まあ、そうだな、大当たりだと思う」

『えっと、人工知能っていうか、精霊っていうか……』


 ともあれウォーカーの背中から引きずり下ろした男はひどく疲れてしまってる。

 こいつの出自は世に恨まれるような連中だが今は少し違う。

 スカベンジャーたちを喜ばせて、進むべき道をこじ開けてくれた程度の活躍ぶりだ。

 それに夢を一つかなえてくれたお礼もある。ラザロの今後の安全をどうにか確保してやりたいところだ。


「フハハ、すさまじい(むくろ)の数よ。イチ、お前がやったのだな?」


 トラックが通れる道を選別しながら進むうち、ノルベルトが感心していた。

 何かと思えば遠くに待ち伏せ大失敗で壊滅したご一行が見えた。

 夕日が見えた世界の下、良く燃える鉄くずたちが良い狼煙を作ってる。


「そこのラザロも一緒にな」

「おおそうか、お前も共に戦ったのか。ならば良き戦士だな、スティングの前線を思い出すありさまだぞ」

「しかもこのミュータントはなんだ、どうして俺はこんなやつに褒められてるんだ。近頃のウェイストランドは何があったんだ……」

「気を落とすな人間よ、世も変われば人だって変わるものだ。お前も前に進めばまた良き道を見つけられるだろう」


 どんよりしたラザロにオーガの声が当たるも「ご助言どうも」とため息が返された。

 後続のトラックの様子を見ると、荷台いっぱいの成果に運転席と助手席の会話が栄えてるようだ。

 ランナーズの二人が目が合うなり手をふってきた。軽く返して街の方へ顔を戻し。


「でもテュマーはもうごめんだ、あいつらの青い目を人生一回分見た気がするからな」


 離れ行くフォート・モハヴィを確かめる。

 きれいさっぱりだ。150年も生きる屍たちはどこか消えたし、この車を遮るろくでなしものもいない。

 黒いわん娘が寄り掛かってうとうとしてくるぐらいには平和な有様なのだ。


「うむ、だがとても良き経験になったではないか?」


 しばらくしないうち、北へのハイウェイが見えてくるとノルベルトが満足げににっこりした。

 まあ、その理由は手元にある冷たいドクターソーダのおかげだが。


「一つレベルアップするぐらいにはな。そっちはどうだ?」

「うむ、実はお前と別れた後に『デザートハウンド』とやらと一戦交えて来たぞ」

『えっ……? ノルベルト君、まさかあれと戦ったの……?』

「その言い方はテクニカルトーチなしでやったのか?」

「案ずるな、頭をこいつで叩き潰してやったからな」


 どうもこいつは俺と別れた後もまたやらかしてくれたらしいな。

 オーガの強い笑顔のもと話に引き出されたのは、荷台に寄り掛かる戦槌と強引に引っこ抜かれた何かのセンサーだ。

 力づくでぶち抜かれた電子機器の姿に「うわっ」とラザロが引いたが、つまりそういうことなんだろう。


「あーうん、あそこの無人兵器は喧嘩売る相手を計算するようにプログラムするべきだったな」

「フハハ、やつらの部品とやらは記念として取っておくことにしたぞ」

『接近戦で倒したんだね……ノルベルト君らしいや、うん……』

「我が家に持ち帰って部屋に飾るつもりだ。良き戦果よ」

「……一体なんなんだよあんたら、非現実的すぎるだろ」


 やがて元ホワイト・ウィークスが呆れた笑いすら浮かべたところで。


「北部のハイウェイに乗ったよ! あとはこのまま北上するだけさ、ついでだしブルヘッドまで送ってあげるよ!」


 そうやって先頭を走るトラックのもと、助手席にいたエミリオが顔を出してきた。

 実に儲かっただけあってかなりご機嫌だ。もう死神がフラグを持ってくることもないだろう。


「そりゃ助かる、この様子なら野宿する必要もなさそうだ」


 俺はぴったりとくっつく誰かの顔を覗いた。

 頑張ってくれたニクはぷにっと頬を押し当ててきながら、安らいだ顔でくつろいでる。

 尻尾もゆらゆらと下向きにくねって、眠そうな目でうっすらこっちを見上げたままだ。

 グッドボーイ。グローブを外して撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めて来た。


「んへ……♡ もっと撫でて……♡」

「お前がミコと共に駆け出した後、ニクがとても寂しがっていたぞ? 勇敢なのは良いことだがあまり心配させんようにな」


 艶のある犬耳をぺこぺこいじってると、ノルベルトにそう言われた。

 気を付ける、と念入りに頭の毛並みをなぞる。ニクはジト顔のままとろけた。


「心配かけて悪かった。次からこういう事態があったらどうするかちゃんと話しておくべきだな」


 後続を見ると持ち上げられたメイドの生首がこっちにによによしてたが、構わずPDAを開く。

 今回の戦いでスキルの方はいい感じに上がってる。【小火器】のSlevは5から6へ上昇。

 『ネイティブアメリカンの料理』とか言う本を読んだおかげで経験値が溜まって【料理】のSlevが3まで上がった。

 ついでに『イギリス軍電子工作マニュアル』で電子工作がSlev3に、大成長といってもいい。


 さて、お次はPERKだ。

 いろいろ出ていたがすぐに目ぼしいものが見つかった。

 それは【タンク・デストロイヤー】という名前のPERKで。


【ワオ! あなたはまるで人間成形炸薬弾だ! ウェイストランドでの無茶苦茶な戦いを経て、装甲を持つ者たちへ無駄に高い攻撃性と殺意を向けるようになりましたね。装甲を持った対象により良いダメージを与えられます。(動物愛護の観点により装甲をまとった状態の馬やロバなどの動物、魔法の箒などは当てはまりません)】


