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26 Lone(ST)Ranger「訳:お前ぐらいしかいねーよぼけ」

「オオオオオオオオオッ! オオオオオオオオッ!」

「クスクス……クスクスクスクスッ、アヒャハハハハハハハッ!」

「逃げるな、死ね! 逃げるな、死ねッ!」


 後退する味方に遅れて続くも、後ろからその声は追いかけてくる。

 視界の端ではまたも砲撃、陣地代わりの民家が抜かれて内側から爆ぜた。

 爆風と衝撃から押し出されたように、逃げ遅れがそこからよろよろ出てきて。


「あっ……た゛……たすけ……っ」

「まっ待って……! お……置いてかないで……!」


 破片だらけの男たちが今にも倒れそうな体幹のまま逃げていく。

 迫りくるテュマーたちにとっては良いチャンスだ。雪崩れ込んできた一団がそいつらの背中を持って行こうとするも。


「お前たち、早く逃げろ! 南の防御線まで退避しろ!」

「イチ様! こっちも突破されたっす~!」


 そこに建物の陰から巨体が――ノルベルトが戦槌を大きく払って、何人分かのテュマーの行く手を永遠に防いだ。

 先頭を大きく崩されたところにロアベアが押し入り、足の止まった二匹の首をすっぱり落とす。

 いきなりの邪魔者に足が止まる。その間に男たちは「あ、ありがとう!」と走っていき。


「ご主人! みんな後退した……!」


 南からニクが戻ってきた。槍を手に足速くこっちに向かって、かと思えばすぐ横をすり抜ける。


「オッ――アアアアアアアアアアアアアッ!?」


 小柄な身体ごと槍で敵に突っ込んだか。振り返ると追手の一体を串刺しに押し倒していた。

 地面に縫い留められたテュマーがじたばたもがく中、周囲のナタやナイフが黒髪男の娘に向かうも。


「俺たちで最後ってことか!」


*Papapapapakink!*


 短機関銃を斜めに構えて短連射、横合いのやつを引きはがす。

 横顔に受けた死にぞこないがぐらぐらもつれ転ぶと同時に。


「余裕そうだなストレンジャー!? お前いつもこうなのか!?」


 反対側のもう一匹へとステアーの小銃が大急ぎで叩き込まれる。

 脇腹を撃たれて「ハォォッ!?」と苦し気に動きが止まるが、続けざまに二発三発と速射されてようやく倒れた。


「まあな! いつもどおりだ!」

「さぞ苦労してるんだな! 命が幾つあっても足りなさそうだ畜生!」


 ニクが槍を引き抜いて戻るのを見て再び走る。

 後ろからは破壊的な音が敵の訪れをよく伝えてくれていた。

 振り返ると町の様子にテュマーたちが混ざり合っている。

 南へ通じる道にはエグゾアーマーの錆びた色も絡んでいて、戦車が障害物を踏みにじる光景もセットだ。


「ノルベルト、ロアベア、先に行って守りを固めろ! 逃げ遅れいたら回収して街へ連れてけ! 確実に爆薬起爆するように伝えろ!」


 左腕のPDAの画面を見つつ更に下がる。

 街中に置かれたバリケードはいい具合に退路を作ってくれたみたいだ。

 それを頼りに移動と停止を繰り返してとにかく距離を放す。

 画面には4番から7番までの信管がリンクしてる。敵は射程間近、いい感じに来てくれたな。


「お前はどうするのだイチ!?」

「少しでも街に向かう数を減らす! 心配すんなすぐ戻る!」

「分かったっす! これ以上死亡フラグ立てちゃダメっすよ!」


 二人は持ち前の身体能力の高さで素早く後退してくれた。

 俺の狙いは消防署の横に伸びる道だ。道を挟むように置かれた廃車が目印だ。

