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49 ストレンジャー大虐殺

「ムストさんが……やられた……!?」

「ひ、ひでえ……! あんなむごいやり方……人間じゃねえ!」

「う、うそだ……嘘だと言ってくれ、なんなんだよあいつはぁぁぁ!?」

「にっ――逃がすな! あいつを殺せ! 殺すんだァァ!」


 化学的な焦げ臭さが立ち込める機械の背中に望みの絶たれた声が集まる。

 街中いっぱいに響いた断末魔はきっとあいつらに伝わったはずだ。

 現実に引き戻された白い追手が攻撃してくるのにそう時間はかからなかった、ありったけの弾が飛んでくる。


「お望みどおりに決着つけてやったぞ。せいぜい地獄でお気持ち表明の続きでも楽しんでるんだな」


 どうせもう耳に届かないだろうが律儀に一声かけてから離れた。

 動かなくなった人型の棺桶からアスファルトの感触に降り立つと、機関砲が、小火器が、狂ったように周囲を叩く。

 ついさっきまで詰まってた薄っぺらい正義ごと、背後のウォーカーがかんかんがきがき、と鉄の悲鳴を上げる。

 急いで駐車場を抜けるとすぐガソリンスタンドが目に入る――スモーク・クナイを抜く。


*pam!*


 地面に投げて【ニンジャ・バニッシュ】を発動。煙と共に俺の姿は消えた。

 店舗周りに立ちふさがる放置されたトラックを潜り抜けていく。

 その先で待つのはあの戦車だ。四角い車体に乗せられた砲塔が機関砲と機銃を伴う形でこっちを睨んでる。


『おい、なんだ? なんか向こうで戦闘始まってね?』

『さっきの悲鳴、ムストさんだよな……? なんかおかしくね?』

『……呑気に給油してる場合じゃねえぞ。全員警戒しろ!』


 流石にここまで来れば異変に気付いたのか、そばで固まっていた白い連中も次々と動き出す。

 何人かが戦車の中へ戻り、ガソリンを拝借していた燃料タンク車がエンジンを唸らせ、まさにその場から離れようとしている。

 周りの護衛は数名、問題ない、背負っていた五十口径小銃を引き抜いた。


「引き上げるぞ! 燃料タンク車は急いでここから離れろ、戦車は撤退を支援――」


 重々しい凶器を手に、車長が顔を覗かせる鉄の棺桶へと走る。

 が、後もう少しというところで効果が切れた。

 自分の姿がさらされる中、後ろのダストカバーを開いてフォアグリップ下のスイッチを押して銃身を展開。


「いや、来てるぞ!? あいつだ! あいつがストレンジャーだ!」


 がちゃこっ、と弾が送られる重厚な合図にハッチの男が気づいたようだ。

 そいつが大慌てな様子で拳銃を引っ張り出すが、足を進めながら構える。 

 スコープが邪魔だ、斜めに構えて大雑把に射撃。


*ZBAM!*


 見上げた先の姿がぼふっと左肩下から吹き飛ぶ、一声すら上げられずダウン。

 「ひぃぃぃ!?」と腰を抜かす護衛を無視してよじ登る、戦車がとうとう走り出すがもう遅い。


「この距離ならどうだ、くそったれ」


 俺は真下に向けて五十口径を構えた。

 動き始めた履帯の上、あともう少しで装甲に押し当てるぐらいの間合いのままトリガを引き続ける。


*ZBAM! ZBAM! ZBAM! ZBAM!*


 そして強烈な銃声と反動に身体がぐんぐん押し上げられた。

 超至近距離から12.7㎜ほどの何かにノックされた戦車はぎゅりっ、と動きを止めた。

 そこにぱぱぱっ、と短連射がそばを掠る。

 振り返れば――走り出す燃料運搬車にしがみついたまま、滅茶苦茶にこちらを撃ってるやつらが映る。


「早く! 走ってくれ! せ、戦車がやられちまったァ!」

「なんだあのバケモンは!? 急げ急げ急げ急げ! 皆殺しにされるぞ!?」

「逃げろ! 合流地点へ急げ!」


 可燃物でいっぱいのトラックはふらふら不安定な動きでこの場を抜けようとしてる。

