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38 白旗(サレンダー)はお断り

「さあどうする、急患さんよぉ!? 身ぐるみはがされて女子供は差し出して助かるか、後ろのお客さんに食いつくされるか、それかこいつでくたばるかの三択だぁ!」


 院内に構えられた五十口径の傍らで、ホワイトな連中の一人が短機関銃と共に三つのコースを提示してきた。

 選択肢はどれも降参か。けれどもノルベルトが一歩前に出て。


「イチよ、この場合はどうするべきだろうな?」


 いかにも「やっちまうぞ」とばかりの姿勢のまま、強い自信で尋ねてくる。

 後ろから響くテュマーたちの呼び声も混ざる中、エミリオたちを除けば全員の顔つきはこうだった。

 『お断りだ』と。俺たちには押しとおるという特別な選択肢が常にある。


「クソみたいな選択肢には『クソ喰らえ』だ。意味わかるな?」

「フハハ、不条理には不条理といこうか。呼び寄せても構わんな?」

「もちろんだ――いくぞ」


 それだけ伝えて腰のホルスターに手を伸ばした。

 前後を挟まれたエミリオが「しょ、正気かい?」とビビっていたが、俺は「安全なところにいけ」と適当に目を配った。

 背後からも様々な音がかすかに混じる。

 槍を握りしめ、しゃっと短剣が半ば抜かれ、杖から刀が引かれ、準備万端だ。


「おっと、武器を置きな! お前らの命も俺のもんだ、いいな!?」


 再三の質問がやってくるが、俺は左腕と中指で侮辱のサインを送って。


「いいぞ。こっちまで自分で取りに来い、××××野郎」

「強情な奴らだな、さっさと諦めりゃいいのによ! 上等だぶっ殺せ!」

「強がってんじゃねえぞ!? お前たちみてえな連中は俺たちの糧になんだよ!」


 意思疎通が終わったところで、向こうからさぞ自信のありそうな攻撃的な笑いが向けられた。

 行く手を阻む銃座から五十口径の姿が俺たちを捉える――!


