20 Day15
「グルゥオオオオオオオオオオオッ!」
狭い路地を走る。背中越しに伝わる獣臭さから逃げ続ける。
今、背後にはドッグマンがいる。この忌まわしい化け物は逃してくれそうにない。
しくじった、少し気を緩めただけでこいつらは目ざとく俺を見つけやがった。
街を探索して、カルト野郎を一人ずつ殺してやろうと思ったが、予定はすべて狂った。
こいつのせいであいつらの気を引いたし、武器はどっかに落とした、息も切れそうだ。
これから俺は死ぬ。もうすぐで死んでまた蘇る。そしたらまたやり直しだ。
「グルアアアアッ!!」
犬男が吠えた。まっすぐ単調に走っていた俺の背中が、重くて鈍い何かになぞられる。
ジャンプスーツ越しにざくりとした痛みが一閃する――爪だ、あの爪で切られた。
「おあ゛……ッ!?」
ぎりぎり保っていた息が漏れる。背中が熱い、空気が触れるだけで焼けるように痛い。
磨かれた神経のおかげで分かる。こいつは骨まで達した、きっと肉も骨も丸見えだ。
もうどこを走っているのかもわからない、どうして逃げているのかもぼんやりする。
死ぬか? いや、まだやれる、もう少しだけ足搔いてから死んでやる。
「ゴアアアアアアアアアアアアアッ!!」
俺の血肉に興奮してるんだろう、あいつの勝ち誇った雄たけびが聞こえる。
足音のリズムも早くなった、このまま止まれば生きたまま踊り食いされるだろう。
「……食われて、たまるかよ!」
どこへ行っても付きまとうこの忌々しい化け物に、せめて一矢報いてやりたい。
俺が今生きている理由はこれだけだ、ただ逃げ回る羊じゃないってことを教えてやる。
その時だ、狭くて面白みのない路地の先にうっすらと違和感が現れる。
石畳の細い道の間に線のようなものが見えた。壁を走るパイプになぞらえて、頭ほどの高さにあわせて筒状の何かがこっちに向けて固定されていた。
すぐに嫌でも忘れられないあのシルエットが浮かぶ――『カンガン』だ!
誰が仕掛けて、誰のためにあるのか、それがなんだって利用してやる。
ずたぼろの背中にドッグマンの臭い息を感じつつ、線を飛び越えるように踏み込む――
*ZZzBbaaaaaaaaaaaaang!*
一瞬間をおいて、背中にけたたましい破裂音が届く。
音と破片と熱に背骨を引っこ抜かれるような痛みが響いて、派手に転んだ。
あまりの痛みに今まで出したことのないような声が出かけるが、それすらできない。
「……やっ……たか……!」
「口にしちゃいけないワード」と共に、俺は振り向く。
しつこく付きまとう犬男は考えうる通りのズタズタな姿に変わっていた――やった。
はは、見たか……やってやったぞ……。
背中から力が抜けていく。
経験したらこそ分かる。人は体力に限界が訪れると、どこかから何かが抜けていく。
血と一緒に魂が抜けていく感じがする、つまり、俺はとうとう死ぬ。
……ああ、だけどこんなところで犬の化け物と一緒に死ぬなんてごめんだ。
指先から感覚が抜けていく。でも、残った気力だけで路地の先へ歩く、もう少しだけ。
道路が見えた、青い空も、遠くのオレンジ色の荒野だって見えてきた。
裏路地から這い上がったところで、とうとう力が尽きる。
「……いい天気だな」
抜けた先で壁に寄り掛かる。
終わりのない、広い世界がどこまでも続いている――いや、待て。
視界に映る現実が薄まってく中、妙なものに目がいく。
遠い向こうにある荒野の上に明らかに違和感の元となる何かがそびえたっている。
木だ。緑色を蓄えた木、それもよくよく見るとただ事ではない大きさだ。
目視する限りはビルぐらいの高さはありそうな……そんなバカなはずがあるか。
「み、見つけたぞ! こんなとこにいやがった!」
不自然な何かに見とれていると、興奮した声が挟まる。
どうにか振り向く。そこにはカルトの一人がこっちに拳銃を向けていた。