 とりあえず撃った。タンクにへばりついていた奴を引きはがした。

 また撃った。かぁん、といい音がして穴が開いた。

 ところが止まることもなく、燃料をどろっと漏らしつつその場を去っていく。

 ……スコープが邪魔だったな。べぎっとむしり取ってぶん投げると。


「逃がしたか。まあいい――ん?」


 少し軽くなった小銃と離れようとすると、ふと店舗の壁に目が持ってかれる。

 そこでは電子的なメッセージがお店からの注意文を表示しており。


【当店では他にはない新型リキッド・ジェネレーター用の燃料を格安で販売しております。とても引火しやすい燃料のため、喫煙者、静電気体質、火気取り扱いの手品師、その他炎上系(SNS含む)のお客様はお断りさせていただきます!】


 誠意のない消防士みたいなマスコットキャラがイラスト付きで説明してくれていた。

 燃料のことは良く分からないが、道路に伸びた燃料にマッチで火を点けると導火線の如く燃えさかる図が描かれてる。

 そうかなるほど、さっそくさっきのタンクから引きはがされた奴へ近づく。

 大穴の空いた身体をまさぐるとライターが出てきた、その隣では燃料の道筋がガソリンの何倍も濃い香りを漂わせており。


『……待って!? いちクン、まさか引火させるつもりじゃ――!?』

「これでも喰らいやがれ、クソッタレ。だ」


 拾い物の火種をそこに添えてやった。

 すると瞬く間の火の道が立ち上がる。ねっとりとした炎が忘れ物を届けに東へ向かって猛ダッシュだ。


『なに考えてるの本当に!? そんなことしたら大爆発しちゃうよ!?』

「ああ、仲間の元でな。ストレンジャー燃料お届けサービス、おまけつきだ」

「いたぞ! ガソリンスタンドの近くにいやがる!」


 おっと、どうやら追手が追いついたらしい。

 車両も近づいてきたのを感じて店舗の中に駆け込む。中は一体どうしてか150年前のお菓子屋や清涼飲料の棚だらけだ。

 途中で飲料コーナーに見知った青い缶が見えた、【スワッター!エナジードリンク】だ。


 ロアベアがみんなを守ってくれてることを願って何本か拝借、良く冷えてる。

 ついでに一本開けて速攻で飲み干す――ワオ、ケミカルなベリー味!!


*zzzZZZbBAAAAAAAAAAAAAAAAAMM!*


 カウンターを超えて裏口の扉を抜けようとすると、遠くで大爆発が起きた。

 外で『なんだ!?』『なんか爆発したぞ!?』と混乱が広がる。

 いざ出てみれば東の街並みに黒い火柱が上がってた。俺の宅配サービスは燃料と死をお届けしてくれたみたいだ。


『ストレンジャー! もう『お前なんかしたか?』とか聞かないからな!? どうなってんだこの状況は!? 燃料でいっぱいの車が街中で爆発しやがったんだが!?』


 路地を抜けて次の道路へ差し掛かろうとすれば、スタルカーからの無線がガチ困惑の様子で届いた。

 見えてきた通りの様子には逆関節タイプのウォーカーが一機道を塞いでいる、いったん立ち止まって身を隠す。


「よおスタルカー、後でご対面するのがめんどくさくて演説中にバカを一人焼き殺した」

『ああ現在進行形でばっちり見てるよ馬鹿野郎! どういうシチュエーションかともかく、あんな奴らが統制を失ったらどうなるか分かってんのか!? スカベンジャーやめてレイダーに早変わりだぞ!?』

「だったら全員ぶち殺すつもりだ。それに後ろからテュマーも来てるんだ、いいエサになるだろ」

『お前は本当にどうか……いやもういい、とにかく報告だ。たった今お前より先行したが、お友達が北へ向かって移動してるのを見かけたぞ』


 スタルカーの報告を聞きながら様子をうかがうが、ウォーカーはがしょん、がしょん、と周囲を練り歩いてる。

 いやそれよりもだ、今きた報告の方が大事だ。リム様たちは無事なのか?


