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51 Walker Run.

 ウォーカーが一歩進むたびに、道路上の車がかすかに揺らぐ。

 俺たちも同じだ。足元から鋼鉄の足が地面を踏みしめる揺れが伝わって、歩いてるんだと実感できる。

 障害物を避けて、あるいはそれごと踏み鳴らしながら、フォート・モハヴィの北めがけて巨大な足が早足に駆けていく。


『裏切者が出やがったぞ! ラザロのやつがストレンジャーと一緒にウォーカーに乗ってやがる!』

『ばっ、馬鹿か!? あんなやべえのにウォーカーを渡したってのか!?』

『み、南側の第七チェックポイントより報告! テュマーの大群が押し寄せてる! 誰か援軍を頼む! 包囲されてああああぁぁぁッ!?』

『北側の拠点がないぞ!? 旗はどうした!? 応答しろ!』

『お、俺たちどこに帰ればいいんだぁぁぁッ!?』


 高さ6mほどの高さから見下ろす街の様子が移り変わる中、機体内では様々な音がごちゃまぜだった。

 無線からの怒声に悲鳴に混乱の声。ウォーカーの集音機能が寄せ集めた外部からの(銃撃爆音込みの)環境音だ。

 ひとまずこの場を離れてスタルカーと連絡をとろう。そう思って進めば――


『お、おい! ウォーカーだ! ウォーカーが来やがったぞ!』

『あれはどっちだ!? ラザロが乗ってる方か!?』

『しっ……知るか! もう誰だって知ったこっちゃねえ! ぶっ殺せ!』


 ビルだらけの深い街並みが穏やかに終わっていくにつれて、そんな無線越しの声が向けられた。

 道を直進する先にそれはあった。

 視界右側にある意識の高そうなスーパーの店舗だ。無駄に広い駐車場に大きなシルエットがある。


『後退しながら撃て! 数じゃこっちのが上だ!』


 と、そこにどんっ、と機体に衝撃が走った。

 頭の中を軽くゆすられるような感覚――一瞬映った爆炎で攻撃されてるとやっと理解する。

 逆関節のウォーカーたちが退きながらこっちに砲撃中だ。確か『ギュウキ』だったか?


『いっ……!? いちクン! 攻撃されてるよ!?』

「ぎゅ、牛鬼が三機! 早く撃ち返せ!」

「撃たれてるけど大丈夫なのか?」

「撃たれ続けていいことなんてあるか! 早く! やられちまう!」


 モニターがあの二問の機関砲を向けながら動き出す姿を捉えた、背中の同乗者の言う通りにフルで走らせる。

 機体がぐんぐんと距離を詰めると向こうも離れようとした――照準を横合いの姿に重ねた。


*DO-DO-DO-DO-DO-DOM!*


 左右の一番トリガを絞った。二問のオートキャノンが連射音を野太く奏でる。

 遠く離れた一機に当たった。揺らいだ機体がその場を走り抜けようとしていく。

 逃がさないぞ。更に射撃。横から撃ち込み続けるとふらふら走って転倒したのが見えた。


『た、助けっ、ハッチがひらかあああぁぁぁぁぁぁッ!?』


 駐車場を抜けた逆関節姿のウォーカーはその声を最期に、ぼんっと小さく燃え上がってしまった。

 一機撃墜だ。残った敵はこっちを撃ちながら後ろ足に後退してる。

 機体に着弾の感触が混ざりながらも、俺は遠く離れていく敵機に突っ込むが。


「おいおいおい突っ込む気なのか!? オーバーライドを使え!」


 機体の揺らぎと爆音にびびりちらかしていた後ろの相棒が手を伸ばしてくる。

 いきなりの単語に説明を求めようとするも、当の本人はモニター下の複雑な機器を探った。


*VROOOOOOOOM!*


 するとどうだろう。足元が急に唸り出して、伝わる稼働音のペースが速くなり。


「今何押したんだお前!?」

「脚部の稼働率をフルにしたんだ! 機体には優しくないけど走れる! 次から自分で押してくれよ!」

「走れるっておま……うおおおおおおっ!?」


 機体の足取りがまた一段と早くなった。

 俺たちが乗り込んでいるそれがずんずんと駆ける感触が足にも耳にも届く。

 モニターに映る逆関節型の"敵"が慌てて後退するが、そんな姿が瞬く間に迫っていく――ウォーカーが走り出してる!


