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25 ようこそスピリット・タウンへ! 死ね!

 町の北側、道路と郊外をカバーできる平屋の屋根で俺たちは待った。

 周囲の建物は余すことなく使われ、内も外もテーブルから土嚢までかき集めて補強され、周囲には罠も仕掛けた。

 道路には廃車を狭く並べて、敵車両の行く手を遮るようにした。

 後ろでは消防署に立つ監視塔から狙撃手と観測手がずっとこっちを見ている――できることは可能な限りやった。


「くそっ、来るなら来い、いつまで待たせるんだ……!」


 隣では伏せたままの住人が土嚢の隙間からずっと銃を覗かせている。

 周りを見るにそんなやつばかりで、戦う前から集中力を使い果たしそうだ。


「一体俺たちが何をしたっていうんだ。こうなったのもあのネクロフィリア野郎のせいだ、くそくそくそ……」


 ステアーすらそんな空気に飲まれている有様でもあった。

 かと思えば小銃を置いてうずくまり、リフレックスの吸引器をキメ始めて。


「――すまない、ストレンジャー」


 丸めた身体の内側に青い煙を吐きながら急に謝ってきた。

 薬をキメながら謝ってくれなんて頼んだ覚えはない。仕方がなく聞いてやる。


「なんだいきなり」

「俺たちがもっとしっかりしてれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。そうだよな?」

「……そうだな、あんたの言う通りだ保安官。俺たちはあんな奴に頼ってばかりで、視野が狭くなってたんだ」

「思えばあいつがなんでもしてくれたのも、俺たちを手なずけるためだったのかもな。そんなのに甘えて――」

「おいあんたら、今言ったらそれが遺言になるんだぞ? もっと有意義なことを口にしてくれ、あとお薬キメながらそんなこと話すな」


 周りもつられて同じお気持ちになり始めたので黙らせた。

 困ったやつらだ。ニクもそばでぺたんとしながら、じと顔でそいつらを見るほどには頼りない。

 きっと屋根の下でも同じなんだろう。あたり一面に微妙な空気が漂ってる。


「すげえよあんた、こんな状況でも落ち着いてられるんだからな」


 皮肉かどうかの判断はしないでおいてやるが、住民の誰かがそういった。


「気分がクソなだけだ。何度もこういうのを経験すると緊張しづらくなるぞ」

「ベテランって感じだな、流石ストレンジャーだ」

「この前正式にグレイブランドの連中に見習いとして認められたばっかだ、まだまださ」

「どおりでそんなアーマーつけてるわけだ。じゃあ先輩として何か俺たちにアドバイスをくれないか?」

「アドバイスっていうとなんだ、戦車の壊し方でも教えろってか?」

「そういうのはまだ早いだろうな。なんていうかこう、戦場で生き残るコツとかが知りたいんだが」


 短機関銃を手に遠くの荒野を眺めてると、そんな質問もされた。

 屋根に伏せる連中の目はこっちに集まってる――誰も死にたくないそうだ。


「やばいと思ったらすぐに逃げろ。逃げて命があればいくらでもやり直しはきく、んでいい機会が巡ってきたらすぐ攻撃に転じる。逃げてばっかだと逃げ場がなくなるから必ず一矢報いることだ」

「転んでもただは起きない精神ってことか? やっぱストレンジャーが言うと説得力があるな」

「俺だって何度もミスしてやっと自分の命の大切さに気付いたからな。あとは受け売りの言葉だけど、適当にやることだ」

「適当だって? こんな状況で手を抜けってのか?」

「全力で適当にやれってことだ。どんなに打算してクソ真面目に緻密にやっても、気楽にやってるやつの柔軟さには勝てないことが分かった。これスティングで学んだ教訓の一つな」