 だとさ。これから先また戦車を相手にするなら取っておくべきだ。

 そんなわけで新しい能力も手に入れて、後はトラックの足回りのもと北へ向かうだけか。


「さあ、ここから愛しのブルヘッドに凱旋だ! 忘れ物はないねお客様!」

「念入りにぶちのめしたから思い残すこともないぞ」

「相変わらずおっかない返事だね、ストレンジャー!」


 しばらくしないうち、あの時の光景が見えてきた。

 本来進むはずだったあの道路だ。車体が道を曲がってそこにたどり着くと、ズタズタにされたあのトラックが見えた。

 そんな哀れな姿を超えて、それでもテュマーも見えず、実に快適なまま一団は進む。

 北への道にたいした障害なんてなかった。車もそれほど残ってないし、おそらく無人兵器がやってくれたであろうテュマーの残骸が転がってるぐらいだ。


『やっと元の道に戻ってきたね、長かった……』


 今までの苦労はなんだったんだというぐらいスムーズに進む車列に、ミコが疲れた言葉を流す。

 おっとりとした声は夕暮れの空に溶けて行ってしまった。

 俺たちの後を追うものもいなければ、横やりを入れてくる奴らだっていない。


「ここでの出来事は彼女に一週間かけて話すよ、これで話のネタには困らないからね!」

「おい、またそんなこといいやがって。彼女さんにあってからにしろそういう話は!」

「諦めろストレンジャー、もう下手に口出すより言わせとけ。安全運転は保証してやるから黙って聞いてやってくれ」


 エミリオはさぞ自信に満ちた帰宅を果たすんだろうが、それにしても口を開けばいつだって彼女だ。

 こいつらとは短い付き合いだが濃い時間を共に過ごした仲だ。しばらくすればお別れ、というのも少し寂しいもんだが。


「きっと喜んでくれるさ! お土産もいっぱい、あの子もきっと寂しがってるだろうし!」


 華やかな声でそうイケメンボイスがエンジン音をかき消すぐらいに飛び出てくる。

 その言葉の通り、この出来事もいい感じに締まるんじゃないか? そう思っていた矢先――


「……あー、ちょっと問題発生だ」


 運転手の男が引きつった声のまま、ぎぎっとブレーキを踏んだようだ。

 トラックが急に止まる。後続の二両もつられてそうなれば、ニクがぴくっと起きた。


「なっ、じょ、冗談じゃない……! なんだいありゃ……!?」


 あれだけ明るい未来が詰まってたエミリオの声がそう驚くところで、俺はノルベルトと「まさか」と顔を見合わせる。

 すぐに動いた。短機関銃を手に、戦槌を担ぎ、二人で運転席の屋根から前を覗く。

 しかし目の当たりにするべきじゃなかったとすぐ後悔した。遠くでずらっと立ち並ぶ黒い姿が確かにいたのだから。


「……おいおい、確かに冗談じゃないな」

『なにあれっ……!? なんであんなところにテュマーたちがいるの!?』

「すさまじい数ではないか! なぜあのような場所に……」

「ん、テュマーがいっぱいいる。どうして……?」


 それは警戒心丸出しのニクも飛び起きるほどだ。

 四人で見渡す先では()が完成していた。150年もののゾンビたちが無人兵器たちを連れて待ち構えてる。

 寂れた街並みへと変わるフォート・モハヴィの北側に、ここは通さないとばかりに青い瞳が連なって一つの横線を生み出していた。


「そ、そんな……! テュマーは片づけたはずじゃないのかい!?」


 幸いなのはまだ立ちはだかってるだけの壁である点だ。

 エミリオの絶望の声にトラックが後退を始めるほどだが、そこに「まさか!」とラザロの声が飛び込む。