『ウォーカーが突っ込んできやがるぞ!?』

『あの馬鹿何考えてやがる!? 引け! 散開しろ!』


 無線機越しの声も大混乱だ。

 あっという間に白兵戦レベルの距離まで詰め寄ると、すかさずオートキャノンをぶちかまそうとするが。


「前進そのまま! アームを握ってしっかり突き出せっ!」 


 今度はびくびくする手が人様の手をハンドトレースごと前に押し出す。

 敵機はもうすぐそこだ。片腕を捻じり込むように伸ばせば。


 ――ごがんっ!


 巨大な握りこぶしが目の前のウォーカーの胴を殴った。

 それも助走と半身の動きを込めて。金属のひしゃげる悲鳴も感触も、全て機体が拾い上げている。

 カメラが拾い続ける映像の中では、いきなりぶんなぐられた敵の機体が仰向けに転倒するのがはっきりとあった。

 すかさず倒れたところに両腕のオートキャノンを叩き込む――ぼふっと機体が爆ぜた、一機撃墜だ。


『うぉ――ウォーカーで殴りやがった……!? ふ、ふざけんな! んな馬鹿な』

「もう一機! やれ!」


 そんな僚機をまじまじと見せつけられたやつが、巨体越しでも分かる狼狽え方で後ずさりを始めていた。

 親切なアドバイスに従って距離を詰めた。

 相手が方向転換しようとしたところにアームを突き出して、質量と重量のもと地面に打ち倒す。

 『助けて』と最後の一言を残したところに、倒れた背中めがけてどどんっと50㎜のとどめをお見舞い――片づけた。


「すげえ! 格闘もできるんだなこれ!」


 適切な指示もあって片付いたところで俺はまたウォーカーを進ませた。

 オーバーライドとやらの効果が切れたのかまたペースが戻ったが、それでも徒歩で走るよりはずっと早く街を突っ切っていく。

 まさかロボットに乗るどころかそいつでぶん殴る機会にまで恵まれるなんて、今日はなんていい日なんだ。


「や、やっちまった……ウォーカーでウォーカーを殴るなんて!」


 まあ、後ろの男は興奮と後悔の混じった複雑な様子で悩んでるが。


「だめだったのか?」

「い、いや……やってみたかったことではあるんだけど……まさか同僚でやることになるだなんて……」

「じゃあこれを機にやめちまえ、また敵出たらアドバイス頼む」

「俺、一応敵なんだけど……はぁ、これからどうすればいいんだろう……」

『あの、ごめんなさい……この人、興奮すると誰にも止められなくなっちゃうんです……』

「幻聴すらも聞こえてきた。もう駄目だ、この人生はおしまいだ……」


 こいつには気の毒だが最後まで付き合ってもらうか。親切にしてくれたし殺さないでおいてやろう。

 ウォーカー撲殺事件のせいかますます『ふざけんな』とか『嘘だろ』とか『どうなってんだ』という無線の声が混じる中、移動を続ければ……。


『ウォーカーが来るぞ! 裏切者のラザロも乗ってやがる! 何が何でもぶち殺せ!』

『ぶち殺せって無理だろ!? 相手はウォーカー、しかも中身はあの悪魔だ!』

『今からでも遅くない、投降しよう!』

『ストレンジャーは命乞いすら殺すって言われてるんだぞ!? もう付き合ってられるか、俺は逃げるぞ!』


 行く手を車列が阻んでいた。小柄な戦車や装甲車、果てにはウォーカーから生身の人間までがこっちに攻撃を加えてくる。

 機体のどこかにがんっ、と鈍い感触がした。このままじゃ集中砲火だ、どうする、突っ切るか……?