「なんて教訓だ、あっちで一体どんな経験したんだ?」

「だいたい個人的な報復だ」

「そんな理由でライヒランドがあの体たらくか。助言ありがとよ、少し気がマシになった」


 ストレンジャーなりに答えると、まあまあ納得して落ち着いたようだ。

 今のうちに武器の確認をしておこう。短機関銃の弾倉数本、手榴弾がポーチに二つ、バックパックに六つか。

 周りが多少穏やかになったのを見て、俺は手持ちの手榴弾を取り出すも。


「そういえば運び屋どもはどうした?」


 不幸が重なったハーレーたちのことが気になった。

 ところが誰もがいい顔をしていない。特にステアーがそうで。


「あいつらか? 付き合ってられるかだとさ。車直して全速力で出て行ったよ」

「仕方ねえさステアー。薄情な奴らなんて言う資格が俺たちにあるわけがない。俺だって同じ目に会ったらそうする」

「あーうん、けっきょくイメージ最悪のまま旅立ったみたいだな。まあ元々俺たちだけでやるって決めてたんだし仕方ないか」


 運び屋は町の危機よりも荷物のお届けを優先したそうだ。

 助けてやった恩があるだろだなんて言うつもりはないが、あいつらも最後までロクな目にあわなかったな。


「今のうちにこいつを配っとくぞ。使い方は分かるな?」


 ともあれ目の前に広がる荒野を見つつ、手榴弾を一人一人に手渡していく。


「擲弾兵の格好は伊達じゃなかったか。こんなもん持ってたとは」


 ステアーはまだ友達でいる爆発物を見て驚いている。無理やり手に預けた。


「ライヒランドの奴らの落とし物だ。有効活用させてもらおう」

「ほんとにあいつらと戦ったんだな……分かったよ、あいつらが見えたらパスしてやる」

「間違えても目の前に投げたり、持ったままやられるなんて絶対やめろよ。あと全員今のうちにディアンジェロへにお気持ちを伝えとけ」

「好き放題言っていいんだな? クソド変態野郎! 地獄に落ちろ!」

「我が家が俺の代で滅んだらお前のせいだからな、もう死んでるが死ね!」

『お前の墓なんて作ってやらねえぞ! 作ったとしても最上級クラスの侮辱を添えてやる!』

『てめーのせいでウェイストランドがやべえんだぞ! 町に汚名作らせやがって死体フェチ!』


 最後の言葉をそうやって上書きさせると、屋内からも追加の声が挟まった。

 気づけばみんなディアンジェロに対する呪詛を次々と唱えだす。

 見えない敵が来るまでの間の時間つぶしにはなったのか、少しすると憎々しそうな言葉はぴたりと止まる。


「すっきりしたか?」

「いや全然、物足りないな」

「テュマーでも射的の的にすりゃもっとすっきりしそうだ」

「その意気だ。いいか、攻撃が来てやばいと思ったら遠慮なく逃げろ」


 少なくとも今から急に誰かが逃げ出しそうな空気は薄くなったか。

 

