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39 診察結果-対戦車手榴弾による爆死が妥当

「なあミコ……北って頭おかしいやつばっかなのか? ディなんとかのド変態の次はテュマーだらけの都市で昼からお祭りする連中だぞ? スティングの方がマシに感じてきた」

『わたし、北はもうちょっと穏やかな場所かなって思ってたよ……?』

「俺だって同じ気持ちだったぞ。機銃ぶっ放すまではな」


 使えるものは根こそぎ剥ぎ取り、残った死体はどこぞの魔女が溶かして、テュマーは入り口に集めてオブジェにして掃除完了。

 少しの間居座ることにした病院では、それぞれが次の行動に向けて準備中だ。

 あいつらが残した物資はあるか、院内に何かめぼしい薬は残ってないか、装備は大丈夫か、周辺の様子はどうか、取るべき行動は山ほどあった。


『ハーレーさん、北はひどいところって言ってたけど本当だったんだね……』

「ああいう輩こそシド・レンジャーズの出番だと思うんだけどな。一体なんで見逃してやがるんだ、代わりに俺がやれってか畜生。おかげさまで真昼間から市街戦に付き合わされてるんだぞこっちは」

『……わたしたちってどうして思いがけないトラブルが待ち構えてるんだろうね』

「俺のPERKの【過酷な旅路】が呼び寄せてるんじゃないのかやっぱり。くそっ、呪われてるのか俺は」


 そんな中で俺はいうと、はた迷惑な白い集団に愚痴りながら【クラフティングシステム】で装備を補充していた。

 はぎとった武器や弾薬の中から使わなさそうなものをかき集めて【分解】、それからクナイの制作に取り掛かる。

 無骨な刃を研いで、輪状の部分と本体を繋ぐ細い取っ手にダクトテープを巻いて出来上がり。

 ところが今気づいた。クラフトに使う【資源】が残り少ない。


「……しまった、使いすぎた」

『ど、どうしたのいちクン……?】

「クラフティングシステムに使う資源が切れた。原因はたぶんスピリット・タウンの大盤振る舞いだ」


 思えばスティングを発ってからいろいろクラフトしたと思う。

 クナイの補充にクレイモア地雷の作成、それを成すためには金属やら電子部品やら火薬やらを要するものの、まともに補充していなかった。

 おかげでガラスだの木材だのプラスチックだのが溜まってる一方で、頻繁に使う資材は空っぽだ。

 仕方ない、何か適当にガラクタでも『分解』しようか――と思ったが。


「イチ様~、みてみてっす~♡ すごい量の爆弾見つけたっすよ~」


 一体どこからそんなものを見つけたんだろう、ロアベアがクーラーボックスをがたがたさせながら戻ってくる。

 見れば言葉のままに安全リングつきのパイプ爆弾が山のように詰まっていた。

 一体こいつをもって何を成そうとしたのか、一人ぐらい生け捕りにして問い詰めておくべきだったと思う。


『……なんなの、このすごい数……』

「テュマーも同業者も吹き飛ばす魂胆なのは良く分かった。これが全部俺たちに向けられなかったのが幸いだな」

「うちらに飛んでこなくて良かったっすね~、アヒヒヒッ♡」


 あいつらがもしも箱ごとぶん投げてくる大胆な奴らだったらくたばってたに違いない。

 物騒なおもちゃ箱はさておき、資源になるものがないか軽く探索してみよう。

 まず立ち上がって通路に戻ってみれば、スカベンジャーたちによって雑にまとめられた武器やらが目に入る。


「ストレンジャー、ここにあいつらの武器やら弾薬やらを集めておいたぞ。必要なものがあったら持って行ってくれ」


 そんな仕事をしてくれたエミリオの部下の一人が「どうぞ」と雑多なそれを進めてきた。

 木箱いっぱいに大小さまざまな銃身銃口が飛び出ている。

 こうも雑な塊になる理由が頷けた。口径も種類も用途もバラバラで、武器がカオスを生んでた。


「ボスとヒドラが見たらキレそうだな。何だこの統一感のない装備は」

『……装備の規格とか考えてないのかな? 銃も弾もバラバラな気がするよ』

「別にあんたらに不愉快なものを見せるつもりはなかったんだが、あいつらは『利用できるもんは何でも利用する』の精神で成り立ってるからな。なりふり構わずともいうが」

「俺には行き当たりばったりの精神に見えるけどな。で、どうすんだこの装備の山」