「スモーク!」


 そんなときまた腕が伸びる。

 後ろの相棒が左側の計器近くのスイッチを勝手に押してくれた。

 頭上あたりでぱぱっと音がしたかと思えば……白い線が落ちて炸裂、あたりを濃い灰色で包んでいく。


「あー、親切にどうも。ところで前が見えないんだけど」


 煙幕にあやかって射線から逃げ出すと、今度はモニター周りが弄られる。

 煙で遮られた目の前の視界が変わった。

 フォート・モハヴィの姿が急に真っ青に染まり、熱をもった緑と赤が浮かんだ。


「こいつのカメラは熱源探知モードに切り替えられるんだ。覚えておいてくれ」


 遅れて少し早口に説明された。なるほど、そういう機能もあるわけか。

 感謝しながら向こうの景色に映る車両やら人間に向けて左右のトリガを引いた。

 どどどどどんっと遅いリズムの砲が人と金属の区別ができないほどに破壊する。

 ところがまた機体に弾が当たった。揺れる視界の中、逆関節のロボットがこっちをみてる――向こうも同じだったか。


「――ご親切にどうも!」


 随伴歩兵はゼロだ。このままカタをつけてやろうか。

 足先で踏んでスロットル全開、ハンドトレースを手放してオーバーライドボタンを押しつぶす、ウォーカーが走った。

 カメラも切り替えると、煙を超えた先で牛鬼が二体取り残されていた。

 その片割れに迫った。腕の操作でうまく機体にひねりを加え……戸惑うボディに叩き込む!


 ――ごぎゃんっ!


 なんとも聞くに堪えない音轟音。打ち込んだ拳が敵体を後ろに突き飛ばした。

 最後に残ったのはひしゃげた身体を横たえるだけの鉄くずだ。豪華な棺桶ともいう。


『っっざけんなっ! ウォーカーで白兵戦とか頭おかし――』


 そいつの残骸を踏みつけると周囲がごんごんがんがん叩かれる。

 モニターに攻撃を食らっていると警告が浮かんだ。振り向けばもう一機がそばで機関砲をぶっ放してた。


「オラッ! どけっ! 誰が悪魔だクソ野郎が!」


 照準を足に向けて発射。砲弾の衝撃でぐらっと敵の機体がよろめく。

 すかさずウォーカーを突っ込ませてまた拳で一撃。さらに左腕で一撃。仕上げに後ずさる姿にオートキャノンをお見舞いした。

 念入りに中の肉ごとぶち壊された牛鬼は全身ぼろぼろの絶望的な姿で倒れた。足で踏みつぶしながらその場を突破だ。


「……大体あってる気がするよ。あの、ところで俺いつまでこうしてれば」

「まあこうなった以上最後まで付き合ってくれ。あ、俺のバックパックに飲み物とかあるから好きに飲んでいいよ」


 人質兼肉盾兼相棒の処遇についてはまた後だ。

 後ろでコーラの缶が空くのを感じると、また一つ通りを抜けたところで「ごんっ」と音が伝わった。

 頭上からだ。後ろの男とつい顔を見合わせるが、すぐにこんこんという控えめなものに変わる。


「おい! 振り落とす前に誰か答えろ!」


 こんな状況でご親切にノックしてくれる奴は想像し得る限り僅かだ。

 きっと知り合いだと思ってこっちからもハッチを叩けば。


『さっき助けてもらった誰かさんだ、分かるな!』


 その言葉が示す通りの声が返ってくる。サムだ、もうここまで来たのか?


「サムか! どうだ、奪ってやったぞ!」

『そりゃおめでとう、おかげで賭けに負けたぞ! いいか、スカベンジャーの一団がホワイト・ウィークスに包囲されて交戦中だ! お前にその気があるならどうにかしてくれ!』