「……でだ、どうして女王様とやらがここにいらっしゃるんだ?」


 敵の気配すら感じぬ荒野を見ていると、保安官の疑問形が横に届いた。

 ぺたんと伏せるニクの隣、弓を手に待ち構えるヴィクトリア様のことだ。


「そりゃ戦うために決まってるでしょ? あと美女が前線に居れば士気も上がると思わない?」


 透き通る金髪を下ろしたままの美女(55歳)は、事情を知らなきゃきれいなお姉さんで通じる姿でドヤってる。

 やたらと紅茶を勧めてくるせいでそろそろその手の妖怪だと俺は信じてる。


「美女は自分のこと美女だと言わないと思う」

「あら言うじゃない――後で紅茶飲む?」

『勧め方に脅しが入ってます、女王サマ……』

「紅茶を脅しに使うのやめろ」


 正直に答えたが紅茶で脅された。

 ステアーも「なんでこんな変な奴が」という目つきで見ているが。


「みんなこう思ってるでしょうね。誰でもいいからあのゾンビどもやっつけてくれって」


 女王様が土嚢から少し身を乗り出しながら言った。


「そりゃそうだろ、そのために戦ってるんだから」

「ええ、だからここにいるみんなで派手に初動を決めることが大切なの。私たちでも十分に太刀打ちできると裏付けることができれば上等よ」


 なるほど、敵が見えたらきれいに一撃食らわせて士気を上げろとのことだ。

 確かにその通りか。スティングの戦いの時だって、ボスの最初の一撃で撃破してから続々と攻撃が続いた。

 戦場における第一印象をきれいに決めろってことだ。まあ、それに付き合わされる住人たちは戸惑ってるが。


「お、俺たちもか……?」

「当り前よ。ここで私たちが『やればできるんだ』って実績をつければどうとでもなるものよ」

「ああ、その通りだろうな。いい加減他人を頼るのはおしまいだ、今度は自分たちが頼られる番にならなきゃ」

「あんな奴に甘えてたツケが回ってきたんだろうな俺たち。この町の人間らしく立ち上がらねえと格好がつかないじゃねえか」

「そうね、でも死ぬ前に気づけて良かったじゃない」

「女王様の続きはたぶんこうだぞ。生きてればチャンスはある、だから死ぬなって感じか」

「いっちゃん正解。作戦は『いのちまじだいじに、がんがんいこうぜ』よ!」

『なんで両立させちゃうんですか……!?』

「イグレス王国ってどうなってるんだろうなミコ、きっと旦那とかもろくでもないぞこの人」

『いちクン、流石に堂々とそんなこと言うのは失礼すぎるよ!?』

「心配いらないわ、私の旦那はおっぱいのついてるイケメンよ。いつもはくっそだるそうだけど夜は私が攻めだから!」

「おっぱいのついてる男……? どんな人なんだ……?」

『なんでそこに食いつくの!?』

「おっぱいと一緒に男らしさのついたお姉さんよ、いつか会わせてあげる」

「えっ……旦那……お姉さん……えっ?」

『男……えっ? 女のひと……国王? 待って女王サマ、どういうこと――』

「…………あんたら、変な話してるところ悪いが前を見てくれ」


 すさまじく気になるワードのせいでこの町の終焉が近づいたような会話になったが、ステアーの会話で取り戻した。

 土煙だ。昼間の明るい荒野の光景に間違いなく敵の証明が浮かんでいる。


「来やがったな。みんな、目視できてもまだ撃つなよ!」

「敵の射程を考えるのよ! 可能な限り引き付けて向こうから一方的に攻撃されないようにしなさい!」


 かちゃりと誰かの小銃の安全装置が外れるが、それを抑えて単眼鏡を覗く。

 女王様の言葉もあって全員がどうにか静かに待つ中、視界に見えたのは――


「……さっきの報告通りだな。戦車が三両に、エグゾアーマーがマジで随伴中だ」


 道路に沿って南下してきた戦車の姿だ。

 幸いにもその姿は今まで見てきたものとは違ってだいぶ造りが荒い。

 丸い砲塔は細長い砲身をこちらに向けて、角ばった車体からは操縦手のための視察口が設けられてる。