 この状況で何か分かったのか? 想定外の出来事への見解を期待して、全員の視線が背の低い男に集まるも。


「セメタリー・キーパーから追いやられたやつらだ」


 マナ色とまではいかないが、顔色悪くそう言っていた。


「なんか不健康な方々が待ち構えてらっしゃるように見えるんすけどー……」

「なんだあれは!? 奴らめ駆逐されたはずじゃないのか!?」

「どういうことだラザロ? 追いやられたって?」


 後続車両からロアベアとクラウディアが降りてくるが、俺は具合の悪そうな言葉の続きを待った。


「あいつらが黙ってやられるわけがないんだ、ヤバくなったらテュマーたちは逃げるし隠れる、脅威がいなくなればまた活動する。こいつらは機関砲の餌食にならずに逃げ延びた奴らだ!」

「つまり君が言いたいのは、あれは無人兵器の食べ残し(・・・・)ってことかい!?」

「そうだ、あそこにいるのはただの残党だ! それにしたってどうしてあんな場所に――」


 エミリオの言葉も含めて考えるに、あれはセメタリー・キーパーから逃れてきた奴らなのか?

 まるで俺たちが来るのをずっと待っていて、せめてもの仕返しを目論んでると言われても疑いようがない。

 だが向こうはテュマー、そこにあるのは人知に及ばぬ機械の思考だ。


 遠く離れた光景で、無数にも及ぶ青い瞳が点滅する。

 まるで瞬きだ。青から黒へ、黒から青へ、そして何度か繰り返した挙句に、それはとうとう赤色へと変わっていく。

 その色がもたらす意味は俺たちが良く知るものだ。

 夕焼けのもと赤く染まったセンサーが、ずん、と足踏む。


『うっ、動いてるよ!? テュマーがこっちに向かってる……!?』


 ミコの焦り声の先で、無人兵器も混じった行進が始まる。

 確実に俺たちは補足されている。

 まずいぞ、エミリオやラザロと目が合ってすぐに「撤退」の二文字が決まった。


「ひ、退くぞ! あいつらから離れないとヤバい!」

「早くみんな車に乗って! とにかく後退! 街に戻らないと!」

「あいつら縄張りを変えたんだ! 早く下がれ! 全力で来るぞあいつら!」


 『ランナーズ』の判断はすぐで、既にトラックを後退させていた。

 荷台に取りついて早めのUターンを期待するが、次の瞬間にはテュマーたちは足を早め、身体を振り、勢いをつけてこっちに迫ってきた。


「あいつら走り出したぞ!? 本気じゃねーか!」

「まずい、ホードだ! どこでもいいから街に戻るんだ!」

「やってる! くそっ、欲張ったせいで車が――」

「もう先頭が目の前まで来てるぞ! 応戦しないとやられる!」


 全員大慌てだ。

 夕方のウェイストランドに揺らめくセンサーの赤色は明らかに俺たちを目指してる。

 後続の二両がぐらぐら反転するのが見えた。だが最前列たる化け物たちが追いつき始め、人工音声の息遣いがすぐ目の前まで迫るが。


『人類の脅威を確認、治安維持のため戦闘機能を行使します。それでは、さようなら』


 デザートハウンドの逆関節がそれすらもかき分けて追いすがろうとする。

 人間の構造をはるかに超えた機動力で追いついたかと思えば、重い足取りのまま四問の重機関銃をこちらに向けて。


 ――がんっ!


 そんな強い音が響いた。

 撃たれたのか? 短機関銃のトリガを絞ろうとした矢先、汚染された無人兵器が前のめりに倒れる。

 少しして銃声が遠くから届く。感づいた。まさか長距離狙撃か?


