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41 武器は奪われた時のことを考えようね!

 ぱぱぱぱぱっ、と5.56㎜特有の乾いた連射がどこからか聞こえる。

 それに続くのは五十口径の鈍い破裂音に、迫撃砲混じりの爆音だ。

 北に進むほどその響きは強くなっていて、明らかなテュマーたちの声すらここにあった。


「エミリオ、一応聞くけどフォート・モハヴィはいつもこうなのか?」


 路上に捨てられた角ばった戦車の陰、そこから見渡す光景に何があると思う?

 タイル状の装甲にべったりくっつき覗く先には作りかけの街並みがあった。

 ほとんどのビルに足場が設けられていて、未完成の屋上を晒す建物からは銃声が聞こえる。

 路上に残された車の間にはまだ十分な道はあれど、その上に転がるのはテュマーや白い姿の亡骸だ。


「君にとって第一印象は戦場だろうけど、本当だったらもう少しおしとやかさ。ウェイストランドの情勢次第でね」

「だとしたらあんな馬鹿どもが騒いでるのは俺のせいか」

「どういうことだい?」

「今朝話したスピリット・タウンのクソド変態のくだり」

「あー、うんそうだね……付け入る隙を与えたっていう点なら確かに君のせいかも。ところであの話、ほんとなんだよね?」

「真偽が気になるのはどのあたりだ」

「君がディなんとかの気持ち悪さをたっぷり語ってくれたくだり」

「機会があったら現地にいって尋ねてみろよ。しばらく嫌な思いが続くぞ」

「ストレンジャーと同じ思いを共有できるなんて最高だね、遠慮しとくよ」

「それがいい。どうであれこんな戦場になったのは俺のせいでもあるわけか」


 誰がいったか、エミリオか、ここはスティングほどじゃないがほぼ戦場だ。

 ホワイト・ウィークスの奴らがどこかでお構いなしに銃をぶっ放し、誘われたテュマーがどこかで電子的な叫びをあげ、その爪痕がここにはある。

 できたての死体がそう物語っていたからだ。ここで争いがあったってな。

 その光景には他のスカベンジャーの姿すら混じってるときた、白い馬鹿どもはこうして死を振りまいてるわけだ。


「む。あの道路脇の死体はスカベンジャーか?」

「ああ……多分そうだろうね、犯人は間違いなくホワイト・ウィークスだ」

「そうだろうな、テュマーの仕業だったら食い取られてるぞ。同業者に容赦なく手をかけるとは遠慮がない連中だな」

「なりふり構わずな姿勢が組織拡大の秘訣らしいけど、いい反面教師俺たちはこれからも堅実にやろうと思うよ」

「それがいい。あんな連中になるんじゃないぞ、エミリオよ」

「俺の彼女はああいう輩が嫌いだからね、人生どん底になってもああはならないよ」

「いい心がけだぞ、大事にしろ」

「そうするさ。それにあんな風になったら誰かさんにぶち殺されそうだからね」


 同じく目にしているであろうクラウディアはずっとこのエリアを警戒してる。

 ここはもはや敵陣のど真ん中だ、見るものすべてが疑わしい。

 あのビルも、あの車の陰も、あの店舗の内側も、あの路地も、ひょっとして敵がいるんじゃ?