「本当か? 全員無事か? 銀色の髪した子供は見えたか?」

『お前の希望通りにはなってるが魔女っぽいガキは――』

「どうしたんだ? 教えてくれ」

『あー、なんだか知らんが徳用サイズのポテトチップスの袋をいっぱい抱えてる。頭やられたのか?』

「よし正常だな、報告どうも。伝言頼むぞ」

『どういたしまして……くそっ! 南はこんなイカれ野郎ばっかなのか!?』


 ……良く分からないが平常運転だ、心配させやがってあの芋。


『いちクン、今のってスタルカーの人たちからだよね? みんな大丈夫かな? りむサマは……』

「ポテトチップスいっぱい抱えてはしゃいでるってさ」

『……良かった、無事……え? ポテトチップス……?』


 ひとまずこの話題はミコも安心したらしい。こんな状況でスナック菓子集めてる魂胆については考えないで置いてやろう。


「……スタルカー、もう一ついいか」


 しかし目の前のウォーカーが邪魔だ、距離にして30mほど、車とバリケードの間をうまく歩いて見張ってやがる。

 どうせストレンジャー目当てなんだろうがいつまでああしてるんだ? 後ろから敵が追って来てるってのに。

 【ニンジャ・バニッシュ】でいけるか? いや、うまく通り抜けられても後が怖い。


『無茶ぶりの内容によるぞ』

「ウォーカーが目の前を邪魔して進めない、弱点とかないのか?」


 俺は荷物から急いで擲弾兵のアーマーを取り出しながら尋ねる。

 ジャンプスーツの上に装甲を重ねてこれにて復職、おかえりストレンジャー。


『その言いぶりはまた倒す気かお前は!?』

「どの道うまく避けてもすぐバレる感じだ。仕留める」

『そっちの正気を疑ってるところだ。相手の姿はどんな感じだ?』

「逆関節で左右のアームが機関砲になってる、さっき俺がやったウォーカーより一回り小さい」

牛鬼(ギュウキ)か……』

「ギューキ?」

『そいつの機体名だよ。いいか、どうしてもそいつをやるなら股間だ! 真下に換気用の通風孔があるからそこ狙え!』

「潜り込んで撃てってのか!?」

『それが無理なら諦めて逃げろ!』


 あの謎の逆関節ウォーカー、もとい"ギュウキ"はこっちに近づいてきてる。

 アーツのクールタイムは終わってる、クナイもある、手元にあるのは五十口径、随伴歩兵ゼロ。

 やるしかないか。終わった無線を信じて、俺はクナイを抜いた。


「――無茶言いやがってスタルカーども」

『……倒すつもりなの!?』

「人の邪魔したことを後悔させに行くだけだ」


 クソデカ小銃の残弾を確かめてから、あえて堂々と姿を現す。

 周囲をねちっこく眺めてたウォーカーがこっちに気づくのはすぐだった。

 『見ぃつけた!』と意地の悪そうな声と共に、機体が二問の砲を向けてくるが……ぱんっ、とクナイを潰して消える。


『なっ……ど、どういうことだ!? 消えやがったぞ!?』


 さすがのパイロットもこれには困惑か。

 フォート・モハヴィの風景に同化したまま、俺はウォーカーの足元めがけて走った。

 まもなく接敵だ、砲口の間へたどり着いて、カーキ色系の装甲がどっしり構える巨体の懐へ。

 それと同時に効果が切れる――獲物を持ち上げつつ、機械的な両足の隙間に滑り込んで。


「アドバイスどうも、スタルカー」