*DODODODODODODODODODOM!*


 まもなく患者だらけになるであろう寂れた病院の風景に、濃い銃声が溢れた。

 だがいち早く動いたのはノルベルトだ。顔をかばった巨体が速攻で銃撃に立ち向かっていき。


「はっ――はぁ!? 嘘だろふざけんな突っ込んできやがるぞこいっ」


 ワオ、あいつにとっては12.7㎜程度の弾頭は制止力をもたらさないらしい。

 アラクネのジャケットに阻まれた被甲弾がぼとぼとこぼれて、何一つ効かない様に気づいた白い男が逃げようとするがもう遅い。

 五十口径の銃座ごとオーガの体積が機銃手を弾き飛ばした、土嚢も崩れて院内は風通しのいい職場へと早変わりだ。


「んな馬鹿なっ!? 効いてないとか冗談だろ!?」

「こ、こいつらミュータント飼ってんのか!? 正気じゃ――」


 防御の損なわれた陣地の中で、二人の男が通過した質量の大きさに気を取られていた。

 すかさず拳銃を抜く。向こうはすぐ気を取り直すが、近距離で小回りの利くこっちの方が断然早い。


*Babam! Babam!*


 二つ分の人間の胴体にめがけて二連射、胸を守る白いアーマーにぶち込んだ。

 しかしちゃんと防具としての機能はあるみたいだ。45口径の衝撃力にすっ転んだだけで苦し気にもがく。

 銃座周りからまともに立つ人間が損なわれると、向こうで『フーッハッハッハ!』とあの高笑いが敵を蹴散らす姿が見えて。


「いでええええええええええ……!?」

「おごっ……! うううっうたれた……!」

「こいつら一応ちゃんとした防具つけてるぞ! 隙間を狙え!」


 続くように崩れた土嚢を駆け抜けて迫った。

 倒れた男に近づいてマスクのアーマーの隙間、その首をブーツで踏み捻じる。

 顎に沿うように体重をぶち込めば、ごぎゅっという感触と共に頭を仰け反らせて止まった。


「たっ……頼んだよ、ストレンジャーズ!?」


 俺たちの攻撃と同時に、エミリオたちは言われた通りに病院内のどこかに溶け込んでいく。

 それでいい。次の敵を探った。


「……変な格好」 


 もう片方の獲物はニクが詰めて槍で仕留めてくれた。首を穂先で捻じって「うぼっ」と短い辞世の句が流れる。

 そこにばぁんっ、と小銃の射撃。肩上を掠る感触に反射的に身体が動く。

 銃口を辿ると突破されたオーガをあきらめて、こっちに小銃や散弾銃を向けて迎え撃とうとする連中の顔があった。


「何してんだ! あのデカいのは後回しにしろ! この馬鹿どもを殺せ!」

「落ちつけ、突破されるな! 反撃しろォ!」

「――ロアベア!」


 次に取るべき動きはこうだ。あいつの名前を共に埃まみれの床に滑り込む。

 同時にばらばらと雑多な銃の一斉射撃が頭上を過ぎて、通路の内観が破壊される感触が耳に届く。

 来客者への暴力的な歓迎をするそいつらの元にスライディングしつつも、自動拳銃を雑に構えて。


*Babababababababam!*


 滅茶苦茶にトリガを引いた。足先がそいつらの誰かに当たるまで撃ちまくる。

 突然の乱射に怯んだ奴らが手を止めた――俺は仰向けに倒れたまま、続くロアベアに一任した。


「あひひひっ、いくっすよイチ様ぁ」


 さかさまの景色の中、白黒のメイド姿がびゅっと杖を引き抜く。

 そして【ゲイル・ブレイド】が発動、制圧射撃でひるんだところに剣圧が何人分かの首をいただいた。


「あっっっっっ」

「えっ、なにおき……ふっ……!?」

「うっ……うわぁぁぁぁぁっ!? なにがおきてやが」

「ひぃぃぃぃっ!? く、首が落ちっうわああああああぁぁ!?」


 転がる生首と上がる血しぶきに混乱があっという間に広まる。

 続けざまにロアベアが手近なホワイト・ウィークスの誰かの首をすぱっと切り落とし、俺はその隙に立ち上がった。

 弾切れの自動拳銃を戻してクナイを掴む、そして横合いからロアベアに散弾をぶちかまそうとする姿を確認。


「――シッ!」


 【ピアシングスロウ】でヘルメット越しの脳天めがけて投擲。

 脳みそに致命的なエラーが入ったのか、今まさにトリガを絞るところだった男が死体の仲間入りだ。


「ひ、退け! こいつらおかしいぞ!? どうかしてやがる!?」

「こいつら正気か突っ込んできや――」

「ダークエルフの前に鎧など無意味だぞ! 大人しく狩られてしまえ!」


 そこへ褐色のダークエルフが白い群れに紛れ込む。

 両手に掴んだ戦闘用のナイフとカランビットで左の脇腹を貫き、右の首を掻っ切る。