 ライヒランドのやつよりはマシだ――だが問題はその周りにある。


「あら、あの妙にごつい鎧はなんなのかしら? カッコじゃないの」


 隣から双眼鏡を拝借した女王様がそう物語っていた。

 それなりの速度で前進中の三両に、大きな人影が追いついている。

 錆びだらけの装甲で足から頭までを覆って、重機関銃を抱えた二メートルほどの姿が戦車の時速に引けを取らない勢いで走ってる。


「……占領部隊がマジで来ちまったじゃないか……」


 小銃のスコープ越しに目をつけていた保安官は信じたくなさそうな声だ。

 しかもエグゾアーマーに守られながら進む戦車の後ろでは、ぼろぼろの幌を被ったトラックも同じ数だけついてきている。

 それが意味するのは何か? 中に誰がいるかって話だ。


「ステアー、報告より増えてないか? なんでトラックなんて使ってんだ」

「こっちの偵察に気づいて戦力を増やしたんだろうさ。中にはおそらく――」


 じっと見ているうちに、道路を辿る集団の動きがゆるやかに変わる。

 アスファルトを避けるようにカーブを始めて、ちょうど俺たちの潜む場所に向かってきた。

 戦車の砲塔がぎこちなくこっちを睨みだして、履帯の動きが緩むにつれて大きな人型も足の動きを落とす。

 警戒している。街に銃を向けたまま静かに迫ってるのだ。


「……ひっ……、き、来やがったぁ……!?」

「こ、こっち見てんぞ? なあ? そうだよな? 気づかれたんじゃ」

「落ち着きなさい、気づいたならあの武器でとっくにここらを撃ってるわよ。あいつらだって()()()()はあるみたいね」


 既に何名か震えあがってるが、女王様の言葉でまだパニックは防げている。

 落ち着いて近づく姿を見ていると気づく点があった。

 ここに潜む連中にまだ気づいてないようだが、どこか足取りが慎重だ。

 ゾンビのくせに妙な静けさに違和感を感じてるのか? そう思っていると。


「……ご主人、あそこから敵が降りてきてる」


 PDAに手をかけたところでニクがじとっと言い出した。

 トラックが停まっていて、警戒する戦車とエグゾの背後で何かが下ろされた。

 愛犬の言う通りテュマーたちの姿だ。ボロボロの身なりに、雑多な武器を持った黒肌混じりのゾンビが何十と放たれる。


「……すっ、ストレンジャー……! 来た、きちまったよ!」

「落ち着け、間合いに引きずり込むまで撃つなよ。アウトレンジから一方的にやられたら俺らが負けるぞ」


 周りが慌てふためく中、更に敵は動く。

 三台分のトラックから産み落とされたテュマーたちが、怪し気な身振りでぎくしゃく走ってきた。

 刃物や鈍器といった距離感の近い得物を持ったやつが先陣を切っているのだ。

 気持ち悪い身動きで駆け抜ける姿を、銃を持つ個体や戦車たちが追いかける。


「ストレンジャー! もう25m切った! すごい群れだぞ!?」

「う、撃たないのか!? 戦車もあんな近くにきてやがる!? どうすんだ!?」


 保安官たちや住人がますます震え上がる。

 俺だって奇妙な姿にだいぶ気分を損ねているが、後続が街の手間を踏むと。


「なあみんな、これなんだと思う?」


 PDAを見せた。立ち上がった起爆プログラムが電子信管と同期してある。

 方向転換して踏み込んだ場所はちょうど三基の地雷が設置済みだ。

 そんなところに近接武器持ちの奴らと、遅れて銃持ちやエグゾアーマーが迷い込んでいた――つまり。


「……あ、あんた、何するつもりだ?」

「景気づけの花火だ。なあステアー?」

「お前のところのお医者さんを見てるとこう思う。こいつといると気苦労が絶えなさそうだ――やっちまえ!」


 お前らは射程内に入ってくれたってわけだ、死ね。

 画面をタッチして一番、二番、三番の信管を順に立ち上げる――!