遅れてざくざくと足音が重なる。仲間もやってきたに違いない。
「待て、殺すな。こいつの傷を見ろ、ほっとけば死ぬぞ」
何度も生き返る俺にだいぶ慣れたようだ、誰一人俺に手を出そうともしない。
「くそっ、一体なんだってんだこの男は……!? 殺しても殺しても死にやしねえ」
「……おい、誰かこいつの傷を見ろ。手当してやれ」
「何言ってんだお前、こいつは羊だぞ?」
「殺しても蘇るんだったら半殺しにして無理やり生かせばいい。こいつを飼うんだ、俺たちに従順になるまでな。このまま殺し続けたって俺たちが損をするだけだ」
「こいつにゃさんざん振り回されたからな。手足もバラして犬みたいにしてやるぜ」
……まあ、不死身の男を何も考えないで殺し続けるほど馬鹿じゃないか。
「羊」と呼ばれた俺は見上げた。最初に俺を見つけた男はまだ拳銃を構えている。
「飼うなら……犬にしとけ」
もはや物も掴めないほど力の抜けた手で、そいつの足に手を伸ばす。
「うっ……わっ!? こいつッ!?」
俺の予想通り、そいつはそれをこっちに向けた。
ぱんっ。
乾いた破裂音。目論見通り頭をぶち抜いてくれた。
◇
前に来た質屋の前で棒立ちになっている人間が一人。
路上に放置された車に隠れながら、そいつの後ろへ近づく。
何度も襲ったせいで疲れているのか俺の足音には気づかなかったみたいだ。ナイフを握って残った距離を一気に縮める。
「俺たちは何時までこんなとこで――ぐげぇッ!?」
車の前で背を向けていた奴に後ろから組み付き、首をナイフで引き切る。
これで死んだ――と思っていたのだが、思った以上にじたばた暴れて引きはがされた。
「お゛お゛……え、おえふっ……」
そいつは血をどばどば流しながらこちらを見る。その手には錆びだらけの拳銃が一つ。
クソが、こうすれば死ぬんじゃなかったのか? それとも浅かったのか?
仕留めきれなかった相手に戸惑ってるうちに銃口がこっちを向く――
「――っ!」
少し迷って手が止まるが、慌ててその顔にめがけてナイフをぶん投げる。
紙もまともに切れないほど質が悪かったが、その重みは目のあたりに刺さったようだ。
カルト野郎は目を抑えながらふらつくものの、それを抜こうとしたまま地面に伏した。
ははっ、慣れてみると簡単だな。
俺の頭の中にはもう、死んだそれをゲーム感覚で受け止めるぐらいの余裕しかない。
いいんだ、こんな世界に俺を置いてけぼりにする奴が悪い、こんな世界壊れてしまえ。
ぱんっ。
死体を見て得意げになってるところにあの音がした。銃声だ。
見なくとも何をされたのかは理解した、脇腹の中から熱さに似た痛みが走る。
「あっ……ぐ……畜生……ッ!」
腹の中はたぶんぐちゃぐちゃだ。かき回されるような激痛に膝が折れた。
どうにか立ち上がろうともがくも、目の前には回転式の拳銃を手に見下す男が一人。
「……死にぞこないが! 良くも俺の仲間を……!」
そいつの足が脇腹に圧し掛かる。ちょうど撃たれて、赤色が吹き出すそこへ。
痛い。内臓がひねり出される。足をどけようにも「おぁぁ…」と変な息が喉を掠る。
「あ……ぎ……う、ああああぁぁ……ッ!」
離せ、殺す、どけ、いろいろな声を出そうにも、空気と血がじわじわと口から洩れた。
ぐりぐりと踏みにじられて最悪の痛みが走る。離せ、離せ離せ畜生畜生畜生……!
「――いや、このまま楽には死なせねえぞ。お前にはふさわしい死に方があるからな」
ショックで全身が思うように動かない。
そうこうしているうちに男は何かを抜いた。あのナイフだ。
テーブルを囲ったあのクソ変態どもを思わせる、血走った目が俺を見下している。
俺が生き返るのをいいことに何度も襲ったせいか、こいつらはすっかり変わった。
遭遇すれば殺意を向けてくるが、隙あらば俺を可能な限り痛めつけようとするのだ。
生きたまま腹を開かれるのはもうごめんだ。何か、何かないのか……そうだ!