 見つけた。お堅い関節を辿れば、股間のあたり、真上に見上げるそこに金網が張られた四角い穴がある。

 ブルパップ式の大口径小銃を抱えた。狙いは言われた通りの場所だ。


*ZBAM! ZBAM! ZBAM! ZBAM!*


 少しして何かに気づいた"ギュウキ"が動き出すと同時に、そこにありったけの五十口径弾を叩き込む。

 小さな爆弾ともいうべき銃声をそいつの股下で何度も反響させれば、文字通り急所をぶち抜かれた巨体ががくっと崩れる。


「やったぞミコ……ってやっべ!?」


 が、まずい、踏みつぶされる。

 バランスを失ったそれが足元の俺ごと倒れ伏そうとして、手持ちの武器も放り投げて飛び出した。

 けっきょくせっかくの武器を手放したのは正解だったみたいだ。巨大なケツが人様のいた場所をずしん、と押し潰したのだから。


「……あ、あぶねえ……!」

『……ほんとにやっちゃうんだ、いちクン……』


 あのカッコいい小銃もおそらくぺしゃんこだが、これで障害物は排除だ。

 呆れしか感じ取れないミコに「すごいだろ?」と指でこんこんしつつ、倒れたウォーカーを後に通りを抜ける。


『おい、マジかお前……やったんだな!? 人の親切さをクソ真面目に受けやがって!』


 体感的に十キログラムほど軽くなった身体でこの敵だらけの街を駆け巡れば、また無線が入ってきた。

 喜んでるのか引いてるのかいまいちわからない声の調子だ。

 そうこうしてるうちに低いビルが目に入る、扉が開きっぱなしのインテリアショップを発見。


「見ろよ! あの装甲服……ストレンジャーだ!」

「嘘だろぉぉぉぉぉ!? も、もうきやがったのか!?」

「ふっふざけんな! あいつら何逃して……いやまさかやられたのか!」

「な、なにがストレンジャーだ! こいつを食らえクソ野郎!」


 そこに横合いから声が届く。別の店舗から出てきたばかりの一団とばったり遭遇してしまう。

 慌てて隠れたようだが、そのうちの一人が燃え盛る瓶をこっちに――火炎瓶か。


『いちクン! 火炎瓶が来てる……!』

「ああ、お気に入りの銃を一つダメにしたけどな」


 無線に一言返しつつ、こっちに向かって赤い放物線を宙に描くそれに手を向ける。

 もう間もなくで頭上を通り抜けていく、というところでキャッチ。


『はっ、言いやがる! まもなく合流する、こっちの心配はするなよ!』

「おっ、おい! 冗談だろ!? あいつ受け止めやがっ」


 そして返す先は信じられないといった様子でこっちをみる連中のど真ん中だ。

 勢いを着けて放り投げるといい感じに飛んでいく。そして身を隠す一団の間でばりんと割れたようで。


「ああああああぁぁっ!? 熱い! 熱い! 熱いイイイイイイイイイ!」

「イギャアアアアアアアアぁっ!? ひ、火! 水、水ゥゥゥ!」

「さも元気にやってるように伝えておいてくれよ、スタルカー」

『後ろで不穏な声が聞こえるが元気な証拠として受け取っておこう、ご武運を』


 出来立ての火炎瓶をお返ししたところで、背中の散弾銃を抜いておしゃれな店の中へと飛び込んだ。

 銃口を持ち上げつつお邪魔すれば、戦前の頃から長らく整然と置かれた家具が奥まで続いてる一方で。


「ははっ、なんか外が騒がしいぞ?」

「どうせ馬鹿な連中が火遊びに失敗してるんでしょ、分け前が増えるからほっときなさい」