 指向性地雷四つ分に挟まれたここはさぞ効くはずだが、やはり数が多すぎる。


「いい具合だ! 後退して起爆させるぞ、このままじゃ追いつかれる!」

「好きでこんなところに残ったわけじゃないんだがな! 十分だ、もう――」


 とにかく全力で下がって距離を置いて起爆する、それだけだ。

 ニクも連れて三人、いや四人仲良く消防署へと引こうとした時だった。


 ――びすっ。


 物陰でテュマーどもの様子を探っていると、急にそんな音が後ろから届く。

 この音は良く知ってる。重さを伴う物体が血肉をぶち抜く悪い知らせだ。

 まさか。嫌な予感は顔面から倒れたステアーの姿で表現されていた。


「おっあ゛あああああぁぁ……!? く、くそっ、う、撃たれ……畜生……!」

『ステアーさん!? い、いちクン! ステアーさんが撃たれてる!』

「ステアー!? く、くそっ! 撃たれやがったか!」


 助けようと手が伸びるが、そこにぱぱぱぱぱっ、と銃撃が向かう。

 背中越しにべちべち重量が響く、そばを金属が掠める、倒れた保安官のそばにすら弾が落ちる。

 やられたのは脚だ、致命傷じゃないが最悪だ、ショックでひくついてる。


「ニク! 援護するからステアー連れて走れっ!」

「で、でもご主人はどうするの……!?」

「こんな馬鹿頼めるのお前しかいない! 行け!」


 こんな状況のせいか一瞬で考えが出た。

 敵を抑えて「先に行け」ってやつだ。短機関銃の弾倉を交換する。


『……ヒール!』


 肩の相棒も分かってくれたか。血だまりを作る保安官をヒールで塞いだ。

 ニクもほんの僅か嫌そうに戸惑っていたものの、しぶしぶ走り出した。


「頼んだぞ相棒! いけいけいけいけッ!」


 それと同時に身を乗り出す、銃口を向けると走り迫る軍勢がそこにいた。

 合間から雑多な銃が向けられてこっちを叩く。負けじと引き金を絞る。


*Papapapapapapapapapakink!*


 スティングの頃から変わらぬ反動と銃声。道を埋め尽くす群れが鈍った。

 だが、しかし、止まらない。撃たれた仲間も気にせず、機械的にすら思える身振りでこっちに来るのだ。

 なるほど、ここの奴らがこいつらを恐れる理由が良く分かったよ。


「……よし、よしっ! 離脱してくれたか……!」


 けれどもその間に犬ッ娘が大の男を軽々担いで離れていったようだ。

 これでよし、後は俺のところへ来る奴らにお見舞いするだけだが。


「…………ああクソッ! 何やってんだ俺!?」


 そばを大口径が掠め叩いて気づいた。なに一人ではしゃいでんだ俺は!?

 これで逃げ遅れはいなくなったわけだ、わざと残った一名を除けばな。

 しかし敵は想像の数倍いて、想像の数倍の勢いで間近に迫っている。


『落ち着いていちクン! 起爆して!』


 そうこうしてる間に敵の前列が射線に入った、後続も一緒だ。


「悪いなミコ、付き合わせて……!」


 すかさずコントロール画面を突いてまとめて電子信管を起爆させた。


 *zzzZbbbBAAAaaaaaaaaaaaMmmm!*


 廃車に挟まれた一団が爆風と散弾に挟み込まれていく。

 手作りとはいえクレイモア地雷四つ分の威力だ、さすがのあの軍勢も――


『前進! 前進!』

『死して我々と同じになれ!』

『危険思想を確認! コロセ! コロセ! 追いかけろ!』


 ところが爆風もまだ晴れないうち、その後ろから人影が続々現れる。

 黒肌入りの人間の姿が倒れた仲間を踏み越えて何十と走ってきた。

 確かに散弾に煽られてくたばった大量の死体を踏み越え、ヒトガタが戦車が勢いをつけてやって来る……!