 フードを被ったスカベンジャーの姿に『ゴミの山一歩手前』の行方を尋ねるも、帰ってきたのは困った仕草で。


「持ち帰ろうにもかさばる、しかも整備不良も多数、弾薬の光景はまとまらず見てるだけで気持ち悪い。ストレンジャー、あんただったらどうする?」

「使えるもんだけ頂いてくだろうな」

「その通りなんだ、45と308と九ミリと散弾は抜いたがそれ以外は手つかずだ、言っとくがいちいち一丁ずつ調べてたら日が暮れるぞ?」

「じゃあ全部もらっていいんだな?」

「できるものなら是非そうしてくれ。欲張りなのは感心するが余計な荷物は命取りに――」


 後の処分は流れるままに、だそうだ。

 俺は男のそばに盛られた山を目にして、とりあえず分かるものだけ手に触れた。

 ステンガンはまだ使えそうだ、ハイド機関銃もあったがくすんだ色合いが整備不良を呼び込んでる。

 予備の弾倉と弾をいただくことにして、残りが詰まった木箱に手を触れると。


【分解しますか?】


 視界の中でウィンドウが選択を求めてきた、答えはYESだ。

 そっと手を触れると木箱の包容力ごと武器がちりちりと崩れて消滅した。

 【分解完了!】の表示と共に変換された、確かめると金属、部品、火薬といったゲージが溜まっている。


「おいなんだ今の、武器が消えたんだが」

「できたぞ、どうもありがとう」

「そりゃどういたしまして……ところで今の怪奇現象は土産話にしていいよな?」

「ただのリサイクルだ、ウェイストランドの怖い話に仕立てるなよ」


 消えた武器に「マジで人間やめたのか?」と訝しむ一人を置いて、更に探った。

 少し進むと『手術室』とあったので入ってみると。


「残念だがお前の気を引くようなものはないぞ、イチ」


 そこにいたのは中を物色していたクリューサだ。

 ここには大きなモニターが何台も備え付けられ、俺には理解ができない類の機械が幾つも並んで、患者様専用のご立派な寝台がある。

 しかし内観は滅茶苦茶だ。テュマーの死体が放置され、手術台には黒い染みが広がっていた。


『ひえっ……!? な、なにがあったんだろうこの部屋……!?』

「俺の好みじゃないのは確かだな。なんかあったか?」


 深夜に訪れればホラームービーになりそうな部屋だ。

 成果はあったのかと尋ねれば「仕事道具だ」とメスや注射器を見せてくれて。


「ここに来た甲斐が一つできるぐらいにはな。ごちゃごちゃして目障りだが」


 倒れた機材や棚を鬱陶しそうにまた物色し始める。

 そんな光景を見て思った、あの【PERK】で分解能力が上がってるはずだ。

 試しに部屋の中央にあった邪悪な手術台に触れると【分解可能!】と出た、マジで強化されてやがる。


「邪魔して悪かったな、お礼に片づけてやるよ」


 さっそく【分解】だ、惨殺現場みたいな寝台はこの世から消滅。

 クリューサが「またお前は何を」とばかりに見てくるが無視、天井の照明から錆びだらけの装置までことごとく資源に変換した。

 そして残ったのがこざっぱりとした部屋、死んだテュマーをアクセントに添えてだ。


『ぶ、分解できるものが増えてる……? さっぱりしちゃった……』

「ああ、PERKで強化したけどマジだったな。これで当分は資源の確保に困らなさそうだ」

「おい、お前の善意には感謝するがまだゴミが残ってないか?」

「システム的にテュマーはまだナマモノだとさ。それじゃ失礼」


 PDAの資源バーが程よく満たされたところで、テュマーと二人きりのお医者様から離れた。

 これで資源も弾薬も揃ったわけだが、出て行った矢先に通路奥で集まるエミリオたちの姿が目に入る。

 軽く追えば【医薬品管理室】と表された部屋にいるみたいだ。

 しかし立ちふさがるのは分厚い金属のドア、オーガの馬力でも破壊しづらそうな障害があって。


「むーん、ずいぶんと強固な扉ではないか。お前たちはどうやって開けるつもりなのだ?」


 そばにいるノルベルトの興味はそんな作業中のスカベンジャーたちにあった。

 フード姿の連中はさながら要塞の如く構えられる硬い扉を調べ終えると、その好奇心に答えるように何かを取り出す。


「こういう時はスマートかつ豪快にやるのさ、オーガ」


 一人が鞄から抜いたのは棒状の物体だ。

 柄を外した手斧ほど、目視の感覚で言えば全長30㎝ぐらいの長さか。