「そりゃそうか。ほら、次はお前の番だぞ」


 自慢の商品として紹介されているおしゃれの壁の前で、何人かの白い姿が集まっていた。

 残念なことに壁には雑に張り付けられた灰色の男たちが苦しそうにしていて、身体やそのそばに刺さったナイフや斧が状況を物語ってる。


「あ、た、たすけて……もう、吐いただろ……」

「い、痛い……やめてくれ……俺たちは人間……」

「手は十点、足は二十点、心臓は五十点だぞ。そろそろ巻き返さないとお前の負け確定な」

「じゃあ頭は何点なのよ?」

「頭は……そうだな、距離と得物次第でどうだ? 例えばこの手斧とかな」


 そんな『的当て』の道具にされた連中の近くで、ホワイト・ウィークスのクソ野郎たちはゲームをしていた。

 外の状況もどうでもいいといった様子のまま、斧、アイスピック、包丁、ありとあらゆる道具でスカベンジャーをいたぶっている。

 馬鹿なことにこっちに気づいちゃいないが。


『……ひどい……! なんてことしてるの、この人たち……!?』

「助けるぞ、ミコ」

『……うん。お願い、早く助けてあげて』


 そいつらは後ろの存在に気付かないまま、またゲームを続ける。

 白い姿の女性が手斧を持つと、拘束から逃れようともがく一人に振りかぶったようだ。


「ああくそっ、動くんじゃないよ。誰か手伝ってくれる?」


 しかし狙いが定まらず難儀してるようだ。お望み通り手伝ってやるか。

 俺は足元から片手サイズの斧を拾って。


「じゃあ俺が手伝ってやるよ。これでいいよな?」


 今まさに投擲しようとする女性の後ろに近づいた。

 周りの男たちが「はぁ!?」と気づくが、構わずそいつの脳天にまっすぐ斧を振り叩く。


 ごぎゃっ。


 なんというか、生々しい音と感触がした。

 まるで脳をきれいに割くように決まった。刃先が中途半端に埋まって抜けなくなるほどには。


「あっっあっあっあっいぎゃあああああああああああああああああぁぁッ!? だ、あ、あたま、っ、あ、あああああああああ!?」


 脳天にクリティカルヒットしたそいつは甲高い声を上げて――死なないまま走り出す。

 頭にいいアクセントを添えられたレディがしぶとく店の外へ逃げて行けば、残るは二人の男たちだ。

 俺は散弾銃を持ち上げて。


「さて、お前らは何点だ?」


 「待って」と制止を求める青ざめた顔にトリガを絞る。


*baaaam!*


 結果は100点だ、頭が半分に消えた。

 休む間も入れずに次の男をポイント、首から上に発射。

 ばぁん、という広がるような銃声の先で首が千切れる。生命力を損なった一名がダウン。

 こうして可哀そうなスカベンジャーたちをようやく解放してやれる、と思った矢先。


「よ、よくも俺の彼女を……! やってくれたなクソがああああああああ!」


 がたっと音がしたかと思えば、いきなり後ろから首が回された。

 アーマーをものともしない馬鹿力だ。意識していなかったところに別のホワイト・ウィークスのやつが組み付いてきた。

 太い腕が首絡まってぎぢっと食い込む……店内の鏡に目つきの悪い大男が悪質なハグを決める姿が映る。


「……オラァ!!」


 だからなんだ? 全力全身の頭突きを後ろに向かってぶっ飛ばす!