『きっ……効いてない……!? ち、違う、あれはもしかして囮――!?』


 ミコの引きつった声で分かった、今吹き飛ばしたのは引き立て役だ。

 ガラクタ同然の冷たい武器を振り回す近接型、そいつらを前に出して戦力を温存してたってわけだ!

 その証拠に錆びだらけとはいえ雑多な銃を手にした敵が乗り越えてきた。


「嫌なことばっかしてきやがるな、あのクソゾンビども!?」


 そこに遮蔽物に着弾の音がけたたましく鳴りまくる。

 見えた銃口の数だけ銃声が折り重なる。釘付けにするつもりか。

 ピンを抜いて手榴弾を後ろに放り投げる。背後から膨れ上がるような爆音がして、すぐクナイに手をかけた。

 

『いちクン! 早く逃げないと……!』

「忍術覚えてマジで正解だったな! 行くぞ!」


 スモーク・クナイだ。後ろへ駆け込むと同時に足元へ投擲。

 ぱんっ、と煙と閃光のエフェクトが広がると同時に俺の姿は消えた。


『……見失った! 索敵、索敵!』

『標的はどこだ!? 追跡しろ!』

『我々から逃すな!』


 うまくいったか。銃声混じりだが連中は姿を見失ってる。

 撤退先までほんの百メートルだ。全力で走ればあっという間にあの西部劇の町並みに飛び込める。

 獲物を探るような銃撃を背中に受けつつ必死に走った。

 背後の不安につい振り返るが、敵は完全に見失ってる。間もなく効果が切れるがここまで来れば――


『いっ……いちクン! 前! 前に戦車!?』


 ミコの急な声と、心の中の「ふざけんな」っていう声が重なった瞬間だ。

 姿が戻りつつ前を向けば、ぎゃりぎゃりと金属の塊が飛びこむ姿だ。

 町の西側から回り込んだのか。爆走を終えたみすぼらしい戦車がちょうど開拓時代の姿へ向こうとしていた。


「あっ……おっ……おい、タイミング悪っ」


 最悪なことに、砲塔は町ではなく俺に向き始める。

 戦車との距離は数十メートルほど、走って間に合う距離じゃない。

 【ピアシングスロウ】は遠すぎる、【ニンジャバニッシュ】もクールタイム、何か武器は、何もない! 

 いや走れ、とにかく敵の射線から、


 ――――ヒヒィィィィィィィィィィン!


 少しでも生き延びる、もはやそれだけで走ろうとした時だった。

 この世界で初めて耳にするかもしれない甲高い声がとてもよく響いた。

 人でもテュマーでも、今まで記憶をたどっても中々ないものだ。

 あれはなんだ? 古い町の姿から真っ白な何かが激しい音を立てて走ってる。


「あ、あいつって……!?」

『……あ、あの時の馬……だよね!?』


 馬だ。いつぞや見かけて一緒に焚火に当たった、あの白い馬だ。

 遠くからの銃撃も、狙いを定める砲身もものともせず、まっすぐ俺のところに向かってきた。 

 いきなり射角に入ってきたそれに戦車の判断が鈍ったようだ。臆することなく挟まった白いシルエットはまた一吠えすると。


「……お、お前……あの時の?」


 速度を緩めて身体を横に向けてきた、まるで「乗れ」とばかりだ。

 今にもまた走り出そうとする姿に迷わず飛び乗った。

 鞍に下半身を預けると、馬は嬉しそうに一鳴きした後。


「うっ、おおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 ――走り出した!

 すさまじい勢いに振り回されかけたが、身体がどこかに走っていく。

 同時に背後で砲声だ、俺たちのいた場所が吹き飛ぶのがよく分かった。


「――ミコ、聞いてくれ! 馬の乗り方分かんない!」

『今気にすることじゃないよねそれ!?』


 そして爆音にも銃声にも動じない白い化け物はお構いなしに進むが。


*Papapapapapapapapapapapapam!*


 戦車の車体から機銃が――しかし馬はぐるりと町の前を回り走っていく。

 背後を弾がひゅんひゅん掠めた。まさかこいつ、弾を避けてるのか?