「警戒! 警戒!」「何が? 一体何が? なになになに」「アアアァッ!?」


 いきなり倒れた機械の身体にテュマーたちが止まるのが見えた。

 ばすすっ、と何人かの死にぞこないの姿がまとめて吹き飛ぶ。

 そしてまた銃声。間違いない、誰かがこいつらを撃ってる。

 何が起きてんだ? 謎の攻撃に追跡の足が緩み、トラックも足を緩め始める中。


 *DODODODODODODODODODODOM!*


 遠くから五十口径の爆ぜるような銃声が続いた。

 こいつは無人兵器のものじゃない。車載した機関銃か?

 どこからかの銃撃があったのは確かだ。あれだけ群れていた赤い光が次々となぎ倒されていく。

 夕方の世界に曳光弾の線が混じり始めて、街のどこかから何者かが撃っているという認識ぐらいはできた。


「……何が起きてんだ?」

「誰かが手を貸してくれているのか? もしやスカベンジャーどもか?」


 隣のノルベルトと「誰の仕業だ」と疑問を持つも、攻撃の勢いは増していく。

 野太い銃声があちこちから上がり始め、建物の屋根から、隙間から、荒野から、徹底的な銃撃が施される。

 遠くからはぼぼぼぼぼっ、と何かの発射音のようなものが連なって。


*zzzZZZbbbBAAAAAAAAAAAAAAMMM!*


 テュマーどものど真ん中でたくさんの爆発が次々立ち上がる。

 巻き込まれたものはそれがゾンビだろうが機械だろうが平等な権利を与えられている。みな粉々に吹っ飛ぶというものだ。

 だが俺たちは無事だ。周囲から何十にも及ぶ銃撃爆撃が行われてるのにかかわらず、目の前の敵だけがきれいに刈りとられてる。


『これで要請通りになったようね』


 そんな中、横からがしょがしょと駆動音混じりの足音が入り込む。

 身構えるがすぐにその必要はないと気づく。横の斜面から誰かがこっちに向かっていたのだ。

 ノルベルトほどある巨体だ。しかしそのガワは砂漠色に塗られた装甲が余すことなく施され、すぐにエグゾアーマーだと気づく。


『ストレンジャーを見つけたぞ! まったく、とんだ一日になってるようだな!』

『たまに動かさなきゃ外骨格が鈍るからな! 少尉殿に横取りされる前にかっさらうぞ!』

『良かったっすね准尉、無駄足にならなくて!』


 その後ろから似たような姿がぞろぞろと続いてくる。

 手持ちの重機関銃を構えながら、背中のものものしいロケット砲を担ぎながら、まるで人間さながらの動きをもって外骨格のご一行が現れた。

 それもただのエグゾアーマーじゃない。動きを妨げないように施した装甲の上に、予備の弾倉や雑多な装備を括り付けた実戦的(・・・)なものだ。

 何もかもが今まで見た物とは全然違う。下手したら人間よりも機敏ななりふりで、それでいて統一の取れた動きだ。


『ようこそお客様、そこで大人しく見てなさい』


 周囲に続々とエグゾアーマーの部隊が現れる中、真っ先に現れた誰かが野太い女性の声でそう告げてくる。

 頷いて返せば、そいつは鉄材を叩いて作ったような巨大な刃物と共に駆け抜けた。

 向かった先はテュマーの群れだった。突然の攻撃に足止めを食らったその有様に、巨大な一振りがぶちこまれていく。


「ア゛アアアアアアアッ!?」

「敵襲! エグゾアーマー! 敵襲!」


 すさまじい威力だ。外骨格の力のもと、一撃で数匹が叩きつぶされる。


『准尉は相変わらず無茶しやがるぜ!』

『タロン上等兵、感心はあとだ。50㎜ロケットを後方にぶち込め。残りはあのおっかない筋肉ババァと少尉がどうにかしてくれるさ』

『向こうの機銃に注意しろ、全員カバーに入れ』


 いきなり割り込んできたそれが軍勢の一端を切り削ぎながら消えていくと、後から続く連中が物陰に隠れながらも巨大な突撃銃を構える。

 そして五十口径の質量が連射された。そのついでとばかりに、肩に備え付けられていたロケット・ポッドがぼぼぼぼっ、とばら撒かれる。

 さっきの爆発はこれだったのか。銃撃で立ち止まる一団の背後で、何発もの50㎜ロケットの爆発がまた立ち上がった。


「ほ、北部レンジャーだ……!」


 あまりにもいきなりな激しい戦闘、いや殺戮に、エミリオが興奮まじりの声を上げた。

 今俺たちを助けてくれたこの連中が、噂の北のレンジャーたちなのか?