「まずは肝臓だ。肝臓を取り出して生で食ってやる。次ははらわたを抜いてお前の肉を詰めてやるぞ。はは、ははっ……うひゃひゃひゃっ! 肉、おいしい肉ッ!」
狂った男が襲い掛かる――必死に地面をまさぐって、ざらざらしたものを掴んだ。
俺はどうにか掴んだそれを構えた。錆びてざらざらとした拳銃を、そいつの頭に。
*pam!*
撃った。肘が震えるほどの反動の先で、男はしぶとくふらついてから横に倒れた。
仕事を果たせなかったナイフがからっと落ちる。力が抜けて、拳銃が抜け落ちる。
「は、はは……」と変な笑いが喉から抜けた。勝った、俺が勝ったんだ。
俺を殺そうとした奴は死んだ、後頭部から中身をぶちまけながら、静かになった。
だがもう駄目だ、俺はもう長くない。脇腹の痛みが足のつま先まで回ってきて、体を起こす力さえも届かない。
「グルルルルルルルルルルル……!」
最悪のタイミングだ。あの声がしやがる。
俺の流した血の匂いでも嗅ぎつけたんだろうか、ドッグマンの獣臭さが近づいてくる。
「……お前なんかに、くれてやるか」
あの化け物の駆け足を耳で感じながら、俺は迷わず落とした拳銃をまさぐった。
つかんだ。目の前にドッグマンの顔と、どろりとしたよだれが飛び込んでくる。
酸っぱい匂いがこびりついた、錆びの味がする銃口をかじった。
◇
青空の下、縦長の缶詰を見た。『牛肉とにんじんのシチュー』だそうだ。
ラベル表面ではアニメ調の茶色い牛が真顔でニンジンをかじっている。
「まずそうに食いやがって」
道路に捨てられた車の残骸に寄り掛かって、缶のフタを引っ張った。
にんじんと切り刻まれた肉塊がどっさり入ったシチューが詰まっている。
スプーンを突っ込んで食べてみる……適度な酸味と肉の味、うん、確かにシチューだ。
肉が筋張っていて、とろっとしたにんじんに獣匂いが移ってる点を除けばだが。
「いいさ、スパゲッティよかマシだ」
MREに突っ込んであった調味料を加えれば食えるはずだ。
そう思ってまず塩を投入、それからこれでもかとタバスコを振って混ぜた。
一口食べてかなりうまいと思った。冷たくなければの話だが。
たいしてうまくもない冷えた食事にもすっかり慣れてしまった。この世界に来てから俺の舌はずいぶんと貧しくなったもんだ。
なるべく早くかっこみつつ、俺は街の外を見た。
相変わらずあの謎の大木が見えるが、またおかしな点に気づいた。
荒野の上に何かが立っている。いや、斜めに突き刺さってるというべきか。
ここからじゃ細かくは分からないが、立派な白い塔が荒野のオレンジ色に喧嘩を売っているようだ。
更に、そこからもっと離れた場所に緑色が生えている。
たぶん森かなんかだろう。つまり、荒野のど真ん中に森が生えていた。
……最近は妙だ、俺が死ぬたびに変なものが見えてる気がする。
死にすぎておかしくなったんだろうか。でも確かに異物はそこに存在している。
「探せ! あの化け物はまだどっかにいやがるぞ!」
缶詰を食べてると声が聞こえた。もうこんな時間か。
「あいつを生け捕りにしたら5000チップだ! 忘れるなよ!」
「出てこい不死身野郎! とっ捕まえてその手足もいでやらぁ!」
「よくも兄弟たちをぶっ殺してくれたな! 覚悟しろ!」
飯は終わりだ。空になった缶を捨てようとして――視界に浮かんだ【分解】を押した。
空き缶が消えた。最近はこれで痕跡を隠せることに気づいた。
「おい、こっちだカルト野郎ども!」
路地から姿を見せた。
通りにはまとまりのないカルト集団の見慣れた薄汚い姿がある。
「出やがったなァ! ぶっ殺せェ!」
「逃がすんじゃねえぞ! 何名か回り込め!」
武器を持ったやつらは一斉に駆け寄ってきた。その頭上を飛び越して矢も飛んでくる。