 まるで出来損ないの戦車を馬鹿にするかのように一回りすると、なぜか馬は町の北の方を向き始め。


「……お、おいお前……!? そっちは敵の方だぞ!? 迷子か!?」

『ま、待って……!? こ、この子敵に向かってない……!?」


 走りやがった、敵のど真ん中に。

 ぶるるっと意気込む息遣いの先はまさしく敵の塊だ。

 そんな向こうはといえば、ストレンジャーを乗せた白い生き物に戸惑って攻撃が緩んでる――そういうことか。


「やっ……やるしかないか!? 行け馬! 突っ込むぞ!」

『どうして敵の方に――ひゃあああああああっ!?』


 なんとなくだが読めた、戦えってことだな!?

 狙いを定めた馬の速度がぐんっと上がる。向かう先は突っ込んでくる馬と人間に慌てふためくゾンビどもだ。

 俺はハイド短機関銃のスリングを身体に捻じりつけて。


「いっ……いけええええええええええっ!」


 馬の突進にあわせて、群がるテュマーたちに腰だめでトリガを絞る!


*Papapapapapapapapapapapapapapakink!*


 撃ち尽くす勢いでぶっ放す先は大混乱だ、固まる群れが割れていく。


「ヒィィィィィィィィィィィィン……!」


 そこに白馬がまた一吠えした。

 信じられないスピードで突っ込み、逃げ遅れたテュマーをかき分ける。

 運悪く巻き込まれた奴が弾き飛ばされ、急な強襲にエグゾアーマーが戸惑い、連射に煽られた誰かが転ぶ。


『理解不能! 警戒! 警戒しろ!』

『馬を検知!? 阻止せよ! 阻止せよ!』

『危険因子を確認! 射殺しろ!?』


 そんな阿鼻叫喚の最中を突っ切ると、大混乱の声が追いかけてきた。

 遅れて銃撃も飛んでくるが、今度はかつかつと走るスピードを上げ下げして馬体が旋回しはじめる。

 銃口を誘うような動きに当然弾が飛び交うも、するりと抜けてその場を離脱――こいつ、誘ってやがる!


