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21 Day17


 俺をずっと追い回すアルテリー・クランとは何か。

 奇跡の力とやらを手に入れた変態野郎がボスのカルト集団だそうだ。

 以前はずっと南の荒れ地に住む、ただの人食いの集まりだったらしい。


 次にシープハンター。 

 なんでもいわゆる人間狩りを専門とする役割を与えられた下っ端。

 奴隷狩りの経験があるやつとか、狩りの技術にたけているやつの仕事だ。

 

 最後にボルター・タウンについて。

 ここはあのハーバー・シェルターの東にある街だが、ドッグマンの住処でもある。

 だから150年経った今でも手付かずの物資がたくさん残されてるそうだ。


 そしてアルテリー・クランのリーダーは相当ご立腹だとか。

 物資集めは主にドッグマンのせいで難航。おまけに右腕的存在を失う。

 不死身の力を持っていると分かれば「そいつを食べれば不死身になれる」と生け捕りするよう命じるものの増援はことごとくやられる。


 要するに今までうまくいってたのにやけになってるそうだ。気の毒に、ざまあみろ。


「……で、他に何か隠してることはないか?」


 昼下がりの空の下、親切な情報提供者にそう尋ねた。

 目の前にはいろいろと教えてくれた半裸の男が一人。

 パンダがシンボルの中華料理店の壁にもたれて、両手で腹を抑えている。


「……これ以上言ったら殺すんだろ、化け物め」


 煤と砂で汚れたそいつの呼吸は弱い。

 腹も308口径の銃弾でぶち抜かれてる、もう長くはないと思う。


「その傷じゃもう何もできない。あんたはもう手遅れだ」


 もう一押しか。バッグに入ってた貰い物(・・・)のペットボトルを投げた。

 手付かずの真っ青なスポーツドリンクが入った貴重な水分だ。


「……長くないのか」


 壁に背を預けてぐったりしてる元狂信者はあきらめたような顔をした。

 そこから転がってきたペットボトルを少し触ったあと、


「死ぬってことだよな?」

「ああ」


 完全にあきらめがついたんだろうか。

 目の前の男は「そうか」とキャップを開けて中身を軽く煽った。

 一口飲むと苦しそうにむせて。


「……もうすぐ、大規模な増援が送られてくる。お前の肉目当てにな」


 血と一緒に情報を吐いた。顔は真っ青だ。


「あんだけやったのにまだ増援が?」

「ボスは永遠の命をご所望のようだ。これでも俺たちはほんの一部さ」

「そいつらはいつ来る?」

「二日もしないうちに来るだろうな。一昨日ここに回されると言ってた」

「まさか俺一人のためにそこまでやってるわけじゃないよな?」

「どうだかな。この街にクソみたいにいやがるドッグマンもだろうが……」


 一通り喋ると、腹に穴の開いた男はむず痒そうにせき込んだ。

 血が飛び出て、飲みかけの青いドリンクの色が少し変わった。


 ……さて、このままにしておくわけにはいかない。9㎜口径のリボルバーを抜いた。


「……やっぱり殺すのか?」


 シリンダーを開けた。何発か弾が込められてる。

 質問には何も答えず、死にかけの男の目の前に転がした。

 撃鉄を起こして引き金を引けば、これで俺を殺すことだってできる。


「おい、どういうつもりだ……?」

「よく聞け」


 俺は相手の顔をしっかり見た。


「お前をこのまま生かすつもりはない。それにその傷じゃもう無理だろうな」

「……なんだって?」

「だから選べ。自分で死ぬか、そいつを俺に向けて殺されるかだ」


 このまま見殺しにすればこいつは苦しみながら死ぬ。

 かといってこいつに慈悲とトドメを与えるつもりはない。

 どう捻ってもこの男は永遠の敵だ、人食いのクソ野郎である。


「このまま殺すのはフェアじゃないってことだ。どっちがいい?」


 なら自分で死んでもらうか、敵として死んでもらうかの二択だ。


「……なあ、個人的な質問なんだが」


 死にかけの男は地面に落ちた銃を見つめながら、


「最後まで戦うやつと、あきらめる奴、どっちがカッコいいと思う?」


 いまいちよく分からない質問をしてきた。

 どうであれ、返答はとうの昔に決まっている。


「俺だったら死ぬまで(・・・・)戦うだろうな」


 そう答えた。すると信者だった男はどうにかリボルバーを拾った。

 それから腕を持ち上げて、撃鉄を起こし、銃口をこっちに向けて――


*パンッ!*


 撃たれた、でも弾は当たってない。そいつの銃口はわざと明後日に向けられている。


「おい、いいこと教えてやる」


 目の前の手からリボルバーがずり落ちた。


「北側にある自動車整備工場は俺たちの拠点(キャンプ)になってる。回収した物資が集められてて、メンバーもほとんど残っちゃいない。お前なら一人でやれるだろうな」


 男はそういって残ったスポーツドリンクを飲みほして。


「――悪い。楽にしてくれないか。自殺なんて、やっぱ怖えよ」


 こっちに向けて、空になったペットボトルを転がした。


「最後に、何か言いたいことはあるか?」


 俺は背負っていた単発式のライフルを掴んだ。

 銃身を折って308口径の弾を込めて、撃鉄を起こして、構えた。


「ああ……そうだな。入らなきゃ良かったぜ、こんなクソみてぇなところ」

「確かにな。次は慎重に選べよ」


 「おう……」とあきらめたように笑う男の額めがけてトリガを引いた。

 銃声のあと、銃口の先で名も知らぬ誰かがまた死んだ。

 視界に【LevelUp!】と浮かんできた。


「……街の北側だな」


 リボルバーを拾った、さっそくあいつらのキャンプとやらに向かおう。


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