 そして急所を一撃で抜いた彼女は向けられる銃口を身体捌きと得物でさばきつつ、周囲に死を与えていく。


「うっうわああああああああああああああああああっ!?」


 大混戦の通路だが、今度は向こうから人が飛んできた。

 投擲物と化した一般ウィークスの誰かさんだ。狙いは外れたらしく、頭上を通り抜けて玄関へと直行し。


『オオオオオオオオオオッ! オオオオッ!?』

『メシ! メシイイイイイイ!』

『非保持者が飛来、鎮圧します』

『ああああああああぁぁぁっ!? や、やめっ、誰か助けっぎゃあぁぁぁッ!?』


 殺到するテュマーたちにいい餌を与える結果になった。

 クリューサとリム様が受付の陰に身を隠してるのを確認してから、俺は三連散弾銃を抜いて前進した。

 病院内は大混乱の有様だ。ホワイトな連中は俺たちに押され、後ろではオーガの暴走に塞がれ、一体どうして包囲されてしまってる。


「こいつら狂ってやがる! こんなのありえねえ! クソォォッ!」


 とうとう逃げ出して部屋に逃げ込むやつがでるほどだ。

 そいつの背中に銃口を向けて射撃、二発同時の散弾を受けて白い身体が派手に転ぶ。

 すぐに銃身を折って弾を交換、いつぞや貰った白いシェルを二つ詰めて。


*baaaam!*


 倒れた背筋へ射撃。ワックスで固められた散弾がアーマーをぶち抜いた。


「舐めやがってぇぇぇぇ! 俺はホワイト・ウィークスだァァァッ!」


 びくっと震える姿に続いて、自暴自棄になった男がぱぱぱぱぱぱっ、と短機関銃をこっちにばら撒く。

 横に構えたそれに信頼できる精度なんてない。肩のアーマーにべちっと弾が弾かれる感触を覚えつつ。


*baaaam!*


 ワックス・スラグを腹にぶち込む。そいつは仲間に残弾をばら撒きつつ死んだ。

 薬莢を捨てて再装填、足元に弾が落ちて次の敵に気づく。

 開いたドアを盾に身を乗り出したやつが小銃を構えている――構わず撃った。

 薄い遮蔽物ごとぶち抜かれた男が「おふぅっ」と変な声を出して倒れてきたのを見て。


「あとは任せて、ご主人」


 総崩れになったホワイト・ウィークスの群れにニクも突っ込んだ。

 オーガにアーマーごと捻り潰された仲間にうろたえるところに、身軽さと跳躍を生かして迫ると。


「犬のミュータントだッ! 散弾で引きはがせ!」

「こいつらどうなってんだァァ!? つっ強すぎだ……!?」

「邪魔。どいて」


 黒い犬耳っ娘は、向こうの待合室近くで応戦中の二人に切りかかった。

 向けられる散弾銃を弾いて天井に穴をあけさせると、横から小銃で殴りかかる男に蹴りをぶち込む。

 そして上向きに怯んだ男の顎下をぐさり、と槍で一突き――休む間もなくバランスを崩したもう一人に槍が掲げられ。


 ――ごしゃっ。


 両手でつかまれたそれが、ヘルメットごと脳天を潰す。

 不意の圧力で不細工になったであろう顔のまま、そいつは病院でくたばった。


『いちクン。やっぱりあの子、前より容赦なさすぎるよ……』

「誰に似たのかとかそういう話題はなしだ、いいな」

「しっ死ねえええええええええええええッ!?」


 ダウナーに暴力を振るう姿を相棒と一緒に見ていると、抜け出した一人が斧を持ち上げたまま突っ込んできた。

 散弾は――弾切れだ。45-70に切り替えて銃口を胸に重ねて。


*Bam!*


 撃った。いまいち貫通力にかけるせいか、仰向けにぶっ倒れて得物ががらがら転がっていく。

 慌てず散弾銃を逆手に持って、狙うはそいつの顔面だ。


「あっ、いっ、いて……っ、た、助けて……降参……」

「白旗はもっと早く出しとくべきだったな? 死ね」


 命乞いと遮る手を蹴りどかして、銃床の底を全力で叩きつけた。

 マスクごと口が砕ける感触が伝わった。大人しくなるまで何度もねじり込んで黙らせておく。


「おおっと、逃さんぞ! お前も死ぬまで抗うといい!」

「ひっ、あっ、ぅあああああああああああああああああ!?」


 同じ頃合い、追加でまたホワイトカラーが玄関へぶん投げられてきた――テュマーに餌付けだ。

 そうやって妨げる者が乏しくなって来れば、階段の方から続々とホワイト・ウィークスたちが降りてくる。


「どうなってんだ!? さっきの奴らはやったんじゃねえのか!?」

「お、おい待て! どういう状況だこりゃ、一体どうして」

「し、死んで……く、クソォォォォ!?」


 死屍累々な光景にそいつらが武器を構えるが、そこへ急に人の影が近づく。

 階段を下りてきた白い姿の真後ろにととんっ、フード姿の連中が降りてきて――エミリオの奴らだ!