「もうちょっと暴れてほしいんだな! どうにかしてやる!」

『頼もしいこった! ついでに言えばここから200m先の道路で敵があんたを待ち構えてる! 適当な路地に迂回して避けろ!』

「了解、スタルカー! エミリオたちは無事か!?」

『あんたの連れは元気に脱出中だ、早く追いついてやれ!』


 スタルカーのメンバーは『頼んだぞ!』と言葉を残してどこかにいったみたいだ。

 モニターにビルを軽々登っていく灰色の姿が映った。それも一人じゃない、何人もだ。


『ついでに言っとくぞストレンジャー。今同業者たちが蜂起してあいつらの拠点を一つずつ潰してる、あんたの周りには俺たちがいるから心配するな』


 そこへ無線からのスタルカーの声が織り込まれる。なるほど、ついてきてくれてるのか。


「こちらストレンジャー、さっきのアドバイスと支援に感謝だ」

『どこにウォーカー奪ってぶん殴る馬鹿がいるんだ……まあおかげで感化された馬鹿がいっぱいだ。そのまま突き進め、停まらなくていいぞ』


 そこから続く言葉は『遠慮せずにやれ』か。

 サムからのアドバイスを忘れずに道を曲がった。どうにか入り込めそうな通りにウォーカーを捻じり込む。

 街に並ぶ店舗の裏側へと回り込んだわけだが、なにやら人の姿が見えてきた。


「あっ……あいつら……!」


 後ろでぐびぐびしてる相棒も何か気づいたみたいだ。

 まあ、こんな状況で会える人間なんてホワイト・ウィークスの奴らだ。

 でも一体何をしてるんだ? 何人かの男が集まって、壁のあたりに寄り集まってるらしいが。


『……いちクン、あの人たちもしかして……っ!』


 カメラを拡大するとミコの絶句が挟まる。

 そこまでの理由がそこにあった。そいつらは一人のスカベンジャーを囲って、灰色の服をはぎとってるところだ。

 困ったことにその内側にあるのは女性的な身体だ。さんざん暴行を加えられてアザだらけの格好が、どうにか男たちを押し退けようともがいてる。

 そしてそばではそんな人間を助けようと、抑え込まれながらじたばたする男――ひどい現場だ。


『やめてっ! 離しなさい! お願い、やめて……っ!』

『離せ畜生ォォ! そいつに手を出すな! ぶち殺してやる……!』

『そいつしっかり押さえとけよ。おい、ちゃんとカメラ回してるか?』

『へへへっ、口だけはいくらでも言えるけどな、これが現実だよ。分かる? 大人しくお前の彼女じゃなくなる瞬間をそこで見てろよ』

『……あぁ? その機体、まさかラザロかぁ?』


 世紀末らしい下衆なやり取りを眺めてると、一人がこっちを見上げてきた。

 ウォーカーが迫ってるっていうのに余裕そうな態度だ。周りの男たちもこっちにへらへらしてる。


『おい、ラザロ坊やが来てるぞ!』

『あのクソオタクか? おい、何じろじろみてんだよ!』

『俺たちのパーティーに混ざりたいのかぁ? ははっ、残念だけどお前は入れてやんねえよ。そこで指くわえて見てろよ』

『お前じゃあっちの方もちっちゃいからな、あいにくここは身長制限があるんだ。上も下もチビなやつは帰れよひゃはははははっ!』


 ああ、うん、なるほど、どういうやり取りなのかはよく伝わった。

 さんざん言われてるやつがここにいるわけだ。後ろの相棒はあの馬鹿と仲がよろしくないようで。

 ぎゃははは、と下品な笑いと共に片方がますますはぎとられていく。抑え込まれてる男は怒りのあまり死にそうなほどだ。

 そんな様子に"ラザロ"はというと。


「クソ野郎どもが……いつもいつも……!」


 飲みかけのドリンクをぐしゃっと潰すほどに苛立っている。

 目の前でひどい目に合うやつらに向けてなのか、それともさんざん言ってくるクソ野郎どもに対してなのか、まあどちらにせよ――


「ラザロ、あいつら撃っちゃう?」


 ハンドトレースで胴体の向きを整えながら重機関銃の狙いを定めた。

 画面に映るのは興味をなくしてまた乱暴に興じる連中だ。

 一応顔を伺うが、ご本人はわなわな震えつつ。


「……撃てるか?」


 なんだか今にも何かが爆発してしまいそうなシリアスな顔が静かにうなずいた。

 合意と見た。壁際でにぎやかにやってるやつに12.7㎜の照準を重ねる。


「じゃあ決まりだな――おい! お前ら!」


 俺は拡声器を立ち上げて一声かけた。

 唐突な知らぬ声に白い連中はさぞやかましそうだ。


『あぁ!? またお前ボイスチェンジャーなんか使ってんのかよ! イキってんじゃねえぞ!』