 軍事色の強い緑のグリップにスイッチがあって、その先端はギザギザとしていた。

 それを分厚いドアのカギに押し付けて、赤いスイッチをぐっと押すと。


*bashhmmmmmmmmm!*


 すさまじい炎が現れた。

 数秒にも満たない火の柱が白い煙を残して消えると、頑丈そうな錠は焼き落ちてごろっと鈍い音を立てる


「金属の扉をいともたやすく焼き切ったな! なんなのだそれは、魔法の類なのか!?」

「テクニカル・トーチっていう道具さ、薬品を反応させて4000度を超える炎で錠とかを焼き落とすんだ。無理やりこじ開けるより確実で音も響かないから、こういう時に使うのさ」


 そういって一団が押し入ると、そこにあるのは棚いっぱいの医薬品だ。

 俺には価値は分からないが、いそいそと入るあたりよほど価値があるんだろう。

 そんな雑多な薬の山を漁る姿を眺めているとこっちの視線に気づいたのか。


「あんたのおかげで貴重な薬とかが手に入りそうだよ。しばらくはいい暮らしができそうだ」

「そりゃどういたしまして、ごゆっくりどうぞ」

「後に来る奴らのためにもちゃんと残しておくから心配しないでくれ。みんな、できる限り軽くて高価なものを探すぞ」


 一人が感極まった様子でお礼を言ってきた。

 それからかさばらないで価値のあるものを厳選しはじめたものの、ふと思い出したように。


「そうだ、良かったらあんたらにも一本やるよ。スカベンジャーの魔法の杖(・・・・)だ」


 俺とノルベルトに予備の『テクニカル・トーチ』を投げ渡してきた。

 手に渡ると意外と重い。硬いスイッチからは暴発防止の意識を感じる。


「この魔法の杖なら俺でも安心して使えそうだな、ありがとう」

「そいつは主力戦車の装甲すら二秒足らずでぶちぬけるからな、間違えても発射口をのぞいて発火させるなんて真似はするなよ?」

「おお……こんなものをもらっても良いのか、ランナーズよ?」

「お前が物欲しそうに見るもんだからな。なあに、もう十分すぎるほど稼いでるから遠慮しないでもってけ」


 今のところ使い道はなさそうだが、まあ貰えるなら貰っておこう。

 また黙々と戦利品を厳選し始めるスカベンジャーたちを後に離れていく、が。


『ここはホワイト・ウィークスの縄張りだ! 無断でいるってことはルール違反だ、実力をもって退去してもらうぞ!』


 お外の方からとんでもない爆音だ。拡声器越しのやかましい声がびりっと院内に響く。

 その勢いは図書館で拾った料理本を読んでたリム様がびくっ!と伸びるほどで、薬を漁ってた連中も何事かと飛び出てきた。


*DO-DO-DO-DO-DO-DO-DO-DOM!*


 連なる形で響いたのは野太い銃声、いや、砲声だ。

 機関砲の遅い連射音が病院の外から聞こえ始めて、破壊的な着弾音すら交じってきた。


「もうっ! なんですのいきなり!? びっくりしちゃいましたわ!」

「今の音は機関砲か! あいつらあんなもん持ち込んでやがったのか!?」

「なんか派手にやってるっすねえ、何撃ってるんすかあの人たち」


 さすがに無視できない騒々しさにみんなが集まってくる。

 中でも一番忙しくやってきたのは、階段を何段もすっ飛ばしてきたエミリオとクラウディアとニクの姿で。


「ご主人、外で装甲車が走ってる」


 まず愛犬がダウナーなジト顔でそう伝えてくれた。


「問題発生だよストレンジャー、周囲の様子を見てたらあいつらの装甲車を発見した。こっちに接近中」

「数は三両だぞ。目的は分からんが、他のスカベンジャーを追い回してる」


 そしてイケメンとダークエルフからの報告で全体図が分かってきた。

 この感じだと制圧された病院を取り返しにきたとか、俺たちを狙いに来たわけじゃないのか。

 いや、ここにいる愉快な面々に用事があるならご丁重に叫んで撃っての自己表現はしないはずだ。


「俺たちに用がある連中じゃなさそうだな。数は分かった、随伴歩兵の数と装備は?」

「随伴歩兵はいないよ、車種は四輪駆動で遠隔操作の機関砲を搭載したタイプ、三両固まってそこら中を走ってる」


 エミリオから詳しく聞き出すと、返ってきたのはまさかの「車のみ」だ。

 それに砲声はスティングで聞いたことがある、確か二十ミリか。

 いや、馬鹿かあいつら? 市街地で護衛も付けないで走ってるんだぞ?