 いつの間に後ろに回り込んだんだ? 一瞬で死角をとったスカベンジャーたちは得意な武器を手に近づくと。


「おおっ……おげっ……!?」「いぎゃっ……!?」「……つっ!? あっ――」


 テュマーの時よりだいぶぎこちないが、手に付けられる範囲の敵を仕留めた。

 首を絞め落とされ、頭を破壊され、首を叩き切られ……人間相手にも十分な技術が、あっという間に残党を片付ける。


「……やっ、やった……やったよ……!」


 テュマーとさほど変わらぬ様子でくたばった人間から、震えあがりつつだがエミリオが戻ってきた。

 興奮で混乱してやがる。肩を叩いて意識をつないでから、俺は次の敵を見た。


『アアアアアアアアアッ! ウアアアアアアッ!』

『フフフ、アハハハハハハハッ、ウフフフフッ』

『肉と有機物を検知、目標を変更』

『ライトニングボルト! ライトニングボルト!』


 白いお肉に満足したテュマーたちだ。病院に揃った俺たちの姿に、何十という姿でわらわら駆け込んでくる。


「ノルベルト! お出迎えするぞ!」

「フハハ、絶好の条件がそろってしまったわけだな!」


 慌てず倒れた重機関銃に近づいた。

 言うまでもなく理解してくれたノルベルトは最後の一人を踏みつぶすと、死体だらけの通路にごとっと五十口径を起こす。

 三脚良し、弾薬よし、座り込んで通路いっぱいにやってきたやつらに向けて。


「よおお前ら、こいつがなんだかわかるな?」

「アアアアアアアッ……アッ……?」


 僅か数メートル、といったところにきたそいつに尋ねた。

 滅茶苦茶な意識でどうにか「なにそれ?」と首をかしげてきたが、向けられる銃口を前に群れはぴたりと止まったようだ。

 テュマーたちにめがけてトリガを目いっぱい押した。


*DODODODODODODODODODODODODODODODOM!*


 病院に二度目の銃声が続いた。

 室内でやかましさを増した重機関銃が震える。眩しい閃光の先で密集したテュマーたちがバチバチと崩れていく。


『――危険! 撤退! 撤退!』

『イギャッ、アアアアアアッ……!?』

『アーーーーーッ!? 救援、きゅっっ……!』


 反転して逃げる姿にもたっぷりと浴びせて、閉所での五十口径でズタズタの死体の山が積み重なる。

 死に物狂いで逃げていく姿が数名ほどになったところでがちりと弾切れだ、まあいい、せいぜい恐怖を広めてやってくれ。

 もはや病院に敵はいない。せいぜい、脚が吹き飛んで這いずるテュマーが出口を目指すのみだが。


「アアッ、アアアッ、メーデーーーー……」

「この病院も不幸だな。お前たちのせいで助かる見込みのない患者が山ほど増えたものだからな」


*pam!*


 隠れていたクリューサが戻ってきて、回転式拳銃で安楽死させた。

 あれだけのテュマーたちはもういない。邪魔者もいなくなった病院にようやく静けさが舞い降りる。


「……みんなすごいね、人間離れしてるっていうか……うん」


 弾切れの銃座を手放すと、エミリオたちが引きつった顔のまま強張っていた。

 緊張と混乱が抜けたのか今にも吐きそうな顔色だ。イケメン顔に水筒を手渡して、


「まあほとんど人間じゃないからな」

「……ん。ご主人、戦利品いっぱい」

「咄嗟の事態に混乱するとはな、こやつらもまだまだよ」

「やっぱり切るなら人の生首っすねえ、アヒヒー♡」

「防具のせいで機敏に動けないようだなこいつらは、狩りやすかったぞ」


 一仕事終えたバケモンどもと一緒にあたりを漁り始めた。

 ぬるそうに飲むエミリオがますます引いてる気がしたが、使えるものはできるだけ回収だ。

 しかしこいつらいろいろな武器を持ってるな。ホームガードのステンガンやら、ハイド短機関銃すら使ってるぞ。


「エミリオ、お前も使えるものはいただいとけ」

「ひ、一つ弱音を吐かせてもらっていい?」

「なんだ」

「し、死んだ人間から奪うのは実は初めてだったりするんだ。その、テュマーとかならわかるんだけど」

「死ねばテュマーとそんなに変わらないさ」

「死体の処理はおまかせですわー!」


 病院を制圧したところで、まだ余裕があるうちに使えそうなものをはぎとった。



 あまりの暴れようだったのか、しばらくテュマーが来る様子はなかった。

 相変わらず外からは銃火器のパレードがどこかで続いているようだが、この病院を漁る余裕はある。

 エミリオたちが「何か使える薬があるかも」といって大急ぎで調べ始めたので、今のうちに移動の準備だ。