*zzZbbBaaaaaaaaaaaaaaaammmMMM!*


 三つ分の炸裂音が響いた。

 不用心に飛び込んできたやつらを先頭に、続く連中が指向性を持った爆風と散弾に煽られる。

 いい肉壁のおかげかだいぶ残ってはいるものの、いきなりのサプライズに歩兵も戦車も気を抜いて立ち止まるには値したようだ。


「――撃て! まず歩兵をぶちのめせ!」

「適当に撃つな! 各々狙いを定めてしっかり撃て!」

「よっ……よっしゃああぁぁッ! 撃つぞ! 撃ってやらァ!」

「ハッハァァァッ! 吹っ飛んだ! 吹っ飛んだぜ!」

「スピリット・タウンへよく来たなぁ! 歓迎するぜ馬鹿野郎が!」


 一斉に銃撃が始まった。

 あたりの建物から、屋根から屋内から、ばばばばばばっ、と連なった射撃が奏でられる。

 スイッチが入った住人は流石というべきか、タイミングの重なった小銃が至近距離まで近づいたやつらを薙ぎ払う。


『――警戒! 警戒! 奇襲を確認!』

『非保持者ドモだ! 散開しろ、散開を!』


 いきなりのサプライズに敵は散り散りだ。

 だがそれでも半数以上が生存してる。仲間の肉で散弾のご挨拶を免れた奴らが、遅れを取り戻すように動く。


「死を! 死を! 非保持者に死を!」

「オアアアアアアアアアアッ!」

「一つになれ! 一つにぃぃぃ……!」


 中でも白兵戦に向けた連中が真っ先に駆ける。

 どどどどどっ、と重い銃声も混じる――散会したエグゾアーマーの重機関銃だ。

 どうにか補強した程度の家屋がばきばき破られていく。土嚢がべちっと弾けた。


「てっ、敵が接近中! どっどうすりゃいいんだ!?」

「撃て! 撃って近寄せるな! とにかく撃つんだあああああっ!」

「さっきのでやったんじゃねえのかよぉぉぉぉ!?」


 しぶといテュマーの群れが冷たい得物で直々に殺しにこようと走る。

 小銃がばらばらと塞ぎ撃つも、そんな魂胆は見え見えなのかよじるような動きで射線をすり抜けてきた。

 そうしてる間にも屋根に着弾、12.7㎜の衝撃に「ひぃっ」と誰かが逃げた。


『いちクン! こっちに来てるよ!』

「くそっ! 見りゃ分かる! なんでいつも俺の方に来るんだか!」


 そいつに変わって身を乗り出して短機関銃のトリガを絞った。


*PapapapapapapapakinK!*


 金属音混じりの連射はそいつらを払ったはずだが、迫る動きは止まらない。


「――いっちゃんどいて、女王様に任せなさい!」


 小銃弾がぱちぱち周囲を叩き掠め、戦車砲が別の家屋を吹き飛ばす――そんな中、女王様に押し退けられる。

 背中から抜いた弓を構えたかと思えばいきなり数本まとめて番えて。


 ――がしゅんっ!


 どういうことだ、何本も同時にぶっ放しやがったぞ。

 慌てて目で追うと、一直線に走る数体がまとめ撃ちされた矢に抜かれていた。

 続けざまにまた数本番えて発射。一本も外すことなくまた数匹撃破。

 まだまだ終わらない、追加で三本解き放って三体同時にヘッドショット……どうなってんだ!?


「……す、すげえ」

「ど、どうなってんだあんた? なんだその、馬鹿げた腕前は!?」

「私の国じゃロングボウは必須科目よ! 誰か矢持ってない!?」

『すごい……!? まとめて撃ってるのに一発も外してない……!?』


 おいおい、どこにそんな弓の打ち方するやついるんだ?

 あまりの腕前に味方もテュマーも唖然としてる。俺は背中の矢筒を預けた。


「あんたの方がよさそうだな、使え!」

「ありがと! 大事に使ってやるわ!」


 手渡すとに矢の嵐がまたぶっ放された。後方にいたテュマーにもお届けだ。


「――ご主人! 敵が来てる!」


 俺も攻撃を……そう思った瞬間にニクの声だ。

 いつの間にか迫ったテュマーがちょうど家のよじ登ったところだった。

 全員の手が止まるが、ニクがびゅっと槍で払って頭を叩ききってくれた。


「グッドボーイ!」

「接近されたらぼくに任せて……!」

「くそっ! いつの間に接近してやがった! 側面にも注意しろ!」


 毒づくステアーがすり抜けてくるテュマーに向かって銃を撃つも。


*zZbaaaaaaaaaaaaaaaam!!*


 膨れ上がるような炸裂音、土嚢が吹き飛んだ。熱と土が降りかかってくる。

 固まった土にぶんなぐられてクソ熱い衝撃が脳に響く――くそ、砲撃だ!