「残念、ストレンジャーだ。良かったら俺も混ぜてくれないか?」

『はぁ!? お前何いってやが』


 何人かがこっちに来る中、後ろの相棒を引いて機銃のトリガに触れさせた。

 念のため顔を伺うと一切の曇りもなし。仲良く二人で握って。


「プレイ内容に五十口径の機関銃、二門プラスだ!」


 *dDododododododododododododoMm!*


 お楽しみ中の現場に重機関銃をぶっ放す。

 こっちを不快そうに見上げる身体が吹っ飛んだ。続いてそばにいる男もなぞって胴体を真っ二つに。


『あっはっ、なっ、ひぃああああああああああああああああああっ!?』


 慌てて逃げる姿も捕まえた。足がばぢっと弾けて転がる。

 二人のスカベンジャーに群がる姿もしつこく追いかけて余すことなくバラバラにした。道路は白と赤のグラデーションつきだ。

 俺は路地に転がる五体ハーフご満足の男にウォーカーを歩ませた。


『ふっふざ、ふざけんな、どうな、あっ、足っ、俺の足ぃぃぃぃぃ』

「無事かお二人さん、助けに来たぞ」

『ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁっ……!』


 壁際にもたれかかる二人にカメラをあわせた。ついでになんか足元でぐちゃっと嫌な感触がしたが。

 殴られ蹴られの暴行を食らってくたびれてはいるがまだ大丈夫そうだ。身を寄せ合う男女は恐る恐るこっちを見上げてくる。


『……あんた、あのストレンジャーか……? あ、ありがとう……!』

『本当にありがとう……! 助かったわ、あなたは命の恩人よ……!』

「これで乱暴なプレイはおしまいだ。さっさと安全なところに逃げろ、近くにあんたらの友達がいるぞ」


 このまま降りてミコのヒールでもかけておきたいが、スカベンジャー二人は意外にもすぐに立ち上がる。

 それから周囲からめぼしいものを漁って身なりを整えると、手で「感謝する」と一礼してから壁を登って去ってしまった。


「スッキリしたか?」


 一悶強引に解決したところで、路地を抜けながらラザロに問いかけた。


「……人生最高の瞬間だ」


 後ろからは感極まった声が返ってきた。困ったときは五十口径の火力がどうにかしてくれる。

 強姦プレイの現場から離れて道路に抜ければ、待ち構えていたのは次の敵だ。

 車両やウォーカーの群れがフォート・モハヴィの南をずっと見張っている。

 たぶん誰かさんを迎え撃とうとしたままなんだろう。ありがとうスタルカー、お礼に派手なことしてやろう。


「おい! 俺はこっちだぞ!」


 アームを持ち上げて狙いを定めた。その先にあるのは一声かけられて振り向き始める連中の姿だ。


『しまっ……! 後ろだ! あの野郎回り込んでやがった!』

『冗談じゃねえ! 観測はどうなってんだ!? さっきから連絡がねえぞ!』

『スカベンジャーの奴らだ! あいつら俺の――』


 迷わず撃った。背後からのオートキャノンで次々標的をなぞっていく。

 いきなりの50㎜砲弾を食らった連中は面白いように破壊された。

 背面をぶち抜かれた牛鬼が無様に燃え上がり、逃げようとした装甲車やらがアスファルトに火を咲かせる。

 これでよし! ガラクタの山を背に、スカベンジャーたちに守られながらも北を目指すが。


『テュマーだ! テュマーが来てやがる! 誰か助けッッッ』

『ひぃぃぃぃっ!? なんだこのテュマーの数!? おい、戦車は? ウォーカーは? なんでもいいあいつらをぎゃっっ』


 その途中、無線から垂れ流される声が悲鳴の合唱に変わる。

 まさかと思って機体を振り向かせると、街の南から黒い波が見えた。

 映像を拡大してみれば数えきれないほどのテュマーの姿がそこにあった。

 派手なデモでもやってるような頭数だ。道路を埋め尽くし、更に無人兵器も連れ回しながらこっちに向かっている。


『な、なにあの数!? テュマーがあんなにいっぱい……!?』

「……冗談じゃない……! なんだよ、あの数は……!?」

「ワーオ、スティングの戦いがマシに見えてきた……。早くここから脱出しないとやばいな、行くぞ」


 その道中にいた白い姿すらも食い散らかして、そいつらは生き物というより災害ともいうべき姿を振りまく。

 驚く二人の相棒と最悪な光景を共有しつつその場を後にした……。


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