「た、弾避けてるぞこいつ……!?」


 さんざん敵をかき回した馬は得意げに「ぶるるっ」と声を上げて、今度は北へと足を動かす。

 今度はどこに? そう思いつつ弾倉を交換すると、そこにいたのは。


『せっ……戦車! 戦車が前にいるよッ!?』


 あの戦車だ。砲撃で吹き飛ばした民家のそばで様子を見ていたんだろう。

 錆びだらけの車体が近づくにつれて、向こうは慌てて排気煙を吐きながら後退していく。

 ぱぱぱぱぱっと同軸機銃や車載機銃が一斉に放たれるも、いとも簡単に馬は斜めにすり抜けて。


「――ああそうか、そういうことだな!?」


 すぐそこまで近づく戦車を見て、馬の気持ちがようやく分かった。

 荒野に向かって逃げる履帯を追い越すと、馬は速度を保ったままそばにつけてくれた。

 「やれ」ってことだ。俺は白い相棒から足を上げて飛び乗った。


「敵が接近! 迎撃しろ! 早く、早く!」


 逃げる戦車の感触がブーツに伝わると、待ち構えるは一匹のテュマー。

 砲塔から身を乗り出して機銃を構えるところだがもう手遅れだ。


「よお、元気か? 馬で来た」

「――てっ、敵襲!?」


 データになかったとでもいうような驚く顔に獲物を向けて。


*Papapapapapapapapakink!*


 至近距離から45口径を喰らわせた。死体を蹴って車内にも全弾流し込む。

 仕上げにHEクナイもどうぞ。離れようとすれば律儀に馬が並走していて。


「ただいま、まず一両だ!」

『……また戦車倒しちゃった……』


 飛び乗った。ずっしりと俺を受け止めた馬は満足そうに鳴いて離脱する。

 遅れて戦車から爆発が立った――また記録更新だな。

 行動不能になった一両から離れてまたぐるっと旋回すれば、さっきの集団の背中が町の中へ向かうところだった。


『いちクン! テュマーが町に!』

「あいつら混乱してるな! いけっ! 敵に突っ込むぞ!」


 弾倉を交換しながら白い毛並みを足でぺちぺちした。

 馬は応じてくれたのか「ヒヒンッ」と短く鳴くと、撃破した戦車を後に西部劇の町へと向かっていき。


*BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAM!*


 その頃合いで、街並みに挟まれたテュマーとエグゾの群れに土煙色の爆発が襲い掛かった。

 仕掛けた爆薬を無事に作動させたらしい。招かれざる客が吹き飛んだ。

 それと同時に町の方から愉快な銃声が幾つも響いた。巻き返したか!


「行くぞ馬! またびびらせてやるぞ!」


 白馬は上機嫌な様子でどかどか走った。

 ところが西から東から、増援と思しきテュマーが町へと殺到している。

 数が多い――俺は右手で短機関銃を保持したまま片手で自動拳銃を抜いた。


「まっすぐ走れ! 止まるんじゃねえぞ!」


*Papapapapapapapapakink!* *Babababababababam!*


 手綱をがっちり噛んで咥えた――そして左右に銃を向けて撃ちまくる。

 迫る敵の間をすり抜け、そのついでに45口径の弾を思うがままにばらまく。

 いきなり予想外の方向から銃撃を受けたテュマーが鉛の衝撃に持ってかれて、突撃の勢いが削がれたようだ。


「ヒヒィィィィィィィィィンッ……!」


 弾倉を交換。その間にも馬は威嚇的な声を上げて群れを突っ切る。

 あんまりに予想外だったのか転ぶ個体もいるほどだ。そんな奴すらぐちゃりと潰して、人の尻に潰れた感触を伝えてくれた。

 テュマーたちは攻撃を受けつつ町の奥へ向かっていた。馬はまだ追いかける。


『ストレンジャー!? お前何……!?』


 見慣れた宿を通り過ぎると――リム様たちに支えられた保安官が驚いていた。

 いろいろ物申したいような顔だが、とにかく無事で安心だ。


「馬で来た! 後ろから後続来てるぞ!」

『見りゃ分かる……! いやどうだっていい、あいつらをぶちのめせ!』

「了解保安官! ダッシュだ馬っ! もうひと暴れしてやるぞ!」

「ヒヒンッ」

『馬とコミュニケーション取ってる……!?』


 新しい相棒は快く猛ダッシュしてくれた。

 左右から攻撃に晒されて混乱を極める姿が見えてくれば。


『ハッハァァァッ! スピリット・タウンへようこそ! 死にぞこないが!』

『フーッハッハッハ! 俺様からの歓迎の印だ! 受け取れェい!』


 向こうで建物の扉が派手に開いて、そこからカルカノ爺さんとノルベルトのやかましい声が響いた。

 出てきたのは台車に積まれ、オーガに抱えられた大砲だ。

 言うまでもなくぶっ放された。


*BAAAAAAAAAAAAAAAAAM!!*


 いきなりのスピリット・タウン流の新しいご挨拶はどうも効いたらしい。

 古い大砲に詰め込まれた火薬と金属と悪ふざけが雑多な姿を弾き飛ばす。

 死にぞこないにされた三基のエグゾアーマーがうろたえるが、そこをノルベルトが逃すはずもない。


「俺様の出番だなぁぁぁッ! せえええええええええい!」


 大砲の一撃に続いて、戦槌を叩き込んで鋼の巨体を一つさらっていった。

 そうこうしてるうちに外骨格の姿が近づく――【ピアシング・スロウ】で仕留めるか!?