「……ノルベルト、歩兵に守られてない装甲車がいるらしいぞ」


 この世界でろくな人生を歩んでない俺はすぐに思いついた。

 テーブルの上にどんとおかれたパイプ爆弾の山を見て、だが。


「フハハ、まるでスティングの時のようだな」

「そうみたいだ。やれると思うか?」

「何か案があるのだな?」

「ああ、コルダイトのおっさんに感謝しよう」


 外でぎゅりぎゅりと大きなタイヤが蠢く音を耳にしつつ、俺はバックパックを漁った。

 針金にダクトテープに工具。他に何かないかと探れば、スチールパイプ製のテーブルに目が行く。


「よし、狩りの道具を作るぞ。ノルベルト、そこのテーブルの足をカットしてくれ、いい感じにつかめるぐらいに」

「よかろう、すぐ取り掛かるぞ」

『いちクン……? 今度は何をするつもりなのかな……?』

「擲弾兵のお仕事だ」


 さっそく動いた。ノルベルトに「切れ」と金のこぎりを渡してテーブルに向かわせる。

 俺はパイプ爆弾を手に取ると、導火線についた信管を外した。

 そうやって何本か点火のきっかけを外したところで、ノルベルトがさっそく切り落とした鉄パイプの周りにがちがち固めて合わせていく。 


「えーと、ストレンジャー……まさかと思うけど」

「多分そのまさかだ、手伝ってくれみんな。鉄パイプの周りに導火線を上向きにしたパイプ爆弾を束ねて針金とダクトテープで固定しろ」


 全員に真似するように伝えて、戸惑うエミリオに針金とテープで固定するように促した。

 少し慌てた手つきでパイプにまとわりついた何本かの爆弾をがちがちに締め上げると、ちょうど切り落とした足が取っ手代わりになった。

 そしてキャップから伸びる導火線をよじってまとめて、外した安全ピン付きの信管を無理矢理取り付けて完成だ。


「出来上がり、即席対戦車手榴弾」

「……正気かいストレンジャー」

「正気だ、行くぞ。急げ急げ!」


 強引に収束手榴弾を作ったところで、まだやかましいうちに階段を登った。

 後ろから徐々に完成品を手にした後続が続く中、外の空気を感じれば機関砲の音とエンジン音がこっちに近づいていて。


『ここは俺たちのもんだ! 部外者は出ていけ!』

『第三チーム! どうした! 応答しろ!』

『おい、なんだ旗が倒れてやがるぞ!』


 まさにそんな有様を繰り広げていたであろう、砂漠色のマッシブな装甲車たちが三両仲良く走ってきていた。

 砲塔をこっちに上げつつ、ようやく目に見えた異変に広げられた声が疑問を伝えるも。


「ようこそ! 俺たちの縄張りへ!」

「フーッハッハッハ! 手遅れだったな! 代わりに良いものをくれてやろう!」

「ほ、ほんとうにやるのかい!? え、ええい……どうにでもなれ!」


 ピンを抜いた。

 束ねられた線がしゅうしゅう音を立てて、複数分の着火を示す。

 向かう先は病院近くで無防備に停車した装甲車だ、後ろでもノルベルトやエミリオが収束手榴弾を友達失格にしていて。


『おい! なんだあいつ!? どうして俺たちの――』


 全員でぶん投げた。

 勢いをつけて重力に従わせて放り投げたそれは、いい感じにがつっと車体に落ちたようで。


*ZzzzzBbbbaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaM!!*


 とんでもない炸裂音を響かせてくれた。

 直後に届いたのは車が爆発する衝撃だ、砲塔も吹っ飛んで熱々の破片すらもやってきた。


「これでよし」

「フハハ、守りもなしに来るとは愚か者め」

「……や、やっちゃったね……か、彼女に自慢しよう……」


 静かになった俺は何事もなかったかのように戻っていった。


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