『あー、こちらスタルカー・リーダーより。街の方から賑やかな音が聞こえたが、まさかお前か?』


 院内のベンチに座って抜いた45口径を弾倉に込めてると、急に無線が届く。

 あのバカ騒ぎはスタルカーの連中に届いたのか、いったん手を止めた。


「こちらストレンジャー、南寄りの病院を占拠する馬鹿どもを片付けたところだ」

『だったらビルの上から街を眺めてるんだがテュマーの群れが全力で逃げていくのが見えたぞ。やっぱりお前だったか、なにしたんだ?』

「五十口径で外科手術だ」

『あいつらの機銃を奪ったっていうのか。あんたやっぱすごいよ、噂通りのイカれ野郎だ』

「そりゃどうも。で、何の用だ」


 無線越しの声は驚き半分、嬉しさ半分な感じだ。

 しかしいきなりこうも声をかけてきて一体なんだと尋ねれば。


『その辺はしばらく安全そうだって知らせだ。んで、そいつらがいたってことは屋上に旗が立ってないか?』


 旗、だそうだ。


「旗?」

『……旗? なんのことだろう?』


 そばで受付を漁っていたエミリオにも単語を尋ねるが、本人も「?」だ。


『白い旗だ。あいつらのシンボルなんだ』

「今は降参のシンボルになってるだろうな」

『ははっ、文字通り白旗ってわけか。まあ聞け。そいつを片付けてやってくれ』

「旗をどかせってか?」

『あのパクり野郎どもはそうやって自分の縄張りを主張してるんだが、そいつをどかしてくれればそれだけ士気が崩れるのさ。それに俺たちが漁りに行ってもいいサインにもなる』


 スタルカーのやつが言うには、ここを我がものだと主張するための旗が邪魔らしい。

 シンボルの大切さはスティングで良く学んだところだし、情報を送ってくれた礼にお願いを聞いてやろう。

 まあ、どっちかといえば病院のお宝目当てな感じもするが。


「分かった、降参する人間もいないし下ろしておく。それと今ランナーズの奴らが漁ってるから、いいものが残ってるかどうかは期待しない方がいいぞ」

『頼んだぞ、ストレンジャー。余り物には福があるっていうだろ?』

「情報どうも、何かめぼしいお知らせがあったら気軽に送ってくれ。オーバー」


 ともあれ無線を切った。


「どうしたんだい? スタルカーの奴らと話してたみたいだけど」

「旗が邪魔だから引きずり下ろせ、それから俺たちも後で漁りに行くとさ」

「なるほどね、ホワイトの奴らのやる気をそいでほしいわけだ。後でここに来るならいいものは残しておくよ、助け合いの精神だ」

「そうしてくれ。ノルベルト! 旗あるから壊しに行くぞ!」


 良く分からないが、俺は次の移動に備える連中をかき分けてノルベルトを連れて行った。

 すっかり落ち着いて、エミリオの仲間たちがせわしく物を漁る姿を通り過ぎて階段へ。

 何事もなく登り切ると、さっき誰かさんが落とし物をしてくれた屋上はすぐに見えた。


『……あれだよね、どう見ても』


 登り切った先で待ち構えていたものに対する第一声はミコからだ。

 手作り感あふれる支えによって、しんなりとはためく白旗がフォート・モハヴィに晒されている。


「マジで白旗じゃねーか、降参の印みたいだぞ」

「あいつら縄張り意識だけは強いからね、そういうことに知能は回さないで直感的にやる人種だよ」

「これをどうにかすればよいのだな? 力加減はいかほどに?」

「派手にやれ」

「フハハ、心得たぞ」


 白旗の処遇をどうするか考えたが、ノルベルトの自慢げな戦槌に任せた。

 その場で半身を捻じって構えると、人をぶっ叩くための面積がぶおっと払われて。


 ごぎんっ。

 

 旗はあっけなく折れた。これでもうここはあいつらのものじゃなくなった。

 支えを失った白旗は見た目通りの降参を見せて、はためく布ごと病院からずり落ちていく。


「これでよし、まだ少し余裕があるみたいだ。次に備えるぞエミリオ」

「はは……こんな調子で大丈夫なのかな俺、彼女の元に帰れるか不安だよ……」

「そんなこといってると遺体で再開する羽目になるぞ」


 危険地帯のど真ん中であることにはまだ変わりない、でもしばらくここは安全なはずだ。

 それにエミリオはげんなりしてるもののまだ生きてる。相変わらず彼女彼女うるさいが。

 俺たちは時間的余裕と無言で相談するうちに、ここで次の移動へ備えることにした。


◇ 

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