 きりがないが、テュマーが離れてるのが救いか。もう少し様子見だ。


「その時は一思いに安楽死させてやろうかエミリオ?」

「ちゃんと親戚もいっぱい呼んでさぞ悲しいセレモニーにしてほしいかな」

「……医者の前で葬儀の話をするとはいい度胸だな。それよりどうする、迫撃砲の発射音すら聞こえるんだが」


 陽気なイケメンと軽口をたたいてると、クリューサが遠くのビルあたりに指先を向けた。

 どんっ、とも言い難い音が迫撃砲の発射音をバラしているところだ。

 しばらくするとどこかで爆発が起きて、間違いなく市内のどこかを爆撃してることがうかがえる。

 困ったことに砲撃音は一か所だけじゃない、近くから遠くまで、幅広くカバーしてやがるようだ。


「クリューサ、心配ごとはこうか? 俺たちにも向けられるんじゃないか、と」

「迫撃砲を打ち込まれて生きた心地がする人間がいるものか」

「心配するな、ここで撃たれたら敵の方へ逃げればいい。そうすりゃ砲撃範囲から逃げられる」

「か、簡単に言うね君は……流石スティングの戦いを経験したことだけあるよ」

「流石に大軍から撃たれた時は後退先が後ろ向きだったけどな」

「それでも生きてる君が恐ろしいよ。さて、どうしようか」


 俺たちは状況と様子を見てどこをどう進むか、と考えを続ける。


「……ご主人、誰か向こうから来てる」


 その時だ、そばにいたニクがくいくい引っ張ってきたのは。

 みんながいきなりの声に何事かと向けば、目の前を横切る道路を東から西へと駆ける数人がいた。


『くそっ、急げ! ホワイト・ウィークスの奴らあんなもんまで持ち込みやがって!』

『あいつら何考えてんだほんとに!? スカベンジャー名乗って好き放題やりやがって!?』


 市街地向けの世紀末らしい着こなしが複数、スカベンジャーたちか。

 進路上の障害をひょいひょい避けて、廃車を足場にし、最短ルートで俺たちの前を横切るところだ。

 悪路の制約をものともしない動きは見事だと思うが、そんな連中がそろそろ視界から離れて行くところで。


*WAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHH!!!*


 誰かが放置されたパトカーのそばに差し掛かった瞬間、急にサイレンが赤青の光混じりの警告を鳴らした。

 まさかの出来事に連中の足が止まり。


『はっ、はあああああああああっ!? なんだこりゃ――』


 すぐに気を取り直して足を進めようとしたタイミング、向かいのビルの足場から白い男と銃口が現れて。


『馬鹿がひっかかったぞ! やっちまえェ!』


 *Brtatatatatatatata!*


 機関銃の射撃がその場にぶち込まれた。

 遠慮のない連射の前にほとんどが巻き込まれたようだ、なぞる308口径の前にばたばたと倒れていく。

 最後の生き残りが死に物狂いで走るが手遅れだ、何故なら――


『非保持者を発見! 捕獲しろ、捕獲しろ!』

『再集合! 再集合!』

『新鮮な、ニク! ニク! オニク!!』


 逃走先に続く建物から、サイレンと銃声につられてテュマーたちの薄黒い格好が飛び出してきたからだ。

 最後の一人が悲鳴を上げるも、それすら食いつぶされたのが見えた。


「……放置されたパトカーを罠にしてるみたいだね、なんてやつらだ」


 人殺しの道具にされたサイレンのもと、死体にゾンビもどきが群がる光景にエミリオが言う。

 今すぐにスカベンジャーじゃなくてレイダーかサイコパス集団と名乗るべきだろうな。


『ひどい……どうしてこんなことするの? あの人たち……!』

「ミコ、あいつらはただの略奪の味を占めた連中だ。今まで見てきたとおりのレイダーかなんかだろうな」


 俺は肩の短剣をとんとんしながら、ごちそう目当てのテュマーたちの動きを読む。

 建物で静かにしていたそいつらは道路に出るなり、やがて何十にも及ぶ数に達するものの。