 まるでテュマーたちを取り囲むように現れ続けるエグゾアーマーの姿は、片っ端から獲物を狩っていくのみだ。


「……なんと鮮やかなものよ。あれだけいた敵をもう食らいつくしたというのか?」


 それは、ノルベルトが感極まって見入ってしまうほどだった。

 僅か数分だ。突然の乱入者に、俺たちを妨げようとした奴らはやられた。 

 逃げようとする姿があれば迷うことなく銃弾が叩き込まれ、機銃をばら撒く無人兵器が金属の悲鳴もろとも倒れる。


「おいおい……もう全滅したぞ、どうなってんだこれ」

『す、すごい……全部倒しちゃった……!?』


 ただ呆気に取られてテュマーが片づけられる様を見終えると、やがてあちこち散らばっていた外骨格たちがずんずん集まってきた。

 統一された見た目と連携からこいつらが『部隊』であることは良く分かる。

 一仕事こなした十体以上のエグゾアーマーは人間のような自然な動きで目前まで迫ったところで。


『ストレンジャーね?』


 攻撃力高めの、どうにか男性と間違えずに済む程度の厳つい女の声がした。

 さっきの大剣を担いだやつだ。手短な問いかけにはボスみたいな強さを感じる。


「ああ、助けてくれって言った奴らだ」

『そう。じゃあ無線を開いてシド・レンジャーズの回線につなぎなさい』


 外骨格の指先は「それ」と俺のヘッドセットをさしてきた。

 断ろうものなら力づくにやってきそうな強い声に内心びびりながら、PDAをいじって無線を設定し直すと。


『聞こえるか? こちらジータ部隊所属のダネル少尉だ、やっと会えたな?』


 耳元にユーモアのありそうなおっさんの声が送られてきた。

 こんな状況なのに楽しそうな声だ。まるで子供みたいな無邪気さがあるというか。


「こういう時はこちらストレンジャー二等兵だ、とかいえばいいのか?」

『その格好、擲弾兵に認められたわけか。いや面白い噂ばかりでどんな奴なのかずっと気になってたんだ』

「俺のことを面白い奴だと思ってくれてるみたいだな、どうもありがとう。こうしてわざわざ無線で話すってことは狙撃してくれた親切な方か?」

『大当たりだストレンジャー、流石はボスの弟子だ。良い腕だろう?』


 無線越しの声は緊張感のない笑いをも届けてくれた。

 なんだか気が抜けるが、無人兵器をえらく遠い場所からぶち抜くほどの腕なのは確かだろうな。


「ボスみたいな腕前だと思う。一体どこからぶっ放してるんだ?」

『ボスみたい、か! そいつはうれしいな! 居場所についてはクイズ形式でいいか?』

「遊び感覚で余裕そうだな」

『そうじゃなきゃ北部の仕事は務まらんさ。ヒントは山だ』


 こいつは俺のことを試してるのか、それともよっぽど退屈なのかはわからないが、とにかく遠くから俺を見てるらしい。

 目の前のエグゾアーマーたちに「どこだ?」と首をかしげるも、返ってくるのは意地悪そうな笑いぐらいだ。

 いいさ、付き合ってやるよ。


「ひょっとしてあんたら、俺のこと試してないか?」

『新兵いじりは先輩たちの特権だろ?』

「ひどい先輩が増えたと思う」


 落ち着いて集中した。向こうで倒れたデザートハウンドはこっちに向かって倒れてる。

 北の風景と照らし合わせるに、北東側奥にある山か。

 新調した双眼鏡で探ると、薄く暗さを帯びてきたアリゾナの山々があった。

 あのあたりから狙うなら結構な高さだろう。小さな山の一つに焦点を合わせると――


『おお大した奴だ、もう見つかったわけか』


 まるで人様の動きが分かってるかのように関心された。

 良く見ると山の上がちかちか光ってた。視界を拡大すればそこにどうにか人型がある。

 いた。ライトを点滅させた誰かが身の丈ほどはある銃と一緒にこっちを見ており。


『北部へようこそストレンジャー。お前と話せる機会がずっと楽しみで待ちきれなくてな、こうして出迎えてやったぞ』

「よくわかったよ、あんたらも相当癖が強そうだ」

『そういうな、俺たちはシエラよりお上品さ。良く来てくれたな』


 とうとう捉えた姿は、そういって嬉しそうに俺を歓迎してくれている。

 その距離にして1500m。どうにか映る小さな姿は、外骨格の身なりで親し気に手を振っていた。


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