銃声も混ざった、すぐ横にびしっと着弾する音――よし退くぞ。
「何としても捕まえろ! さもないとハノートス様に殺されちまう!」
「待ちやがれ腰抜けがァ!」
「うひゃひゃひゃ追いかけっこだぜぇ! 走りな坊や! 走りやがれェ!」
背を向けて路地の中に戻った。
罵声と一緒にすぐ頭の上をひゅんと何かがかすめていく。
頭上を通り過ぎるなら問題ない、この世界での経験がそう教えてくれた。
狭い道をひたすらに走る。
後ろから重なった足音と息遣いが聞こえてきた。
何度もやり直した今、走るペースも呼吸の仕方も、足の動かし方も今なら割と分かる。
――ふと、いやな予感がした。
目の前に十字路、左側から気配、背中がぞわっとする。
「見つけたァ! 死ね――!」
俺はほんの一瞬だけ足を緩めた。
予感的中、横から錆びた槍の先端が突き出てきた。
腹を貫くはずの待ち伏せの一撃が空振りする、両手で握り返して引っ張る。
「なっ!? こいつ避け」
よこせ。持ち主の膝にブーツの底をねじりこんだ。
相手がバランスを崩す、手が離れる、持ち主不在となった槍をひったくる。
「ぐっふっ……! て、てめえ返しやがれ! そいつは俺のっっ!」
「あいつは殺しても生き返るぞ! 足を狙えッ! 生け捕りだッ!」
右に曲がって別の路地へ、敵との距離はけっこう離れた。だがあいつらは死に物狂いで追いかけてくる。
「チクショォォ! 前より強くなってやがるぞあの野郎!?」
「だからって逃したら処刑されちまう! まだ死にたくねえよ!」
どうもあいつらのボスはこの余所者にご執心のようだ。
部下を殺されて、しかもそいつが不死身と知ったからだろうか、なんとしても生け捕りにしようと躍起になってるわけだ。
結果からいえば今日の今日までことごとく失敗しているのだが。
「邪魔だどけ! 射線を塞ぐな撃てねえだろ!」
「こんなところでもめてるんじゃねえ! 早く行け!」
「おいだれか武器貸してくれよ! なんでもいい!」
言ってみれば今のあいつらはばらばらだ。
人の腹を掻っ捌いたあいつは曲がりなりにも統率力はあったんだろう。
もうこいつらは群れることはない。たとえ十人いようが、まとまりがなきゃ無意味だ。
「どきやがれェ! 俺がやる! 弟の仇だァァ!」
後ろから気配、振り向くと角材を持った男が群れから飛び出してくる。
やるなら今だ。足をゆるやかに止めて反転、左手を突き出す。
親指と人差し指の間に突出してきた男の身体を捉える。
右手で奪った槍を持ち上げ、構えて――地面を踏んでぶん投げた。
「殺す! 殺してやぐぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
投げた槍が男の腹をぶち抜く。
後ろにいた連中の足が止まった、いまのうちに再び走り出す。
「なんてこった、一人やられたぞ!」
「こいつはもう駄目だ! こんな使えねえやつなんか捨てろ!」
よし次だ。身軽になった俺は見慣れた表通りに飛び出した。
次にあたりを見回す。あった、カフェに頭から突っ込んでいる廃車だ。
「……よっと!」
急いで車に飛び乗って次の目標を探す。
『アメリカ伝統料理は是非ここで!』と書かれた店の看板が目に入った。
近くの屋根に向かってジャンプ、しがみついてよじ登る。
「さあ来やがれ……クソカルトども」
ところどころ穴の開いている屋根の上で姿勢を低くした。
そして屋上に隠しておいた火炎瓶を取る――事前に仕込んでおいた。
ラベルには『聖なる炎で焼かれよ』と書いてあった。あいつらの忘れ物だ。
「出てこい! ボルターの怪物め! どこいきやがった!?」