『いい囮ができたなぁ! やっちまえ!』

『こちらターキーハント4! 交差点にテュマーが食いついた、吹っ飛ばせ!』


 そんな路上のお食事会に、遠くから砲声がやって来る。

 しばらく間を置いてテュマーだまりが爆ぜた。爆風が通りを抜ける中、機関銃も叩き込まれて生き残りがばたばた倒れていく。

 そうして通りの死にぞこないをきれいに掃除すると、二人組の男が楽し気にハイタッチするのが見えた。


「……連中はああいう高所を陣取って狩ってるみたいだな」


 状況は読めてきた、ホワイト・ウィークスどもはところどころ建物を占拠してこうして狩りをしてるようだ。

 それに迫撃砲も駆使して組織的に動いてる。そうなると――


「ふむ、揃いも揃って人狩りに略奪という訳か。気に食わんな」


 すぐ目の前にビルの奥へと人影が消えるころ、ノルベルトがそこを見上げた。

 強い視線は「どう攻略しようか」と語っている。奇遇だな、俺もだよ。


「あいつらの邪魔もして周囲の様子を探れるチャンスだな、行けるか?」


 次のテュマーたちの気配を感じる中、周囲の顔色を見た。

 エミリオたち以外全員オーケーといった感じだ。やっちまうか。


「あー、もしもし? 今度は何するつもりで?」

「決まってるだろ、あそこいただくぞ」

「フハハ、そうこなくては。敵の数はいかほどだろうな」

「機関銃と迫撃砲つきなら最低6人以上だ。建物の大きさから倍は超えてると思う」

「忍び込むなら今のうちだな、私が先行してくるぞ」

「頼んだ。行くぞお前ら、向こうのビルの懐に飛び込め」


 先行するクラウディアの後ろ、「正気かい……!?」と戸惑うばかりのイケメンより早く、俺は走った。

 建設途中のビルからはまだ人影は見えない、一仕事終えて油断しきってる今が絶好の機会だ。

 後ろのクリューサやリム様はオーガシールドに任せるとして、エミリオが遅れてついてくるのを横で感じると。


「エミリオ、使えるな?」


 手短に「使え」とさっき拾ったステンガンと弾を手渡した。

 本人はいきなりの重みに困っちゃいたが、しぶしぶ手にして何時ものペースで駆け始める。


「この構造だと四階建てぐらいだよ、建設中だから足元に気を付けて」

「分かった」


 調子を取り戻した『ランナーズ』は素早く詰め込むと、中途半端なビルの外壁に回り込んでいった。

 スカベンジャー姿の男たちが静かに登り始めたのを見て。


「俺が先行する。ノルベルト、体重に自信は?」

「案ずるな、贅肉などついておらんぞ」

「足場が落ちないように祈れ、ゴー」


 背中から弓を取って、建物にまとわりつく金属製の階段を登った。

 かつかつ踏みしめる感触の先では、それらしく改装された外周部分がある。

 外から見えないように幌を貼り、内側には木箱でこしらえた狙撃用の銃眼や土嚢がこっそりと外に向けられていた。

 やる気満々ってわけだ。足場をぎしっと鳴らしながら更に上ると――


「……なんだ? 誰か登ってんっっ!?」


 運の良し悪しはともかくとして、作りかけのビルの中から白いボディアーマーが視界を彩る最中だ。

 ところがさらに一色追加。褐色が混ざって脇腹と喉を切り突かれる。


「敵は二十ほどだぞ。屋上に集まってる」

「ご親切にどうも」

「どういたしましてだ。中の掃討は私に任せろ」


 赤色も足してくれたクラウディアは死体を捨ててまた中へ戻っていく。

 頼れるダークエルフにあっちは一任するとして、次の階層まで階段を踏む。

 すると次に聞こえたのはどんっという砲声と小銃の射撃だ。


『あんなところにはぐれたやつがいるぜ! いい的じゃねーか!』

『的当てゲームの時間だ! 足首ぶち抜いたやつが優勝な!』

『迫撃砲でもぶち込んでお友達も増やしてやれ、ひゃははっ』


 頭上から届く声は暇でも持て余してるんだろうか?