「エグゾアーマーか! やれるか……!?」

『いちクン! トラックのロープ!』


 クナイを抜こうとしたがミコの声が挟まって気づく。

 行く先で誰かさんの置いて行ったトラックが近づいていたからだ。

 荷台にクレイバッファローを固定していたオレンジのロープがかかっていた。


「馬! 捕まえるぞ! 走れ走れ!」


 いいことを思いついた。右足で腹を蹴って荷台の側面へと誘導していく。

 お願い通りに動いてくれた馬に導かれると、フックのついたそれを掴んだ――


「よお、さっきは世話になったな! 馬で来たぞ!」


 きっと意図すら読んでくれたのか、白馬は重機関銃を構える姿を横切りだした。

 銃口と視線が向いたのはすぐだ。錆びた姿がこっちに注意すると同時に、手にしたロープを大きく振り投げる。


*DODODODODODODODODOM!*


 手持ちの五十口径が追いかけてくるのはそれと同時だった。

 装甲に覆われた足にフックががっちり巻き付いた。すぐ近くを大口径の弾が過る中、馬はエグゾアーマーの周りをまわっていく。

 向こうも当然銃口で俺たちをなぞろうとするが、それより早く複雑な動きで馬は旋回し。


「あとはごゆっくり、クソ野郎」

『脚部を破損……ッ!? 行動不能、行動不能!?』

『オオオオオオオオッ……!? 救援要請、救援要請……!』


 やがてそれがそばの一体も巻き込んで、二人仲良く足を絡みとられた。

 足の自由を奪われてぐるぐる巻きにされた外骨格はぐらっと崩して――


「やっ、やりやがったあいつ!? 馬でエグゾアーマーやりやがった!」

「チャンスだ! いくぞ! 中のやつぶち殺せ!」

「なんであいつ馬なんか――いやいい、行くぞ! トドメ刺してやる!」


 倒れて身動きの取れない可哀そうなテュマーに、住民たちが手榴弾を次々放り込んでいく。

 俺が渡した分だけの爆発が響いた。昼間にしては派手な花火をバックに、馬はまだまだ駆ける。


『くそっ! 今度はどうなってやがんだ!? なんでお前馬に……!?』


 そこに新しい姿が混じった。

 町の奥、南の方から装甲車両がいかつい姿を何人も伴ってやってくる。

 銃座についたドレッドヘアの男は俺たちを見ながらドン引きしてるようだ。


「ハーレー、お前行ったんじゃ!? あと馬で来た!」

『良く考えたらここがなくなったら困るのは俺たちだ! わりにあわねえがテュマーが邪魔でな!』


 そういって、北から大挙してくるテュマーたちへ重機関銃をぶっ放す。

 周囲の運び屋たちも手持ちの火器をあわせて撃つ。あれだけいた数が弾に煽られて勢いが削がれ。


『キルゾーンに入ったわ! 行くわよ女王出撃!』

『アヒヒヒッ、ようこそっすお客様~』

『あいつ馬なんかに乗ってるぞ! いつ手なずけたんだ!?』


 建物の二階から見知った姿が待ってましたとばかりに三人飛び降りてきた。

 メイドと女王様とダークエルフがテュマーどもの中に着地、思う限りの暴虐を振るっていく。

 いきなり首が切り落とされ、懐に迫られた数体が急所を掻っ切られ、長い棒がぶおんと振られ。


「――アアアアアアアアアアッ!?」


 特に悲鳴を上げたのは脳天を叩き割られたテュマーだ。

 額ごと中をぶち抜かれたのか一撃で卒倒すれば、続けざまにくるっと翻り、今度は石突きで胸を貫く。

 かと思えば誰かの攻撃を棒に沿って受け流し、蹴って倒して短い振りで潰す。

 そうやって次々と、お前世界観違うだろというような動きで何十と蹴散らして。


「――戦車だ! 戦車がきやがった!」


 バケモンと住民たちの滅茶苦茶な反撃が繰り広げられる中、誰かがそう叫ぶ。

 見ればとうとう別の戦車が町に流れ込んでいた。