 いい感じに顎に当たったようだ。ごしゃっという感触と共に怯みが訪れて、そのまま壁にぶつかる。


「あおがっ……て、てめえ、絶対殺してや……!」


 しかしまだ首から腕は離れない。話す途中の顔面にもう一発。

 まだうめき声が聞こえる。なら死ぬまで続けてやる。


「オラッ! 死ねッ!! さっさと!!! くたばれ!!!!」


 ごしゃ、ぐしゃ、ぐちゃ、ごちゃっ。

 カフェイン効果も相まって心の底から頭蓋骨の硬さと重さをお届けすると、流石の男も怯んだみたいだ。

 いや念のため思いっきり後頭部を叩きつけてぶっ潰す。ごしゃっという感触がしたがもう三発ぐらいごんごん頭を打ち付けて。


「おっぎゃっ、あっ………あああっ」


 ごきゃっ。

 後頭部に顔面の形状が損なわれる音が伝わった後、後ろのやつは人様の首をあきらめてくれたらしい。

 振りほどいて確かめれば……ああ、うん、整形成功して物静かな男になったように見える。


『……うわぁ……』

「おい、もう大丈夫だぞ。ミコ、治療頼む」


 ともあれ的当てゲームに興じる人間がいなくなったんだ、ワイヤーで括り付けられた身体に近づいて処置を施す。

 刺さった得物を『分解』して銃剣で拘束を引きちぎって、ミコの『ヒール!』の一声を前に息も絶え絶えな身体に青い光が溶けていく。


「……あんた、他のスカベンジャーが言ってたアイツか?」


 斧が刺さってたやつが、まだふらつく一人を支えながら問いかけてくれた。

 大丈夫か?と拝借したドリンクをすすめると二人は大慌てで受け取って、


「ここの新しい家具になる前に助けに来ただけだ」

「そうか。で、果たしてこんな風に殺したやつを一目見て生きた心地がすると思うか?」

「活きが良かったもんで殺すのに手こずった」


 斧と合体した女性は知る由もないが、周りに転がる死体と整形された男にとても嫌な顔をされた。

 犠牲者候補二名はどうにか飲み物を流し込むと、割と元気になってくれたようだ。


「とにかくありがとう、俺たちの敵じゃないってことだけは確かだな」

「むごすぎる……人間のやる殺し方じゃない……」

「情けをかける相手を厳選してるだけだ」

「じゃあなんだ、こいつらは選び抜かれた名誉あるクソ野郎っていうのか?」

「ただの敵だ。お前らがこいつらと同じだったら的当て百点満点だったろうな」

「……おっかないやつめ。本当にありがとう、怖い命の恩人を持っちまったな」


 スカベンジャーに復帰したそいつらは周囲の様子を少し探ると、大体把握したらしい。

 使えそうなものをかき集めてからまた一礼して、「お前も早く逃げろ」と裏口へ抜けて行った。

 俺も後に続こうとしたが。


『ストレンジャー! お前だけは絶対逃がさねえぞ! 俺のウォーカーから逃げられると思ってんのか、このボケがァ!』


 またあいつだ。外からあのやかましい声が追いかけてくる。

 店内から外を見やれば、二足の逞しいウォーカーがずんずんと先陣を切って人探しに励んでらっしゃる。

 しかしなんというか急ぎ足すぎたみたいだ。周りについてくるはずの味方を差し置いて、熱心に俺を求めてくれたようだが。

 この通りは決して広いわけじゃない。

 ウォーカーは自由に走れ回れるほどの地形に恵まれておらず、更に車列がひしめいて足が不自由に付きまとわれる具合だ。

 更に高い建物はあの巨体とはいえ死角を幾つも生み出してしまってる――待て、チャンスじゃないか?


「……ミコ、あれ奪うぞ」


 閃いた。あのロボットを奪っちまおう。

 そうすれば足も手に入るし、それにキッド・タウンでの悲願がようやく叶うんだ、敵も潰せて一石三鳥もいいところだ。


『…………え゛っ!?』

「よし、あれ借りてみんなのところに帰るぞ。おいスタルカー、ちょっと相談だ」

『待って、ねえほんとに待って!? 正気なのいちクン!?』

『くそっ、回線開きっぱなしで丸聞こえだぞストレンジャー。やるんだな? マジでやるんだな?』

「ああ、一度ロボットに乗ってみたかったんだ俺」

『今俺たちの間でどれくらいお前が暴れるか賭けてたんだ。だが生憎お前に教えられるのはそのデカブツのハッチのこじ開け方だ、それから先は知らんぞ』

「親切な誰かが教えてくれることを祈りながら拝借してやるさ」

『……お前はつくづく非常識だと思うぞ、畜生め。いいか、サムだけには負けたくないからな、賭けの勝敗の為に俺の指示を良く聞けよストレンジャー』


 また賭け事の対象にされてるみたいだが、どうもスタルカーのリーダーは俺にワンチップくれたらしい。

 なら今まで世話になったお礼にベットした分は返してやろう。

 外で暴れるウォーカーを尻目に、俺は店の階段を登り始める。

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