 なんであれ足元はお留守らしい。弓を構えつつ少し用心して進めば。


「おいおい、ちゃんと見張りもやっとけよ……。うちらのボスがちゃんと監視しろって命令してただろうに……」

「変な連中が俺たちを攻撃してるってな? 一体何者なんだ?」


 ついに向こうから足音が聞こえてきた、複数分だ。

 脳天の上で響く金属音は間違いなくこっちに近づいてる。さてどうするか、このまま進めば階段でぶちあたるが。


「――行くぞ、俺が撃つから突っ込め」


 後ろにいる面々を見てすぐ判断した、矢をつがえて階段の根元に回り込む。

 続いてくれたのはニクとロアベアだ。踏み込めばちょうど、階段を下りるところの三人組がいたようで。


「……はっ!? て、敵か!?」


 驚いて足止めされた先頭の男にポイント、鼻上あたりに弦を放つ。

 びゅっとすっ飛んだ矢にぶち抜かれて足がもつれた。その隙にするりとニクが割り込んで。


「おっ……おい!? 敵だ、敵が来たぞ!?」

「ひ、っ……嘘だっ」

「邪魔。そこ、どいてくれる?」


 黒い犬ッ娘が駆けあがると同時に一突き、タックル同然の穂先の一撃でぐさりと胸を貫く。

 「お゛ふぅっ!」と最後の一息しかつけなくなったところに黒白メイドの身体が挟まり。


「ごめんなさいっす~、狭いんで道をお譲りくださいっす。さようなら」


 後ずさりするところへ一閃、最後の一人の首を切り落とす。

 白い身体が赤さを得たところで、俺たちは一気に屋上までの距離を詰めた。

 次の階段を登れば賑やかな会場にたどり着く頃だ。俺は獲物を短機関銃に取り換えつつ――


「ノルベルト、お先どうぞ」

「よかろう、後ろは頼んだぞ」


 カチカチの筋肉を叩いて先行させた。さあ、驚けクソども。

 勢いをつけたノルベルトが階段を駆け上がり始めると、火薬が爆ぜる現場にずっしりと足音が混じり。


『フーッハッハ! お邪魔するぞォ!』

『な、なんだ……? って、ウワアアアアアアアアアっ!?』

『お、お前は一体ああああああああああああっ!?』


 衝撃音と悲鳴が追加だ! 居場所を損ねた白い姿がぼろぼろ落下していくのが幌越しに分かる。

 さーてパーティー開始だ。後に続いて突撃、登った先で暴れ回るノルベルトに距離を置く連中の姿が見えて。


「よお! 俺たちも混ぜてくれ!」


 迫撃砲周りの男たちにハイド短機関銃のトリガを絞る。


*papapapapapapapapapaakinik!*


 45口径の掃射が道行く人々をなぎ倒すのは当たり前だ。

 そこにニクが突っ込む、ロアベアも滑り込む、槍と刀が散った男たちに襲い掛かり。


「おぁっ……!?」

「いでっ……あああああああああああ!?」


 生首が落ちて、腹を抜かれた二人が生命力を損ねると同時に――


「て、てめえら何もんだ――し、しねえええええええ!」

「私もいるぞ! ホワイトなんちゃらども!」


 室内の階段からやってきたダークエルフも混じった。機関銃を構えた男を切り倒す。

 そこにスカベンジャーたちも壁をよじ登ってきて、追い詰められた連中が獲物で静かに仕留められていく。


「どうした、どうした! 逃げてばかりではつまらないだろう!?」

「ひ、ひいいいいいいいいいいい!?」


 もっとも哀れなのは、一番奥まで逃げた奴がノルベルトに捕まれたことだ。

 腕を握りしめられて持ち上げられた挙句、さっきの十字路へとぶん投げたのだ。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……!?」

「……ワーオ。派手だねオーガ」


 遅れてやってきたエミリオたちの頭上を越えたそれは、そんな声を残して落ちて行った。

 奇襲を決めてくれた矢先に自分たちを飛び越えていった一人を見守る先は、ちょうどさっき砲弾が落ちた場所だったようだ。


「く、くそぉぉぉっ!? ほんとにでやがったぞ! この化け物――」


 次の敵を探れば、屋上に据えられた機関銃のそばでパイプ爆弾を着火する男が一人。

 ニクと目を合わせた。距離は10mほど、行くぞ。


「悪いけどここは俺たちが借りるぞ、じゃあな」


*papapapapapapapapapakink!*


 そいつが身体を出して振りかぶる瞬間に射撃、どこかをぶち抜く。

 その姿がぐらっと下がるところでニクがしたしたと小気味よく迫って。


「――邪魔」


 そんなダウナーな声を上げて、犬の足で蹴り飛ばしていく。

 爆弾を抱えて落ちていく男は最後どうなると思う?


*Zzbaaaaaaaaaaaaaaaam!*


 答えは即死だ。空中で爆発四散した。


『おい! 何が起きてる!? 今のやかましい音はなんだ!?』


 制圧すると、そこに置かれていた緑色の無線機が何やら声を発していた。

 目の前には迫撃砲に機関銃。遠くに見えるは他の連中がいるであろう建造物。

 ――よし、やってやるか。


「エミリオ、ちょいとあいつらにお返ししてやらないか?」

「お返しって、まさか君」

「そのまんまだ、手伝ってくれ」


 俺は迫撃砲についた。こいつの使い方はスティングで少しはかじった、持ち主に81㎜を返してやろう。

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