 しかし馬は「ヒヒン」と余裕そうに鳴く。なるほど、分かったぞ。


「……ニク! 行くぞ! 戦車狩りだ!」


 俺は乱戦に向けて馬を走らせてあの名前を呼ぶ。

 白馬の重々しい身体が走る。女王様に次々打ち倒される身体を潰して、押し退け、今まさに砲撃をお見舞いしようとする戦車に近づいていき。


「――竜騎兵が接近! 優先的に迎撃! 急げ、急げ!」


 銃座についていたテュマーが慌てふためくのが見えた。

 機銃が、主砲が、そんなものが来ようと白い馬体は勢いをつけて突っ走る。


「ご主人! 使って!」


 そんな勢いに横からやってきたニクが、今一番欲しいものを投げ渡してきた。

 槍だ。戦車に槍、この世界で生じた常識の一つだ。


「……もっと近づけ! もっとだ!」


 馬がさらに走る。

 足元で爆発が起きる。頭上を弾が掠る。戦車が大急ぎで後退していく。

 だがそれすら逃がすことなく、臆することもなく、白い相棒は走り。


 ――ぶん投げる!


 俺は戦車の操縦席にめがけて【ピアシング・スロウ】を放つ。

 ドワーフが作った槍がぶっ飛び、装甲をがきんっ!と貫く音がした。

 運転手を失ったそれがコントロールを失ってぎゃりぎゃり暴れ、誰かの所有する建物に背中から突っ込んでいく。


【ディアンジェロのハンターオフィス】


 だそうだ。皮肉な看板の先でとうとう固まった。

 砲塔から敵が出てきた。すかさず短機関銃を構えてトリガを引く。


「ストレンジャー! こいつを使え!」


 ぱきぱきと弾をぶっ放すと横から声――ステアーだ。

 手にした手榴弾を投げてきた。まだピンのあるそれを受け取って、走る馬から戦車に飛び乗る。

 銃口と一緒に覗けば、ハッチからはテュマーが怯えるように見上げていたが。


「――ディアンジェロと仲良くやれよ、あの世でな」


*Papapapapapapapapapakink!*


 フルオートで流し込んだ。それから絶交した手榴弾を放り込んでおさらばだ。

 馬に戻って腰を落ち着かせると、だかだかと軽やかな動きでその場を離れ。


*BAAAAAAAAAAAAAAAAAANG!*


 背後でくぐもった爆発がした。

 戦車が使い物にならなくなった証拠だ。

 よく響くそれは街の外まで届いたようで。


「て、て、撤退! 撤退!」

「危険因子を感知! 攻撃を中止! 中止せよ!」

「危険! 危険! 撤退せよ!」


 途端にそこらのテュマーたちの様子がおかしくなった。

 ゾンビとは思えない慌てふためくさまを見せて、口々にそんなことをいいながら北の荒野へと逃げていく。

 それだけじゃない。女王様の棒に文字通り振り回されていた奴らすら、何に気づいたのか怯えたように走り出すのだ。


「……テュマーが、逃げていく?」


 西部劇の町並みから大急ぎで出ていくそんな姿を見て、誰かが言った。

 宿のおっちゃんだった。異様な光景を目に呆然としている。

 白い馬はぴたりと止まって敗走する姿を見つめており――次第に飽きたのか「ぶるっ」と鼻を鳴らして座った。


「テュマーがビビってるのか……?」

「は、ははは、み、みたか、あいつらが逃げてくぞ……?」

「か、勝った? 勝ったのか俺たち……?」

「テュマーが逃げるなんてあり得るのか……? おい……?」


 まるで生前のように恐怖を持ち始めたそいつらを見て、住民たちも戸惑った。

 いつか戻ってくるんじゃないか? そう思ってしばらくの間外を眺めるも、けっきょくあいつらが戻ってくることは二度となかった。


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