「がっ……! お、おい、まさか……!」

「戦車砲だ! こっち狙われてるぞストレンジャー!」


 いや、これくらいでひるむもんかよ。

 俺は短機関銃の銃口と仲良く、吹っ飛んだ土嚢と屋根の陰から前線を見た。

 ちょうど戦車がこっちを見つめていた。砲撃を機にこっちに迫っているが。


「いてえなクソが――視察口! 視察口を狙え!」


 あのおんぼろの戦車だ、視察口が何も守られてないのにすぐ気づく。

 ここを撃てと意思表示も込めてぱぱぱぱぱきんっ、と45口径を短連射。続いて周囲の連中も小銃の狙いを重ねて撃つ。

 じりじりと迫る戦車が集中銃撃を食らえば、何発にも及ぶ308口径が通り抜けたのかぴたり、と動きが止まった。


「やっ、やったぞ! 止まった!」

「せ、戦車をやったのか!?」

「まだだ! 移動しろ移動! ここはもうやべえぞ!」


 いや、まだだ! 砲塔が動いてやがる!

 俺はまだ伏せてるやつらを引っ張って走るも、


*Zbaaaaaaaaaaaaaaaaam!*


 すぐ背後で爆ぜた。屋根の一部が見事に吹っ飛ぶ。

 ニクが逃げ遅れを引っ張ってくれた。俺たちは次の攻撃に備えて逃げるが。


*DODODODODODODODODODODODODOM!*


 背後から重機関銃――50口径か、クソ!

 砲撃に乗じて走ってきたエグゾアーマーたちが背後にぶっ放してきた。

 女王様も矢切れだ。小火器や車載機銃も混じって、町の一角が弾の重みでどんどん削られていく。


「ひ、ひいいいいいいいいいいっ! 無理だやっぱ無理だ! こんな差じゃ無理に決まってるだろおおおお!」

「死にたくない! こんなところで……!」

「パニックは起こしていいけど足は止めずに走りなさい! 全員撤退よ!」


 混乱状態に陥ったところに容赦なく火器が集う。

 銃弾の衝撃に住民は竦んで、まともに動けるのはステアーと俺たちぐらいだ。

 せっかく渡した手榴弾も忘れて撤退中か、最高だな畜生!


「全員撤退! ここを放棄して下がれクソが!」

「ご主人、早く下がろう!」

「先に行けニク! 負傷者連れてみんなに間に合わせろ!」


 振り向いてハイド短機関銃を目くら撃ち、屋根を登るテュマーを散らした。

 一体なんだこの量は? さっきのクレイモア地雷が効いたんじゃないのか?

 弾倉交換と同時に下がるも、その一瞬に見えてしまった――


『いちクン! あそこ……! まだトラックが来てる!』

「はぁ!?」

「おいおいおいおい冗談じゃないぞ! まだ来るっていうのかかよ!?」


 仲良く殿になりかけていたステアーも目の当たりにしてしまったか。

 さっき停車したトラックの後ろから、追加の二両、いや四両が向かってきた!

 当然荷台からは追加のテュマーだ。気づけばゾンビの群れがまばらにそこらを埋め尽くしていた。

 俺たちをぶち殺そうと支援射撃のもと、最悪のダッシュで駆けこんでやがる。


「お前ら! 下がれ! 狙撃はもう無理だ!」


 あまりの質量に前線が崩れる中、ステアーが下がりながら後ろに合図を送る。

 きっと届いちゃいなかったんだろう。消防署の監視塔からは銃撃が続いており。


 どずん。


 しかしそんな抵抗むなしく、その根元が鈍く爆ぜた。

 砲撃だ。重々しい爆発が狙撃手と観測手のいる塔をへし折っていく。


「制圧完了! ゴー、ゴー、ゴー!」

「非感染者を発見! 抹殺しろ!」


 そうこうしてるうちに背後からはテュマーたちの息遣いが追ってくる。

 俺はステアーと顔を見合わせた。

 周囲の仲間は全員撤退、逃げ場はもはや西部劇の舞台だけ、つまりピンチだ。

 ディアンジェロ、お前は最高だな。テュマー好きが極まってウェイストランド進出を手助けしやがって。


「……あのド変態マジで覚えてろ! 枕元に出たらもう一回殺してやる!」

「――ディアンジェロ、お前は絶対に許さないからなァァァァ!」

『は、早く逃げて! もうやだこんな世界ィィィィィ!?』


 退いた仲間の背中を追って、西部開拓時代の世界へ全力で逃げた。

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