カフェの前に七名がぞろぞろやってくる、だが士気は低いし焦りが見える。
「なんだってんだこのザマは、どうして捕まえられない!? このままじゃ生きたまま解体されちまうんだぞ!?」
「焦るな! まだチャンスはある! それよりあいつはどこだ!」
「隠れてるんじゃねえ卑怯者がァァ!」
そのうち一人が道路に飛び出して、手あたりしだいに銃を撃ち始めた。無駄玉だ。
「落ち着け! 弾の無駄だ!」
「いったい何人殺されてると思ってんだ!? 指揮官はぶっ殺されて、ハンターは五人も死んでこのザマだ!」
「アイツを殺してもしれっと戻ってくる、補充の指揮官もびびって出て来やしねえ、一体どうすりゃいいんだ……」
「もうやだ帰りてぇ……!」
どうやらここ最近の行いが良く効いてるみたいだ。
だがあいつらをここで殺さないとまたやられる。
少し考えて、足元にあった瓦礫を掴んで道路のど真ん中へ放り投げた。
すると「な、なんだ!?」とか「音がしたぞ」と立ち往生してたやつらが騒ぎ始める。
「そうだ、そのまま……」
音のした方向に何人か向かっていく。すかさずポケットからライターを抜いた。
火炎瓶に突っ込んであるボロ布へと点火、こいつは良く燃えるぞ。
「――よおクソ野郎ども! 忘れ物を返しに来たぞ!」
人の群れに熱々の火炎瓶を投げ込んだ。
火のついた瓶が男たちの間をくぐってコンクリートへ飛び込む。
ガラスの割れる音、それと同時に火の塊が立ち上がった。
「えっ――――ぐぎああああああぁぁぁぁぁッ!?」
「あっああああああああああああっ! 熱ィ! あちぃぃぃぃ!」
「熱い! 熱いィィ! 誰か助けてくれェェェ!」
「ひぎっ、あっ、あっ、あああああああああぁぁぁーーーッ!」
ラベルに書いてある通り「聖なる炎」で男たちが焼けた。四人ぐらい巻き込んだか。
「いたぞ! 屋上だ!」
「良くも兄弟たちをやってくれたな! この悪魔めェェ!」
「も、もう嫌だァァ! もう付き合ってられねぇよォォ!」
残り三人。拳銃と単発式のライフルを持った二人がこっちに気づく。
乾いた銃声が何発も響く、屋根の一部に当たってぱしっと音がした。
仕上げだ。立ち上がって、屋上を一気に駆け抜けて――世紀末世界の空へと跳んだ。
「出てこいクソッタ――――は?」
狙いは下にいる拳銃持ちだ。
屋上からジャンプした矢先、まるで落ちてくるなんて予想外といった顔が見えた。
「おらぁぁッ!」
見上げてくるそいつをクッションに着地成功、ブーツ越しに何かを砕いた感じがした。
いやまだ生きてる。足を持ち上げて喉を潰す。
「えひっ……あ、あ……く、来るなっ! 来るんじゃねえ!」
あっけにとられていた男がライフルに慌てて弾を込めようとする。
しかしうまくいかず弾をこぼした――その間に潰した男の拳銃を拾った。
視界に『9㎜リボルバー』と表示される、弾はあるし撃鉄は起きている。
装填に手間取る敵にポイント、胸のあたりを狙ってトリガを引く。
*パンッ!*
ライフルよりマイルドな反動、そして軽い銃声。
銃口の向こうで「おふっ…」と体を抑えながら男が倒れる。
「いっ……いやだっ、もういやだっ! 死にたくないィィッ!」
最後の一人が片手斧を投げ捨てて逃げ出す。あとはお前だけだ。
お前は逃がさない、じっくり背中を狙う、距離は十メートル以内、いける。
トリガを絞った。
「くそっくそっくそっ何が奇跡の力だ! もうこんなやつらとぎゃっ」
再び反動と銃声、同時に遠くで男が倒れる。
「こ、ろさないで……、悪かった……もう誰も傷つけないから……」
俺はリボルバーの弾倉を開きながらそいつに近づいた。
弾は残り一発、ちょうど一人分か。
「……うるせえ、さっさと死ね」
脳天めがけてトリガを引いた。
◇




